一緒にご飯をつくりましょう。
きょうは帰宅が遅くなったので、晩ご飯は娘と行きつけの食堂へ。カウンターに座ると隣に知人の女性がひとりで飲んでいた。女性は60代。半年前にご主人をがんで亡くされ、今はマンションで一人暮らし。「あんたやから話せるんやけどね」女性は、そう切り出すと、ご主人の思い出を語り始めた。楽しかったこと。苦しかったこと。許せないほど、悔しい思いをしたこと。女性は30分ほど一気に話し、最後にこう言った。「あの人とは、いろいろあったけど、会えるんだったら、今すぐにでも会いたいよ。私はやっぱり、あの人が大好きやもん。年下なのに、なんで私より先に死んだんやろか。ねえ、いつまで、この苦しみは続くんやろうか」ぼくは、「そうですね」「きついですね」を繰り返すだけ。気のきいた言葉は、何も見つからなかった。娘が眠そうな顔をしていた。ぼくは、お勘定を済ませ「じゃあ、きょうはこの辺で」と言って席を立った。「あー、すっきりした。また、話相手になってね」女性はぼくと娘に笑顔で手を振ってくれた。「人生は刻々変わり、家族の状況もあなたも変わり・・・。その中で、人とのつきあい方もつきあう相手も刻々と変わっていく。それが人生ではないでしょうか」数日前、新聞に掲載されていた詩人の伊藤比呂美さんの言葉を思い出した。「あのころが一番きつかったね。でも、もう大丈夫。今は幸せ」。そんなふうに振り返ることができる日が必ずやってくると思う。ぼくにできることは、話に耳を傾けること。一緒にご飯を食べること。8月9日(土)と10日(日)の2日間、福岡県福津市津屋崎に「海のイスキア・夏」を開設します。津屋崎の旧家で、ともに過ごし、語り合う集いの場。娘と一緒に、みそ汁づくりの準備をして、お待ちしています。海のイスキアはなちゃんのみそ汁(文藝春秋)はなちゃんのみそ汁(文春文庫)【楽天ブックスならいつでも送料無料】はなちゃんのみそ汁 [ 安武 信吾 ]