ら組三番町大安売屋碧眼の魔術士

[魔術士の午後への前奏曲] カテゴリの記事

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• 長い長いあとがき　　Prelude a L'apres-midi d'un magicien, un post-scriptum

  　いつかはやってみたかった、長いあとがきをしたためてみる。　　隆　慶一郎、式　貴士、もう鬼籍に入った２人の作家を私は尊敬しているけれど、そのどちらも怪しげな別の名前と別稼業を持つ人たちだった。　どうも、私はそういった２足以上のわらじを履く人が好きでしょうがない。　漫画「花の慶次」の原作「一夢庵風流記」や「吉原御免状」を記した隆慶一郎は、日活青春映画やロマンポルノの脚本家をしていた池田一朗の別の姿だ。　もちろん後者も同様で、一般にはあまり知られていないＳＦ作家の式貴士は、官能小説作家の蘭　光生であり、ミステリー評論家の間　羊太郎でもあり、式貴士名義で出した本には、それはそれは長いあとがきがあるので有名だった。　　　というわけで、少し長すぎる前奏曲を綴り終えた。　　本来これは『眠らない大陸クロノス』が終了して、私が去っていく時に書こうと、以前から決めていた物語、『魔術士の午後』の冒頭になるはずだったものだ。　２００３年６月から楽天日記を書き始める同年１０月４日までの『私』を語ることで、『碧眼』という魔術士が作られていった過程を示す回顧録的物語となっている。　特に８月２８日からのわずか１０日間に大きな転換があった。　　尚、この中では従来の日記のような匿名での表現は用いていない。　私が何らかの影響を受けたり、今も関係のある冒険者の名を、感謝と敬意を込める意味でありのままに記している。　　この中には書ききれていないが、印象に残る冒険者はまだ他にもいる。　　先ず何よりもオークションやミニイベントを毎晩していたギルド、『冒険者支援委員会』の方々。　賑やかな光景を物陰からひっそりと見ているだけで幸せだったからこそ、私は後に自らが主催して、何かをしていくイベンターとなった。　そして、公式サイトのリンクから行き着いた『眠らないマジシャン・みかん２２歳』。　後に直接の交流を得て、私は「ラピスに住む双子の弟」と呼ばれるようになるが、彼からは両手職魔術士へのこだわり、オークションチャットの楽しさを教えられた。　　クロノス城で装備やノモスアクセを譲ってくれて、「お礼はいらない。その分、君がまた下のレベルの人に同じようにあげればいい。」そう言って去っていった見ず知らずの聖騎士。　いつも遠くから見ているだけの私に、突然「一緒においで」と声をかけて、孤独な時代にたった一度だけ参加した『かくれんぼ』に誘ってくれた戦乙女。　　不安な中に声をかけられるのが、どんなに嬉しかったか。「がんばれよ」の一言で、どれだけ励まされたことか。　私もまた同じように出来る存在であろうと、そして、この恩だけは絶対に忘れないでいようと思ってきた。　　　どうも誤解されているのだけれど、私にも無口で目立たない冒険者の時代がある。３人のワルキューレがいなければ、名も無き冒険者のままで終わっていただろう。　そのうちの誰が欠けても、出会う順番が狂っても、今の私はあり得ない。　　１人目のアチャーと出会わなければ、とっくにやめていただろうし、ラピス第３サーバーに移り住むことは無かった。　２人目の真矢と出会わなければ、人と深く関わることなどなかったし、大バーゲンへ加入することは無かった。　そして、３人目のTaiteと出会ったことで、大陸の中での生き方はもちろんのこと、ものを書く者としての在り方やものの考え方にも大きく影響を受けた。　どんな世界においても、人との出会いはそんなものなのだろう。会うべくして会う人というのは、必ずいる。　　ギルメン以外にはあまり見せてはこなかったが、まったく正反対の方針を持つ最後のワルキューレとは、ことごとく激しく衝突した。　一番注意されたり、言い争いをしていたのはおそらく私だ。互いの書き記したものに対して、真剣に議論を重ねることもあった。　何度、紫色の文字が飛び込んできたことだろう。　「それは違うんじゃなくて？　碧眼さん」　それがいつも戦闘的議論開始のゴングだった。　　特にイベントともなれば、その打ち合わせたるや尋常な会話ではなかった。　けれど、毎回殴り合わんばかりの口論を重ねながら、一緒に企画・運営をすることで、どれだけ現実の世界にも持ち帰れるほどのものをここで得られたか。　　３人ともに引退してしまった今では、彼女たちから届く紫の文字が懐かしい。　　　結局のところ、彼女たちにヴァルハラへと送り込まれたから、神々の黄昏の時まで、私はここで戦い続けることを余儀なくされたとも言える。　　私のクロノスでの生き方を変える分岐点にいた冒険者が、いつもワルキューレ、即ち英語読みでいくところのヴァルキリーであったこと。　奇跡的に１回で完全体となったジャド、誇り高き悪魔の両手杖アル・ソアが、まるで私の手元に来るべくして与えられたノートゥンクと思えたこと。　死に物狂いでお金をためて手に入れた、金色のフレンドシップ・リングに加えて、いつか消えてなくなる日まで、大陸は何度も蘇ることの出来る戦いの場所であったこと。　　こうした北欧神話「Volsunga Saga」や「ニーベルングの指環」との符丁の一致は、私が最後の日までここに立つ『戦死者』として選ばれたことを錯覚させた。　けれど、既に去っていった彼女たちがブリュンヒルデのはずもなく、ましてや、私がジークフリートではないことはよく自覚している。　　原題として『牧神の午後』を使用したのは、そこに起因している。　難解な表現の長詩だが、ひらたく言ってしまえばこんな物語だ。　「牧神が寝起きに見た乙女の幻想に恋をして、言い寄って、つれなく振られて、　乙女の落し物のスカーフの上で自慰行為にふけって、また、フテ寝する。」　　クロノスで過ごすことは幻想であり、それを大層に書き記すのは自慰行為と同じ。　この２つを忘れてしまったら、最後だと思っている。　　もちろん、幻想であっても、決して本物を見つけられない場所じゃない。　クロノスを通して、私は現実の世界を共有する友人をたくさん得たし、今回、病魔にとり付かれた時に支えてくれたのは、顔すら知らない友人たちだった。　幻想に惑わされ、溺れてしまうことがなければいい。　いつも自分の足が地に付いていることを確かめていたい。そう切に願う。　　マラルメの長詩をモチーフにドビュッシーが作曲した『牧神の午後への前奏曲』。そして、その曲に乗せてニジンスキーが振付けたバレエ『牧神の午後』がある。　この作品で、ニジンスキーはラストシーンにおいて、恍惚の表情を見せ、最後には「はぁ」と息を抜くことで自慰の部分までも表現して見せた。　実はそこに至るまで、バレエの基本動作であるはずの跳躍も回転も全て排している。セオリー通りの表現手段など、使わないし使いたくもないとばかりに見えた。　自慰行為と自覚して書く以上は、天才ニジンスキーのようにはいかないけれど、表現力を身につける努力をし、常に次の表現方法を模索することは忘れないでいたい。　　もちろん、マラルメを選んだことは、文章が難解であるとか行間がどうとか、言葉がどうだとかなどの過去の議論に「それがどうした？」と示す意味もある。　観念を言葉にしていくことでしか、世界は表現できず、閉じた世界としてのクロノスという場所を、私がこう捉えているというだけのことだ。　たった一つの正邪や技巧の有無を論ずる必要もなく、それぞれの人が、それぞれの言葉で、それぞれの物語を書くことにこそ意義がある。　　物語として語れる時が来て、初めてすべては存在する。　言葉によって置き換えられていないものは、無にも等しい。　　　　　神々の黄昏時まで、終わりのない物語をここに書き記すことを誓って・・・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.4.15　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Green_eyes　　

