おいでやす。郡山ハルジ ウェブサイト。

[本・音楽・映画等] カテゴリの記事

全124件 (124件中 1-50件目)

1 2 3 >

• 君は何のために生きるか

  映画のタイトルは、この映画の主人公が母親から渡された本の題名であって、この映画が視聴者に何のために生きているのかを問うているわけではない。ちなみに英語のタイトルは Boy and Blue Heron である。そう、このアニメ映画はまあ、少年と青鷺という2人？のキャラクターを中心とした物語なので、その題名に間違いはない。なお宮崎駿氏は少年時代に実際に同題の本を母親からもらっているらしい。そう言えばこの映画の時代背景を考えても、この映画には自叙伝的要素があるのかもしれない。自分だったらそんなタイトルの本を母親からもらいたくないものだが(笑)、当時は戦後の記憶が生々しく残る時代、生きるだの死ぬだの言うのが日常的に身近にあった時代だし、何のために生きるとか結構真面目に考えざるを得ない日々だったのかも知れない。まあ、この物語の深層には大叔父だか大伯父の存在があるのだが、黄泉の世界だかあっち側の世界からこの世をコントロールしているらしき老人は生きているのか死んでいるのか、そもそもそんな次元を超越した存在なのか、目が死んでいて声も全てを達観した重い声。この声優はタダモノではあるまいと思って調べてみたら案の定、火野正平だったよ(笑)。そういえば西川峰子、元気なのかね？それにしてもあの黄泉の世界はなかなか分かりやすかった。宮崎駿は実際に見てきたんじゃないかね、高熱を出してうなされていていた時とかに。死ぬ時のリハーサルとして、平均寿命を過ぎた宮崎駿はあれを画像化しておく必要があったんじゃないのかね。半分ギャグになっている点がそれっぽいと思ったよ。彼の脳内はホントに宇宙と森羅万象の法則とギャグがごっちゃになってんじゃないの？彼は死ぬ時はああいう世界に行くのかもね。飽きないよねきっと。ちょっと英語で見直してみたいと思った。あの和洋折衷の館なんて、まさに宮崎駿の脳内だよね。

  2023.10.30

  コメント(0)

• RRR

  同僚がアメリカ出張帰りのフライトの中で観たRRRがスゴく良かったと言うので、映画館に行くことなど年に1回くらいしかないのだが、ネットで調べたら最寄りの映画館では3月いっぱいで上映打ち切りだと知り平日にもかかわらず仕事が終わってから観に行ってきた。何せインド映画だ。しかも3時間モノで、インドで上映された時は途中でインターミッション（途中休憩）が入ったらしい（笑）。敢えてカネを出して観に行くにはちょっとした勢いが要るものだ。これは観て得したと思った。3時間の長さを感じないくらい夢中になって観てしまい、終わるのが惜しいと感じたくらいだ。前半でいったん主人公の片割れ(Bheem)の物語は終わるのだが、後半のもう片割れのRajuの話で前半の物語へのドンデン返しが待っている。1度で2つの映画を見せられ、しかも単に倍でなく話が二重に厚みを増すといった感じ。私は30余年前に現地の映画館で観たインド映画の印象が強烈に残っており、そのせいでインド映画にちょっとした偏見があったのだが、この30余年でインド映画もハリウッド級とは言わないまでもいわゆる洋画に遜色のないレベルに発達し、カメラワークもCGもスペシャルイフェクトも脚本も音楽も期待を上回る出来栄えなのであった。面白いと思ったのは、インド人をBuggersなどと呼び動物というか虫ケラ並に扱うイギリス人支配者たちに対し、自分もアジア人としての義憤を感じ始めたのか、すっかりインド人側の視点で物語を見始めている自分に気づいた時である。主人公たちが何度もピンチに陥り支配者に囚われの身になりそうなシーンで、ハラハラしながら祈るような気持ちで主人公たちを応援してしまっているのである。そして、終盤で主人公たちが追い詰められたところから大逆転したった2人でイギリス人特殊部隊を殲滅した末、最後には武器庫を爆破し悪役の提督とそのワイフまで仕留め、昔ながらの勧善懲悪ストーリーでスッキリして映画を見終えることができるのである。まー細かいことを言い出せばご都合主義だのあまりにも出来過ぎたグーゼンだの「あれはあり得ないだろ！」というシーン満載なのだが(笑)、それでもつい話に引き込まれてしまうのだ。それくらいパワフルなストーリーなのだ。あれはハリウッド映画では無理で、インド映画だからこそ観る者を納得させられるのだ。また、映画館で大画面・大音量で観れたのもホントよかった。迫力のあるシーンをホントに堪能できた。ということでこの映画はボク的には100点満点の映画でした。

