「簡易却下」
この記事は後日書く記事への布石である。ふーん、と思ってもらえれば十分だし、後日その記事を書いたときに思い出してもらえれば十二分である。 なお、法令データ提供システムがメンテナンス中なので、今日は条文リンクを張りません。 あまりなじみのない制度であるが、簡易却下という制度をご存知だろうか。 まず、刑事訴訟法では、忌避という制度がある。(刑事訴訟法20条以下) 早い話が、不公正な裁判をするおそれがある裁判官を、裁判から追い払う制度である。「除斥」という制度もあるが、一定の型にはまる場合にこれは問答無用で裁判から出て行け!というものであり、忌避は除斥の理由がある場合や、その他不公正の疑われる場合に、当事者が申し立てた上で、その上で出て行けというものである。 実際には、忌避の事由があると裁判官自らが考えるなら、裁判官自身で回避という手続をとって最初から裁判から外してもらうのが基本である。(刑事訴訟規則13条) 公平な裁判所というのは憲法上の保障でもあり、極めて重要な権利ということができる。憲法37条を参照していただきたい。 さて、簡易却下とは、忌避を申し立てられた裁判官が、自ら忌避を却下することができる制度である。 「訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立」の場合のみできる。 だが、普通に考えたら、それって変だろ・・・と思われないだろうか。 「お前は不公正だ」といわれているにもかかわらず、「俺は不公正ではない、それどころかお前は遅延目的だ」と言って裁判を続けるのが簡易却下ということである。 本当に不公正な人間に簡易却下を使われた日には、忌避制度は無意味にもなりかねない・・・とは思われないだろうか。 その批判自体は、確かにその通りである。民事訴訟法にはこの手の規定がないので論争になっているが、民事訴訟法でもこの規定を引っ張ってきて差し支えないという判例に対し、一部の学説はそういう趣旨から批判をしているようだ。 それなのになぜ簡易却下という制度があるか、といえば、忌避制度を「濫用」する困った人たちがいるためである。また、日本では忌避が認められる事例はほとんどないが、その原因にそういう困った人たちの存在を指摘する見解もあったと記憶している。 つまり、何か訴訟指揮や決定が気に入らないといってはこの裁判官は不公正だ、忌避だ忌避だと言い立てる人たちが後を絶たないらしい。そのために、いちいち別の裁判官を引っ張ってきて・・・というのでは、訴訟が遅延して仕方がない。だから、一定の場合には本人だけで決定させて、どうしてもというなら準抗告をかけさせてそっちで判断させようということになったようである。 さて、裁判を受けるのは国民の権利であるが、およそ通用しないような請求を続けざまに出してくるようだと、裁判という場所は機能不全に陥ってしまう恐れがある。他にも、応訴せざるを得ない相手方がいる場合にはには多大な負担をかけることになる。 明らかに通用しない訴えに対する対策としては、こうした簡易却下のように、「簡易な方法で退ける」といった手法のほかにも、いくつかの対策が考えられる。一、通らない訴えを提起すること自体に一定の制裁を課す。(例えば、民事訴訟で文書の成立の真正をむやみに争うと過料の制裁がある)二、「本丸」で不利益な心証を取る。(あんまり著しくなりふりかまわない人間は不誠実と見られるおそれあり)三、担保を取る。(会社関連訴訟や保全関連訴訟では、当事者に担保を立てさせて訴訟を起こしにくくすることがある)四、発生する損害を賠償させる。(最高裁判例は民事訴訟が不法行為となる判例を認めている) なんて方法が今のところあったりする。 しかし、各制度も一長一短である。損害賠償は要件が厳格になってくるし損害賠償を取るための裁判自体が面倒だと言う例もある。簡易に退ける制度もおよそ機能不全にするわけにはいかないのでそれでも主張してくる例はある。 担保を立てさせるというのも、ケースにもよるがなかなか厳しいように思われる。 さて、ある弁護士の先生がある分野についてこうした「通用しない訴え」について手当てをしたほうがよいのではないか、と言う指摘をしていたのだが、そちらは「本丸」の後日の話なので、そちらにまわすこととさせていただこう。 さて勉強しなくっちゃ。