  2005年04月15日

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• 魔術士の午後への前奏曲13 Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte treize

  　そして、ある言葉が新たな分岐点を作り、私を後押しすることなる。　　１０月初頭。　ターラの倉庫前で雑談中、彼の戦友ランドII世が言った。　「碧眼さんの書いたもの、読んでみたいですねぇ」　当時の楽天の戦史編纂室中、彼はもっとも人気のある日記作家で、大陸随一の社交家であり、ラピス日記文化の中心とも呼べる冒険者だった。　　ギルマスには書くことを勧められたことは無かったが、彼女の日記を含め、毎日、大陸から去った後に楽天の戦史編纂室を見て歩くのは楽しいことだった。　ギルチャだけでは聞けなかったギルマスの本音や考え方、その人となりを知るのには、書き記された言葉が何よりだった。　大陸ではあえて彼女が飲み込んだ言葉を行間に探すことも、また至福の時だった。　　元々ものを記すのは嫌いではなかったが、時間を割くことは難しいと諦めていた。　それが、優れた戦記の主である彼の言葉をきっかけに、私の中で『日記を書く』ことへの興味は、突然に大きくなっていく。　大陸の中での『役』とは別に、もう一つの『役』としての物書き業。それがどんなことを意味するのかをしばらく考え込んだ。負担となるのは判っている。　　同時に、クロノスと言う場所が私にとって何であるのかも考えさせられた。　そして短期間の間に変化した魔術士としての生き方を通して、こう感じた。　この大陸は生きていくことの小さな実験場であり、色々な現実をも投影した箱庭のようなものであると。　　　　　　書いてみよう。　　特にギルマスに了承を得ることもないまま、ギルド名をひっかけた日記名をつけた。　漠然としながらも、確信に近いものが生まれていたからだろう。このラピス第３サーバーで、大バーゲンで、この大陸が果てる日まで過ごすことを。　この箱庭で感じたこと、得られたこと、数々の出会いを書き残しておきたいと思った。そのために費やす時間は、決して惜しくはないと。　　一方では、バランスを取るために、私には書くことが必要だったとも言える。　『現実の世界』と『大陸』とを行きつ戻りつするために、その間の急勾配を上手にやり過ごすために、スイッチバックする場所が。　どちらが山頂、より天上に近い方だとは言い難い。けれど、少なくとも同じ標高にないことだけは確かだろう。　この場所で切り返すことによって、ようやくバランスを保てていたのだと、ずっと後になって気がつく。　　　　第２回ヒドゥン・ビレッジが行われた１０月４日。ギルドの仲間たちと初めて参加して即死を繰り返し、興奮が覚めやらぬままの夜。　私は神妙な面持ちで、最初の一行を書き記した。　『現実逃避日記のはじまりなのか、もしくは廃人暮らしの記録であるのか。』　　　　　神々の黄昏の時まで戦い続ける場所であるヴァルハラ、そこへと導くワルキューレ。ここでは例え今日は死に至っても、翌日には必ず蘇る約束がある。　　ただ、その日その日を真剣に過ごすしかない。　クロノスと言うこの場所が消えていく瞬間まで、今を楽しむほかに、一体何が出来ると言うのだろう。　　だからこそ、その楽しみを自らの手で作り出せる冒険者でありたいと思う。　　　　気がつけば３人のワルキューレに導かれ、碧眼という名の魔術士がここにいた。　　　　　 　　Grâce spéciale à A-char, Maya, et à Taite.　　　　　　　　　　 　　　Prelude a L'après-midi d'un magicien　- Fin -　　　

  2005年04月15日

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• 魔術士の午後への前奏曲12 Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte douze

  　祭り好き、大いなるものに挑むのを好む姿勢が明確にもなっていく。　　９月２４日。　突如、大陸の狩り場のあちらこちらにシュレーダーが出没した。　　その４日前に行われた第１回のヒドゥン・ビレッジは、推奨レベルに遥かに及ばずに参加していなかったため、初めてこの大きな魔物を見た。　毒にやられて即死の連続だったが、大いなる存在に挑むこと、仲間たちと力を併せて一つの敵に向かっていくことの楽しさ。　未だにヒドゥンと聞くだけで、何があっても出かけていくのは、この時の仲間たちとの一体感が忘れられないためだろう。　祭りには参加する。これもまた基本だ。　　３代目となるが、現在の師匠である聖騎士てとらと初めて会ったのも、ギルドで出かけたこのシュレーダー討伐の無謀なツアーの時だった。　その夜以来、ウーノス島へ到着した瞬間には彼にゲートで拿捕され、無理矢理狩り場へと連れ出される日々が続いた。　　彼と歩くパーティがまた、独特の雰囲気を持つものだった。彼がいるだけで、その場の雰囲気が一転し、明るくなる。　とにかく、彼はよくしゃべった。　絶妙なタイミングで入るボケやつっこみに、大笑いしながら狩りをした。　「ただ経験値や金を得るために無言の狩りなんて、意味ないじゃん。」と彼は言った。　狩り場に行くことをただの単純作業にしない。軽口を叩き合えるためにこそ、戦いのスキルを磨く。　彼にも本当に大切なことを教えられたと思う。　　　翌日、９月２５日からはマンボ・カーニバルが始まった。　公式サイトに貼り付けられた画像を見た瞬間、私は思わずコーヒーを吹き出した。マンボルックと称して、装備を赤い腕だけにした【GM】火槌の姿があった。　奇しくも、サブマスは金色の頭だけを被って「タイガーマスク」とか、「タイガーマヌク」などとオクチャを掲げて、裸でマルスを行く漢だった。　　防御や攻撃力に与える影響などどうでもいい。与えられたものを、与えられた通りに使うなんて面白くもない。　見た目の面白さや個性を、どう工夫して追求していくか。そして、制約のある中で、どう自己主張につなげていくか。　こうした考え方は後に初めて手がけるイベント、とりあえず脱いで戦えの「とりぬご盃」の原点にもなっていく。　　　そう言えば、今は亡きカイヌゥスのデス・アンテクラに挑む習慣もこの頃からだ。　　１人目のワルキューレである師匠が、アンテが動かないように嵌めて狩るのを知り、自身の力や腕前を確かめたくて、私は深夜に１人で日参するようになった。　そして、嵌めるのではなく、ノーマルのスリィーンだけを狩り残して回りに配置し、プルの氷で彼らの攻撃を抑制しつつ、アンテに雷を落とすなんて戦法を考えた。　周りのさそりのおかげでデス・アンテからの直接攻撃を受けず、伝説の鎧を着た自分でも、薬瓶を煽りつつ倒すことが可能になった。　　誇り高き悪魔の両手杖のアル・ソアと生きる為に、氷キャンセルを会得したのと同様、装備や強さに依存しないで、戦うスキルを高めることに熱中するきっかけになった。　　　こんな生活になったため、獲得する経験値は増えたけれど、死んで失う経験値の方が多い夜も度々となってくる。　それでも、以前と比べて格段に多くの経験値を渡せることが出来るので、挨拶に訪ねた師匠はいつもご満悦だった。　　「しっかりしてきたなぁ。あの時、そのまま放置しなくてよかったよ。　これで、もういつでも安心して引退できるな。」　大陸にそろそろ課税制度が導入されるのでは、と噂され始めた頃。師匠が突然に言い出した。　　詐欺同然の手口で初心者を騙したことに、彼女はずっと罪悪感を持っていた。　こんな様子じゃ、もっとひどい目にあってクロノスを止めていくに違いない。心配で仕方なく、罪滅ぼしもあって側にいてくれたことを聞かされる。　「気がついてた。師匠に教わった相場情報とか見てるうちに、　あの時は騙されていたんだなって・・・」　けれど、師匠がいなかったら間違いなく私は大陸を去っていた。　　大陸の課税開始で引退した師匠だが、今でも無料期間があると必ず来てくれる。　「元気でやってるか？　ほれ、お土産だ。」とパシャを投げて寄越し、「しばらくてけとーな装備貸してくれ。」と倉庫をあさっていく。　そして、全ての獲得物を私に押し付けて、また去っていくことの繰り返し。　　人との出会いは分岐点なのだと、改めて思う。　　

