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カテゴリ:フィクション
それは大きな穴であった。
果てしなく暗く、禍々しい穴。 この世の全てを飲み込みそうなその姿は、まるでブラックホールのようであった。 空間を捻じ曲げるようにして存在するその穴は、別世界と繋がっているかのようにも見える。 そして何とも言い知れぬ邪悪なものを感じ取れる。 少年はこちらを一瞥すると、静かに歩き出し、吸い込まれるようにその穴に入っていった。 これは、マズイ。 私は少し躊躇した。 このままあの穴に入って、帰ってこれるとは到底思えない。 しかしその反面私の頭には"少年を追え"という命令が下っていた。 私はゆっくり穴に近づいた。 そして穴の前まで行き、後ろを振り返った。 そこで私は絶望的な光景を目の当たりにした。 私の住む家が、街が、全てが消失していくのだ。 何も無い、ただ真っ白な世界へと変わっていく。 もう後には戻れない。 私は決心した。 そして私はゆっくりと、邪悪な空間に足を踏み入れた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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