  2023.04.03

  コメント(0)

• Everything, Everywhere, All at Once

  「不思議の国のアリス」は10代の少女の精神分裂病の妄想をそのまま物語にしたものでAWS (Alice in Wonderland Syndrome、不思議の国のアリス症候群)という用語もあるらしい。Everything Everywhere All at Once は、いわば不思議の国のアリスの中年女性版といった感じ。主人公Evelynのマルチバース体験の映画だという設定だが、現実逃避したくなったEvelynの妄想の追体験として観ることも出来ると思う。Everything, Everywhere, All at Once というのは、経験者なら分かると思うが、LSDトリップでトンでいる時の状態である。過去も未来もここもあそこも宇宙の果ても一気に経験してしまうあの状態である。ドラッグも経験したこともなさそうな東洋系のアメリカ人女性がそれを経験したら…というコメディドラマなのだろうという先入観で見に行った。そのうち、ゲイの長女との葛藤やMatrixのパロディみたいなシーンが出てきて、あーこれはSF仕立てで描いたアジア系アメリカ人家族のコメディドラマかと思って観ていたが、やがて長女のJoyが並行世界では母親に追い詰められた末、あらゆる世界の全ての出来事をいっぺんに経験して「Everything Bagel」を作り出したマルチバースの魔王というか破壊者だった、という急な話の展開から、「ああ、これは母娘の物語の寓話か！」と気付き、案の定話はSFコメディからニューエイジ思想というか実存主義というかニヒリズムというか哲学的な方向に展開していくのであった。（あのグランドキャニオンのような砂漠地帯で2つの石が並ぶシーンのインパクトは強烈）特に、「Part 2 Everywhere」でEvelynが「◯年前のあの時、あっちを選択していたら…」という並行世界でのさまざまな自分ー女優として成功した自分、歌手としてステージに立つ自分、ピザ屋の看板持ちになった自分、ソーセージ指を持つ人類世界で税務署の監査員とレズビアン関係にある自分、鉄板焼シェフになった自分ーのビジョンを垣間見ながら、時折現実世界に還ってきて税務署の監査員による追及だの領収書の山に囲まれるシーンは、「…ああ、並行世界のビジョンは惨めな現実の自分からの現実逃避だったのか！」という疑いを次第に深めさせた。そのことが確信になったのは、ついにEvelynが並行世界のJoyによってEverything Bagel のブラックホールの穴に吸い込まれようという時に、現実世界ではEvelynは夫から離婚届を手渡され、税務署の監査員が呼んだ警察官に取り囲まれコインランドリーの資産の差押状を手渡され、こんなコインランドリーもともと好きで経営してるわけじゃなかったんだといいバットでガラスを割りまくり…というニヒリズムに陥ってついの自暴自棄になった時だった。その時にいい役を演じるのが、いかにも東洋系のうだつの上がらない弱々しい男を絵に描いたような夫のWaymondである。彼は、妻がバットで破壊しまくったガラスをホウキで掃除しながら、儲かりもしないコインランドリーを経営しながらも、人に優しく慈しみ合って生きることが世界の意味だと言うのである。それを聞いて改心したEvelynはマルチバースの敵を次々に愛で撃ちまかし、everything bagelに今にも引き込まれようとするブラックホールから娘を引っ張り出す。それでも最後まで母の手を振り切って去ろうとするJoyをEvelynはとうとう行かせるが、最後に一言だけ、と言って、所詮世の中なんてどうでもいい、「Nothing matters」であったとしても、他愛もないことで笑い合ったりする瞬間に生きてる意味があるんじゃないのか、といった意味のことを娘に投げ掛け、最後の最後で踵を返させるのであった。この、おふざけみたいなSFめかしたドタバタコメディみたいな映画の設定は監督の「照れ隠し」であって、やり直しの利かない年齢に到達し「現実」に圧倒され逃避したくなる中年へのZ世代からのメッセージのようなところもあるのかも知れない。