  2005年04月14日

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• 魔術士の午後への前奏曲11 Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte onze

  　私の世界は飛躍的に広がっていった。　　すでに顔見知りになっていた人はもちろんのこと、いわゆる野良パーティと呼ばれるものにも、積極的に入るようになった。　　ギルメンだけでフルパーティが組めるほど、人数がいなかったせいもあるが、どちらかと言えば、他のギルドに比べてギルドハントはしなかったように思う。　３人目のワルキューレは、ギルドをソロを主体とした集団と位置づけ、ギルメンそれぞれの仲間や関係を外に広げていくことを望んでいた。　「ギルドだけで、外部に閉じた関係を作っちゃいかんですよ。」　「誰かに依存しちゃダメ。ソロでも、一本立ちして歩ける力だけは担保しなさいな。」　そんなことをよく彼女に言われた。　　ギルメンでパーティを組む時は、馬鹿なことばかりしていた記憶がある。　　対人戦を好む仲間はいなかったが、せっかくの機能は使ってみようとでかけた、アリーナサーバー体験ツアーでの乱戦ごっこ。　死んだ時の重なり具合が面白く、どう倒れればうまく重なるかを真剣に試した。　　ようやく取得した召喚魔法の効果を試そうと始めた、「プルやシャドーや倉戸先生だけでどこまで倒せるか研究会」。　シティス・テラの砂漠で棒立ちになったまま、仲間たちと大笑いした。　　実装されたばかりのマイヤー島探検ツアーでは、船着場から海へとダイブし、どれだけ遠くまで飛んで沈むかの競技会に明け暮れた。　全員が海底に沈んだ状態で、馬鹿なことを延々と語り合った。　　この頃から、死んで失う経験値や金品よりも、死んで得る笑いや冒険心を満足させることを優先する傾向は定着していく。　　　そんな中で、彼の戦友との出会いがあった　　９月２１日、休日の早朝。　マイヤー島からサンツスミコへと向かう船に飛び乗ると、誰もいないと思った甲板に、１人の聖騎士が立っていた。　あの日、大バーゲンの旗を背負ってサンツスミコの街にいた、破邪の聖印初代ギルドマスターのランドII世だった。　　私は思い切って声をかけた。　「ＳＳとらせてください～♪」　「あぁ、姐さんのところのもーちゃんの鍵売ってた方ですね。」　　モートゥースの秘密の鍵を売り抜いた私に興味をもっていてくれたらしく、船上に２人だけという気安さもあって、初対面ながらじっくりと話すことができた。　それからは、姿を見かけると話し込むようになり、彼がこの大陸を去った今でも、戦友として交流は続いている。　　今になってよく読んでみれば、当時のことを記している日記作家がいたのだが、私は、ようやく誰もいなかったギルドの理由を彼に聞くことが出来た。　破邪の聖印を設立する直前、イベント『Joeの挑戦状』に参加するために、軒先を大バーゲンに借りて、集団で一時在籍していたこと。　私がたくさんの旗を見かけた夜にみんな脱退して行ったこと。　理由を聞いてみれば、ギルドに２人しかいなかった謎は簡単に解けた。　　けれど、まだギルドを起こすことが大変だった時代だ。気さくに場を提供したギルマスへの恩義は忘れていないと、彼は言った。　「僕は破邪の聖印と大バーゲンは、兄弟ギルドみたいなものだと思っているんだ。　何か困ったことがある時は、必ず駆けつけるよ。」　友人たちが困っている時、見過ごすような３人目のワルキューレじゃないことは判る。けれど、その人への評価を第三者の口から聞くと妙に納得させられ、嬉しかった。　　色々な話を聞いて、かつてギルマスがしたように、もしも破邪の聖印に何かある時は、必ず駆けつけて協力しようと決めた。　もっとも、今では現ギルドマスターである朽棄に助けられるばかりなのだが、押しかけ舎弟のような感覚のままで、現在に至っている。　　　ラピス第３サーバーはオープンβ時代以前からの日記書きが数多く住み、それぞれが独自の文章スタイルを有しながら、大陸以外で交流の場を有してきた。　それが「馴れ合いのラピ３」とも呼ばれる人間関係を作り上げ、大陸の他のサーバーとは異質の雰囲気、独特の風土を醸すことへと繋がっていた。　　そんな場所で、私の交友関係の基礎が作られつつあった。　　

  2005年04月14日

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• 魔術士の午後への前奏曲10 Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte dix

