碁法の谷の庵にて

[その他雑考] カテゴリの記事

全146件 (146件中 101-146件目)

< 1 2 3

• 水中巨大生物の世界

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昨日世界まる見えテレビ特捜部なんぞと言う番組を見た。　私の興味を引いたのは最強生物異種格闘技戦。（だったっけ？）強力な生物同士、その力を実験しつつシュミレーションで戦わせてみようというものだ。　ゾウとサイの対決は見たことがあったが。ネットで検索したら他の対決のやつもあった。　新聞のテレビ欄でイカとクジラが対決するというのは知っていた。　凶暴なクジラと言ってもシャチではないだろうからそうするとマッコウクジラ、イカは大王イカか？しかし大王イカはでかくて15,6メートルのはず、普段から2メートルくらいの大王イカを常食している１５ｍ以上のマッコウクジラだしそんなもん勝負にならないんじゃねえかと思っていたら私が全く知らない２０ｍオーバーの大王イカ以上の巨大イカ、コロッサルイカと言うのがでて来てそれとの勝負。　しかし大王イカがコロッサルイカになったところで所詮はイカと言う読みは的中。巨大クジラの守備力＆生命力に対して決め技になりうるものがない。　不意打ち狙いで迫ったにもかかわらずマッコウクジラの探信音（潜水艦は敵の潜水艦を音を放って探ったりする、その分相手にもばれるが）に引っかかってのっけから一撃を食ってしまう。コロッサルイカもマッコウクジラの頭部に鉤のついた触手で締めついて見せ場を作るも、相対的に見ればマッコウクジラが強力な音波で戦いを優勢に進め、最後は決め技の特大のあごでとどめということでマッコウクジラの圧勝であった。　マッコウクジラは音波が武器だというのはそのとき初めて知ったが、クジラの出す音は発進前の飛行機のエンジン音にも匹敵するというし、水中ではそれこそ音響弾と言うのが現実に兵器として存在するくらい音が強力な世界。　イカの鉤も小さくはなかったが、クジラの脂肪の厚さが相手ではクジラが痛えと思う程度だろう。例えば人間がネコに引っかかれたってさぞかし痛いだろうが致命傷になることはまずない。　意外かもしれないが、私は小さい頃から動物図鑑、特に巨大生物図鑑なんてのを愛読していたし、動物番組もよく見ていて、かなりの動物好き。恐竜好きだったこともあった。並の人よりはかなり動物に詳しい自信がある。コロッサルイカを昨日知った身で偉そうなことはいえないが。　水中動物の世界には、冗談抜きで４０メートルと言う長さの動物がいるという。さんご礁も実は生物なのでそれを含めるとすごいことになってしまうが、ちょっとここでは置いておかせてもらう。　ウルトラマンで身長４０ｍ、初代ゴジラで身長５０ｍだから、まさしく怪獣サイズ。　その正体はキタユウレイクラゲと呼ばれるクラゲ。北海道沖でも見られるそうだが、北に行けば行くほどでかくなるらしい。それもけっこう強力な毒針つきだ。８０mオーバーと言う未公認記録が昔読んだ図鑑に載っていたが、本当ならおそろしや。最近漁場を荒らして漁師さんたちを悩ます、日本海を泳ぐばかでかいエチゼンクラゲの映像を見たことがある人もいるかと思うが、かさのでかさはともかく触手の長さはあの数倍である。　では、海の生き物で史上最強はなんだろうか。コロッサルイカについて調べていて掲示板を見つけてみてみた。　それ以前では、１万年ほど前に絶滅したとされるサメ、メガロドンだという見解を聞いたことがある。映画の「ジョーズ」に登場するようサメだ.現代の最大級の人食いザメとして名高いホオジロザメよりはるかにでかいのだからそれもうなづける。　他方、現代のkiller whale、シャチ（サカマタ）だという話もあった。大きさではメガロドンには到底及ばないものの哺乳類で運動能力や頭のできは違うし、ホッキョクグマだろうが他のクジラだろうが普通に襲いまくっている。　だが、２ちゃんねるのとあるスレッドで別格扱いされたのは２５メートルにも達する首長竜の一種、リオプレウロドンという聞きなれない動物であった。（首長竜と言っても首は短く、代わりに　頭が長い）恐竜にも興味があったので、同じく首長竜クロノサウルスとか、海とかげティロサウルス、果ては原初の巨大クジラであるゼウグロドン（バシロサウルス）は知っているが、リオプレウロドンとは初めて聞いた。　紛れもない史上最強の海中捕食者と名高いらしい。　海の生物の進化は多種多様だが、空想上ではもっと大きな生き物もいる。　クラーケンと呼ばれる巨大なタコ（？）はなんと全長２．５キロ。島と間違えて上陸してミサを開いたらおとなしくしていたなんて話が本当にあるが、恐れられた怪物。モデルは大王イカではないかという話を聞く。　巨大海へビ、シーサーペントも超巨大だが、これは蜃気楼の産物ではないかという説を聞いたことがある。　日本では「あやかし」「いくち」というのが恐ろしい。ウナギみたいな生き物なのに船の上をわざわざ越えていき、その長さが何千メートル、下手をすると超えるのに数日がかり、しかもこえていくときに船の中に油を落としてほうっておくと船の中が油でいっぱいになって沈むという恐ろしい化け物だ。　　昨日久々に海の巨大生物の出てくる番組を見て、久々にこんな世界に思いをはせてみた。

  2006年10月10日

  コメント(1)

• 謎のトラックバック

  　私は、自分自身のことを捏造されるのが大嫌いである。　別に私自身のことを評価するのはよい。性格はこうなんじゃないか、棋力はこんなもんじゃないか、頭の出来はどんなもんかなどなどをいろいろと評価されるのは、社会で生きていく上ではある程度宿命。ましてやこんなところを運営しているのでは有名税としてなおのことである。　私の人物評を見て、私自身の自己評価や私の身近な人がする評価と違うな…なんてことは珍しくもなんともないが、まそう言う事もあるよ、と受け止めている。　また、「こんな人なんじゃないかな」と想像して書くのもけっこう。　　それと、公開している記事であるから記事の内容を紹介したり、批判したり、その他論評するのもまたけっこうである。　もちろん書くに当たって常識レベルの品性はほしいところであるけども、私や私の書いた記事のことを書くのはこれからもどうぞご自由に。　だが、「評価」の問題を超えて「事実」を捏造する（注：文脈から明らかに冗談だと分かるようなやつは問題ないよ）となると、私ははっきり言って怒りが収まらない。ウソの自分が広まっていく、それも事実からして異なる自分が広まるのは、私は恐ろしい事態だと思う。評価しようにもウソ評価しか出来ないし。　刑法という見地から捉えても、評価と事実はケタが違う。「評価」で他人の名誉を貶める「侮辱」と「事実」で他人の名誉を貶める「名誉毀損」は、法定刑がそれこそゾウとネズミほどにも違う。「侮辱」は最高で30日拘留されるだけだが、「名誉毀損」は最高で３年もの間懲役しなければならない。刑期の差36倍。懲役刑となると自動的に失職したりする資格職も珍しくない。　以下は実例だが、見たくない人がいると思われるので見たい人だけ反転して。　実際、「風の精ルーラは元学生ベスト10クラス」というウソ情報を書いた人に抗議したこともあったし、某有名サイトのリンク集で、当時まるで見ていなかった所を「愛読者」と書かれてリンクから削除させたこともあった。些細なことと思われるかもしれないが、明らかなウソ情報の流通は個人的にはとても嫌なことなのだ。例えここの名前が広まるとしてもである。　　　さて、前々から気になっていたのが島谷さんのところにあったここからのトラックバック。私はトラックバックを500日ちょいのここの歴史の中で15回くらいしかやっていない。トラックバックはするのに割りと度胸もいる。だからどんな記事をどこにトラックバックしたかはかなり憶えている。　記憶の中では、あそこへのトラックバックをしたことはない。記事として関連性のあるものだったのは間違いないが、私はやっていない。　これでは私がトラックバックをしたようではないか。　　島谷さんの方で勝手に何かしたのかと思ったら彼の方も身に覚えはないらしい。seesaaがどうかは知らないけど楽天じゃそういうのが可能になる機能はないし。　何をどうやったのか定かではないが、第三者が勝手にトラックバックとして表示されることをやったのであろうか。　記事を紹介したいのならそれもけっこうだし、批判したければ批判してもよいが、トラックバックを私がしたように受け止められる行為はやめていただきたい。　

  2006年10月06日

  コメント(0)

• 場当たりで物事は考えられない

  　最近、福岡で子ども3人が死亡した事故をめぐって、公務員による飲酒運転がマスメディアにより頻繁に取り上げられるようになり、あちこちの自治体が酒酔い運転即懲戒免職というような内規にしていると言う。　酒酔い運転に厳しい態度で臨むことを否定するつもりは全くないが、こういう事件が起こってから、慌てて作ったような規定にどんな意味があるのか。さらには、そういう規定に副作用はないのか。そういうことをいろいろ考えてみると、意外と問題点が多い。　酒酔い運転は懲戒免職、同乗者も処分といったところで、もっとケースバイケースで判断していけばいいではないか、と言う気がする。　酒酔い運転と言ったって、本人も酔っていることに気づかないようなケースだってあるし、日本という国では駆けつけ三杯酒は呑め呑め。飲めない人間は周囲に合わせられない人間という考え方が根強い。飲酒運転に甘い風潮はもちろん、飲酒運転をしない人にとっても厳しい環境である。　これまでの処分が甘かったと反省するうちはよいが、なまじ規定を設けたりするとかえって困ったことになるであろう。しかも本当につい最近の事件でいきなりさささっと持ち上がった話で、十分な検討がされたとも思えない。下手をすればひき逃げ誘発と言う事態だって起こりうる。　市民の厳しい目線をかわすことに気を取られた措置、と言う印象を受ける。　何か問題点が起こると、火がついたように問題が論じられ、それを解決する作戦が提唱されること自体はいいことだと思う。　ところが、そうした「火」が感情的なものであるため、そうした提案が国会などで遡上に上るか、当事者が大騒ぎするかしないと、問題点についての熱がすぐに冷めてしまう。一番分かりやすいのはメーガン法、つまり一定の性犯罪者の現住所などを公開する法律だ。事件直後はあんなに騒いでいたのに、いまや見る影もないほどである。　それどころか、対応策も場当たり的で抜け道がふさげていないどころか副作用がと言うことは実に多い。　法と言うのは、抽象的に規定を定めておいて、それに当てはまる事態になったら適用すると言うことで、抽象的なやり方をするしかない。あんまり細かく法を定めておくのは、最初から無理なのだ。　法の中には、裁判官が合理的と考えるものでお願いしますと言うのもある。民事訴訟や刑事訴訟では自由心証主義と言って、法で定められたこと以外については裁判官が自由に証拠を評価して心証を作って事実認定してよい、という規定があるが、それなんかはこうした発想の現れである。（民事訴訟法247条、刑事訴訟法318条）　こうしてみれば分かるように、法は個別の事件対応用では必ずしもない。そんなわけで、個別の事件の解決で法を考えるのは、全体を見誤る恐れがある。　交通事故をめぐる話だって、いくら個別に厳罰が妥当だからと言って、本当にやたらと厳罰志向がいいのかどうか。　下の話は私が交通事故に関して持っている基本認識だが、私の認識どおりでなくとも、そこまで遡って考えている人がどれだけいるのだろうか。　こういう話をするのは多大な反発も予想されるが、車の運転は、現在の国民生活に深く深く根を通している。　そして、運転するに際しておよそ運転ミスがないなんて、実際にはおよそありえない。自分でハンドルを握って分かったが、運転には認知・判断・操作と、本当に次々とやってくる外界状況をめまぐるしく認識し、それにあわせて運転していかなければならない。さらに、事故を起こすだけでなく、運転の流れをせき止めることだって許されない。逆に渋滞を招いて事故の元にさえなる。　極論すれば、運転ミスで人をはねてケガをさせたり死んだりするかどうかは、運と言う要素も大きく絡んでくることを認めざるを得ないように思われる。法律ではミスがあったからには処罰と言うことになるし、本人の運転意識などによって大きく減らせることは事実だが、実態はそれが正しいだろう。事故に至らない、危なかったーと言う領域や、さらにその領域にも至らない、危なくすらならなかったけど確認を怠っていた、なんていうのは数え切れないだろう。　1件の重大事故の後ろにはその30倍の軽症事例と300倍のニアミスがあるという。平成17年の上半期、事故件数は44万7000ほど、死者は3124人、負傷者は55万2500人。軽症だったので現場で示談してしまい統計に上らないケース、幸い負傷にも至らなかった事故、事故らしきことにもならなかったミス、なども考えたら、それこそ何千万になるのではなかろうか。　そのようなことが不幸にして人の生命・身体に害を与えた場合にやたらと厳罰を科すことは、国内で車をせき止めるに等しい。車はせき止めないが事故は皆厳罰、というのはご都合主義だ。医療の世界でも、産婦人科などになり手がおらず、ほとんど崩壊しているのは、医療過誤の民事・刑事責任が問われるためだと言う指摘さえある。事故ったら厳罰と言うのは、本当に一つの世界をせき止める効果があるのだ。　公共交通機関が非常に整い、輸送にせよなんにせよそれを使えば全く不便でないならば、自家用車などを禁止する立法政策も考えられないではないが、それは無理だし、そんなことを考える人もいないだろう。田舎では車が生活に不可欠なケースは珍しくない。またいくつかの産業が壊滅するだろう。車は日本の大きな財源でもあるし、車の禁止は日本経済全体に深刻な影響を与えることになる。年に車で何千人も死んでいるのに、教習の方法や法律が変わったりするだけで自動車の運転自体は免許があれば制限しないのは、そういうことでもある。　車社会がこれまでどおりでいいのか、と言う検討の余地はあるが、車の運転が比較的容易に出来、かつ社会的にも免許を持っていないのは困る場合が出てくる点にメスを入れぬまま、簡単に厳罰路線を設定するのは、場当たり的でご都合主義だと思う。　さて、そんなふうに場当たり的な発想で作ったのが危険運転致死傷罪である。　危険運転を厳罰にしようと言う発想が悪かったと言うのではない。いくら上の基本理念が正しかったとしても、危険な運転を放置してよいわけがないからだ。　だが、せっかく未必の故意や傷害の故意が認定できないことの対策として作ったのに、ことさらに危険な運転をする意思を必要としたために、やっぱり自白でも取らない限り立証はとても難しいことに代わりはないし、かえって検察官が厳しい選択を迫られるようになってしまった。　そんなわけで、実務家にとっても、危険運転致死傷罪は使い勝手の悪い罪だと思われているそうだ。今までだったら殺人での立件は無理だったのに、なまじこういうのができたもんだから検察官も起訴裁量に苦慮することになる。　その上、世論に押されて十分な検討をしないまま作ったものだから、逆にひき逃げが増える事態さえ招いている。　殺人罪をはじめとする近年の厳罰化だって、マスコミで報道される重大事件向けの厳罰化だ。酌むべき事情も少なくない多くの事件に対しての配慮がなされたとはとても思えない。検察実務家が一番喜んだ近年の刑法改正は、殺人罪や傷害罪の法定刑引き上げではなく、窃盗罪に罰金刑を盛り込んだり強盗傷害罪の法定刑を引き下げるような規定の導入だと言われているのだ。　そんな場当たり的な発想が全体を支配したら、深刻な事態になる。法実務は困り果てるほかなくなるだろう。　法と言うのは、作ったら問題点が解決するだけではない。作った要件に当てはまる事例は全部その法律で解決しなければならない。その特質を忘れて、まるで行政処分か判決のように法律を考えるのは悪い癖であろう。

  2006年09月14日

  コメント(4)

• ブログの炎上の話

  　きのう「ここ」を見て考えたことを少々。　ブログは「炎上」してしまうことがある。　単なるアダルトサイト紹介などで「荒れる」のではなく、「批判的な書き込みが集中する」ことを、「炎上」と表現する。　炎上すれば、「収まって元に戻る」か、「炎上の火種であるコメントやTBを停止する」か、「ブログ自体閉鎖する」ということになるだろう。　ちなみに、法律的に検討した場合、荒らし行為についてはある程度継続的なものについて「電子計算機損壊等業務妨害罪」が成立する余地があるが、炎上の場合は多数人によるコメント殺到であるため、個々人に責任を問うことが難しく、また一人で言っているにしても言論の自由があり、集中したと言うことだけでは法的にも取締ることは難しいのが実態だろう。物理的に人の発見が大変なのはもちろんだが。　さて昨日見つけた、このページで紹介された炎上の原因についてだが、一、「いじめや反社会的な行為などを自慢するような書き込み」二、「意見が割れている微妙な問題に関して、知識があまりないにも関わらず、よく知っている風に書いてしまう」三、「根拠もないことで非難・侮辱したり、断言する」四、「身分を偽ってブログを書く（素人のふりをした企業のやらせブログ）」という。少なくとも二が原因で炎上したブログなら、囲碁関係ブログに一つ存在するのを知っている。（現在は収まっているようだが）　だが、どうにも炎上の原因がこれらについて当てはまる気配がないブログがある。それは「ここ」だ。　安田弁護士の欠席問題で、それこそ私のように安田弁護士の立場を理解し、マスコミによる安田弁護士の糾弾を非難する立場で書いたところである。ここに凄まじい批判的書込みが殺到した。彼はブログを削除こそしなかったが、コメントの受付を打ち切ることになった。　さて、彼のブログが炎上した原因はこの4つに当てはまるだろうか。　彼の該当ページを見てみると、「欠席事件」の段階では、書き込みは多いものの少なくとも炎上とはいえないだろう。また、最初のうちは批判的な書き込みとも対話が成立していたのが分かる。　むしろ炎上したのは、欠席事件の1ヶ月後、出廷して安田弁護士が殺意なしなどの主張を骨子とする記者会見を行った後であることがおおよそ理解できる。　彼は、少なくともそれ以降、コメントを参考にすると述べたのみで事件自体についてはほとんど何も語っていない。　彼はまずいじめや反社会的行為を「自慢している」とは到底考え難いであろう。それどころか、安田弁護士を応援する立場に限らず、彼は最初に被害者の冥福を祈って、その上で発言しているし、さらにはコメント欄では「本村氏は被害妄想」などという主張をたしなめてさえいるところだ。　「知識があまりないにもかかわらず･･･」とも言えまい。炎上の直接的原因と思われる欠席事件についてはさして語っていない。わずかに「イラストは法廷の中だけで」と言うことを語っているが、彼が無知だったせいだ、とはちょっと考えにくい。　根拠もないことで非難･侮辱したり断言をしているだろうか。非難や侮辱の対象はマスコミであるが、殺到するコメント欄でマスコミを叩くななどというセリフはどこにもない。むしろ、「安田弁護士を擁護する」という立場こそが叩かれている。　なりすましは、明らかに無関係だ。　ここまでくると、あのブログが炎上した原因はこれら以外であることが明らかとなる。　コメント欄のコメントを見ると、結論は「安田弁護士のような人間を擁護するような人間は許すことができない」という正義感情が、２ちゃんねるなどでも紹介されたあそこに目がつけられた形で結実したものと思える。　実際問題、法律家なら、不出廷の点を問題視する人は割と多くいても、あの苦しすぎる弁明については、仕方がないなあという受け止め方をする人たちの方がむしろ多いと思われるし、むしろ何も知らないでいろいろと語っているのは安田弁護士を批判する立場の人たちだったと思われるのだが、彼らのページには同調コメントは多かったものの炎上することは私の知る限りなかった。　4月18日の記者会見に対して彼のコメントが問題にされるならば、むしろ私のほうが何百倍と問題にされるのではなかろうか。彼は不出廷事件はともかく、記者会見についてはほとんど何も言っていない。　むしろ記者会見に関する世論の動きに対しては、はっきり言って、私の方がこの記事で「見るべき批判が今度はほぼゼロ」「見ていて情けなくなる」など、多分辛口批評の多めなこのブログの歴史上でも最大級の批判を浴びせている。　それでも幸いなことに、私のブログは炎上と言うことにはならなかった。アクセスは殺到したし、批判的な書き込みもあったものの、応対できる範囲で終わったし、あの記事については投稿者自身から頼まれたもの以外では削除などは一度も発動していない。　だが、その原因はと考えたとき、目をつけられなかったからではないか？という疑問もある。記者会見は4月18日、私があの記事を書いたのは4月21日だ。実は4月19日の記事「死刑囚に慰謝料を支払わされた弁護士」は、21日の記事の布石だが、「安田」の2文字は一度も使っていないし、アクセス数もはねあがることはなかった。そして4月23日にモトケン先生のところにTBをかけたらとたんに、アクセス数はそれまで１日150前後だったものがいきなり600に跳ね上がったのである。不自然な多数アクセスがあった日を除けば、アクセスはあの翌日が最高記録だ。　だから、単に彼らの目に留まらなかっただけではと言う疑問を拭い去ることができない。　私があまりほかのブログなどをリンクに加えてこなかったのも、そういう人たちがリンク先のページの人たちに迷惑をかけることがないかと不安だからである。　　炎上を悪い事態だ、と一概に言うことは難しいと思う。　炎上させる方に問題があるのか、炎上させられるほうに問題があるのか、両方に問題はなくてもそれでも発生するいわゆる天災のような事態なのか。冒頭で紹介したページでは開設者の問題点が主に指摘されていたが、書き込む方に問題がある場合もあるし、天災のような炎上もあるとも思っている。　ネット上では検索機能などで目立つ見解にはそれなりのアクションがあるのが通常である。いくつかまとまって批判的意見が書かれればそれがまるで助走のような形になって、それっとばかり炎上状態になりやすくなるだろう。　　ただ、炎上をしているブログの場合、気になるのは炎上している問題に事寄せて、真剣な問題に混じって開設者を侮辱する以外に目的があるとは思われない、品のない書き込みをする人たちがいること。いわば、火事場荒らしとでも言うべき現象だ。炎上が余計に深刻な事態になってしまう。　ブログ開設者として炎上を避ける決定的な処方箋は、ブログを開設しないか、解説しても何も書かないことにあるかもしれない。または、ネットでの多数派に逆らうような言説を書かないことだろう。　それじゃ開設した意味がない？まあそうなんだけど。

  2006年09月05日

  コメント(1)

• 竜の世界

  　私は、ここのブログでは私は竜のテンプレートを使用している。端的に言って竜は好きだ。　空想世界のお話。そこで必須と言ってもよい獣が竜である。　世界中には竜の登場する伝説がある。　日本には竜の話はあちこちにある。竜は主に川や沼や湖にすむ水神さまだ。　日本で一番有名な竜と言えば、あのスサノオノミコトに退治された八岐大蛇がいる。　八岐大蛇の正体については、死体から天叢雲剣（草薙の剣）が出てきたことから鉄を持った異民族であるという説もあるが、なかなか干拓できなかった湿地ではなかったか、と言う話も聞いたことがある。ギリシャ神話に登場した、アミモーネの泉に住む九頭竜ヒドラなんかはそうだといわれる。　私の地元に残っているのは江戸時代、堤の中の湖に住んでいたと伝えられる竜神の伝説。　当時徳川吉宗の時代。幕府の命により新田を開発すべく行われた干拓工事にその沼に住む竜神は美女に化けて干拓のため幕府から使わされた役人を説き伏せにかかったものの、ついに説得が受け入れられなかった。竜は天空に上って住処を賭けた大暴風雨で戦いを挑む。しかしついに人間は干拓地を守りきって、竜は去っていった･･･と言うのが私が絵本で聞いた伝説である。　この竜の伝説は他にもいくつもあるようだ。　これは小学生のときに聞いた話。記憶が変わってしまっているかもしれないし、子ども用の本だからある程度実際の伝説から変えてしまってある可能性もあるかもしれないが、大体こんな感じ。　また、長野県には「琵琶池の竜」なんて伝説もある。私が幼稚園の頃にもらってきた絵本にあった話だ。　旅をしている盲目の琵琶法師が、池のほとりで謎の声に琵琶の演奏を所望され、恐ろしく思いつつも琵琶を演奏すると、池の竜神が現れ、「これから津波をおこすからお前はされ、ただし他人に言うな」と言われたのに盲目のため負傷。助けてくれた村人に竜神の計画を教え、村人は救われたが法師はいずこかへ消え、法師の琵琶が湖に飲まれるのが見つかったと言う伝説がある。千と千尋の神隠し。もうネタバレしてもかまわないよね。（上映が終わってからネタバレしたら恨まれたことがあったが）　あれに出てくる塔矢アキラそっくりの少年ハク。劇中では竜の姿を持つことが明らかになったほかその詳しい生い立ちが語られることはなかったが、彼がまだ小さかった千尋を助けた川。すでにマンションにされてしまった、という。　さらに、千尋が「神様みたい」といってもいた、「ニギハヤミコハクヌシ」と言う名前。　そこから導き出される結論は一つしかない。もともとハクは川の水神さまの竜だったのだ。住処を追われた水神が逃げてあの世界に入ったのだ、と考えられるのだ。　日本中に竜と言う地名はあり、そういう名前がついている市町村でドラゴンサミットなる同盟（？）が結ばれているのだ。（近年の市町村改編で存続は危ういらしい･･･）　また、将棋で角が成れば「龍馬」になり、飛車が成れば「龍王」になるのをご存知の人も多いだろう。　竜が天空に上るさまだ、と人々が恐れたのが「竜巻」。　そうかと思えば、土の中をくねくねと竜のように動き回る「土竜」＝モグラ。　十二支の5番手は辰、すなわち竜である。　竜の鱗の中でも特定の鱗に触れると竜が怒り狂う。その鱗の名前は「逆鱗」（げきりん）。「逆鱗に触れる」の由来ですな。　ギリシャ神話にいくと、黄金のりんごの木を守っていたラドンと言う守護竜（ゴジラと戦った翼竜を想像してはいけない･･･）が登場する。ヘラクレスに退治されてしまったが、現在夜空に輝く竜座になっている。　さらにヘラクレスに退治された猛毒の九頭の水蛇、ヒドラはあまりにも有名だ。　北欧神話では、世界の周囲をぐるっと回って自らの尾をくわえている巨大なヘビ、ヨルムンガンドと言うのがいる。世界の終わりのときになって地上に上がってきて、雷神トールのハンマーで打ち殺されるも、トールはヨルムンガンドの毒を食らって相討ちになる言う伝説がある。他に地獄で死者を食べる竜としてニーズヘッグと言うのもいる。　中国では？　四神と呼ばれる獣は青竜、朱雀、白虎、玄武である。青竜は読んで字のごとく竜で、更にこの四神の中心には「黄竜」が位置するとされる。四霊と呼ばれるのは龍、亀、鳳凰、麒麟（キリンビールに書いてあるやつを想像してね）。そして中国で人類の祖先とされる伏義も、半人半蛇だった。　インドでもナーガと呼ばれるヘビ･竜･竜王が活躍している。　アステカにも竜の伝説がある。彼らが神として崇めたのはケツァルコアトルという羽を持った蛇型の竜である。　彼は追放されたもののいつかかえってくるという予言を残しており、その予言の年にやってきたのがよりによって侵略ヨーロッパ人だったために彼らはろくに抵抗できなかったという話があるくらいだ。また、恐竜に詳しい人は史上最大の翼竜「ケツァルコアトルス」と言う名前を聞いたことがあると思うが、その由来もこの竜にあるのだ。　神話や伝説がほとんど終わった現代でも、なお竜は健在だ。　ゴジラと戦った怪獣に、「キングギドラ」がいる。彼は都合7回現れ、ゴジラやモスラにことごとく撃退されているものの今なお怪獣界で屈指の人気を誇る。また、眷属と思われる「デスギドラ」「カイザーギドラ」という怪獣まで登場している。　あれも八岐大蛇やヒドラを源とする多頭竜の類がモデルだろう。ゴジラやラドンのように恐竜のモデルがあるわけでもなく、まさに現代によみがえったドラゴンと言ってもよいだろう。　また、ゴジラと戦ったことこそないものの東宝の怪獣映画には、マンダという竜も登場している。こちらは本格的な水竜だ。　FFと並び称されるRPG「ドラゴンクエスト」も一つの現代のドラゴンである。過去８作出ているが、1作目ではラストボス、3作目では女王が登場し、4･5作目では神、6作目は不思議な楽器に反応して現れ敵の元に連れて行ってくれる。7作目では人々に崇められる神獣であり、8作目では（ネタバレ反転）主人公に竜の血が流れていたりする。　モンスターとしての登場も数知れずだ。　ちなみに、竜と言っても意外と定義ははっきりしない。　体の形はばらばら、操る能力もばらばらだ。中国のお祭りで掲げているような、ひげが生えて僅かに足が生えているようなヘビ型のもいるし、西洋の竜はどちらかと言えばトカゲ型だ。　結論を言えば特殊な力を持つトカゲやヘビはある意味で全て竜と言ってもよいのかもしれない。そう考えると一時話題になったツチノコも竜になるわけだが、あながち間違ってないかもしれない。　何でこんな話を書いたかって？　ビデオに撮っておいた千と千尋の神隠しを見た、それだけが理由です、はい。

