色は、さみどり
昨日の日記にも書いたことだけれど一日の大半を病院内で過ごすと、心身ともに消耗する。昨日など、検査と診察との間が4時間ほど空いていたのでその間、病院を抜け出し神戸の街を散策・・・と考えていたけれど、無理だった。美術画廊やお気に入りの骨董のお店に足を運ぶよりも病院内でゆっくりと過ごすことを選んだ。やはり 体力が落ちているのだろう。院内で目を通した本は4冊。「白洲正子自伝」「古今和歌集」 「侍従長のひとりごと」「死ぬまでになすべきこと」「死ぬまでになすべきこと」など さすがにがんセンター内で読むものではなく人目のない場所にて目を通した。「古今和歌集」は佳い。今、手にしている本は高校生の時から持っているもの。高校生の時・・・・自分の好きな歌に黄色のラインをひき大学に入ってからはオレンジのラインを引き今、40代半ばでは何も線を引かずただ 美しいと思える歌を眺めている。あの頃も そして今も変わらず美しいと思われる歌 宿りして春の山辺に寝たる夜は 夢のうちにも花ぞ散りける ・・院内は空調も管理されておりさほど寒さを感じないのだけれどそれでも、足もとはうっすらと冷える。そんなとき助けてくれるのが昨年の初夏に手にしたショール。・・・結婚して20年、仕事で得たお給料は全て暮らしのために。自身で得たお給料とはいえ一家の主婦が自分の好みのものを購入するというのも気が引けてそれまで自分のものは何も購入せずに来たのだけれど昨年の初夏・・・・さすがに 手術で弱った身体を守りたかった。夏のつよい冷房から我が身を守りたく手頃なものを探していたときに出逢った、結城のショール。自分には不相応だと思ったのだけれどその布のもつ優しさに惹かれてしまった。この春の終わりから秋口まで夏の強い日差しから 必要以上の冷房から我が身を守ってくれるだろう。本当は白茶のものを購入したかったのだけれど気がつけば若草色のものを。自分の好みの色でもなくましてや似合う色でもない。手持ちの服にも似合うものでもない。どうしてこの色目を選んだのかな・・・と不思議に思っていたのだけれど昨日、病院内の樹々を見て ようやっと答えが分かった。病院の広い玄関口を出た場所、タクシーの待合いの場所に立つ 名も知らぬ樹々。その新芽の色の 何と柔らかなこと。その優しさに心がほぐれていった。春の到来を教えてくれるその樹々の芽と手にしていたショールの色とが同じだった。この時期 山々は一様にパステルカラーに染まるけれどその色はひとつ、ひとつ異なっている。その中で 最もこころ惹かれる色が今、手にしているショールの中に閉じこめられていた。色は、さみどり。いのちのいろ。それは ともに生きようと呼びかけてくれる色なのだと思う。