ラブレター
ヒデキは3歳、幼稚園の年少組です。ある日、ママはヒデキの幼稚園のバッグの中に封筒が入っているのを見つけました。ピンク色のその封筒には、女の子の可愛らしい絵がついていて、どうやら女の子からもらったもののようでした。「ヒデキー、これどうしたの?」「えっ?ユウカちゃんがあげたんだよ(くれたんだよ)」ヒデキは相変わらず、トンチンカンな日本語で答えます。「ユウカちゃん、ってヒデキとおんなじ“いちご組”さんの?」「しょーだよ!(そうだよ!)」「ふ~~ん、ユウカちゃんがヒデキにこれをくれたの?」「うん!」(これって・・・ひょっとして、ラブレター!?)息子が生まれて初めてもらったラブレター?ママは嬉しくって、ドキドキしてきました。(ユウカちゃんって、どんな女の子なのかなぁ?嬉しいなぁ~~♪)いつの間にか、ママの顔はニッコニコになっていました。(でも・・・ユウカちゃんはお手紙を書くのが大好きで、みんなに書いてあげたのかもしれない)そこでママはヒデキに聞いてみました。「ヒデキ、ユウカちゃん、みんなにお手紙あげてたの?」「ううん」「じゃ、お手紙もらったのはヒデキだけ?」「うん♪」(わぁーーー、じゃ、本当にラブレターかもね。・・・何て書いてあるのかなぁ???)「読みたい!!!」でも、これはヒデキがもらったものだし・・・。だけどやっぱり気になるなぁ~。「ヒデキ、このお手紙ママが読んでみてもいい?」「いいよ」ヒデキは、そもそも「手紙」って一体何なのかということすらまだよくわかっていないようでした。「じゃあ、ママに見せてねっ!」ママはそっと封筒をあけて、中に入っていた一枚の便箋をひろげてみました。 “○△□*♪☆&$&%!#・・・”(こ、こ、これはなんだぁ???)便箋の上の方に、絵のような記号のようなものがいくつも並んでいました。(あはっ、そうか!ユウカちゃん、まだ文字が書けないんだね?)・・・・それもそうです。ヒデキは3歳。文字なんてまったく書けません。クラスのお友だちもみんな3歳か4歳、文字が書けなくても当然でした。それでもママはヒデキがそれをどう読むのか、どうしても聞いてみたくなりました。「ヒデキ、これ何て書いてあるのかな?」ところが驚いたことに、ヒデキは自信満々答えたのです。「あしょんでくえて(遊んでくれて)、ありがと♪」子供ってすごいなぁ~☆ヒデキはユウカちゃんのお手紙がちゃんと読めたのです。文字は書けなくても、読めなくても、手紙はちゃんと読めるのです。恐らくヒデキは幼稚園でユウカちゃんと一緒に遊んで、2人ともそれがとっても楽しかったのでしょう。ユウカちゃんの手紙は、ユウカちゃんの気持ちをヒデキに届けてくれたのです。文字を知らない子供たちが手紙を交換するということは、そうやって自分たちの“気持ち”を交換しているのかもしれません。子供たちって、素敵だなぁ♪その夜、私はお姉ちゃんのサキにユウカちゃんからの手紙の話をしました。「ヒデキがおんなじクラスの女の子から、お手紙をもらってきたんだよ」小学校1年生でひらがな、カタカナ、漢字も習い始めているサキは、習った文字を使って手紙を書くことが大好きで、毎日学校のお友だちに手紙を書いていました。「これなの。ほら!」サキは手紙を見ると、一瞬“ん?”と不思議そうな顔をして、次にはクスッ、と笑って、「これ、何て書いてあるのかなぁ?」とママに尋ねました。(へぇ~、文字はなくても、やっぱり何かを伝えている、ってサキにはわかるのね♪)「ヒデキが言うにはね、“遊んでくれて、ありがとう”なんだって!」「ふふっ、可愛いね♪」何だかママと同じようにサキも嬉しそう。いつもはヒデキとケンカばかりしているのにね。「それでね、ヒデキがユウカちゃんにお返事を書くといいな、と思って、可愛いレターセットを買ってきたんだけど、ヒデキにはまだ“手紙を書いて渡す”っていうことがよくわからないみたいなのよ」と、ママは続けてサキに話しました。「可愛いレターセット?ママ、それどこにあるの?じゃ、それをサキが使ってもいい?」(ふふっ、チャッカリしてるわね♪学校のお友だちに書くのかな?)「うん、いいよ」次の日の朝です。ふと見るとリビングのテーブルの上に封筒がひとつ置いてありました。サキが昨夜お友だちに書いたもののようです。(まったく、ちゃんとランドセルに入れておかないと。せっかく書いたって、いつもこうやって忘れて行っちゃうんだから・・・)ママがその封筒を手に取ると“ゆうかちゃん“と”ひでくんのおねえちゃん“という文字が目に飛び込んできました。(えっ!まさか・・・?)それは、昨日ヒデキに手紙をくれたユウカちゃんに、サキが書いた手紙のようでした。(ちょ、ちょっとこれはどういうこと?どうしてサキが!?)ママはビックリしながら、そっと封筒の中に入っている手紙を出して広げてみました。「いつもおせわになっています。 これからもひできくんをおねがいします。」そして少しはなれたところに、ウィンクしているウサギの絵が描いてありました。サキの心の中に育っている、弟ヒデキに対するあったかい気持ちを感じて、それからしっかりとした「お姉ちゃんらしさ」を感じて、いつしかママはほのぼのとした幸せに心が満たされていったのでした。その日、ヒデキはその手紙を持って幼稚園に行きました。お姉ちゃんからの手紙、ユウカちゃんにちゃんと渡せたかな? ひなたまさみ・作