  2006年08月23日

  コメント(0)

• 現実とファンタジーの境目

  　昨日のGO!さんのコメントに関連して、ファンタジーと現実世界の区別の話を。　事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんであるが、現代社会において、荒唐無稽なファンタジーと、実際にありうる現実の境目は、相当に薄いのではなかろうか。　最近は、ファンタジーにもリアリティが求められることが少なくない。科学的には明らかにインチキでも、もっともらしい説明で納得させるようなものが少なくない。そうなってくると、余計にファンタジーと現実の境目は素人には分からなくなってしまう。　だが、現実と区別のつかないファンタジーは、時として取り返しのつかない事態を招く恐れがある。　小さな子供が、ウルトラマンがスペシウム光線やら八つ裂き光輪やらを撃っているのをまねしているうちはよい。人間がいかに腕を組み合わせたところで破壊光線なんか出るはずがないのだから。ドラえもんの道具だって、たぶん子どもでもファンタジーだと分かるものばかりだ。　だが、仮面ライダーのライダーキックは、ジャンプして蹴るのが基本なので真似をするのが簡単だが、ライダーキックの真似をしてケガをする子供が続出して、ライダーがまねをするなとテレビで言わなければならない事態になってしまったと聞いたことがある。小さい子供は、大人なら笑い飛ばすようなことでも現実との区別がつけにくい。刑事裁判でも一番危険な証言者といわれるのは現実と空想の区別をつけにくく、誘導にもすぐ乗せられる幼児だ。幼児はすぐ嘘をつくし偽証罪で処罰できないからというわけではない。　大の大人だって、わけの分からないカルト宗教の教祖の意味不明治療法に引っかかって、教祖の言いなりになって、気がついてみれば身包みはがれていたりする。はたから見れば、なんでそんな馬鹿なことを信じるんだとずばり言えるのだが、本人たちは本当に信じ込んでしまう。　見ている方が俺はだまされないと思っていたところで、そんなの何の関係もない。　スポ根漫画のまねなどもいい例だ。　スポ根漫画のまねをするような監督は民事責任や刑事責任を問われようが、先生なら免許の類を剥奪されようが文句は言えない。巨人の星のまねをして大リーグボール養成ギプスをつけて肩を壊した人がいるという噂もあった。（さすがに都市伝説かな？）　法律的に見てひどいのは刑事ドラマだ。以前私は刑事ドラマが嫌いだ、と言った。　刑事ドラマは、変に実務っぽいくせに、実際にそんなことをやったら違法じゃないか、というのが多く、その上ファンタジーと現実の境目は専門家でなければ分からない。私自身もどっちだっけ？ということはしょっちゅうである。　平成2年の内閣府の調査だが、複数回答で国民が刑事の活動を知るのは複数回答とはいえ５３％が刑事ドラマだとか小説だという。あれで「知った」と思われているのだからかなり怖い事態である。　名探偵なんて、シャーロックホームズじゃないんだ。現場にいたら即刻追い出されるだろう。　取調室でライトを照らしつけてカツ丼置いて・・・こんなこと実務では絶対にないという。ライトなんて下手をすると凶器にされるのでおいておかないし、そもそも取調室で食事をせず、別室でさせるという。安易に食事をおごると、「食事で自白を釣った」と見られる恐れがあるため、食事は被疑者の自腹。もちろん不当に食事をさせないと逆に問題だが。　この辺ならまだいい。真実を知ったときにへえボタンを押すくらいでいい。だが、信じ込まれて実務家を困らせるような誤解も多い。　任意同行を半ば強制するような捜査。任意同行をどうして強制できるのか教えろやってんだ。　取調べで殴るはけるわ怒鳴るわ。うかつに怒鳴り声なんかあげたとばれたら、即刻弁護人が裁判で自白長所証拠能力を争ってくるだろう。暴行をしたともなれば一大事、うるさ型の弁護士なら「容疑者室井慎次」みたいに特別公務員暴行陵虐罪で付審判を請求してくるかもしれない。いまどき警察もそんなことはしないだろう。もししているとしたら人権問題だ。さすがにいまどきそんなドラマないようだが、昔はごく普通だったらしい。　弁護士が真犯人を見つける法廷ドラマ。そんなことできる弁護士がどこにいると思っている。無罪事件自体めったにないが、真犯人が見つかる事件、ましてや弁護士の活躍で真犯人が見つかる事件など日本中探してもまずない。たまたま別件で逮捕した人間が実は真犯人で余罪自供をしたというのがたまに報道される程度だ。ときどき無罪を主張する場合、弁護士も真犯人の発見に協力しろとか言ってる人たちはこれを現実だと思っているのではないか？　犯人見つけて逮捕でめでたしめでたしのドラマ。おいおい、逮捕から起訴してっていうのだって重大問題だぞ。ごく一部をピックアップしてそこがうまく言ったから全部OKなんてめちゃくちゃだ。日本の犯罪報道が捜査中心であるのはこのようなドラマのつくりが原因ではないかとさえ思える。警察の仕事は書類送検で一区切りであるが、犯罪者の処罰はそんなに優しいものではないぞ。　「容疑者室井慎次」なんて、見たことないんだけど某ブログでその法的諸問題をボロカスに叩かれてました。内容を見る限り、本当ならとても放送できたもんじゃないですね。私がプロデューサーなら始末書かかすかも。　警察関係者だって、あんなのを信じ込まれては困ると思っているらしい。　民主的で明るい警察を目指す理念をぶっ壊している、と刑事ドラマに警察が抗議したこともあったというし、捜査関連もそうだ。いくら検察官や裁判官と比べて現場的・ホンネ発想が強く出てきやすい世界でも、警察関係者だってまだ司法試験と格闘中の私よりは捜査法に詳しいと思われる。厳しい刑事法のしばりの中で何が許され何が許されないのか、その見極めに必死だと思う。　あの手のドラマに本当に憤っているのは、違法捜査と法廷で対決する弁護士ではなく、自分の違法捜査の抑止に努めている警察関係者かもしれない。　まあ私という人間の性質上刑事ドラマについて長くなったが、お世辞にも品質がいいとはいえない作品が、ファンタジーだと認識されることのないままに世の人の認識を作り上げてしまうことはある。妙なリアリティ志向はそれに拍車をかけている。　　　ファンタジー自体を否定するつもりはまったくない。ファンタジーのおかげで人の思い描く世界を描きだすこともできるし、ファンタジーとして描き出された名作は数知れない。　ちなみに私自身も、タテマエ論大好き人間としては意外なほどにファンタジーの世界が好きである。その世界は伝説である、妖精や神である、神獣や怪獣であるというようなもうおよそ現実ではありえない世界が中心であるが。　だが、あんまり現実世界を曲げるようなファンタジーをやたらめったらと撒き散らすのでは、たとえ本人にそのつもりがなく、結果的にでもカルト宗教の教祖をやっているのと変わりない行動ではないか。ファンタジーを出す人間は、自分の作品が現実のものと間違われないかどうか、考えるべきじゃないか。

  2006年08月22日

  コメント(3)

• 甲子園の連投対策

  　今年の甲子園は、すごいことになった。なんと決勝が延長１５回でケリがつかず再試合。　まあ早稲田関係者の私としては当然早実優勝キボンと言うことになるのだが、田中・斉藤両投手の投げあいは見るものをうならせた。　今日の試合は、序盤からじりじりと点を上げた早実に軍配。駒苫の粘りを振り切った。　だが、駒苫の田中投手といい、早実の斉藤投手といい、連投を強いられたのは事実である。早実の斎藤は3日連投で435球を、駒苫の田中は2日連投で278球。　ピッチャーの連投は、本来よいこととは考えられない。プロ野球選手は、先発なら普通は中４日くらいは置くという。　リリーフのようにラスト１回か２回投げればと言うことなら連投もさして問題にはならないかもしれないが、甲子園は多くが先発完投である。一試合で投げる球数は100球を優に越える。　１回戦とか２回戦のうちなら、試合と試合に間があくが、準々決勝、準決勝となるといよいよ連投が避けられなくなる。　単なるキャッチボールだって、200球も投げれば肩が痛くもなるだろうが、ピッチャーはお遊びのキャッチボールとは次元の異なる世界である。時速100キロを越える球を１球１球神経を使って投げなければならない。あるいは、バッターとして打席にも立たなければならないし、その上甲子園はふきっさらしで30度を超える猛暑は当たり前だ。　また、プロ野球なら肩が痛いと言うことなら無理をせず替えると言うことも普通の選択肢として存在するが、甲子園は学校が集められるピッチャーはたかが知れており、その上一発勝負トーナメントである。１人のエースに頼らざるを得ない場合が少なくない。　10年位前の本が資料で今はどうか詳しく知らないが、サッカーの世界では、Ｊリーグのユースチームより名門高校サッカーの方が強いと言う。　ユースチームの方は選手に無理を絶対にさせない。選手になる前にケガで使い物にならなくなっては困るのだ。最終的にＪリーグで使う選手を養成するのが目標で、高校サッカーに勝つのなどどうでもよい。高校サッカーは今強ければそれでＯＫだから、そういうことになる。つまり、選手個々人の怪我などに注意を払うと、どうしても戦闘力減が避けられないらしい。　だが、ピッチャーに連投をさせたら、彼らの腕と肩は悲鳴を上げるだろう。彼らの肉体はまだまだ成長途上である。そんな時期に肩に無理をさせて障害を負わせれば、将来野球選手となることが不可能となるばかりか社会生活にも支障をきたしかねない。　今から15年ほど前、夏の甲子園で決勝に進出した某高校の投手は、773球を投げて腕を壊し、手術しても元には戻らなかったという。本人は後悔していないというし、打者としてプロ野球選手になれたからよかったようなものの。　これらは、道徳問題に限らない。法律的に見ても、登板させてはならないと判断せざるを得ないように思われる。　例えば下の緑文字の場合はどうだろうか。「Aくんは、B学校野球部のエースでプロ野球界からも注目される期待の星であったが、過度の練習・連投で肩に支障をきたし、甲子園でベスト８に残ったところで肩の不調を訴え、診察した医師にしばらく投球をやめるように言われた。　しかし、Aくんの他のピッチャーは実力不足が明らかであり、自分が投げなければチームが負けることも容易に想定された。Aくんは、責任感からC監督を必死に説得、Aくんの熱意にほだされたC監督はAくんを登板させ、Aくんは見事チームを甲子園の覇者とした。　が、Aくんの肩は無理がたたってついにだめになり、A君は将来野球選手となることが不可能となったばかりか、社会生活に支障をきたす障害が残った。　Aくんの親であるDさんは、C監督が登板させなければこんなことにはならなかったとしてC監督に対してAくんの傷害の治療代や慰謝料・将来の逸失利益を請求した。」　私が裁判官なら、C監督には賠償金の支払を命じるだろう。　プロ選手ならまだしも、Aくんはまだ高校生。一時の熱情で今後の人生をダメにするような行動については、その責任者である監督が阻止しなければならない。よそで彼が勝手に怪我をした、というわけではなく、公式の場で登板させるさせないは監督に一任されるもの。彼がどんなに真摯に望んで、情にほだされたとしても、登板させたことを決して免責させるわけには行かないのである。障害が残ることは本人が我慢すればすむ問題とも言えない場合があるだけになおさらだ。　彼が登板しないことで他の選手たちに迷惑をかけるとしても、正味は一文にもならない高校野球の勝利に比べれば、選手一人の健康な人生の方が大切なのは当たり前であり、その点配慮しなかった監督の落ち度は大きいのである。　もちろん、しつこく登板を申し出た選手の側に小さからぬ原因があることは明らかなので全部支払え、とは言わないと思うけど。ちなみに、かなり昔だが「行列のできる法律相談所」でも似たような問題があった。行列のできる法律相談所の法律番組としての質はお世辞にも高いとはいえないが、その問題については賠償金を支払うという見解が優勢で、私も賛成である。　また、傷害の度合いがあまりにひどくなると、刑事責任を問われる可能性もあるだろう。Ａくんが障害が残る危険を負うことに同意したからと言って、あまりにひどい傷害の場合には同意が無効とされる可能性もある。　そういう意味では、高校生以上に成長の激しい中学生なのに、体のあちこちを痛めてそれを痛み止めを打ってまで出場している「キャプテン翼」なんて、正直言ってむちゃくちゃである。最低限、テレビ放送とかをするならまねをしてはいけませんというテロップぐらいは流すべきで、そうでもない限り有害番組といわれても文句が言えないのではあるまいか。　もちろん、いまどき甲子園の監督たちだって、選手の希望だからと言って怪我をおさせてはいけないことは百も承知であろう。知らなかったとか言う監督がもしいるとするなら、誰かの人生を台無しにする前に早々に辞任すべきだ。　だが、現実にそれは難しいのも否定できない。一つの学校に甲子園で投げられるようなピッチャーは何人もいないだろうし、トーナメント制なので、この試合はもうだめと見切りをつけて敗戦処理出してなんてことは通用しない。一発勝負で全力が尽くせないままに敗れるのは辛いであろう。　上の事例のようにドクターストップが出ているような場合は意地でも止めるだろうが、そうでもない限り連投が体に悪いことを知りつつ、登板させざるを得ない状況がそこにはあるように思う。　高野連は、選手たちのの暴力沙汰の処分を考えるより、もっと抜本的に連投制限を考えるべきではあるまいか。暴力沙汰は高野連のあずかり知らないところで行うものだが、選手たちが肩を壊すのはまさしく高野連の仕事の集大成というべきところ。暴力沙汰に口を出す暇があったらこっちを考えるのが本来の筋だ。　連投制限、球数制限などが一番単純な手法で効果もありそうだが、それで負けたチームとしては悔いも残るであろう。　または、そもそも甲子園球場以外も野球場はあるのだから、そういうところを会場とすることを考えてはどうか。　甲子園球場では日数制限が必要だとしても、1回戦や2回戦の間は、むしろ球場をいくつか利用すれば試合は迅速に進行できる。試合が過密になる準々決勝や準決勝の間に1日を空けることもできよう。もっとも、甲子園が「聖地」となっている現在、この方策には多大な反発も予想されるが。　それと、マスコミとかがそういうピッチャーをやたらと褒め称える風潮も褒められたものではないと思う。結果的にそれを肯定・後押しするような土壌になっていることは否定できまい。逆に非難しろとか監督をつるせとは言わないが。　　甲子園は、確かに感動のドラマかもしれない。だが、選手たちは決して見せ物ではない。　彼らの体のことを一顧だにせず、安易にケガを押すような行動を褒め称えるのは、傷害の共犯といっても間違っていない行動だと思う。　

  2006年08月21日

  コメント(1)

• 「誰かが責任を取る」

  　今日の記事は、モトケン先生のこの記事をヒントに作りました。　世の中では、必ずといっていいほど一定の損害につながることが起こる。　そうなったとき、誰かが責任を取ることは多い。何かことが起こったときに責任の所在を明確にする、というのも重視される。　被害者に対する賠償責任である民事責任。　国家、国民に対して刑罰を負う刑事責任。　行政により認められる権利などが否定されるなどの行政上の責任。　これら国家が法的に決定した法的責任に限らず、道義的責任や社会的責任というのもある。たとえば、車を運転して、事故で人をひき殺してしまったとしよう。民事責任として、被害者に対して損害賠償の支払い義務が発生する。刑事責任として、業務上過失致死罪で罰金や禁固・懲役などの刑罰が科される。行政上の責任として、免停になったり反則金などの処置がとられる。　人を轢いたということで、企業や公務員なら公共団体から一定の制裁が来ることもあるかもしれない。また、地域などでも人を轢いたということで後ろ指差されることだってあるかもしれない。これらも、私刑禁止とはいってもある程度は甘んじて受けなければならないだろう。　一つの行動に対する責任というのも、こんなふうに極めて多面的に存在するし、その目的も手段も多様だ。　民事責任は被害者の救済、刑事責任は抑止や本人強化や応報、行政は安全の確保ってな具合。　だが、ちょっと待ってもらいたい。　世の中には不運な事故、誰のせいでもない損害が必ず起こることは、認めていただかざるを得ない。　それらについては社会全体で負担すべき危険だという場合もあるし、不可抗力というのは世の中にいくらでもある。そういうのにやたらと責任を求めていくというのがどういうことか、常識的に考えればよく分かるだろう。　例えば、最初から手遅れの患者を治せないのは、たとえ医師の治療中に死んでも医師のせいではない。　雷に打たれて死んだからといって、誰のせいでもない。現段階で人類は雷を操ることはできないのだから。これらについて誰かに責任を取れというのは、過度に人の自由な行動を萎縮させる。また、本当に責任を取るべき人に取らせた責任の価値を矮小化させる恐れもある。めったに処分しないからそれでも処分される人というのはそれくらい大変なことをしたんだという自制をもってくれるのである。　もっとも、不可抗力に対して一定の責任が求められる場合もあることはある。例えば、地方公共団体の下っ端の不祥事で上司やトップが戒告処分になったりする。　といっても、たくさんいる部下を実際にそこまで監督するのは事実上無理であることは常識人であれば誰もが認識している。が、それでは示しがつかないことから、処分の形をとる。　だが、その場合の責任は黙認していましたなどということでもない限り軽いもので抑えられる。また、不可抗力の場合は不可抗力を処分されるような地位にいるのが通常である。そのような地位にいることに応じて、見返りとして一定の特権や報酬もあったりする。あるいは、自ら望んでその地位にいる。　さて、不可抗力で責任が求められない場合、そのような不可抗力の被害者（？）に対しては不運でございました、ご愁傷様、ということにならざるをえないだろう。被害者や遺族に対しては、おとなしく受け止めてくださいとしかいえないことになる。　だが、受け止められない人は決して少なくない。誰かに責任をとれといいたくて仕方がなくなる場合がどうしても出てきてしまうのは、人間という生物の性質なのかもしれない。　では、例えば、手遅れの患者を治せなかった医師に、患者の遺族が復讐を企てたら？心情的に分からないではないとしても、早い話がただの逆恨みである。　他にも、「普段の行いが悪いせいだ」なんて、普通はそんなことあるはずない。善行を積んでいる人だって不運にして事故に巻き込まれることなどいくらでもある。これも結局は責任の所在をムリヤリ被害者自身に求めたものである。そういう陰口をたたかれるような被害者は事故にあっても同情すらされない人間なわけで、なんとなくごもっともに聞こえたりする。　中世には、殺人事件の犯人がどうしても見つからないことから、殺人現場となった森が残らず伐採された、なんてこともあるという。早い話が、人に責任を求められないので責任の所在が殺人現場を提供した（？）森に求められたわけだ。　一番手っ取り早くて、法律家にとっては頭の痛い例が心神喪失者の処罰論である。この話の法的な考え方自体はここでしたけどね。　心神喪失者が人を殺したところで、原因において自由な行為の法理（こちらをどうぞ）が使える場合を除けば心神喪失者のせいではない。　自分では人を殺すのをとめることがおよそ不可能である人間を心神喪失者という。だから、心神喪失を犯罪論の体系（こちら参照）的に言うと、「責任が存在しないので無罪」ということになる。　だが、誰かが責任という考え方を推し進めるために、処罰しないのが不満だぁー！（ＺＯＸＹ　ＤＯＬＬ風）ということになってしまう。なまじっか損害を与えたのが人の形を取っているために、余計にその声は抑えにくい。仮に先述の例のように「そんなの逆恨みだ」などと言い放とうものならすさまじいバッシングの対象になるだろう。「正論でもそんなことを言うべきではない」というのではなく、「逆恨みとは何事だ」ということで。　仮に、これを「無実だと思っている人の死刑執行ボタンを上司の命令に従って押す刑務官」とかと置き換えると、こと心神喪失者処罰論を唱えるような人からこんな声はまず起こらないだろうなあ・・・とちょっと慨嘆してしまう。　　こないだのテンプレートだと「殺人犯だけど、彼には責任を問えないんだって。だから処罰はしませんって･･･」「やだ！！」「仕方ないじゃない。責任のない人間を処罰して、個人の尊厳をぶち壊したら困るでしょ」「やだ！」「ねえ…国とか保険会社とかが損害は埋めてくれるんだから。」「やだ！！」「じゃあ手前勝手にやたらと処罰して世の中が不自由になってもいいのね！？」「ぃやぁだぁ！！！」「ばか！！！もう知らない！！！」　　ってね。　そんな風に見放される前に、世の中には、不運な結果が存在することを常に認識するようにしてもらいたいものである。

  2006年08月20日

  コメント(0)

• 度し難い精神論の愚かさ

  　私が精神論が嫌いであることは以前にもこの記事で触れた。　しかし、この記事ではあくまでも精神以前にもっと追及すべき点があるだろう？と言う視点、さらに自分では何も分かっていないのに精神論ならもっともらしいから精神論を使うような論法の批判であった。　精神以前の点を追及した上、中身がしっかりあるのであれば、精神論も決して全くの無駄な戯言だなどとは考えてない。　だが、最近、２箇所で、同一の話題でとんでもない使われ方の精神論があったので、今日はその辺を指摘しようかと思う。あれは読んでいて正直怒りがわいてきた。　精神論が使われたのは、医療問題の話。　産婦人科・小児科を中心にした医師が激務であることや多発する医療訴訟のためにそれらの科の医師が減っているという指摘であった。この辺については、現役の検察官の起訴裁量について聞いてみたりしている。（この記事をどうぞ）　現状にさほど詳しいわけではないのであまり当事者を厳しく非難するようなことはしたくない（弁護の実情を知らない人の誤解がいかに弁護士を傷つけているか察しているので、自制が働く）し、どちらの見解が正しい、間違いと言うのも避ける。　だが、それにしてもあの精神論はひどかった。なんと、「産婦人科を避けるのは、楽をして儲けようとしている発想である。人を治したいという初志があるなら、そんなことは考えない。そういう根性を叩きなおした方がいい」とのたまう人が出てきたのである。　この人たちは、いったいどこまで自分たちに都合のいい発想をしているのだろうか。　医療マシーンが医師だと思っていて、自分たちに都合の悪い状況は全部医師たちの金儲けの発想のせいにする発想。私に言わせれば、ここまで腐った見解は、見たことがない。　医師や法律家と言うのはプロフェションだ、と言われる。　プロフェションは、高度の専門的能力、職務執行の独立性、そして公共に対する奉仕の精神が要求される職域だ。中世の三大プロフェションは医師、法律家、神学者だったとされる。　囲碁のプロ棋士だってこれらを満たして始めて実質的に「プロ」たりうる。日本においてプロの形式的資格は棋士採用試験の合格であるが、それだけでは実質的資格たりえない。言ってしまえば、「プロとして相応しくない」のである。　だが、このうち最後の公共に対する奉仕の精神と言うのは、公共のためにゴミのように使われて捨てられることまで含めるものではない。プロフェションが人間である限り、彼も１人の個人として尊重されなければならないし、その側面を捨てさせることは許されない。特に、裁判官に世間の常識がないとかいってる人たちはこういうところでは深く頷いてもらわなければいけない。　プロフェションが相手であっても、正当な対価の元に仕事は依頼されるものであるし、無償奉仕労働を強要していいものではないのである。プロフェションは南部のムチで叩かれるドレイではないのだ。むしろプロフェションの専門的能力や職務に見合ったものが当然与えられなければならない。　医師ならば、医学部の高い学費を６年間払って、国家試験に受かっただけの能力で、それに基づいて行われる仕事である。それをただ取りしてよいはずがない。　弁護士だって、凄まじい勉強をしてやっとの思いで弁護士としての能力を獲得している。それだけのサービスを受けるなら、それ相応の対価を受ける権利は当然必要である。　囲碁プロ棋士も同じだ。並の県代表クラスなど一ひねりするだけの能力を身につけさせてその棋譜を見たい、指導を受けたいなどというのなら、それに相応した対価と地位を与えなければならない。　自分たちがプロフェションに何をしているか。仕事に見合うだけの十分な報酬は渡しているのか？仕事以外の私生活を破壊していないか？それを検討せず、全てプロフェションの精神のせいにするのは、身勝手極まりない発想ではあるまいか。プロフェションはお前のドレイじゃないんだぞ。　また、こういう批判については、便乗して俺たちはもっときついんだ！と言う人たちもいる。　だが、自分たちの惨状を見せて、理解を求めるのはよいだろうが、他人に向かってさあ俺たちと同等の我慢をしろと強いるのがいい事なのだろうか。冗談ではない。職種その他が違う相手に自分と同じことを求めるなんて、とどのつまり自分にしか価値観のない自己中ではないか。　こういう精神論を見るたびに、私は悪質なカルト宗教団体を思い出してしまう。　カルト宗教団体は、信者を信仰を用いて自分の所に引き込み、あたかも自分が絶対、それに従うのが人として当然の義務、救済の手段だと教え込んでしまう。しかも、そうやって引き込む人は、本当にそれが義務だと信じ込んでいたりする。　結果、信者はカルト団体に身ぐるみはがれてしまう。　彼の一個の人間としての尊厳を考えず、ただごみ同然に使い倒すための理屈に、精神論が使われているのである。　もし彼らがこれに洗脳されたら、結局彼はカルト宗教にはめられた人同然で何も残らなくなってしまうだろう。　　これだから精神論は恐ろしい。誰にでも使えるくせに、反証ができない一番危険な理屈。　私は誰にでも使える上に客観的根拠も何もない理屈にすぐに飛びつくのは彼に知識も脳ミソもない証拠だと思っているが、それでも物事に口を挟み、他人をけなしたがる向きは、本当にひどいと思う。　さて、今日はこれからコンサートに行く。明日はその感想とアジア杯の感想でも書こうかな。羽根直樹李昌鎬に逆転負け。内容は悪くないんだけどねえ。　その次は三星火災杯の予選の進行状況。　それが終わったら今度はエンタの神様の某芸人と議論の作法について書いてみるつもりである。

  2006年08月11日

  コメント(2)

