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石冢雄人のナイチンゲール・カンパニー

[極東] カテゴリの記事

全86件 (86件中 1-50件目)

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1949-2006

舗道の敷石も野外駐車のボンネットも夜半に降ったらしい雨で濡れている。見上げる空はどんよりと灰色で大気に含まれた過剰な水分が開いた瞳孔へいまにもしたたり落ちてくるようだ。湿った空気が却って気持ちがいい。路地から通りに出てコンビニにはいるとジングルベルの音楽が鳴っている。品揃えもすっかりクリスマス色で雑誌のコーナーで週刊誌を立ち読みしポストに差された朝刊の「本間税調会長辞任」の横倒しの特号活字を覗きつづいて朝食に何を選ぼうかと店内を一周した。結局なにも買うものは見つからず、店を出て車道を渡りそこでまた曇った空と街路樹の交差ぐあいを仰ぎ見た。その格好を保ったままで舗道を移動する。はたからみればどんな風に見えるだろう。口こそ開けていないがサンダルによれよれのジーンズにセーターを着込み坊主狩りですこし人相の良くない四角い顔が顎を上げたまま歩いている。空と木々の枝々の交差具合はモンドリアンの初期作品のデッサンのようで、北京で開かれている六カ国協議という摩訶不思議な会談の筋のごとくに錯綜し、その鋭利な木の枝の黒い直線の流れを目で追ううちに天地はいつのまにか反転して川面に映る冬景色をのぞき見ている錯覚におちいる。なるほど自分はこうしてさかさまにいかさまな世間の師走を歩いているわけかと一瞬おもったり、この銀河のどこかにはこうして逆立ちしたまま生涯を送る知性体もきっといるのだろうと空想してみたり、ちょびちょび喉を潤すために呑んでいる「21世紀土佐焼酎・海洋深層水仕込み　龍馬の海援隊21度」の特段においしいというわけでもない味をあらためて唾液の中に回想してみたりして銀行の角を曲がった。そこがわずかに段差になっているのだが逆立ちして歩いている精神は気がつかない、あっとおもったときはどぶ板の隙間の穴のひとつにサンダルの先が挟まっていて、そこを無理強いしても抜けようとした勢いがサンダルを孤立させて、どうやら片方だけが裸足になってシカシまだ歩いていた。それほど空が面白かったわけでもなくそのとき頭が見ていたのは、いかにも地団駄踏む具合で駄々コネダダイスト国家の六カ国協議の不可解でありあれほど戦争好きな米国がなんでまた半島の北にはじっと我慢のポーズをしてみせるのかという素朴な疑問であり、米朝が交互に演じる疑似恋愛活劇の出鱈目の奇々怪々をあいかわらずなにかすごい政治的出来事のごとくに報道するメディアという共犯者のファルスぶりだった。思考がそのあたりで空中を未確認飛行物体が走りすぎて足下に脱兎のごとき猫の数匹の疾走がはじまったところからようやくにしてふたたび天地がもどり左肩を落とした格好で10メートルもどってサンダルを履き直した。その時点ではバンコ・デルタ・アジアにこだわる北朝鮮代表とクリスマス帰国を急ぐヒル国務次官補の笑劇のことなどすっかり忘れてしまい、ついでに朝食のこともどこかへ行ってしまっていてどうしたわけか最後のあがきをマンホールの出口の鉄の格子を握っているハリー・ライムことオーソン・ウエルズの手の演技のクローズアップシーンがいきなり脳内視覚野に映し出された。たしかそういえば、と味噌のかけらのひとつが「第三の男」の原作者であり脚本を書いたグレアム・グリーンの弟ウーゴ（hugh Greene）が兄貴の死後にBBC英国放送総裁に就任したんだったっけとマルコーニ無線技師のスパイキャッチャーが指示情報をシナプスのひとつに送り出してきて、遠近法の消失点から来るアリダ・ヴァリがロングコートに両手をつっこんだままジョゼフ・コットンの前を無視して通り過ぎる、かの落ち葉舞う墓地でのラストシーンがあざやかに眼前してしまうのだった。それにしてもあの落葉はいったいどこから落ちてきたのか？普通に考えればすっかり葉を落とした並木にもはや落葉はあり得ない…曇天のモンドリアンな空を見ながらそう考える。撮影カメラの前、その上あたりから降っていたようにもみえたがじつはスクリーンの外で降っていたのではなかったのか。そしてまたアリダ・ヴァリが大写しになり消えてゆく1949年のその画面の外側では、まもなく米ソ代理の朝鮮戦争がはじまり、敗戦国日本は未曾有の戦争特需に沸くことになる。そこから半世紀がたち半島は休戦状態のままに放擲させられてきて、大国の狭間で政治的仕掛けのひとつがまるであきられ見捨てられてしまった玩具の兵隊のようにのびきったバネを露出させて自己主張をはじめたからと言って、米中にとってはおそらくは「どうでもいいこと」なのだろう。出来事の背景に描かれた書き割りのチープさと流される勇ましい軍楽隊のラッパの響きばかりに酔っていっこうコトの次第を理解しようともしないわが国外交部のお粗末と武器商人たちのしたたかなエクセル操作にまどわされる虚構のパワーオブバランス。だれかが「ちぇ！」と舌打ちし、このウソで固めた極東アジアの笑劇の幕を引いてしまわないのか。冬至というのにすこしも冬らしくない街路にもういちど飛び出して、あらためて半世紀の時間の流れがつくった極東の政治的暗渠を検証してみるか、などとおもう。

2006.12.22

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「死の教室」～美しい國の無言劇～

どしゃぶりの中、裸足にサンダルつっかけて濡れる落ち葉の車道を突っ切る深夜二時。闇まですっかりびしょ濡れて手前の四辻から吹きこむ突風に手に持つビニ傘があおられそのままふわっと体ごと宙に浮き上がり夜空へ舞い上がりそうにもなる。雨に濡れた黒い舗装路に日曜日から月曜日に推移した電飾看板の、欲望に粉砕された光のかけらが映り込み、さながらここは上海香港ジブラルタルか。喜界島の上空で軽い食事をすませ、翼を右へわずかにあげればウイングの先のオレンジ光がちぎれ飛ぶ黒い雲を照らし出す。こっちからあっちへ意識の底で旅をしつつ黒い革張りのソファからまたも転げ落ちて目を覚ました。瓶ビール一本とたらふく詰め込んだ焼き肉の未消化分はどうやら夢の中で昇天し硝子戸の向こうはアフリカの大地のように広漠と果てがない。とうに夜は明けていたが流れはじめたばかりの時間は初冬のつめたい雨にたたきつけられた布きれの無惨さでべったりと身体にまといつき、皮膚の毛穴を窒息させていた。どうやら午前がすでに昼近くまで押しかけてきていて正午には晴れやかに雨上がりのサイレンが曇天の11月の空に鳴り響くのだろう。ブザーが鳴って場内が明るくなると、そこは古びた地方の駅舎でわたしは待合室のベンチで正午10分発の列車を待っている。百年前のわたしは現在の「私」をケータイの待ち受け画面の中に押し込んだ。そのとき天啓のごとく「ゲーム脳」ということばが浮かび、置き去った1970年代から80年代のブロック崩しや大学解体やロシアの闇から走り込んだテトリスやらが閃光のように今生世界を切り替えた。目の前に二つの新聞記事のコピーがある。ひとつは「子供の安全、改札や学校で確認　ＩＣカード活用広がる　東急グループ関東で展開」という、11月18日付け日本経済新聞の記事。定期券機能を持つＩＣカードに登下校時や入退室情報を保護者のパソコンや携帯電話に送信するサービスを鉄道会社が来春からはじめるという内容だ。もうひとつは、今朝の朝日の「時流自論」というコラム。写真家藤原新也の「いじめという集団の自傷行為」なる小論と「家の外との中間空間である電車内の光景には、日本社会の縮図が見える」という短いキャプションの付いた、藤原撮影の電車内のカラー写真。かつて金属バットで父親を撲殺した少年の家を大判カメラで精細撮影してみせた写真家は、おなじ力でこのニッポンの不可思議空間を捉えきった。スカートをはだけてまるで自宅の居間でくつろぐように車内の床にしゃがみこむ女子高校生ふたりと、ほとんど太ももを露わにしたハイミニ姿で立つ高校生の、その向こうにはそうした光景には無関心なままケータイで話す若い男の立ち姿。そして写真に被さるように藤原の文章が次のように語り出す。〈11月初旬のある日の夜10時ＪＲ山手線に乗っていた。隣の席に塾帰りらしい小学生が座る。ランドセルからスポーツ飲料とサンドイッチと「ポッキー」を取り出し、携帯でメールをチェックしながら食べはじめる。夕食らしい。携帯の画面には「あいつ」「ゴキブリ」という言葉がちらりと見える。小学５，６年生くらいだろう。子どもは携帯画面を見終えると、手さげバッグからゲーム機を取り出し、一心に両手の指を動かしはじめる。画面には飛行機の影が浮遊しており、神経症のようにたたきつける指の動きと連動してビームを発射し、しきりに何かえたいの知れないものを攻撃している。その子の姿に、催眠術のようなピアノ曲がバックに流れる塾産業社のテレビコマーシャルが二重写しになる。テレビの中の子どもたちは異様な静寂の中で鉛筆の音だけを発し、黙々と答案用紙を埋めている。塾の行き帰りは、あたかも何かから追われてでもいるように前のめりの早足で歩く…〉。それはけだるい真昼の暗黒世界であり、ゲーム脳とケータイとぬめぬらりとしたノッペラボーな非日常がすっかり日常化してしまった平成十八年ニッポンの現在だ。三歳から十二歳までを米国西海岸で育った知り合いの帰国子女（男子）は、日本にもどっていちばんびっくりしたのがイジメに何の抵抗もなく加わってしまう同級生たちだったと、あるときわたしに打ち明けた。「むこうでも威張る子やいじめっこはいましたがひとりを寄ってたかって攻撃するというイジメの光景はなかった、（日本にもどってイジメの実態を知り）腹が立ちましたね」と。これは藤原が記事の中で言う「東大を頂点とした受験管理教育という名の“強制収容所”の密室で喘ぎ、心が病み、歪み、イジメ合うことでガスを抜くという自傷行為がくりかえされている」という指摘と私の起き抜けの意識の中で重なった。戦前戦中の日本では、差別される側にもさらに差別されるものたちがつくられるという二重三重の差別構造が生まれ、そのベクトルは下へ下へ、弱き者からより弱き者へ、とひたすらに突き進む構造をみせた。米国民主主義の優等生国家の床下の闇で半世紀をかけて育ってしまった不可思議怪獣が、液晶画面からいま、むっくりと鎌首をもたげ、「子どもという集団の自傷行為」という形でなにやらおぞましい無言劇の開演ベルを鳴らし始めたのか。場内はふたたび暗転し、舞台上ではちいさな役者たちによる「えたいの知れないものを攻撃する」残酷なゲーム劇がはじまった。このニッポン国で続発するイジメとイジメ自殺は、子どもの登下校をＩＣカードで監視しようがケータイを持たせて安心安全をこころがけようと、そうした小手先芸で解決できるようなシロモノでないことだけはたしかである。

2006.11.20

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寡黙と饒舌（続）

極東の隣人はいまや世界注目の的だ。ピョンヤン（平壌）生まれの知人によれば、美しい柳の街路樹はいまも美しく、この季節、初秋の風にそよいでいるのだという。北東アジア一帯の地図を南北逆にしてあらためて眺め見る。地下核実験が行われたとする咸鏡北道吉州郡豊渓里は日本海をはさんでおよそ800キロ南東方向に壱岐の島々、そして米子松江があり、首都ピョンヤンまでは400キロ南西という位置関係になる。日本海を内海とみれば、対岸に秋田、新潟、鳥取、米子、益田、萩、下関、福岡という日本の諸都市がならび、大韓民国・釜山（ぷさん）から北下すれば、ウルサン、ウルジン、カンヌン、コソンそしてウォンサン（元山）、フンナム（興南）ときて、ここで北緯40度線をまたぐ。朝鮮民主主義人民共和国いわゆる北朝鮮にはいるのは38度線をこえたコソン（高城）からだ。このフンナムからさきはホンウォン、タンチョン、キムチェクとつづく。舞水端と書いてムスタンと発音する岬を越えるとオデジン（漁大津）とチョンジン（清津）のふたつの海湾都市がある。この一帯は深海が大陸ちかくに迫ってきているから、軍港としておそらくは最適だろう。さらに北下すれば北朝鮮の最北端の港はラジンとソンボンだろうか。ソンボン（先峰）から50キロ海沿いに行くと、そこは北緯42度10分、ロシアと中国の国境地帯である。ソンボンから陸路川づたいに内陸部へ向かう人民道路をはしると、やがてトゥーメン（トモン=図們）という中朝国境の町に至る。ここには一種の自由市場があり、中国人と朝鮮民族が自由に行き来し生活している。歴史的に見ても軍事的に見ても、かつて中国人民解放軍兵士は朝鮮人民軍兵士と共に旧日本軍と戦った。かれらはいまも「戦友」で「同朋」で有るだろう。わたしはいまこのソンボンの山中を登場人物に歩かせているわけで、物語の中で、彼は国境越えをしてロシアの豪雪地帯へはいりこむ。もっとも美しく神々しい、かのアムールトラの棲息する一帯である。

2006.10.18

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寡黙と饒舌

きのうきょうと抜けるような青空がひろがった。きのうは部落の人間数名と隣人の裁判の傍聴に出かけた。手錠腰縄スリッパ履き姿で法廷に出て来た元隣人は、入口でこちらの姿を目にとめ目で会釈した。表情ははれやかで、ただいたずらっぽい丸い目がややとまどっているふうにみえたのは、傍聴席におもいのほか人が来ていたからだろう。裁判は一時間余でおわったが、はやくに車で着いたわれわれは時間をつぶすために裁判所ちかくのメシ屋で昼食がてらアルコールも少々入れていた。ひとりはよほど草臥れていたらしく、傍聴席に座るが早いか眠りだし、やがていびきをかき始める。まだひとつ前の被告の裁判（前科八犯覚醒剤所持容疑　判決言い渡し）だったから、となりに座ったわたしはほうって置いたが、いよいよ隣人の公判がはじまってもまだ眠りつづけている。右隣のもうひとりのわが仲間も、こちらはどうやら早朝から自宅で酒を浴びるほど飲んできたらしくはじめからロレツがあやしかったが、赤ら顔のままにわたしの右となり、傍聴人席最前列に座っている。居眠りこそしないがいっしょに来るあいだじゅう喋りつづけ、廷内でも声こそ落としてだが前に座った被告である隣人の背中越しに声を掛けたり肩を叩いたりして、そのたびごと両脇の衛視から注意を受けている。隣人の弁護士が弁論を開始したが、左の居眠り男はあいかわらずいびきをかいて眠りつづけ、右となりは赤い顔でときどきこちらをこづいたりする。わたしの後ろには新聞社の記者らしい若者ふたりが大学ノートを持って傍聴していた。裁判が終わるとわたしたちは外に出た。官舎のほどよく手入れされた庭の一角の桜の老木が黒い老人のシルエットのように天をバックに風にすこし揺れている。午後三時をまわり、山の国の日は翳って庭の草木も立木も秋のななめの光線を浴びてゆるやかに大気の海のなかにたゆとうている。三人は裏の出入り口から庭をぬけて街の通りへ出た。ひなびた街の何軒かの店をのぞきながらぶらぶらと無言のままに駅まで歩き、わたしは途中の八百屋で安売りしていたサツマイモとキュウリをひと皿づつ買った。やがて、「あれならまんず執行猶予だんべさ」とずっと居眠りしていたはずの水谷豊似が背広にネクタイの余所行きスタイルで明るく言い、「ところ払いでしばらくは東京へ帰っておとなしくしてなきゃあさね」とずっと年長の猟友会のもうひとりが、まったく廻らぬ舌でもごもごもごと付け加えた。切符をめいめいが買ったあと、電車の到着するまでまだだいぶ間があったことに気づいて、わたしたちはつぎの駅まで歩くことになった。風に吹かれ線路づたいにすこし歩いたところにドアを開け放したスナックがあり、赤ら顔が、おゝ、とちいさく叫んで暗い店内に入ってゆく。つられるように入るとカウンターに女性のひとりが上がり天井を拭き掃除している。酒瓶のならんだ棚の前で還暦過ぎたくらいの女性が飛ぶ蚊もおちるくらいな迫力ある声で赤ら顔と話している。なつかしいねえ、とかにゃおとか言いながら。やがてまもなく赤ら顔が止まり木に座り、わたしたちふたりもつられて座って、そこでまた一杯やることになってしまった。あんたたち月曜からいったいどこへ行ってきたのよと、どうやら赤ら顔のむかしの馴染みらしいカウンターの還暦ママが笑顔を浮かべ、刑務所、とわたしがはぐらかしをぼそっと言えば、あはは！とまた嬌声が店内に響いて蚊が一匹落ちた。大掃除の最中だから何もないわよとママが言い冷蔵庫から冷えたビールを出した。昼前に入った店で出された隼人瓜の漬け物のお土産を赤ら顔がとくいそうに背広のポッケから取りだして、それが急場の肴になった。景気はどうさ？と話題もないから尋ねれば、マルイなんだけどさっぱりよ、と還暦ママがコップにビールを注ぎながらやけ気味に笑い、ううん「駅のそば」だから「マルイ」なんだわあ、とダジャレが寝覚めの味噌の中をかけまわっている水谷豊がにやけて解説する。こうしてわたしたちは、とりあえず懲役三年という検察側の量刑要求が、なんとかわが弁護士の活躍と住民有志の嘆願と真面目な被告の人柄などなどによって、罪一等を減じられ、かなりの情状となるだろうと勝手に楽観し、まだ判決言い渡しは先なのだがとりあえず乾杯したのだった。夜おそくひさしぶりに山の家にもどると、わたしは買ってきた芋をふかした。胡瓜は薄く切ってミネラル塩で浅漬けにした。玄関先に、どうぞ、といった風情で大きなビニール袋が置かれてあり、中を覗くと缶ビール11本と未使用の調味料、サラダ油、みりんや穀物酢などだ。隣人の連れあいがこちらの留守中に東京からやってきて、山荘の最後の後始末をすませて、残った食料をこちらに贈呈してくれたものらしかった。そうしてきょうも朝から快晴の秋空がひろがり、わたしはすっかり片付いた隣人の山荘の前を通って散歩に出た、いや出ようとして石垣のうえの彼の庭先をなにげなく見あげた。庭先にクマクス殿下が作った木の一枚板のテーブルがあり、その上に彼が愛犬を亡くした後、大事に育てていた観葉植物が数鉢、烈しい秋日にさらされていた。もどってまだ息のありそうな鉢だけを選び出し、庭先の水道で水を与え、わたしの家の日陰へ移し置いた。すこし前のビーグル犬の死でカラになった犬小屋につづいて、こんどはその主じのほうの小屋もからっぽになった。その大小ふたつの小屋の無人のたたづまいが、色づきはじめた山の秋のざわめきのなか、なんだかむせび泣いているように見えた。昼のラヂオからは、米国の偵察機が集めた北朝鮮上空の大気のチリのなかから、核爆発で生じる放射性物質が見つかり、北朝鮮の核実験実施場所は北東部の豊渓里近くと断定、「１キロトン以下のちいさな核爆発はあった」と米国研究所が公式に発表したという外電が流れる。北朝鮮の発表いらいの、当事国の寡黙と国際社会の饒舌の、奇妙でまやかしな疑似歴史的な７日間は、こうして終わり、北東アジアにどうやら、「核を持つ国」がもうひとつ、メデタク生まれたわけである。

