サンプソン、クレイトン ヴォルフ:イタリア歌曲集
ヴォルフのイタリア歌曲集は男声と女声の二人の歌手が必要で、二人ともうまくいくことはなかなかない。そのためか、録音はそれほど多くはないようだ。直近ではダムラウとカウフマンのライブ録音が最も新しい筈だが、カウフマンの歌に難があり、管理人は否定的な評価だった記憶がある。今回はカロリン・サンプソンとアラン・クレイトンというイギリスの歌手による組み合わせ。アラン・クレイトン(1981-)は管理人はおそらく初めて聞くテノール歌手。イギリス出身で宗教曲やオペラで活躍しているようだ。鈴木雅明の第9にも参加しているが、記憶にない。いい声だが、シャープ過ぎて、やかましく、この歌曲集としては違和感がある。また声量があるのは悪いことではないが、この歌曲集では抑制された表現が必要だろう。管理人としてはバリトンが一番しっくりくる。クレイトンの歌は、なにやら、すーすーするガムを噛んでいるような気分になる。歌そのものは悪くないが、やや一本調子。その中では、恋人に語りかける『ぼくが死んだら、体を花いっぱい包み込んでくれ』のような静かな曲がいい。ただ、第14曲『友よ、私たちは修道服でもまとって』での神父が訪問した家の人たちの応答を、わざわざ声色を使って歌っているのは、気持ちが悪い。訪問された家の人のほうが、妖しげに聞こえるのは、さすがにおかしいだろう。spotifyでチェックしたところ、カウフマンはすこし声色を使っているが、それほど大げさではない。ゲルハーエルは特に声色は使っていないので、余計なストレスを感じないで済む。サンプソンは柔らかいディクションと可憐な歌いぶりで、期待にたがわない出来。この曲集の怒りの頂点に立つ『深淵が恋人の小屋を飲み込んでしまえ』での激高ぶりにも不足はない。サンプソンといつも組んでいるジョセフ・ミドルトンのピアノが相変わらず上手い。歌手との距離感が絶妙で、決めるべきところも、怠りない。曲順は楽譜通りで、探すときには、よけいな手間がかからなくて助かる。ジャケット・デザインは、お世辞にも、いいとは言えない。Wolf: Italienisches Liederbuch (BIS BIS-2553)24bit96kHz Flac第1巻 1.『小さいものでも』 2.『遠いところに旅立つそうね』 3.『あなたは世界で一番美しい』 4.『この世界の生みの親に祝福あれ』 5.『だれがあなたを呼んだの』 6.『いい気なもんだ、お嬢さん』 7.『何をそんなに怒っているの』 8.『さあ、仲直りをしよう』 9.『君の魅力がすべて描かれて』 10.『あなたは細い糸たった一本で私を捕まえて』 11.『もうどれだけ待ち焦がれていたか』 12.『さあ、仲直りしよう』 13.『愛しい人、あなたが天国に』 14.『友よ、私たちは修道服でもまとって』 15.『私の恋人はこんなに小さくて』 16.『戦場に向かわれる若い方々』 17.『君の彼氏が死ぬところを見たいのなら』 18.『ご身分はよくわかっています』 19.『私たちは2人とも長いこと押し黙って』 20.『私の恋人が月明かりの注ぐ家の前で歌っているわ』 21.『あなたのお母様がお望みでないらしいわね』 22.『セレナードを奏でるために』2巻 23.『君にはどんな歌を歌ってあげたらいいのか』 24.『私はもう濡れていないパンを食べることはありません』 25.『恋人が私を食事に招いてくれた』 26.『私がよく聞かされた噂話によると』 27.『やっとのことで疲れた体をベッドに横たえたと思ったら』 28.『わたしが侯爵夫人じゃないんだからってなんて言うのね』 29.『やんごとないあなたの御身分のことは重々承知しているわ』 30.『あんな傲慢な女は、好きなようにさせておくさ』 31.『どうして陽気に笑ったりしていられようか』 32.『なにを怒っているの、大事なお方、そんなに熱くなって』 33.『ぼくが死んだら、体を花いっぱい包み込んでくれ』 34.『それから、あなたが朝早く寝床から起きだすと』 35.『今は亡きあなたのお母様に祝福あれ』 36.『あなたが愛するお方がもし天国に召されるようなことがあれば』 37.『きみを愛するあまり、どれほどの時間を無駄にしてきたことか』 38.『きみがぼくをちらりと見て笑い出し』 39.『緑色と、緑の服を着ている人に幸ありますように』 40.『いとしい人、わたしがあなたの家のまえを通るとき』 41.『昨夜、真夜中に私が目を覚ましたとき』 42.『これ以上ぼくは歌いつづけられない、だって風が』 43.『ちょっと黙ってよ、そこのしつこいおしゃべり屋な男』 44.『ああ、おまえは知っているか、どれほどぼくはおまえのために』 45.『深淵が恋人の小屋を飲み込んでしまえ』 46.『あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの』 キャロリン・サンプソン(s) track1,2,6,10,11,12,15,16,20,21,24,25,26,28,29,31,32,36,39,40,43,45,46) アラン・クレイトン(t) track 3,4,5,7,8,9,13,14,17,18,19,22,23,27,30,33,34,35,37,38,41,42,44曲) ジョセフ・ミドルトン(p)Recorded 21st—23rd September 2020 (soprano songs) and 6th—8th July 2021at Potton Hall, Saxmundham, Suffolk, England