  　「アンタ、あっし以上にこのギルドの方針を決定付けちゃったよ…(^^;」　　３人目のワルキューレ、ギルマスは苦笑混じりに言っていた。　　１日がかりで手に入れた「もーちゃんの不思議な鍵」。それを高値で売ろうと目論んだバザールは本当に楽しいものだった。　『究極のレアアイテム、何の役にも立たないもーちゃん秘密の鍵５Ｍ　見るだけもOK』　ディスカウントを続け、最終的には８０％ＯＦＦの１Ｍで売却したが、４１名もの冷やかし客と共に鍵にまつわる思い出や失敗談を語り合うことが出来た。　それは、現実のフリーマーケットとなんら変わらなかった。　大陸の中でも、ここにある道具を使って色々なことができる。狩り場で魔物たちと戦うということ以外に、楽しいことを創り出せるのだと知った。　　当時、私が掲げていたバザールでのキャッチコピーをいくつか拾ってみると、我ながら脱力するほどに情けないものが多い。　『持っている人をめったに見ない希少品＋４マーシ　今なら９９９クロ投売り♪』　『ぞろ目セール　マッチョなあなたにセス盾３３Ｋで売ります』　『アリバイ工作に不可欠！行ったと見栄を張りたいあなたにカイヌの地図＞４Ｋ』　『片手への転職に悩む貴兄、もう少し頑張ってみませんか？応援価格+3プロスタ300K』　　ネタと言う名の付加価値や遊び心を売るということ。　人との交流による笑顔や温もりを対価として受け取ること。　　ギルマスがこの旗の下に求めていたものが何であったのか、鍵を売った９月６日の夜に、おぼろげにわかったような気がする。　そして、後には商売ギルドからイベントギルドへと転進していくことになるが、今なおギルドの基本姿勢は変わってはいないと思う。　　このウィークエンド・バザールを境に、周囲の私に対する扱いが大きく変わった。　それまでは「姐さんのところの新人さんだね。」と、ギルマスに対する評価のお陰で、あそこの人なら大丈夫と受け入れられた。　それが１人の冒険者として、かつ、変わり者として認知され、野良パーティに加入すれば、しばらくの間は必ず言われた。　「ああ、あのもーちゃんの鍵売ってた人ねｗ」　　おかげで、見知らぬ人にも気楽に声をかけられるようになってきた。文字通りの『ナンパ』に明け暮れ、戦乙女と見れば声をかけた時期もある。　傍から見れば、何をしでかすか判らない不安定さはあっただろうが、へそ曲がりの私にとって、人と違うことをする爽快感は何事にも換えがたかった。　　大バーゲンに入ってから２週間足らずの間で、私はそれまでの私とはまったく別の存在へと変わっていた。　　　一方で、表に見えるフォーマルな姿としての『役』とは別に、決して表に出さない素のままでの対人関係というものも覚えていく。　これに大きく影響を与えたのが、２人目のワルキューレだった。　　「碧眼さまぁ；；」　死に物狂いで戦っている最中だろうが、数人で雑談をしている時だろうが、いつも内緒話を持ちかけてくる可憐な戦乙女がいた。　表面に見える明るさとは裏腹に、彼女もまた大陸での『役』を作っている人だった。悩んでいることや不安を、一対一の会話の中で吐き出してくる。　　私が現世の様々なしがらみや軋轢から逃避するためにこの大陸に来るように、冒険者の姿を借りて、こうありたいと願う自分を演技する人々がいることに気づく。　それは私自身がもっと若い頃に感じ、苦しんでいたことと同質のものだった。　大層なアドバイスなどができる身分ではない。たまたま年代が上だっただけのこと。　けれど、聞き役となって吐き出すための場所となることや自分の経験を話すこと。それはかつての自分と向き合うような、とても愛しい時間だった。　　『ゲームも出来る高機能チャットクライアントシステム』　３人目のワルキューレがよく言っていたこの大陸の評だ。　だからこそこの大陸は離れがたく、面白いと思う所以なのだが、女性や３０代以降の冒険者が多いのはそのせいだろうと思う。　他愛もないおしゃべりや井戸端会議、人生相談にいたるまで、人と人との繋がりを求めたり、対人関係を楽しみたい人には最適な場所だった。　　いつしか、同時に何人もと内緒話をしながら狩り場を行く私がいた。　　

  2005年04月13日

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• 魔術士の午後への前奏曲９ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte neuf

  　どんな『役』が私には相応しいのだろう。それは大きな宿題だった。　　幸いにも師匠、可憐な戦乙女、ギルメン以外とはろくに話したことがない。無色透明な存在だからこそ、口調から立ち振る舞いに至るまで創り上げていける。　　先ずは性別不詳ながらも、誰よりも戦乙女に優しい存在であろうと決める。私の大陸での運命を変えた３人のワルキューレに対する敬意だった。　軽口を叩く熱血漢にして祭り好き。遊び好き。いつもふらふらしている軟派。そして怪しげなキャッチコピーの趣味の物売り。　とりあえずはそんな所だったかと記憶している。　　後にはこれに、軟弱にしてヘタレなイベンター、擬装好き、両手武器好き、赤パラ好き、ショタコン、痴れ者、廃人などの怪しげなものも加わっていく。　そして、完全なる両手杖遣いが定着するのは、これよりずっと先、２００４年４月に誇り高き悪魔の両手杖アル・ソアと出会う日から。　役作りには、意識して作り上げた部分と素がそのまま出てしまった部分がある。現世の私を知る人にここを見せた時、ある単語を見た瞬間に吹き出していたほどだった。　「どこにいたって、まんまじゃん・・・」と。　　大陸も楽天も離れて、現世で初めて出会う時などに、「男性じゃなかったんですか！」と絶句されるのが普通だった。　某巨大掲示板隔離場所では、私がオフ会で女性プレイヤーお持ち帰りを常としている、そんな憶測も生まれ、そこまで演じ切れていたとすれば、本望としか言い様がない。　今では素のままの文章もここに書き記すようになり、性別も明かしたが、それも楽天に戦史を書き続けてきた中で、『役』が定着したと思えたからだろう。　温厚そうに見えて意外に短気、怒らせると後が怖い性格と露呈しつつもあることだし。　　もちろん、いくら『役』を定めても、所詮はＲＰＧ初心者である。その後には何度か、『役』からはみ出てしまうような感情をさらけ出した。　さらけ出したどころか、気落ちして一時は引退を考えるほどまでなったのだが、この『役』を原因として、ある事件が起こった時のことだ。　　予め、ある冒険者に「こうした設定で、こうした言動をしますので」と申し入れ、脚本を渡した上で、大陸においてもその後に始めた日記でも『役』を続けていた。　ところが、迫真の演技であったのか、私の性別をたまたま知った人が、『本当に恋い焦がれている』と思い、先方に告げたらしい。　性別をたばかって騙したと思われたのか、本当に恋われていると困惑したのか、その真意は定かではないが、そのことでギルマスにかなりの抗議があったようだ。　　「役に惚れても役者に惚れているわけではない。」　そのことを承知しているギルマスは、最後まで私の側に立ってくれた。　何があろうとも、ギルメンを信じ、ギルメンを守ろうとした姿に、ただ胸が熱くなったし、それがまた『ギルマス役』の全うなのだと教えられた。　同時に、ＭＭＯという場所で『役』を作っている人と素のままでいる人とのギャップ、互いの存在や受け止め方の違いを認識する大切さも学ぶきっかけとなった。　　　大まかな『役』が決まっても、ギルド内での『役割』設定はなかなか決まらなかった。　元々、金勘定や商売にはまったくと断言できるほどに向かない。品物の鑑定が出来るほどの目利きでもなければ、商品知識自体がまるでない。　大バーゲンの一員として、土曜の夜のバザールにいつも参加する以上、そこにいる意味を、存在意義という『役割』を持たなくてはいけないと思った。　　考え続けるうちに、かつて師匠と交わした会話を思い出した。　「派生が続いて必死でもーちゃん倒したのに、鍵を渡しても報酬少ないんですよ！」　「馬鹿だなぁ。あの鍵はコレクターズ・アイテムだから売れば何Ｍかになったのに。」　　実用品を売ることを考えていたからいけなかった。　堅実な商売に向いていないのなら、趣味の分野に特化した数寄者であればいい。そして、思わず買い手が関心を持つようなキャッチコピーで勝負すれば・・・　　私は砂漠に走り出て丸一日篭もり、派生クエストを待ち続けた。ただひたすらにモートゥースの秘密の鍵の仕入れに全力をつくすことになった。　　怪しげなものを言葉巧みに売り捌く香具師、そんな設定が生まれた瞬間だった。　　

  2005年04月13日

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• 魔術士の午後への前奏曲８ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte huit

