◆シャウビューネ「火の顔」世田谷パブリックシアター、2005.6.26
マイエンブルグという若手劇作家の作品。親子と娘、弟という四人家族で、夫は妻に無関心、姉弟は思春期のために近親相姦の関係になる。弟は同時にひきこもり的であり、廃屋などに放火してその欲望を満たしている。まあいわば現代の病理の典型みたいな家族。その姉に恋人ができ、一家に出入りするようになり、弟は嫉妬からパニック状態になる。姉も親に対する不満、不信を感じており、弟の放火に共犯となる。それがばれることになり、姉は恋人と別れるなどが重なり、捕まることを恐れ、両親を二人で殺す。そこに別れた恋人が戻ってくる。 一見普通の家族が次第に壊れていき、殺人になるという過程を見事に演出し、役者もリアルに演じている。特に姉のもつけだるさ、弟の激しくない狂気などはリアルだ。舞台は少し観客席に向けて床ごと高くなって傾いた構造。中央にベッド、下手にテーブルセット、上手に洗面台というシンプルな作り。暗転では二枚のパネルが左右から登場して一部を隠し、そのマンションとおぼしく外装を映像が写す。 話に惹きつけられ、長さも気にならなかったし、恋人が全裸で登場して、チンチンで遊んだりと目立つ場面もあった。しかしこの物語はすでに日本の報道される子供たちの引き起こす事件よりも、インパクトが薄い。どうせならもっと徹底して壊れていくとか、あるいはこの壊れる子どもたちについて、何か原因を見せるとか、親の持つ不安を描くとか、何かほしい。単に現代を描いただけであれば、すでに日本でも以前から山崎哲などが作っている。その点でも新しさはない。前に見たベルリナー・アンサンブルの『ハムレット』も、期待のわりに新しさはなかった。むしろ舞台構成、セットやその使い方の巧みさが印象に残った。これは今回見た『ノラ』『火の顔』、この前の『(欲望という名の電車)』にも感じられた。ドイツの演劇シーンが思ったよりも保守的なのではないか、という気がするのだが、これは私だけの感想だろうか。