• トトロから考える「一番つらいこと」

  「となりのトトロ」。　スタジオジブリのトレードマークとも言うべき作品である。　以前本音＝となりのトトロ、建前＝千と千尋の神隠しと言ったこともあった。　私自身も何度も見ていて、どのシーンで何を言ったか、ほとんど覚えているし、音楽のCDも持っている。　私はああいう世界は大好きである。トトロに限らず「千と千尋の神隠し」なんかに出てくる八百万の神々なども、実際には神（God）と言うよりは精霊（Spirit）に近い存在だ。　だから、「千と千尋の神隠し」の英語名は「Spirited　away」である。　先日またテレビ放映されていた。ちょうどだすさんとひよこさんのわたいご選手権の日。トイレに立つときにちらっと見た程度だが、ちょうどそのときに、こんなシーンが出てくた。　まだ小学校高学年のサツキと、４歳の妹メイのやり取りである。　この2人、おかあさんが大好きなのに、そのおかあさんは入院中。そのおかあさんも体調が戻ってきて、何日か家に一旦戻ってみようか、と言う予定が立っていて、楽しみにしていたところで電報が届く。再び具合を悪くしてしまって帰宅は一時お預けになってしまったのだ。　それまで、物分りがよくてしっかり者のサツキは、父親と娘2人の家でメイのおもりを含めて頑張っていた。そして・・・（赤字はサツキ、青字はメイ）「メイ、お母さんの病気の具合が悪いんだって。だから、今度帰ってくるの延ばすって･･･」「やだ！！」「仕方ないじゃない。無理して病気が重くなったら困るでしょ。」「やだ！」「ねえ･･･ちょっと延ばすだけだから」「やだ！！」「じゃあおかあさんが死んじゃってもいいのね！？」「ぃやぁだぁ！！！」「メイのばか！！！もう知らない！！！」　そういってサツキは走り去ってしまった。残されたメイに、サツキと一緒だった近所の同級生カン太は、やっとのことで「行こうよ」と声をかけるのだが、ついにメイは『お姉ちゃんのバカー！！おかあさーん！！』と火がついたように大泣きしてしまうのである。　数多いとなりのトトロの名場面の中でも屈指の名場面である。　こんな風に文字で書いたところで見た人の記憶喚起にはなるかもしれないが、見てない人には何も伝わらないも同然。レンタルビデオ・DVDでも使ってぜひ一度見て欲しいものである。　メイのほうは、まだ4歳。一緒に帰ってきたおかあさんと一緒のふとんで寝ることを楽しみにしていたし、傍から見てもまだまだおかあさんが必要な年齢である。だから、そんな現状を受け入れることができない。　サツキだって、おかあさんに帰ってきて欲しい。帰宅がのびてしまってひどくがっかりしているし、それ以前に体を壊したということでとても心配である。それなのに、聞き分けがいいサツキは、他人に当たり散らすこともできず、現状を受け入れている。（物語の終わりの方で、おかあさんはサツキは聞き分けがいいからなおのことかわいそうと語っていた）　あの世界で、サツキは朝起きてちゃんとした弁当を３人前作っていた。預けられていた家でおねえちゃんの所にいくと駄々をこね、学校にまで来てしまうものすごいおねえちゃん子のメイのお守りをずっとやっていた。本来小四という設定だったのに大人びすぎてて小六設定にされたという話さえあった。　しかし、いくら大人びていたところで、ホンネはメイのように思い切り駄々をこねたかっただろう。それを必死に押し殺しているサツキに、ホンネそのまま思いっきり駄々をこねるメイ。今までだってメイの駄々をおかあさん代わりに受けてきたサツキだし、サツキが相手だからあんな駄々をこねたとも思うのだが、自分の押し殺してきたことをそのまま言うメイについに爆発してしまったというわけだ。　さて、これをみて、ふと刑事裁判における法律家と世論の軋轢を思い浮かべてしまったのは、私が人間的に変質したせいか、この問題について考える時間が長すぎるせいか。「裁判きちんとしないと、裁けないんだって。だから、彼にも国選弁護人つけて、きちんと裁判をしますって･･･」「やだ！！」「仕方ないじゃない。間違った裁判をやっちゃったら困るでしょ」「やだ！」「ねえ･･･裁判すればちゃんと裁けるんだから。」「やだ！！」「じゃあ被害者のせいで冤罪になっちゃってもいいのね！？」「ぃやぁだぁ！！！」「ばか！！！もう知らない！！！」　あのシーンの台詞に当てはめると、こんな感じだろうか。　ネット言論どころか、テレビ言論を見ていても本当にそれに近いことを感じてしまう。　凶悪犯の弁護なんて、好き好んで誰がやるというのだろうか。学部だろうが法科大学院だろうが司法試験予備校だろうが司法研修所だろうが、こいつやってんだろうなあと思いつつも、言う通りに弁護するのは弁護人として当然の義務だと教わる。これに文句を言う人間は法律家ではないし、非常識だ。そうしないと何が起こるかは、法律家なら皆理解している。　だが、一方でこれは想像もつかない隠忍自重だと思う。こんなやつの弁護したくて弁護士やってんじゃねえやい、義務じゃなかったら怒鳴りつけてやりたいってなことくらい、おそらく私も弁護士になったら遭遇するのではなかろうか。　弁護士だって人間として普通抱くであろうそんな感情を必死に抑えて、大した報酬ももらえず弁護しているのに、その立場が理解されないどころか、罵声まで浴びせられる。こうした罵声は、例え安っぽいとはたから非難されようとも、誤解に基づくものであろうとも、多くの人は本気で言っているものだ、とは思っている。　そういう意味では、メイの駄々と同じである。　そんな状況に遭えば、もう知らない！！と言って逃げ出したくなる弁護士は増えるだろう。　思うのだが、弁護士たちにとって一番辛いのは、報酬が安いことでも仕事が厳しいことでもなく、自分の言いたいことをそのまま使った批判がモロに自分にかかってくることではないか。　少なくとも、あのシーンでサツキを爆発させたのは、生活が大変なことでもただ駄々をこねられたことでもない。自分の言いたくても言えない事を正直にぶちまけられたことだった。　相当穿った見方かもしれないが、私は少なくとも、弁護士の仕事を理解できない人とだけは結婚したくないと思っている。まあ最初から私と結婚したいという人にはもっと自分を大切にしろというところだが。

  2006年08月10日

  コメント(4)

• 合理と情緒と憲法･人権と。

  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※　島谷さんのところで、ちょっとやりあった。　一もみした上での感想を言えば、島谷さんの発想は「ある意味では」物事を合理的にとらえていると評価できると思う。　Aの過誤を守るためにBの過誤を低く設定するのは治安の悪化につながるという。　この発想については以前こっぴどく非難したが、これは数学的に見ればある意味では物凄く合理的な発想であることは、私自身認める。被害者の数と言う面では、確かにこれが理想形であろう。　そして、いかに建前を主張しようと、数的合理の一切を放棄することは不可能である。　私は法律学をかじっているから、当然物事の建前に目が行く。そして、建前を見ていけば、決して建前がどこまでも合理に貫かれたものとは考えられないことは否応なく悟らされる。　裁判官にとって判断を分かりやすくするため。権力の濫用を防止するため。一番大事な部分を守るため。そんなことで、諦めざるを得ない「合理」は世の中にいくつもある。　その「合理」を阻む最大の敵は、実は憲法で保障された基本的人権とされるものであると正直思う。　人権は公共の福祉に合致するように制限されるが、では公共の福祉とは合理に合えばなんでも制限していいのかと言うとそこは断固ノー、と言う領域があるのが難しいところである。つまり、日本国憲法は「個人の尊厳」を保障するもので、およそ尊厳をぶっ壊すような領域については公共の福祉論と言えど制約禁止の部分がある。確かにこの制限は合理的だからOKというようなこともある。だが、単純に合理性があるというだけでは許さんと言うこともある。　個人の尊厳をおよそ放棄させてしまうようなもの、またせっかく憲法の条文に定めたものを無にすることは許されないだろう。　刑事法の世界では、特にそれが多い。刑事処罰は捜査にせよ処罰にせよ個人の不利益が大前提なので、個人の尊厳を放棄させるような行為と許すべき行為の境界線は薄く、すぐにあれもだめこれもだめと言うのが出てきやすい。ダテや酔狂で日本の憲法は人権条文の三分の一を刑事法関連に投入してはいない。　限りなく疑わしくても合理的疑いを超える証明がない限り処罰できない「疑わしきは罰せず」の原理。　いかに処罰が妥当な人間でも法に規定がなければ処罰できず、しかもその規定の範囲内でしか処罰できない「罪刑法定主義」。　奴隷的拘束の禁止（憲法18条）や残虐刑の禁止（憲法36条）はいかなる犯罪に対しても絶対禁止だし、適正手続を省いての処罰がいかに数的に見て合理的でも、手続は刑事問題で人権を守る最大最後の砦。それをおよそぶっ壊して国家の思うままフリーパスですというようなことは認められない。　また、犯罪を防止するためだからと言ってやっていいことにも限度がある。「国民全員」に発信機を埋め込んで街頭に限らず住居に全て防犯カメラを設置し、ついでに定期的に犯罪意図がないかポリグラフでもかければかなりの犯罪が抑止あるいは検挙できるだろうが、費用対効果以前に身体不可侵や令状主義違反で違憲とされるだろう。例えそれによって殺人が全て防げるとしてもだ。　例え「こいつに限って大丈夫」と思ってもアリの穴から堤崩壊。本当に大丈夫じゃない人間を大丈夫と誤認したときに目も当てられないことになる。　フランス革命のすぐ後とか、日本でも戦前の軍部が台頭していた頃を考えるなら、これらは「国民の権利を守るために絶対必要だ」と言えば誰が相手でもそれなりの説得力があったかも分からない。だが、今どきそんなことないからそんな原理は放棄あるいは後退させちゃってもいいんじゃないの、と言う発想はある意味では当然かもしれない。　それを当然のこととして受け止めるには、ある一定の価値基準を身にしみこませるしかない。私は割合すっと入っていけたが、人によってはそのような価値基準の受け入れは相当な苦痛を伴うのではなかろうか。　だが、人間（日本人？）と言うのはどうも不合理な生き物で、同じようなことを微妙にあっちではああ、こっちではこうというのがある。　こんな例えはどうだろうか。前者は先日死刑制度について調査していて見つけた、一橋大学の後藤昭教授の出した例え、もう一つは司法試験受験教育で有名な伊藤真氏の書いた入門の本に元ネタがある。（厳密に一緒ではないのでその辺注意）　相当非現実的な話ではあるが、例え話なのでお目こぼし願いたい。「瀕死の患者10人がいる。全員に臓器移植をすれば何とかなるのだがドナーが現れない。そこで通りかかった人を検査したら見事全員に一致した。しかし、10人を確実に助けられるとしても、彼を殺して臓器を配分することは許されない。」「凶悪殺人鬼11人がいる。全員死刑相当であり、釈放したら再犯をする可能性が高い。ところが、11人のうち1人が無実であることが明らかになった。しかし、誰かは分からない。10人により再犯されることが十分予想されても、一人のために全員釈放しなければならない（分かるまで刑務所と言うのは×）」　前者については、何の罪もない人をとっ捕まえて殺すことは、彼の個人の尊厳の否定である。　例えそれにより10人助かって、10人や国から十分な慰謝措置やなされ、名誉がはかられたとしても、断固許されない。この辺は、多くの人が上の見解に賛同するのではないか。　だが、後者となると見解が分かれることであろう。　死刑にするとなれば慰謝措置も名誉も何もないが、それでも見解はかなり分かれるのではないかと思う。むしろ多数派は後者の見解を支持しないのではあるまいか。　同じ人が死亡するという事態でも、なぜか犯罪、それも故意の犯罪になると人々の目の色は変わる。　そして、なぜか何の罪もない人を犠牲にしてでも新たに被害者を生まないということを重視する場合があるように思う。　はっきり言って私自身もその考え方はなんとなく理解できるのであるが、この2つの相違を理屈で説明する方法は私には思い浮かばない。病気が天災で殺人は人災だから？臓器移植が必要になる原因が必ず天災であるとは限らないではないか。　そういう意味では、人々は合理を求める一方で情緒にも支配されており、そういったところはなかなかの難儀である。以前寿命が数日縮まる尊厳死はダメで寿命が20年、30年と縮む不健康の放任というOKと言う風潮は理解できるものの情緒的、という強烈な書き込みがあったが、それと似たようなものかも分からない。（こちらは立法によって何とかできないわけではないと思うが・・・）　法律家としては、いずれにせよ個人の尊厳の最高価値である生命を本人に何らの責任なく侵害するということで、許されないということになる。　たとえそれで死者が出たとしても、それは運命（これは相当突き放した言い方だが、他にいい言葉が浮かばない）ということになり、殺人の場合なら11人から無実の1人を抜き出せなかった権力者の無能（日本は民主国家だから、国民全体の無能と言い換えてもよい）や、釈放されてなお殺人に手を染めた犯人を処罰したり呪ったりするほかないということになる。　これまで、色々言ってきたが、憲法の方にもちょっとメスを入れてみたい。　「個人の尊厳」なる思想だって、かなりの情緒的産物で、情緒的支持がなければ残れないものである。もちろんそれを認めさせるまでに多大な血が流され、先人たちの命を賭けた努力があったのは事実だが、科学の実験のような具体的根拠があるわけでもなく、単なる宗教的幻想の産物であることは否定できないだろう。　個人の尊厳を守る発想と日本人の持つ独特の感覚のズレ。そして前者が憲法とされ、世界中で支持を受けているようになっている。そこに奇妙な現象が生じることになる。先日の安田弁護士バッシングなんかもその一つだろう。　ここで人間の持つ不合理な感覚を一切排除するか、国際的総スカンを覚悟で日本人の持つ独特の感覚を新たに憲法にするか。　さもなくばうまく両者の融和を図る必要がある。

  2006年07月24日

  コメント(0)

• 無理な世の中の「くくり」

  　社会的諸問題には、必ず見解の対立がある。　そして、その見解の対立には、一定の方向性が見え隠れすることがある。　一番単純なのは右、左の対立（とされるもの）である。右がナショナリズムで左が個人主義だとか、右が護憲派で左が改憲派だとか、右が厳罰主義者で左が人権派だとか、右が日本古来の美徳重視で左は自由主義だとか、不思議な分けられ方をする。さらに、刑事法論争内部に集約してみても、捜査権強化・迅速裁判重視・厳罰主義・国民感情重視・死刑存置・死刑適用拡大vs人権保障重視・手続保障重視・寛刑主義・国民感情距離置・死刑廃止・死刑適用縮小というような対立がどうしても見え隠れしている。　だが、ちょっと虚心になって考えてみれば、これらは必ずしも論理必然の関係に立つものではない。　ナショナリズムと厳罰主義と日本古来の美徳重視がどうつながるのか、私には皆目分からない。　他にも、左翼系といえば一般には共産党系とされるが、日本国憲法は財産権を保障した29条により共産主義の導入を禁止している（どうしてもしたいなら改憲が必要）と言うのが彼らが「左翼的」と非難する憲法学界の圧倒的通説だったりする。　刑事裁判段階における捜査の必要・人権保障の対立と一旦有罪判決が確定した段階での法の適用である厳罰主義vs寛刑主義や死刑存置と廃止は決して論理必然の関係には立たない。　さらに、確定した段階の法の適用内部でだって、「私は普通の犯罪に刑罰はもっときつくすべきだと思いますが死刑だけはやめた方がよいと思います」というような理屈は、矛盾でもなんでもない一つの立派な見解である。もちろんその逆も然りだ。　というわけで、私自身ははっきり言って右だ左だ、それに限らず、違う論争をやたらめったらと大きな枠で括って分類することは全くバカらしいことだと思う。　広い広い世の中の現象を、たった一つの思考で全て何とかしようと言うような試みなど、最初から無理なのだ。　私自身も、以前建前vs本音と言うことで世の中のものを分けてみた（この記事）し、自分の傾向はかなりの建前論重視であるということまで書いたが、それだって物事を考えるときに「本音だから間違い」だなどと言う考え方はしない。　建前に目配りをしつつ本音を生かそうとするのは基本的に同じ、ただ建前に目配りをする度合いが相当高く、結論を見ると建前論支持に落ち着いていることが多いだけである。　刑法学など、これ以上ないほど体系が重視される学問であるが、それでも体系で割り切れない問題は決して少なくない。体系の外にある問題もあるし、体系は絞込みの役にしか立たない領域だってある。ために、法学界の中でも刑法学界における見解の対立は判例をも巻き込んで百花繚乱で凄まじいことになっている。　もっと単純化した事例を挙げると、例えば、殺人犯は正当防衛や緊急避難以外死刑を原則にすべきだという人間がいるが、そういう人に必ずと言っていいほど提示されるのが正当防衛でも緊急避難でもない死刑執行でもないとある殺人事件の事案（最大判昭和48年4月4日で裁かれた事件、あまりに生々しくて痛々しい話でここには書けません）。　これを教えられると、彼らは途端にいやこの場合は例外･･･とか言ってしまう。具体的に何がどう例外なのかと突っ込まれてまともな答えを返していた「原則死刑」の人間を私は知らない。つまり、彼等の「原則死刑」と言う体系は所詮その程度なのだ。　さて、こういう無理なくくりは、ことネット上では深刻な議論への障害をもたらしている。　一言で言えば、「くくり」は実態と乖離したレッテル貼りとなっているのだ。　一度ネット掲示板で死刑廃止論を語ろうものなら、それ以前に死刑存置論に対してわずかでも批判的なことを言えば、瞬時に「被害者の敵」とか「左翼系」「加害者の人権しか守らない」みたいな真実とは違うレッテルが貼られてしまう。例え彼自身が存置論ですらお構いなしだ。　後から彼が何を言っても貼られたレッテルはいつまでもはがしてはもらえず、何を言っても全部そのように解釈されて罵られて終わってしまうことが多い。彼の書いた文章は眉唾で読まれるどころかまともに読んですらもらえないのだ。　つい先日、私が以前書いた「人権派弁護士」と言う言葉を考えた記事（こちら）に品性のひの字も感じられない批判コメントが来た（おそらく何かで検索してきたと思われる）のだが、彼は明らかに私の文章をちゃんと読んでいなかった。　「同じ司法試験に合格して同じ修習を受けているから、弁護士と検察官は似たような思考だぞ」と書いただけなのに、「司法試験に受かっただけで弁護士は偉い」と言っていると勝手に読みかえられているのだから、どうしようもない。　おそらく、彼の中では「人権派弁護士批判」批判＝人権派弁護士バンザイと読み替えられ、私に勝手なレッテルが貼られたのだろう。　たかが人間の脳ミソが考えた体系ごときで、世の中の全ての現象を実態に合わせてうまいように解決することは最初から無理である。それを知らなければいけない。　最初から無理なことをして、せっかくの議論がレッテル貼りの罵りあいで終わってしまうのでは何にもなりはしない。　レッテルを貼る前に、相手の見解を虚心に読み直す。それが一つ重要なことである。　どうしても分からないことがあったら相手を罵り倒す前にまず相手に聞くことだ。

  2006年07月16日

  コメント(1)

• 「大本営発表」の力

  　先日、「その時歴史は動いた」をみた。　扱っていたのはベトナム戦争におけるジャーナリストの活躍。「大本営発表」がなされる中、戦争の姿を報道にあらわし、ついにベトナム撤兵を導いたジャーナリストの話である。　大本営発表と言ったが、日本の軍部は、戦時中は国民の戦意を鼓舞すべく、都合の悪い情報はなかなか流さないという手法で世論を操作した。それが、大本営発表としてほとんど一般名詞になっている。　別に日本軍が異常だったわけではなく、ナポレオンなどもやったようだし、戦争と言う状態の下では珍しくもなんともない手法のようだが。　はっきり言って、世論操作など大それたことではない。　ちょっと自分に都合のいい話をつまみ出せば楽勝である。嘘をつく必要はどこにもない。　アメリカ海兵隊が　「戦時中の海兵死亡率は1000人中9人、ニューヨークは1000人中16人、長生きしたければ海兵へ・・・」　という募集広告をやったそうだ。老人も病人もいるニューヨーク市民と働き盛りの男を比べるというナンセンスだが、一見するとごもっともに見える。　今の日本囲碁界なら、事実だけでも「今年に入って日本は国際学生王座戦、世界アマ囲碁選手権を立て続けに制し、5人勝ち抜き戦の農心杯で中国・韓国を押さえ見事優勝しています」　といえば、何も知らない人は日本の囲碁界は世界に冠たる・・・と思うだろう。実情を知っている人は腹を抱えて笑うだろうけど。　もうちょっと例を挙げると、私自身がある程度世論を操ることだってできる。　実際に、私のページを見て、私の知識に感心すると言ってくれた人たちがいる。素直に嬉しいと思う。　だが、忘れてはいけない、私は司法試験に受からないし、司法試験に受かるという前途など到底おぼつかない大学院生である。囲碁記事も書くけど、囲碁の腕だって全国大会と名のつくものには小中高大・その他アマ棋戦含めて一度も出たことがない程度でしかない。　知識なんて、雑学的に知っていることをそれっぽく書くと、何も知らない人にとってはすごい博識に見えたりするもの。後ろ側に素晴らしく体系化された知識があるというわけではないし、だから司法試験にも受かっていないし、大学院では本物の博識教授たちに締め上げられてひいひい言っているのである。　もちろん私自身はここではそれなりに自信のあることしか言わないが、妙な思い込みから変なことを言っていても自分自身では感づきようがない。誰も指摘しなければ、その誤った情報をここを見ている何人かに信じ込ませるおそれがある。　もちろん、日に200のアクセスがあるかないかのここでは世論全体には行きわたらず、誤りであるなら何かの間違いで多数説になるチャンスを得たとしてもどこかで是正が働くだろう。その点はちょっと安心である。　だが、テレビ番組はそうはいかない。　ある程度の視聴率を持つテレビ番組や週刊誌で流れる情報は、まさしくストレートに世間を動かす。　その例としてまたまた私が持ち出すのは先日の山口の妻子殺人事件における弁護士への批判である。　安田・足立両弁護士の不出廷や苦しい弁明。これを叩かんがためにマスメディアはこれでもかとばかりの手法を使った。法科大学院通いで全部を見ている訳ではないが、大体伝聞と僅かに見たものを総合してみるとこんな感じである。　最高裁の判断を掲げるぶんには何の問題もないが、安田弁護士が死刑廃止論者で死刑廃止のために動いているという状況証拠を必死になって掲げ、遺族の本村氏の発言とあいまって、死刑廃止論を持ち込んだという印象を与えた。　事件の残虐性を強調し、「死刑になるべきで弁護しようがない悪人」と言う印象を植え付けた。この辺の記事を書いたとき、まだ裁判の最中なのに、弁護側に徹底抗戦の必要は見当たらないなどと言う気の早いコメントがここに書き込まれたが、それもこの事件への印象操作の効果だろう。　どう考えたって裁判官のような立場になれるはずがない遺族の本村氏の意見を前面に押し出し、遺族感情から許さんと言うイメージを与える。こういうお涙頂戴には日本人は弱い。　そんでとどめに「良識派世論の代表」の顔をしてコメンテーターだかキャスターだかも弁護団を批判する。　さて、これだけやっておいて、弁護団の言い分についてはちっとも触れない。触れたとして、多くは釣り、つまり反論をけちょんけちょんにけなすための材料である。　司法試験を本気で受験している人なら皆知っている　「この手の事件の弁護は手間はかかるし金にもならない、むしろ引き受けたら損をする」　「引き受けても世間から叩かれるしましてや名声なんか望めない、だから一部の本当に良心的弁護士しか受けない」　「でも誰かがしなければ裁判は進まない」　「弁護人の仕事は被告人の利益を最大限守ること」と言うことには誰もちっとも論及しない。弁護人自身はそんなこと（特に上二つ）はなかなかいえないけど。　東京新聞が、先月の８日に安田弁護士に関して特報を流した。まことにGJ。賞賛してよい。　だが、正直言ってその内容の多くはごく普通の刑事裁判に対する認識を改めて確認させてもらっただけである。死刑廃止論は法廷に持ち込めないし、言い分を主張するだけではどうもならんという当たり前のことばかりである。　この記事を見て新鮮な印象を受けている人は多いようだが、逆に言うとその程度の記事さえ書かれてこなかったということの証拠でもあろう。　こういう領域では、本音丸出しフジサンケイも建前尊重朝日も本質的に差のある内容ではない。　これだけ弁護団を叩く材料だけ、それも多数のメディアが提示すれば、弁護士について真剣かつ本格的に考えたことのない人であれば、弁護団憎しという感情を持たない方が不思議だといってもよい。　つまり、安田弁護士叩きも世論操作に引っかかったことを「一つの原因として」生まれたものである、と思う。　自分たちの思う所に都合の悪い事実は無視し、都合のいい事実を引っ張り挙げるという大本営発表みたいな報道が、正気の沙汰とは思えない弁護士バッシングの一翼を担っていたと思っている。　事件に動きがなくなり、マスメディアが扱わなくなった途端に批判はすっかり終息してしまったのは、一つの証拠だろう。あの狂騒曲が終わってしばらくたったあとに東京新聞の特報に反応した人たちは、だいたいが安田弁護士へのバッシングとは無関係な人たちばかりだった。　これでは、将来裁判員制度が発足した時、悪影響が及ばないか心配である。　弁護士は法廷で裁判員を説得することより聞いてくれそうな裁判員を選ぶのが才能と言うことになるかもしれない。これでは何のための裁判員なのか分からないが、裁判員以前の裁判の基本が守られないのではどうしようもない。　もちろんマスメディアにも言論の自由はある。この法はおかしいということも、犯罪者を弁護する弁護士は国賊だと思っても、それを口にしても、非難されるいわれはない、といわれればそれまでかもしれない。少なくとも国とかが中立でないからと言ってことさら干渉することは許されないだろう。　世論操作に抗することが出来るかどうかは、結局市民一人一人がしっかりした意識をもつことを期待せざるを得ない。

  2006年06月04日

  コメント(0)