  　師匠に昨夜入ったばかりのギルドのことを興奮しつつ報告した。　　「派手すぎる旗だけど、良さそうな所に入れたね。安心した。　これで経験値もばっちりかｗ」　そうだった。早く緋色の衣をまとえと、口を酸っぱくして言われていたのだ。　「えっと・・・今夜はウィークエンドバザールって言うのに行くんです。」　　前日、大陸を去る前に「強制ではないけれど」と前置きはされたが、旗の通りに物売りの為のギルドだからと、バザールの見学を勧められた。　もちろん、まだ売り子として立つほどの度胸はなかった。　　指定された売り場のサーバーに向かうと、冒険者でごった返している。　ギルドのメンバー表を見れば４人目の仲間、緋色の装備の戦乙女である、あらたくの名前が増えていた。　私にギルド加入を勧めてくれた２人目のワルキューレも、姿を変えてそこにいた。バザール参加専用のキャラとして所属している人の姿もちらほらと見える。　　相変わらず緊張したまま、ギルマスの後ろ側に少し離れて立った。　てきぱきと品物を替え、オークションチャットを替え、買い手と交渉しながら商いを続けていく３人目のワルキューレ。　派手な旗が目に止まるのか、冷やかし客も多い。すると、【GM】と名前の前についた人まで声をかけてきた。　初めて見たゲームマスターだった。　　やっぱりこの旗はどこよりも目立つ。　これを背負っていたら、下手なこと、恥ずかしいことは絶対に出来ない。急に背負った旗が重たくなってくるような気がした。　けれど、私が本当にこの旗が重い理由に気づくのは、まだ先のことだった。目立つ旗だからではなく、このギルマスの所にいるからこそ重いと言うことに。　　よく見れば、混雑した会場の案内整理係としてもギルマスは動きはじめた。どんな時も気持ちよく遊べる場所にしたい、そんな彼女の想いが伝わってくる。　商売よりも城内整理を優先するギルマスの滅私な姿に感銘を受けながらも、真似して動けない自分の臆病さが、恨めしくも情けなくもあった。　　私がこの大陸で最初に残した一枚となるのだが、バザール終了後には集合写真を撮影することになった。　スクリーンショットの撮り方というものを初めて知った。　こんな機能があったのか・・・　日記などで見かけるそれは、特別な道具を持つ人だけが出来ることと思っていた。　　以来どれだけのＳＳを撮り続けているだろうかと、いま見れば６．０９ＧＢ、１３４７２枚の写真が手元にあった。　この旗を初めて見た時以降の日付が確定できるのも、みんなこのお陰だ。　　　バザールを終えた私は、また１人で神殿の３階へと向かった。　そう言葉数は多くはないが、もう黙々とではない。茶色の文字が踊るのを眺めていると、ソロでの狩りも寂しくない。　　翌８月３１日。　エゴロードが沸くのを待っては殲滅を繰り返していくうち、私はようやくＬｖ４５に、緋色の装備を着られるようになった。　この大陸に最初に降り立ってから、もう３ヶ月近くが経っていた。　　　「おばんです～」　今は当たり前のように耳にするこの挨拶を初めて聞いたのが１週間後の９月７日だ。　５人目のギルメン、『羊の皮を被った専属執事』と後に呼ぶ聖騎士Ishikariが加入。ＳＴＡを振っていなかったため伝説の鎧を着られず、Ｌｖ５４なのに赤かった。　６人目にしてギルマスの最愛の弟子でもあった銀装備の戦乙女、FLLが引退から再び戻ってきたのが、９月１２日。彼女は後にギルマスの名サポート役、店長秘書として活躍する。　そして、初期メンバー７人の最後となる特攻好きな戦乙女、蕾鎮が加入するのは、この少し後、１０月４日のヒドゥン・ヴィレッジの夜。　増えていく仲間が嬉しかったし、多すぎない人数はちょうど良かった。私は次第にギルドチャットでも活発に話すようになっていた。　　まだ加入して数日目のことだ。ある話題を話していたのをきっかけに、突然、ギルマスが内緒話を送ってきた。　「中の人の年齢とか性別とか住所とか個人情報、リアルのお話は御法度ですよ。」　　女性であると公言することで生じがちなセクシュアル・ハラスメントのこと。　ネットの海では、自分の身は自分で守らなくてはいけないこと。　　「ロールプレイなんだから、あなた自身の『役』ってヤツを作りなさいな。」　大陸に過ごす間は、ここにいる１人の冒険者として過ごすようにと、３人目のワルキューレは、そう言った。　　ロールプレイ・・・　『役割演技』という言葉が、私の心に深く刻まれた瞬間だった。　　

  2005年04月12日

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• 魔術士の午後への前奏曲７ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte sept

  　ギルドマスターフラッグを背負うその人も日記作家だった。　　「またせたねぇ」　「はじめまして」　　挨拶をした次の瞬間には、ギルドへの加入を確認する表示が目の前にあった。承諾すると、すぐに歓迎を告げる茶色の文字が目に飛び込んできた。　そう、本当に『２人だけ』から。　　こういった場所に入るためには、入団審査とか面接など、それ相応のものがあるのだとばかり思っていた。　初対面の素性もわからない者を、推薦だけで、出会ったその場で入れる。随分と肝の据わった人というのが第一印象だった。　　「うちはね、出入り自由なのさ♪　決まりごともたいしてないからねぃ。　珍さんとあっしだけだから、ちとギルチャが寂しいかも。」　　つい２日前には、確かにたくさんの人がいたはずだった。けれど、可憐な戦乙女が言っていた通り、本当に誰もいないギルドだった。　私の加入手続きだけを済ますと、ギルマスはまた慌しく出かけていった。翌日に行われるウィークエンドバザールの仕入れがあるらしい。　　ギルドに入るって・・・これだけ？　まるで狐につままれたようだった。サンツスミコで見た、たくさんの旗はまぼろしだったのだろうか。　　「ああ、いかんなぁ、姐さん。新人さんを放置して。」　豪快な声に振り返ると、そこには同じ旗を背負った厳つい戦士が立っていた。後に師匠がこの大陸を去ってから、２人目の師匠となるサブマスターの珍玄斉だった。　「新人さんには歓迎行事があるんだよ。おいで。」　誘われるままにサブマスのパーティに加わる。　そこには見たことのある旗を背負った聖騎士のハミャーもいた。いつもテラのやしの木や建物の上にいた、不思議な木登り集団の旗だ。　「こんばんわ～＾＾」　　「ど・・・どこにいくんですか？」　「カイヌの雲海を見に行くのさ。カイヌゥス知ってるかい？」　もちろん名前だけしか知らない場所だった。それがどこにあるのか、どうやって行く場所なのか見当もつかない。　一昨日経験したものより一段と強いホーリー・アーマーを受けると、私は後を追って、必死で走り続けた。　　どこをどう走ってきたのだろう。無我夢中で、まったく覚えていない。チャクラを経由したのか、マ=ドラヴァス経由だったか、記憶が完全に欠落している。　　「ついたよ。ここが世界の果て、カイヌの雲海だ。」　そこは、まるで本当の海辺に築かれた桟橋か防波堤のようだった。海面と見まがうような、雲の大海原、さざ波が広がっていた。　ずっと閉じこもるように過ごしている暗い神殿とは大違いだった。　「きれい・・・」　ここがどこかなのかも判らない。まだ当分の間は来ることも出来ないだろう。それでも、見果てぬ大地への憧憬を感じさせるこの旅は本当に印象深かった。　　「ああ、そうそう。そこの道具やさんでお土産買ってらっしゃい。」　遅れて到着したギルマスが笑いながら言った。　「お、おみやげなんか売ってるんですか？」　「カイヌの地図。ここでしか買えないからねぃ。」　言われるままに２枚の地図を買い込んでいるうちに、サブマスと聖騎士が消えた。けれど、ミニマップを見ると、明らかに自分の側にいる。　　「まったく・・・アンタたち何やってるんだか。」　見上げれば２人は装備を脱ぎ捨てて、武器屋の横にある塔のようなものを登っていた。競い合うように邪魔し合い、器用に壁にとり付いている。　「新人さんもおいで。登る技術も大事なスキルだ。」　「はいっ！」　私は大きな声で返事をすると、サブマスを真似て装備を脱ぎ捨てた。登り方を教わりつつ、何度も失敗を重ねながら上がっていく。　　つい数日前までの、黙々と狩り場を歩くだけの生き方が、瞬く間に変化していった。　　時には無茶もしてみること。　時には思い切り馬鹿な真似もすること。　そして、壁があったら登ってみること、とりあえず脱いでみること。　　まったく新しい生き方がここにはあった。　　