  2023.04.02

  コメント(0)

• Gerhard Richter

  地下鉄車内のドア横の、「累計○万部達成！」とか「強運・金運」といった釣りに掛かりやすい人をターゲットにした広告がしばしば貼られているにエリアにカタカナで「ゲルハルト・リヒター展」と書かれた広告を見た私は一瞬我が目を疑ったが紛れもなくあのドイツを代表する現代画家Gerhard Richter の展覧会の広告であった。私自身は最後に絵を描いてから25年、さらにはアメリカの学生時代に描いた作品をすべて実家の父に燃やされてから15年が経ち、展覧会に脚を運ぶこともなくなって久しいが、Gerhard Richter となれば話は別である。私は即座にネットで調べ、国立近代美術館で個展が開かれていると知り、何も予定を入れていなかったお盆休みの某日、地下鉄で竹橋に向かった。どうしてGerhard Richter となると話が別かというと、アメリカで絵画を学んでいた30年前、同氏の作品に大きな影響を受けたからである。アメリカに住んでいた時にも同氏の作品を見たことが何度かあるし、たしか20年くらい前に日本に住んでいた時期にも東京のどっかに同氏の展覧会を見に行ってその翌日、案の定朝に目が覚めず、会社に大遅刻した記憶がある。話は逸れるが、私はその以前にも展覧会に行った翌朝(その時はたしかNew Yorkに住んでいてCy Twomblyの展覧会であった)に目が覚めず、会社に大遅刻したことがあり、今回は慎重を期して翌朝に予定を入れていないお盆休みを選んだ次第である。あの、抽象と具象の狭間を行く独自の世界は画集で見ても十分面白いが、筆使いとか絵具の盛り上がりとか作品のスケールから来る切迫感は作品にリアルで対面しないと味わい難い。彼は近年、squeegee とよばれるヘラを多用しているらしく、ペインティングナイフと同様に厚塗りされた絵具をヘラでベロリと引き伸ばして偶然に得られる効果を巧みに利用している。その効果というのは、荒々しさとか生々しさとか、場合によっては痛々しさとか、異次元感とか、画家が筆でちまちまと描いても表現不能な効果である。彼の作品にはイメージとは何か、像とは何かを問いかけるドイツのゲシュタルト心理学みたいなドイツ現代思想みたいな趣があるが、今回の個展の最初の部屋は同じドイツでもアウシュビッツがテーマになっていた。部屋の正面の壁を覆い尽くすのは高さ2.5m幅10mくらいの灰色のガラス(暗い鏡)。その両サイドの壁には、squeegeeで描かれた高さ2.5m幅1.5mくらいの絵画が横並びに4枚、その反対側にはその4つの絵を写真に撮って同じサイズで印刷したプリント作品が模造のように向かい合わせに陳列されている。これらの絵はどれも凄惨な赤と絶望的な黒を基調にした抽象画なのだが、それらの厚塗りの絵具の合間から人間の肉体を想起させる肌色や、森の中を思わせる緑色がチラホラと垣間見られる。squeegeeで上塗りを重ねられた黒と赤の絵具はとにかく陰惨で、そのような馬鹿でかいパネルに囲まれていると辛くなって部屋に真ん中に座り込みたくなる。部屋の入り口横の壁には小さなモノクロームの写真が4枚掲示されている。アウシュビッツで隠し撮りされたユダヤ人の死体処理を遠景で撮影したピンボケ写真。この4枚の写真がこれら4つのパネルのモチーフであったことに気づき、直前に見た4つの絵画の陰惨さが一層重みを増す。展覧会の前半はここ10〜20年に描かれたsqueegeeを多用した大きめの抽象絵画。真ん中の部屋は彼の60年にわたる作家生活の代表作の展示室。例のグレイペインティング(灰色の絵具を刷毛でテクスチャをつけて規則的に厚塗りした作品)や、モーターボート・ライドに興ずる4人の男女のモノクロ写真をピンボケでキャンバスに再現した作品(実際は、スライドをピンボケで投影したのを見ながら描いたらしい)、色さまざまな細いストライプを端から端まで10mくらいに渡って伸ばしただけの作品など、画集かどこかの美術館で見た作品。後半はRichterが写真を元に描いたポートレート作品。驚いたことに、その中には何とRichterが65歳くらいの時に出来た自分の息子の乳児写真のポートレートも含まれる。驚いたというのはもちろん彼が65歳で子供を作っていた事実。母親はどう考えても自分の娘であってもおかしくない年齢であろう。Richterは要するに65歳で子供が作れるくらいの健康体なのである。展覧会の終盤はハガキサイズの写真にペイントを塗り重ねた習作みたいな作品集と、「アラジン」と名付けられた、ガラスにラッカーペイントか何かを載せて別のガラス板か何かで圧迫してガラスの向こう側から見せた作品シリーズと、コロナで屋内にこもっていた時期に描かれたとおぼしき抽象ドローイング集。写真にペイントを塗り重ねた習作みたいな小品は、彼の抽象画が風景画などの具象画に見える理由のヒントになる。実はRichterはキャンバスに下塗り的な「具象画」を描いた上でその上にペイントを厚塗りしてSqueegeeで抽象画化するという作業を通して、具象が「透けて見える」抽象画を描いているのだろうと感じた。Richterは1930年くらいの生まれなので御歳90歳ちょっとのはずだが、ビデオを見た限りとても90代とは思えない背筋のしっかり伸びた若々しい爺さんである。私ももうすぐ還暦で赤いチャンチャンコを着る年齢だがRichterから見れば小僧もいいところで、まだ向こう30年の間に子供を作ったりアウシュビッツのような人類史上の問題を扱った意欲的な大作を作成したり、まだまだやることが山ほどある立場なのかもしれない。