• 評価の以前に生の事実を見る

  　刑法学の世界で犯罪と言ったら、刑事裁判に訴えれば有罪判決が下される行為。そして、刑法の各条文に定められた行為の中で違法で責任のある行為である。　以前の話としてこちらも参照してね。　ところで、刑法学、その中で何が犯罪かを明らかにする犯罪論とはそもそもどんな学問なのか。　刑法の世界で犯罪が成立するかどうかとは、人の行為を刑罰の対象と「評価する」かどうかの問題である。　「一人殺せば悪党で、100万殺せば英雄だ」というのは有名なチャップリンの台詞だが、同じ殺人と言う行動でも、評価方法によって悪党として処罰されたり、逆に英雄として祭り上げられたりもする。　そして、日本のような安定した国では、犯罪として評価される行為なら一律に有罪として処罰する。これが犯罪論と言う学問の基礎にある。　そして、刑法学の世界を飛び出せば、犯罪と言うのは必ずしも裁判に訴えたら有罪となるような行為を指すようなものではない。　彼の行動が処罰に値するかどうかなんてことは、刑法が気にすること。　単なる社会的事象として分析対象とする分には刑法学のように犯罪の成立に厳しい縛りをかける必要はないのである。むしろ、そこまで含めて検討の対象にするほうが望ましいとさえいえる。　例えば、心神喪失者の殺人行為は刑法学の世界では犯罪ではない。（刑法39条）　だが、生の事実として犯罪を見据える分野では立派な犯罪として扱われ、検討の対象になる。　犯罪に対する刑罰をはじめとする処遇などを考える学問である「刑事政策」であるとか、純粋に生の事実として犯罪をとらえる「犯罪学」と言う学問の世界ではこれらも立派な「犯罪」として扱われるのだ。　実際、私が大学で刑事政策の講義を受けた（司法試験の片手間だったけど）ときには心神喪失の状態で他人を害した人を司法の場で医療的に処遇する心神喪失者医療観察法などを教わっているし、犯罪学は私の大学では法学部に設置されていたが、犯罪学という科目を法学部におくか人文科学系の学部に置くかは大学によるという話も聞いている。　他にも、例えば下着泥棒は刑法上は窃盗罪、つまり他人の財産を侵害する罪である。　だが犯罪学にしたがって、生の事実としてみるなら、下着泥棒は財産を盗むというよりむしろ性的な欲求を満たす色合いが強い行為で、性犯罪に近いものだと把握されたりするのだ。　こんなふうに、生の事実として犯罪の姿をとらえるのは極めて重要である。社会政策としてどのような対策によりその犯罪を抑止できるか、被害を軽減できるか、そもそも法的に禁止することになじむのかと言ったことを考えることができるようになる。　犯罪者を処罰することしかできない刑法学では、被害の軽減にも抑止にも刑罰を科すか科さないかという形でしか答えが出せない。しかも法で処罰すると定められている行為を処罰しないというのはできないので、とても抑止だの軽減だのと言うところには十分手が回らないのである。　それどころか、「現実の犯罪がどんなものであったか」を分析するには、刑法学のような評価はむしろ邪魔であることが少なくないと私は思う。　一度評価すると、何を考えるにもすぐに「こいつは悪い奴だ、きつく処罰しよう」「こいつはかわいそうだ、処罰はゆるくしよう」と言う「評価」が出てきてしまって、犯罪の実態を虚心にとらえることが難しくなってしまう。評価した上でなお虚心に分析できる人もいるが、それはある種の才能だ。　例を挙げてみよう。　殺人事件についてはどうか。　殺人犯は人の命を大切にしないのは当たり前だが、それどころか自分の命さえ大切にしていない例が少なくないらしく、殺人犯ほどすぐに自殺してしまうというのが犯罪学上広く認知されているという。　殺人犯＝非常な極悪人と言う評価が先行している人にはこの話はなかなか受け入れ難いようであるが。私自身、大学１年の時に死刑制度について調べている時に知ったがとても信じられず、３年後に犯罪学の講義を受けて初めて信じたのだ。　先日のひき逃げ事件。　被害にあった男児の回復を願うばかりだが、ネット界で大手を振っているのは、厳罰にして抑止しよう！！と言う意見である。　確かに、ひき逃げは悪いことであることは誰も疑わない。刑法上は業務上過失傷害と道路交通法上の不保護罪、さらには保護責任者遺棄罪（刑法上は移動させる行為と置き去りにする行為は双方とも保護責任者遺棄罪となる）。量刑は懲役7年半以下ということになる。　また、警察の方は殺意があったのではと言うことで殺人未遂での立件も視野に入れているようで、もしそうなら最低懲役5年、最高で死刑と言うことになる。　刑法ならこれで十分に正解である。　だが、抑止しようと言うことであればもっと虚心にひき逃げと言う行為の性質を見なければならない。ひき逃げに関する厳罰抑止論は、ひき逃げを悪いことであるという評価が大前提にあり、そこから全ての分析がそれに都合のいいようになっていることが多い。　生の事実としてみると、ひき逃げと言うのは、「普通は」轢いた加害者の方が狼狽して、自分の罪から逃げようとして結果的に被害者を見捨ててしまうということが少なくない犯罪である。犯罪者自身特別悪いことをしてやろうと思ってやるような犯罪の形態ではない。ミスで人を轢いて、逃げたところで、加害者にとって正味一文にもなりはしないのだ。　それどころか、こうやって人を轢いて逃げ回る人の中には罪が恐ろしくて自殺してしまう人だって出る。はっきり言えば、私や私の家族は被害者の安否もさることながら被疑者が自殺してしまわないかと言うことも不安になっていたものだ。　さて、こんな犯罪であるということを踏まえて被害者をより確実に救命し、と言うことを考えると、どのような施策が見えてくるか。ただの厳罰で本当にひき逃げを防ぎ、まだ助かる命を救命できるかどうかはある程度見えてくるだろう。　自己満足で厳罰を用意したはいいが、ひき逃げは増えましたというとんでもない事態を招かないようにするには、こうした分析は不可欠なのだ。　もちろん、こうした分析は今ある法律にも生きている。　一番有名なのは身代金目的誘拐罪における開放減軽。つまり、被害者を開放したら罪を減らしてあげますよ、と言うやつである。　刑法的評価としては身代金目的の誘拐は問題外で処罰に値するし、開放したからと言って当たり前じゃないか、そんなことをしたって身代金目的誘拐には変わりないだろうということになる。　しかし、生の事実としてみると、こういう誘拐犯はすぐに人質を殺してしまうということが多い。刑法の理屈だけならその後で殺人を追加してもっと重く裁くという手法になるだろうが、そんなことより何とかして人質の命だけでも守る途をということで、開放したら罪は減らしてあげましょうという発想が生まれ、こんな規定ができたのだ。　評価にとらわれると、事実が見えなくなる。これは刑法の世界に限らない。　またまた持ち出すが、安田弁護士の話もいい例である。　安田弁護士のような弁護が悪徳弁護だという評価が先にある人たちは、売名目的だとか、報酬目当てとか、死刑廃止が目的だとか。弁護活動の実際を知っている人たちにとっては恥ずかしくて言えないようなことも、事実を見ないので平気で言えるようになってしまう。　そこに虚心に事実を見据えるという基本作業は存在しないのだ。結論先にありなのである。　先に弁護士を取り巻く事実を見据えた上で検討すると、安田弁護士の活動のどこがOKでどこがまずいのかが見えてくるのである。法律家と言われる人の大半は安田弁護士の手法を一定程度非難するにしても立場を理解しているが、それも基本的な事実を知っていて、それが評価の前提にあるからである。　　事件があるたびに、怒ったり同情したり。誰しもがやることである。私だってなんてひどい奴だと思うことなどいくらでもある。　しかし、本当はどうなのかはそうやって頭が沸騰した状態ではなかなかわからない。「正義は怒ることなし」ということわざもある。　物事について本気で考えたいなら、いい悪いを評価する前に、事実を見直そう。

  2006年05月28日

  コメント(1)

• １周年記念記事：私の思考回路の一部

  　１周年記念記事です。そう、１年前の今日ここは発足したんですねえ。　あの後司法試験に落ちたり法科大学院にいったりと色々ありましたが、まあなんだかんだで存続しています。　最近は１日２００のアクセスがあり、大人気ですねえ。法科大学院はなかなか厳しく毎日更新はちょっと不可能ですが、まあ何とか棋戦とかの度には更新しています。　さて、今日の記事は今まで私が書いてきた文章を支える思考の一つを紹介してみましょう。１周年記念にふさわしいくらい私の思考にどっかりと根を下ろしているものです。　さて、世の中では論争になることが色々ある。学問の世界でも、現実の世界でも、さまざまな論争がある。　解答がなかなかでないような論争の存在自体が市民権を得てしまっているものもある。中学・高校生のディベート大会のネタの常連がその例だ。どっちの立場を持っても公平にするには、理屈的には一応拮抗しているような領域を設定する必要がある。　さて、こうした論争を分析する一つの手法に「本音と建前」というのがある。　本音は内心そのもの、建前は世の中を取り仕切る決まりごとやうわべである。　私の愛読書の一冊に『タテマエの法　ホンネの法』と言う本がある。　ローマ法の学者柴田光蔵教授の著作で、法社会学などの教材として非常におもしろいものである、と思う。大学時代読んだ本は？と言われたら私は迷わずこの一冊を挙げる。　そういう訳で、私も何かと本音と建前と言う思考は意識してみているのだが、これでなかなか世の中が分かれている。　なにかの論争がある場合、実は見解は本音派･建前派と言う感じで分かれることが多いのだ、と思うようになっている。学問的検討の場でもある程度抑制された形で現れるが、市民的な論争では実にそれが多い。　各人が本音の通りに動いては、当然社会秩序はめちゃくちゃである。そこで人間は法と言う形で本音を押さえ込む建前を用意した。つまり、法律学とは本来世の中の「建前を扱う」学問であるといってよい、と思う。私自身も、法律解釈学を扱っているので、かなりの建前論重視派閥に属すると思われる。　といったって、本音を完全に抑圧しろと言ったところでそれは無理。法律学の中にだって本音はある。私が以前囲碁ルール論でこんな新説と言うか珍説をぶち上げたのも、そんな本音が根底にある。　そして、いかにして建前を擁護しつつ本音を取り入れていくか、法律家と呼ばれる人たちはそこに心を砕く。建前を絶対に動かさないタイプの人もいれば、本音に力を入れて建前を後退させることにあまり躊躇がない人もいる。プロの間でも十人十色な感覚を持っていてなかなかおもしろい。　さて、ここまで話せばお分かりだろう。先日の記事で、Ａ群は本音に属するもの、Ｂ群は建前に属するものである。囲碁編　実際にタイトルをよりたくさん取ったのは小林光一でも、碁として好きなのは武宮正樹と言う人は多いはず。山下と張栩もだ。　アマの場合、実際に強くなるには詰碁マニアの方がよいはずだが、古碁マニアはやっぱり博識として一目置かれる気がする。　日本の碁は形にこだわっているが、韓国の碁はとにかく勝ちにいく。実に欲望に正直に地その他を取りにいく。（武宮･小林光とアプローチが違うので分かりにくいかも）論争編　論争すると、厳罰主義者･プチ右翼系統は本音をたたみ掛け、人権派・サヨク系統は人権論を中心とする建前で本音を押さえ込みにかかる。（「プチ」である理由は本物はたぶんそんな領域は越えていると想像しているから）食品編　建前としてはうな丼の方が高級品でも、本音ではカツ丼が好きと言う人は多いだろう。特に男性。　焼き鳥（塩）とモツ煮込みは美味しんぼ43巻「食は人をあらわす」から流用。タレでなく塩なのも美味しんぼ由来だ。まあ確かに通っぽい人は「甘ったるいタレより塩の方が肉を純粋に味わえる」とかいいそうだけど。　高級ステーキをナイフとフォークで食べるより、下品なまでにタレに漬け込んだ焼肉を豪快に食べるのが好きと言う人も多いはず。　小さい頃ふりかけで食べた人は、のりやら納豆やらで食べるよりふりかけで食べるのが好き、と言う人も多いだろう。でもそこらの子供用ふりかけなんか恥ずかしくて買えない。そんな希望に応えてできたのが、永谷園「おとなのふりかけ」だ。　高級品のワインやウイスキーでしぶく決めるより、でかいジョッキで暑い日にングングのプハーと言うのが好きな人も多い。　無農薬野菜の方が健康的と頭で分かっていても多くの人は虫のついてない野菜の方を望む。だからスーパーにはそういう野菜が並ぶのだ。農家の人は自分の野菜と出荷用野菜を別の畑で作るとさえ言われているのにである。　法律系　実体法･実体的正義は世間の人が本音として求めるが、建前を重視する法律家は頑として手続的正義を動かさない。（この２つの正義についてはこの記事も見てね）　建前では法律上の夫婦だけが保護されるものだが、自由になりたいという内縁夫婦の本音に法も動かざるを得なくなっている。　警察は現場で必死に検挙しなければと言う本音が中心になるが、弁護士は法の使い手として、特に建前を押し立てることが多い。検察官や裁判官はこの問題点では中間に属するというのが私の感触なので、両極端の両者を掲げてみた。その他　建前は形式論理で、本音は実質だ。今は実質に本音が向くようになっている。「クールビズ」なんてその一つの表れではないか。花と団子も同じである。　韮澤vs大槻なら、大槻義彦の科学論理が正しいと思う人の方が多いだろう。でも、なんとなく本当だったら楽しいかもしれんと言うような本音があるから、未だに大晦日には紅白の裏番でやっているのだと思う。　バッハのある意味幾何学的なオルガンやチェンバロ曲よりも、ベートーベンの交響曲その他を好む人は多いだろう。最初はベートーベンをドボルザークにしようかと思っていたけど、話に聞いているだけの部分が多すぎるのでやめた。私はバッハ党。　演技派俳優はずっと名前が残って非常な名誉になるが、それより笑いの金メダルとかエンタの神様を見て笑っている人の方が多いのではないか。　職業カウンセラーは割りと穏当なことしか言わないようだが細木数子やみのもんたは言いたい放題にしか私には見えない。　東京人vs京都人と言うのは柴田教授の分類にあったものを流用。京都人は本当の事を言わない「いけず」が多いんだって。　理系は理的分析の結果とはいえ本音がそのまま出てくることが多く、文系は比較的建前論を理解し、または押し立てる。学問としての思考方法自体はそんな感じである。　理系の精神医学が理的分析から本音を形成し厳罰化を主張しても文系刑法学が建前を盾に断固待ったをかけるという緊張状態が刑事法論争にはあると感じている。　平家はそれまでの建前である天皇・貴族路線で栄華を極めたが、最後は力ある武士の持つ武家政権の本音の前に敗れ去った。　さて、こんな風にイメージ的に分けていったのが、あの一覧である。　もちろんこれらは全部私の勝手な想像でしかない。　そんなの嘘だ！と言う人もいるだろう。批判されても私自身は反論できる材料など持ち合わせていないし、また、ちょっと分析の方法を変えれば本音と建前が逆転しているところもあるかもしれない。　実際、法科大学院vs現行司法試験なんかは分析方法により逆転することに書いた後感づいた。　まあ、こんな思考をする人間ですが、今後ともよろしくお願いしますですはい。

  2006年05月19日

  コメント(1)

• さて、これはなんでしょう？

  　今日は問題だけです。しかも雲をつかむような。　ある2つの対になっている概念があります。ここでは仮にＡとＢとしておきましょう。私が感覚的なものをふるって、さまざまな世界でのＡとＢを選り分けてみました。追概念ＡとＢの内容をあててみてね。ランダムさを強調するためにＡ群の五十音順にしてあります。　私の感覚だから当てにはならないけど、考えるだけで知的な刺激にはなるかも。　あるいは、明日解答を知ったときに風の精ルーラと言う人物はこんな思考するんだということが分かるのでも十分。左がＡ群、右がＢ群です。お笑い芸人ｖｓ演技派俳優怪獣映画の怪獣ｖｓ神話上の怪獣きれいな野菜ｖｓ無農薬虫食い野菜警察ｖｓ弁護士カツ丼ｖｓうな丼韓国の碁ｖｓ日本の碁家族法ｖｓ財産法・相続法芸術家ｖｓ評論家源氏ｖｓ平家厳罰主義者ｖｓ人権派古碁マニアｖｓ詰碁マニアご飯をふりかけで食うｖｓご飯をのりで食う実質ｖｓ形式実体法･実体的正義ｖｓ手続法･手続的正義社会一般ｖｓ裁判所太陽ｖｓ北風武宮正樹の碁ｖｓ小林光一の碁団子ｖｓ花東京人ｖｓ京都人となりのトトロｖｓ千と千尋の神隠し内縁関係ｖｓ法律上の夫婦韮澤潤一郎ｖｓ大槻義彦２ちゃんねるｖｓ良識派ブログビールｖｓワイン･ウイスキープチ右翼ｖｓサヨク米大リーグｖｓ日本プロ野球ベートーベンｖｓバッハ法科大学院ｖｓ現行司法試験みのもんた･細木数子ｖｓ職業カウンセラー民間企業ｖｓ官僚･お役人モツ煮込みｖｓ焼き鳥（塩）焼肉ｖｓステーキ山下敬吾の碁ｖｓ張栩の碁理系ｖｓ文系レイザーラモンＨＧｖｓ磯野貴理子ワイドショーｖｓＮＨＫニュース

  2006年05月13日

  コメント(3)

• 勝負で心が崩れる

  　勝てると思って地位がちらついた瞬間、わずかなミスからドンガラガッシャンと崩れてしまう。勝負の世界ではありがちな話であるし、そうでなければ勝負はおもしろくない、と言うのは極論だろうか？　以前も少し語った（この話をどうぞ）が、私は精神論は嫌いである。精神以前の問題から先に追及すべきだと思っている。　しかし、精神的にある程度安定していなければもてる力を十分に発揮することもまたできないのは認める。　私自身、精神的にいらだっているときにネット碁を打つと、普段は勝てるランクでも負けることが多いのだ。しかも苛立ちからもう1局・・・とやってドツボにはまるケースだって多い。　その辺のおかげでタイゼムで夢に見た八段昇段がいよいよ射程圏内に。八段と言えば本当にプロが混じっているランクだ。九段にはアマもいるが大体九段にいければ県代表でも上位アマ。その彼らに先で打てるというのはやはり嬉しい。（実際打ったらカモにされるだろうが）　・・・などと浮かれていると、たちまち崩壊するのが恐ろしいところである。　崩壊が始まったところで、そこで立て直して勝利に持っていけるかどうかは、彼の力量の一つを現すのだろう。立派な一つの才能である。　一昨日、日韓戦よりＮＨＫ杯を見ていた私でも、今日はさすがに日本－キューバ戦を見ていたぞ。　日本が1回早々リードを奪い、その後6－1までリードを広げた。　ところが、王者キューバもそうそう簡単に引っ込まない。途中、4回に好守備を見せたショートの川崎がエラーをする。そのあたりからだんだんと全体の流れがおかしくなってくる。さらに崩れだしたかのようにエラーが起こり、キューバもそこにつけ込んで一気に4点も差を縮め、僅かにその差は１点。　このとき、既に勝利を確信していた観戦者たちの多くは、縮み上がったことだろう。かく申す私もそうである。　幸い、日本チームはそこで立て直した。9回表に大量得点。そのために世界制覇に成功。おめでとう。（それにしても日テレアナウンサーよ、9回裏がまるまる残っているそばから浮かれすぎだろ・・・）数日前に私自身が打った碁。　序盤からスピード感溢れるうち回しで優位を築いたのだが、中盤によけいな手を打ち思いっきり薄くしてしまう。その後の打ち方も悪くはないもののなんとなく雑だ。やはり精神的に多少切れているのが分かる。そこで向こうが薄みを盾に踏み込んでくる。　幸い、私はここで体勢を立て直した。思い切りよく石を捨てて形を決め、先手を奪い大所にまわって、局面を分かりやすくしたのだ。これでまだ残っていた優勢を固めることに成功、振り切った。だが世の中は、決してこんな風に立て直せる事例ばかりではない。　第16期棋聖戦、山城宏九段が棋聖を取れなかったときの話。　小林光一棋聖と3－3の第7局、黒番の山城九段は相手の生きる筋を見損じて劣勢を意識したとたん、強烈な勝負手を連発して形勢を自分の所に引きずりよせた。そこで山城九段、「このまま僕が棋聖になってもいいんだろうか･･･」みたいなことを考えたという。　ところが、そこから緩んでしまう。後手16目のヨセや決定打となる飛び込みも発見できず、小ヨセでの2目損も響き、ものの見事に白の手どまりの半目差で差しきられてしまったのである。　そして、彼は誰もが認める実力者でありながら今なお王冠以外のタイトルに手が届かない。　去年の私の学生十傑戦の予選準決勝。　緑星出身で元院生の強豪相手に打ちすぎを咎めてまさかの優位を築き、その後も緩まず打てていた。反対の山で第1シードが倒されていたのでここを突破すると夢の枠抜けにいよいよ近づく。全国大会に出ている自分を本当に想像していた。　そう、やはり優勢意識から手がだんだんとおかしくなり、最後には大ポカまで出して投了。絵に描いたような崩壊への道筋を辿ってしまったのである。　いやあ、勝負の世界って、本当に厳しいもんですね。（水野晴郎風）

  2006年03月21日

  コメント(1)

• 被害者問題は他人事である。

  　表題を読んで、法律家希望がなんてことをいうんだ、と思われるあなた。安心していい。あなたの感覚は正常である。　私が言いたいのは、多くの人は、被害者の切実な問題などテレビの向こうの自分には関係ない世界だと思っている、ということなのである。　例えインターネット上で被害者がかわいそうだ、加害者は死刑にすべき、と叫んでいる人たちでも、それは同様である。　一昨日弁護活動について論じた山口県光市の、少年による殺人事件。　この事件で、無残にも妻弥生さんとまだ赤ん坊の子を殺害された本村洋氏。当時私は高校生だったが、同情すると同時に、ちょっと言っていることが荒っぽすぎないかな･･･と思ったものである。　今はそうではない。あの頃からすれば、法的な素養と言う意味では何百倍にも育った私なのに、今の彼がもっている哲学は私の思考など一刀両断にするだけの力を秘めている。法廷への遺影持込とか、今回の弁護人の欠席と言うような各論ならばまだしも、本来の刑法の姿について日本で彼ほど密度濃く考えた人物はいないのではないかと思う。　当時の私は（今でもだが）未熟過ぎた。しかし彼自身についても、「初期と比べて感情は厳粛な怒りに昇華してきているようにみえる」という意見があることは事実。両者があいまってそう見えているのかもしれない。　しかし、せっかくそのように被害者の方々がその品格を持って意見を言ったところで、その周辺で被害者の味方であると言う顔をしている方々は本当に被害者のことを考えているのだろうか？　ここで、そもそも被害者には「とりたてて」どのような権利を認める必要があるだろうかを考えてみる。犯罪被害者の会「あすの会」で訴えられている被害者の窮状を基礎にまとめるとこんな感じである。（１）被害を癒してもらう権利。金銭的に算出できる損害はもちろん、犯罪被害そのものやPTSDを中心とする精神的・肉体的な損害についても国などが責任を持ってケアに当たることがそれに含まれる。（２）守られる権利も必要だ。お礼参りやマスコミの無遠慮な取材、心無い偏見・誹謗中傷から守られ、静謐な環境の中で生活を守ってもらうことが挙げられる。（３）刑事法上の権利である。適正な刑事裁判の実現には被害者の意見も必要、と言うのは今日広く理解されている。そうした刑事法の中で、真犯人を「適正に」処分してもらい、またそのために自らが参加する権利、と言うのも考えられる。　では、この中で一番社会的に問題視されているのはなにか？　解答は圧倒的に（３）である。（１）や（２）は取り上げられるのに、結論は刑罰が軽いという方向に持っていかれることも少なくない。しかも、その中では刑事裁判において加害者を適切に裁いてもらうということ、それも重罰に処してもらうということばかりが、なぜか非常に重視される。　ハムラビ法典を持ち出して「目には目を」と言う人のなんと多いこと。そんな大昔・外国の、身分差別がある法しか根拠がないのか？と思うが、そこまでしてなんとかしたい、という感情の表れであるのは間違いない。　だが、被害者のニーズにどれほどそれが合致するのかは疑問である。もちろん人によっては賠償金もいらない、人生なげうって加害者を死刑にしたいという人だっているだろうし、そういう人に空虚な道徳・幸福論を説くことはできない。刑事裁判における適切な裁きが何にせよ永遠の課題であることもまた間違いない。　一方、軽い犯罪はもちろん、重大な事件でも処罰感情より被害の回復を目指そうという被害者だっている。そういう人たちにとって必要なのは損害からの回復や、守られること。また、加害者が厳正に処罰されたとしても、別個に必要な領域だ。　金銭的･精神的損害から回復させるための体制は、法改正もあって進んではいるもののまだまだ十分に整っているとはいえない。被害者などにはごくわずかな給付金しかなく、犯人からの賠償金も取るのに大量の手間がかかる上に取れる保証さえない。（この話も参照）　整っていなかったのが刑事裁判における裁きだけなら、被害者を支援する人たちの関心が刑罰にしか行かない現象も得心が行くが、現実はそうではない。　それどころか、そういう加害者の刑が軽い、と言う声を上げるマスメディアの中には、被害者を中傷するような記事を書いたり、集団で取材を行って被害者のプライバシーを暴き、社会復帰を阻害するようなものもある。　事件へ一般国民の関心は、犯人への判決が確定してほどなく終了してしまう。被害者のその後や、例え死刑でも刑が執行されることが話題になるのはまれだ。幾多の有名な殺人事件への判決が過去に出こそすれ、被害者を救済する立法は近年に至るまでほとんど整備されなかったのはそのためだろう。　本村氏とて、まだ判決が確定しておらず、しかも高裁まで無期懲役の判決が維持されているから、今なおスポットが当てられている。死刑判決が下って、国民の刑罰感情が満足されたら最後、今までほどにスポットが当てられるとは思えない。　　また、日本全体の殺人件数は年間1000件強。遺族はどんなに少なく見てもこれと同人数はいるだろう。本村氏自身を否定する気はないが、なぜ本村氏ばかりが取り上げられるか。マスメディアに出てきて必死に意見表明しようとするのが本村氏一人、とは思えない。取材に応じたり、被害者の会に加わって活動している人たちは何人もいるのだ。　私は、彼がとにかく重罰化を是とする人たちにとっては扱いやすく影響力のある人だからだ、と思う。　地下鉄サリン事件の遺族として有名な高橋シズヱ氏は、厳罰化の他にも多方面にわたって活動しているのにwikipediaに項目がない。（本村氏はある）ましてや、松本サリン事件の被害者で、自分が犯人と間違われた経験から裁判をきちんとやることを重視する立場の河野義行氏など、近年ほとんど出てこなくなった。　結局、重罰化と言う世論の流れやマスメディアの意見に、被害者は旗印として担ぎ上げられているだけではないか。　その価値がなくなれば、彼についてきてくれるのはわずかな支援者の人たちだけである。そのわずかな支援者が人権派弁護士と呼んで軽蔑・非難してきた弁護士たちの方が、むしろそういう活動に乗ってきてくれるのではないか、と思うほどだ。　1、2年のとき私に刑法を教えていた教授は、死刑廃止論者。それでも、犯罪被害者の会「あすの会」に事務局がおかれる「犯罪被害者と刑事司法研究会」に加わり被害者問題についてはかなり有力な学者となっている。　被害者のために凶悪犯罪者は許せないと思っている人たち。その怒りはとても大事なことだと思うし、どんどん人を説得させる理屈を作って、意見を表明してもらいたい。そうした怒りに応える形で、立法も司法もある程度改革が進められてきたのだから。　だが、その前に一度、「自分はただ単に重罰に賛成したいがために被害者の立場を利用していないか」と自省することを勧めたい。　手前勝手な利用者が旗印にしていいほど、彼らの投げかけている問いは軽くない。

  2006年03月20日

  コメント(0)

• 最高裁は正義の女神の銅像に目隠しを設置せよ！

  　先日時効が成立した札幌信金の殺人事件を中心に、ニューヨークタイムズが時効について語った記事。これを朝日新聞が取り上げていたのだが、関係者が揃って呆れ返っている。さて、以下の文章をなんと訳しますか。In Japan, Justice Is Not Only Blind, It Holds a Stopwatch　not onlyの意味は高校生なら分かるでしょう。「○○だけでなく」と言う意味。「Holds a Stopwatch」はストップウオッチを持っているということ。　朝日新聞でこれを書いた記者は、最初「日本の正義は不平等なだけでなくストップウォッチまで持っている」と訳した。　最初、原文を知らなかったので、ふーん、と思った。日本の司法は平等や公正と言ったところでは比較的よくできてると思うけどなあ、裁判の構造なんかアメリカ流の刑事裁判だし･･･と思って内容自体にしっくり来なかったのだが、まあ心の隅にとどめておいた。　ところがどっこい、後日の夕刊を見ると、朝日が訂正記事を載せている。「日本の正義は公平だが、ストップウオッチを持っている」　だったという。ネットで原文を調べてみてびっくり。そう、誰かがBlindを不平等という意味にとっていたのである。　目が見えないというのを「不平等」とかの意味に取られたのは残念だし、正直なところ憤慨している。別にそれは盲目の人であれば性格が曲がっているという差別をあおっているからと言うわけではない。　実は、正義の女神ジャスティス（ギリシャのテミス・アストレイア、ローマのユスティティア）は、右手に裁きを意味する剣、左手に正義をはかる天秤を持っている。（彼女の詳しい解説はこちらへ）　天秤は弁護士バッジの象徴であり、夜空のてんびん座だ。また、彼女自身がおとめ座になっている。（私は13星座ならおとめ座）　だが、本当はもう一つ、彼女は自ら盲目になるべく目隠しをしているのである。外見やよけいな先入観にとらわれず、あくまで正義のみを公平に見定めるためだ。目隠しは正義に要求される公平の象徴なのである。　私はここを開設して3日目にその話をしたので、これもよければ見て欲しい。　そう、本文の正解は「日本において、正義の女神ジャスティスは目隠しをしているだけでなくストップウオッチまで持っている」と言う訳が私の解答。この文章を書いてきたら私は花丸をつける。　もうちょいわかりやすく「正義は公平だが･･･」でも十分合格だが。　見出し文字の単語の冒頭が全部大文字なのが一つ訳しにくい原因で、「justice」だったら正義の意味になり「Justice」なら固有名詞で「正義の女神ジャスティス」ということで多少分かりやすくなる。　いずれにせよ、外国語能力の低さのために研究者と言う道を放棄せざるを得なかった私の能力からしても、Blindというのを、「不平等」などと取ってしまった上に、それを一度でも堂々と新聞紙上にのっけてしまった朝日の記者。　元英語教師に見せてみてもBlindを公平などと言うように取ることには一瞬えっ？と言うイメージを得たようなので仕方がないといえば仕方ないかもしれないが、司法関係を担当する記者の教養レベルは図らずも露呈してしまったといえる。　もともと、マスメディア関係者は司法関係については極めて素養が疑わしい。　その場しのぎの知識を書き連ねることはできても、こいつ理解できてないんじゃと思うことは何度もある。　最初からアンチ憲法の上に、正直に法律より世論に味方する社論タイプの産経新聞とかは諦めるしかない。　だが、その社論は建前を打ち出すことで有名な朝日新聞が堂々と司法の素養が疑われる記事を載せているのだから、レベルがしれてしまうというもの。　マスメディアの法的ないい加減さは法律関係者にとっては常識と言ってもよい。学者を連れてきてコメントさせたって十分に意味も取れない人間の集まりだから仕方ないのかもしれないが。　しかし、もう一つ今回の事件で思ったこと。　日本では、最高裁にあるジャスティスの銅像に目隠しを設置していない。（写真はこちら）　見栄えがよくない、と言うのもあるかもしれないが日本ではそれは真実から目を背けるものだと考えられやすいためだ、と言われている。外国でも目隠しについてはつけるかつけないかが分かれているようだ。　確かに日本ではそうなのかもしれないが、見栄えはもちろん、「それでは真実から目を背ける」という外野の言い分だって、考えてみれば勝手な先入観ではあるまいか。　マスコミとかが持ってくる勝手な正義論を断固排除するという意味で、なお目隠しの意義は失われていない。　ここは一つ、最高裁は勇断を持って、彼女に目隠しを設置し、正義とはこういうもんだと言うことを頑として知らしめるべきではあるまいか。　それとも、最初から天秤や剣を持たせてジャスティスの銅像と称するのはやめて、新たな正義の女神でも神様でも象徴でも作ってはどうだろうか。　これ以降の話は教養になりますが、反転して読んでね。　この事件について、被害者の遺族の方は「日本は法治国家か」というが、一般に「法治主義」と言う概念は「法律で決めてあればその内容は問わない」というもの。（いわゆる形式的法治主義）　戦前のドイツや日本で採用されていたものであるが、その内容は正直なところどうでもよかったため、法律をいじってしまえばそれまでである。ために、戦前のドイツはナチスによる独裁やユダヤ人虐殺を合法的に行うことになった。　時効制度批判のように、法律の内容をどうこう言うのは、「法律を作る国をも拘束する」こと。それには「およそ国家権力は一定の内容を持った法に従わなければならない」という「法の支配」と言う概念まで進まなければならない。　日本ではなぜか法治国家と言う言葉ばかり多用されるが、現代において重要なのは法律で決めること自体ではなくその内容である。と言うわけで、皆さんも法治国家と言う言葉以上に重要な「法の支配」という概念を憶えてね。