2006.10.17

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十月の黒船来たるしじまかな

十月はふしぎな月だ。イメージからいうとこの月は、なぜかわたしには「黒」という色を連想させる。そうして黒というと、黒社会、黒服、腹黒、黒い金などなど、まずもってそうしたダーティな世界がひきだされてくるのはなぜだろう。「黒い報告書」という週刊誌の連載読み物もあったっけ。一話完結で、じっさいに起きた男女の愛憎がらみの事件を適当にフィクション仕立てにしたもので、これもたしか現職の刑事が書いていた。いまはどうか知らないが警視庁捜査一課の或る部内誌（部外秘扱いだった）にも、当時よく似た実話ものの連載があった。その道に得意な刑事が半ば趣味で書いていたらしいが、なかなか面白かった。国会図書館あたりにゆけば、こうしたものもまとまって保存されていて誰でも読めるのだろうか。日々起こるさまざまな事件は、この社会の底のほうで蠢くヒトという生き物の複雑怪奇さをあらわすとともにそのまま時代の反映でもあろう。新聞はそれらを４W1Hで切り取って無愛想に速報するだけだが、それぞれの事件には生まの人間のおどろおどろしい、どろどろした生が、獣の腹を切り裂いてとびだす臓物さながら見えている。「あんな真面目な人が」とか「おとなしいひとなんですがねえ」「こども好きで気さくな人でした」「いつもにこにこしてとても朗らかなかただったんですよ」といった周囲のコメントとともに、この事件世界では「もうひとつの貌」がどろりと闇の奧から姿をのぞかせるというわけだ。商業映画作品では三池崇史監督の『デッド・オア・アライブ』が描いた、三合会をおもわせる中国マフィアの黒社会。悪党共が跳梁跋扈し、永遠に救いの来ない世界。個人的には、これに『カリスマ』の黒沢清監督の形而上世界を足して２で割ったような小説世界をつくってみたいものである（笑）。小説といえば、10代はじめの頃に熱読した『火星年代記』『なにかが道をやってくる』の作家レイ・ブラッドベリには『十月はたそがれの国』という詩情漂う傑作短編集もあった。なるほど「たそがれ」か。これは「黄昏」と表記するほうが好きだ、、、などと独語しつつ、ふっと窓枠で切り取られた四角い空を見あげる。さきほど外出したときには山の鞍に青い晴れ間の切れ端が見えたのに、いまは薄墨色の厚い雲が全天を覆っている。午後五時。もう夕暮れか。ばたん！とブラインドを落とすように日が短くなり、戸板返しではないけれど黄昏の闇の中にこの世の愁いや哀感が染み出てくる。なるほどこの季節、光もまた黒に近づくということでもあるか。　十月の黒船来たるしじまかな安晋会という黒世界。二十一世紀、この先しばらくはふたたび奇妙な極東の時代になるのだろう。きのうおそくからはじまったひどい耳鳴りと頭痛が寝て起きたらすこしおさまり、きょうはなんとか仕事を再開できそうだ。（写真は「十月の猫」ピッピ、現在行方不明中）

2006.10.03

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にっちもさっちも団塊世代

国際クマ会議というものが来週、軽井沢でひらかれるのだそうだ。なんでもアジアでははじめての国際会議だという。へえと思ってさっそくぐーぐるってみれば、なるほどあった。〈この会議は北米、ヨーロッパ地域とアジア地域の間で、クマの生態や保全、管理に関する情報交換の場を提供するものです。この会議では、アジア諸国の研究者による積極的な参加が期待されます。また、会議によりクマの研究が発展し、世界中でクマの効果的な管理が行われることが期待されます〉 2006年国際クマ会議会議の趣旨に門外漢が文句をつけるつもりもないが、「効果的な管理」ということばがひっかかった。いったい「効果的な管理」ってなんだ？　主催や後援に仰山、立派そうな団体や個人が名を連ねている。しかし当事者のクマはいない。管理される対象であるクマには通知しないでこっそりやろうというのなら、会議の趣旨がいかに高邁そうでも、あまり信用できないな。ここから連想するのは、たとえば捕鯨についてのもろもろの問題、生き物を「資源」としか捕らえない物質文明中心主義がもたらす偏った動物愛護。あるいはほんらい多様な地域民族の文明文化を、もっぱら一神教的世界観で強引に切り分けようとする傲慢だ。え？そんなものではありませんって？　そうだろうか。わたしには新しく総理の座に着いた52歳のボンボン陰陽師の所信表明演説でぶちあげてみせた「美しいニッポンをつくる」とおなじくただただ虚しく響くのであるが。いいたいことはじつは少々厄介だ。この種の国際会議がまるでわれらの生きるこの社会の、政治経済文化の有り様とはハナから切り分けられたところでいつだって開催されていくという虚しさは、そろそろやめては如何かという気分がまずまっさきにあって、だからといって会議を開くなとも思わない。わたしもまた動物写真家の星野道夫の写真が嫌いというわけでもないし、また毛皮を着ながら動物愛護を叫ぶからといってその映画スターが嫌いになったりするほど偏屈でもない。しかしどっかちがうんだよなあ、、、なあ野良猫くん。にゃお！近隣在所のクマといえば、このあたりの彼らはもっぱら山の岩場の穴に棲む。以前にもすこし書いたがクマ穴は入口はひとがやっとくぐって通れるほどしかないけれど、内部は小型乗用車がゆったり駐車できるくらい広くて、彼らはそこに代々棲んでいるのだ。熊撃ちの猟師たちは鉄砲でズドンとやって討ち取ったクマは（少なくともこの日本の山国の伝統文化では）内臓から脂身からすべてを100％活用しそれが供養だということになっている。イノシシもクジラもそうである、エスキモーはアザラシをおなじように活用する。活用するというならでもサア米国の大牧場主も1000頭の牛をミートにしてそこに病気に感染した牛が混じっていようがハンバーグに上げてしまえば分からないとか有効活用していまっせ、ばーかそらあちがうでしょがあ…いやこんなこと語るよりももうすこし手っ取り早く言ってしまおう。この文明の有り様のおおもとの所を議論せずに、クマ会議を開こうがブタ会議だろうがBSEヤコブ会議だろうが、吉野家牛丼会議だろうがパパラッチではないのか。すなわち事象の追っかけにおわる。もっぱらそのようにして善意という名の下に、いったいどれほどの文明が破壊され少数民族が殺されニートがホームレスが原住民が会議の血祭りで民俗学者や文化人類学者のおまんまの食材として差し出されつづけてきただろう、と少々アラっぽくだけれど言ってしまいたい気分になるのだ。支離滅裂は承知、いやトーゼンながら支離滅裂の彼方へ、ばかやろーっとそこをぬけて走りつかなくては、この分裂した文明の、科学技術万能の、また資本主義経済万能の、銀行支配世界のカラクリのおおもとのところで隠れて生き血を吸う吸血寄生虫どものたくらみを何とか暴き立てないかぎりは、にっちもさっちも団塊世代なのではあるまいか。以上のごときことを、途中下車して立ち寄ったと抜かす来客と日本酒焼酎濁り酒どぶろくビール呑みつつしゃべりチラしたのでした。「おーい、クマに襲われないように用心して帰れよお。。。」

2006.09.29

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日の丸とリンゴひとつの夏きたる

おそい午睡を庭先のボンボンベッドでとっていると、部屋のラヂオから「リンゴの歌」が流れてきた。歌っているのは並木路子。昭和二十年、米英列強に敗れ焦土と化した町や村にながれたヒット曲だ。私はまだ生まれていない。しかし、遠い記憶をたどってみると、両親が、まだめずらしかった蓄音機にSP盤という重くて黒いレコード盤を載せてこの歌をくりかえし聴いていた情景までが浮かんできた。　　日の丸とリンゴひとつの夏きたるかげってきた日射しの中、リンゴの歌の明るいメロディが、なぜだか妙に新鮮にかんじられたのだった。…あのリンゴは、あるいは日の丸の「赤」でもあったのだろうか。敗戦から61年目の夏がくる。■追記…日の丸の起源をネットで調べてみた。wikipedia日本語版の日章旗の項目には「1870年（明治3年）制定の太政官布告第57号商船規則に基づき、日本船の目印として採用されて以来、日本の国旗として使用されてきた」とある。その歴史は意外と新しいのだ。ちなみに上記のwikipedia日本語版には、「日の丸の起源はじつはよくわからない」とも書かれている。■蛇足…イングランドは、イコール英国ではない。国旗を見ればわかる。W杯でイングランド選手の身につける旗は英国国旗のあの「ユニオンジャック」ではない、白地に赤い十字のいわゆる「セントジョージの旗」だ。これは、じつはナイチンゲールのあの赤十字の旗を連想させる。大英帝国の核心部がこのイングランドである（さらにその真の中心部はいわゆるロンドンの「シティ」だ）。不思議なことに「白地に赤」（旧文部省唱歌「日の丸」より）は、日章旗もイングランド旗もおなじなのである。

2006.07.06

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人の世の牛の如くに反芻し

これも人生。…北朝鮮贋遺骨騒動のさなかに発表される防衛大綱のように、人の目を他へとむかわせて注意をそらし、本懐を遂げるという手法がMAGICだ。日本語では魔術と訳されるためにおどろおどろしいが、なるほどMAGICはその歴史的源流をたどれば、たしかにあやかしの闇とともに生まれ落ちた。たとえば、魔術師のなかの魔術師などともいわれる、19世紀末の英国に誕生したかのアレイスター・クロウリーは、自らを「獣の数字666」であると自称した。そして現在より丁度100年前の1904年4月8日からの三日間に天啓を受け、自動書記したものが『法の書』とよばれ、オカルディズムのいはば聖典となっている(日本語版は国書刊行会からでている)。これもまた、MAGICの世界なのだった。なるほど、とおもう。あの、いまだに国際的な調査のなされない9.11事件もまた、壮大な仕掛けに基づくMAGICであったのではないのか。銀河系の辺境にあるこの惑星の、中東から極東にいたる、猫が囓った歯形程度のものを、軍事的「不安定の弧」とことさらに強調しいまにもテロリストが日本をも襲うとあおり立てる。...かくて「北朝鮮のミサイルの脅威」と「中国軍の脅威」がゆるぎない「新たなる脅威」として、いつのまにか大手を振って表通りを歩き出した。これもまた、どこかのだれかさんの仕掛ける壮大なるMAGICであるにちがいない。奇怪である。これは2004.12.11の当ブログ、「MAGIC」という拙文の後半だ。あいかわらずの半島情勢なテポドン脅威の流れる中で、反対の声も流されて、まんまと青森上空には米軍Xバンドレーダーが世界ではじめて実戦稼働して…、しこうしていまあらためて18ヵ月前の記事を読み返すが、あのとき指摘した状況と世界の有り様は変わらない、その通りにすすんでいる（笑）。

2006.07.01

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四月尽

青い中に連山の稜線が切り取つたように視野の中央にせまってくる。腰掛けた石の足元には午前九時の濃い影が百足や蟻の世界を囲いこんでいる。昨夜のすこしばかりの雨のなごりか朝の露なのか、拡大鏡でのぞき見るツリガネソウの先端には白い玉が日にかがやいている。わずかに数日を経て山はいっせいに五月の緑に染まつてしまつた。眼下の渓流は数ケ月前にふとどきな建設土建のたてた阿呆の爪痕をようやくにして半分ほども消したけれども、いたるところにほじくり返された荒れた肌がさながら厚化粧を剥がした女のそれをおもわせたりして、つま先立ちで天地を蹴つて、この格差だ下流だと肝心を隠した用語遊びのマスなゴミニケーシヨン産業社会のデジタリン狂乱娑婆をサツカーボールの切なさのごとくにおもいきり蹴り上げてみた。山吹の勢いの吹きあがるあたりに猪のまた蝶のまたまたタケノコがぼこぼこ出始めた背後の竹藪の、見上げるアゴの二重になつた痕を消しゴムで消しつつ寸足らずのもらいもんの中古ジーンズの汚れた藍色にけさのさわやかな空気をしみこませて晩春いや皐月のゆるい風を追つている。このところ出たり入つたりの毎日だが月も太陽も毎日そうしているわけだからそのくらいの出入りに草臥れるわけにもゆかない。ふた抱えほどの石ころに尻をあずけ、前方五十糎に在るもうひとつの石に左右の足を載せて朝刊を読む。「米の歴史観・アジア戦略と対立」と題字脇に墨ベタ白抜き初号ゴヂック活字の縦見出し。横に「靖国」日米にも影、とこれは特号ゴヂック活字が横に立つ。ナニナニ云々…。「戦争を正当化することは、日本と戦った米国の歴史観と対立する。異なつた歴史解釈のうえに安定した同盟は築けない」と、これはジョンズ・ホプキンズ大学ライシヤワー東アジア研究所のケント・カルダー所長の弁がまっさきに紹介されて、「多くの米国人が靖国を知るようになると、日米関係の障害となりかねない」と同所長は恐れている、と記事の書き手（論説委員・三浦俊章）は重ねる。ブツシユ大統領が首相の靖国参拝を批判することなく、国防総省も日本の歴史問題を批判していないが、「外交を担う国務省内には、日米が協力して中国を国際社会のパートナーにしていこうという時に、日中首脳会談もままならない日本に対するいらだちがある」と記事はつづく。そうしてその記事の左にはならぶように「国が拉致、信じ難い」米大統領　横田さんと面会という昨日のホワイトハウスのブツシユ猿のパフオーマンスが四段抜き記事で掲載されている。そんな新聞紙全紙を中央で二つ折りしてながめながら、百円ライターで新聞に、いやタバコに火を付けた。中州のハナのところに釣り人がふたり黒い影で居る。そろそろ若鮎のシーズンだ。ひとりはやや小太りのしかし大柄で、ひとりはひょろりと長身。長身のほうが米国で大柄肥満をかりに中国共産党幹部とすれば、渓流の中に垂れた餌があるいはこのニッポン國なのではあるまいか。ぷかあとケムリ吐きつつ午前九時が退屈そうにしなだれかかっている。天下の商業新聞紙の論説委員が作文する「懸念」のお粗末は毎日のことだとしても、共産中国が向こう半世紀の絵図のなかに如何なる深慮遠謀を記しているかについて、たとえばイスラエルの諜報機関モサドあたりに伺いをたててみるほうがその真相は明解であろうとふとおもう。中国の情報機関とモサドのながい蜜月について、日本のジヤーナリストが無知であることは可笑しいくらい真実であると思えるからだ。裏返つた世界すなわち鏡の向こうの世界を知ることもなく、ひたすら水のオモテに立つさざなみに右往左往する日本の専門家の滑稽を、谷から渡つてくる五月の風が嗤つている。　冬蜂の骸運びて四月尽下手人の蟻は姿を隠したままだ。

2006.04.30

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万愚節

.　猫が来て起きろと云える万愚節そんなわけで、目を覚ました。山はまだ寒さが残るけれども（昨夜もストーブを焚いた）、天気はいい。雲が二三個飛ぶ空を見に自転車に乗つて朝の散歩もすませてきた。ポストの朝刊を抜いて一面を見れば、「前原民主総退陣」とある。え、嘘だろう！あのメール問題の証人喚問はどうなった！？…題字のすぐわきに寄り添うように、「新代表、小沢氏軸に」「メール問題　永田議員は辞職願」と五段抜きの縦文字だ。そこから左へ目をずらせば、「1000万円提供打診　西澤氏に」と四段抜きの中見出しが立つ。まことにエイプリル・フールの朝にはふさわしいニユースであつた。珈琲を煎れながら、記事を読む。民主党の前原代表は31日午後、党本部で記者会見し、永田寿康衆院議員の送金メール問題で混乱を招いた責任をとつて代表辞任を表明した。昨年９月の総選挙の敗北を受けて就任したが、半年で退くことになった。鳩山由紀夫幹事長ら執行部も総退陣する。同党は７日の両院議員総会で新代表を選出する予定だ。新代表選びは、小沢一郎前副代表を軸に進む見通し。経験を重視して、菅直人元代表の再登板を求める意見もある。党員資格停止中の永田議員は31日、議員辞職願を衆院事務局に提出した。　（朝日新聞東京本社版　第12版　2006.04.01記事より）以上が、前文で、記事のおおよその内容である。「前副代表」や「元代表」と「前」と「元」が「前原」にとって変わるということらしい。「前・原」がそもそも滑稽なダジヤレではないか。おもわず珈琲粉をこぼしてしまつた。こうして、マエハラ君は前原前代表となり、やがて前原元代表というぐあいになってゆくわけか。いっそ民主党は東京三菱UFJ銀行を見ならつて「自由民主社会民社魁ガラクタ党」と正直アリノママの名前に改名し、墓掘人のマエハラ君も、これを機に「前原　元（はじめ）」という名前にでも改名してはどうだろう。もうおそいか、いや、それまで党があるかどうか、それがまずは、問題か。午後二時をまわり、空は白くひかっている。鈍い光の風景を押して下の河原へ下りてみるか。墨汁に筆を浸し、木ぎれに名前を書いて玄関のポストに貼りつけてみた。墨の匂いは春によく似合う。庭先にはダイアナ改めダイスケ♂とハーチヤン改め紀子様♀（命名者　Anabaticaさん）がじやれ合う。ダイスケはこの美猫の妹（姉？）が気になつてしかたがないようだ。掲載写真は、散策の途中、峠道の石垣を撮つたものだが、阿鼻叫喚？！…棟方志功の板画に刻まれるような、なにやら無数のヒト群れがひしめいているようにも見える。いまの政界の風景かそれともニッポン國の未来図でもあるのか。妖しい気が吹いている。

2006.04.01

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ぞろ目の「未来」

未明から冷たい雨が降つている、こんな書き出しをもう何度つかっただろう。古今の文芸作品などの「書き出し」だけを収集した事典があつたらおもしろいかもしれない。何でも本になつてしまう時代だ。もうあるかもしれない。それにしても、冷える。ストーブは必需品だが、あたためられた空気は上にのぼるから足元はなかなかあたたまらず、そのまえに味噌まわりがあたためられて、結果、思考がゆるくなる。思考がゆるくなると睡魔が来る。眠りたいときにはなかなか来てくれず、覚醒していなくてはならないときにかぎつてさっそくやつてくる。銀行みたいなものだ。その銀行のオヤブンである日銀がきのう、五年半つづけてきた「量的緩和策」なるものを解除したという。銀行などを通じて流される市中に出回るお金の量がこれで「平常」にもどるのだそうだ。だが、いつたい何が変わるのか。バイクの音とぺたぺたという跫音とともにやってきた雨濡れ防止袋入り新聞紙には、いろんな解説が載つているが、歯切れのいい解説は見当たらない。わたしのおぼつかない経済の知識ではとても正確な解説は出来ないが、単純なアタマの特権をもって断定的見解を披露してしまえば、「列島中からおよそ４割ほど札束が消える」ということなのではないのか。こういう現象に平均値など通用しないだろうがそれを承知でさらに恥の二枚舌を蠢かせて云うなら、「国民ひとりひとりの財布からも相当分の夏目漱石や野口英世、福沢諭吉や樋口一葉などがある日、忽然と失踪する」というわけだ。「相当分」がどれくらいかわからないし、もちろんいますぐというわけでもなく、ここ数ケ月かけて日銀の預金残高を35兆円から6兆円へと減らすのだそうだから、実体経済に影響がでるまで多少の時間はかかるだろう。有産階層は有価証券や不動産などの資産をもち、そうした資産の価値はこれによって一方的に減ずるわけでもないが、ペダルを漕ぐなりオールを前後に動かしたり、ぱかぱかキーボーの顔を叩いたりして、かろうじてオマンマにありつくわたしを含む大部分の階層にとっては、（ふところぐあいなどが）かなりさびしくなりそうだ。ゼロ金利政策で泣いてきた年金生活者には希望の灯が遠くに見えだしたなどとも報道はつたえるが、当面ゼロ金利は維持される。たとえこれが解除になつたとしても、半世紀のこの國の大蔵・財務官僚共のやり口から見ても、ちらつく灯は見せかけの幻影にちがいない。また預金に金利が付いても借金にも金利がつき、弱肉強食の剥きだしの資本の原理から云つても、総体として経済の原理は奪う側につねに有利にはたらくだろう。「わたくしお暇させていただきます」美しい白魚のような三つ指を揃えて、ふかぶかと頭を下げ、さいごの10名の樋口一葉姐さんがそろって箪笥を出ていつたのはつい数日前だ。「またもどってきてくれよ」と喉まで出掛かつた言葉を擦り切れた奥歯でぐぐっと噛み殺して、わたしは彼女たちのすらりとのびた白いうなじのたおやかがふっとんだメモリ代金のカタに家電量販店のレジのなかへ収納されるのをじっと見送つたものである。ま、いまさら出て行く奉公人も妻君も妾君もいないわけだから、そのむかしのおおむかしの、会社を解散させて社員の憂鬱な顔を毎朝みることのなくなった日の奇妙な開放感を想い出し、むしろはればれさわやかあおぞら銀行な気分である。…とまあ、こんなグチばかりを云っていても、三寒四温。寒さはあいかわらずで、こぼしていいのは不味い酒だけだ。暖かくなつてサクラが咲くころには、もうすこし見えてくるか。いや個人的な事情のことではなくて、この國のすこし先の未来が。ここでもわたしの勝手な思いこみを云えば、もつとも心配なのは「デフレ」よりもじつはハイパーインフレである。それは仕掛け花火のようにある日突然爆発し、紙幣が紙クズになるわけだが…。卓上のサイコロを転がしてみたら、出た目は「三」「三」「三」のぞろ目であった。