  2005年04月12日

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• 魔術士の午後への前奏曲６ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte six

  　彼女といれば、新しい出会いと興奮があるような気がしてならなかった。　　昨夜の余韻を胸に抱いたまま、私はサンツスミコに２人目のワルキューレ、可憐なる戦乙女の姿を探していた。　　また一緒にパーティで狩場に行きたい。　大陸に降り立った時から、そればかり考えていた。　　「ミドリメさん、こんばんわです～♪」　先に私を見つけて話し掛けてきたのは、彼女の方だった。思わず返答する声も軽やかになる。　しばしの雑談の後に、彼女はあらたまって言った。　「ミドリメさんは、ギルドとか入らないですか？　ボクの知り合いにとってもいい人がいるです。そこにどうかなと思って。」　　ギルド・・・その存在は知っているものの、考えたことすら無かった。　　師匠もどこかの旗を背負っていたはずだけど、今まで誘われたことは無い。思わぬ申し出にあわてて師匠に相談すると、入ったほうがいいと即答があった。　「じゃぁ、ぜひお願いします。」　「うん♪ボクのサブキャラもそこにいるからね～。　ギルマスがまだ帰ってきていないから、待ちながら２人で神殿でも行きましょ。」　　昨夜のパーティ初体験に続いて、今夜はギルドにも加入とは。何かが突然に大きく動き出したような気がした。　　昨日より多少は動きがよくなったかと思いつつ、狩りを続けた。彼女はパーティチャットではなく、内緒話でギルドの説明を続ける。　メインとして所属しているのは、ギルドマスターとサブマスターだけであること。　２人だけなのでギルドチャットは寂しいかもしれないけれど、とてもいい人たちだから絶対に大丈夫と、彼女は太鼓判を押してくれた。　　ギルドと聞いて、２日前に見た派手な旗が頭に浮かぶ。　沢山の人が次々とゲートから出てきたから相当の人数がいるんだろう。　妙に心惹かれたけれど、あの華やかな面々を見ていたら、私のような万年初心者が入れる場所ではないことは明白だった。　　「あ、帰ってきました～。戻って清算しましょ♪」　２３時近くになって、待ち人がようやく来たらしい。街に戻り、昨夜よりも少しだけ多くの分配金を受け取った。　　彼女と２人、クロノス城のゲート脇で到着を待つ。一体どんな人なのだろう。　　　「新人さんはどちら？」　「待ってましたよ～♪」　甘えた声を出して走り寄っていく彼女。　　その先に立っていた人を認めた瞬間を、私は今でも忘れられない。　　伝説の鎧に身を包んだ華奢な身体には、不似合いなほど大きな旗。一昨日、思わず我を忘れて追いかけた派手な旗を背負って、彼女はそこにいた。　　２００３年８月２９日。　終の棲家となるギルド、大バーゲン初代ギルドマスターのTaite。３人目の、私の最後のワルキューレとの出会いだった。　　

  2005年04月11日

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• 魔術士の午後への前奏曲５ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte cinq

  　金の鎧をまとってからも、一私の修行は一向にすすまなかった。　　あまりの稼ぎの悪さに、さすがに師匠もうるさくなってきた。かと言って、階級の離れた私と共に狩り場に出て、無理な育成をする人でもない。　後にも先にもただ１回。金装備になったお祝いの『ピクニック』と称して、初めてのターラを抜け、まだ天変地異前の明るいマ=ドラヴァスへ行ったきりだ。　魔物たちのあまりの大きさ、強さに私は震え上がり、余計に神殿の低層で満足するだけになっていた。　　「Ｌｖ４４にもなって、未だに３階止まり。パーティとかしたことないよね？　パーティ組んで４階やターラに行かなくちゃＬｖは上がらない。」　もちろん、私も神妙な面持ちでお小言を聞くだけではなかった。　「だって、師匠だっていつもソロじゃないですか。」　「弓バルはソロでもいいの。あんたはマジシャンでしょ。」　　彼女は黙ってゲートの脇を指差した。そこには同じ金色の鎧に身を包んだ戦乙女が、看板を掲げて立っていた。　『神殿ＰＴ募集。初心者さん大歓迎です♪』　　それが、私にとって２人目のワルキューレ、真矢との出会いだった。　８月２８日。全てはこの日を境い目に変わっていく　　師匠以外の人と話すとか、誰かと一緒に狩り場を行くなど考えられなかった。けれど師匠の命令は、絶対の響きを持っている。　ゆっくりと深呼吸してから、緊張気味に声をかける。　まったくパーティの経験が無いことを話すと、彼女はにっこりと笑って答えた。　「わかりました～。ベテランの指導教官を呼ぶです♪」　　初めて見る緑色の文字だった。　メンバーがそろう前に、彼女はてきぱきと注意事項を説明しはじめた。　パーティで狩る前には、財布も荷物も空にしておくこと。装備品の修理を終え、ゲートスクロールも薬瓶も決めた数だけ持っておくこと。　狩り場ではどんどん金品を拾い、不要なものは店売り、判断に困るものや貴重品はみんなに相談すること。　最後に装備品を修理し、薬瓶などを最初に決めた数まで買い足すこと。そして、残ったお金をリーダーに渡すこと。　それを頭割りして分配するのが、彼女や彼女の仲間の流儀だと言う。　　「ミドリメさん。初めての人とパーティを組む時はですね、　こうやって必ず分配のルールを確認するですよ。」　気持ちよく同行する為、冒険者同士の協議の中で生まれていた『ローカルルール』そうしたものの存在を初めて知った。　そして、今になって思えば、誰よりも早く私を『ミドリメ』と呼び、後に『緑目』『碧眼』と定着する通り名をつけたのは彼女だった。　　「やぁ、お待たせ！」　呼び出されてやってきた教官とは、昨日姿を見たばかりの魔術士サイだった。　緊張どころじゃない。　卓越した記録日記作家にして『クロノス討論会』の稿を起こした人物。その博識と発言力もあって、ラピスの魔術士にとって神様のような人だった。　「やっぱり全職がいた方が最初は勉強になるかな。ターラまで行ってみよう。」　聖騎士１名、戦乙女２名、魔術士２名、戦士１名。瞬く間に集められた見知らぬ人たちと、私は狩り場に向かった。　　生まれて初めて受けたホーリー・アーマーで増加した防御に驚いた。薬瓶を飲まなくても、見る見ると回復する体力に唖然とした。　パーティというものは、今までとはまったく違う。　　「ちょっと待って！雷は振ってる？」　いつものソロでの狩りと同様に範囲攻撃魔法を使う私を、指導教官が突然止めた。　この頃の私は、主に炎を遣う魔術士だった。　貧乏暮らしと低い防御は相変わらずだったし、一番燃費が良かったのだ。マナ消費の激しい雷は、めったに使うことが無かった。　　パーティプレイにおいて後衛職となる魔術士の役割と立ち位置について。他職の役割と連携方法、ミニマップを見ながらの全隊位置の把握について。　対職・耐性オーラと魔物たちの階級の見定めを即時にし、それを踏まえて動くことの重要性。　特に、赤いオーラのヴァル・キラーとデスと名前のついた魔物がいた時は、他の魔物は一切無視して、何があっても雷を落とし続けること。　　教官に教えられるままに、教官の動きや立ち位置を見習いながら、今までとはまったく違う戦い方を体験した。　　ずっと後になって、魔術士としての心の師と仰ぐ彼と話した際、この初めてのパーティでのことをまったく覚えていなかったと言う。　印象の薄い存在であったに違いない。今と違って当時の私は寡黙だった。　　会話をしながら狩る技術は、師匠のおかげで叩き込まれていたものの、知らない誰かと会話をすることが、まだ怖くてたまらなかった。　けれど、誰かと協力し合いながら戦うことは、そんな恐怖感をも吹き飛ばしてしまうほど、エキサイティングと知った夜だった。　　

