『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』/鴨志田穣
酒はやめられるのか!?その時、家族がとった行動は!?そして、 待っていた意外な結末…。強制入院したアルコール病棟で起こる 珍奇な騒動。別れた元妻と子どもたちとの優しい時間。情けなくも 笑えて切ない脱アル中私小説。ネタバレありますので、御注意ください。また、本作品はフィクションとされてますが、この記事では鴨ちゃんの闘病記であるとします。この作品、精神科病棟に入院経験のある方は、「あ~、そうそう。同じ同じ」と、ニヤニヤしながら読み進められます。 しゃべり出すきっかけがもてないまま美人ちゃんをぼうと眺め(P.57)僕もただ、ぼ~と眺めてました。僕の場合は、ナースステーションでしたけど。やることが無いんですよ。下手に昼間、寝ちゃうと夜、眠れなくなっちゃうし。そうか~、鴨ちゃんもだったのか~。そう思うと何だか嬉しくなりました。また、鴨ちゃんは「ホリゾン」という薬を眠り薬として注射されていたそうです。僕もよくこの「ホリゾン」を注射されるんですよ。眠剤としてではなく安定剤としてですけど。しかし、鴨ちゃんも「ホリゾン」を注射されていたとはねぇ。その他にも…、毎朝、体温と血圧を計る。同じ同じ。食後と消灯前に、看護師から薬をもらうための行列ができる。同じ同じ。深夜に病棟内を徘徊する人たちがいる。同じ同じ。徘徊といえば、こんな一文がありました。 廊下にたたずみ、徘徊をし続けている患者を見つめていると、アル中の自分も 含めて、意のままに生きてゆくむずかしさを痛感せざるを得ない。(P.84)全くその通りだと思いました。僕も嫌というほど、その難しさを思い知らされています。心の病を抱えている方は、皆そうなのではないでしょうか。さて、鴨ちゃんのアル中ですが、一人で他の病院に行っても良いという許可が出るくらいに快復します。そして、鴨ちゃんは一人で罹り付けの大学病院に行き、検査結果を聞いてきます。アルコール病棟に帰ってきて、鴨ちゃんは主治医の先生に、すぐに退院したいと願い出ます。もちろん主治医の先生は、驚いて、何があったのか聞いてきます。鴨ちゃんの答えは……、 「俺、癌だって。持って一年だって」(P.213)知っていたことですけど、この作品に感情移入して読んでいたので、この台詞が目に入った時、「そりゃあねェだろう!」と憤慨すると同時に、何故か涙が溢れ出て止まりませんでした。鴨ちゃんが、家族の元へ帰ったところで、この作品は終わります。この作品の中で、鴨ちゃんはひと言も弱音を吐きませんでした。西原理恵子さんの『毎日かあさん』第5巻(P.47)に、退院後に家族で行った南の島でのエピソードが描かれています。鴨ちゃんは、海の方に一人で立って、「長生きしたいなぁ」とつぶやいたそうです。西原さん曰く、弱音はこっそりそれっきりだったそうです。鴨ちゃん、がんばったんだなぁ。最後に。作品中に、鴨ちゃんと主治医の先生との、こんな会話があります。 「それでどうして血を吐くまで飲んだの」 「さびしくて、かなしくて」 「ビギン」 「そうです。(後略)」(P.81)正しくは、「せつなくて 悲しくて」ですけどね。このように引用されているからではなく、純粋にBIGINの『恋しくて』が、この作品にとてもマッチすると僕は思いました。 『恋しくて』(4分57秒)精神科病棟に入院する人は、僕も含めて、生き方が不器用なんだと思います。鴨ちゃんもそうだったんじゃないかなぁ。いずれにせよ、僕は鴨ちゃんのことが好きです。そんな僕にできることは、鴨ちゃんのことを忘れないで、鴨ちゃんの分までがんばることですね。では、今日はこの辺で。今日も読んでくださってありがとうございました。 好きなら好きと Say again 言えばよかったcharm 楽天市場店ドリームシアター 楽天市場店