  2022.08.18

  コメント(2)

• 

  日本に帰国して最初に買った本

  トレンド日米表現辞典 第4版翻通訳者の定番辞書。省庁再編前だった1999年頃に買った第三版しか持っていなかったので慌てて購入。ワンセグだの格差社会だの振り込め詐欺だの、定訳を知らない新しい言葉がいっぱいあって慌てる。プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実朝日デジタル(旧アサヒドットコム)の英語版で途中まで読んで、日本に帰ったらゼッタイ買おうと思っていた。産業や官僚のいわゆるエリートがいかに国民を愚民扱いして情報を隠蔽･操作してきたかの内幕が分かるとともに、国民の安全のために地位や収入を投げ打ってでも真実を知らしめようとするプロたちの姿をも垣間見ることが出来る。茅ヶ崎式　月間英語教本時事英語のにわか勉強のためにバックナンバーを漁って購入。北米で報道されていなかったメルトダウンだとか液状化の被災者支援だのスーちゃんや立川談志の病死だのいった日本のニュースが英語でどう報道されていたのか慌てて学習。災害時帰宅支援ハンドブック向こう４年以内に70％の確率で直下型大地震が起きると言われている東京で生活するための心の準備のために購入。高確率で身近に起こりうるカタストロフィを常に意識しながら日常生活を送っているといろんなことが些事に見えてきて、これからの日本社会への再適応に支障をきたしそうで困る(笑)。

  2012.04.08

  コメント(6)