  2005年04月11日

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• 魔術士の午後への前奏曲４ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte quatre

  　２日ものあいだ、大陸へ向かうことが出来なかった。　　意を決しての申し出を断られ、またたった一人で狩り場を行く生活だけが残った。彼女と出会う前の暮らしに戻るだけだと、何度も自分に言い聞かせる。　　ようやく大陸へと降り立つ。　フレンドリストを開いて、一つしかない名前が暗いのを確かめる。安堵とも落胆とも判らない心のままで、私は砂漠へと歩き出した。　　もう帰ろう。そう思った時だった。　　「ああ、今夜はいたね。良かった。」　二度と話すことは無いと思っていたワルキューレの声がした。　「弟子の席をあけたよ。その代わり、今日からはラピ３においで。」　　８月の初旬。けだるい熱帯夜。　私は彼女の弟子となり、そして、終生まで離れることの無い第３サーバーの住人となった。　　　　師弟関係を結んでからの彼女は、鬼神のようだった。　師匠に対してもたらす経験値が少ないと、より上位の狩り場に行くように指示し、そして、より強くなるためにと、片手杖と大層な補正のついた金の盾を差し出した。　「片手になれと言うんですか？」　プロテクタースタッフを振るう自分の姿が気に入っていただけに、そう仕向けた張本人である師匠からの贈り物は、俄かには納得できない。　　狩り場では片手杖、街に戻ったら両手杖。　そんな決まりごとは、彼女に対する私のささやかな抵抗だった。　　　それは８月２７日。まだ暑い盛りだった。　金の鎧に片手杖遣いとなった後も、私はいつもソロで狩り場を歩いていた。相変わらず師匠以外とは話すことが無いままだった。　それでも、毎晩サンツスミコで繰り広げられていたオークションやミニイベント、そうしたものを遠くから眺めているのは大好きだった。　　挨拶のために師匠を待って、サンツスミコのゲート前に立つ私の前を、突然、今まで見たことも無い派手な旗を背負った一団、十数人が走り抜けた。　　あれは一体・・・どこのギルドの旗？　　間もなく来るはずの師匠のことも忘れて、私は彼らの後を追った。気づかれないように、恐る恐るその旗を背負った人たちの名前を確認する。　今でもはっきりと覚えている名前は３人だけ。　ランドII世、サイ、そして朽岐・・・　師匠に教わってから読むようになっていた楽天という戦史編纂室。そこに居並ぶ日記作家を初めて目の当たりに見た瞬間でもあった。　　「どこにいるの！」　戦記に憧れていた人たちの生の姿に上気していた私を、師匠が叱りつけた。　「あっ・・・すぐ行きますっ。」　　慌ててゲートの方へと戻っていく私の後方で、派手な赤い旗がゆれ続けていた。　　

  2005年04月10日

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• 魔術士の午後への前奏曲３ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte trois

  　両手遣いとなってからの日々は悲惨の一言だった。　　どの初心者もそうであるように、当時の私はラピス第一サーバーという名の地にいた。どこを狩り場とすればいいのかもわからないまま、ずっと城の周辺を歩いていた。　「貴方のレベルなら、ケタースなんかじゃなくてテラに行かなくちゃ。」　両手杖をくれた戦乙女が別れ際に教えてくれた通り、砂漠に囲まれたサンツスミコを常宿に変えた。　　両手杖を手にしてからの私は、間違いなく強くなったものの、魔物たちとの戦いで傷つくことが多くなり、赤い薬瓶の消費も激しくなった。　戦っても戦っても、いつも貧乏だった。　戦利品は全て薬瓶代へとつぎ込まれていく。　時折り不幸にも出くわしてしまう巨大な兵の影におびえながら、遅々として進まない修行をたった一人で続けた。　相変わらず言葉を交わす友人もいない。　　そんな私の唯一の自己表現手段がオークションチャットだった。　「槍クエちう♪」「とりくえ」「ミミズ食え♪」　淡々と頼まれた仕事をこなす中で、依頼内容を表示しながら歩くようになっていた。　　　２００３年７月中旬。　その日も、テンプルロードの安全地帯で、いつものように体力の回復を待っていた。　魔物たちと戦う時間と回復時間の比率が同じくらいだったろうか。少しでも薬代を減らそうと考え出した、哀しい習慣だった。　　『ご休憩3000クロ、ご宿泊7000クロ　ホテルてんぷる』　いま思い出せば、馬鹿げた看板オークを回復時間中には掲げていた。　「フ・・・安いな。」　チャリーンとお金が落ちる音がする方を見ると、3000クロのお金が床に置かれ、伝説の鎧を着た戦乙女が立っていた。１人目のワルキューレだった。　　「あ・・・」　「まだ銀装備なんか着てるの？」　私は恥じ入るようにうつむいた。　　　その日を境にして、彼女からは毎晩のように連絡が入るようになった。　　元来、遠い現世から逃れるように、人との関わりを避けるために見つけた世界だった。　仮初めの姿とも思える魔術士を、心を空っぽにして機械的に戦わせる。ここに降り立てば、何も考える必要は無い。私はそれだけで満足していた。　　そんな私に、色々なことを彼女は話しかけてきたが、戦いを続けながら会話をするような余裕はまったく無い。　来る日も来る日も意味の無い数字の連打を彼女に送りつけるうち、面白いもので、気がつくと話しながら狩り場を歩ける力がついていた。　　私は彼女から、魔物から奪い取った品物の価値や使い道、ステータスやスキルには職ごとに違う振り方があることを教えられた。　裏の世界に『隔離』と呼ばれる恐ろしい所や楽天という戦史編纂室があること、品物を鑑定する場所や大陸の細かな情報を調べる場所があることなども学んだ。　　何しろ、当時の私ときたら、ステータスは４つにみんなひとつづつ。　スキルにいたっては、シールドマスタリーというものに振れば防御が上がると聞き、両手杖遣いでありながら、それに振り続けるという愚挙を重ねていた。　強くなれるはずも無い。　　ある日、いつものように声をかけてきた彼女に、私は思い切って言った。　「師弟制度というものがあるって見たんだけど、師匠になってもらえませんか？」　答えはＮｏだった。　すでに２人の弟子をとっていること。本当はラピス第３サーバーの住人で、物の売買のために毎晩ここへ来ていること。その待ち時間をつぶす為に、いつも話しかけていたと、彼女は言った。　　たった一人しかいない話し相手に拒絶された・・・　他者との関りの心地よさを知ってしまった以上、絶望感は大きかった。　　私は失意のうちに大陸から逃げ出した。　　