2006.03.10

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ふぃぎあな春の一日に

さあはじまりました、トリプルルッツにダブルトゥループそしてふたつめのジャンプ、トリプルサルコー、そしてダブルサルコォー、決まった！さあ決まりました、…さいしょのジャンプはすべて決まりました、アラカワ腕をおおきくひろげて非常に見栄えがします、そしてリンク中央へ、そしてトリプルフリップこれも決めた！、さあ高くとんで、そしてドーナツスピンさらにぐぐぐーと腕をひらいてスピンをといてこれからバックスケーティングにはいってゆきます、天井を見ました上空を見ましたそこになにがあるのか、そして左足を上げてゆく、きれいな姿勢の…いい流れできています、ひらりと手をあたまのうえにささげました、これでまた空気がふわあっと変わったようなかんじがします、そしてもうひとつジャンプ！！これも決まったァ、トリプル…そしてもういっかい、ダブルループそしてリンク中央キャメルスピンですかすぅーっとそっています、そしてドーナツスピン、左手を垂直にあげました、うーん、ほんとうにカラダ全体から優雅さというんでしょうか、そういったものがただよっています、そして、おおおおきくそったぞ！イナバウアー！！うわあ！！！三連発ここで決めてきたあ～～～～～～！！！！！三連続のコンビネーションジャアアアアンンップ～～～～～～！！フィギア荒川静香選手の240秒のゴールド演技を早朝のラヂオの実況中継で「観た」。記憶の味噌テープを再現するとまあ、ざっと以上のような按配で、ごほごほ、映像がないぶん実況のアナウンサーはほんとにたいへんである。もしかしたら滑ってる選手よりもラヂオのアナのほうが疲労が烈しいのではないかなどと寝起きながら同情した。そんな一日で始まり、テレビはもう五輪金メダル報道でゴールドラッシュ状態になってしまった。東京では号外も出たらしい。たそがれてたれさがった山の谷間の空では落ちかかった空に猫の尻尾のような雑木がぶらさがりまもなくぽしゃぼしゃとつめたい雨が降りはじめた。寒さにたまらず勢ぞろいした猫七頭がガラス戸の向こうに一列に並び真っ暗な夜空を見つめる。今夜はまた雪に変わるのだろうか。

2006.02.24

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ライブドア春芝居

　どうらんの顔ぬつとでて春芝居というわけで、ひさしぶりに小劇場に行く予定がある。東京・三軒茶屋で南果歩のひとり芝居を見て以来だから三年ぶりか（笑）。いや、能を観たのが去年春から夏にかけての頃だから、一年ぶりの観劇か。ほかの用事もあれこれとあり泥縄のままに街をさまよい、はたして無事芝居小屋までたどりつけるか、なによりそれがこころもとないのだが、芝居小屋とりわけての小劇場のあのざざあとひとが入ってきて舞台がはじまるまでの時間と、はねたあとのがらんとした空気感が好きである。ふと外をみれば、黒の虚空に粉のような雪が舞いはじめた。そういえば、国会のほうでもとびきりお粗末なライブドア春芝居が開演したようだが。

2006.02.17

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沖縄「怪死」事件へのひとつの見解

ライブドア事件に絡み、１月18日、沖縄那覇市内のカプセルホテルで謎めいた死を遂げたエイチ・エス証券副社長野口英昭氏の事件について、メデイアでは自他殺両面からさまざまな見解がとびかっている。先日、警察庁の人間が国会で、「自殺ということで（警察の）捜査は終了する」などと発言し、一部新聞もこれをうけて野口氏自殺を認めるかのごとき報道を流しはじめた。まつたく外野にあり、肝心のライブドア事件についてもたいした情報を持たぬ身としては、不可解とはかんじるものの自殺か他殺かについて不用意な発言はするべきでも無かろうと、これまで、この日記ではあつかうのを控えてきたが、ここにきていかなる理由からか怪死事件を「単なる自殺」として片付けようとする動きが明らかになつてきたので、まつたく利害関係を持たぬ一市民の意見として、敢えてそのことについてすこし書いておこうとおもう。野口英昭氏の死に関して「自殺か他殺か」と問われるならば、たつた一点において、わたしははっきりと「自殺ではあり得ない」と断言する。わたしが野口氏の一件を「あきらかに自殺ではない」と断じる根拠は、たつたひとつの点、その腹部の傷口の不可解からである。伝えられるところに依れば、発見時の傷は首の両側と両手首、それに腹部の合計五カ所だったという。いずれもがおなじ刃物によるものか否かはあきらかでない。首と両手首の傷についてはわからないことがあるが、致命傷となつた腹部の穿孔ようの傷については、伝えられる報道はほぼ一致している。すなわち「深さ８センチにおよび、横に４センチ」という。さらに腹部といってもその箇所がどうやら「みぞおち」部分であることもたしからしい。というのも同じく報道によると、凶器（発見されて未だなぜか一般に公開されない包丁によるものか否かも不明）による傷は、深さ８センチで「そのまま脊椎前にある大動脈を切断し、これによる大量の出血が致命傷だつた」からである。わたしは、この一点こそが、なによりも自殺ではあり得ない客観的証拠ではないのかと考える。これは一般の人は気づきにくいことであるかもしれないが、腹部の傷でも大動脈に達する傷を負うなどということはそう簡単にあることではないからである。野口氏があるいはみずから武道などで鍛錬をしてきたことがあれば、あるいは自殺にさいし自らその箇所めがけて割腹することも不可能では無かろう。というのも、ほんとうに一撃にして深部にある大動脈を切断する傷であつたとするなら、それは偶然の結果とは断じておもえないのだ。日本に伝わる古武道でも、また中国や韓国などの拳法でも、みぞおちの特定の部位（詳細はここでは明示しない）は、「一撃必殺」の部位であることがふるくから知られる。かりに蹴りによつてその部分を叩けば、相手はしばらく戦闘能力を失うのみならず、やがてその部分が体内内部で腐り始め、ほどなく落命する、そうした場所なのだ。すなわち、それは必殺の技を持つものによつてのみ狙うことが可能な箇所なのである。もうおわかりだろう。このことはおおよそ次の三通りの可能性を示唆する。すなわち、（１）野口氏自身が武道の素養（素養程度では実際にその箇所を痛撃することは不可能に近いが）があり、絶命するためにその場所を狙つたか。もしくは、（２）そうした武道の訓練をじゆうぶんに積んだ第三者が、相手を即死させる目的を持つて、凶器をそこへ突き刺したか。そして、（３）自殺を決意した本人がすばやく確実に死ぬために、武道の鍛錬をもち必殺の技を行う人物に協力（すなわち自殺の幇助）を依頼したか。（１）は夫人の証言からそうでないことがわかる。とすれば、可能性は（２）「他殺＝殺人」か第三者を介在させた（３）「自殺幇助」もしくは「偽装自殺＝殺人」のいずれかとなろう。いまのところ、わたしにはこれ以外の選択肢は、ちょっとかんがえつかないのである。野口英昭氏の事件については、ここでも紹介した「きつこのブログ」（2006.02.08）＝ブツクマークにリンク＝に、「ある往復書簡」と題し、野口氏の実姉からの投稿も紹介されて、夫人を含む死者の近親者たちの多くが死因に疑問を感じていることがあきらかにされた。いっぽう、何らかの勢力がいずれの理由からかその死の真相を闇に葬り去ろうしているという景色も見えはじめた。真相はあきらかにならなくてはいけない。さもなくば、死者は浮かばれまい（これまでの多くの疑獄事件にみるように）。他人事ながら、切実にそうおもう。もちろん、以上に記したわたしの見解が正鵠を得ていないのならば（むしろそのことを願つている）、それはそれで真相へと一歩ちかづくことであろうとかんがえる。

2006.02.10

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偽装国会の偽装法案

まとまった雨が降る。庭先に置いたダンボール箱も濡れ、枯草も枯葉も土もビショップのマントのように濡れて妖しくひかる。ラヂオとテレビが国会中継を流しているけれど、ひとつ気になったことがある。テレビメディアでよく使われるフリップ・ボードの多用だ。民主党新緑風会代議士はなんと７枚もつかって質問していた。「わかりやすい」ということで使われるようになったのだろうが、止めたほうがいい。国会は言論の場である。あくまで言葉によって闘うべきで、テレビの下品な物真似は必要ない。キャッチコピーの如きたぶらかしも同様で、小泉首相はこれが巧みだが、これらも言論とは似て非なるものである。詐欺師や広告屋や瓦版書きあがりは不必要だ。哲学を持ちきちんと世界を見る目を持つ人物はどこにも見当たらず。いっぽう、自分たちの議員年金廃止では、与野党力をあわせて（笑）およそカタチばかりのそのじつが骨抜き法案をでっちあげてさっさと通過させようとしている。あきれかえった税金ドロボーどもである。■いま、朝刊からその記事を探したところ、なんと四面の目立たないところに一段のベタ記事で載っていた！　上記で「与野党力をあわせて」と書いたけれども、民主党案は自民公明の与党案よりはマシらしい。しかし、これまでの実績からは疑わしい。

2006.02.01

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童謡『盗んだ薔薇』

裏の花壇で盗んだ薔薇は。帽子（しゃっぽ）の中で枯れちやつた。裏の花壇で盗んだ薔薇は。通りの溝（どぶ）に棄てたけど。七日七晩経つたらば。忘れた棘で手が腫れた。（大正10年７月　加藤まさを作詞　岩波文庫『日本童謡集』より）※　　　※　　　※この國では、容疑者段階で事実上は犯罪者扱いされる。●×▽■容疑者といちおうは末尾に「容疑者」と付けて報道されるけれど、そのじつは、呼び捨てとなんら変わらない。容疑段階で拘留し、取り調べるという「代用監獄」制度はこれまで数々のえん罪事件をも生んできた。検察官の中の生え抜き集団とされる東京地検特捜部が、同じこの制度によつて被疑者を幽閉したまま自供を迫るということに、いまやすっかり批判精神の欠片も失つてしまつた新聞・テレビマスコミメデイアはいっこう関心を示さないけれど、被疑者が犯罪者であると断定するのは奇怪な思考の麻痺にほかならない。いったい、そもそも人間にとつて、「罪」とはいかなるモノなのか。また「罰」とは。罪も罰も、しょせんは犯したものたちのもとへ「おのずと」戻るでのであろう。ならば、人が人を、国家が国家を、また国家が人を、裁くとはいかなることなのだろう…。大正デモクラシーの空気のなかで生まれたという童謡「盗んだ薔薇」の言葉は、われらにそうしたことをも、すこしばかり考えさせてくれるのであつた。

2006.01.26

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結局何も変わらない

祭りは終わった。堀江貴文ら小菅に収監されたトップ四人はライブドアから辞任したようだ。「彼らはもうもどることはないでしょう」と平松庚三新社長。Tシャツノーネクタイで背広族の社会にチョーセンしたダーティヒーローはこうして破れ、ふたたび退屈で役人チックな「健全な市場」とグローバリゼーションに浸かったニッポン株式会社がもどるのだろう。無から有を生むカラクリのその大元のところ（国際金融寡頭資本＝バンカーによる経済支配）はなんら変わらぬままに。国会ではライブドア事件を利用してさっそく与党野党の政治屋どもが安っぽい正義を吼え始めた。その大元のところはなんら変わらぬままに。彼らの虚飾を増殖させる打出の小槌であったブラックボックスな投資事業組合には、何らかの規制措置が設けられるだろう。日本版SECである証券取引等監視委員会も補強増員されるだろう。しかし彼らに背後から知恵を授けたものたち大和證券SMBC、光通信など虚飾に群がり果実をむさぼった虚業家たちにまで東京地検特捜部の捜査が及ぶかどうか（まだ明らかにされないさまざまな偽装の手口は堀江、宮内・岡本らの頭ではできない）。新生ライブドアは米国流経営キャリアの新社長の下で、時間はかかるがなんとか持ち直しフジテレビの傘下にはいるか（フジ経営陣にとっても自らの責任を問われることのないこれがベターな選択のはず）、あるいは外資に買われるか、ともかくも中堅のIT企業として復活を果たすだろう。株価はいったん上場廃止になったとしてもやがて復帰するだろう。結局何も変わらない。ホリエモンほか三人は、証券取引等監視委員会から告発され、また投資家たちから損害賠償を突きつけられて、その資産はゼロになるか。彼らは複数の容疑でやがて起訴され有罪判決が下りるだろう。ホリエモンは起訴と同時に保釈金を支払って娑婆に出るが以前のようにはテレビカメラの前には出ないだろう。否認したまま起訴されたとして、仮に裁判で争うとしても時間がかかる。やがて世間は彼らのことを忘れてしまうだろう。…結局何も変わらない。蕎麦を食いながらテレビの夜のニュースを見ながら、こんな光景を想い描いてみた。もちろん、そうでないシナリオもあるのだが。チトむずかしかろう。この国の愚かで先の見通せない政治屋集団の力では。娑婆から出たホリエモンには北京五輪見物を機にかの国にとどまって成長いちぢるしいニイハオの重厚長大アナログ国で起死回生汚名返上こんどこそ実業で世界を目指してみてはいかがだろう。「こんなつまらん国捨てちゃえ！」

2006.01.25

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赤いポストに雪景色

前島密いらい日本の赤いポストを維持してきた世界に冠たる郵便事業システムを解体私物化するためのフロントドア「日本郵政公社」がきょう発足した。そうして、きっと偶然だろうが、本日午後三時二十五分過ぎにライブドアのホリエモンがとうとう特捜部の事情聴取とあいなり、どうやら逮捕ということで夜通しの缶詰になった（なるほど、きょうは大安だ）。マザーズの同社株はふたつとも明日あたり揃って監理ポスト入りだろう。全体の三割あるライブドア関連株ゆえに東証も決断には悩むだろうが逮捕となればほかに道もない。きのう寒風のなかを長時間歩いたのがたたり、頭が痛い。風邪だとやばいので、本日はすべてを放置して寝ることにした。ごほごじょ。

2006.01.23

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空の空

　初空や飛行機雲の真一文字

2006.01.20

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断章

寝転がってホリエモンのことをぼんやりとかんがえていたら、どういうわけか昔みた「我らのゆがんだ英雄」という韓国映画をおもいだした。筋はあらかた忘れてしまったが、いい映画だった。考えはきれぎれに飛ぶ春の雲のごとしで、どのような連絡がそこにあるかおのれでもわからないのだが、漠然といまというこの21世紀初頭のニッポン国の現状が、あるいはあの映画に描かれた何かと共通しているのかもしれない。それからまた思考（というより雑念の雲か）は、強制捜査に泡喰った輝けるITの騎手のこころの内側へと勝手に潜り込んでみたりする。2006年正月16日の夕方の六本木ヒルズの三十七階である。東京地検の黒い背広の一団が執行令状をもってどやどやと押し入る。有無をいわせぬ連中の慇懃無礼は権力のみが持ちうるものだ。月収が3000万円あろうが、自家用ジェットで世界を股にかけ、つい数日前はベガスの博打場にあそんでいようが、関係ない。見る間に連中はかの映画のブラックメンのごとくに広い社内に散り、片っ端からパソコンから机の書類、金庫から役員室の葉巻の箱までのぞいてまわるのだ。こっそり役員が会社に持ち込んでいたポルノビデオも見つかるだろうしアンダーデスクのテーブルアンダーの暗がりに隠した札束だってひとつひとつ押収物として立ち会いのホリエモンの目の前で段ボール箱に格納されてゆく。そういう繰り返しがおよそ12時間続いたわけだ。かなりタフであってもこうした現場に立ち会わされるのは楽しいことではないだろう。その場のホリエモンの心境は、それだけでも精密に描いてみるだけの価値がある。それは文学の仕事だ。こうしていっさいが終わってから、ようやく崩壊したＩＴ企業の時間の流れが、現実の中で動き出すわけだ。天国と地獄といういささか手あかにまみれた喩えを用いながらでも、天国から地獄にとつぜん突き落とされた33歳の自意識は、早朝の記者会見の着た切り雀のシャツのあちこちにもぶら下がっているだろうし、やがてくる緩慢な企業の死とみずからのつかの間の帝国の崩壊をかんじとって、心臓はばくばくと震えているかもしれない。…と、ここまでキーボードを打っていたら急に眠気がきた。やれやれ！！　どんつくどんどんつくつく寒の朝なるほど。『われらの歪んだ英雄』が正しい映画の題名でしたか。感謝＞＞木陰さんhttp://www.k-plaza.com/movie/en_mov_wa01.html

2006.01.17

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風説の流布

ホリエモンのところに強制捜査がはいった。16日月曜日午後四時の時点では「任意」だったが、夕刻六時を回ったところで「強制捜査」へ切り替わった。この二段構えの迂回するような捜査の意味するところはなんだろう、とおもった。東京地検特捜部が正月明けからガサをかけるヤマは、世間に対するアピール効果をたいていは考慮したうえで選択されるから、ここまできた以上はおそらくはホリエモン自身の身柄も検察は「取る＝捕る」（逮捕）つもりであろう。昨夏9.11総選挙で政権が立候補表明したホリエモンにたいし自民党公認をあたえなかった謎はこれで解けたわけだが、東京地検の直告係へのいわゆるタレコミがあったのは、推定ではあるが総選挙よりかなり前になるはずだ。すくなくとも2005年の５、６月よりもはるかに前だろう。フジテレビとの確執のさなかあたりか。すると地検特捜はほぼ一年近く内偵捜査をしてきたことになる。一報を最初に報じた報道機関はＮＨＫで、総務省所轄の「民営化対象」機関なことはきっと偶然なのであろう。直接の容疑は直近の事件（2004年10月）で、子会社を使い株価の不正操作をはかったこと、いわゆる「風説の流布（偽計取引と風説の流布）」などらしい。不確かな情報を故意にながして株価を操作する疑いにたいし発動される証券取締法のひとつ（同法158条違反容疑）だが、これが捜査の端緒、つまり「入り口」にすぎないのか、本当の容疑がさらにその奥にあるのか（おそらくそうであろうと思うが）まだわからない。不透明な捜査の立ち上がりである。ライブドアの株価は急落し、17日の東京市場は混乱するだろう。また、ライブドアに440億円出資して12.75%の株を取得し、堀江貴文社長に次ぐ第二位の株主であるフジテレビも、売るに売れない株を抱え往生することになる。さらに、昨夕から今朝まで12時間という異例の長時間に及ぶ強制捜査では、ライブドアグループ（およそ50社）が抱えるハード資産、多くの掲示板やブログの運営情報、個人情報、書き込みログなどの「ソフト資産」も、そっくり当局の手にわたっただろう。はたしてこのまま業務がつづけられるのか。ホリエモンにとっても「想定外」な危機であることはまちがいない。かつて取材に動いたリクルート事件のはじまりの時をおもいだす。午前七時、テレビで堀江貴文社長の記者会見を見たが、ホリエモンはまだ、権力の本当の怖さを知らないのだろう。…それにしても、「無」から「有」を生むからくりで巨額の利益をあげるのは、じつのところ新興ＩＴ企業がはしりでもなんでもない。世界中の富をほぼ独占するといわれる国際金融資本がいまも、過去から一貫してつづけてきている詐術（通貨発行権、準備金制度、BIS規定などなど）は、ホリエモンの錬金術をはるかにしのぐはずである。そちらはいっさい手つかずの治外法権に置くという、この娑婆というおかしなおかしな世界のほうにこそ、本当の巨悪が隠れているのではないかと、わたしなどは直感するのだが、さて。もっとも、すっかりそうしたカラクリの走狗となってしまった世界中のマスメディアという犬の、その吠える吠え方においては、駄犬であることがまずもっての約束条件でもあって、それは今も昔もこれからもずっと、たぶん変わらない。逆にいうならば、今回もまた、「事件」という皮相の奥に隠れたヌエの正体までをわれらは洞察しなくては意味がない。■追記…東京市場が開いて二時間が経ったが、ライブドア関連の株価はストップ安のまま、値つかず。

2006.01.17

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密林

窮屈な列車に乗って西から東へ、ゆきはぐれた太陽のように移動する。虚空にぽっかり浮かんだ弓状列島の上辺は大雪で下辺は越前クラゲの襲来だ。蒙古大襲来の大陸の季節の移動のごとく極北の大寒波の振動が北半球をゆすらせる。コリオリの力は赤道直下でどのような具合になるのかと考え始めた中学時代に強迫神経症を病み、そのブラックホールを脱出すれば熱病のような1960年代がはげしく純朴なこころを悩ました。あれからこっち、いつも移動するのは東から西と西から東で、さながら日と月の運命。かなり下って成り上がり社会という世界の奇妙の中では南北や北南の垂直移動の妙味を知った。ひとは垂直に球体上を滑って動くとき流れる風景が貧富という現世の欲を発することにはじめてきづくのだろうか。こうして一つのブラックホールからもうひとつのブラックホールへと都心のビル群の密林の中をさまよっている。極の緩やかでたくましい振動のように、いまグローバリゼーションというメイワクが世界をつつみこむ。いったいグローバリゼーションとはなんであろう。それはことばのマジックではないのか。民族や思考の多様性を排除して「ひとつの」思考、「ひとつの」見方、「ひとつの」経済と世界へと60億人を導く…。これは「中央集権」と言うことにほかならないだろう。密林の空はすこし霞がかかって超高層の影が視界を混乱させてくれる。人と車がすっかりひいた世界の中で、2005年というエポックがいましずかに暮れてゆく。

