カストロが愛した女スパイ141
▼破滅へ(前回までのあらすじ)ロレンツはスペインで何者かに毒物を飲まされ、ヒメネスに会えないまま帰国、治療を受ける。ニューヨークでは、何度かの恋を経て、FBIの覆面捜査官ルイスの子供を妊娠。男の子マークを産んだ後、ルイスと結婚し、一緒に覆面捜査官としてFBIの諜報活動に参加することになった。しかし、ウォーターゲート事件で逮捕されたスタージスは、ロレンツの素性をメディアにばらしてしまう。ロレンツはスタージスに怒りをぶつけた。「どうして私のことをしゃべったりしたのよ」スタージスは二人の会話が録音されていることを知っていたのだろう。ロレンツの質問には答えずに、自分は刑務所に入れられるような男ではないと言う。スタージスは政府のために仕事をしてきたのだから、もっと報われるべきであると考えていた。このときロレンツは、ずっと気になっていたことをスタージスに問いただした。それはロレンスが親しかった二人の不審な死についてだった。一人はカストロ暗殺計画のときにロレンツの味方になってくれたFBI情報部員アレックス・ローク、もう一人はキューバ滞在中に危険な目に遭ったロレンツを助けてくれたカミロ・シエンフェゴスだ。スタージスは言った。「CIAの仕業さ」やはり「邪魔物」は消されていた。あるCIA工作員がロレンツに告白していた話は本当だったのだ。その工作員は臨終の間際に、CIAがヘリコプターにプラスチック爆弾を仕掛けて、シエンフェゴスを爆殺したのだと語っていた。何かとスタージスと対立していたロークも、邪魔物として殺されたのだろう。面会でスタージスは、ロレンツをスケープゴートにしたことを認めた。そして、もう素性がばれたのだから、ロレンツもマスコミを利用して金儲けすればいいと、他人事のように言うだけだった。スタージスは結局、ワシントンDC地区の刑務所に移された。同じころ、スタージスがデイリー・ニューズに語った「スーパースパイ、マリタ・ロレンツ」の記事が、6回続きの連載で大々的に掲載されていた。86丁目のニューズスタンドで見た新聞には、センセーショナルな活字が躍っていた。「CIAの命令、フィデルを殺せ」。フィデルとロレンツが愛し合ったベッドの下には、バズーカ砲が置かれていたなどという与太話も書かれていたようだった。顔写真も掲載されていた。新聞を読めば誰でも、ロレンツであることがわかる内容であった。おそらくそれが、FBIに手を貸しているロレンツをたたきのめすためのCIAなりのやり口であり、スタージスなリの復讐だったのだろう、とロレンツは自伝で述べている。スタージスはその後も、様々なメディアに自分の話を売り込んでは、カネを儲け続けた。ただし、ケネディ暗殺の狙撃者の一人であったことは決して言わなかった。だが、否定もしなかった。ロレンツの記事があちこちの店頭に出回った日、すべてが終わった。FBIの仕事も、ルイスとの結婚生活も、スパイ活動も、ロレンツはすべてを失うことになった。(続く)