• ハリポタ完

  今日封切りになったハリーポッターの最終章（邦訳は「死の秘宝」だっけ？）を早速観に行ってきた。ブログの過去記事を探してみたら、小説版の最終巻を読了してからもう４年じゃん。もちろんオレは40代半ばのオッサンなのでハリポタのファンというわけではない。わざわざ封切当日に観に行ったのは、小説で700数十ページもあった最終巻は映画では前編と後編に分けられているのだが、昨年観た前編の映画がけっこう面白かったのと、あと小説の終盤にあるハリポタが悪の帝王に殺られた後の幻想シーンがどんな映像で表現されているか確認したいとずっと思っていたからである。学校はすでに夏休みに入っているので映画館は子供から老人までの観客で比較的混んでいた。映画が始まってすぐに「失敗した！」とちょっとだけ後悔したのは、前編の「おさらい」をしておかなかったため、映画の導入部がピンと来なかった点だ(笑)。１週間や長くとも数ヶ月待てば続きが見れるテレビドラマと違って、１年もブランクが空くと、前編がどんな場面で終わったかを忘れてしまっているのが中年オヤジの哀しいところか。とはいえ、映画はけっこう原作である小説版に忠実であった。オレの感覚だと、悪の組織と魔法学校との戦闘シーンは原作ではもう少しバイオレントかつカタストロフィックに表現されていたと思うが、さすがに子供向けに配慮したか、あまり血みどろなシーンはなかった。でも、ちゃんと原作に忠実に、筋書き上死ぬ必然性のない登場人物でもちゃんと殺されている点には関心した(笑)。まあハリーをはじめ登場人物はみんな高校３年生になっているので、けっこう露骨な絡みのシーンが随所に出てくる。ハリーやハーマイオニーのキスシーンなんかが出てくると、恥ずかしさに耐えられなくなったティーンエージャーの観客の「キャー」と「ヒィー」の中間みたいな押し殺した嬌声があちこちから聞こえてくる(笑)。たしかに親と一緒に観に来ている子供はあれらのシーンでけっこう気まずい想いをするのではないか(笑)。面白いのは、なにせ10年前に封切られたハリポタのシリーズ第１巻では小学生だった登場人物･俳優たちが今では20歳前後に成長し、当時とはイメージがかなり変わってしまった人物がいる点だ(笑)。ハリーの宿敵であるマルフォイを演じる少年は髪の毛がかなり薄くなり、イジワルな悪ガキの迫力がずいぶん薄れた。スネイプはゲイにありがちな中年太りか顔がかなりふっくらして(笑)、ダークで陰湿なイメージがすっかりなくなってしまった。いちばんイメージが変わったのはイジメられっ子役のネヴィルで、ノロマなちびデブだったのがエライ成長し過ぎてしまい(笑)、どちらかと言えばイジメっ子役が似合いそうな堂々としたニーちゃんになっていた。ハリーはさすがに主役なので常日頃からイメージをコントロールされているのか、この年齢になってもハリポタらしさをちゃんと保っていた。最後の「19年後」のシーンでも、ほかの俳優は20歳老けさせるためのメイクさんの苦労の痕がしのばれるのだが(笑)、ハリー役だけはいかにも30代の父親らしい風貌をしていた。さすが主役を務める俳優だけある。ところでオレが期待していた、ハリーが敵の陣地に単独で赴き無抵抗な状態で悪の帝王から“殺しの呪文”を浴びて死んだ後の例の幻想シーンだが、オレが小説で読んだ時のイメージにかなり近くて満足した。映画作成側がヘンな解釈を加えずに、原作の描写をそのまま素直に視覚化した点にとても好感が持てた。小説版を読んであのシーンが理解できなかった人たちは映画版を観てもピンと来ないままであろうが(笑)、まああれは（特に子供は）解からなくて普通だと思っていいと思う。あれは作者のJKローリングスの私的なこだわりを凝縮したシーンだとオレは思っている。まあそんなわけで、原作の小説を読んだことのある人か、これまでのあらすじを映画版で観て知っている人は、ハリポタ映画最終編を観てけっこう満足できると思う。なにせ10年のスパンにわたった長い物語であっただけに、もう彼らの「その後」を小説でも映画でも見れないと思うと、ちょっと寂しい感じはあるなあ。

  2011.07.15

  コメント(2)