2005.12.29

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落下傘と青山司令部

目を覚ませば16日の昼下がりで、高層マンションからながめる都会の空は愉快な青で染め上げられ転がった衣装の上に重いきのうの体がのしかかる。どうやら明け方から爆睡していたような気配で高精細HVTVの液晶画面のような乾いた空がそこら中に転がっていた。昨夜は山から隣人が二度ほどケータイしてきてどちらのときも会議雑談の最中で、うっかり山の時間へなだれ込む意識をこちら時間へ押しもどししているあいだに酒量は増えつづけ日枝神社の深夜のほの明かりの向こう側から流れ込んでやってきた泥棒タクシーに乗って闇をいくつもくぐってみた。首都高のメタルフレームな疾走のタンゴの中に光の航跡が意識をあぶり出し、気が付いてみれば未明のマンションの一室で、夜が墜ちた。そうした墓地のはるかな草原と石積みの地下が敗戦後六十年の米軍影の司令部なのだが、多くの人はそのようなことはまったく知らない。知っても関心など抱かないに違いないけれども毎朝轟音をとどろかせながらヘリコプターが世界各地の前線へと飛び立つのだった。地上に緩く曲がる外苑西通りの白い筋が途中でビルの谷間へ消えていて、その右手にはリリー・フランキーの東京タワーだ。ゾンビの世界で目覚めたあとは、高速エレベーターで落下傘のSAS兵士のごとく迷彩服姿にもどって地上へ舞い降りるほかはないだろう。　だるま市ころがってるよ凍死体遅い昼食を摂り、逆光の西日を受けてかがやく高層を見上げながらアスファルトの黒い舗道の上をすべってゆく。たまに履くイタリアンな皮靴の底の金具がカチカチと音を立て路地をいくつも曲がって大使館の横の粗末なバラックの地上げの跡を回顧する。麻布の温泉から急坂をあがって666な交差点に立った。ここからふたたび地下深くに降りてゆき、まだ掘られていないことになっている遂道の黒いトンネルの真下を貫いて走る大江戸花電車に乗ってみる。自動運転のワンマンがキューブなチープな騒音をあげて動きだし、太古に海であった底を内陸部へ水平移動してゆく。帝都が闇世界のふらちな遊園地であった時代の、あるいは穿孔のドリルのごとき勢いで地下世界を疾走してゆく巨大モグラの轟音が、明るすぎる車内にひびきわたる。さて、そろそろ山へもどろうか。

2005.12.16

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大過狗年

このブログでも紹介した電子出版社ボイジャーから、Chinese New Year Posters 大過狗年なるものが贈られてきた。新年を言祝ぐ、いや絵で寿ぐ（！）中国のポスター集だ。委細はサイトを見ていただくとして、さっそく12葉ある一枚「伍　衆狗賀年」を切り取り拡げて壁に貼り眺めた。切り絵の見事さにうなった。中国人切り絵作家では、そのむかし横浜中華街の金陵という料理屋（作家開高健がよく通った店）で出会った青年のことをおもいだす。そのとき天性の見事な切り絵をはじめて見たのだった。いまどうしているか。未明にはどろっと曇っていた空が日の出とともに青空が開けて正午には暑いほどの日射しが射し込む。硝子戸の日の中ですっかり居ついてしまったダイアナが寝ている。ぢやあ、わたしも昼寝をしよう。わんわんニィニャオ ┌|∵|┘

2005.12.08

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「青年よ、銃をとれ」

床に散らばっていた黄色の紙を手に取ってみれば、むかし高野孟が発行していたINSIDERなる会員制情報紙のバックナンバーであった。そこに「”武装”か”非武装”かの不毛性」と題するちょいと興味深い一文があったので、以下に転載紹介しておこう。9月19日国会で武装か非武装かの中曽根・石橋論争があったが、中身は予想どおり実りのないものに終わった。それが不毛であるのは、第１に20年前と同じ観念の遊びにとどまっていて、たとえばKAL事件にみるように、日本とその周辺が戦時と平時の区別のない米ソの”電子戦場”と化して犠牲者まで出している中で、”シーレーン防衛”の名によって日本がそれにいっそう深く参画するという中曽根の国策方向が正しいのか、それとも日本周辺・北方海空域のデタントと非軍事化への政治的イニシアティブをとるべきなのか、といった現実に即した議論になっていないためである。第２に、その観念の遊びの枠内で言えば、双方は、一見すると両極端に立つようでありながら、１）「日本だけが平和であれば、それでいい」という”一国的な発想”において、　２）「自分が血を流して闘うのはイヤだ」という、国民の本源的な武装抵抗権の国家＝正規軍への代位の発想において、実は共通している。自分は血を流したくないから正規軍を大きくしようというのが中曽根だが、ならばどこまで大きくすれば済むのかと言えば永久に答えはない。同じ理由で正規軍をなくしてしまえという石橋は、では本当に「万が一」の時はどうするのかという問いに永遠に答えられない。この際いっそ、学校教育に新しい軍事教訓を採り入れることを考えたらどうか。国民の武装抵抗権の思想に立って、軍事理論の基礎教養と、武器・武闘・サバイバルの基礎技術を全国民が身につけて潜在的な兵士と化すことによる抵抗力は、どのような正規軍よりも有効である。それは１）ソ連にせよアメリカにせよ宇宙人にせよ、どの侵攻者に対しても発揮され（レジスタンス）　２）他国民の不当な侵略との闘いへの支援を可能にし（義勇軍）　３）さらに自国の権力の不法な抑圧への反撃を保障する（革命軍）。「自分だけは楽をして、平和な今を守りたい」というものの考え方が、国家の武装の肥大化を許しているのだということに、社会党が気づくなら、今日のスローガンは「青年よ、銃をとれ」ではないだろうか。（ニュースレター『INSIDER』1983年10月１日号　所収より）秀吉の刀狩り以来の武器よさらば毒リンゴの伝統を固持し、あげくいまやすっかり肥後守切り出しナイフまで奪われて、コイズミ独裁政権と顔つきも似てしまった民主党やら、理念一辺倒の社民党、平和バブルなぼけ政党と国家で陰惨な同士討ちをエスカレートさせつつある極東の米軍旗たなびく島国の民びとに、この発行人の諧謔は果たしてつうじるだろうか ┌|∵|┘

2005.11.24

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ワンダーランド

劇辛のにんにく豚丼大盛弁当をたべて口の中まで汗をかいた。ブログを留守にしているあいだにもさまざまな事件が起きる。千葉の建築事務所がひきおこした騒動が波紋をひろげている。欠陥マンションを購入してしまった人々にはトンダ災難だが、どこか人ごとですませられない諸相もほの見えてきて、あらためて我が家はだいじょうぶなんだろうかと不安になった人も少なくないだろう。その点、山の中のあばら家の独り者は気楽である。背後の山が崩れれば御陀仏だが、借家だから半壊しようと全壊しようと勝手であり、さらには生き埋めで死ぬとしても、安くもない家賃を払わず葬式費用もかけずに一瞬にしてあの世にゆけるという特典付きとかんがえれば、憂いはむしろ愉快に転じなくもない、というのはウソで、むろん命は惜しいからそうならないことを願うけれども。しかしまた安心とは結局そういうものかもしれないなどともおもう。どっしりとかまえて落ち着いていられるという状態。家族がいて明日という日がごく当たり前にやってくることを疑わないでいられる、一歩外に出たら槍の雨や血の雨も降るが、家族と過ごすこの一つ屋根の下ならばそういう心配もない。そうした平穏安寧がこわされたわけだからトンデモナイ所業でありくだんの建築士は犯罪者と指弾されても文句は言えまい。欠陥マンションというババをつかまされたマンション住人たちの心情はいかばかりであろうか。しかしくだんの建築士を極悪人呼ばわりするのなら、次々と繰り出す悪法によって民から自由という基本的人権を奪い、この日本という国を槍の雨や血の雨も降る不幸のどん底に突き落として結党五十年を祝うライオン頭だって同罪だろう。いや罪の重大さにおいては千万倍も後者が勝っている。新聞テレビはシカシ個人の犯罪や不始末にはやたら厳しいが、政治家や権力者のウソや出鱈目、裏切りにはなぜか甘い。それは彼らがその一員にほかならないからであるとしても、赦されることではない。不法無法をいうなら小泉純一郎・第87-89代内閣総理大臣のそれは歴史に長く名を残すにちがいない。それとは、この夏のクールビズな怪談、あの七条解散のことだ。もともとが国会という立法府の代議員を宰相が気に入らないと言って解散させてしまうのは、民主主義を自ら否定する無法にほかならない。民の直接選挙で選ばれた大統領とはちがい内閣総理大臣は代議員により「国の最高機関」であるところの国会で選ばれる。指摘するまでもなく、直接選挙で民により選ばれた代議員（衆参国会議員）により構成される国会こそが最高機関であり、総理はその下に位置するにすぎない。国政が司法、立法、行政と三権に分立されるのは、ひとえに権力の独裁と暴走をふせぐためであり、民に主権があるという「主権在民」の戦後民主政治の根本原理を機構上担保する。解散権は代議員が内閣に対し発動する不信任にたいして置かれたもので、内閣が暴走することをこの不信任案システムが防止し、いっぽう国会議員がむやみに内閣に不信任を突きつけ国政が滞ることを回避することのないように内閣に与えられたものが解散権というのが、憲法の精神から導き出されるそれぞれの権限の本義にちがいない。その本義を無視して行使される解散権は、マンション建築設計の構造計算書を偽造する設計士の所業とまったく変わらない蛮行だ。しかし第四権力である大新聞も放送メディアも「皆様のNHK」もこれをほとんど批判しなかった。この夏、日本国が（すなわち国民が）一介の芸能人まがいの口先男によって裏切られたことはあきらかだ。やがてこれを歴史がドイツ国民に対するヒトラーの裏切りと同等それ以上の国家犯罪であると処断するとき、犯罪幇助罪に問われるのは第一にマスコミであり、小泉政権を演出してきた広告屋集団だろう。さきの戦争の時とそっくり同じなのである。山にはそろそろ粉雪が舞う季節だが、怪談はまだまだつづく。極東の島国は、島ぐるみディズニーランドでお化け屋敷のワンダーランドになってしまった ┌|∵|┘

2005.11.24

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ヤスクニと核

きのう16日の日記「金閣寺のポチ」で、「ブッシュと小泉が米軍のヘリで東京と京都という日本の新旧ふたつの首都を往復する」と書いたが、これはマチガイであった（σ(^^)）。ブッシュ大統領は15日夕刻に大阪国際空港に専用機で到着し、素晴らしき日本プロ野球のバレンタイン監督や王貞治監督の出迎えを受けたという。米軍ヘリで往復したのは大阪＝京都間だったようだ。米軍ヘリが東京京都間を飛行したのなら、あるいはそこに搭乗していたのはわが小泉純一郎・戦争時最高指揮官であったのかもしれない。どっちにしてもおおがかりなイベントであった。そうして一夜明けてみれば、幕末まで日本国の首都であった京都での会談は、日米首脳怪談でもあった。徹夜のままのきのうの頭でポストの新聞を手にとってのぞく。読むまでもない、両首脳の記者会見の発言をああだこうだと取りあげているだけで、なさけなるほどの大本営発表記事。ひとつ目立ったのが、国際面の【釜山（韓国）＝神谷毅、林尚行】発のAPEC記事。半島で開催されるアジア太平洋経済協力会議の閣僚会合が16日採択した共同声明文に、「北朝鮮の核」についての言及がすっぽりと抜け落ちていたというものである。記者が入手した直前の草案には朝鮮半島の非核化が盛りこまれていたが、中国の強い反対で削除されたと記事は伝えている。ナルホド。極東の落日の経済大国の首相のヤスクニ参拝には反対し、かたや半島の三十八度線・北の共和国政府がちらつかせる核の脅威には、積極的に反対を唱えない。こうすることで大国中国は北東アジアにおける盟主が落日の島国ではないことをあらためてAPEC参加各国並びに世界にしらしめることができるというわけか。青い空に日が精一杯照っている、小春日和のトタン屋根の下では眠くても自然目が冴えてきてしかし頭の味噌は曇天だから本を開いても集中が出来ず、しかし寝ないことには今夜がもたず、明日は某所でふたコマ180分しゃべりつづけなくてはならず、はたして持つのか体力が不安だ。このあいだは北から帰国した拉致被害者のひとりにつきそいずっとそばで取材をしてきた知人の記者と久しぶりに電話で話をかわしたけれども、彼らが受けた洗脳教育のすさまじさは、いまも被害者の中では生きていて日常生活のふとしたところでさまざまにフラッシュバックするようだ。国家というモノが持つ残酷非道はそのなかに晒されたものにしかわからない部分があるのだろう。冷凍庫を開けてごまさば切身をふたきれ、何日かぶりに御飯を炊いてさばでぶりしてみれば眠くなるか。太平洋側は晴れていて日本海側は時雨れているといまラヂオが告げているけれども、これから列車に乗るのかとかんがえると、それだけでおっくうになり、いっそ隣人にたのんで米軍のアパッチヘリでも調達するかなどかんがえつき、湯気の出始めた凹んだ炊飯器のほうをながめて、またも五合も炊いてしまったかと気づく。まだだけれども、やがて食事を済ませれば、ハラは膨れうららに日の照るなかではかえってわけもわからずセツナクやりきれなくなったりと、ヒトという動物はなってみたりするのである。そうならないまえに寝てしまうか、そうならない前に酔ってしまうか、そうならない前に…。ああ、まったくやっかいだ。まだ起きている。まだでかけない。…けっきょく出かけなかった。そのかわりたっぷりと夢を見た。オチがないか？　じゃあ、安国と書く＼（＠∨＠）／

2005.11.17

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金閣寺のポチ

満員の国立競技場。画面いっぱいに女性歌手が大写しになり君が代斉唱。ドイツ杯への最後の仕上げという対アンゴラ戦だ。そのすこし前NHK午後七時のニューストップは「日米の首脳が京都で固い握手」というものだった。こうした文脈でながめると、ここ数年のこの極東の弓状列島がつきすすむ未来がはっきりと見えてくる。もっぱらマスメディアがながすのは愛国心を鼓舞するスポーツ中継であり、また日米の再編などというあいまいな表現でひたすら既成事実となってゆく、この国の軍事国家化である。サッカーというもっとも愛国心を鼓舞するスポーツ競技で国民のフラストレーションを民族的情念へとすり替え、いっぽうで米国の世界戦略のもっとも要諦となる日本本土の戦略基地化を強力迅速におしすすめる。マスメディアは「米軍再編」などと容易に報道しているが、このたびの日米同盟がもたらす意味はこのことばからは見えてこない。その実体を国民に知られぬようにあえて坦坦とすすめられる米軍再編である。きのうからきょうにかけて、大本営放送局と朝日をはじめとする大本営新聞紙はさーやの結婚報道一色に染まった。かんぐればいやかんぐるまでもなく、政府および外務官僚たちが日米首脳会談を紀宮婚姻の翌日の11月16日としたのは偶然ではないだろう。ジーコジャパンの試合の組まれた当日であることも、計算の中であったろう。こうした「配慮」は官僚たちの好むところであり、取材記者たちならば、そうしたことは体験的に承知だろう。きのう15日が自民党結党50年であることも。その直前に改憲の党草案を公表することも。こうしたことはあらかじめ念入りに調整され演出されたものだ。とりわけて小泉政権においては米国直輸入の「粉飾政治」とでもいうべき、こうした政治的演出が巧妙に施されてきた。「おそらくは日米百五十年の歴史でこれほどの軍事同盟関係は初めてだろう」としばらく前、知人の軍事評論家は電話の向こうでおどろいてみせた。その軍事同盟の仔細を理解できる知識の持ち主にとって今回のそれは、浦賀にペリーが黒船であらわれ強引に日本に開国を迫っていらい、もっともおおきな国家としての選択だったという。ほんらいならば、国民投票に問うて決めるべきほどおおきな決定なのだと、政治的にはむしろ保守である男が云った。わたしは2003年に発表した小説の中に、そうしたことどもをメタファとしてまぎれこませたが、ほんとうにここまでスムーズに来るものかと多少の疑いは書いた時点ではのこっていた。まったく小泉純一郎というポチはたいした番犬である。いや、番犬の役をじっさいにおこなうのはわが国民であり、個別具体的に云うならば、それらのもっとも危険でリスキーな役割を背負うのはやがて正規軍となるであろう自衛軍の兵士ひとりひとりということになるわけだが、もちろん運命共同体として国民全体がいやおうなく米国の世界戦略の前線基地に立たされると云うことである。自民党の改憲草案には「秩序」ということばがいたるところに登場する。これはもちろん意図的なモノだ。銃口が仮想敵国に向けられるだけでなく、国内にも向けられると云うことを暗に示している言葉だからである。このことは、わたしの恣意的な解釈ではなくて、米国が標榜するところの「テロとの永き戦い」からごく論理的に引き出される真実のひとつに過ぎない。ブッシュと小泉が米軍のヘリで東京と京都という日本の新旧ふたつの首都を往復するあいだに日本海の向こう大陸では半島の大統領と超大国としてやがてアジアオセアニアのみならず世界に君臨するであろう共産国家の盟主がそろって会見してみせる。それは北東アジアがはっきりと新しい軍事ブロックとして改編・誕生したことを明示する。わたしが承知するかぎりにおいて、中国は靖国問題を政治的ブラフとしては頻繁に利用するものの、基本的に日本との関係悪化へとすすめる意図はそこにはないであろう。それはなによりも中米関係が非常に強力であるためだ。中国と米国の経済・政治における支配層は1960年代からたいへんに強力な同盟関係を維持してきた。これは米国内にネオコンなる政治勢力が台頭するはるか前からのことだ。たとえば、クリントン時代にも米国はアラスカの石油採掘で中国に異例の許可を与えている。小泉首相はこのことを知っている。彼が靖国をそれでも参拝するのはむしろ国内問題（彼を支持する民族派右翼などの勢力）への彼一流の政治的配慮からに過ぎない。今回の「日米の良好な同盟関係こそがアジアの平和に寄与する」という首相の会見談話はこのような背景から出ている。また、北朝鮮問題のもっとも強力な後見人は共産中国であり、しばしば指摘されてきたとおり、中国にとっては北朝鮮が韓国と一体化しないままであるほうが軍事的には都合がいいという事情もある。韓国は靖国問題を政治的に利用しながら北朝鮮へのエネルギー供給などの民族融和策をおし進めるだろうが、いっぽうで中国に配慮して南北統一まではいたらないであろう。むしろ冷戦構造下での米国の盾の役目を日本にゆずり、身軽になって経済的な活性化へと向かうことになるだろう。こうかんがえると、軍事的ブロックとしてこのたび北東アジアが米国の世界戦略の傘下に配されたことの日本にとっての直接の意味は、あきらかだ。それは「アジアの平和に寄与する」などというモノではなく、おそらくは、まったく逆である。すなわちそれは米国の軍事的盾となることであり、どうじにアジアにおける孤立を生むモノであり、さらには近い未来において日中戦争をさえ招きかねぬ、危険できな臭さに満ちたものになるのではないか。付け加えれば、これは米国にとってはむしろ想定内のことで、中国の核の脅威が一部マスコミで囁かれはじめているのも、米国の北東アジア戦略にとっては、計算のうちのことであろう。すなわち、日本にとっての近い未来とは、ひくも地獄すすむも地獄という、将棋で云えば、ツミの一歩手前のところで結果として米中ふたつの超大国のはざまで、捨て駒として使われることになるとかんがえられるのだ。ポチであることの、これが代償であるなら、小泉政権の選択は亡国そのものということになる ┌|∵|┘

