●ダンスがみたい新人公演@神楽坂ディプラツ、1/8-19
8日A組KOE『ミンナガウタ』板垣あすか グレーのぴったりした衣装にヒラヒラがついたもの。上手に下がる玉、下手に伏したところから始まる。静かで抽象的な音、静かな動きが中心。細身で鍛えられた身体が静かに動く。ただ惹きつけるものがあまりない。テクニックもあり、体も動く。それを抑さえて考えた振付なのだが、その踊りや意思が伝わってこないように思える。柱につけたゴム紐を引っ張りながら、両手を羽ばたかせて踊る姿は美しかった。キューバでサルサなどを学び、そのテクニックを敢えて抑制し、新しい踊りを求めている意欲を買いたい。ただ、キューバダンスの「コンテンポラリー」は米国の影響が大きいためか、日本や欧州ではモダンダンスにしか見えないことに留意すべきだろう。Dance Unitジジ『ジジ』伊藤真喜子 池田素子 樋口信子 勝部ちこ 女性4人で倒れる、争う、絡むなどのコンタクトインプロ的な動きで踊りを作る。ボールを使ったり、転がったりと場面は展開するが、新しさは感じない。動きが甘く緊張感がない。同じようなグループが一杯あるなという印象。2人で組んで、お互いに相手の上に交互に乗って絡んでいくところ、それが4人になるのは面白い。それが結局、柱の日めくりをめくるのだが、それに至るまでもっと4人で執拗に重なり合っていったら、舞台は重層的になったのではないか。後半、低い位置で暗い照明を効果的に当てたところとその後の群舞は、音楽とともに盛り上げた。前半からこういう照明をうまく使えば、普通の身体ももっとうまく見せられたのではないか。清藤美智子『蒼-blue-』 青い水を入れたガラスの丸い器を持って登場し、白い椅子に置くと照明でそれが輝く。この色のモチーフをうまく使おうとした。同じ色の紙吹雪を撒き、背中に青い月を描いて登場する。たびたび着替えて最後は青いタイツで踊る。タイトルそのままの青の印象が残った。踊り自体は普通だったが、最後の甘い音楽はマイナスだったと思う。Bグループ 1/9(日)佐藤道代『シルク・マザー』 白い薄衣の衣装で中央に強いスポット、それに向い天を意識したような踊りから始まる。ブルガリアンヴォイスのインパクトのある声のなかで踊りつづけると、次第に狂女のような様相になっていく。ただ、音楽のまま踊っている印象があり、それを裏切れないのはいま一つ。イサドラ・ダンカン流ということだが、伝説によれば、ダンカンはもっと自由なのではないだろうか。元は斬新であっても、弟子などによって伝承されると保守的な「形」になってしまう。動きの「形」ではなく、意識の「形」が伝わっているのかもしれない。その後、静かに床に這い踊りつづけるところはちょっと惹きつける。プッチーニのアリアや衣装、照明などが効果的なのだが、残念ながら、舞台が始まってすぐに感じさせる予定調和を超える驚きや感動はなかった。あらた真生『ひとひら』 中央のスポットの下に椅子が一つ。ピアノ曲で静かに踊り始める。椅子のダンスはモダンっぽい動きでありふれているが、非常に丁寧に椅子の上で体の動きを作っていく。特に足の動き、これが素晴らしい。椅子に座る前のつま先立ちはもっと長く維持してほしかったが、座ってから、椅子の上に横たわって、下手側に伸ばした足が踊りだす。このプロセス、踊りを見られただけで十分だ。 バッハのチェロで踊りが激しくなっていくと、一部コンテンポラリーっぽい激しい動きが入るが、それよりももっともっと椅子と心中できるはず。背の間から足を入れる、椅子の下に体を入れる、椅子を倒してそれに絡む、その上に立つなど、座る物、立つ物として以上に椅子との踊りを編んでほしい。つまり椅子を物体ではないものに感じさせれば、成功だろう。このダンサーはそれができる力がある。アダチマミ×無所属ペルリ『トランポリンの上で殴り合い』岸麻奈美 山口由香 アダチマミ トルコかイスラム圏の軍楽隊のような音楽。シュミーズっぽい下着姿の女性が3人、正座に近いポーズで座るこの位置のバランスと音楽のインパクトで、「できる」と思わせた。つかみは十分。手前の2人が、独特に間合いをとってポーズすると思わず笑いが洩れる。奥の1人はそのうち正座のままま、ずりずり動き出す。3人とも小便をこらえるような妙な感じ。暗転して登場すると腹痛のポーズのようだ。暗転から水洗便器の前に女性。儀式のようにゆっくりと蓋を開けると、その中に手を突っ込む。ここでウンコかと思うが、茶碗にしゃもじで飯をよそい始めるという意外性。すると1人が登場してポーズしながら言葉を発する。口を押さえてリフレインになるとさらに2人が登場して、揃って口を押さえてポーズと踊りと展開するのも楽しい。 暗転し、音楽はベースの「アイリメンバークリフォード」に狂ったハミングが混ざるなか、スポットを浴びた女性が4人、1人ずつの壊れた踊りが連鎖して、ユニゾンになっていく。音楽の狂気と踊りの狂気が見事に重なっていき、単なる戯れ、思いつきを超えたインパクトをもたらす。笑いをもたらしつつも、新しい舞台を作ろうという挑戦が溢れた、優れたユニットだった。この感覚には強いオリジナリティが感じられた。Cグループ 1/10(月・祝)大谷祐司『ニュートラルマインド』 ディプラッツの左右のホリゾントにあるアルコーブ(くぼみ)に光が当たり、上手に腕のみが出る。そして下手から蝋燭の灯火を持って登場し、踊るというとても印象的な始まり。前半は光を落し、後半は明るいなかで踊る。音楽も抑え、抽象的でいい。ただ踊り自体は特徴がない。コンテンポラリーっぽい動きというだけで、個性が見られないが、それよりも、身体が伸び、開く息遣いが伝わらない。抑えた表現を狙ったのだろうが、自分の意図を裏切るほどのめり込んだ部分があれば、効果的だっただろう。ノシロナオコ『(‘LOCUS’考察2)』 上手手前から下手奥に低い1本の光がさし、下手奥からゆっくりと登場して、踊るともなく動く。静かな音楽とこの登場がいい。そして光源に近寄り、無音で動く。ただこの部分、もっと全体を暗くして、薄あかり状態にしたら、印象的だろう。中盤、後半で身体がよく動くのだが、踊り自体は少々平板な印象。光と音の変化はうまかった。浜口彩子『5/6,200,000,000物語』MILLA 楠美奈生 都築智子 川口麻美 浜口彩子 女性が4人、床に伏せ飛行機の真似、音も飛行機の音などの冒頭の抑えたコミカルさがいい。3人が暴れるなかの最初のソロが特にうまい。音はクラシックをブツっと切って、街の騒音が入り、抽象的な現代音が入ったりと、キリヤン、フォーサイス系だが印象的だ。コンタクトインプロを元に振り付けた動きだろうが、よく考えられていて素晴らしい。1人と2人、1人と3人という組み合わせでコントラストを付けて、それぞれの組の動きを上手く見せる。音楽もとてもいいが、ここにパラパラの音楽や演歌など異質なものをまぎれ込ませると、さらにイメージが広がっただろう。20日分に続く