  2005年04月10日

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• 魔術士の午後への前奏曲２ Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte deux

  　城の中に佇む住人たちだけが、友人だった。　　私は、他者に対して臆病すぎたのかもしれない。忙しげに動き回り、談笑する他の冒険者たちと会話をしたことがなかった。　　城の中に佇む誰かと会話し、何かを求められて答えを出す。無機質なやり取りだけが全てであっても、そう不安にはならなかった。　一人一人の冒険者にはそれぞれの神がいて、その投影された姿であること、今では当たり前となったその概念が、まだ私の中には存在していない。　私以外の存在を認知していない中では、孤独という感覚は生まれなかったのだ。　　けれど、限られた時間の中でケタースヘルという名の場所にたどり着き、見たことも無い魔物を見つけ出して倒さなければならない。　私はこの大陸に生れ落ちて初めて言葉を、警備隊長の横で弱弱しく発した。　「ケタースヘルへの行き方を教えてください。」　　永遠に続くかのように思える沈黙の後、誰かが答えた。　「派生が出たの？」　そこには、鮮やかな緋色の装束をまとった戦乙女がいた。　　「派生って言うんですか？　クルエールスケルトンを倒してきたら、デスレクリーを退治して来いって。」　「それならケタース神殿の焼けた螺旋の道を上がって、右の部屋から行けるよ。」　焼けた螺旋はどうしても上手に歩けないまま、行くことを諦めていた場所だ。私はお礼を言って走り出した。　　何度も何度も転落し、その度にお金を失っては、また走っていった。　そして、ようやく仕事を終えてアルフレッドの元に戻れたのは、約束の期限まであと２分を切った時だったと思う。　「おお、坊主。よく頑張ったな。やればできるじゃないか。」　彼は『＋２アヴァロンペンダント』と記された、見たことも無い紫色の塊をくれた。生まれて初めて手にしたディバインアクセサリーだった。　　「上手くいった？碧の目の人。」　この大陸に降り立って、誰かに話しかけられたのは初めてだった。ケタースヘルへの行き方を教えてくれた戦乙女が立っていた。　私が入手したものの名前を告げると、彼女はちょっと眉をひそめて言った。　「それって魔術士にはいらないものね。」　「え？そうだったんですか？」　「貴方が使えるものを持ってるから、交換してあげましょうか。」　　後に彼女は言っていた。　「初心者を騙して詐欺同然のことをしたから、気になってずっと側にいたんだ。」と。　　私の１人目のワルキューレ、最初の師匠となるアチャーは、微笑みながら『＋１ノモスリング』と『＋１プロテクタースタッフ』を差し出した。　　無垢というものは無知にも通じる。　それが、どれだけひどい取り引きであるかも知らないままに、魔術士に必要なものが手に入ることを喜んで、交換を承諾していた。　　いつかそれが自分の生き方を決めてしまうほどのものとは気づかぬまま、盾を棄て、私は自分の瞳と同じ色の石をはめ込んだ銀色の杖を握り締めた。　　初めて手にした両手杖だった。　　

  2005年04月09日

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• 魔術士の午後への前奏曲 Prelude a L'apres-midi d'un magicien, Acte un

  　すべてのことは必ず表現され、そして、世界はひとつの美しい書物となる。　詩は思想で書くものじゃない、言葉で創るものさ。　そんなことをマラルメが言っていた。　　三島も『詩を書く少年』の中で、似たようなことを主題としていた。　言葉という抽象を通してしか、観念は表現は出来ない。だから、私が使う言葉のことを、私は私の観念と呼ぶ。　　　大陸での運命が変わる時、私の前にはいつも戦乙女がいた。　彼女たちとのことを私の言葉にするべき時なのかもしれない。　　大陸に再び降り立つ日まで、しばらく３人の戦乙女たちとの物語りを聞いて欲しい。　私をヴァルハラへと導こうとした、３人のワルキューレたちのことを。　　　　　Ces Valkyrie, je les veux pérpetuer.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Si clair,Leur incarnat léger, qu'il voltige dans l'airAssoupi de sommeils touffus.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Aimai-je un rêve? Mon doute, amas de nuit ancienne, s'achèveEn maint rameau subtil, qui, demeure les vraisBois même, prouve, hélas! que bien seul je m'offraisPour triomphe la faute idéale de roses.Réflechissons...　　～citation de "L'après-midi d'un faune" écrit par Stéphane MALLARME～　　　何と明るく、眠りの茂みにまどろむ空気の中に翻ったか彼女達の鮮やかな薔薇色の体が　ああ夢を見ていたのか？　古い夜の群れ集った僕の疑いも、無数の細い小枝と分かれたしかしこれこそは本来真実の森　今証する、悲しくも！　薔薇を薔薇とも思わぬ観念の幻に騙されて、ひとりよがりに僕が得意になったにすぎないことを。　よく考えよう･･････。　　～ステファヌ・マラルメ「牧神の午後」の初節から～　　　　　２００３年６月。まどろみから目覚めた時、私は小さな四角のゲートに立っていた。　　何よりも先ずこの街から出て、魔物たちと戦わなくてはならないということ。手に持たされていた小さな短剣だけが頼りということ。　記憶にあるのはこの二つだけだった。　　そして、その夜からたった一人の戦いが始まった。　誰と会話を交わすわけでもない。ただ無心に狩り場を歩き、魔物たちと戦い、金品を戦利品として奪い取る。　ここで生きていく為には、それ以外の方法は無かった。　　７月に入って、ようやく最初の銀色の鎧を纏えるようになった頃だろうか。何気なく話しかけた城の住人に、ちょっとした仕事を持ちかけられた。　「まとまった数の骸骨を倒してきたら、いいものをやるぜ。」　アルフレッドは金貨の入った袋を見せて、にやりと笑う。のどから手が出るほどお金や薬瓶が欲しかった。　それ以来、私はいつも彼の元を訪れるようになっていた。　　ある日、必死になって依頼を終えて戻ってきた私に、突然、彼は言った。　「ついでにもう一仕事しないか？危険だが、成功報酬がでかい奴だ。」　しばらく迷いながらも、こくりと頷く。確かこいつは、大陸の神々が創りだした新しい宝物をくれる仕事だ。　　訪れたことも無いケタースヘルに住む魔物を目指して、私は旅立つことにした。　どうやって行けばいいかもわからないままに。　　

  2005年04月09日

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