2005.11.16

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冬の朝のざらり

寒い朝だった。外気温は4度まで下がった。室内もストーブを焚かないままで10度からいまやっと14度Cになったところ。午前七時をまわった。かがやく冬空が青い。午前六時過ぎのラヂオニュースを聴いていたら、前原民主党がテロ対策強化の政党案をまとめるそうだ。まったくなさけない。しかし危惧していたとおりの小泉チルドレン政党でありその党首であるナ。いずれ遠からず拙速のタメ逆噴射し空中分解するだろう。すでに党内は割れはじめているときく。前原君は、小泉物真似党首として嗤われていることに気づかない、ちょっと阿呆なオノレに気がつかない。ざらりとしたキナクサイ政治の風が、この冬は北東アジアのこの島国にも吹きぬけるのであろう。…夕映が冷たい靄の向こうにかかると、畑には仕事のざわめきがふっと途絶え、狼が飢えた牝を伴って村道へ姿をあらわし…（中略）…やがて寒波がどっと押し寄せ、野面を銀色に染めあげる。プーシキン『オネーギン』（池田健太郎訳　岩波文庫版）よりさて、寒いからお風呂に入ってもう寝よう ┌|∵|┘ でも、せっかくの晴天だ、そのまえに散歩にでよう、というわけで、いま、山の風に吹かれてきた。おかげで睡魔が立ち消え体もすこしだけ温まった。こうなると、昼までがんばるか？(^○^)　さわがしき世界にひとり冬隣朝刊を読み出す。二、四面などつい見過ごしてしまう偶数面には却って重要な記事がひしめく。ベタ記事でもいやむしろ一段記事にこそ見逃せない動きが載っていたりする。じっくり読むとおもわず背筋が寒くなるような雑報もまいにちかならずひとつふたつまぢっていて、ネットで流すニュースではこのようなチェック・検証はなかなか困難である。紙の新聞だからこそ、眼光紙背に徹する読み方も可能であり、そうしなくてはならないほどに世間の動きは急激で、しかもわれわれの知らないところで、おどろくような重要な取り決めがごく一部の人々によりまいにちのように勝手に決められてゆく（本日の朝刊ならば、たとえば来春１月発足の郵政民営化へ向けての経営委員会＝将来の株式会社社長はここから選ばれる＝は竹中総務相と小泉首相のあいだで事実上選ばれる、など）。これは、社会面の事件でもそうだ。個別の事件やスキャンダルのおどろおどろしさに目を眩まされることなく出来事を見る目がますます大切になってきた。ハクチな高額報酬生活人の、民放テレビキャスターのふやけたことばに騙されてはいけない(^_-)。わたしは彼らの、どのひとりも信用しない。■さむくなってきたので、白灯油をつき合いのある燃料店に注文。35リットル税込み2600円だった。74円30銭／リットル。国道沿いの量販店系の24時間無人スタンドならば60円／リットルで、比べてかなり割高だけれどもまあいいか。安いモノを求めて皆が奔れば、中小零細が潰れてゆく。「賢い消費者」なんかくそくらえ＼（＠∨＠）／

2005.11.04

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ブンカふん（続×２日本国憲法）

承前（2005.10.31「ワン・プラス・ワン」より）およそ文化的でないブンカの日がまもなくおわる。文明の反対語が野蛮なら、文化の反対語はナンだ？　患部だって？幹部かもしれない、いや感部だろうか。ブンカのなかにいいこともある、やなこともある、みんな文化の日だってさあ。日本国憲法は拳法か剣法か。平和の幻想の中でヘイワは痺れを切らしてしまったのか。テレビというメディアが、文化を分化させ、白痴をインプッドメソッドの常用変換語からも駆逐してしまった。hakuchiと打っても出現する言葉は「白雉」だけ。これが「文化」なんだろうか。日本国憲法を「改憲」するという。そのおおもとに、おなじような下品があるとは誰も気がついていないのだろうか。ブンカ！？　ふん！である。毎年三万人の自殺者を出しつづける国のどこが文化国家なものか。さて、自民党憲法草案、前文の無惨の締めくくりは、つぎのようになる。>日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。「自然との共生を信条に」で、おもわずわらってしまった。なんだか、地球環境は守っても、イラク人民の命は捨てちまえ…ときこえてしまう。いや地球にだって迷惑な話であろう。そもそもがとってつけたような環境保全ではないか。地球は別段、人類に守られなくたっていいよと呟くに違いない。笑い話のような結語である。それにだいいち「かけがえのない」のは、人の命であろう。地球も宇宙も自然も、人類という種が死に絶えても生きつづける。すべてがそうだとはおもわないけれども、いま盛んに言われ始めた環境保全はうさんくさい。政治的用語なのだろう。あわてて書いた卒業論文のように落ち着きがない。この草案もそうだ、情けなくなるような前文である。じつを言えば、法律は現行憲法の、それも前文だけがあれば十分ではないか、と私自身はずっとおもってきた。極論だけれど、ある種の真理をついているのではなかろうか。その現行憲法前文は、つぎのように締めくくられる。> 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。簡潔である。そうしてその目線はあくまで高く、品格があるとおもう（あえて異議を唱えれば、「国家の名誉」は余計か、むしろ「われらの名誉」だろうか…）。ふたたびいうが、このような憲法をもったことをわたしたちは誇りにおもっていいとおもう。あと百年この憲法を維持すれば、ブンカもやがて文化に育つだろう ┌|∵|┘

2005.11.03

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ワン・プラス・ワン（続・日本國憲法）

（2005.10.29｢シュギシャ｣からの承前）日曜日の新聞一面トップは、ワシントンで開催されていた｢日米安全保障協議委員会｣、いわゆる２プラス２の中間報告（共同声明）からの一報だった。およそ一年前に今日あることは予想できたがマスメディアは地味にしか伝えず専門家はカンジンを消去してメディアの口も耳も目もおおうことにもっぱらであった。カンジンとは何か。沖縄や厚木など在日米軍基地の縮小にはウラがある、ということである。極東、北東アジア地域に展開してきた陸海空米軍の役割の拡大とわが国自衛隊との共同・連携行動の大幅な強化案が実現する。これはニッポンをカスピ海沿岸アゼルバイジャンからはじまり、中東をめぐりパキスタン、インドそしてインドネシアにつながる、いうところの｢不安定の弧｣（別名・世界の火薬庫←こっちのほうが管理臭くない）への戦術的前線基地にする、ということにほかならない。冷戦下の仮想敵国へにらみをきかす案山子のごとき不沈空母的役割から、米国の世界戦略の要石へと｢出世｣したというわけである。しかしながら｢案山子｣であることには変わりがなく、中身の藁束を若干入れ替えただけである。…つまり、その、日本は、いってみれば｢勲章をぶら下げた案山子｣になったわけである。勲章はさしずめこのたびめでたくまとまった自民党憲法草案ということになろうか。外務省がどの夜に隠密行動したか、忍者だからキッシンジャー大忍者が来日したり元切り上げ密約のために訪中するたびに伝書使いが特別機を乗り回して骨子作りを側面援護してきたのだろう。ご褒美は、じつはまもなく共同謀議者である（爆）民主党の三白眼前原代表にも届けられるはずだが、そのまえに厚木、岩国や沖縄などの自治体首長をどうするか。本日月曜日の小泉人事にすこしそこらあたりへの布石も見えるであろうか。ライスに合わせてコイケ防衛庁長官とか(◎-◎;)さてその自民党憲法草案の、のそっとつづきである。メディアは改憲問題といえばすぐに九条について云々し、前文に注意を向けることがない。こんどの草案でももっぱら九条の議論ばかりだった。しかし國の法律の基本的な方向づけは、その前文にこそもっとも象徴的にあらわれる。前文が、ざっとみてきたような貧相ぶりであるについては、姑息な官僚政治家のたくらみが透けて見える。最高法規である憲法を故意に融通無碍にして（骨抜きにして）おき、一般個別の法律でもって（国民の反対に遭いそうな）やっかいな部分は決めてしまえ、という魂胆である。こうした発想はじつは小泉政治の核心にあるものだ。遠山桜のもろ肌脱ぎに、鬼面人を驚かす、なるほどこれは民主政治というモノではなく衆愚政治の特性である。ついでながら指摘しておけば、「いま政治が面白い」…ナルホドしかし、それはテレビの垂れ流しワイドショー番組のオモシロサであり、わははははと大笑いしながら、愚劣な官僚と政治屋の跳梁跋扈をゆるし、みんなそろって地獄行きの特急列車に乗るようなモノではないのか。まあそれもいい。　秋暮れて焼き捨てられる鳥に牛さて、自民党憲法草案の前文、後半である。>日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。国際社会において、価値観の多様性を認めつつ、圧制や人権侵害を根絶させるため、不断の努力を行う。まるで箇条書きだ。ぞんざいな、ほとんど美辞麗句を連ねただけの文言がならぶ。書き手のがわにおよそ何の哲学もないからことばがことごとく浮いてしまう。実感のこもらない文章の見本だ。｢正義と秩序を基調とする国際平和｣っていったいどのようなものなのか。カンジンのその定義が無い。主体が無いから｢正義｣も｢秩序｣も途方に暮れてゐる。それぞれのことばが雑然と意味も無く並べられて、いったい自分たちは何者であるか、とわからぬままに立ちすくんでいる、そんな風情である。およそ｢正義｣といったっていろいろある。人生イロイロと国会で答弁した首相の、あの藁の詰まった脳味噌が信じる｢正義｣、一方的に言いがかりをつけて主権国家を圧倒的武力で攻撃し無辜の民を傷つけ殺しまくる、そういう｢正義｣ならわたしはご免こうむりたい。しかしこの憲法草案の｢主体｣がうかがう正義はどうしたってそういうたぐいの正義にならざるを得ない。この前文を含む草案がそのまま日本国憲法になったとしたら、そのときどきの施政者がいろいろある｢正義｣のなかから自分に都合のいい正義を選ぶということになる。なるほど、このようにどうにでも解釈が可能な前文はたいそう便利であろう。いやじつはそうしたたくらみがあるから、敢えてこのような曖昧な前文をつくったのではないのか。>われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる現行憲法の最後から二番目の段落は、このように云う。国家の関係は、個人の関係にそっくり再現させて考えることができる。おのれ、おのれとオノレ大事な人は、ジコチューと軽蔑される。他人を思いやり、もって和を尊ぶ心はこの國の古き良き伝統である。小泉純一郎という政治家の横紙破りには、こうした精神は皆無だが、まあそれは魑魅魍魎の政界ならばかもしれぬ。が、イラクへ侵攻という米国ブッシュ政権の行為を支持して自衛隊を現地に常駐させた政府の行いは、「他国も自国とおなじように尊重せよ」と謳うこのくだりだけにてらしても、現行憲法の精神におおきく背くモノであったろう。ここで、自民党草案の前出部分をふたたび読み返せば、なにが抜け落ちているかが明確になる。「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため」という箇所は、カンジンの「他国」がどのような国を指すか、その国家は日本の國とどのような関係であるかがなにも定義されていない。つまり「自国のことのみに専念して他国を無視」する国家であるならば、そこで云う「正義」も「秩序」も「国際平和」も、偽物であろうが、そうしたことの定義がないために、せっかくの「正義」「秩序」「国際平和」ということばは行き場を無くして宙にさまようわけだ。法律と経済のカラクリは学んでも心と精神の深みを若い時代に身につけてこなかったエリート達のジコチューがこの草案にはうかがえる。近代の歴史は、どの國でも、こうした者どもらが國をあやめてきたことを教えているのだが。つづく（2005.11.03「ブンカふん」日記へ）

2005.10.31

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シュギシャ

自民党新憲法草案（全文）なるものが、きょうの新聞に載った。現行憲法が下段に対照されている。どんよりとした空の下、枯草にしゃがんで前文だけざっと読んでみた。ひどいな。雑で下品で、いかさま筋だらけのまずい肉のごとく貧相だ。だれがまとめたか知らないが悪文の見本として扶桑社の教科書に載せたらいい。稀代の詐欺政権として今日の小泉自民党政権は長く語り継がれるだろうが、この粗末な憲法前文も酒の肴に添付するべきだ。対照されている現行憲法の前文とは、比較のしようもない。だいいちに文章に勢いというものがない。いきおいとは、見かけの粉飾からは生じない。書き手の内実がしっかりとあるときおのずと生まれ出るものだ。国会答弁の官僚の草稿とおなじ骨と皮のガラがらな駄文だ。鳥のガラなら煮出せばだしも出るが、ワープロが打ち出したトンカチあたまのフォントの連なりは目に刺さるだけだ。>日本国民は、自らの意思と決意に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する。これが書き出しである。広告コピーの大家でひところは萬流コピー塾なる流派の家元だった某イトイ君あたりにたのんでも、これほど無残な書き出しは作れまい。いきおいがない、などというレベルでもなくほとんど死語の羅列ではないか。主語はどうやら｢日本国民｣らしいが、とってつけたような国民の風情で、なんだかしぶしぶいやいやのろのろと舞台の袖から出てきた爆笑問題みたいに見える。｢おい、なんだか知らんがシュケンシャなんだってよ｣｢シュケンシャってなんだ｣｢山伏だよ、ばか｣｢そらシュゲンジャだろアホ｣みたいな。文章に内的必然性が備わっていないから、ちょいと書きかえることが容易にできてしまう。｢日本国民｣は｢イラク国民｣でも｢ロシア人民｣でも｢自民党員｣でも、通じる。｢主権者｣は｢家畜人ヤプー｣や｢ニート｣｢テロリスト｣でも言い換え可能だ。｢新しい｣は｢味噌くさい｣でもいいし、｢ビンボーな｣でもいっこうに意味が通じる。肝心の主体がはじめから無いので、どのようにも書き換えができるのである。>わしら官僚政治家は、自らの変心と傲慢に基づき、独裁者として、ここに欺瞞に満ちた憲法改悪を行う。とりあえず、上のように書き換えておく。ちなみに、以下に現行憲法前文のはじめの部分を挙げておこう（以下、現行憲法部分はゴチック）。> 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。翻訳文とはいえ、しかるべき主体がここには明瞭だ。自民党草案がここから肝心の部分（国の形と戦争放棄など）を取り去ったことも（それゆえの骨皮ガラ文となったことも）、比較対照すればおのずとあきらかである。>象徴天皇制は、これを維持する。また、国民主権と民主主義、自由主義と基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する。ガラのような書き出しにつづいて上のような文言。民主主義、自由主義、平和主義、国際協調主義と、主義のついた熟語がよっつもならぶ。ずいぶんシュギが好きらしい。治安維持法という法律があった戦前は「主義が好き」なのはシュギシャと呼ばれた。いや主に共産主義者をそう呼んだ、蔑称に近い。この自民党草案の書き手も主義で括ってしまうことが好きなのだろうか。ひょっとしてきみらもアカか？どうも炬燵言葉になってきた、炬燵に入って書くと私小説的に極私的でことばづかいもできそこない荷風っぽい。それにしても、このくだりも、ただただ言葉を並べただけのそっけないものだ。まるで小泉首相のコメントのよう。わかりやすいが中味がない。浮ついていて、宙に浮いたことば達。メールマガジンに毒されたか。現行憲法はつぎのようにつづく。> そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。比ぶるに自民党草案の文章は、国語力のなくなった若者に迎合するかのように粗末・粗忽・貧相だ。なるほど小泉チルドレンと揶揄される新人当選議員たちの阿呆面が目に浮かんでくる。ことばは、言霊である。横文字の文化ではどうか知らないが、漢字文化圏において文字をともなうことばは魂を表出する、ときにことばは自在に世界を描き出す。憲法という國の最高法規であることばたちが貧相であるとは、すなわちその國及び民族とその文化水準もまた貧相であるということであろう。さて、貧相をもうすこしならべてみる。>日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し、自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。このくだりには、ほんとうは「愛国心」ということばを入れたかったらしい。官僚的配慮と、機を見るに敏なる小泉流で、「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し」といういいまわしに落ち着いたらしい。しかしほとんどこれはモラルの押し売りである。「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し」ないものは、憲法違反になるわけだ。愛国心といえば、その事情はいっそう明瞭になるので論議を呼ぶだろう。そのあたりを「配慮」して、こうした表現になったのだろうが、いわんとすることはおなじだ。そもそも「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し」ているか否かをいったい誰がどのように判断するのか。現行憲法にはそうした悪しきモラルの押しつけはいっさいない。> 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷從、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。高邁である。うたいあげる理想は高く、一国の平和ではなく全世界の人類の恒久の平和へ思いをいたしている。まことに半世紀前の敗戦の混乱の中でよくぞここまでの広く深く高い目をうたいあげたものだと、あらためて感動する。ここには國のカタチ、そしてひとつの民族に偏しない広い視野が存在する。これを変える必要がいったいどこにあるだろう？つづく（2005.10.31「ワン・プラス・ワン」日記へ）

2005.10.29

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後の祀り

きのう午前、小泉純一郎内閣総理大臣が靖国神社に参拝した。公用車であらわれ献花料は払わず、本殿に昇殿せず、「一般国民とおなじように」拝殿の前で参拝しさい銭を投じたという。首相は「国民」という言葉をよく口にする。さきの総選挙では、「郵政民営化の是非を国民に問うた」といい、圧勝は「国民が郵政改革やめるなと断を下した」というわけである。オノレを棚に上げて誰それのためという言辞は詐欺師がよく使う手法にちがいなく、かつて軍部は天皇をダシにつかい維新では薩長も幕府も、そして戦国武将の天下盗りもまた天皇を「奉り」ダシとしてというように、権力者たちは「天皇」の無断使用を繰り返してきた。いまもそれは変わらないが、あらたに「民主国家」となって頻繁にダシに使われるようになったのが、「国民」だ。してみればこの時期の「国民とおなじような」スタイルでの靖国参拝にもまた、呪術師・小泉の深慮遠謀があったにちがいない。国政をつかさどる政治家を「代議士」と呼ぶ。代理人商売である。この代理人商売には旨味も相当にあるらしく弁護士もそういえば多額な報酬をふところにする代理人稼業のひとつだ。誰かさんに「代わって」ものごとを執り行う。まつりごとの世界にあっては、神の代理人の神父、牧師、恐山のミコまですべて代理人商売といえる。経済の世界ならば、株屋がそれだろう。こうした職業のメリットは、自分は泥を被らない、という一点にある。裁判で依頼人が負けても弁護料は規定報酬通りにいただける。一般投資家が大損したところで、証券会社は儲かる。国が傾き国民があえいでも餓死しても第三世界の政治家たちの背広は上質の絹である。自衛隊を派遣するに当たって現地イラクの治安を視察に行く政治家は、多数の私設兵士に守られ防弾チョッキを二枚重ねしてホンの一寸だけイラクの土を踏めば済む。その臆病と傲慢を派遣される自衛隊員たちは嗤っているだろう、きっと。サーバント、執事、という職業カテゴリーもまた広い意味での代理人業だろう。役人、官僚たちは国家の財政をおのれがふところにある野放図な打ち出の小槌の如き魔法の財布とおもいさだめて、予算なるものを采配する。やがて自らがエライものであるかの如くに思い違いをはじめこうした連中の幾人かは、さらに（代理稼業として）より旨味のある与党政治家を目指すこととなる。かくて（「国民」の）召使いであるはずのサーバーたちはじつにお気楽な家業にいそしむ。庶民が漠然と公務員にたいして羨望を抱くその心情を巧みに利用して、このような代理人集団はなにかといえば、「改革」「公務員削減」というアメを口にすることにもなる。それは自分たちの代理人稼業がうまくゆかないときに、自らが泥を被ることを防ぐ狡知である。かれらのほとんどが少年期から青年時代にかけてそうしたことをもっぱら学んできた。ダイヤモンドは傷つかない。「みんなで靖国神社に参拝する会」の代議士たち101人もオヤブンの後を追うサンピンのように本日、ぞろぞろと九段の大鳥居をくぐったという。自民に民主、国民新党に無所属が４人と所属政党も雑多、しかし「みんなで…」って命名したのが誰なのか、ちょっと笑ってしまう名前である。もっとも、首相が「国民」をよく口にする背景には、50数パーセントという世論調査なるものがはじき出した高い支持率があるのだろう。世論調査はたいていは設問次第である。「あなたは小泉政権を支持しますか」という質問に、「支持する」「わからない」「支持しない」という三択を置くばあいと、この三択に「どちらかといえば支持する」「どちらかといえば支持しない」のあいまいな回答ふたつをくわえたばあいでは結果は異なってくるだろう。さらに質問そのものがたとえば、「小泉首相のどこが嫌いか」というものならどうか。これにはじつは「好きだ」という肯定的感想を暗に押さえ込む意図が隠されるわけだが、おそらくは、「好きだ」「嫌いなところはまったくない」と答える数は極めてわずかになるはずだ。後者のようなあからさまに情報操作がミエミエの世論調査はさすがにないが、いずれこのような本質を持つのが世論調査であろう。そのような世論調査で政治が動く、選挙が動く、民主政治がそれっぽく民主的であるかの如くに粉飾され演出されてゆくわけだ。その手法の本質において、いわゆる西側先進諸国家の米英そしてこの国の民主主義なるものもまた、拉致と核で開き直る北の独裁国家やかつてのソ連邦、プーチンの連邦運営、はたまた「人民」をダシに超大国の道をばく進する一党独裁共産国家・中国などとくらべてそれほど民主的とはおもえない。そもそもが、「民主」とはなんであろうか。本義は、民が主人という意のはずだが、その主人の実体は見えにくくその見えにくさが主人の召使いであるところの代理人たちの跳梁跋扈となっているわけだろうか。庇を貸して母屋を乗っ取られる、そうして母屋に上がり込んだ代理人たちはもっともらしい顔で「民主主義国家が」などといい「国民は」とか「国民が」などとほざく。民の実体を見えにくくさせているものはナンであろうか。むかしもいまも戦争になって戦地で戦わされるのは主人であるはずの庶民である。代理人たちは安全地帯にいつもいて、もっともらしいまつりごとで国を治めたと称し、国家財政を破綻に追い込みながら、あるいはまたまったく住宅リフォーム詐欺ソックリの手法で財政赤字を言い募り危機を意図的にばらまいてまんまと大増税をおこなう。だが、彼ら代理人たちの俸給は少しも変わらず、老後は潤沢な年金と勲章などが待つ。ほとんど喜劇である。それとも…と鈍い味噌の片隅でかんがえてみる。民主政治などというものははじめから蜃気楼のようなものであるのか。民が（国民という言葉にはどこか嘘っぽさがある、民衆や大衆という言葉もそぐわない、わたしは自身を含めて「民」ということばがもっとも素朴で基本単位のように感じる）主人であるはずの「民主」のじっさいの消息を眺め観るとき、以上の如き様子（代理人連中の勝手横暴三昧）がこの國の近代史を貫き通っている。明治維新は幕藩体制を倒したと称し、しかしながら薩長の維新の志士たちが権力を幕府から奪い取ったにすぎない、民とは無関係に、王政復古の大号令が民の頭上を通過した。ご維新とは、これは軍事クーデターではなかったか。すくなくとも民主革命と呼ぶようなシロモノからははるかに遠い。権力奪取を果たしたものたちは天皇を戴きそれぞれが明治の元勲という特権的地位を獲得し、やがて彼らは富国強兵を発動する大日本帝国というひとつの国家体制ををつくりあげた。そうしてまた、このとき極東の島国はいっきに西欧化へと走りはじめる。支配階級は近代日本とこれを称し、文明開化とうたいあげ、なるほど士農工商という封建社会の身分制度はあらたまって、平等というあたらしい蜃気楼が列島の空を覆ったわけである。しかしながら、民は置いてきぼりを喰らった。こうして二度の世界大戦をくぐって六十年前、弐発の原子爆弾と数百万の無辜の民の犠牲の果てに敗戦となり、米英軍による占領時代がやってくる。そしてここで、あたかも天からの声の如くに民主主義なるものが、どこかからいきなり降って湧いて出てきたというわけだ。自由党、民自党、自民党、民主党…ことば遊びの如き自由と民主が散りばめられていながら、ネットから電波、紙メディアに至るまで、おおよそ代理人の法科に経済の散切り味噌が腐臭を放ってゐる。…あらためておもう、アトノマツリの繰り返しの中で、ひたすら犠牲をしいられつつ、幻視の中に、民のほんらいの民主主義などというものは、いまだ産声もあげ得ていないというのが、わたしの率直な感想である。写真は散歩道の「秋空とお地蔵さま」…しかし、アヴァンギャルドな貌だなあ ┌|∵|┘