  2006年03月16日

  コメント(3)

• 「囲碁的」な議論のコツ

  　先日、私の先輩のブログでこんな話があった。「体罰の論争をして有利に進めるには自分の土俵に議論を持ち込めばよい」という。　体罰を肯定する派閥にとっては、学校における秩序や安全の維持が大事。否定派閥を秩序や安全維持と言う議論の土俵に引きずり出せば後は攻撃するだけすることができる。　体罰を否定する派閥にとっては、大事なのは体罰による生徒個々人への身体的･教育的･人道的影響。肯定派閥を人権論・法解釈論と言う土俵に引きずり出せば後は攻撃するだけすることができる。　もちろん、先輩も書いていたがこういう議論は聞くに堪えない。おそらくその議論から得られるものは何もないだろう。　実りのある議論において本当に大事なのは「自説と他説の長所と弱点をはっきりと見据えておく」ことである。　そうした能力が要求されるのが、実は現行司法試験の択一試験。　択一試験で、特に刑法で大事なのはさまざまに存在する学説や判例について、その長所･短所などをしっかり頭の中で整理しておくこと。それなりの地位を得ている学説には必ず何らかの長所、学説の対立がある場合にはどの説にも大体短所があるので、整理が非常に重要になる。「この学説に従うのは法律の条文に忠実だけど処罰すべき人間を取り逃がす」（例･コピーの文書性否定説）「この学説は現代型犯罪に対処できるが処罰する範囲が広くなりすぎる」（例･危惧感説）「この学説は妥当な結論は得られるが理論的な根拠に乏しい」（例･胎児性傷害論）などと言った諸々の学説を見据えて、そこにある長所･短所を抑え、議論の概観を把握しておく。　自分で言うのもなんだが、私はそういうのは得意だと思っている。1年半くらい択一試験や択一模試を受けていたが、刑法はほとんど勉強することもなくあっという間に得意科目にした。元々その手の才能（学説を冷静に見据える才能）があったのかもしれない。　さて、そんな才能がある（いや冗談です）私から、ある程度議論を「実りがある議論にして、しかも優勢」にする一つの方策を伝授しよう。　それは、「無理に相手からの攻撃を全て受け止めようとするな」ということである。　そこは自説の弱いところとおとなしく認めること。そんなところを必死に受け止めるより、同等に、あるいはもっと重大な問題点を探し出してそこを検討するのが先である。　議論に熱くなっている人には、相手から飛んでくる自説へのありとあらゆる批判を全て残らず受け止めて、全てにおいて自説の優位性を強調しようとする傾向があるように思える。私自身、それをやろうとしていてはっとしたこともある。　もっと強烈な人になると、相手の議論の土俵（先ほどの体罰の例で言うなら、体罰肯定派にとっての秩序維持の土俵）にわざわざ乗りこんでいって、そこでつぶそうという、血気盛んな人もいる。確かに相手の議論の土俵でまでつぶしてしまえば相手としてはメンツ丸つぶれ、よりどころを持たないいわば議論の落ち武者･流浪の民となる。　そうなれば議論には真の意味で完全勝利と言ってもいいかもしれない。　だが、ちょっと待ってもらいたい。　そんなに簡単にカタがつく問題は、そもそも論争の話題にならないのではないか？世の中で全く疑われていないことにあえて文句をつけているのならともかく、普通はそうじゃないだろう。　ディベート大会でも質問でもなく、議論を仕掛ける、受けて立つような人間ならば、大概の場合は自説に自信を持っている。　場合によっては相手には自分とも他の他人とも現在の法律とも異なる、説得など不可能な宗教的信念や価値観が根底にあることもありうる。本当に突飛なことばかり言っている人は特にそうだ。こういう人との議論は最初から水掛け論以外の何物にもならない。　仮にディベート大会なら、およそケリがついてしまっているような論争はお題にならない。どっちの立場を選ぶかで不公平が生じてしまうからだ。　つまり、議論になる場合、どちらの見解にも長所･短所があるのはほとんど必然。自説だけが全面的に正しくて完全無欠というのはほとんどない。　それなのに、相手の説を完全に封殺してしまおうとすれば相手から思わぬ反撃を食うのはほぼ必然である。　それだけではない。大事な議論の中心が見えにくくなる。枝葉の議論で肝心な幹の議論が食いつぶされたり、一番大事なところでは優勢に進めている議論なのに枝葉で優位を取られて議論の趨勢が意味不明になったりする。これでは議論が紛糾するばかりでそもそも実りある議論にならない。　実際、せっかく今までいい事を言っていた人が、「そこは弱いところ。おとなしく相手に譲った方が･･･」と思って見ているとそこも応戦。でも結局自ら相手の土俵に乗って、大して重要でもなさそうな部分で腰が砕けてしまうようなさまを以前見たことがある。　単に勝敗をつけるゲームだと思ってみている分にはなかなか面白い見世物なのだが、議論はそれでは困る。得るものがなければ何にもならない。　よく考えてみると、この発想は囲碁と同じ。ある程度実力が接近して、ある程度レベルが高い囲碁はそう簡単に部分でつぶせるものではない。　かの有名な囲碁十訣でも、貪不得勝（貪ると勝てない）攻彼顧我（相手を攻めるときには自分を顧みろ）捨小就大（小さいものは捨てて大きいところを大事にせよ）　なんて言うのはこういった論争の方法と相通じるものがある。　　ちょっと乱暴な理屈のもっていきかただが、そういうわけで私は上の赤字のことを「囲碁的な議論のコツ」などと呼んでいる。

  2006年03月03日

  コメント(2)

• 空想にふける。

  　ここ数日、頭の中身が他人から見ればわけの分からない、ありえない世界にすっ飛ぶ時間が長くなったような気がする。たぶんネット上で見つけた、とある小説とMIDIを見つけたことに一つの原因があるのかな。　いまさらながら運転免許を取るために教習に出ているのだが、運転している間にもその小説の台詞が浮かんでくるのだから相当深刻。下手するとあっちの世界からかえってこられなくなりそうだ。　私はまあこの通り法律学を勉強しているが、同時に空想世界への想像にふけることが多い。画才や文才があればそうやって形にするのだがあいにくからっきしその手の才能には恵まれなかったのが残念。絵は幼稚園児レベルかそれ未満だし、文才は語彙力こそまあ自信あるものの文章の陳腐さたるや自分で読んで笑いものである。　もっとも、自分の空想世界を文章にしたって他人はともかく自分はつまらないけどね。　意外かもしれないが、私は空想世界（神話・伝説）についても並みの人よりは知っているんじゃないかなあと思う。　昔々、まだ小学校の頃に、天文に興味があった時代があった。そこで学んだのは星座の知識とか宇宙論とかもそうだけど、それ以上にさまざまな星座と星にまつわる伝説だった。　狩人オリオン（オリオン座）を刺したサソリ（さそり座）。　人を殺した罪を償うべくネメアの大獅子（獅子座）や水蛇ヒドラ（うみへび座）を倒したヘラクレス。（ヘラクレス座）　怪物（クジラ座）のいけにえにされたアンドロメダ（アンドロメダ座）を救ったペルセウス。ペルセウス座）　日本や中国にも七夕の伝説がある。　オリオン座の右肩の星（α星）は赤色、左足の星（β星）は白色、その対比から源氏星、平家星なんていう呼ばれ方もしていた。　当時の私は文系より理数系の方が断然得意だったと思うが、根は文系だったようだ。　そんなこんなで、私自身がそういう話が好きになってしまい、やがて星座の外の世界にもある程度目が向くようになった。　高校時代一番読んだ本は何か、と問われれば、それは法律系の本でも囲碁系の本でもない。法律をやりたいとは思っていても本格的に取り組んだのは大学に入ってからだったし、碁の勉強は好きではなかった。　報道関連問題の本は相当読んだが、それもたぶん第2位だろう。　一番読んだ本は、たぶん「幻想世界の住人たち」（新紀元社）と言う本だ。他にも、「幻獣ドラゴン」「幻想動物事典」「悪魔事典」なんていうのも読んだし、水木しげるの絵本（もちろん高校生でもそれなりに鑑賞に堪える本なのだが）だって読んだ。　当時はそういうものが大好きな人たちのホームページに出入りしていたし、高校生にしてそこでは割と博学な部類だった。（単に私があつかましかっただけかも）3年位前にそこは消滅してしまったが、今でもそこで使われていた絵と小説は自分のパソコンの中に大切に保存されている。　そんな感じなので、ＲＰＧとかをやっていると敵モンスターとかの元ネタが分かることはしょっちゅう。むしろ分からないと調べたくなるタチだ。　そして、ＲＰＧでなにに一番興奮するか、と言われれば人を超越する神獣・魔獣であるとか、精霊･妖精であるとか、そういうものに一番心惹かれる。だからご丁寧に自分の名前（ここでのね）までそんな風につけてしまった。病膏肓に入るというやつである。　　私の地元にも、かなり有名な竜の伝説（注：私が住んでいるところはけっこう都市部だけど、そんな伝説が伝わっているのだ）がある。　小学校の頃その竜の伝説をモチーフにして絵を書いたことがあるのだが、幼稚園児レベルの私の絵がなぜか廊下に張り出されるという一大珍事も起こった。　よほど私はそういう属性があるらしい。　私って変な人だなあ･･･とつくづく感じる今日この頃でした。　また後日この辺の話をしようかな。

  2006年03月01日

  コメント(0)

• 法の世界の悪質教えてくん

  　教えてくん。　インターネットの世界で、自分では調べもしないで教えて教えてと聞いてくる人たちのことを俗称するようだ。　２ちゃんねるでも「ぐぐれ」（googleで検索して調べろ）なんて教えてくん対応語が出来ている。　私自身は元々教え魔でもあり、教えてくんとの間には奇妙な需要と供給が成り立っている。　だからこのブログの冒頭にも「質問どうぞ」なんて書いてあるわけだ。　実際問題、法律を勉強するのは大変なので、自分で調べないで「教えて」と言うことを必ずしも非難することはできない。　ところが、法律の世界に足を踏み入れると、私でも辟易するだろうなあ・・・と言うような悪質教えてくんもいるようだ。私みたいな教え魔さんが辟易しているのを見たことが何度かある。　悪質教えてくんはどういうのか、というと、だいたい以下のような段階を踏んでいく。（１）　まずは自分は法律は知りません、わかんないんです。とへりくだる。　私も含めて質問の内容を見れば大体どれくらい法律を知っている人かはわかるものだが、これ自体は別に何の問題もない。（２）　悪質教えてくんの最大の特徴はそうしたへりくだりと全くマッチしない攻撃性なのだ。まず、質問段階から毒がある。「なぜこんな見解が支持されているのでしょうか？」「司法に正義はないのでしょうか？」「そんなバカな話があるのでしょうか？」というように、質問の端々に否定的なニュアンスを含んでいる。　それでも、こういうのに応対する人も多かれ少なかれ教え魔なので、最初のうちは丁寧に応対している。また、質問段階では毒があっても、説明を受けるとすっきりして、あるいはすっきりしなくともそんなもんなのかなあと言うことで引っ込む人も確かにいる。（３）　だが、質問への回答を受けてやがて悪質教えてくんは本性を現しだす。　彼らは回答に噛み付き始める。決して「補充の説明を求める」などと言うのではない。「それはおかしい」「納得できません」「社会では通用しないと思います」「ハムラビ法典やモーセの十戒ではこうでした」と言った具合で、せっかく出された回答に食い下がってくるのだ。しかもそういう食い下がりの内容はことごとくといっていいくらいポイントを外しまくっているのだから始末が悪い。　　さらに、素人と言っていたはずなのにどこかで聞きかじったらしき法律の条文や裁判例を持ち出してくる人も。基本的な思考がなってないもんだから持ち出したところでやっぱりポイントがずれているのだが。　何より彼らが悪質なのが、回答者が専門的な言葉も交えてちょっと難しい解説をすると、「もっと分かるように言ってください」と言うこと。で、教え魔氏に「少し勉強しては」と言われても全く悪びれもしない。悪質教えてくんの中にはそれどころか、判例や学者なんか信用しないとか、「読めというのはなし」などと開き直るのも多い。　勉強する気もなく、ただ質問に答えてくれと言うのだ。ああいうしゃべりたくてたまらない教え魔さんたちが「勉強しては」と言うということは、もう彼は対応する気を失っているのだろうが、気づかないのか気づかぬ振りをしているのか、悪質教えてくんはしつこく質問を続ける。　かといって、教え魔さんも少し頭にきているのかきびしい口調で解説をすると彼らは「私は素人ですから」「感情論です」と逃げる。（４）　で、最後には教え魔さんの方が嫌になってさようなら。悪質教えてくんの方から「結局疑問には答えてくれませんでした」みたいな捨て台詞が残される。ひどくなると「現行法がおかしいことは立証された」みたいにふんぞり返る人も。　こういう過程を、私はウオッチしている掲示板で私は何度となく見ている。　悪質教えてくんは、実に腹の立つ話術を使っている。　彼らは、「教えてくん」の顔をしてその実は議論を吹っかけているのである。　そして、自分が初心者であることを優位性の源にする。相手が難しくて自分には分からないことや、自分では反論できないようなことを言ったら途端に論客から子どもにはや代わり。「分からない」と嘘泣きして周囲にあたかも自分が弱者であるように見せたり、相手の振り上げた拳を止めたりするのだ。そして相手のアラを見たとたんに論客に戻って厳しい非難を吐くのである。　つまり、自分は非難も批判もされない立場に逃げ込み相手を一方的になじり倒すために、教えてくんに化けて近づくというのが彼らの常套手段と言うわけだ。　意図的にそうしてくる連中は論外である。そんな人間は議論と言う「対等の土俵」に立つ資格のない者なのである。私など、そんな書き込みをする人間の投稿は容赦なくさらし者にする。　もう一つ、知らず知らずのうちにそうなっている人もいるかもしれない。　法律系の事項については質問をすると言うのは「納得できない」と言う動機のもとに行われることが少なくないためだ。それが行き過ぎれば、知らず知らず「悪質教えてくん」ともなるだろう。　個人的には、「知らない」と言うのは恥ずかしいことではないと思う。知らなきゃ何も語れませんと言うのでは困るのは確かだろう。　でも、法律学の世界は極めて多岐に渡っている。基礎的な部分をマスターしている相手でないと、人を納得させることは難しいのだ。どんなにうまい説明の方法を用いてもである。　理解できないのは説明が悪いからだとか思う人で囲碁がわかる人は、アタリの意味が分からない人にプロ棋士の着手の意味を隅々まで彼に得心が行くように、しかも1日以内で説明してみるとよい。　もともとどんな分野でもそれなりのことを語り、理解するためにはそれなりの苦労がいる。　その場限りの勉強と質問で全てを理解･納得させてほしいというのなど、ないものねだりと言われても仕方がない。　「どうしても納得できない！！」を他人にぶつけるのではダメ。「よーし、納得してやろうじゃないの」と言う考えの元で質問し、学んでこそ実りがあるのだ。それが出来ないなら、自分で調べるのが大原則。それも嫌なら、もう他人には聞かないことである。　教え魔さんはもちろん、他人は教えてくんの不満解消用サンドバッグなどではないのだから。

  2006年02月27日

  コメント(1)

• 18日の日記

  >>>>六法全書を選ぼう今日は合宿にお出かけなので携帯から短めの文章を。六法全書。日本の法律の中でも重要なものがずらっと書いてあるものだ。六法とは、一般には「憲法」「民法」「刑法」「商法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」を指す。ただ、商法は今後「会社法」が出来たりして大規模に変わっていくのだけど。まさかとは思うが、ここを見る人の中で今後法学部ないし法科大学院に行きます、と言う人もいるかもしれないし、まあインテリア代わりに一冊おいておくということで六法全書の購入を考えている人もいるだろう。法学部の学生ならやはり六法はしっかり用意したいものだ。私のところでは、入学のときに去年試験で使ったらしきデイリー六法をただでくれたけども。まあそんなわけで、今日は六法全書について。まず、六法全書の選び方である。「デイリー六法」「ポケット六法」「コンパクト六法」なんていうのが学生さんが普段使うのにはお勧め。それで十分。法律の条文を見れば、それに関連する条文が書いてあるし、体裁も見やすいし、収録法令も十分な量だ。また、判例六法と言って法律の条文ごとに重要な判例が記載されている六法を使ってもよい。実際私は「コンサイス判例六法」なんかを愛用している。慣れている私には便利だけど、慣れないと条文より判例が多かったりするところは見にくいかもしれないので、中級者用と言ったところか。また、広辞苑みたいなボリュームのある六法として「小六法」なんて言うのもある。持ち歩かずインテリアとして家においておく六法ならこんなのもよい。司法試験で受験生が試験中参考にするために配られる司法試験六法はどうか？司法試験受験希望者は早くからこれを使う人も多いみたいだけど、これは私は勧めない。司法試験六法は収録されている法令が少なく、使いにくく、見にくく、そのくせ高い。普段の勉強には間違いなく使えない。ある程度司法試験の勉強が軌道に乗ってから、司法試験のためだけに買うのを勧めますね。教育六法、保険六法、税務六法なんていうのもあるけど、そういう六法には保険法や教育法や税法しか書いてない（民法も刑法も書いてない）ので、労働法や保険法を取るのでなければ買っても意味はほとんどなしである。　さて、そうやって選んだ六法には、大概どの法律がどのページにあるとか言う目次が書いてある。それに沿って見ていけばよい。　また、例えば刑法199条「殺人罪」を見つければ「予備罪、未遂罪、特別規定・・・」と言うように殺人罪に関係する法律の条文を調べることができる。　「こんな問題があるんだけどどこを見ればいいの？」と言う疑問をお持ちかもしれないが、それは答えられない。それはある程度勉強して見えてくるものだし、場合によっては六法に書いていない特別な法律があったりもするので、六法を見て自分でなんとかするより、解説の本を見るとか弁護士さんに相談した方が無難でしょう。そして、学生さんは六法は基本的には毎年買い換えるように。古いのを古本屋とかから仕入れちゃいけませんよ。主要六法だけでも改正がけっこうされているので、とても追いつかなくなる。（私は「その年の六法が古本屋にあった」のを買ったことがあるけど、そんな場合でもなければ・・・）>

  2006年02月18日

  コメント(0)

• 伊福部昭先生死去

  　「ゴジラ」の音楽で名高い伊福部昭先生がなくなられた、と言う。　私はゴジラ映画を全体の半分ほどしか見ていない。だからどの作品がよかっただとかなんだとかはいえない。まして、繰り返し聴けるゲーム音楽ならともかく、一発しか聴かない映画音楽ではそうそう思い出せない。サントラなども別に買っていない。　まあ映画は音楽ばかりが目立っては困るわけであって、映画音楽とはそもそもそんなものなのかもしれない。RPGなら行動を止めておけば音楽だけ聴いてられるけどね。　映画音楽で、私が一発でメロディーを覚えた音楽など「モスラの唄」くらいのものである。これは歌つきだし、作中どころかCMで何度も歌われていたしと言う特殊な条件がそろっていたもの。たまたまテレビ放映していたやつを録画しない限り私が覚えている音楽は少数であるし、今日の話もそういう中からの話である。　しかし、ゴジラが進んでくるときによく使われるあの重々しい音楽（もちろん伊福部先生作）は映画以外でも使われまくっていて大いに記憶しているし、作中の人物がいやおうなく味わう「理不尽な恐怖感」を表しているといえる。　以前ゴジラ関係の映画では唯一すぎやまこういち先生が担当した「ゴジラvsビオランテ」の音楽なんかをちらっと褒めたが、どちらかと言えばあの作品は怪獣ものではかませ犬の役割しか果たさない自衛隊が恐ろしく奮闘する映画である。ゴジラが口から吐き出す熱線を１万倍にして跳ね返すファイヤーミラー（！）で、ゴジラを敗走させたりしているのだ。　当然そういうところでは重々しいというよりはリズムよい音楽が使われることが多く、ゴジラを敗走させたシーンで使われた音楽は私はかなり好きである。「ゴジラvsデストロイア」ではスーパーX３（３はローマ数字）という冷凍兵器を満載した特殊戦闘機がゴジラを一時的に氷漬けにしたのだが、そこでの音楽（伊福部先生作）より私は好きだ。　だが、聞き比べてみると、伊福部音楽に比べてすぎやま音楽では恐怖を感じるような重さと言う点では及ばないことがなんとなく感じられる。　すぎやま先生が音楽を作った作品でゴジラと戦ったビオランテは身長が当時のゴジラの１．５倍、大地をぶち破って裂け目から現れ、ゴジラを食い止めるだけの防衛ラインを触手でハエのように叩き潰し、大地を揺るがせて口のついた触手を振り乱してクモのような脚で突進してくるという、ゴジラよりはるかに巨大で重量感のある怪獣である。　だがゴジラとビオランテの戦いの音楽よりも、ふわふわと空中を浮遊しているモスラやバトラとゴジラが戦っている音楽（伊福部先生作）の方が何倍もの重量感を感じるのである。もともと作中で神獣であるモスラに捧げる歌「マハラ　モスラ」をアレンジした曲なのに、である。　元々ゴジラ系の怪獣映画ってどんなものだろうか？　ゴジラとは、「本来恐怖の存在」である。人間などネズミともアリとも思わぬ圧倒的な大きさと火力で情け容赦なく踏み潰す。それが原水爆の恐怖を体現したゴジラではないだろうか？　ゴジラと肉食恐竜の姿は大きく違うが、なによりも大きな違いとして肉食恐竜はゴジラのように尻尾を引きずって歩かないし、かかとをつけて歩かない、と言うものがある。そのように重々しく止めることの出来ない歩みこそ、ゴジラの恐怖だと私には思える。　そしてゴジラにとって最大の武器は生命力。彼は人類が兵器を持ち出しても滅することは出来ない。　ミサイルを撃ち込もうが、特大のレーザー砲を何発も命中させようが、雪崩に巻き込もうが、火山に落とそうが、メカゴジラを作って戦わせようが、やはり彼は生きている。情け容赦なく進撃してくる。　初代ゴジラを倒した薬品「オキシジェンデストロイヤー」というのもある。だが、これは作った芹沢博士が原水爆と同等の兵器になることを恐れ、自らの命と引き換えに使用したものだ。そんなものでない限りゴジラは倒されないし、また倒されてはならないのである。　アメリカ版のゴジラが不人気である理由も魚を食ったとか足が早かったとかより橋のワイヤーがひっからまって普通の戦闘機のミサイルで死んでしまったことに一つの理由がある。　ゴジラが死ぬとなればそれは地球もろとも･･･と言うのは最終作と銘打って作られた「ゴジラvsデストロイア」のストーリー。　そんなゴジラも、シリーズ作品化するに当たり、キングギドラとかモスラとかメカゴジラと言った怪獣との戦いを描くようになっていった。ゴジラは子どもの人気者となって、「シェー」をやったりしたし、テレビ番組に出張したりもしているそうだ。これは時代の趨勢と言うやつかもしれない。　しかし、本来ゴジラの恐怖はその生命力と重々しさで進んでくることにある、と私は思う。　そして、その恐怖を厳しく体現しているのがあの曲だと私は思っている。他の曲ではどうもそれには足りない。伊福部先生と同じくこの手の音楽家として一方の雄だと思われる（私はほかにこの手の作曲家なんか知らないけど･･･）すぎやま先生の音楽をもってしても、それは出せていないと思う。もちろんそれは作風に由来するものなのかもしれないけど。　音楽など何も分からない私がごちゃごちゃと色々語りましたが最後に一番大事な言葉を。　　　　伊福部先生、どうもありがとうございました。ご冥福あれ。

  2006年02月11日

  コメント(0)

