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テーマ:ファンタジー・児童文学(31)
カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
前回、このシリーズのダークな部分ばかり挙げましたが、一番恐ろしいのは、“体制”側が邪悪な《黒い魔法》側であるということです。大人はたいていその手先になったり惑わされたりして、敵に回ってしまいます。
そうでない大人(ルミの父や担任の先生、鳥博士)は無力で少数派。 唯一、第1巻『オレンジ党と黒い釜』では《時の魔法》の樹木の精霊「とき老人」が主人公たちを導きますが、最後は「黒い釜」を破壊するため自らを犠牲にします。――また衝撃の“死”が出てきました。(ところでこれは、ウェールズの伝説『マビノギオン』に出てくる、死者を再生させる大釜を破壊するエヴニシエンの物語と同じ結末です。) おまけに、第三の勢力であるはずの土着の《古い魔法》は、弱体化しています。この魔法を司る家系の源先生は、やることなすこと大時代的で滑稽な役回り。土地の精霊「土神」も、『魔の沼』では黒い沼の王に体をのっとられてしまったり、あまり頼りになりません。 このように、善なる《時の魔法》を信奉するオレンジ党の子供たちの闘いは味方も少なく、困難に満ちています。 「オレンジ党」の名の由来を語る短編「闇の中のオレンジ」には、《古い魔法》の「物言う泉」の水面に、オレンジの実のような盃が浮かんでいる、というくだりがあります。 孤立無援でクエストをする主人公たちの命の輝きを表すかのような、あるいは、宇宙の闇の中で輝く太陽(《黒い太陽》とは対極の、真実の太陽)のようなイメージです。 オレンジ党のメンバーは盃の形の光るバッジをつけていますが、盃というと、やはりイギリスやフランスの中世、聖杯伝説が思い起こされます。フランス文学者の作者は前作『光車よ、まわれ』で、闇に輝く光車の探索について「まるで聖杯をさがすアーサー王の騎士みたい」と使命感を表現しましたが、オレンジ党でも同様ですね。 第3巻『オレンジ党、海へ』では、《鳥の王の宝》が光車に匹敵する重要アイテム。これはもとは李エルザの祖父母に属する魔法石で、その中心は、やはり生命を象徴するような赤い玉です。 エルザは朝鮮の血をひき、また物語中にも朝鮮由来の登場人物や朝鮮語がたくさん出てきます。 そこで私は、アカル姫伝説を思いだしました。朝鮮の乙女と太陽神の娘で、赤い玉の化身です。それからまた、橘の伝説もありますね。日本神話で不老不死の妙薬として求められた、タチバナの丸い実は「ときじくのかくのみ」(常世の国の、光/かぐわしい果実)と呼ばれ、太陽のシンボルだそうです。 李エルザがこの宝玉/果実を使って、邪悪な《黒い太陽》をうちやぶり、時と海を越えて常世へゆくキム船長の帆船「金龍丸」へとみんなを導く、というのが、『海へ』のラストなのだと私には思えました; そしてあたしたち、あそこで最後にもう一度、死んだお父さん、お母さんに会えるのよ! ーー天沢退二郎『オレンジ党、海へ』 ただし、朝鮮に由来する人の中でも、吉田四郎は微妙な立場に立たされ、救われませんでした。祖父が宝玉を奪ってご神体にまつったという、大鳥神社の跡取りである彼は、鳥の王に使われたり、カモメや泉をおがむ老婆に変身したりしながら何とか誠実であろうとしますが、最初は夢の中とはいえ血まみれのケガを負い、最後はほんとうに失明してしまいました。 死とまではいかないものの、あまりにも厳しい結末が胸に残ります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 15, 2022 12:52:24 AM
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