2005.10.18

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海のせい

あいかわらずな寝不足気味の頭のままソファに横になりヤンキースとエンジェルスの試合を観ていた。松井は好機にもまったく打てず、42才になるニメートルの大投手ランディ・ジョンソンと打者ではひとりジータだけががんばったという感じの試合で、敵陣とはいえまったく薄味なニューヨークヤンキースに落ち目の巨人の幻影が重なるようなあんばいであった。松井も心技体でいえば、最初のかんじんである「心」がうぶで、天性せっかくのめぐまれた運動神経や体力をコントロールできない。最後になる９回裏の大舞台がまわってきたところで、凡打のファーストライナーであっさり決着をつけられてしまった。試合巧者と云うことでもエンジェルスの監督に一日の長があった。別にファンでもないが、こんな薄味スープでは日本のプロ野球を嗤えない。見終わって風呂に入りようやく寝ようかと云うときにこんどはケータイが鳴って、なつかしい声が聞こえてきた。駅前にまで来てるんだと云われりゃ仕方がないからのこのこ出てゆく。空はどんよりこっちの頭も全身もどんより懐は晩秋だ。それでもなんとかいっしょに食事をして、数年分の雑談をまとめてして別れた。飲みすぎ・寝不足・話聞き疲れで鉛になった二本足を山道にそっくり捨てて帰ろうかとおもうくらい疲れてしまった。なぜだかPUFFYの♪うみのせいという歌のフレーズが頭の中に鳴りひびく、ヤンキースのせいだ。それにしても、どうして地方都市の商店街はこんなにさびれてしまったのだろう。三割の店は昼間からシャッターを下ろしている。灰色の空にぱらぱらと黒い人影がところどころに点在するだけでにぎやかなのは通過するためだけの国道だけである。経済が上向いたという話はいったいどこの国の話なのかとおもってしまう。大差で郵政民営化法案なるものが衆院を通りNHK世論誘導調査が53％の内閣支持率をはぢきだしたそうだ。「民主主義の遠近法」という命題でもかんがえてみるか、寝ながら。ずいぶん美しい景色ができあがってゆく。遠景・中景・近景とひととおりそろっているが、いずれもこの手にとって確かめようとすると遠ざかって消えてしまう、そんなふしぎな民主主義である。仮想現実な民主主義。豊かになってしまった国の貧しい民主主義。それはかの民主党というふしぎな政党にもっともよくあらわれている。小泉自民党がこの国をすっかり解体・バラしたあと、落ち穂拾いのようにあらわれて、民主主義という仮面を被った能役者が呪文を唱えるのだろう。襤褸をまとわされた民衆は「素敵な衣装ですよ」と甘言に馴らされながら、監視国家のなかに素敵な休日の夢を見ることに専念する。夢はいつだって美しい。ふたたびネグリの『＜帝国＞』を批判的に読む時期がやってきた。解体されてゆく世界の前で。あたらしい物語を紡ぎだす日がやってきた。湯の温度はもうじゅうぶん熱いのだが、茹であがった真っ赤な顔で「ええ、ちょうど良い温度です」などと人々はけっこう無邪気である。なに、年間たった四万人の自殺者です、この国はまだまだ捨てたモンじゃあないです。マスメディアの罪は重い。「粘土は砂になった」（中曽根康弘）のか、させたのは一体誰だ！？　家族が集団が離散する、もはや繋がらなくなった個人がデジタルなメディアによりかろうじて連絡する、そういった社会が加速する。そのむかしには都会にのみあったはずの孤独は、いまやときはなたれた。ばらけてしまった個人は男女共同参画などといったあたらしくつくりだされた共同幻想のなかへ記号のなかへとながれ、はじきだされてゆく。疎外というものが文明国のいまやあらゆる隅々にまで貫き通る。ケータイという通信手段を持った人類は、ランダムにながれ出す数字のなかを回遊する。深い海洋をゆくイルカのように。頼りない記憶あてに海沿いの町をたずね歩くまるで胸に穴が開いたように止まらない止まらない孤独の嵐だよハリケーンハリケーンハリケーンLet me show you ザまごころと、これは「ハリケーン」（作詞：湯川れい子作曲：井上大輔）だった ┌|∵|┘

2005.10.11

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（09）三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解

大韓航空機撃墜事件をわたしが知ったのは都内の小料理屋でだった。朝日新聞社会部のM記者（当時）に誘われてアフリカから帰国したばかりの伊藤正孝アフリカ総局長（当時、のち朝日ジャーナル編集長　故人）といっしょに飲んでいた。どんな話題でそこにいたかは忘れてしまったが、たぶん伊藤氏がいずれ朝日ジャーナルの編集長になるからということで個人的に紹介されたのだろう。ほかに出版局の人間も同席していたかも知れない。とにかくその夜だった、サハリン上空で大韓航空機が撃墜された、という驚天動地の一報が飛びこんできたのは。すぐに夕刊を見るとでかでかと記事が載っていたから正確な日時を記しておけば、それは1983年９月１日の夕方（たぶん）午後８時すぎだったのだろう。実際の事件は（いまあらためて確かめてみると）、1983年９月１日午前３時25分31秒（日本時間）に発生している。朝刊〆切後であったため夕刊に掲載となったのだろう。とまれサハリン上空で発生した大韓航空機B-747ジャンボ機（日航123便と同型機）いわゆる007便のソ連空軍迎撃機による撃墜事件は、乗客乗員269名（うち日本人乗客27名）の遺体も回収されないまま、航空史上に巨大な謎を残して、22年たった現在も事実上は未解決のままに放置されている。航空機事故にはいつもいくつもの「？」が付きまとう。御巣鷹の日航機事故ではすくなくとも三つのクエスチョンがいまだに解かれないままだ。まず相模湾上空でいったい何が起きたか。運輸省（当時）事故調査委員会の結論は「尾翼と機体後部を繋ぐ隔壁の修繕ミスによる破壊」ということになった。この指摘は事故発生から数日後に米国ボーイング社からもたらされた。事故調査委員会はこの結論に向かってあらゆる不可解のつじつま合わせをしてきたようにも見える。しかし直後から流れ出した話には自衛隊の演習用標的と誤認されてミサイルで尾翼部分を破壊されたという説がある。JAL123便はこれにより操縦不能におちいり30数分の迷走の果てに御巣鷹の尾根に激突炎上爆発したという。ここでふたつめの疑問が生じる。日本の首都上空は俗に「東京コントロール」といい戦後60年を経た今日も尚米軍管制下に置かれる。統括する管制の現地本部は横田米軍基地にあり、ならんで調布飛行場がその予備的役割を戦後暫くの間は担っていた。これらはまぎれもない事実であり、その管制空域は首都圏をこえてはるか新潟上空まで及ぶ。この空域に関する最終的な航空交通管制は在日米軍が握るわけである。この空域で民間航空機の事故が起きた場合、容易に想像されるのは横田基地への緊急誘導不時着だ。じっさい日航123便が相模湾上空で非常事態に陥ったのちただちに内陸部へと大きく航路を右に旋回させたのは、推定ではあるけれど横田基地への緊急着陸を試みるためだったと考えることができる。二番目の疑問はここから生じる。いったいなぜ123便は日米秘密協定でとりきめられた航空管制のシミュレーションどおりに横田へ緊急着陸をせず32分間も迷走飛行をつづけたのかという疑問である。三番目の疑問は御巣鷹現場に関わる。墜落したのが1985年８月12日月曜日午後７時すぎだが、「発見」されるのはそれから相当時間を経たのちであった。もしも墜落直後に救出活動がおこなわれていたならば、さらに多くの人命が助けられていたこともまたあきらかな事実であった。ここで三番目の疑問が生まれる。「発見はなぜ遅れたのか」あるいはまた「本当は墜落場所の特定は墜落直後にはできていたのではないか」、もしくは「墜落から救助までの10数時間にいったい何がほんとうはあったのだろうか」という重大な疑惑である。御巣鷹の下山の際に地元消防団の若者から示唆された流星群の話から、わたしが大韓航空機撃墜事件のことを頭に浮かべたのは、けしていわれのないことではなかった ┌|∵|┘ つづく（※連載番号をトップに来るようにタイトル表記を一部変えました）

2005.10.02

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（08）

（05.08.28から　承前）岡田阪神がリーグ優勝を決めた。20年前もそうだった。道頓堀に飛びこむ人々の映像がテレビニュースでながれたのを週刊誌の編集部のテレビで観ていた記憶がよみがえる。1985年という年はふりかえれば暗示的な出来事が多かった。そして奇妙に2005年のいまと類似する。JR尼崎事故と日航機事故というふたつの運輸史上に残る大事故の年であり、さらにまた1985年は昭和の60年目で戦後の40年目に当たったが、2005年のこの夏はちょうど終戦から60年目だ。愛知では地球博が開かれたが、この年の三月にはつくばで科学万博が開催されている。グリコ森永事件はこの前年の三月にはじまり、この年の春、唐突でまことに奇妙な終焉をみせた（後述）。わたしは大阪へ取材に飛び大阪府警の金庫に保管されていて未公開だった脅迫テープのコピーを入手し局長賞をいただいた。電電公社と専売公社が民営化されたのもこの年だった。阪神タイガースの優勝はあらためて調べてみるとこの年の10月16日だったから、かなり遅くなって決まった。21年ぶりの優勝だ。まあ奇跡という感じだったが優勝に導いたのは吉田義男だった。そのまま日本シリーズでも西武を下して日本一に輝いた。阪神にとっても日航機事故は無縁でなかったはずだ。中埜肇球団社長が日航機事故で死去（行年63）している。さて、墜落現場となった御巣鷹の一帯は標高2000メートル級の山々がそびえる。御巣鷹の北西10時の方角8キロ先には御座山（標高2112メートル）、ほぼ真南10キロ先に甲武信ヶ岳（同2475）その手前に三国山（同1828）、真東３時の方角には両神山（同1723）といった具合だ。行政単位で言うと御巣鷹はかろうじて群馬県にあるが、スゲノ沢の渓谷をひとまたぎしたさきは長野県南相木村だ。また川上村を越した南の山岳地帯を縦走すれば、山梨、埼玉の両県境にいたり甲武信ヶ岳より発するながれはやがて潤沢な台地をはしり笛吹川となるはずだ。山岳地帯では夜空は澄んで無数の星がかがやく。山頂で流星を見ることはめずらしくない。しかし、地元消防団の若者から流れ星の話をきいたとき、わたしのなかに浮かんだ情景は流れ星の降る山頂の夜空ではなかった。無数の照明弾に照らされる戦場のような夜の墜落現場の光景であった。なぜそのような光景を思い浮かべたかについては多少説明をしなくてはならない。すこしあとになってその夜の天候を湿度も含めて問い合わせたのだが、その取材ノートは失われている。したがって数値的なものは正確でないが、その夜が特別にふだんの夜と異なっていたものでなかったことを裏付ける数値だったはずだ。湿度は山頂でもけして低くはなかったし、むしろ水蒸気は多かったとおもう。しかしそれらのことは、その現場ではまだ判断できるはずもない。ではわたしはなぜ突飛ともおもえる戦場のような光景を浮かべたのか。そのちょうど24ヵ月前、1983年８月31日に起きた大韓航空機007便の撃墜事件のことが記憶に強く焼きついていたからだろうと思う ┌|∵|┘ つづく

2005.09.30

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本当は「郵政反対票が勝っていた」

■総選挙の投票結果を分析したところ、面白い結果が出た。296議席を勝ち取った小泉首相は「世論は圧倒的に郵政民営化を支持した」と言っているが、そうでもないのだ。世論の半分以上は郵政民営化に相変わらず「ノー」だった。これはある民間グループがまとめたものだが、先日の総選挙の小選挙区の投票をすべて積み上げたところ、郵政民営化に賛成議員の得票総数は3389万7275票。一方、反対議員の得票は3419万4372票。反対派の勝ちとなったのだ。…中略…同じような集計は他にもあり、多少の誤差はあるもののどの試算でも反対派の得票が上回っている。（日刊ゲンダイ Dailymail Digest 2005年 9月16日号より）メール配信のデジタル版日刊ゲンダイに「郵政反対票が勝っていた」と題するこんな記事が載った。「…郵政民営化法案に賛成だったのは自民、公明の公認候補と一部無所属議員。反対だったのは民主党、社民、共産の公認候補と平沼、野田聖子などの反対派候補、さらに新党の候補。これらの1131人の全立候補者を色分けし、小選挙区でのそれぞれの得票を合計したら、30万票ほど反対候補の方が多かったのです」と記事はつづく。なるほど、小選挙区比例代表並立制なる特殊な選挙制度が小泉首相の主張を結果として助けてしまったわけか。まるで落語のときそば詐欺みたいな話ぢやあないか。ところでけふは月齢12.5である、明後日あたりが満月、いわゆる中秋の名月になるわけだが、はたして天候はどうか…あ、おやじ、ところでいまなんどきだい？　へぃちょうどココノツです♪ ┌|∵|┘

2005.09.16

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戦争の行方

ニューオルリンズの悲惨が外電でぽつりぽつりとあきらかになる。世界最強国家が隠し続ける悲惨のそれらはごく一部にすぎないのだろうが、そのごく一部が未開国家の如くに隠されたままであることに底なしの不可解を感じる。死者数は万に及ぶであろうとある情報はつたえ、また旧日本軍731細菌戦部隊の研究をひきつぐ軍の生物兵器の大がかりな研究施設も現地にはあったがそれも破壊されたようだ、そして当局はその事実じたいを秘匿したままだという話もながれてくる。個人情報保護法なる法律が成立したときに、ああこれでいよいよ情報が権力者に恣意的に操作される時代がわが日本でも始まるのだなとおもった。「保護」といえば聞こえはいいが事実は裏返しであり保護とは「隠蔽・秘匿」の言い換えにほかならない。隠したい情報があるとき、保護という言葉が登場する。アイズオンリーやシークレットなどのスタンプが生まれる。かくれんぼの原理だ。「もういいかい」と十をかぞえて目を開ける。みんながいっせいに消えている。「もういいかい」と目をつぶるフリをして見ていれば個人情報がどこへ隠されたかもいっさいが目撃できるというわけである。豊かであることはすべてが豊かであるわけではなくて、対極には貧困や悲惨が隠されているわけだ。さらにいえば、豊かであるのはほとんどのばあい、ごく一部にかぎられる。反対に悲惨や貧困はつねに膨大である。民主主義という手品のカラクリの舞台裏は談合も地縁血縁コネだらけであったりするわけで、しかしそうした現実の光景はけして学校では教えてくれない。夜の明けるのがしだいにおそくなってくる。ちょろちょろとまるで野ネズミのように子猫たちが庭から交代であがりこんでは皿に盛った餌を食べにやってくる、こちらの気配に気づくとウサギになってとたんに逃げ出すので、彼らを安心させるために夜中の散歩をしてきたが、まだ中天には赤い星などがいくつもかがやいている。山のなかの夜の空気というのも独特のもので、いろんな植物の香りがミックスされているようだ。政治そのものの行方には特別な興味などないけれど、大勝した小泉自民党政権は勝ちすぎたことによりかなり困ることになるだろう。食あたりがあるように「勝ちあたり」というものもある。いずれ内部からくづれ出す兆候がすでにみえてきた。そのへんを直感してなのかどうか知らないが、ロッカーな首相の任期一年という判断はなかなか賢明ではある。　秋風のしなだれかかる肩に爪世の中しかし、そう甘くはないぞ、わははは。秋の光。道ばたには六地蔵がゐる。みているぞ。　トンネルの外も暗闇永田町　こひ猫の爪研ぐ音のなやましき　垣根越し向日葵の首ちょんぎって　六地蔵私語かはしたる秋の野辺そのようなわけである。嗚呼無情。もぐらになりたまえ、なあ岡田君！ ┌|∵|┘

2005.09.15

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幻燈機

　ひところしころされてゐる夕焼ける夕焼けが美しかった。夏の終わりのあるいはこの國のおわりのはじまりの真紅の空か。ほぼ国家そのものを売り渡すにひとしい郵政民営化法案が、今度こそまちがいなく国会を通過するだろう。今夕、参院中曽根ジュニアが反対を撤回する旨の声明をだした。これで法案は参院も通過し成立する。なんて愚かなんだ！優しいファシズム、柔らかいファシズムという言葉がしきりと浮かぶ。それは、一見モノわかりのいい話のわかる先公みたいなファシズムでもある。そして、今夜も月がキレイだ ┌|∵|┘