• 統計の落とし穴

  　そろそろここもネタが尽きてきたかな。　最近めぼしい判例が見当たらないと言うのもあるけど。農心杯は下旬までないし、ＬＧ杯の決勝も予選も春蘭杯もＣＳＫ杯もしばらく先だし。まあ法律関連でネタ切れしたら囲碁記事のブログとして存続するんだろうね。　ちなみに先週私を半目で破った人は結局県の決勝まで勝ちあがったようです。　さて、今日の本題は統計のお話である。　統計は便利なものであると同時に物事を把握するのに非常に重要なものだ。統計を読みもしないのに想像だけでものごとを語っても誰にも信用されない。　実際殺人事件が増えているというイメージはむしろマスメディアが一部の残虐な事件をセンセーショナルに扱うためだ、と言うのは半ば常識。殺人の率はそう上下していない。　では、統計から増えた、減ったがあったならそれは全面的に信用できるのか？　残念ながらそんなに甘いものではない。だいたいそれなら統計学などと言うような学問はいらないであろう。犯罪学と言う講義で私が知ったのは、統計の「裏」である。　犯罪白書を読むと、犯罪の傾向が次から次へと現れる。これを読んでみると、統計で見る中である年いきなり犯罪が増えたり、減ったりするという現象はけっこう頻繁にある。　これを見て、犯罪が増えた・減った…と言う見方をするのはあまりに読みが甘い。囲碁の基礎たる3手の読みにも達していない。数値の後ろ側にある事実を見据えて初めて読みと言うレベルのものに達するのである。　確かに統計を見れば犯罪は増えているし、メディアは統計をそのまま出すし、それを見て市民は犯罪に不安を感じることが多くなっているようだ。では実際に犯罪が増えているのか。これは実は学者の間でも意見が分かれているところなのである。　そもそも、常識的に考えれば人間の行動はある年急激に増えた、減ったなどと言うことは考えにくい。個々人としては180度の人生転向かもしれないが、日本人の母集団は1億以上いるし、犯罪者の母集団だって何百何千人もいるのである。そう簡単に率が増える、減るということは常識的に考えられない。　和歌山の毒カレー事件の後、あちこちで毒物を混ぜるような事件が起こったが、それもメディアが類似事件として殊更に取り上げたからで、模倣犯だとしても統計を動かすものと考えるのは難しい。カレー事件をモデルに毒物を使わなくともでは代わりに包丁で…ということで殺人と言う統計は結果として動かないことだってありえるのだから。　それで裏まで見据えて検討してみるとまたいろいろなことが分かる。以下に例を挙げてみよう。一、ある年自転車泥棒が急激に増えた場合　もちろん駅から遠いところでないと家が構えられなくなったという社会状況で「増えた」ことも考えられる。　しかし、もう一つの要素が防犯登録制度。それまで防犯登録などない時代には自転車など盗まれたらかえってこないし被害者もあてもなく探し出すよりおとなしく買い直そうか…と考えるのに、防犯登録制度で警察が自転車泥棒に本腰を入れざるを得なくなったうえ、諦めない人が増えたと言われる。　要するに、「これまで出てこなかった犯罪」を被害者が訴えるようになったために、「犯罪が増えた」「検挙率が下がった」などということが十分に考えられるのである。　この例は非常に多い。ある年強制わいせつの事件が増えたのも泣き寝入りをしないキャンペーンで被害者が訴え出るようになったためだと言われているし、器物損壊の増加は自賠責保険で保険を受け取るのに被害届が必要になったからといわれる。戦後すぐ麻薬使用犯が増えたのも、麻薬がそもそも現在のように幅広く禁止されるようになったのが戦後というオチがついていたり。　特に、ガケのような急激な増加はまずこうした状況を疑ってみないといけない。特に過失犯の急増はもう確実にそう思ったほうがよいと思われる。医療過誤訴訟（民事だけど）の近年の増加などもその一つだろう。二、例えばある年強盗が増えた場合　強盗など「治安が悪くなった」と考えられる要素となる犯罪の典型例であるが、近年増えている強盗にも注意が必要である。それが「カツアゲ」だとか「オヤジ狩り」と俗称される犯罪である。　こうした犯罪は、従来強盗罪より軽い恐喝罪で処断されてきた。しかし、恐喝と強盗の境目は実は「脅しがどれくらい強度であったか」ということ。かなりあいまいだ。実際のところ、強盗の罪は最低で懲役5年と改正前の殺人罪より重いので検察官もその程度の考慮を働かせざるをえなかったといわれる。　だが、昨今の被害者重視の風潮を考え、少なからぬこれまで恐喝で済まされてきた事例が強盗になっていると指摘されるのだ。　また、「ひったくり」もひったくるに際してケガをさせることについて強盗とする法解釈が生まれたため、強盗罪の射程が広がっているのだ。　こうした犯罪を除いてしまうと、強盗の増え方は相当緩やかになっているのだといわれる。　犯罪がどれくらい行われるかは極めて大きな要素が絡み合っており、そしてそこには法制度のあり方、警察・検察を中心とする検挙制度のあり方、広く染みとおった国民性（？）も深く影響している。表面的な数値を表す統計だけで分かったつもりになるのは相当に危険なのだ。　もちろん学者と呼ばれる人たちも、そんなことは理解した上で、それでも増えているか増えていないかと言うので論争していると思われる。受刑者個々人に面談を取るわけにもいかない（面談に応じるような人はそれ自体に一定の傾向がある恐れは高い）以上、実際には相当難しい水掛け論になるおそれもあるのだ。統計の魔力には気をつけましょう。

  2006年02月06日

  コメント(0)

• 精神論は要注意

  　元々書き溜めている文章に精神論の話があったのだが、ちょうど私の先輩のブログで精神論の話が扱われたので尻馬に乗って私のつくった話をここで出してみよう。　日本人と言うのは、何かと言うと精神的な領域が大好きである。　字を書くことを「書道」と称し、お茶の産地のあてっこを「茶道」、体術を「柔道」、弓使いを「弓道」、竹刀チャンバラを「剣道」、ボードゲームを「棋道」と称してその世界を半ば芸術のように称し、そしてその名にふさわしいものに高めてきた。　「○道」と称されるものは、傍から見ればなんでそんなにお高くとまっているのか意味不明なものばかりである。字が書きたいなら書道なんかしてないでパソコンでも勉強したら？思考力で勝負したいなら囲碁や将棋みたいにそれ自体1円にもならないことなんかしないでテストで勝負でもしたら？と言う思考はなんとも合理的だ。　なぜだ？と言われても、それは日本人がそういうものが好きだからだとしか言いようがない。こういうものを精神的に自分を高める物にしたがるのが日本人なんだろう。　こうした日本人の精神的な面の是非をあえて問うつもりはない。理念論としてはなかなか美しいものではないか、とも思う。それは、私も日本人であるゆえかもしれない。　それはよいのだが、最近何かにつけてよくないことを精神のせいにする動きがあるように思う。日本棋士が勝てないのはハングリー精神が足りない、気構えが足りない。鍛えるのも精神、精神、精神。悪い結末は皆精神が悪いかのようである。　精神の作用によって人間の活動や身体が大きく動かされるのは事実だろう。丑の刻参りが呪いとして認知されるのは呪われたことを知った人が精神的に自ら崩れていく、いわゆるプラシーボ効果に由来するとも言われるほどだ。　しかし、だからと言って何もかも精神のせいにして精神批判をするのは筋違いの感を免れない。　精神論は、誰にでも使いやすい。人間ならまず誰でも精神的に弱い部分はある。実際には365日24時間精神に最大限の緊張を与えた日には身が持たないだろうが、そういうところが心当たりになる。　しかも客観的に数値が出ない。精神が足りないからだ、と言えば特別具体的な根拠がなくても、一応説得力を持って聞こえる。　こういう言葉こそ最大の曲者である。　誰が言っても正論っぽく聞こえるということはいかに根拠のないやっかみであれなんであれ反証・論破することができないということである。　原理的に考えてみよう。　囲碁だろうがサッカーだろうが資格試験だろうが何より大事なのは基礎体力である。サッカーであればグラウンドを走り回る体力、囲碁なら読みの力あるいはそれに替わりうるだけの知識の力、資格試験なら何より知識である。残念ながら精神ではその欠如を埋めてしまうことはできない。　いくら精神の働きが大きいといったところで、その力には限度というものがある。「もともとある力を充分に発揮する能力」こそが精神であり、「ない力を引き出すもの」が精神ではない。　それ以前の基本的なテクニックや体力の問題を真っ先に検討した上でそれでもダメなときに初めて精神と言うのが出てくるべきであろう。囲碁、それもトッププロの世界なら本当にギリギリまで詰めて詰めてやっと出てくるのが精神論であろう。　大学選手権で早稲田が敗れて、観戦記を頼まれたがそこからも精神論は基本的に排除している。精神以前の問題を追及すべきであって、答えの出ない精神論などに首を突っ込んでも役に立たない。立命･東北と早稲田の差は精神ごときで埋められる物ではない、と感じたのである。　こうした精神論の弊害を考えたことはあるだろうか。　好例が学校の部活動。うさぎ跳びなど何の効果もないとスポーツ科学的には立証済みらしく、さらには炎天下で練習しても水を飲ませないのが根性の育成に役立つなどということで一時は普通だったらしい。　そんなことをやって、前途有望な選手たちが熱中症で倒れたり、スポーツが出来なくなったばかりか今後の人生を障害つきで生きていかねばならなくなったともいえる。　もっとすごいのがあらゆる困難を根性で克服するスポ根漫画。　一時大ブームになったそうだし、「芸術品」としての評価に文句を言う意図はないが、あのようなスポ根漫画のとおりのことをやったらどうなるか？あれは作品だから許されることであって現実世界でマネをすることは許されない。　ケガをしている選手が「チームのため」と称して、痛み止めを打って痛めた腕やら足やらで強行出場。冗談じゃない。前途有望な選手たちを壊す気か。現実の世界でそれをやって体を壊したら、監督や責任者は何千万もの損害賠償を支払わされて懲役○年の判決を受けたところで文句は言えない。　「巨人の星」の星一徹なんて、確実に児童虐待と言うことで息子を取られるだろう。　精神を鍛えるのも決して不要なことではない。でも、世間一般で使われる精神論は、少なからず「とにかく批判したいのでその材料」になっていないか。サッカーのことがまるで分からない人が、日本が勝てないけど理由が分からない、でも批判したい、だから精神を持ち出すというようなことになってないか。　精神論を語るほうにも、精神が必要なのかもしれない。

  2006年02月03日

  コメント(2)

• 日本人の裁判嫌いと裁判官裁判

  　日本人が（民事）裁判嫌いだ、と言う話はよく聞かれる。刑事裁判は嫌いでも何でもやらなきゃしょうがないが、民事裁判は本人がやらなければはいそれまでだ。アメリカだと何かとすぐに裁判所に持ち込まれてしまうのだが、日本では裁判をするのはめったなことではない。企業関係者とかならともかく、そこらの市民が近所の人を訴える！なんて「行列のできる法律相談所」みたいなことは意外なほどないのである。　その原因はなぜだろうか？といっても、これらは極めて色々な要因が複雑に絡み合って現在の状況をなしているのであって、とても一つに絞ったりできそうにない。　要因を一つ挙げられればまあ一応正解、と言うことになる。今日はそのうち一つをピックアップしてみよう。　要因その1として挙げられるのが、日本人の文化的気質、義理人情が裁判と言う場を嫌うからだ、と言う意見である。そもそも裁判と言う場に持ち込んで、黒白はっきりつけること自体や日本の裁判所の環境が好きではないのだ、と言われる。　裁判に訴えて勝ったら「訴えるとは何事だ！」とばかりに原告に全国から抗議殺到と言う事態（こちら）もあった。黒白はっきりつけてしまう裁判は共同体の平和を乱すとして、「裁判キチガイ」みたいな烙印を押されることになる。　また、司法試験が難しいと騒がれるために、裁判官や弁護士が敬遠されるのもあるだろう。二股人の個人的な意見からすれば、一度受かった人はたぶん二度と受けない司法試験に受かるより経験者続々の囲碁でアマ県代表になる方が大変なんだけど。　要因その2として、裁判や他の法律制度が機能不全だから（あるいはそのように国民に思われているから）、とも言われる。　日本の裁判と言えば長くかかるので有名だ。弁護士も都市部に多く、「島根の弁護士」なんてマンガができるくらい過疎が深刻。訴えること自体に金もかかってしまう。その上勝てる保証なんかないし、裁判官もどうも信用できない、となると尻込みしてしまうというわけだ。　最近は少額訴訟制度（民事訴訟法368条～）ができているし、簡単な裁判なら弁護士なしで裁判を起こす本人訴訟だと安くあがる。この辺がうまく利用されるといいね。　さて最後が本日の話題である。　要因その3。　それは、予測可能性が高いから。　・・・と聞いても何のことかわからないと思うので、少し噛み砕いて説明してみよう。（１）日本の裁判は裁判官裁判である。裁判官は、どこの裁判官でも皆同じ教育を受けている。弁護士も同様である。（２）日本の法制度はどこに行っても同じ。条例と言うのもなくもないが、基本的な法制度はどの都道府県でも同じである。（３）日本の裁判では判例が非常に重視されているので、過去の判例の通りに裁判がなされることが多い。（４）日本では裁判所の方で、障害が発生した場合の慰謝料や損害賠償の金額の算定式がしっかり公表されている。（５）日本人は裁判嫌いのため、裁判するときも慎重になり、弁護士に何度も相談する。　これくらい説明すれば、だいたいこの事かな？と言うあたりがついてくる人もいるかもしれない。　そう、日本では、裁判をするときに裁判しなくても判決の予想がだいたいついてしまうのである。裁判官も弁護士もみんな同じ法曹なので、思考回路もだいたい画一化されているし、過去の判例やそれに基づいて算定される金額の威力が絶大すぎるのだ。　もし判決の予想がつくとなれば、当事者も、裁判所や弁護士に高い金を払って、「訴訟キチガイ」などと言う烙印を押される危険を負ってまで裁判をする必要はない。裁判の外で、予想される判決の通りに金を払って、紛争はこれでおしまいにしましょうという和解契約を結んでいることが考えられるのだ。　一番典型的なのが保険会社である。保険会社は別に裁判所でもなんでもないので、保険会社の支払う金額に本人が不服だといって裁判と言う場所に出ることは理屈の上では可能だ。だが保険会社はその道のプロ。専門の弁護士よりくわしいかもしれない。みすみす裁判で変更されてしまうような金額なんか提示しない。おとなしく保険会社の払う金を受け取って、これにて一件落着と言うわけだ。　アメリカなんかだとそうは行かない。何せアメリカは民事でも陪審制度がある。どういう教育を受けたか定かではないような陪審員の判断が裁判の行方に直結してしまう。その上州によって法律が違ったりする。　更にアメリカには「懲罰的損害賠償」と言う制度があり、本人が受けた損害のほかに、損害を与えた人間に懲罰として損害賠償を命じることができる。損害が1000万なのに懲罰賠償はその何十倍もと言うことだってあるようだ（企業が敗訴した場合）。　実際、アメリカでは泥棒が「自分が屋根に上ったときに屋根を踏み抜いてケガをした。屋根の管理が悪かったからだ。」と訴えたら泥棒が勝訴するというような、日本では考えられないような裁判で考えられないような判決が出されたりもする。　だから判決の予想などまるで立たない。だから、「とにもかくにも訴えてみよう、もしかしたら勝てるかも」というようなことになりやすくなるのだ。　裁判があって、判決に納得できない人たちが、よく「日本の裁判は判例主義で硬直しきっている･･･」というようなことを言ったりする。　しかし、実際のところそうした裁判のあり方によって裁判を使わなくてもすむような仕組みがある程度出来上がっているのも事実なのだ。　判決に納得がいかないとしても、日本の裁判が硬直していることを非難の材料にするのは筋違いだ、と個人的には思う。

  2006年01月31日

  コメント(1)

• 法解釈について

  　さて、あさださんからトラックバックされた内容について、どう答えようか。　個別に答えるのは簡単なのだが、かえって大事な部分が削げ落ちる可能性もあるので、それなり重要な部分について本質論っぽいことを語ってみよう。個別の意見ないし疑問については、別に向こうにコメントすることにする。読みたい人はそちらへ。　先に言うけど、あさださん自身がぶつけているのは本音であって、私がこれからするような「建前論バリバリ」の言い分を聞いてどういう感想を持つかはわからない。反感を覚えるかもしれない。ただ、日本の司法を含めた政治の基本理念はそうなっている、としか私にはいえないのである。　私の書いていることは「今ある考え方からすればだいたい正解」と言う自信はあるが、その考え方を正しいと考えるかどうかは、皆さん次第である。私は今ある法は根拠はあるものだとは思っているが、全部正しいなどと言う保証は到底私にはできかねるのだから。＞ある結論を出すのに、複数の有力な説があるなんて状況はちょっとおかしい。独自の説を提唱する人がどこかにいて、どこか私の知らないコミュニティーでそのうちどれかが有力と判断され、(将来司法を担う)司法試験を受ける人はそれらを勉強しておかなければいけないなんて、とても民主主義的とは思えない。勉強していて、そういうことを感じたりはしませんか？＞「司法は法律を解釈適用する国家作用」というけれど、司法の中にいる個々人に対しては、おまえにそんな重要な権限を与えたおぼえはねーよ、という感情があります。受忍限度がここまでとか、発明者の貢献度が何パーセントとか、何でおまえが決める？何を根拠に？裁判官がそういう権限を持っているのは、形式的には国会に任命されたから、ということになるのでしょうか？でも実質的には法の理論を学んで司法試験を突破してきたからですよね。でもその理論に疑問を持っている人間にとっては、そんなの全然根拠になってないんです。　あさださんの言い分を一方的に解釈して見当違いなことを言うことにならないよう引用したつもりだが、原文へのリンクも提示しておくのでこれ以降の話を読むなら必ずこちらを読んでくだされ。　まず、司法権とは歴史的に「法律を解釈適用･宣言することによって紛争を解決する作用」である。こればっかりは歴史的に認められてきた概念であって変更のしようがない。その内容を突っ込まれても「なぜ将棋の歩は一歩ずつなのか」という問いと本質的に同じで、答えようがない。　ここで注目しなければいけないのは「法律を」解釈適用する、ということ。　法律の解釈適用をする、ということは、「法律があることを前提に」それをどう扱うか、というのを考えなければいけない。口癖のようになってきたが、何事も「よきにはからえ」で済ませてよいのなら、最初から法律なんかいらないのだ。　「よきにはからえ」では、国民は自分の行動を裁判所がどう判断するかわからなくなって、どうすればいいか全くわからなくなってしまうし、裁判官だってどのように考えたらいいか雲をつかむような話になってしまう。普通に暮らしている分には大げさな話と思われるかもしれないが、企業法務などなにがよくてなにがまずいのか分からないと、本当に関係者は困ってしまう。　そして、法律の解釈適用と言うのは、相当に専門的な能力が要求される。　「既にある法律を尊重」しつつ、「現実的に妥当な紛争の解決」を裁判官はしなければいけない。そのためには行間を埋めて法律を解釈しなければいけない。しかも、私はここでは分かることだけ書いていればよいが、裁判官は分からないからといって、裁判を投げ出すのは許されないのだ。　それをするには、法律に関する「体系的な知識」と「感覚」･「論理操作能力」が必要になる。そういう能力があるかどうかを確認するのが、司法試験なのだ。　さらに、専門家的な視点から、憲法に規定された国民の権利を守るために、違憲立法審査権（憲法８１条）と言う権限が裁判所にはある。国会や行政の判断は多数決民主主義に基づくものであることから、多数の人の言い分ばかりが保護され、少数者の権利は忘れられがちになる。もちろん国会議員や各種の大臣だって憲法尊重擁護義務（憲法９９条）があるとはいえ、彼らは専門家ではない。誤った判断をするおそれだってあるだろう。　そこで出てくるのが裁判官･裁判所と言うわけだ。そして、裁判所が多数派の意見に支配される国会や内閣に操られていては少数者の権利が守れない。　また、専門家的な判断には、残念ながら「アマチュア」国民からの批判はなじみにくい。囲碁の世界の話にすると、日本棋院ホームページで、プロアマ多数決碁をやったらアマは４子で２回も敗れた。専門家の力はアマが何人束になったところで、比べ物にならないのである。　だから、裁判官を他の国家機関や国民が安易にいじることは許されないことになった。国民は裁判所に対しては国民審査しかできないし、さらに国会や内閣と言った機関に対して司法の優位を主張する「司法権の独立」と言う言葉も生まれるようになったのだ。　当然、その裁判官が法律の解釈なり、金額の算定の権限を持っている以上、裁判官が社会の様子とか、世の中の習慣とか、経験則とか、そういうものに基づいて自分なりに妥当だと考えた金額その他をするのが当然だ、と言うことになるのである。　　もちろん、裁判官の解釈だって、無制限やりたい放題などでは決してない。上述したように、なにが合理的で、法の建前に合致するのかしっかり認定する力に基づいて行われることが必要であるのは言うまでもないことだ。　ただ、なぜ裁判官にそんな･･･と言われて、建前だけで回答するとこうなるのである。

  2006年01月30日

  コメント(0)

• クイズ＄ミリオネア

  　昨日の夜はクイズミリオネアなんぞを見ていた。　もともと芸能系をのぞけば雑学は大好きなのでミリオネアは相当好きだし、正答率も並と比べれば相当高いと思っている。　私は小泉孝太郎が１０００万円を分捕った問題も、横峯さくら７５０万円も、渡哲也５００万円も肢を出る前に答えを言った。昨日を除いて過去の１０００万円問題で正答を知っていた回数４回。別に毎週見ているわけでもないが。　私の大学で行われた何百人も参加するクイズフェスティバルも２回参加してベスト２０が１回、ベスト２６が１回だ。　さて、新年を理由に一渡り自慢したところで、ミリオネアと言う番組についてちょっと考えてみた。　私は、まずクイズミリオネアの賞金はとっても高いと思っている。　あの程度で１００万、１０００万と言うのは私からすれば異常に思える。それはお前が雑学できるからだろうと思われるかもしれないが、そうではない。　昔やっていた似たような番組に、「ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー」がある。これは賞金が１００万円であったが、これが激難。電流イライラ棒が筆頭だが、ミリオネアと似ているのはなぞなぞ１００問とか、漢字１００問とか、テレビヒーロー１００問とか、アニメキャラ１００問、イントロ１００問とか、とにかく解く問題が１００問全問正解で１００万円というやつだ。　問題の数がとっても多いこともさることながら、問題の内容もマニアックなことこの上ない。漢字１００問など漢字検定１級でも生ぬるいような問題を平気で出してくるのだ。もちろんそこに選択肢やライフラインなどない。　それからすれば、ミリオネアは中学生レベルの歴史問題が解ければ１００万円で、その上ライフライン３つ。うらやましいことこの上ない。　あと、出場者の皆さん、ライフラインのテレホンはもっと工夫しましょうよ。事前の打ち合わせはもっとしておくべきだし、とりあえず辞書・地図・インターネットくらいは用意しておきましょう。特にインターネットで答えが出てこない問題はなかなかないよ。　あ、もし私にテレホンを依頼したい人がいたら私に聞いてきた問題の賞金の１０％で応じますよ。もちろん正答を教えればの話だけど。誤答なら？じゃ交通費プラスαでも。　さて、そんなミリオネアが裁判になったことがあるという。　「マヨネーズの語源に関する問題で、学説の分かれている問題を出されて、分かれている学説の片方で答えたら外れにされた」ということで差額を支払え！と言う裁判があったのだ。　判決は知らなくて、内容は昨日裁判があったことを思い出して検索して知ったが、どうやら訴えは認められなかったようだ。　判決の理由は「クイズ番組で解答を設定する権利は番組側にある。ついでに男性が選んだ解答も正解とはいえない」と言うことだったらしい。　番組の用意した解答が外させるために用意したものだとか、思い付きを書いたような存在するかどうかも怪しい珍説であるとか、そういう著しく不合理なウソである場合はともかく、基本的には解答者も番組作成者やテレビ局の自治に従うことを前提に番組に出ているわけだし、そういう自治に基本的に法律は介入しません、と言うことなのだと推察している。　確かに分かれている学説を両方解答の肢にのせたことは全くもって非難されても文句は言えない話だけれども、だから番組の言っていることは無効と言うわけではないのである。　こういう一定の団体の自治を尊重する考え方はけっこう法律的にも重要で、特に学校関連の法律問題などにあちこちに出てくる。考え方を知って置いて損はない。　それにしても、訴えた人は裁判の費用でとりあえず少ないとはいえ手にした１００万円も吹っ飛んでしまったのではないかと推察しているが、ミリオネアに出場する人たちにとってはよい教訓になったのではあるまいか。　ということで、もし今年に入ってアタック２５とか、クイズミリオネアとか、そのほか色々の理由でどこか他人が主催するクイズに出る人たちは、もし仮にそういうことがあっても裁判所は助けてくれないよということをよく踏まえて出るように。

  2006年01月03日

  コメント(2)

• 新司法試験の解答から

  　月曜日、ゼミの教授からこんな話が聞けた。　新司法試験でも、論文を書かせる。いくつもの問題点がちりばめられている仮想的な事案を作られ、それに学生が法律的な頭脳を駆使してどのような思考回路でその事案を解決するかを論じなければならない。　それで、新司法試験に向けた予備試験のような問題を作り、法科大学院の学生に解かせてみた、と言うのである。評価はあまり全体的にみて高くない、と言うことだが、評価の高くない答案に3パターンあった、と言うのである。　これがなかなか聞いていて考えさせられる。　3パターンのうち一つは、　「長―い問題に対処するためにあまりにコンパクトにまとまりすぎていて面白くもなんともない」というものらしいのだが、これは今日の話題の目玉ではない。現在の問題ではこういう答案が増えるのは仕方ないという指摘もあり、今後の検討課題になるようだ。　ちなみに、下記の2つよりは評価が高いそうである。　残り2つが特徴的なのだ。　一つは、評価としては最悪の答案である。「判断の法律的な筋道が全くなっていない」　彼らは、「導いた結論」はこれ以上ないほど優れたものであるらしい。理論だけ優先で結論の妥当性は全く無視、と言うような近年の一部の司法試験受験生の困った傾向からすれば優れているそうだ。　ところが、その結論に至るまでの筋道は全くのナンセンス。おいちょっと待てそりゃ違うだろうで採点のしようがないという例がある、というのだ。　こうした傾向は社会人出身の法科大学院生に多いという。社会人だけあって物事のある方向はしっかりつかめているのに、法律を使ってしっかり過程を見せてみなさい、というと結論優先で中身はなしと言うことになっているらしい。　私自身の感想として、最近は、司法試験を受験する人たちも結論を妥当な方向に持っていく努力は何かと求められている。少なくとも私が通っていた予備校などではその点についてけっこう注意しろよ、と言われた記憶があるし、何かと気にしている。結論が不当っぽいなあ…と思ったときに「法律の不備だから仕方ない」と書いて合格点をもらったこともある。　もともと司法試験は実務家の登用試験であって、学説のように理屈を追い求める試験ではないのだから理論ばかり追い求める人間が合格しないのはある意味で当然ともいえる。　しかし、

  2005年12月14日

  コメント(0)

• 先人の話を聞く

  　今日は珍しく囲碁の世界と法律の世界に共通した話題が浮かんだのでそれ言ってみましょう。　序盤、それも最初の４手に絞った囲碁の着手は、もちろん色々なものがある。しかし、大半は小目か星。三々・高目・目外しは少々変化球気味で、その外はなかなか見ないという人が多いだろう。だから山下九段が五の五や初手天元を打つと皆珍しがるのだ。　星へのカカリ方ともなれば尚更だ。みんながみんな小ゲイマにかかる。肩をつく、直接くっつけるような手がなぜ一般によくないとされるのか。また高ガカリが悪手とはいわれないにしてもなぜ変化球のような扱いをされるのか。　残念ながら、そんなことをいちいち解説・マスターしてからでは碁は永久に始まらない。　最初のうち、碁は強い人の碁を手本にして見よう見まねで打ってみる。そのうちに強くなっていき、やがてそうした見よう見まねの段階を乗り越えて、自らの手で着手を考えることができるようになる。その中で初めて小ゲイマガカリという手の有用性が理解できるようになる。　『美味しんぼ』の48巻収録の「団欒の食卓」で当世の一大陶芸家・書家と言う設定の海原雄山は「芸術は模倣から始まる。はじめは他人の作品を手本にしてもよい。それを乗り越えて独自の世界を開ければしめたもの」　と言っていた。　囲碁においてもそれは正しいと思う。囲碁は勝つための方法が決まっている意味では芸術とは異なるものであるが、碁盤と言うあまりに広すぎる世界と極めて抽象的なルールの中で勝つための方法を切り開くには、まさに見よう見まねと言う行動が必要なのである。そうして見よう見まねを越え、局面に合わせた着手を考えていけるようになったら、その思考レベルはもうアマ高段者といえる。　見よう見まね段階全くなしで勝つ方法が開けましたという才能なら、それはもはや人間レベルではない。早いとこプロ試験でも受けなさい。年齢制限にでも引っかかるなら韓国アマ棋戦で優勝して三星杯やLG杯の世界戦の予選に出て、世界制覇を目指すという大技もあるぞ。　では法律学の世界ではどうか。もちろん法律は条文が基礎であるが、条文は全てを埋めているわけではない。行間を埋めるだけの解釈論、それ以前の指針となりうるだけの基本的な認識が当然必要である。　そしてこれらは、学者によって部分部分に細かい差異があるが、大筋においては全く揺れがない。　法律学の世界に踏み入ってきた素人の人には、学者なんぞ信用できん、私の論理でいく、と言う人は実は相当多い。そういう人の中には学者の言い分に対して、「学問を弄んでいる」というようなこっぴどい批判を加える人もいるようだ。　まあしかし、こういう人は残念ながら大概の場合は相手にしてはもらえない。それは別に学者が既得権益をむさぼって新たな見解を締め出すからではない。　端的に言って、学界において大きな影響を持つような学者たちは勉強量が豊富で、天才なのだ。囲碁で言うならばまさしくプロの「どこに出しても恥ずかしくない」九段。そういう人たちの99.9％が支持している考え方というのはすごいものがある。　私はもちろん、多くの司法試験の受験生たちは司法試験に合格できない。だが、彼らの能力は司法試験の問題など問題にしないほどの領域に達している。現実に司法試験の問題を作って、採点をしているのはそういう学者たちなのだ。　そして、思い付きをそのまま口にしたような学説を主張したところで、そのような説はすかさず厳しく批判されて、いずこへともなく消えていってしまう。きちんとした学問の成果と思考経路を示した上で、やっと彼の学説は市民権を得る。市民権を得れば、たとえその学説に反対する学者が相手でも、「そういう考え方も一応あるかもね」と扱ってもらえる。　そんな雲の上の人がこぞって認める基本原理・原則を相手に、ほとんど勉強もしていない素人が根底から噛み付いても根本的に無理があるのである。最低限、基本的な知識や思考をマスターした上でなければ、全く勝負にならない。　ただし、こうした学問は囲碁と違い勝敗が現れない。だから「思い込めば最強」と言うことになりやすい。　こうした思い込みを矯正する事は不可能で、そういう人がインターネットのようなところではのさばってくる。しかも自説が受け入れられないのは他人が自分の言い分を受け入れないような狂った人格の持ち主であるせい、というような人間として恥ずかしいことを平気で語る人物が現れてしまうことが少なくないのだ。　現実に思い込んで最強の人に無理に説得を試みてもムダである。　ただし、「私は思い込みで最強になりました」と言う恥ずかしいことにならないようにするには注意が必要だ。物事について考えたいときは、いきなり自分だけで結論を導き出そうとせず、優れた学者たちの思考を多少なりともマスターしてからにしよう。