• 

  絶体絶命

  ドイモイさんの先日のブログを見たら、Radwimps の新譜とおぼしきCDの写真が載っていた。Radwimpsというのはオレより約30歳年下のオレの姪(高１)が聴いているような日本のバンドで、そのCDをオレの同級生であるドイモイさんが購入したというのは、オレらの世代にたとえて言えば、昭和13年生まれのオレの父親が、娘が部屋中にポスターを貼りまくっている少年隊の新譜をためしに買ってきて聴くような感じか。それにしても、Radwimpsの『絶体絶命』というまるで東日本大震災後の日本を予見したかのような新譜のアルバムタイトルにちょっとタダならぬモノを感じ、ためしにYouTubeで検索して導入曲のPVを聴いてたまげた。なんだこれ。音楽もビデオのビジュアルもめちゃめちゃカッコええゾ。 このPV製作した連中、めっちゃセンスええわ。　 この４人組はいかにも育ちの良さそうなお坊ちゃまで、ピアスもタトゥーもしていなければ髪の色も黒いし、整髪料さえ使っている気配さえない、ごく自然体でどこにでもいそうな地味な青年たちである。そんな青少年たちが、ワシらパンク世代のハートに響くような引っ掻くような痛々しいギターのリフと、ワシらの同世代であるレッドホットチリペッパーズを彷彿させるようなフリョーっぽくて破壊的なベースに、スネアを乱打しまくる渾身のドラムという組み合わせで、40過ぎの元パンク･オヤジがサビで思わず踊り出したくなるようなパワフルでカッコええ音楽を演奏してしまうのである。ワタシは学生時代にかなり本気でバンドを演っていて、日本では類例を見ない特殊で独自の音楽の世界を追求していた経緯もあり、テレビに出てるようなメジャーなバンドを基本的に馬鹿にしているところがある。とくに日本語の歌詞を載せたポップとかロックは違和感が強くこっ恥ずかしくて聴けないと感じることが多い。しかしこの導入曲『DADA』は、日本語の歌詞へのアプローチがガイジンっぽく、違和感がないどころかむしろ日本語じゃないとこの曲では表現できない独自の世界。これはワタシがやっていたバンド以外では20年前の人間椅子でしか感じたことがないような稀有な感覚だ。いま流行りの「ラップ(笑)」調のボーカルなのだが、言葉の遣い方が「ニホンゴ」とカタカナ表記したくなるような、言葉に距離を置いた人工的かつ絶妙な単語や表現の羅列。甘さのない、突き放すような歌詞もいいじゃん。ボーカルはいまどきの若者にありがちな線の細いオカマみたいな声なのだが、まるで大槻ケンジかと思うような悪意あるヒネくれた歌詞にこれがよく合うなあ(笑)。声が細くとも歌に込めたその真剣度が高いので、大槻と一緒で迫力があるよ(笑)。ヒネリといえば曲の構成も各パートもスゲー凝ってるよなあ。この洗練度は世界的に見てもかなりレベル高いぞ。この曲は日本の国境を越えて世界に誇れるワ。フクシマ原発が世界に向かって放つ放射能のように、平成の世に生まれた日本人青年の絶体絶命の迫力を他国の音楽ファンにも味わって欲しいと感じたワタシであった。おわり。

  2011.03.30

  コメント(3)