2005.09.13

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モモンガー選挙

テレビの選挙報道をあちこちチャンネルを変えながらながめるうちに夜が明けた。雲ひとつ無い抜けるような青空がひろがり馬鹿げた世界が剥がれてうつつの夢が青葉の色づきに寝転がって果てている。どこか可笑しい光景だ、バンザイバンザイの絶叫ににハイハイハイハイ嗚咽や吐息や破顔やわっしょいどの局眺めてもニュースなキャスターとデジタル数字の乱舞であった。与党の「改革」が贋金なら野党のソレもおなじく贋金で、そもそもがもそもそなモモンガー選挙であった。1993年夏の55年体制の崩壊だったか、あの時の細川内閣時からだったとおもうが小選挙区比例代表並立制なる珍奇な仕組みをでっち上げた、神の國のかの森チーズ男の創案でミステリアスな英国の選挙制度を改変しつつ導入した。そもそもはそこにかつての社会党やら滋賀なムーミンパパやらも数枚も加わっての仕儀ではなかったか。いやそもそもそのそもそもの由来に至れば「改革」なるコンビニ言葉に囃したてられて笛太鼓で踊り始めたのが高度経済成長でひが目の米英金融資本のBIS規定なるいかがわしさに幻惑されてのバブルなる寸劇から「改革」の珍妙キテレツは開始されていたはずである。まず日本の経済をたたき壊してそのあとは談合闇取引にテーブルアンダーをハダカにしてしゃぶしゃぶノーパンなる下劣な言葉が政治用語に社規現象にあれよあれよのほおかむりで、選挙制度をいぢりましょうかとなり、デジタルな小選挙区が中選挙区に取って代わる。もっともまあ、選挙制度がどうであろうが、そもそもに哲学のない、いやもそっというならば、戦後の六十年をまったく民族として清算しないままにきたこの國のヤドリギ政治のしからしむるところであろう。バンザイバンザイバンザーイ！！埃に汗いや汗に埃がついてべとつく身体で歩き出す。山道から出ればそこが国道で週末の車の往来がはげしい。ぶわあっと長い大型保冷車が時速七十キロぐらいで走り去る真っ黒いディーゼルの排気ガスが高温の大気に吐きだされる。なるほど光化学スモッグが地方都市の幹線道路沿いに繁盛するいわれである。皮膚の噴き出た汗にへばりつく埃の正体の七割はたぶんこのガスだろう。登山は健康的なスポーツではなく別の意味でイノチガケのレクレーションである。たまらずに路地横の喫茶店に入った。目の前が役場で平日の客のほぼ全員がどうやら地方公務員たちらしく今日は暇そうである。テレビの音が流れる奥のほうからおばあちゃんが腰を曲げたまま現れた。お客さんですかとわたしを見て聞くから、頷いてみせるとすこしちぇっというかんじでまた奧へ引っ込んだ。なかなか立派なインテリアにテーブルだが椅子が布張のいかにも暑苦しそうなソファであるのにはちょっとぶるった。それも座ると埃が舞いそうな外観であった。全身埃毒ガスまみれでほぼ半裸であるこちらも贅沢は言えないのでそのままおもいきってラブチェアのごときソファへ腰をおとした。がしゃっとなにかが潰れる音がした。足元を見るが何も変化はない。轟音で耳がおかしくなったのだろうか。愛歩奴の聴き過ぎで内耳がとうとうキチガイになったのか。空耳だろうと自分にいいきかせそれでも予想したよりもはるかに座り心地のわるくないソファに身を沈めてかなりホッとする。暫くしてこんどはおじいちゃんが出てきた。ざっとみても85歳くらいな感じ。おばあちゃんは80歳くらいか。片手にセルロイドですか、ほらあのむかしの下敷きのようなものをもっている。メニューだろうとおもったがそれは目の前にある。ひょこひょこわたしの前を通り抜けて木のドアの前に立った。なにやらごそごそやっている。うーん咽が渇いたもうかなり時間が経つし水くらいもらってもいいだろうと、すみませんと声をかけてみる。無視である。いや耳が遠いのかも知れない。まあいいか、国道の熱気と毒ガス散布から逃れられたんだ、しかも冷房もちゃんと効いてなかなか居心地はわるくない。もうすこし待っていよう。かなり待った、半時ほどした頃合いに奧からさっきのじいさまがあらわれた。ソファでくつろぐわたしを見るが何も言わない。注文も訊かない、ふしぎな雰囲気だ。どーしたんだここは喫茶店だろう。立ち上がるとじいさんの肩を叩いた。あら？と不思議そうな顔である。「何か飲みたいんだが」とわたし。「ほにゃあ？」いや正確に再現すれば、ほげらあぎゃ、かもしれないがとにかくそんな声が返ってきた。それからいきなり「しげこおお！！」と大声が出た。吃驚した、なんだしゃべれるんじゃないか。耳も遠くないみたいぢやあないか。シゲコはきっとさっきのばあさまだろう。「じゃあ珈琲ブレンド」とわたし。壁にも油性インクで美味しい珈琲あります、と大書されている。奧から出てきたのは年の頃35歳くらいのかなりあか抜けた女性だった。なんだまだひとりいたのか、というのがこちらの感じ。しかしあちらの気持ちは違っていた。こんちわ。と彼女はいいながら、わたしのそばをすり抜けて表へ出てしまったのだ。？？？なんだあ？？ここはなんだあ？？？山ふたつ越えると文明文化がこうまで変わるのだろうか？はじめてはいる部落である。村である。過疎かもしれないが、国道沿いにはスーパーもあった、役場もなかなかみごとな建物だし、目の前の国道はひっきりなしに大型車がすっとんでいる。大勢が判明したのはそれからさらに半時後だった。誰も相手にしてくれず客を客と思わないならまだしも完全無視のふしぎな空間に60分余も座ってさすがにもういいか疲れもとれた出よう、と言う気になりだしたころだった。どやどかばーんとドアを蹴って数名がなだれこんできた。おお仲間か！とわたしはすこし嬉しくさえなった。もちろん仲間ではなくつまり客ではなく選挙の寄り合いだってさ！　してみるとわたしもどうやらその仲間とカンチガイされていたらしくドアを開けて表に出てふり返れば、なるほど「本日休業」という白いプラ板がいつのまにかぶら下がっていた、山歩きを終えての土曜日の出来事であった ┌|∵|┘

2005.09.12

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まんま

赤トンボがつがったまんま窓外の桑の葉っぱに留まっている。その桑の葉は低気圧の雫が起こす風で揺れている。その手前の窓のこのモニター画面の前のブラインドをがらがらと引き上げれば、全開された素通し硝子越しのひかりが流れこんで硝子窓の平たい表面に一匹、蠅が留まっているのが見える。スリープから解除しなくなった原因を探ってネットを検索しているうちにうかつにもアライグマな執事氏のトラバに気がついてしまいまんまと『太田裕美』を一枚注文してしまった。14号が北の海に去ったとおもったら15号が南の海に発生した。これをPC上のネットゲームにシミュレートすれば、まるで現れては消える忍者ではないか。女忍者か、九の一か、ふうん。さいきんようやくコテツがただ者でないことを発見したばかりだが、嵐も地震も津波も巨大化してゆく新世紀らしく、滑るように富士のふもとへながれてゆく高速道路の車の列をながめる2005年９月７日の水曜日の正午前。雨が上がったようだったから猫どもの食料を調達に出ようと考えていると、また降りだした。おまけに渓谷の木々が大きく揺れている。それで出かけるのを諦め、本日の自分が食べる食料だったはずの金目鯛尾頭付きをグリルで焼きコテツ、グレ、ミーらのまえに皿に盛って差し出した。夢中になって食べてくれたのは産後の肥立ちなミーチャンだけで、グレは反転転側ごろごろとでかい堅太りの三重顎の図体をタタミの目に沿って転がしているばかりだし、コテツはベッドの下の薄闇の定位置に引きこもって居眠りをはじめた。虻が一匹窓硝子を這っている。CDにつづいてアマゾンの密林に隠れていた秘本を数冊発作的に追加注文してしまう。都会にいると散歩をして本屋の前を通過するときはできるだけ目を閉じるわけだが、ネット世界でも考えなくてはならないなあ。霧雨のような雨がわたるとふたたびねっとりした湿り気を帯びた大気が室内にながれはじめる。亜さんから『リーダーの易経』（PHP刊）を頂いた。有難い。じっくりと読んでみよう。ふと、中村天風の著作をおもいだす。昨年のいまごろはこの天風の本を大いなる共感を持って目薬を浴びつづけつつほぼ全冊読破したわけだ。それで、…そうだった！きのうにひきつづいてのとりとめのない話題で恐縮だが、もう日付も変わったからこの頁に書き継ぐことにする。とくべつなことでもないけれど。日本を発つときに総選挙がスタートしてそのときにすこし書いたとおり、もしもこんどの選挙に「争点」なるものを見るとするなら、民族の選択　とでも呼ぶべきシロモノになるのではないかとおもう。それは究極の選択になる、とも書いた。どういうことか。うっかりな舌足らずのせいでナショナリズムのごとくに誤解されても困るのでこのことをもうすこし実例を挙げて言い継ぐことにする。明快にばさっと言えるならいいのだが、どこか言い難い困難さが伴う事象であるからやっかいだ。しかし概略は、誤解を恐れずに言えば、日本という國の形すなわち「ありよう」に深く関わる事柄であろうと考える。国粋主義というものとは無縁であるけれども、しかしこの日本という風土のなかで培った文化文明をじっくりと見直すことからはじめなくてはならない点では、あるいは一種の国粋かもしれない。いっぽうでこうした事柄には回帰する原点のような、あるいは別の言い方をするならば、民族の拠り所といった物事が関わるだろうとも考える。民族という視野からもういちどこの弓状列島に住むわれわれという存在を見つめ直してみる。これは排外主義でもなければ、狭量な民族主義でもない。そうしたものとは無縁と言うよりもはるかに遠く離れた存在である。このことを決然と明確に輪郭を持ったモノとしてみるために、ひとつの仮定を対置させてみる。それには、他国による侵略、という事柄がいいかもしれない。事実60年前の夏この列島で起きたことは、そうしたことに近かった。愚かな植民地主義や見当はずれな汎アジア主義がもたらしたあげくの敗戦ではあったが、進駐軍による日本国占領はまぎれもない「侵略」という側面を持ち得た。言葉の厳密な意味において語るとすれば、「占領」も「侵略」も結果と過程ほどの距離にあるだけであろう。ここで問いかけたいのは、しかしそうした占領の意味や結果ではなく、そうした出来事によって生じる民族の溜め息のようなシロモノについての考察である。被支配という屈辱にまみれたひとつの民族国家の住人たちの集団心理において生まれるであろう、吐息についてである。具体的に言うならば、価値観の強引な転倒だ。生き方の、社会の、自然や信仰への、突如としての全否定…。真空管現象。頭がピーマン現象。それこそまっさらになって、何をどうしていいか分からないままに、日本人は米軍を迎えた、その60年前の夏である。そこにこだわるとき何が見えてくるか？写真は室内を飛ぶ蛾をみつめる初秋（本日午後10時ごろ撮影）のコテツ。このあと跳び上がってみごと捕獲した ┌|∵|┘

2005.09.07

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（07）

夏のおわりの夕暮れの空を見上げる。あいにくと今日は曇ったままだが18：07くらいには東の空にキラリと小さな銀色がひかるはずである。18：00ちょうどに羽田を発つ大阪行き日航機である。123便という便名は廃止されて2005年のいまは1525便（18：00発　19：05大阪着）となっている。20年前の８月14日の朝は上野村の民家の座敷で目を覚ました。頼み込んでのニワカ民宿だった。朝といっても午前三時すぎ、外はまだ真っ暗だったがコケコッコーとトキを告げる鶏の声、それになにやらざわざわと夜明けへ向かうさまざまな目に見えない気配に背を押されるようにして目覚めたのだろう。当たり前のことではあったが山の夜はおどろくほどに早い。日が落ちてまもなくすれば夕食になり午後八時をすぎれば深夜である。前々夜から合算すればほぼ50時間近く起きっぱなしだったせいと昼間の山登りがさすがに堪えていたのだろう、下山して泊めてくれる家を見つけだすとわたしたちは食事をしビールを呑んでそのままセンベイ布団に倒れ込んだのだった。下山の途中でふっとある疑問が沸きだして降りるまでのあいだずっと味噌のなかを駆けめぐった。発端はいっしょに降りた地元のひとがなにげなく洩らした言葉の切れ端だったとおもう。ぷすぷすと青い煙をあちこちから上げている戦場の如き現場をみたあとのある種の虚脱感も神経を敏感にしていたのか。ふだんならそのまま聞き流してしまうだろう、それは言葉であった。「そういえばさあ、ゆんべは流れ星がずいぶんときれいだっただよお」と消防のハッピ姿に地下足袋の若者は言った。そのころ（彼が空を見た12日から13日へうつる深夜）おおやけには墜落地点はあきらかでなかったから、彼が見上げた夏の夜空の青い澄み渡った群青は、世界航空史上最悪の死者を出すことになる直後の夏の夜空には、まだ（それを見上げた彼の意識のなかでも！）、なっていなかった。彼は平常心で「いつもどおりの」夜空を見上げたはずだ。わたしはへえ！と相づちを打ち、それからがく然とした。いまおもえば、＜犠牲者の魂が夜空に昇天していったんだろうか…＞とそのような含意が彼の言葉にはあったはずで、しかしわたしの耳と脳裏には、そのとき、まったくべつの意味と情景が浮かびあがっていたのである ┌|∵|┘ つづく

2005.08.28

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オモチャのチャチャチャ♪

あのでぶっとした体躯が広島を往く、ほとんど政治のオモチャと化した電動デジタルホリエモンだ。ドラマった曇天の朝に昨夜の小嵐が揮発してゆく。留守のあいだにすっかり夜遊びを覚えてしまった黒猫コテツは濡れた軒下の夏草のなかから蝉をくわえながら現れた。戦後最高を記録するかも知れない投票率と黄色奴隷化の道をあゆみはじめたニッポンチャチャチャか。NHKと政権政党のプリンスメロンのケッタイをまったく報道さえも出来ない電波メディアの自堕落にもヘイザな平凡が大衆と国民の貌になりきって出演役者の顔ぶれも東に南瓜自民、西に中堅若手官僚集団と化した民主でON-OFFなデジタルバキューン！女殺し油地獄天国だ。ほぞかむ社民の自業自得も陰でニヤツク小沢タヌキも胸にペコちゃんダッコちゃんの田中知事党首も「、」ばかりな「。」のモーニングワイドたれぱんだか。民主主義のこのような豊饒の果ての（いや実際豊饒などとはちっとも思わないが、まあ爛熟）腐った林檎のような民主平等なるシロモノの奥深くをのぞき見れば何とも奇態なキリスト教原理主義のエコロジーが見えてくる。すぐれているのは西欧文化でそれらはこのパーソナルなパー寸いやパースンのパソコンデジタル消費石油乱雑卑猥文化を爛熟させているのだが、それらのこれらが東洋文化やイスラム文化よりもはたしてすぐれていると言えるのか。ディズニー映画の如くに自然に過剰に感情移入して結果あげくのクジラ保護や動物愛護の過剰に反省はないのか。山紫水明のこの国土をもたらした2000年だかのこの列島の川やら山にいたるところにおわすであろう神々よりもいったいどーしてキリストなのかとかなどもういちどかんがえること。この民主政治の東洋的な深化や進化もあるのではないのかなどとかぎっちょん。選択選挙などと、もしいうならば、争点は郵政でも年金でもないだろう、改革の是非でも改憲のカンヌンでもないだろう、いま問われているのは、このままグローバリゼーションの潮流に身を投げ込み多民族国家のみち（その精神におけるいっそうの西欧化とキリスト教国教化）を選ぶのか、それとも島國国家という地理的優位性によって、できるだけ単一民族でありつづけようとする道を選択するか、いずれを選ぶかという、「究極の選択」すなわち、民族の興亡の、文化文明と哲学の、極めて深刻なことがらにかかわることではないのかとおもう。「国際化」とはそもそも何か、と。…いささか突飛に映ることも覚悟で、以下の文章を掲げておこう。参考までに。終戦の何十年かあとになって、アメリカの歴史研究家が思いに沈むことはないとしても、日本の歴史研究者は長い溜め息をつくことがあるにちがいない。昭和十六年九月、十月、十一月と昭和二十年五月、六月、七月の奇怪な相似を見比べてのことだ。どのような嘆息なのか。一九四一年九月、十月、十一月、アメリカの指導者が是が非でも日本を戦いに追い込もうとした三ヶ月、そして一九四五年五月、六月、七月、これまたアメリカの指導者が絶対に日本を戦いつづけさせようとした三ヶ月、二人のアメリカの指導者が望んだこと、やったことが恐ろしいほどに似通っていると考えながら、昭和十六年と昭和二十年の日本の政府と軍の首脳たちが望んだこと、やったことと思い比べての嘆息となるはずである。（鳥居民『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』263頁より引用）政治家は嘘つきだが、歴史もまた見え透いた嘘を平然と突き通そうとするものである。

2005.08.28

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（06）

あの日わたしたちがのぞき見た谷は、御巣鷹の北側、スゲノ沢の最上流にあたる地点であることがいまではわかっている。1985年８月12日午後６時56分すぎ、乗客乗員524名を乗せた日航ジャンボ機123便（ボーイング747）は、32分間の迷走をしたあげく、この沢へ南東の方角から激突したのだった。現在までに分かっている調査結果などからそのときの模様を再現すれば、おおよそつぎのようになるだろう。衝突は二度起きた。123便は最初、御巣鷹山の尾根てまえにある直交する別の尾根（それは御巣鷹山頂から南西方向にある）に接触した、そしてそこの樹木をなぎ倒しながらバウンドするようにして現在、慰霊の碑が建つ山頂にそのまま激突したのだ。このとき機体の後部胴体は激突の衝撃で分離し、最後部を先頭にしてそのまま斜面を400メートルほど猛スピードで滑り下りスゲノ沢の谷間に突っこんだ。われわれがのぞき見たV字の谷間である。さきほどわたしはよくぞ助かった、と書いた。そう実感したのは事実だが、しかし20年後のいま、あきらかになった上に述べた墜落時の状況をかんがえるとき、生存者がいたことの理由も納得が出来る。最初の尾根に接触したところで航空機の速度はかなり減速されたのだろう、また御巣鷹山頂に激突した際にその衝撃でふたつに胴体が割れて後半部分、つまり尾翼に近い席の機体部分だけがはじけるように分離して（ちぎれて）スゲノ沢の斜面を滑落した…御巣鷹の大地が自然のショックアヴソーヴァーになった、ここでさらに墜落の衝撃は和らいだはずである。事実、520名の遺体の大半は損傷が烈しくほとんどが身体の一部のみの発見であったが、われわれののぞき見た谷底からは150人の遺体がまとまって収容されており、生還した４人の乗客乗員（全員女性）も全員がこの場所から発見救出されている。この事実が意味するものは衝撃的であろう。救助発見が12時間後でなくて、もっと早ければ、つまり墜落直後であったらば、もっと多くの人びとが助かっていた可能性が容易に推測できるからである。話を元へもどす。1985年８月13日午後の御巣鷹の現場…怒号と奇妙に静まりかえった青い空と、焼けつくような夏の日射しのなかでは、いっさいが自動機械のように無機的に転回していた。われわれは立ち上がると阿呆な話であるけれど、なにをどうすべきかしばしわからずにそのまま呆然と立ちつくした。いったいこの現場でなにを取材するのか、とそのときわたしはおもった。まことにメデタイ頭であった。まさに三流記者だ。救難に立ち働くひとびとの邪魔になるだけで、軽装に首から手ぬぐいをたらしてうろうろと歩き回る。あちこちにおなじような人たちがいる。地元消防団も自衛隊員さえもがわれわれとおなじく呆然と焼け野原のまだぷすぷすと煙を上げる地面の上を往来する。20年後のいまふり返ってみても、いったいどのくらいの時間その「事故現場」にいたかさえはっきりしない。生存者の数さえも現場ではまったくわからなかったのだ（現場にいた多くの人たちがそうだった）。そうして、ただ道無き道をよじ登ってくる途中で見た、山腹に突き刺さる水平尾翼の光景と放射能汚染というおもいがけない言葉だけが頭のなかに焼きついたのであった。さらに新たな疑問も生じた。墜落地点がなぜ10時間近くも不明だったのか、東京管制は墜落機の迷走をなぜ完全追尾していなかったのか等々。いったい本当はナニが起きたんだ…？ ┌|∵|┘ つづく

2005.08.18

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（05）

いまあらためて上野村周辺の地図をみてみる。村役場のある国道299号線からさらに10キロほど入ったところ、ほぼ長野との県境に聳えるのが御巣鷹の峰だ。標高は1639メートル。隣は長野県南相木村になる。最初に届いた墜落地点はたしかこの南相木村ということになっていた。そちらへ向かって車を走らせたものもかなりいた。もとより山に県境などあるわけなどはなく、行政区分は人間の勝手が線引きしたものにすぎない。しかし道路標識もこうしてみる地図も人間の勝手を重視し優先して作成されているので、長野県なら中央道を往くかなどと浅薄な味噌は勝手の上に勝手を重ねてつい判断してしまう。のちになってこの墜落地点が航空管制のうえで東京コントロールあるいは横田コントロールという米軍が実質統括する空域であることにわたしなどもおそまきながら気づいてがく然と慄然としてしまうわけで、そこからミステリーが幾つも生まれることになるのでもあった。しかし、1985年８月13日午後××時救難ヘリ自衛隊のCH-47Jだか双発大型ヘリの舞う山頂ではわたしの優秀すぎる味噌も鈍っていた。だからほぼ同じくらいな年格好の自衛隊の下士官が指差す谷のほうをのぞき見たときには、そばでぱたぱた鳴り土煙をあげるヘリの大音響に耳塞ぎながら、はやくも山降りてどうするかレストランなんて無いだろうと晩飯のことをかんがえていた始末だ。覗いた谷のV字に切れ込んだところに18時間前まではJAL123便だった鉄屑の膨大な山が見えた。それはまったくもって鉄屑の巨大な塊であった。そこまでの距離がどれくらいだったか50メートルくらいはあったかいやもっとだったか。散乱する破片と引き裂かれた大地が赤茶けた素肌を夏の日に晒している。川上慶子ちゃんたちはあの残骸のなかから発見され救出されたのだった。いまだに信じられない。だが事実である。その映像はこの春のJR福知山線の脱線転覆事故現場の凄惨な光景（2005.04.25当ブログ「見ることからはじめる」参照）とぴったり重なる。速度と衝撃、この宇宙の法則の壁に激突することの無慈悲…。ナニモノでもなくなってしまった衝撃。あらゆる喩えが総動員されても、説明のつかない光景がそこにあった ┌|∵|┘ つづく

