人間の4つの苦痛について
緩和ケア医の大津秀一氏のお話です。人間の苦痛には4つの側面があります。1、身体的な痛み・・・ケガや病気をした時にでる痛みです。事故や災害に巻き込まれて体のダメージを受ける。そのほか慢性疼痛などもあります。2、精神的な痛み・・・不安や不快感、恐怖や怒り、悲しみや孤独感など。3、社会的な痛み・・・仕事の悩み、経済的に自立する悩み、子育てや家庭の人間関係の悩み、職場、隣人、友人、親族の人間関係、紛争や戦争、経済変動。4、スピリチュアルペイン・・・人間として存在していることに伴う悩みです。死生観に伴う悩みです。どう生きていけばよいのか、過去の過ちは許されるのか、自分が死ぬということはどういうことなのか。(傾聴力 大津秀一 大和書房 29ページ)これを基にして森田理論で膨らませてみました。1について・・・ケガや病気は防げるものと防ぐことができないものがあると思います。スポーツをしている時、機械や器具を使用している時、自動車を運転する時は集中することが大切です。森田ではものそのものになるといいます。うわの空で取り組んでいると思わぬ事故に巻き込まれます。病気の有無は、自分ではよく分からないわけですから、検査機関で調べてもらうことが大切になります。自分のことは自分が一番よく分かっているというのは認識の誤りになります。慢性疼痛の専門医に聞くと、痛みに絶えず注意を向けていると、精神交互作用のようなことが起きるそうです。そうなると痛みは実際よりも何倍も強く感じられる。痛みをとることもある程度は必要だが、過度にかかわると生活の悪循環を招くということでした。悩みや痛みを抱えながらも日常生活を維持していくことが肝心ということになります。2について・・・これは森田理論を学ぶことをお勧めしたい。まず不安の特徴、不安の役割、不安と欲望の関係を学ぶことです。次に生の欲望を前面に押し出しながら、やりすぎにならないように適宜不安を活用していく。そして感情は自然現象であるので、どんな辛い感情も反発しないできちんと向き合い、素直に受け入れるという態度を養成していく。これらを身に着ければ神経症にはなりませんし、なによりも人生を楽しむことができるようになります。3について・・・これも森田理論を学習すれば大いに役立ちます。特に「物の性を尽くす」「己の性を尽くす」「他人の性を尽くす」「時間の性を尽くす」「お金の性を尽くす」という考え方はぜひ自分のものにしたいところです。仕事を面白くする方法、子育て、子どもの教育、人間関係の在り方なども森田理論を学習するとそのコツが自然に分かるようになります。その考え方を深耕していくと、自然との付き合い方、経済変動や紛争や戦争に対して自分の考え方が持てるようになります。4について・・・生老病死という言葉があります。この悩みはこの世に生を受けた人には絶えず付きまとう悩みとなります。その状態は好むと好まざるにかかわらず、受け入れていくしかないのが人間の宿命だと思います。生老病死に素直に向き合い受け入れることができる人は、それだけで幸せな人生を送ることができます。我々の先輩の玉野井幹雄さんは、うつ病や神経症でのたうち回っていても、最後に行き詰ったまま生きていく道が残されているといわれていました。こういう心境に至ったのは、森田を生涯学習として取り組まれた結果です。徳川家康は人生は重い荷物を背負って坂道を登っていくようなものだといったそうですが、同じことを言われているのだと思います。葛藤や苦悩を抱えながらも、前向きに生きている人は、同様の問題を抱えて苦しんでいる人に勇気を与えます。それだけでも立派な社会貢献をされていることになります。このように考えると、森田理論を深耕すると、大津氏が問題提起されている4つの苦悩に対して、問題解決のヒントを与えてくれているように思われます。森田は学校教育や社会教育のなかで、一度は学んでおくべき内容を含んでいます。