  2005年12月05日

  コメント(0)

• 当事者の言い分

  　事件の当事者と言うのは重要な存在である。体験に基づく意見は未経験の第三者としては貴重だし、大いに尊重する必要がある。何より最大の利害関係者であるから真剣・必死だ。　刑事裁判で被告人がいないままの裁判（欠席裁判）が禁止されるのはそういうことでもある。だから時効以前に裁判にかけて予め有罪判決をとっておいて捕まえれば罰を執行するだけなどと言うことは絶対にできないのだ。　しかし、当事者の言い分は当然一方的、悪く言えば党派的な言い分である。人間であれば「自分の立場にいい意見」を選び出して言う可能性が高いといわざるを得ないからである。　もちろんそれでは困る。世の中には人がたくさんいて、いろいろな制度やその適用はいろいろな人の利益を考慮に入れて決めなければならない。　そんなときに一方的、党派的な「当事者の言い分」がどこまで通ってもよいのかというと、やはりこれは通ってはいけないであろう。結果的に「当事者の言い分」が採用されることはあっても、あらゆる角度から討論した上で結果的にそうなる、というのでなければならない。　刑事裁判なら、被害者や被告人が裁判官であってはいけないのはもちろん、その親族であってもいけない。即刻裁判から排斥（刑事訴訟法20条、法律用語では除斥）されるし、そうでない裁判は違法と言うことになる。もちろん、そうなる前に裁判官が自ら回避と言う手続をとってやめさせてもらうのが基本だ。　また、原則として被害者に起訴権が認められない（刑事訴訟法247条）のも、一方的な立場に基づく言い分で被告人を法廷に引きずり出すことには大きな問題があると考えられていることに一つの理由があるともいえる。　以前語ったが検察官は「公益の代表者」として、少なくとも彼らなりに客観的な判断に基づいて公正な立場から被告人を起訴するのであって当事者として起訴するのではないのだ。（起訴するという立場から多少一方的になるのはやむをえないが…）　それなのに、例えば死刑制度について論じるときに、死刑賛成の人の一部からは「自分や自分の家族が被害者になってもそんなことがいえるのか」という意見がよく出てくる。　死刑の賛成・反対に関係なく、どうもこれはおかしな言い分である。　確かに被害者や遺族は犯人の刑罰に重大な関心を寄せており、いわば当事者と言ってよい立場にある。　だが被害者や遺族は神様でも絶対君主でもない。それどころか、全体的な利益に配慮を払える立場にすらない。どう考えても、被害者の言い分であるから正しいと言うことにはならないはずで、あくまで一方的意見だが、参考にする必要がある一方的意見と言うレベルの話と考えるべきである。　それなのに、第三者を「被害者」とか「遺族」と言う一方的な立場に巻き込んでしまうのは、非常に強力な手法であるのと同時に極めて危険な発想である。　全てを当事者にしてしまえば確かに多数決では勝つであろう。だがそれは他の利益を無視した多数決が行われるということだ。何の討論もしないで多数決をするのがいい事のはずはない。　思い込みが人々を支配して反対意見にはレッテルを貼ってかき消すような本音丸出しの熱狂状態がいかに恐ろしい事態を招いてきたかは、歴史を見ればおのずと明らかだ。　　強力なフレーズは時として恐ろしい道への第一歩にもなる。　自分の立場だけを主張し、他人をもそこに巻き込むような方法は厳しく慎まれるべきなのである。　農心杯第５局は日本代表・三村九段の勝利！！詳細は明日の碁が終わった後で。

  2005年11月23日

  コメント(0)

• 防犯カメラの落とし穴

  　人は一定の環境におかれると犯罪をなかなかしなくなる。出来心のこそ泥なら鍵がかけてあれば盗みを諦めるし、衆人環視の前で殺人をやる人はまずいないだろう。そういう人は大抵心神耗弱・心神喪失を疑われる。　こうした考え方に基づく「環境犯罪学」は、近年注目を集めている。「街中の落書きを消せば犯罪は減る」といういわゆる「ブロークンウィンドウズ理論」（割れ窓理論）というのがテレビで放送されていたが、あれも一種の環境犯罪学だ。　そこで、最近論争著しいのが「防犯カメラの設置」。街中に防犯カメラをつけておけば、犯罪者は捕まるのが怖くなって犯罪を思いとどまる、というわけだ。　だが、一見ごもっともに見えるこの発想に意外なほど大きな落とし穴があるのはご存知だろうか。　実は、実験してみたところ防犯カメラより大きな抑止力があったのは単なる照明器具の設置だったのだ。　防犯カメラには、いくつかの問題点が指摘されている。　第一に、防犯効果が一時的、限定的なことだ。　防犯カメラが設置される当初は、大宣伝がされて犯罪者が萎縮したり、逆に防犯カメラに気づかないマヌケ犯罪者が捕まったりする。しかしそれは一時に過ぎない。防犯カメラが周知徹底すれば、あるいは防犯カメラでも捕まらないと犯罪者が知れば、途端に犯罪は復活してしまうのだ。　さらに、防犯カメラはレンズの向いている方向しか撮影してくれない。　しかも、運よく撮影されたとして変装でもされれば効果は全くないし、変装なしでも映像は荒っぽい。細かく解析できないことはないようだがそうするとまた金がかかる。　そもそも今日本中のコンビニに設置されている防犯カメラでも結局万引きを根絶するには至っていないこと、防犯カメラ映像をテレビ公開捜査で公表すれば皆捕まっているというわけではないことを考えると、防犯カメラの効果などそもそも眉唾だ、ということは容易に察しがつく。　第二に、ものすごく費用がかかること。　防犯カメラの設置費用自体も高くつくが、防犯カメラの情報を保管しておくにも金がかかる。　また、四六時中防犯カメラを見ておくとなると人件費が馬鹿にならない。町中に設置した防犯カメラをわずかな人数で監視し、何かあれば飛び出るのは一苦労だ。映像を見ている人の集中力は２時間続かないという指摘もある。2時間ごとに人をかえるのはバカにならない人件費を要する。　といって後からやるのではテレビ公開捜査の防犯カメラの映像と同じで効果なしだ。　第三に、人権侵害の恐れが高いことだ。　イギリスでは防犯カメラに撮った映像の中で面白い映像を笑いものにするような番組が放送されているとかで、プライバシーの侵害にならないかという批判は決して馬鹿にできるものではない。インターネットで映像が流される恐れもあろう。　実は、犯罪捜査における写真撮影も、肖像権侵害になるので、裁判所の令状を取るような場合でなければ犯罪が行われて間がない場合で緊急の必要がある場合などでなければ認められない、と言うのが最高裁判所の判例（最高裁大法廷昭和44・12・24）だ。　それを、公共の場所にいる人の映像を無差別にとり続ける防犯カメラでの撮影が正当化されるといえるのかどうかという難しい問題がある。コンビニのような私有地内部なら「入る代わりに防犯カメラに写されろ」と言えても、公共の場所ではそうも行かない。　この点、単なる照明は便利だ。　まず費用には設置代と電気代しかかからなくなる。わざわざ監視員をおく必要がなく、監視員はそこを通りかかる一般市民の皆さんだ。現行犯で取り押さえられる可能性が高くなって変装なども無意味になる。しかも方向は３６０度無差別だし、明かりで照らされるだけで人権侵害だということはさすがにない。　また暗いと人が出てこなくなるが、明るいと家から夜にも人が出てくるようになる。そういう「人目」も犯罪を防止する大きな要因だ。さらに交通安全などにも寄与することが考えられる。　実際、イギリスの夜犯罪が多い地区で実験的に防犯カメラ地区と照明地区を設けたところ、現実に犯罪が減ったのは照明をつけた地区であって、防犯カメラをつけた地区ではなかったのだ。　これは今年受講中の「犯罪学」という講義の受け売り＋私見補足である。防犯カメラ論争を考えるには、こういう要素も考えて見る必要があるだろう。　ちなみに講義した教授が多少とも解説したページはこちら。

  2005年11月20日

  コメント(0)

• 発言権を確保する方法

  　人が発言するのは、多かれ少なかれ自分の意図するところに賛同者を得るためである。憲法で表現の自由が保障されている（憲法21条）のも、正しい言論であれば誤った言論を淘汰するだろうという考え方が働いていることに一つの理由があるのだ。　ある発言に賛同者がほとんどいない場合、あるいはいるとしても地位のある人（学者とか専門家とか）に受け入れられない場合、それは何故かをしっかり考える必要がある。自分の言っていることが何の根拠もない、あるいは別の客観的根拠によって攻撃されるものであれば、発言が相手にされないのは当然と言うことになるだろう。　私も、ここで文章を書く場合には曲がりなりにも客観的な根拠を示すべく、法律に規定がある場合には条文をひき、場合によっては判例集にまでリンクを張るのである。おそらくこれまで提示したリンクをマジメにあけている人は一人もいないのではないか（それ以前に私の記事をマジメに読んでいる人自体いない？）と思っているが、一応自分の言った事には責任を持ちたいからだ。　物事は、結論があっていればよいということにはならない。囲碁のように地と言う形で客観的に勝敗が現れる領域ならまだしも、そうではない世界で人間程度の生き物が「正しい結論」を導き出すには、そこに至るまでの思考過程をしっかりしておくことが重要である。例え「結論先にありき」だとしても途中の思考過程として説明がつけられないと困るのだ。　ましてや結論がどうあるべきかで見解が分かれるような場合にはなおさらだ。説の正当性を基礎付けるのはそこに至るまでの思考過程のでき具合である。　こうした発想はどちらかと言えば英米流の発想で、結論を重視することが多いと言われる日本ではそう簡単には受け入れられないかもしれないが・・・。　余談だが、私自身がこういう発想を身につけたのは司法試験のおかげであろう。　司法試験の６科目のうち２つの裁判に関する法律においては、当事者の意見を必ず聞くといういわゆる「手続保障」が絶対原則である。　そして、司法試験自体も、結論をどうこうというのでなく「どういう思考過程でどういう結論を導き出すか」と言うのを聞いてくる。　それを十分に示せない者は私のように司法試験の論文試験でさようならだ。　本題に戻ると、自分の意見が正しいと思ってそれを主張したい人は、自分の考え方を裏付ける思考の過程を十分に示すことが必要だ。思考過程をぶつけにぶつけて、最後に価値観の相違に行き着いてしまえばそこが議論の終着点である。後は多数決に委ねることになるだろう。　しかし世の中には自分の発言が受け入れられないのを、相手がずるいことをやっているからだとか、評価している世界が狂っているなどと言っている人は多い。　これははっきり言ってばかげた発想である。それだけでなく、勝てないのを他人のせいにする発想であり、極めて卑怯な言い草だ。　昔、地下鉄サリン事件よりも前、オウム真理教関係者が選挙に立候補して大して票がとれず落選したときに教祖は「票がどこかで工作された」とのたまったそうだが、それと本質的には同じだ。彼らは、まさにカルト宗教の教祖と同次元なのである。　しかもそういう人に限って言っていることの中身は根拠も何もない、ただの想像・思い込みをそのまましゃべっているだけじゃないかと言う例が少なくない。結論が悪いのではなく、いっていることに根拠がほとんど示されていないのである。　下手をすると客観的な真実さえねじまげて説明する始末で、詳しい人が決死の説明を試みてもすぐに「難しい単語を使って煙に巻いている」などと言って人身攻撃に及ぶような者が偉そうな顔をしていることもある。　こんな人間は目の前の相手が退散していくのを見ていい気にはなれるかもしれないが、永久に自分の発言が一般的に受け入れられることはないだろう。　もちろんそれでは困る。　他人を説得したい人は、結論を押し立てるのではなく自分がなぜそう考えたかと言う思考の過程を明らかにしましょう。　もし思考の過程が提示できない人は自説を提示してもいいですが、他人にぶつけてはいけませんよ。

  2005年11月19日

  コメント(0)

• 法律的紛争解決の落とし穴

  　世の中に存在する法律はいろいろな形で紛争に巻き込まれた人を救うことにひとつの主眼がある。その内容はさまざまで、もちろんそれを使えばきちんと国家権力が法に従って個人を助けてくれる。法律とそれを実行してくれる権力があるからこそ、我々は安心して生きていけるといえる。　しかし、法律的解決と言う手段に出るとせっかく法的に正当な権利を有する者がかえって損をするという事態が往々にして指摘される。当然と言えば当然だが、世の中は法律の外でできた慣習などによっても動いており、しかも国会議員が雲の上で作ったような法律と違って国民の意識深くに根付いている。それに反する法律やその執行は「共同体の平和な決まり」を乱すものとして受け入れにくいのだ。国民は建前としては法律を尊重し受け入れても、本音ではそうした「共同体の平和な決まり」の方がよっぽど大事なのだ。そうした発想を端的に現すことわざに「よき法律家は悪しき隣人」というのもある。一番有名な事例はいわゆる「隣人訴訟」である。私が生まれた年の事件だ。隣の人（以下原告）から子供を見ていてくれと言われ、儀礼的に返事をした人（以下被告）が放置している隙に、原告の子供がため池に転落して死亡したという事件があり、見ていてくれと言った原告は子供を失った怒りなどから損害賠償をしろ、ということで被告を訴えたのだ。　第１審の判決は、被告に３割の責任があるとして５００万円あまりの損害賠償を支払うよう命じた。　・・・とここまでは本人たちには一大事でも、社会一般と言う見地からすればまあありそうな事件である。　ところが、たかが１民事事件に過ぎないこの判決を新聞が書きたてた。多くの論調は「隣人の好意に対し損害賠償を命じるとは何事か」と言う批判的な論調だった。そしてこの新聞の行動に世論が同調、ものすごいうねりになった。原告の家族に非難の手紙や電話が殺到したのだ。原告の子供は学校でいじめを受け、父親は職を失い、母親は地域で買い物を拒否されるなどものすごい社会的制裁を受けたため、ついに控訴しようと考えていた原告は５００万円分の勝訴判決をも放棄して訴えを取り下げざるをえなくなった。　すると、今度は被告にも厳しい非難が集中。本来控訴審での訴えの取り下げは相手の許可が要るのに被告は応じざるを得なくなったのである。　法務省も「国民の裁判を受ける権利が侵害された遺憾な事態」と声明を出した。こちらである。　法社会学と言う、法解釈と異なる法学の分野ではこの事件は「日本人の法律に対する意識はどのようなものか」と言うことでひんぱんに扱われる。　他にも、例えば会社で上司が業務命令と称して社員を私用で使うのは違法である。社員はもちろん労働基準監督署や裁判所に助けてくれと言えば裁判所も労働基準監督所もそれを認める。　ではそれを主張することは得か？　おそらく能力に関係なく出世コースから外され、場合によっては社内いじめの対象にされることは目に見えている。　もちろん、法律的に検討する限り、法律にある正当な権利を行使した者が損をするような現象はあってはならない！！と言う結論以外は出されない。実際、労働上の権利行使を理由とした差別は違法（労働基準法104条2項など）だし、裁判をするなと圧力をかけるような行動を跳ね除けて裁判を続けることもできたし、圧力行動が不法行為や犯罪として法律の世界から断罪されることだってありえたはずだ。　しかし、刑事法はともかく、民事法において法律の適用はあくまでも「紛争を解決するための一つの手段」である。その方法に国家権力が後ろ盾になってくれるというだけだ。法律を使うのが一番得策、と言う意味ではない。　もちろん、裁判と言う場でも「和解」というような法律以外での解決の手段もなくはない。でも裁判と言う場に出た時点で穏当な解決はもう望みにくい。実際、裁判での和解は仲直りと言うより、ただ単に裁判をとっとと終わらせるために裁判長がまあこんなもんかなあと言う相場を教えてどうですか？と言うのが普通なのだ。　　　法律があることを知っているのはよいし、最後の手段としては便利なものだ。　でも、それだけが本当に得な方策かは、各人が自らの責任を持って決めるしかない。弁護士だってどうしても依頼人が裁判を起こしたいのを止めることはできないし、弁護士なしでだって裁判はできるのだから。

  2005年11月13日

  コメント(0)

• 法律用語は難しいのか？

  「検面調書」「証拠能力」「証明力」「心神喪失」「心神耗弱」「減軽」「原因において自由な行為」「罪刑法定主義」　私が上に書いたのは法律用語として一般に認知されている言葉であり、司法試験の受験生なら一度は聞いたことがあるはずの単語だ。しかも、今後裁判員になったら聴くかもしれない単語に限定して列挙してある。　何だこれは、意味が分からないと思う人は多いかもしれない。例えなんとなくこうかな？と思うことはあっても「証拠能力」と「証明力」と言うよく似た単語の意味まで説明できるか？というと大半の人はお手上げだろう。　今後裁判員制度が導入されるのに、こんな難しい言葉でいいのか、と言うのは四六時中指摘されているところである。実際、検察庁や裁判所は今後の裁判員制度目指して、平易な用語解説を用意するなどして対応を練っているところである。　だが、私は法律用語がそんなに難しいのかと思うことがある。　確かに、裁判員制度を実行して、特別法律に関する教育を受けているわけでも、これから法律関係者となる意思もない人にこれらの単語を理解しろ、というのは酷だと思う。　だが、「その気になれば」こうした専門用語の意味を理解するのはそんなに難しくない。相手は一応日本語なのである。　それは、囲碁をやっている人には比較的理解してもらいやすいかもしれない。　「トビ」「ケイマ」「ハネ」「ツメ」「ソイ」「オシ」「セキ」「ヒラキ」「エグリ」「ホウリコミ」「カカリ」「シマリ」など、囲碁をやっていない人には暗号同然である。囲碁ではこうした言葉は形からイメージしているものが通常であるが、それでもあくまでイメージにすぎない。例えばカカリについて「なにかかかっていく感じがするでしょ？」と言っても囲碁を知らない人間には訳が分からないだろう。　しかし、碁を何度も打ったり、本を読んだりしていくうちに、特別に囲碁用語について教育を受けなくても、だんだんとその感触をつかんで行くことができる。　それからすれば、法律用語は、高校卒業レベルなら漢字で大意把握くらいはできる。それにほとんど定義がなく、感覚的俗語に等しい囲碁用語と違い、法律用語は定義がしっかり定まっている。　一度その気になれば、用語の意味だけでも理解することは囲碁用語を覚えるよりはるかに簡単なのだ。　それに、先ほど挙げた法律用語の中で「心神耗弱」を定義すると、「精神障害により行為の違法性を認識する能力又はそれに従って行動する能力が著しく低い状態」である。　「重大な精神病」などと思っている人はいるかもしれないが、それは大間違い。医学的な精神病と心神耗弱は関係ない。重大な精神病でなくても心神耗弱になるかもしれないし、逆に重大な精神病でも心神耗弱にならないことはある。つまり、こうした定義をしっかり身につけていなければ大きな間違いを犯す訳で、定義の細部表現はともかく基本的内容は変える事はできない。　とすると、正確な定義の中身をいちいち言う方が「難しい」法律用語を使うよりよほど大変である。　こういうことを考えると、もはや「法律用語が難しい」といっているのは、単にそういうことを覚える気がない人が、ちょっと聞いただけでそういっている例が相当多いのではないか、と感じずにはいられないのである。　もちろん、世の人全般がそんなことをいちいち覚える必要はない。難しいと思うならそれでもよいし、知りたい人に法律家が分かりやすい説明をする努力の必要があるのは変わりない。　ただ、法律用語を知らないのは基本的知識が欠けているようなもの。その状態で議論を始めようとするのは、英語を知らずにイギリスで暮らそうと言うような行動だ。何をするにも用語解説からはじめなければならなくなる。　ましてや、裁判員のような半ば強制的に駆り出される議論ならともかく、一般社会で議論をするときに法律用語を知らないことを開き直るのはいただけない。　ネット上をあちこち巡っていて、法律用語が分からないことを開き直るのは考えものだ、と思ったのでこんなことを書いてみた。

  2005年09月18日

  コメント(0)

• 自分の言い分だけが正しいと思う人々

  　世の中の人々は、それぞれ自分の言い分が正しいと思っている。自分の立場が正しいと思えばこそ、各人それぞれなりの立場に立って物事を論評し、例えば昨日は投票もしたわけである。　自分が正しいと思わないで世の中で行動できる人はいないし、ましてや論評ができるはずはない。私だって、考えていることは数あれど、少なくともそれなりに批判に耐えられそうな話だけをここで語る。　しかし、自分の言い分が正しいということが、それすなわち相手の言い分が間違っていることと結び付け、さらには反対する意見についてはどこまでもコケにする人が世の中にはけっこういる。　今回の選挙でも、全体で自民が勝ったのを「国民の良識の結果だ、受け止めろ」と叫びつつ郵政造反議員が当選した選挙区については「そこの有権者が十分に考えていない結果だ」と言い放つ。何のことはない、自分に有利なところは自分の有利に解釈し、自分に不利なところは全部相手が悪いと言い放つのだ。　もちろん、逆に造反議員の当選を「良識」といい全体の圧勝を「考えていない」と言うのも同様である。　郵政についてどちらを支持するかに関係なく、これはおかしな言い分である。自分の発想に合っていれば良識で、合っていないのは考えていない結果だ、という「自分だけ正しい」と言う価値観が、世の中の事実の評価に対する都合のいい取捨選択を行わせているのだ。　世の中の人と人には価値観の相違と言うものがある。これは説得して変える事ができる代物ではない。　それは囲碁をやっている人には容易に理解できると思う。囲碁のように勝敗が客観的に現れる世界の中でさえ、部分的な形の善悪や形勢判断についてはトッププロでも例えば厚み派vs実利派と言う形で意見が分かれることは珍しくない。そこにあるのは根本的な勝つための哲学・価値観の相違であり相手を説得するのはそれこそ囲碁の着手を全究明でもしない限り無理であろう。　そして、少なくともトップのプロ棋士同士であれば、その辺の判断がずれたからと言って相手の力量を否定するようなことはまずしない。　ましてや世の中の現象に勝敗・優劣が客観的に現れることはそんなに多くない。また、何を重大、何を瑣末ととらえるかも人それぞれだ。選挙なら今回の年金が大事か、郵政が大事か、憲法改正が大事か。世論調査の結果は数値化できても、それを離れた「何が正しいか」などというのは数値化できない。　そうすると、自分たちだけが正しいというのはとんでもない独善主義に陥る恐れがあるのだ。　別に自分の考え方が正しいと信じるのは悪いことではないと思う。最後の最後で価値観の相違に行き着き、埋まりえない溝が存在することは世の中にいくらでもある。　でも、だからと自説以外が全部誤った説で、そういう説を唱える人間が全部頭のおかしい人間である、あるいは扇動をする人間であるというのは大きな間違いであるし、ましてやそれらに対して口汚い言葉を使ったり、自分に都合のいい論法で批判することは品性ある大人のやることではない。　今回の選挙に関連して新聞やインターネットの書き込みをさらっと見て、その点が強く印象に残ったのでこんなことを書いてみた。

  2005年09月12日

  コメント(0)

• プロ野球誤審論

  今日、サンデーモーニングなんぞを見ていたら判定騒動が何回か出ていたので、ちょっと取り上げてみよう。ちなみに、あそこで取り上げていた事件が全部誤審であったというつもりはないので、一般論として読んでいただきたい。この手の問題に詳しい方のコメントをいただけると幸いである。基本哲学は、「人間のすること、間違いは誰にでもある」ということである。さすがにこれは誰もが認識するであろう。社会的には、誤審の類には何らかの救済が用意されていることが多い。裁判ならば、「再審」という制度がある。刑事裁判・民事裁判双方にあり、実際誤った裁判から少なからぬ人々が救われている。中には、それで死刑台からの生還を果たした人もいる。また、裁判官を誤審を理由にクビにすることは現行法上多くの問題があり難しいが、裁判官は任期を終えたあと再任されることが多いのでその再任に際して考慮したり、高裁裁判官→最高裁裁判官といったような出世コースをふさいでしまうという圧力をかけることで事前に抑止をかけることもできる。では、誤審の類があったということでそれが誤審であったことを立証して裁判所から損害賠償を取れないか？これは難しいといわれている。裁判官が憲法76条3項の憲法・法律・良心に従って裁判をしている限りにおいて、たまたま間違えただけでそれが違法であると判断することは難しい。事実の有無に関して、裁判官は証拠から自由に判断してよいという考え方（自由心証主義）もあるので、違法であると判断するのはよっぽどの場合でなければならない、と言うのが通説的理解である。つまり、誤審があったことが発覚しても、相手から取り返したり、今後の刑罰から開放されることこそあれ、損害を何とかしろということは実は難しい。あえて言うなら、裁判という公的な救済措置を受けるのならそういう危険も自分で負担しなさい、ということになる。ただし、刑事裁判に関しては刑事補償法という法律で損害全額とは行かないが一定額の補償金が支払われることが決まっており、さらにそれが憲法上保障されている。（憲法40条）また、他の誤審の類についても、従来の法律の枠組みでなく、新たな法律によって何らかの救済をする必要性は議論の対象とされてもよかろう。では、プロ野球の審判の誤審はどうか。まず、根本的な誤審の救済はまずできない。点数計算のミスならまだしも、根本的に救済するにはもう1回試合をやり直すしかないからだ。それは金もかかるし、それ以前に誤審で得をした相手チームが勝っていた試合を反故にされることにもなりかねない。別に誤審は得をしたチームに責任があるわけではないのでそんなやり方は採用できない。その場しのぎの技として監督が審判に抗議している、と言うのはよくある。しかし、実はプロ野球では選手はもちろん、コーチ・監督にも抗議権は認められていないそうだ。理論上は抗議した瞬間に退場とされても文句は言えないのである。実際、「え、今のストライク？」と言った瞬間退場という憂き目にあった選手もいたらしい。抗議権を認めるということは当然抗議が正しければ訂正と言うこともありうるということ（そうでなければ抗議など試合を遅らせるだけ）だが、それすなわち中立的審判より一方的な立場の選手や監督の言い分の方が正しい場合があると認めること。いくらなんでもそれは認められないと言うことなのだと思われる。誤審トラブルがあるのも、別に選手や監督の方が公正・力量大だからではなく、自分たちに有利な希望的観測があってそれが偶然当たっているに過ぎない。ただ、常軌を逸した抗議に出ない限りは審判の方もある種のファンサービス・士気高揚手段だと思って見過ごすから、けっこう抗議と名のつくものは行われているのだと思われるが。そうすると最後の手段は誤審審判への制裁である。もっとも、あの手の誤審にはミスと言うべきものを見出すことは実は難しい。角度によっては「そんなの見えるか！！」ということもあるし、見えないと言って判定を投げ出す訳にも行かない。もちろん見やすい位置に審判が出るのが基本であるとはいえ、守備の妨害をしないで移動を強いるのは実際のところ無理ではなかろうか。ミスでもない不幸な偶然に責任を負わされるのでは、審判としてもたまったものではないとも思われる。だが、見世物としてプロ野球を考えたとき、審判の公正中立・絶対正確は一つの絶対条件であり、審判のミスの有無にかかわらず誤審は重大な瑕疵であり、ファンを失望させる一つの要因である。そうすると、見世物に登場して金銭を稼ぐ審判はその見返りに不幸な犠牲になっても我慢してくれ、と言う言い分はさして不当とは思われない。実際、プロ野球選手であれば出しても見世物にならないがためにいくら練習を死ぬ思いで重ねていても下積みのまま選手生命を終えてしまう選手はいくらでもいる。そして、審判は多くが元選手であり、また全員が選手と同じくシーズンごとに契約する個人事業主である。私と同様の思考回路なのかどうかはしらないが、実際のところ、誤審を理由に契約解除・ペナルティを食らってしまう審判がいるようである。これはよいことだと思う。しかし、私はもう一段階踏み込んで、科されているペナルティを積極的に公表すべきではないかと考えている。見世物としてのプロ野球の地位を保つには、さらし者にしてファンの納得を求めると言うのも一つの手である。もともと審判が誰であるかはちゃんと公表されるので、あとになって誤審だけさらされるのは嫌、などという言い分は通用するまい。プロ野球は所詮見世物、と言う視点を忘れず考えると、そういう結論になってしまった。いいのかな？

