感謝を込めて 3
時は晩秋。腹痛の起こったのが春3月であったことを思えばなんと長い時間が過ぎてしまったことだろう。地元の病院でどれほど無駄な時間を費やしたことか。そのことを深く後悔しつつ神戸の病院へと向かう。診てくださったのは副院長先生だった。診るなり 先生は「 これはひどい、炎症がかなり広がっている。 」と仰り私の顔をご覧になりながら「 今まで痛かったでしょう。すぐに手術をしてあげますからね。 」と言ってくださった。・・・思えば 十数年も前、口腔外科を一度受診しただけの患者が 紹介状もなく、何の予約も無しにいきなり病院にやってきて「 手術をしてください 」とお願いしているのである。常識で考えれば あり得ないことだった。・・確かに紹介状のことも気になって仕方なかった。しかし 紹介状を書いてもらうにしても一度は「 診察打ち切り 」と言った外科医のもとに、そしてあくまで「 ただの虫垂炎だ 」と言い続け「虫垂が破裂したからといって、何がどうなると言うの?」と言い放ったその外科医に紹介状の依頼をしなければならないのである。そしてその外科医とて、毎日外来の診察をしてるわけではないのだ。一通の紹介状をもらうのに 一体どれだけの労力と時間を必要とするのだろう・・・と暗澹たる気持ちになった。そして その間にも、一番最初に診断してくださった内科医の「 虫垂が破裂したら取り返しのつかないことになるんです 」との言葉が常に心にあった。痛みは日増しに強くなり、夜、一睡もできない日さえ出てくるように。こうしている間にも、いつ虫垂が破裂するか分からない。そんな縋るような思いで、神戸に向かったのだった。診察室で 激痛に苦しむ私に「 痛かったでしょう 」と寄り添ってくださりすぐに手術の手筈を整えてくださった先生のことを、私は、生涯忘れない。・・・どんなに有り難かったことか。診察を終え 病院を出た私の前に広がっていた南京櫨の並木。その美しさに息をのんだ。紅、黄色、橙、緑、黄緑の葉が風に揺れまるでおとぎの国のようだ、と思った。足元を見れば、駅まで続くムービング・ウォーク。断続的に続く痛みのため、普通に歩くことさえできなくなっていた私にとってそのまま駅まで運んでくださる設備は本当に有り難かった。見上げれば「 大丈夫だよ 」と言ってくれているような秋の樹々。そして 私の切実な願いを受け止めてくださった副院長先生。こんなにも温かな病院があっただろうかと、目頭が熱くなった。