Thomas Dausgaard :The Brandenburg Project
ダウスゴーが2017年に行ったブランデンブルク・プロジェクトを聴く。CDは3枚組で輸入盤でも7千円以上する。ハイレゾだと管理人が知っている限りprostudio mastersが最安値でC$20.79、税金を入れても23ドルほどで日本円でも\2000そこそこで購入できるはず。管理人は、ここがリリースされる前にeclassicalで購入してしまったので、もう少し高かったはず。きっかけは、作曲者にユリ・ケインの名前があることと、指揮がダウスゴーであるため。これはバッハのブランデンブルク協奏曲に、各曲のテーマを使った曲を6人の作曲家に依頼して、バッハ共に演奏するというもの。2001年に依頼し、17年後の2018年に成果を披露するコンサートが開かれた。作曲家はマーク=アンソニー・タネジ、スティーブン・マッキー、アンダース・ヒルボルグ、オルガ・ニューウィルト、ウリ・ケイン、ブレット・ディーンの6人。彼らに課せられた課題の一つは、バッハの協奏曲がそれぞれ異なる楽器の組み合わせのために作曲されているという点を反映させることだった。プログラムは最初にバッハのオリジナル、その次にその曲にインスパイアされた現代の作曲家の依嘱作品が来るという構成。最後の第6番のみ順序が逆転している。バッハの原曲は速めのテンポできびきびと進むが、フレージングに特異なところがあるにしても、概ね刺激的なところはなく、ダウスゴーらしくないと言ったら怒られるだろうか。依嘱作品は現代音楽にしては面白い作品が多い。原曲のフレーズの断片が出てくるところは、ユーモアが感じられ、とても楽しい。例外は最初のタネジの作品。原曲のモチーフは使われていないか少なくとも管理人には感じられず、他の作品とは違って大真面目なところが、かえって異質だった。楽器編成はオーボエ3のところを1本がイングリッシュホルンで、ファゴットはコントラファゴットに替わっている。最大の変化はチェロがソロをとっていることで、悲劇的な要素が強く出ていて、原曲とどのようなつながりがあるかよく分からない曲。第2番は軽快なテンポで進み、とても楽しい仕上がり。トランペットにホーカン・ハーデンベルガー(1961-)を起用し、相変わらずの輝かしいサウンドを響かせている。スティーブン・マッキーの「ピッコロ・トランペット、フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェンバロと弦楽オーケストラのためのトリケロス」がアタッカで続く。ここでも原曲の楽器構成が踏襲され、トランペットはピッコロトランペットが採用されている第2番ほどではないが、愉説感があり、モダンでスマートな音楽だ。エンディングで第2番の最後のフレーズが使われていて、第2番との関連性を示している。第3番の2楽章はアンダース・ヒルボルグのアルバムに収録されている「Bach Materria」に基づくソロヴァイオリンと弦楽合奏のための曲。3楽章の最後の音は短く切られ、続けて調弦の音から始まる「Bach Materria」が演奏される。これは5曲の短い曲からなる。変容された第3番の旋律の断片が使われている。悲劇的で、張り詰めた雰囲気が漂うが、それだけではない。その中でも「Cadenza」ではペッカ・クーシストのソロ・ヴァイオリンがソロを取りながらハミングや叫び声をだすというインプロヴィゼーションが飛び出して、かなり面白い。2回目の「Cadenza」では鳥の声をまねた音が出たり、コントラバスのセバスチャン・デュベのジャズ・ベース的なソロに口笛がからむという面白い趣向もある。速いテンポで弦の細かいリズムの執拗な繰り返しの中で、弦のグリッサンドやバルトークピチカートがバシバシと決まるなかなか攻撃的な音楽「bar191」で最後を締めくくる。今回の委嘱作品の中では断トツに面白く、シアターピースとしても水準が高い。第4番もテンポはやめでスカッとする爽やかさが身上。オーストリアの作曲家オルガ・ノイヴィルトの「アエロ(バレエ・メッカノモルフェ)」はリコーダーではなくフルートとヴァイオリンがソロを受け持つ。3つの部分からなるが、続けて演奏される。この風変わりな曲(Ⅰ)ではハープシコードの代わりにシンセサイザー、ミルク泡立て器、タイプライターなどが使われている。その他2本のミュート・トランペットも加わり、奇怪だがユーモアを感じさせる音楽になっている。(Ⅱ)は打って変わってシンセが使われた静かな曲。クレア・チェイスのフルートのソロは尺八を思わせる日本的なもので、そこにタイプライターのおふざけが割り込んでくる。第5番は速めのテンポでさっさと進行する。その中でエスファハニの超絶技巧には目を見張らされる。第2楽章も速めのテンポだが、フルート、ヴァイオリン、ハープシコードの絡みがなかなか味わい深い。ユリ・ケインの「ハムサ」はケインらしいユーモアと辛辣さに前衛の混じった曲。ユリ・ケインのピアノが暴れまくる。第2楽章の「Adasio」でのフルートとヴァイオリンの醸し出すサウンドはなかなか刺激的だ。オーストラリアの作曲家ブレット・ディーンの「Approach – Prelude to a Canon」はモダンな作品だが生真面目で、肌触りはあまりよくない。ヴィオラはタベア・ツィンマーマンと作曲者が担当している。第6番は普通のテンポで目新しさこそないが、二丁のヴィオラのアンサンブルが緊密で温もりのあるサウンドと爽やかさが好印象。レコード芸術7月号の「コンセプトアルバムの世界」という特集でも取り上げられたように、知的好奇心を満足させるアルバムで、「名曲本来の鮮烈さを取り戻す」という彼らの狙いは成功したようだ。コンセプト・アルバムとしてはお金も時間もかかった、今どき贅沢なプロジェクトだろう。費用を回収するためにも、コロナ禍が終息した後に、このコンサートの世界ツアーを行ってほしいものだ。Thomas Dausgaard :The Brandenburg Project(BIS)24bit 96kHz Flac1.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 1 in F major, BWV 10465.Mark-Anthony Turnage:Maya, for solo cello, two oboes, cor anglais, contrabassoon,two horns and strings6.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 2 in F major, BWV 10479.Steven Mackey:Triceros, for piccolo trumpet, flute, oboe, solo violin, strings and harpsichord10.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 3 in G major, BWV 104812.Anders Hillborg:Bach Materia, for violin and strings16.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 4 in G major, BWV 104919.Olga Neuwirth:Aello – Ballet mécanomorphe12.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 5 in D major, BWV 105015.Uri Caine:Hamsa, for flute, violin, piano and string orchestra18.Brett Dean:Approach – Prelude to a Canon21.Johann Sebastian Bach:Brandenburg Concerto No. 6 in B flat major, BWV 1051Swedish Chamber OrchestraThomas Dausgaard May 2017 at the Örebro Concert Hall, Sweden (Hillborg)August 2017 (Caine, Mackey), March 2018 (Dean, Neuwirth, Bach No. 6); July 2018 (Turnage,Bach No. 5 & No. 1 [part]); September 2018 (Bach No. 1 [part] & Nos 2—4) at the Concert Hall of the School of Music, Theatre and Art, Örebro, Sweden