ザ・イヤー・オブ・1980(2)
ブライトンの夏期語学研修は、現在のブライトン大学の前身ブライトン・ポリテクニックという単科大学のキャンパスを使って行われました。参加したのは、文化放送派遣留学制度で来た日本人。確か10人ほどだったと思いますが、社会人の方も多く、東京電力や日商岩井の方も参加していました。東京外語大学の学生もいたように記憶しています。東京電力の方は、私の記憶が正しければロンドン経済大学院に留学されたエリートで、イギリス滞在中、一度だけロンドンのご自宅に遊びに行かせてもらいました。奥様も留学に同行されており、手料理をご馳走になったのを覚えています。その節は、ありがとうございました。日商岩井の方は、確か人事部に所属しており、私が楽しそうにテニスをしていることを聞きつけ、同じテニスクラブに入会。日曜日にはよく一緒にテニスをやりました。テニスクラブでは夏にバーベキューパーティーもあり、地元の人たちと楽しく交流しました。私はまったくの初心者だったのですが、日商岩井の方には、社会勉強だといってゴルフをしにつれていかれたこともありました。語学研修先のブライトン・ポリテクニックで嬉しかったのは、そこの図書館が使い放題だったことです。ビデオ教材なども充実していたので、結構利用させてもらいました。ところで、このイギリス留学の目的は、サミュエル・ベケットの卒論を描くためでした。ですから、図書館ではベケット関係の本を片っ端から読みました。語学教師の「庭師ディック(Dick, the gardener)」さんからもベケットの作品についての興味深い話を聞いており、論文作成のヒントをもらいました。ホームステイ先のホストファミリーは、ファミリーネームは忘れましたが、クリストファーという40歳くらいのサラリーマンの方の家で、奥様はリンダ、12歳くらいの息子マイクの三人家族でした。マイクは父親のことを「クリストファー」とファーストネームで呼んでいるのが、私には衝撃でした。「イギリスでは子供が親をファーストネームで呼ぶのか」とマイクに聞いたら、最近ではそういう家庭も多いというようなことを言っていました。このような会話は夕食時に交わされます。この時も、ファーストネームの話から、当時はやっていた米国のドラマ「ダラス」(油田開発で財をなした大富豪の大河ドラマ)の話に飛び、「彼らはファーストネームで呼びすぎて、不自然だ」という話題になりました。そのクリストファーからは、意外な意見を聞きました。ある晩、BBCでチベットのダライラマの特集をしているとき、輪廻転生の話になったのですが、クリストファーは「輪廻転生はありうる」と言うんですね。西洋人から輪廻転生肯定説を聞くことになるとは意外でした。当時の私はまだ輪廻転生については半信半疑でした。もっともそれから一か月後くらいに、私自身も輪廻転生肯定説を採らざるを得なくなるような体験をするんですけどね。この会話がその「伏線」としてあったわけです。ホストファミリーには私以外にもスイス人の同居人がおり、名前はアンドレアス。私と同じくらいの年齢の若者でした。彼ともすぐに仲良くなりました。時々飲みに行ったり、グラススキー(芝の上でやるスキー)をしに行ったりしたことを覚えています。今は何をしているんでしょうね。そんなこんなで、あっという間に二か月の語学研修期間が終わりました。(続く)