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カテゴリ:経営コンサルタント
前回のご参照 「NHKスペシャル取材班 新日鉄 VS ミタル」(ダイヤモンド社)を読んで 新日鉄の業績 「新日鉄、好業績の象徴失速 09年3月期予想、40%の大幅減益」(フジサンケイビジネスアイ4/26)
ご存知のとおり、新日鉄は来期の最終利益が40%以上の減益で、その原因は高騰する原材料価格の転嫁が難航しているからだと伝えられている。トヨタからも「(値上げよりも)他にやることがある」と大きく牽制されています。 日本の報道ではもっぱら、BHPビリトン、Rioティントが鉄鉱石価格を一方的に引き上げ、日本の高炉業界を苦しめている、という印象があります。鉄鉱石が前年比65%アップ、石炭が3倍増と伝えられています。 ただし、新日鉄の主要ユーザーである自動車メーカー、造船、電機、機械等は新興国中心に増産ペースが継続しそうであることや、ユーザーから見れば新日鉄の持つ製品技術の代替が難しいことから、「いくら値上げを認めさせるか」次第で、上記の業績予想は下限であろうというのが市場の見方らしいです。
アルセロールミタルとの比較 一方のアルセロールミタル(以下、AM)の業績も厳しいのかな、と思い、同社のHPをのぞいたが、いやあ、すごい会社ですね。 日本ではミタルCEOのワンマン会社のように言われているが、そんなことはないグローバル企業で一度彼らのプレゼン資料を参考にしたほうがいいでしょう(非常によく出来ている)。 まずは、新日鉄とAMの株価の推移を見てみよう。過去1年間の両社の株価の推移の指数化(週足ベース)したものです。
アルセロールミタルは30%以上も上昇しているのですが、新日鉄は30%近くダウンしています。したがって株価(時価総額)に格差がついてしまいました。 AMのヤフーファイナンスによるアナリストの予想では、
08、09高原状態を現時点では予測しています。 経営計画の対比 新日鉄は今期が中計の最終年度となっています。売上高はすでに達成済みですが、利益計画は原材料の高騰を受け、達成が厳しい状況です。
粗鋼生産量の推移 4年で約2.8万トンの増加ですが、高炉新設なしですから、技術力とはすごい一方のAMですが、Growth Plan 2012 という5カ年計画を発表しています。ただし、出荷量の目標値にとどまり、財務目標には触れていません。 2007年度の実績110百万トン(新日鉄の3倍以上)の「出荷量」(Shipment) を2012年までに153百万トンにするといっています(年率約6.5%の成長)。彼らの長期予測では、今後の鉄鋼需要の伸びは年率3-5%の安定成長に切り替わる(中国の爆発的な伸び率が沈静化する)と予測し、既存部分で20万トン(Brown Field)、残り約23百万トンをM&A他(Green Field)で達成するという目標を立てています。
Brown Fieldの増産を地理的に分解すると以下のようにほとんど先進国以外で達成する見通しを立てています。
こらは、Brown Field20万トン増産のうち、90%は欧米以外での増産計画となっています。 Green Fieldの23百万トンの目玉企画は母国インドへの凱旋生産を掲げています。これはインドの英雄でありながら、賛否両論(インドで稼いでいないという批判)があるミタル一族の渇望するところでしょうが、データ的にも中国での生産伸び率の頭打ち(環境対策等)、BHPやRioといった鉱山会社もインドを第二の中国のような爆発的な勢いを感じるといっていることや、世界の自動車メーカーが相次いでインドで増産表明するなど現実味のある話です。
対自動車業界 自動車業界に対する高炉メーカーのポジションはこんな感じです。これもAMの資料です。
自動車業界は上位5社が世界シェア58%を握っており、高炉業界も同様に上位5社が54%のシェアを握っています。AMは中でも26%を握りダントツです。新日鉄は9%で2位につけています。両社の生産量が3倍強違い、自動車向けも3倍程度違うので、単純に考えると両社とも自動車向けの生産の全生産における比率が同じ程度ではないかという気がします。
こんどは新日鉄の資料ですが(AMには需要家別資料はない)、上の表から見ると自動車向けは全生産量の3割程度でしょうかね(36×75%×40%=約11百万トン?)。AMも30%ぐらいだと推測する。 これがなぜ新日鉄の利益の増減に大きく影響を及ぼし、アルセロールミタルにはそれほど影響を及ぼさないか、が論点となりましょう。 これはやはり、AMの資料で、赤線がホットコイルのスポット価格(相場商品となる)の値動きと、自動車メーカーとの交渉価格の推移で2002年を100とした指数の動きです。
ホットコイルの推移は相場そのものです。一方、自動車側はそろりといった感がぬぐえません(といいつつ1.5倍程度になっている)。かつ、上記表は米国中心の推移でしょうから、日本だともっとシビアかもしれません。 AMには、旧カナダのドファスコという自動車鋼鈑では有名だった高炉メーカーがあります。またウィルバーロスから買収した多くの米国高炉メーカーも自動車向けが多いため、北米自動車メーカーへの納入シェアは高いはずです。 旧アルセロール陣営にも欧州メーカーへの納品実績が大きいはずです。したがって、自動車用鋼鈑のボリュームゾーンは新日鉄より押さえているのではないでしょうか(安全性に大きくかかわる付加価値の高そうなところは新日鉄有利だと思いますが)? では、なぜ業績がぶれないのか?
私は鉄鋼業者のコンサルはやったことがあるのですが、鉄鉱石を自給自足する高炉メーカーという存在を狭い日本では想像できませんでした。鉄鉱石で約半分の自給自足が出来、コークスは80%以上の自給率だそうです(新日鉄も鉱山の権益を幾分か持っていたり、提携・長期契約を結んでいますが、こういったデータが見当たらなかった)。 なぜこんなことが出来たかというと、それはミタル氏の第三世界の高炉メーカーの買収戦略が当たったとしか言いようがない。
こんな感じで世界各地に鉱山を所有しているそうで、川上垂直統合が当たった好例といえそうです。 しかも、鉱山の近くに高炉を構えることによって、輸送コストを極小化できます(増産計画の大半がこういった地域でしたよね)。また、鉱山会社の 「ぼったくり」 のようなマージンもほとんどなく鉄鉱石が手に入りそうです。
パソコンOSにおいてほぼ世界市場をほぼ独占しているマイクロソフトでさえ40%程度の利益率なのに、鉄鉱石主要3社がそれ以上の利益率を稼ぐのはけしからん、と言いたげですね。 が、世界20ヶ国で従業員が31万人もいる会社なので、展開のグローバルさは尋常ではありませんね。これを10ヶ国以上の国籍をもつディレクターが牽引してく組織となっています。その中心人物にミタル親子がいるとはいえ、2007年度も立派な業績を達成しているので、色々あるものの統合作業は順調に滑り出したと見ていいのではないでしょうか?
EBITDAは統合後増加していることをアピールしています。 この企業が成功すると、本当の意味でのグローバル企業になりそうな予感がします。IBM、GE、コカコーラ、ネスレ等多国籍企業よりも、北米の顧客網、欧州での伝統的強さ、第三世界での低コスト生産などを考えると、極東地域を除けばグローバルな展開力は一枚上手ではないでしょうか? もっともすべてがうまくいくとは限らず、ひずみがあることも事実です(ルーマニアの労働者ストやカザフスタン政府からの環境規制強化の指導など)。これだけ多様化した組織を束ねるのは大変ですが、これをこなすとさらにすごい会社になりそうな気がします。
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