  2005年09月04日

  コメント(0)

• 週刊碁よ、ラドンを構ってくれ！

  今週の週刊碁を買うと、中環杯の説明を映画「三大怪獣　地球最大の決戦」になぞらえて説明していた。日中韓三国の関係を地球を滅ぼしにきた宇宙怪獣キングギドラ（＝韓国）、ゴジラ（＝日本）、モスラ（＝台湾勢）に似せていたのだ。私は「三大怪獣地球最大の決戦」を見たことがある。1964年に公開された映画で現代からするとさすがに映像もチャチだが、当時としては明らかに最先端の技術だったのだろうし、むしろ現代がリアルすぎるかもしれない。それはともかく、映画を見た私から言わせてもらうと正直？？だった。ゴジラ・モスラ・キングギドラは東宝怪獣映画の三枚看板とも言うべき存在。ゴジラは大型肉食恐竜の生き残りが放射能を浴びて巨大化した肉食恐竜型の怪獣。アメリカでも映画化されたまさに怪獣界の王である。モスラは神獣と崇められる巨大な蛾の怪獣。モスラを主役にした映画も何作かあり、母性的な性格を持つ怪獣界の女王である。（ただ作によっては違う設定のものもあり）キングギドラは黄金の三つ首竜。やってくるたびにゴジラに負かされている（ちなみにモスラにも負かされた）とはいえ、その実力はゴジラをも超えるといわれる怪獣界の皇帝である。で、この映画のストーリーを簡潔に説明すると、ゴジラが海から現れ、ラドンが阿蘇山から現れ戦っている最中にキングギドラが来襲する。人類はかつてゴジラを倒したモスラ（ずっと幼虫のままだった）に協力を要請するが単独で勝てないと考えたモスラはゴジラとラドンに協力を要請。これにゴジラとラドンが応じ、3体がかりでキングギドラを宇宙に追い払うと言う話である。（本当は人間ドラマもあるんだけど、ちょっとおいておく）題名と違って出場した怪獣は四体なのだが、まあ堅いことは言わないように。んで、私が大いに違和感を覚えたのは、ラドンの存在である。ラドンは翼竜プテラノドンが巨大化したという設定の怪獣だ。「空の大怪獣ラドン」と言う映画でデビューしている。ラドンは近年の作品ではあまり目立って登場していないので印象が薄いかもしれないが、「三大怪獣地球最大の決戦」が公開されたあたりから非常な人気があった。その証拠に、「三大怪獣地球最大の決戦」の次回作である映画「怪獣大戦争」でゴジラは再びキングギドラと戦うが、そのパートナーに選ばれたのはモスラではなくラドンだった。成虫になってもふわふわと飛んでいるモスラと異なり、キーンと衝撃波を起こしてゴジラと戦うラドンをかっこいいと思ったものである。記者氏は、1964年の映画をこんなところに引っ張ってくるくらいなのだから50代以上で生で見た方と推察するが、もうちょっとラドンを大事にしてあげて欲しい。あるいは、台湾勢を日本棋院組と台湾棋院組に分けて、どっちかをラドンに設定してもよかったような気もする。それとも、映画を最初からゴジラ・ラドン・キングギドラしか出ていない「怪獣大戦争」に設定するとか。

  2005年08月22日

  コメント(0)

• 平家物語

  祇園精舎の鐘の声…で始まるこの物語。今の時代は学校で冒頭部分を覚えさせられた苦痛とともに思い出す人の方が多いかな？昨日壇ノ浦に行ったのでちょっと触れてみる。私には冒頭部分の暗記は苦痛でもなんでもなかった。理由は簡単で、もともと自然に暗記してしまっていたためである。自宅に比較的読みやすい平家物語の本があり、私は小学生の頃から読みふけっていた。（その割に他の古典はちっとも読んでないが）ＮＨＫで放送されていた人形劇の平家物語も見ていた。中学のときの修学旅行は班ごとの行動で壇ノ浦の合戦のあとに生き残った建礼門院が入った大原・寂光院にも行った。5年位前に火災で一部焼失してしまったが、その前である。今でこそ道沿いに店が何件か並ぶ一応の観光地になっているが、それでもバスで京都の中心部から30分以上行かなければならない奥地。当時はどれほどの田舎であったのか想像もつかない。平家物語は、当然ながら主人公は平家である。今放送中の大河ドラマの主人公は義経。登場人物や歴史の流れは同じでも、全く土壌の違う世界だと思っていていい。そして、平家物語の中で印象深い人物は、栄華を誇りながら決してろくな最期を遂げていない。平清盛は、水をかけると蒸発するほどの高熱を出し、妻の夢枕に無間地獄（地獄界の最奥部）に落ちると言う妖怪が現れた中で、「供養はするな、頼朝の首を供えよ」と言い残して死んだ。安徳天皇も、８歳の若さで壇ノ浦の藻屑と消えた。俊寛僧都も、鬼界島に３人で流され、２名は戻してもらえたのに最後に一人残され惨めな状態で家族の行く末を案じながら死んだ。清盛に気に入られた白拍子祇王は、清盛の寵愛を失い、後に寵愛を受けた仏御前もそれを見てそれぞれ出家、次々死んでいったという。敦盛の最期は教科書でも頻出。いまさら取り上げる必要もなかろう。文武共に優れた清盛の弟忠度は、一の谷で源氏の武者と戦って不運にも敗れ、念仏を唱えながら首を打たれた。（この段は私の一番好きなところでもある）当主宗盛も壇ノ浦でつかまり、最期には息子清宗とともに首を打たれてしまう。平家を都から追い払った木曽義仲も都になじめず、義経・範頼に敗れて戦死する。そうして平家を征伐した義経や範頼でさえ、最期には無残に殺され、あるいは自決に追い込まれてしまう。こうした悲劇の中で現れる雅さと荒々しさのコントラストは、貴族から武家へという一つの歴史の区切りとしては避けては通れない事実をあまりにものがなしく彩った。こうした人の世の変革につきものの「滅び」は、もしかすると栄華の裏に葬られた人々の怨念がそうさせているのかもしれない。少なくともそうした怨念が存在する一つの証拠（？）の一つとして、壇ノ浦近辺には今なお敗れた平家の武者の顔を甲羅に持つ「平家ガニ」が住んでいると言う…

  2005年08月15日

  コメント(0)

• 坂井七段批判を斬る

  また囲碁端会議室でとんでもない論争がはじまっている。さすがに良識派のほとんどはこの理解に批判的なようであるが。この議論で問題とされていることを平たく言うならば、坂井秀至七段について、京都大学医学部で医業を修め試験に合格し、他人をはじき出しておきながら、はじき出して得た医師の技量を捨て棋士になるとは何事か、というわけだ。また、税金の無駄遣いをさせた、という意見もある。私に言わせれば、全くくだらない言い分である。まず、そういうことを言う彼らは医師を何だと思っているのだろうか？そこらの企業の就職試験と同じ競争だと思うなら、本当に医師をバカにしているし、医師の社会的使命を何だと思っているのかと思う。少なからぬ人が関係しているであろう企業の就職試験なら、企業の考えるレベルに達していなくとも、人数確保の要請等もあるから、能力は足りないと思いつつも将来の成長に期待してとりあえず数を確保するかもしれない。それで企業が潰れたとしても、企業の自己責任。放り出された方も失業保険や生活保護でまあ何とか生きてはいける。だが、医師はそれでは困る。一定のレベルに達しない者が相対評価で上であるからといって医師になっては、国民の健康に何の役にも立たないどころか、国民の健康への脅威にもなるからだ。私は医学部のない大学の附属校出身である。従って医師になることなど考えたことがないから、医師の国家試験の形態を詳しくは知らないが、単なる人数のベルトコンベアーだというのならば、私は少なくとも新米医師を信用しない。上と関連付けて私が言いたいのは、医師というのは単に成績上位者がなるものではなく、一定の力量を持つ者がなるべきものである、ということである。まず、坂井がいたのは日本最高峰の京都大学医学部。大学入試の段階で「はじきだした」というのは因果関係がほぼない。医師になろうとする意欲と、将来医師になる才能がある者ならば、例え浪人しても他の大学を受けて合格していたと考えるのが自然だろう。ましてや医師の国家試験ならば、能力が足りず試験不合格となった人間が、「あいつにはじき出された」などと言うことを恥ずかしげもなく言えるのであろうか。まともな神経を持つ者が言えるはずがない。医師はそんな相対評価で選び出されては困ることくらい医師志望なら理解してもらいたい。その上外野が「他人をはじき出した」などとはやし立てるのは言語道断というほかない。少なくとも、私は司法試験に落ちたとしてそんなことを言うのは恥ずかしいことであると自覚しているし、何も知らないよそ者にそんなことを言われるならば憤慨する。ちなみに、医師同様の専門家の選抜試験である司法試験は確かに一応人数選抜だが、司法試験に受かっても司法修習所に行き、そこでの試験（通称二回試験）を通らなければ法曹にはなれない。人数選抜といっても上位のレベルは高い。もっとも、それでも近時は司法試験合格者数増加のためか、二回試験で落ちてしまう修習生が増えているという。といっても、司法試験も人数確保のために質を犠牲にするようなことは全くしていない。つまり、彼らは医師という職の社会的性質も、その職責に対しても、理解していないか上っ面でしか理解していないのだと思う。次いで、税金論についても国立だろうが私立だろうが、大学医学部は医師になるための場所ではない。将来医師たりうる能力を養成していることは否定しないが、能力を得たならば医師になることが入学の必要条件ではない。それは別に憲法に職業選択の自由があるから、ということに限らない。義務教育に限らず、高等教育を受けた者はそのとおりの人生を歩めというのは単なる国家の人間政策の一つととらえず、「国民の教育を受ける権利を保障する」という形で教育を位置づけた憲法26条の精神（旭川学力テスト事件、最高裁大法廷昭和51・5・21）に真っ向から衝突するものである。人間政策に従わない者にレッテルを貼る発想だからだ。税金をいくら出しても、この基本的な思想をねじ曲げることはできない。つまり、彼らは基本的な教育のありようも理解できていない。それに、大学に税金を使うか使わないかは、予算について権限を持つ国会が決めることなのだから、どうしても税金を投入した者が別職に就くのが嫌ならば、専門研修ではない以上職業変更で返せとはいえないから、投票なり自ら立候補するなり国会に働きかけて税金を使わないようにするのが筋であろう。大学に税金を使えという条文は憲法にない。税金を押し付けて従えと言うのではなく、最初から使わなければ済む話である。それなのに、国会を批判する以前に個人にケチをつける発想は物事の筋道をはずしている。つまり、彼らは基本的な問題解決のプロセスすら理解できていない。このような、もはや理屈ともいえないような雑音に坂井七段が惑わされないことを祈りたい。

  2005年08月08日

  コメント(2)

• 明徳義塾高校事件からタレこみを考える

  かの高校野球の名門、明徳義塾高校が、せっかく地区予選を勝ち抜いてきたにもかかわらず部内での喫煙や暴力行為により出場辞退という結末になったそうである。出場辞退を決めたのは高校側のようなので、責任者が辞退を決めた事に関しては（本当は感想があるのだが）私は部外者であり現実に出場辞退に苦しむ選手たちがいる以上、とやかく言うのは慎もうと思う。私のように片手間に碁を打つ程度で高校で地区代表になろうだの大学で枠抜けしちゃろうだのと考えていた人間には彼らの苦しみは分からないだろう。私が気にしているのは、高野連に送られた匿名投書の背景である。部内での喫煙や暴力行為を高野連や新聞社に明らかにしたのは匿名の投書だというのだ。世間一般でいうところの「タレこみ」である。私は、こういうタレこみがどうして行われているのかが気になる。いくつか考えられるとすれば、一、暴力行為の被害者などが窮状を訴えるために高野連に訴える二、たまたま知った「正義漢」と自認する人間が「正義を貫徹すべく」高野連に訴える三、甲子園出場を妬む、あるいは出場可能性のある別の高校の関係者が高野連に訴えるといったパターンだろうか。しかし、被害者にせよ正義漢にせよ、暴力行為や喫煙の問題を取り上げてやめさせたい、処分させたいならそれは高野連ではなくまず学校に通告し、問題が学校で解決できるレベルを超えているとか誠実な対処がないなら警察や検察庁に告訴・告発するのが筋だろう。高野連とて公の機関による審査を受けているならタレこみがなくとも処分する可能性は相当高いはずである。まして、被害者のように「巻き込まれた」立場の人間が助けを求めているのではなく、「勝手にしゃしゃり出てきている」正義漢ならば匿名ではなく実名で堂々と出てくるべきだと私は思う。いくら正義感に駆られていようが、被害者という立場であろうが、新聞社や高野連に通告するのは明らかに筋が違う。くさっても法律家志望としてはこの点声を大にして申し上げたいところである。ましてや、他校の足を引っ張る事を目的として、粗探しをして告発をするならば、人間の風上にも置けない行動である。わが子可愛さにそういうことをする親がいるという噂も聞いたことはあるが、そんな下卑たことが行われているなどとは間違っても信じたくないものである。しかし、筋を違えて高野連に報告してしまう、あるいは粗探しとして高野連に通告するような真似をするのは高野連が部内での問題行動を連帯責任であるかのように全体で出場停止にするような前近代的な発想で高校野球を動かしていることにそもそもの原因があると思う。今回は、地方大会前に報告してくれればそういう選手を除くことを条件に出場を認めた、という高野連側の見解もあるそうだが、これまでかなり連帯責任で出場停止というような事例が出てきていたのは周知の事実。そんな態度が一部の人間にうつり、このようなタレこみという行動から事実上の辞退強要という結末の源になっているように思えてならない。私は、今回タレこみを行った人物に対して、物事のもっと筋道だった解決法を考えることを強く希望する。

  2005年08月05日

  コメント(0)

• 信頼関係と法

  法、その中でも契約に関する法律は契約書が支配する無機質な世界だと思われるかもしれないが、決してそうではない。契約で何より大事なのは、相互の信頼である。相互の信頼を重点において、法制度はできている。契約に関する法律に比べれば、犯罪と刑罰に関する法律の方がどれだけ無機質なことか。金が返せる相手だから金を貸すし、金が払える相手だから売る。きちんとしたものを売ってくれる相手だから買う。大事に扱ってくれる相手だから物を貸す。頼めばきちんとやってくれる相手だから頼む。法律も判例も、そんなことはよく分かっている。そして、相互に信頼していれば契約をなしにすることはないと考える場合には法律を形式的に適用しないで契約を存続させ、逆に相互の信頼がなくなればどれだけその中身が言いがかりに基づくものでも契約をなしにできる。というのがある。前者の典型例が「賃貸借に関する信頼関係法理」とよばれるもの。判例で認められてきた考え方である。金銭を払って家や土地を借りている場合を考えてみよう。この場合、法律の規定をそのままあてはめるならば、一、家賃を滞納すれば契約を解除して、借りている人を追い出すことができる。（民法541条）二、転貸しをすれば契約を解除して、借りている人を追い出すことができる。（民法612条2項）では、それでよいか。長い間住んでいれば、滞納はありがちなこと。後日まとめ払いすることだってできるかもしれない。借家を追い出されて路頭に迷うのはあまりにも割に合わない。転貸しも、家賃に見合った利益を上げるためには必要なことが多い。そこで、「例え法律の形式的に契約を解除できる理由があっても、それで相互の信頼関係が破壊されるほどのことがない場合には契約解除を認めない」と言う考え方が判例上現れた。これが信頼関係法理である。後者の典型例は、民法651条。委任契約、つまり人に物事を頼む契約の場合にはその契約はいつでも解除できる。たとえ相手が報酬を得ている場合でも、損害賠償さえすれば解除してよいのである。人に物事を頼むと言うのは、意外と重大。頼まれた方としても、頼む人間に信用が置けないならとても引き受けきれないし、頼んだ方も、信用の置けない人間に頼めば大きな損害が発生しかねないから、賠償してでも別の人間を探すと言う選択肢があったほうがいい。つい先日、人生に行き詰まった人の人生相談番組で、相談者のおっさんが真摯に対応しようとした芸能人たちを怒らせてキレた上、人生を立て直してもらうために用意した専門家たちからも見放されたシーンがあった。（さすがにやらせ臭かったけど）そのときに出てきた弁護士いわく、「信頼関係が築けないと弁護できない」。弁護士に弁護などを頼むのも委任契約だが、彼らは依頼人の腹を探らなければならないような弁護など基本的に引き受けられないし引き受けたくないのだ。明日の試験は担保法（プラスもう１科目）である。質屋に物を出す、保証人をつける、アパートを借りて敷金を出す、売り買いのときに金を全部払うまで物を渡さないという領域まで含めて「担保」という法領域の支配下だが、担保の本質も「足りない信頼を物や人の財産により補完する」というところにある。人柄や才能を見込んで貸す・借りるのが理想形態だがそれでは金はまず集まらない。人柄だけで金が集まるほど世の中甘くないし、いちいち相手の人柄や才能を見定めるのは非常に大変だ。それでは事業を始めるにも一苦労、社会の経済活動は円滑に進まない。だから物や他人の財産の価値を頼みとする担保の設定は社会で実に広く利用される。金を借りるどころか就学・就職など、何をするにも保証人をつけろといわれることが多い世知辛い世の中だが、これにより社会は円滑に運営されているのもまた事実である。

  2005年07月24日

  コメント(0)

• 怪獣の世界でもっとも強いのは誰か？

  勉強疲れと囲碁で脳みそがイカレ出したのか、小説を書いてみたくなってきた。ネタにするのは怪獣の世界である。何せ私は空想好きの上に人間ドラマが苦手なので、こういう話題の方がはるかに使いやすい。何作も見てるし。怪獣の世界には、いろいろな怪獣がいる。怪獣王と一般的に評されるのはゴジラ。双璧をなすガメラもいる（映画の評判が高いのはガメラの方かもしれない）し、女王の異名をとるのはモスラである。忘れちゃいけないウルトラマンもそうだ。こういう怪獣たちがたくさん出てくる中で、いちばん強いのは誰か？というのは怪獣に興味がある者なら誰しもが考えることであろう。ここで夢も何もないことを言ってしまうと、怪獣映画の世界でもっとも強いのは「人間」である。ゴジラでもガメラでもない。一例を挙げてみよう。「ゴジラvsデストロイア」では、40年も前にゴジラを倒すために使った薬品のために復活した怪獣デストロイアと、体内のエネルギーが暴走して地球もろとも破滅寸前に陥っているゴジラを人類が戦わせるというストーリーであった。この戦いで、ゴジラは体内の暴走エネルギーに耐え切れず、ついに溶けていった。人類はゴジラに冷凍総攻撃をかけて地球の破滅を防いで生き残った。デストロイアはゴジラと戦わされた挙句、ぼろぼろの状態で逃げようとしたとき、人類はあろうことかデストロイアに総攻撃を浴びせて滅ぼしてしまったのだ。人類は、実に狡猾に逃げ回り、新兵器を開発し、他の怪獣を利用してまで実にうまく立ち回っている。そして、人類や地球を滅ぼさんと画策するような怪獣は、ほとんど撃滅されている。モスラは神獣であり人類の味方であるから、他怪獣と戦って討ち死にすることはあってもずっと子孫を生き永らえ続けてきている。ガメラも基本は人類の味方であり、だからこそずっと生き永らえて来たともいえる。ゴジラは人類の味方ではないが、人類の脅威を撃滅してきたのも事実。それがなかったらゴジラは滅ぼされていたと私は思う。そう言う人間の立ち回りが描かれていると考えると、怪獣ものとは「ある意味で」もっとも人間臭い人間ドラマなのかもしれない。

  2005年07月12日

  コメント(0)

• 安易な制度批判は要注意

  最近は、一般人が特定の制度について厳しく批判し、場合によっては代案を出すことも多くなった。（単なる願望論として「だったらいいのに」というのではない）法制度然り、囲碁制度然りである。日本人は権威に弱く、権威者がつくった制度に対して受け身な態度をとりやすいといわれているのを聞いたことがあるが、最近はそんな風潮も薄れつつあるのかもしれない。だが、制度批判と言うのは意外と簡単にできる一方で、簡単である故に「実は」説得力も何もない言い分を乱発させてしまう危険がある。さすがに学者レベルになるとそういうことはなかなかないが、議論慣れしていない一般の人はついやってしまいがちかもしれない。（もちろん、中には自己の言い分のために意図的に無視する者もいるかもしれないが）乱発しても無視されるだけで済むならばよいが、そういう批判は論敵としても鬱陶しいだけだし、十分な分析を踏まえた真摯な批判論にも迷惑になったりと、ろくなことにはならない。しかも、評価するのが一般人である場合には本当は説得力のない＝おかしい言い分が席巻し、多数派がおかしいと思うことがないままおかしい言い分が通ってしまうと言う「悲劇」にもつながるので、決して無視された者がしょげればよいということにはならない。私が主としてネット上で目撃した制度批判の最大の問題点は、「目の前」しか見えていないことである。囲碁で言うなら、不利な形勢であることを理由に最善手さえ悪手と断じる類か。制度批判は、多かれ少なかれ現実の事件や難現象がきっかけになることが多い。そして、その事件をうまく解決できないとか、難現象を抑止するためにやろう、と言うことなので、目の前にある現象はよく見えているし、主張もその現象を解決するものになっているのが通常である。ところが、現行の制度が「抑えている」難現象は、一般人にはなかなか認識されない。なにせ現行制度が抑えてしまっているので、目の前に分かりやすい問題点として認識されやすい形で現れてくれないのである。従ってある程度専門的に勉強しない限り、一般人に現行制度の「ありがたみ」はわからない。当然制度を変えるべきと言うのなら「現在の状態より変えた後の状態がすぐれている」と言うのが大前提のはずだが、現在の状態の問題点には気づいても変えたあとに登場する「別の」問題点を考えることがないままに批判すると言うのが実に多いと感じるのである。私が先日取り上げた黙秘権批判論も、弁護人非難論も、批判者にこの目線があったならば、あんなことはそうそう言われないだろうなと思うことしきりである。説得力ある制度批判をしたい場合には、次のプロセスを踏むことが重要である。一、現在ある問題点と制度の因果関係をよく認識し、制度を批判して代案を出す。二、現在ある制度の趣旨、すなわちどのような問題点を現在ある制度が解決しているかをよく認識する。三、制度変革により噴出するかもしれない二で考慮した問題点をよく分析する四、二で考えた問題点は噴出しないか、噴出したとしても解決される現在存在する問題点の解決の方が重要と考えた上で、制度批判を行う。この四段階が、制度批判に当たってぜひとも心得ておいてほしいプロセスである。ちなみに、これはまだ21才でしかない私の言い分なので、もしかするともっと踏まえるべきプロセスはありうるかもしれない。もし考えたことがあるなら、補足などしていただけると幸いである。

  2005年07月05日

  コメント(2)

• 人生経験って、そんなに強いものか？

  私はまだ学生である。もちろん社会人終了後にと言うわけではなく正統派に小学校→中学校→高校→大学と言う路線の中の20代である。当然私の知る社会の現象はまだまだ社会のごく一部分でしかない。どんなに大学で現実の世界で使われている法律を学ぼうとも、社会の実際はつかみきれていないのが実際である。当然、私が持っている認識も十分ではない。法理論自体は少なからず学んでいても、実際に社会に出て活躍する弁護士の先生方の話を聞くと、法律など役に立たない例も少なくないと言うことは実感させられる。だが、人生経験こそが金科玉条であり、いかなる法制度よりも理論よりも人生経験が上と言う発想を持つ人間もいる。例えば、私が大学その他で学んだ法制度についてまで、趣旨とかを他人に説明して理解を求めようとするならば、社会の現実はそうでない、社会にいない君には分からないと説き伏せにかかるのである。人生経験を軽んずるつもりはないが、私には、それは大きな間違いが入っていると思えてならない。人間の人生は最長で120年ほどでしかない。まして、そうやって説き伏せにかかる人物がこれまで過ごしてきた人生など、長くて50年であろう。これに対して、法制度には人類の小さからぬ叡智が生きている。何千年にもわたって、「こういうことをすると冤罪がおこるぞ」「こういうことを認めると権力者は好き勝手をするぞ」というような、人類の長期にわたる経験を人類が保存し続けて現代に生かしているのである。そして、その叡智は数え切れない領域にわたっている。法律学でさえ、憲法・行政法・民法・商法・刑法・民事訴訟法・民事執行法・刑事訴訟法・刑事政策・労働法・教育法・農業法・土地法・登記法・労働法・破産法・知的財産権法・国際公法・国際私法などなどなど。民法などさらにその中に総論・物権法・担保法・契約法・不法行為関連法・親族法・相続法と分かれている。もちろん分野同士それなりに結合しているが、これらについて網羅的に学識を持つ者などどこにもいないと言って差し支えない。最高裁判所の裁判官たちでさえ、この手のことは部下の調査官に調べさせるのである。社会科学の一分野に過ぎない法学だけでこうである。世の中には文系でも経済学や文学・政治学などが揃い、理系も医学だけで科は20を越えると聞いている。そうやって人生経験論を説く人間は、これら全てを「人生経験」でカバーできると思っているのだろうか？ただでさえ専門分化の進んだ現代、人類を支える知恵は個人の人生の何十万、何百万年分にもなっている。他方、各個人の従事する作業はルーティン化したごく一部の領域。彼らの社会経験など、はっきり言ってごく一部の領域にしか出会っていない。現実の例えば刑事裁判になど、裁かれる立場としても、裁く立場としても、被害者や証人として携わることすらなく一生を終える人が大半である。現実に携わってきた人たちが言うなら信用するが、全く携わりも、勉強もしない彼らの言う「社会経験」と、人生をその問題に携わって生きてきた人物が作ってきた「法制度」。どちらが信用できるかは、火を見るより明らかなことである。上には上がいる。このことをいつも胸に留めておかないと、根拠のない勝手なことを言って他人を困らせるようなことが起こりかねない。

  2005年06月08日

  コメント(2)

全146件 (146件中 101-146件目)

< 1 2 3