出雲族と大和族の話(第54話)
海幸彦と山幸彦の物語には、もう一つ重要な史実が隠されているように思うんですね。もちろん、ニニギの息子たちによる後継者争いがあり、弟が兄を差し置いて世継ぎになったのだと素直に読むこともできます。しかし、その物語が示唆する史実はもっと深淵なものであったような気がします。人類が何度も経験したパターンがそこにあるからなんですね。どういうことかと言うと、同じような物語が旧約聖書のイサクの息子たち(エサウとヤコブ)の間であったことは、すでに指摘した通りです。これらの神話や物語は、兄と弟のどちらに家督を継がせるかが昔から大問題であったという歴史的事実を反映しているのだと思うんですね。そしてこのパターンは、シュメールの神々であるエンキとエンリルの物語にもみられるんだそうです。だからエンキとエンリルのことを調べなさいと、インスピレーションさんは言うんですね(笑)。私は最初、そこまで話を広げたくなかったのですが、もし武内宿禰さんが言うように、日本から大陸に渡ったスメル族がシュメール文明を築いたのなら、当然その神々であるエンキとエンリルも日本神話を理解するうえで考慮に入れなければいけないのかな、と思って調べてみました。すると、すぐに分かったのは、エンキとエンリルが異母兄弟であるということです。年齢から言うと、エンリルが兄でエンキは弟でした(編注:その逆であったとの説もある)が、母親に関して言えばエンキの母親のほうが年上だったんですね。母系社会や女家長制の社会でしたら、長姉の子であるエンキが家督を継ぐ権利があったとも解釈できますね。二人のうち金鉱発掘のため最初に地球にやって来たのもエンキでした。ところが、後からエンリルが別の金鉱発掘計画を持って地球にやって来たため、地球の支配権をめぐって兄弟間で争いが始まります。そこで父であるアヌが仲裁に入り、くじ引きをします。支配地域をくじ引きで決めるのは、ギリシャ神話も同じでしたね。その結果、アヌは天に帰り、エンリルが陸地を、エンキは海(編注:地底説もある)を支配することが決まったんですね。しかしエンキは、この支配地域の分担に納得しません。事あるごとに兄弟間の対立は激しさを増していきます。その対立は世代を超えて引き継がれ、ついには地球を二つのグループに分断、それぞれの子孫を巻き込みながら争いを繰り返すことになってしまうんですね。シュメールにそのような兄弟間の対立の神話があるのなら、その子孫だという出雲族と大和族にも、同様の対立の歴史があったのかもしれませんね。するとそれが、海幸彦と山幸彦の物語に反映されていたとしても不思議ではありません。ちなみに、私は信用してはいないのですが、セガリア・シッチン説によると、アヌやエンキ、エンリルら神々の故郷の星二ビルでは、12人のアヌンナキによって構成される評議会が最高の意思決定機関になっているんだそうです。シッチン説が正しいかどうかは別にして、12という数字が嘘でも本当でも大きな意味を持っていることが推察されますね。このシュメールの神話については、後日改めてご紹介したいと思っています。(続く)編注:セガリア・シッチンの解釈にはずいぶん間違った部分があるので、私は信用していません。神話を正確に伝えていないような気がします。日本語で出回っているシュメールの神話も多分にシッチンの誤解釈に基づくものが多く、私は英語で書かれたものを読みながら、慎重に解釈するようにしています。たとえば、くじ引きでエンキは地底の国を任されたという文章も見受けられますが、その部分の神話を英語で読むと、海を任されたとなっているんですね。一応、ご参考までに英語を載せておきますね。“The gods had clasped their hands together, Had cast lots and had divided. Anu then went up to heaven. To Enlil the Earth was made subject. The seas, enclosed as with a loop, They had given to Enki, the Prince of Earth.”問題は4行目のthe Earthなのですが、Eが大文字になっていますから、確かに「地球」と読むのが文法的に正しいのですが、次にエンキには海が与えられたことになっていますから、私は大地、もしくは海に対する陸地と解釈しました。最後のthe Prince of Earthは、Enkiと同格で「地球の王子」という意味であると思います。もともとのシュメール語の解釈が難解なため、こうした訳の違いが出てくるのかなとも思っています。