2005.08.17

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銀河南北

　苦瓜の紅肉すくふひととなり昨夜の半月は雲に見え隠れながら、なぜだか妙におとなしかった。烈しい雷雨が上がって水平移動する月のゆくえを時に眺めつつ曙を迎えた。いささか遅きになるけれども、月刊現代九月号の魚住昭レポート「証言記録を入手NHK番組改変問題　政治介入の決定的証拠」を読んだ。ほぼ予測したことではあったけれど、政治家の嘘と公共放送なるNHKという組織のまさしく闇の一端があらためて満天下にあきらかになった。ありていにいえば、これは朝日記者が録取したテープがソックリあきらかになったということでもある。電磁的記録は司法裁判の場に証拠として提出できるから（文字に書き起こした状態とセットで）、あれほどはげしく記者と新聞社を罵っていた当該政治家が、雑誌発売と同時にとたんに口をつぐんでしまったワケも滑稽ながらよくわかる。政治家たちのこれまでのとぼけた発言が、真っ赤な嘘であったことが示されたわけだ。同時に、朝日新聞が、隠し採りしたテープ（推定）の存在を秘匿せんがために、いまひとつNHKや政治家の反論に有効に向かえなかった事情をも問わず語りに明かしたことになる。とりわけて権力者を相手にする取材活動において、録音テープの存在は記者の社会的立場や取材内容の正当性を担保するものだ。朝日新聞社はそうしたことを承知しつつ、表向き否定してきた。自らのクビを、そのとりつくろいと厚化粧の気取りで絞めているわけだ。そのことを承知する政治家たちは、まさかテープに採っていましたと暴露はしないだろうとタカをくくっていたわけであろう。…とまれ、ソフトな語り口の御曹司顔の安倍晋三や中川昭一代議士がほんとうはどのような台詞で電波メディアを脅しつけていたか、魚住レポートは、こうした政治権力者たちの素顔のホンの一端をもわれわれに開示してくれている。▲午前11時46分ごろ東北から関東甲信越まで列島の広い範囲で、大きく揺れた。M6.8、宮城県と福島県あたりは震度5強を記録（一部地域震度６弱）。地盤の弱いところでの被害が心配される。震源は宮城県牡鹿半島沖、深さ20キロ。めったに揺れの無いわたしのところでも、ぐらり横揺れが20秒ほどつづいた。昨秋の新潟中越地震をおもいだした。これは「宮城・牡鹿半島沖地震」ということになるのか…知人がこの春にここの支局へ転勤したばかりだ。それまでは新潟の支局にいた、そのまえは××…そして阪神震災の時はたしか阪神支局にもいた、うーむ、もしかして奴は「地震男」か？（ updated 2005.08.16 12:36:06）このところ震源の浅い地震がつづくのが、却って気にかかる。揺れているあいだ蝉の鳴き声がピタッと止まった（笑）。　蝉しぐれ止みたる大地揺れ給ふ　蝉しぐれ病みたる大地揺れ給ふあたらしい発表では今日昼の揺れは、マグニチュード7.2、震源の深さ42キロに修正されていた。相当に大きい地震だったわけだ。ところで、ことし生誕250年の江戸期の役者で台本作家・鶴屋南北の代表作は、あの「東海道四谷怪談」である。ことしの夏から秋にかけてはホリエモンも立つという国内の9.11総選挙はじめさまざまな怪談が世界のあちこちで起こりそうな予感がしてならない、21世紀はひょっとして「怪談の世紀」なのか（笑） ┌|∵|┘

2005.08.16

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（04）

しらじらしく2005年８月16日の夜が明けた。あるところから依頼のエッセイはまだ取りかかっていない。そういう精神状態ではないというと、申し訳ないが、肉體が夏バテ客バテである。おまけに野良猫どもがじつに八月蠅い、いや五月蠅い。それでしかもこんなやっかいな仕事を始めてしまったから、0-0のままに延長16回裏二死でセーフティバントされて満塁になってしまったピッチャーの気分だ。本日午後からはまたもや半端モンな来客だ、いや来て頂けるうちがハナだろうけど。ハナといえば、1985年８月13日昼前くらいの御巣鷹の山中で花の記憶はなかった。ちょろちょろとながれる岩清水に沿ってわれわれは黙々と登った。上空には何機ものヘリがばたばたと旋回する。それが耳鳴りの音にまぢる。山頂に近づくにつれて強烈な焦げた匂いが漂ってきた。ある地点に来ると、ぽっかりと視界が開けて正午の太陽の下、青い空のなか壮絶な光景が眼前した。爆撃の跡という表現がぴったりだろうか、あいにくと戦場取材の経験はないのでわからない。木々も地べたも黒く焼け焦げて至るところでぷすぷすと煙が上がる。上空から大量の備長炭を撒いたような、その上にさらに熱いコールタールをぶちまけてしまったような、そんな風景だ。燃え残って根までが炭化してしまったような樹木にはボロ切れのようにナニか黒いものが青い空をバックにぶら下がる。それが犠牲者たちの荷物だったり着衣だったり身体の一部だったりしたわけだが、そのときは分からなかった。墜落から17時間以上経っていた。黒い山頂の一角を整地して大量の丸太でもって自衛隊員たちが臨時のヘリポートをすでに造っていた。遠景から見ると黒い蟻の集合のようにぞろぞろと大勢のひとびとがいったいに展開し、あちこちで叫び声がとどろく。まったく戦場というものがこの通りなのだろうとおもった。機体の破片もあちこちに散乱していたようだったが、わたしたちにはわからなかった。そもそもジャンボのあの巨大な胴体はいったいどこにきえたのか。先に入ったテレビクルーの連中あたりから、何名か生存者がいたという話がそのころにはわれわれにも伝わってきていて、しかし現場のまっただ中でその話はにわかには信じがたかった。どの事故現場でもつねに記者はやっかいでうるさい余計な存在である。救助に携わる人びとからは胡散臭い目で見られ、そこに遺族や当該事故の関係者がいれば、蛇やトカゲの如く忌み嫌われる存在だ。これは至極当然であるとおもう。その本質において、取材者は冷酷な観察人、傍観者、らち外のよそ者なのであろうから。それに反論をするつもりはまったくもってないが、しかしながらそうした無関係人の立場だからこそ見えてくるものというものがあることもまた事実である。しかしながら、それは、たとえばサッカーの試合の審判員といった立場でもないのである。われらのこの生きる世界の、日々生成するさまざまな事象（事件・事件・出来事）のなかに真の審判員などは存在しない。いや存在するがそれは具体物ではないであろう。どのような良識もそれらの事象を真に裁きうる資格を持ち得ない。それらに審判を下すのは、たとえば歴史という時間の流れのなかにおいてならば、まさしく時間そのものであろう。これは、1985年夏のあの現場に立った少なくないがけして多くもないさまざまな人間たちが20年という時の流れのなかで噛みしめることになったであろう事柄のなかのもっとも大切な部分であるとかんがえる。大地は熱かった、日は中天に輝き連山の緑は燃え上がるようにかがやき、しかし決定的にその空間は人智を超えるなにかによって激震していたとおもう。機体の主要部分がどこにあるかが分かったのは自衛隊員のひとりが案内してくれたおかげであった。焼け野原の山頂の一角からのぞき込むようにしてわたしたちはそれを目撃した。それは山頂から急角度に落ち込む谷のようなところにあった ┌|∵|┘ つづく

2005.08.16

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ナマムギナマゴメナマタマゴ

ナマムギナマゴメナマタマゴ…秋空のようにさわやかに晴れあがった終戦記念日の午前六時の空を眺めていたら、ふっとこんな早口言葉が浮かんだ。つづいてトウキョウトッキョキョカキョクだ。さらにトナリノキャクハヨクカキクウキャクダと前頭葉のすこし上あたりにテロップのようにカナ文字がながれ、呆れているといきなりワラウカドニハフクキタルと来た。やはり半世紀を超すと味噌もいろいろあちこちとぶっ壊れてくるらしい。もともとは一句浮かぶかと寝床からむくっと起きたわけだが。戦後六十年とけさ来た新聞もさっそく書いている。書いている主体はいったい幾つになるのかそのことはしかしいっこうに見えてこない。それぞれにとっては当たり前のことであるが、「戦後」のあとにつづく数字は実際に生きた歳月になるはずで、1980年生まれならば、「戦後」は25年ということになるのではないのか。西暦2000年のオギャー人口がどれくらいかわからないが、仮に300万人なら「戦後５年人口」は300万というわけだ。1945年８月15日正午ちょうどに誕生した人びとは果たしてどれくらいいるのか。そういう統計数字は厚生労働省にあるのか。…とにかく公私ともに「戦後六十年」と威張れる人たちがただいま現在のこのニッポンにいったいどれくらいいるのであろう、などと二本目のタバコをふかしながらもういちど青い空を見る。朕深ク　世界ノ大勢ト　帝國ノ現状トニ鑑ミ　非常ノ措置ヲ以テ　時局ヲ収拾セムト欲シ　茲ニ　忠良ナル爾臣民ニ告ク／朕ハ　帝國政府ヲシテ　米英支蘇　四國ニ對シ　其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨　通告セシメタリ／抑々　帝國臣民ノ康寧ヲ圖リ　萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ　皇祖皇宗ノ遣範ニシテ　朕ノ拳々措カサル所　曩ニ米英二國ニ宣戦セル所以モ亦　實ニ帝國ノ自存ト　東亜ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ　他國ノ主權ヲ排シ　領土ヲ侵カス如キハ　固ヨリ朕カ志ニアラス／然ルニ　交戰巳ニ四歳ヲ閲シ　朕カ陸海将兵ノ勇戰　朕カ百僚有司ノ勵精　朕カ一億衆庶ノ奉公　各々最善ヲ盡セルニ拘ラス　戰局必スシモ好轉セス　世界ノ大勢亦我ニ利アラス／加之　敵ハ新ニ残虐ナル爆彈ヲ使用シテ　頻ニ無辜ヲ殺傷シ　惨害ノ及フ所　眞ニ測ルヘカラサルニ至ル／而モ　尚　交戰ヲ繼續セムカ　終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス　延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ／斯ノ如クムハ　朕何ヲ以テカ　億兆ノ赤子ヲ保シ　皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ／是レ　朕カ帝國政府ヲシテ　共同宣言ニ應セシムルニ至レル所以ナリ／朕ハ　帝國ト共ニ　終始東亜ノ開放ニ協力セル諸盟邦ニ對シ　遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス／帝國臣民ニシテ　戰陣ニ死シ　職域ニ殉シ　非命ニ斃レタル者　及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ　五内為ニ裂ク／且　戰傷ヲ負ヒ　災禍ヲ蒙リ　家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ　朕ノ深ク軫念スル所ナリ／惟フニ　今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ　固ヨリ尋常ニアラス／爾臣民ノ衷情モ　朕善ク之ヲ知ル／然レトモ朕ハ　時運ノ趨ク所　堪ヘ難キヲ堪ヘ　忍ヒ難キヲ忍ヒ　以テ萬世ノ為ニ　大平ヲ開カムト欲ス／朕ハ茲ニ　國體ヲ護持シ　得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ　常ニ爾臣民ト共ニ在リ／若シ夫レ　情ノ激スル所　濫ニ事端ヲ滋クシ　或ハ同胞排儕　互ニ時局ヲ亂リ　為ニ　大道ヲ誤リ　信義ヲ世界ニ失フカ如キハ　朕最モ之ヲ戒ム／宣シク　擧國一家子孫相傳ヘ　確ク神州ノ不滅ヲ信シ　任重クシテ道遠キヲ念ヒ　總力ヲ将来ノ建設ニ傾ケ　道義ヲ篤クシ　志操ヲ鞏クシ　誓テ國體ノ精華ヲ発揚シ　世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ／爾臣民　其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ（1945.08.15玉音放送全文）その日、列島の正午の空にながれたラヂオからはじめて聴く天皇の肉声に、ひとびとはどのような感慨を抱いたのか。ほとんどなにを言っているかわからなかったが、どうやら戦争には負けたらしいと受け止めてこれでいよいよ一億玉砕かとおもった、青い空が目に沁みるようだった、などと回顧する人はすくなくない。わたしをつくったらしい父親はレイテ沖海戦（捷一号作戦）で乗っていた船が沈められ内地にもどって海軍の学校で教官をしながらこの日を迎えた。しかし終戦の詔勅を聴いたその瞬間にどんな感慨を抱いたかはいっさい語らなかった、こちらも無理に訊かないままだった。訊いてもたぶん答えなかっただろう。ことばにならない体験というものはあるもので、これは彼にとってそうしたひとつであったろうと、かんがえたからだ。それでもなお、そのことばを聞いておくべきだった、となぜだか最近はしきりに後悔しはじめている。わたしが生まれてまもないころに海上自衛隊の前身（海上警備隊）創設にあたり、旧海軍筋から技術将校として参加を請われたが固持していたことを知ったのは亡くなってしばらくしてからであった。　縁側に西瓜のまるや終戦日　終戦日蜘蛛の巣ばかり揺れている　御巣鷹の尾根戦場の如しなり　かの家の防空壕の土埃生家の裏庭には戦後暫くのあいだ大きな防空壕が遺されたままあった。戦中そして食糧難の戦後もそこには砂糖や味噌醤油などいわゆる隠匿物資が山と積まれていた ┌|∵|┘

2005.08.15

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三流記者が見たJAL123便墜落事件の不可解（03）

ゴーヤチャンプルを作って食べた。ニガウリ料理。ゴーヤをかまぼこ状に細かく切り人参椎茸豚肉とともに炒めてさいごに木綿ごしの豆腐をちぎり投げ込む。免疫系を癒す効果がある。おかげで集中的に睡眠がとれた。さて、話を続ける。1985年８月13日正午前にはわれわれは山を登りはじめていた。いや、すでに山頂ちかくまできていたはずである。なぜなら川上慶子ちゃんら四人が救出された直後には山頂にいたからだ。しかしそうするとわたしたちがクルマで都内を出発したのは13日の夜明け前だったのかも知れない。じつはここのところは記憶が曖昧だ。当時の取材ノートが出てくれば正確な時系列が再現できるのだが。すでに、藤岡から上野村へ入ったあたりできびしい交通規制がしかれていて一般車両は現場付近にはちかづけない状態になっていた。報道の腕章をみせて検問を通過したあたりから道は舗装が切れひどい悪路になっていた。クルマの底を擦りながら強引に走る。低いカローラの天井に頭をぶつけながら山道をかなり走った。1985年当時の上野村は人口が1900人ほど。手元の資料によれば、昭和35年当時4299人いた人口が日航機事件当時は1968人にまで過疎化が進んでいたようだ。1985年８月13日からの数日間、あの御巣鷹の墜落現場に立ち会っていた人間はどれくらいいたろうか。救助の自衛隊員たち、地元上野村の消防団の人びと、警察関係者、日航の関係者それにテレビクルー、通信社と新聞記者わたしたちのような雑誌記者など…たしかに多くの人びとが爆撃のあとのような凄惨な現場を生に見ている、だがその数はぜんぶ合わせても2000名には満たないのではないか。阪神が優勝した年だった。夏の甲子園ではちょうど桑田・清原のKKコンビが春夏連覇、いや春の選抜では惜敗していたか…とにかくPLは二回戦で東海大山形を29-7の大差でやぶり準々で高知を下し決勝では宇部商だったか？を破って優勝しているはずで、13日はちょうどその二回戦あたりのところだったろう。もっともわたし個人は強すぎるPLを応援する気にはならなかったが。ともあれ、われわれは険しい山岳を登っていた。登山をすることになるなどとは思いもしなかったからそのような装備もしていない、わたしはトレッキングシューズにジーンズ、カメラマン役の編集者もほぼおなじような服装だった。いや同時に山頂を目指す各社の記者たちも似たような有様だった。大型の無線トーキーを肩からぶら下げる程度は大した負担でもなく、気の毒なのは10数キロはあるようなテレビカメラを担いで登坂しているテレビ局の報道カメラマンたちだった。中腹あたりまで登ったところでおかしな話がながれてきた、山腹にJAL123便の水平尾翼だけが突き刺さるように残っている光景を目にした前後だとおもう。消防団のハッピをまとった男が上から降りてきながら、「放射能汚染があるので谷の水は飲まねえよーになあ」と触れ回っているのだ。そんなことを云われてもわたしも相棒も途中の渓流でああ美味いなあ！とたっぷり飲んでしまったあとである。前後をゆく他社の連中だっておなじだった。暑い日だった。樹木のあいだからのぞく青空は紺碧だった。咽はからからになる、流れ出るというより噴き出る汗は着衣を濡らした。それにほぼ一睡もしていないままだ。クライマーズ・ハイではないが、それにちかい脳内分泌ジョータイだっただろう。いささか劇画風にふり返るならば、あのときわれわれは、かのXファイルの描き出すところのアウターリミッツな現場（ゾーン）に足を踏み入れていたのだった ┌|∵|┘ つづく

2005.08.14

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蜂の巣と民営化

ネット注文した本が届きましたよ、と地元郵便局から電話があった。午前××時ころに伺いますが。…いつも助かっている。配達時間まで伝えてくれるのだ。切手や葉書は峠の茶屋じゃないが酒屋で販売している。そこの赤い小さなポストは一日正午の一回きり集配はないがそれでじゅうぶんである。民間の宅配便業者も便利だが、郵便局ネットワークの簡易さも捨てがたい。山間は高齢世帯が多い。90歳ちかい夫婦が標高800メートルの一軒家に住む。郵便局ネットワークがなければわしら生きていけないなあとはなす。郵政民営化だけではなくすべての「民営化」なるものが胡散臭い。「官から民へ」などという。しかし、官からうばった組織体を受けとり上に立ち動かす連中は、官から天下った元官僚たちではないか、これはさきごろ大事故起こしたJR西日本みてもあきらかだろう。すなわち「官から民へ」は、「官から元官へ」がその実体で、「民」などはじめからどこにも存在していないのである。小泉純一郎ライオン席巻首相が背中の刺青にかけてもやるみたいな啖呵切って、この9.11総選挙を郵政民営化の民意を問う選挙戦と、いいきった。その迫力は信じるものは強いというアサハラショーコーな御タッキーだから、なるほど人生半端物で小利口モノ揃いの民主も共産も社民もうろたえている。おおもとの、小泉＝中曽根そしてじつをいうなら戦後歴代総理が、米国の共和・民主政権下のアヤツリ人形であったことを喝破し得ないままに、そのまた民営化なるものがじつは言葉をこね回した造花にすぎず、その実体が「私物化」プロジェクトであることさえも見抜けない。もと信州大全学連がルポライターになりいつのまにかコクドとこの國の利権構造を叩いて自ら物書き世界の利権構造の中でご出世あそばされあげくは時の小泉大統領閣下のもと規制緩和のシンボルの如くそのちんけな肢体で西麻布の城を出入りしている。その道路公団のなにやら糞味噌な改革にしても、福沢翁も冥土の草葉で泡吹くんじゃないかくらいデキ損なった坊ちゃん顔の経済学者大臣等とちょうどおそろいで、永田町界隈わが世の春なデキゴコロを闊歩している。その郵便局の若者が、帽子姿でコンニちゃチャー！とやってきた。ドアは開け放してあるが、すぐに出た、ふと上を見る。相手もあれれ？！といっしょに空を見る。空といっても山である。空じゃないんだよ、ほらそこそこですってばあー！とわたし。ほぼ全裸に近いのがたるんだ腹と笑った臍みせてカメのようにクビ伸ばして軒下を見る、指をさす。わああお！！！吃驚したらしい。そうだろうな、みごとなスズメバチの巣がまさにいま造営中である。こまったよ、これ刺されたら確実に死ぬでしょ？とわたし。まだ20代半ばにもたっしない彼はあーすごういですねえ。。。と言ったきりだ。わたしもね、どーしたもんかと悩んでいるのだ。とりあえず玄関の出入りの時はなるべく刺激しないようにそろーっと通過する。外出もイノチガケである。すごいです。。。まだ見上げている。口が開いている。いいよもう、そんなに感心しなくたって。しかし郵政法案廃案になって良かったねというと、またニコニコした。しかしさ、油断はならない、たとえばこのハチの巣だ。うっかり燃せば復讐が怖い。完全防備の服でやらなきゃね。廃案になったからって安心は出来ない。ニタリとわらったら、頭下げて慌てて帰ってしまった。テロリストと間違われたかも知れない。　豚二頭豚舎でつがう敗戦日考えなくてはいけない、きびしく問い直さなくてはいけない。いまの「民営化」がもたらす社会は、ほんとうに民のための豊かさをもたらすものであるのか、と。かつておなじように施政者たちにより声高に唱えられ推進された農業構造改善事業は、農業の機械化（工業化＝反あたり収量至上主義）を進め、化学肥料と農薬漬けそして石油に浮かぶ奇怪な近代農業を生み落とした。そのいっぽうで日本国中にコンクリートの高速道路網をつくったが、里山も農村もさびれた、食糧自給率40％という、かつての農業国家の、痩せた道ばたを歩けば、その轍には、見よ！都会人の傲慢や贅沢の毒々しい花だけが咲き狂っている。スズメバチが、クマがなぜ脅威になってしまったのか、世界中にテロリストを造り上げてしまうこの奇妙な文明の本質をこそ検証しなくてはならない、とおもう ┌|∵|┘

2005.08.13

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