Anna Netrebko:Amata dalle tenebre
アンナ・ネトレプコ(1971-)の新譜を聴く。ディストリビューターのコピーによると、タイトルは「闇に抱かれ」。『愛、絶望、死、希望をテーマにした感動的なオペラ・アリア集』とのこと。ジャケ写は口から首のまわりや指先が黒く塗られていて、少し不気味だ。ブックレットにも似たような化粧をした写真があるが、それらはもっとキモイ。アルバムタイトルのイメージを化粧で表現しているのだろうか。昔はネトレプコのことを結構気に入っていて、アルバムが出るのを待ちわびていた時があった。最近は新譜が出た後すぐ聞くことも少なくなってしまった。五十歳を過ぎているので、声は年相応に太く、ダークなものになっているし、表現はネットリ系。レパートリーもそういう役柄の曲が選ばれているのかと思いきや、蝶々夫人やマノン・レスコーが取り上げられていて、役柄にそぐわない気がした。『感動的』かどうかは分からないが、相変わらず強靭な声で、声量も凄い。デビューしたての頃の可憐な声が懐かしく思い出される。曲はいろいろな作曲家のアリアが取り上げられているが、ちょっとまとまりがないような気がする。ドイツ物と重厚なヴェルディに絞るとかしたほうがよかったように思う。時折ロシア風の発声が気になることがあるが、もうそこから脱することは不可能だろう。全て重厚でネットリ系の歌なので、口直しに軽い歌も入っていればと思った。初のバロックものであるパーセルの「ディドとエアネス」からのナンバーがその役割なのかもしれないが、ロマン派的な解釈で、バロック特有の軽さや繊細さが感じられない。チャイコフスキーの「スペードの女王」から「ああ、もうすぐ真夜中」は、さすがにはまっていて、なかなか感動的だ。ヴェルディの「ドンカルロ」のエリザベッタのアリア「あなた様は空しさをご存じです」も暗めの声が、役柄にあっている。マノン・レスコー第4幕の「捨てられて」も迫真的な歌唱で迫ってくるが、いまいち殺伐とした雰囲気が感じられないのが不満だ。「ある晴れた日に」のエンディングのGesの伸ばしが異常に長いので、スコアを確認したところ、フェルマータは付いていない。今まで聞いてきた録音で異常に感じたことはなかったので、長く伸ばした理由を知りたいところだ。トリスタンの「愛の死」は前奏曲から連続で続いているが、特に違和感なし。肝心の歌だが、声の威力に任せて歌いすぎていて、肝心の悲しみが全く伝わってこない。ハイレゾでは、通常のCDでは未収録のトリスタンの前奏曲も含まれている。弱音が少し大きいが、遅めのテンポで始まり、後半少しテンポを上げて情熱的に盛り上げていく。クライマックスでトランペットやトロンボーンが聞こえないで、何故かチューバの音が聞こえるという不思議なバランス。バックのスカラ座管はあまり突っ込んだ表情は見られない。シャイーならもうやれそうなものだが、少し物足りない。それにサウンドは引き締まっているものの、特にドイツ物での厚みが不足している気がする。なお、ハイレゾではアリアが始まる前の部分を別のトラックとして分かれている曲が何曲かあり、曲数は全部で18曲になっている。どういう意図(歌の部分だけ聞きたい人向け?)か分からないが、再生ソフトにより、トラック間で瞬間的に切れる場合があるので、親切ではない。Anna Netrebko:Amata dalle tenebre(DGG )24bit 96kHz Flac1.Cilea: Adriana Lecouvreur - Poveri fiori2.Purcell: Dido and Aeneas, Z. 626 - Thy hand, Belinda3.Purcell: Dido and Aeneas, Z. 626 - When I am laid in earth "Dido's Lament"4.Tchaikovsky: Pique Dame, Op. 68, TH. 10 - Uzh polnoch blitzitsya5.Tchaikovsky: Pique Dame, Op. 68, TH. 10 - Akh, istomilas ya gorem6.R. Strauss: Ariadne auf Naxos, Op. 60, TrV 228 - Es gibt ein Reich7.Verdi: Aida - Ritorna vincitor!8.Verdi: Aida - Numi, pietà9.Wagner: Tannhäuser, WWV 70 - Dich, teure Halle – Introduction10.Wagner: Tannhäuser, WWV 70 - Dich, teure Halle11.Puccini: Madama Butterfly, SC 74 - Un bel dì vedremo12.Wagner: Lohengrin, WWV 75 - Einsam in trüben Tagen13.Verdi: Don Carlo - Tu che le vanità – Introduction14.Verdi: Don Carlo - Tu che le vanità15.Puccini: Manon Lescaut, SC 64 - Sola, perduta, abbandonata – Introduction16.Puccini: Manon Lescaut, SC 64 - Sola, perduta, abbandonata17.Wagner: Tristan und Isolde, WWV 90 - Prelude to Act I18.Wagner: Tristan und Isolde, WWV 90 - Mild und leise wie er lächelt "Isoldes Liebestod"Anna NetrebkoOrchestra del Teatro alla Scala di MilanoRiccardo ChaillyRecording: Milan, Teatro alla Scala, 10/2020 & 4/2021