左手 -光のあたる場所-
ほの暗い酒場のカウンターには、等間隔に、スポットライトが、あたっている。今日、座った場所は、その光が、半分だけ、あたっていて、グラスを持つ右手は、暗がりの中だが、ちょうど、左手に、その光があたる。今日もいろいろなことがあった。反感と思惑、妥協と矜持、失望と期待・・・。そんなものを引きずって、夜になってしまった。明日のために、そんなことは、ここで、精算しなくてはならない。右手のグラスを、口に運ぶことのほかには、自ら、なすべきこともなく、光の中にある左手を、開き、そして、再び、握る。それを繰り返しながら、他の客の会話を、聞くことも無く聞いてみる。どうやら、人にも、自分と同じ、小さな人生があるようだ。光の中にある左手の手のひら。その中ほどに、小さな黒子がある。確か、幸運をつかむしるし、と言われたことがある。それを、思い出しながら、また、再び、静かに、左手を、握る。