• 胸が痛む映画ベスト10

  ブログに書いたとおり先日YouTubeで『Dancer in the Dark』を見ていて、面白いと思ったことがあった。ご承知のとおりYouTubeには「関連動画」が表示されるのだが、『Dancer in the Dark』の関連動画に『観ていて胸が引き裂かれるような思いをする映画ベスト10』という動画クリップがあって、案の定『Dancer in the Dark』はその１位に挙げられていた(笑)（ちなみに２位は『ピアニスト』、３位はティム・バートン監督の『Big Fish』、４位と５位には『ミリオンダラー・ベイビー』と『フォレストガンプ』が選ばれていた）。日記にも書いたとおり、オレは『Dancer in the Dark』はラストシーンがショッキングではあってもそれほど悲惨な物語だとは思わなかったし、これよりもっともっと悲惨で過酷な運命の映画がありそうなものだと思ったので、この映画が1位というのは同意しかねると思っていた。すると、面白いことに、『観ていて胸が引き裂かれるような思いをする映画ベスト10』の関連動画を見ていったら、『Grave of the Fireflies』というアニメのクリップが出ていた。そう、あの『火垂るの墓』の英語バージョンである(笑)！そうか、火垂るの墓は翻訳されて海外にも紹介されていたのか。まあここで改めて説明するまでもないと思うが、『火垂るの墓』というのは「泣かせる映画」の最終兵器と言われるメチャメチャ悲惨な映画で、これを観て泣かなかったという人間をオレは(自分以外に)知らない(笑)。『フランダースの犬』が原爆だとしたら、『火垂るの墓』は原爆の５倍とか10倍の威力を持つ水爆や中性子爆弾といった感じである。とくに子役の声優が天才的で、観ていてまさに「胸が引き裂かれる」といった感じになる。オレが面白いと思ったのは、この映画の悲惨さがガイコク人にどこまで理解できるのだろう？…という点である。『Dancer in the Dark』であれば、時代や文化的背景を知らずに観ても、万国の人間がその不遇や悲運に同情してそのラストシーンに胸を掻き毟られる想いをするに違いない。しかし『火垂るの墓』は時代背景が太平洋戦争時の日本で、セリフのやり取りも関西弁。しかもあのデフォルメされた「おメ目パッチリ」のジャパン・アニメである。オレらの世代は親の世代から直接戦争体験を聞かされているし、それをアニメで見てもその悲惨さは十分リアルに伝わってくるが、オレらより若い世代のガイコク人がそれを母国語に翻訳されたアニメで見て、どこまであの悲惨さが伝わるのか、オレはちょっと疑問に思っていた。しかし。YouTubeにアップされている「火垂るの墓」英語版のレビュー動画を見たら、たとえばまだ10代とおぼしきアメリカ人の青年がいかにも落ち込んだ顔で登場し、「メチャメチャ哀しい。」「元気な人が見たら鬱状態になるし、鬱状態の人が見たら自殺したくなるだろう。」という、まさに日本人が言いそうなまっとうな感想を述べている(笑)。ほかにも、冷徹な映画評で知られるアメリカの有名な映画評論家が「あとちょっとで泣くところだった」と告白していた(オレの勘ではこの評論家は絶対泣いていたと思う(笑))。面白いと思ったのは、「悲しいと思う場面」がちゃんと的を得ていたことだ。たとえば、オレがこの映画を観ていて一番泣きたくなるシーンというと、栄養失調で死に掛けている主人公の妹(節子)が「お兄ちゃん…おおきに。」と言って、その後に「...この後、節子は二度と目を覚まさなかった」という主人公の兄(清太)の声でナレーションが入る場面である。(この意見に同意してくれる人はたくさんいると思う)英語版のクリップを観ると、あいにくこの場面の吹き替えは死に掛けている妹の朦朧とした感じがあんまり出ておらず、子役の声優が小さい声で「Thank you, Seita.」と言ってそれで終わりである。しかしYouTube関連動画には『Grave of the Fireflies の一番悲惨なシーン』としてこの場面がちゃんと挙げられていた(笑)。オレはそれを見て「なーんだ、ガイコク人でもちゃんと分かるんじゃん。」と感心してしまったのである。ほかにも、「火垂るの墓」ドイツ語版の関連動画には「What Have We Done! (我々はなんということを仕出かしてしまったのだ！)」というキャプションが大きく表示される映画評クリップもあったりして、このアニメ映画のアピールには結構普遍的なものがあるんだなあ、と納得してしまった。まあ、考えてみるとオレらより下の世代は、北米もヨーロッパも「ハイジ」だの「マッハGo Go」だのいったジャパン・アニメを見て成長しているし、ましてやもっと若い世代は「隣のトトロ」だの「ポケモン」の翻訳版に熱狂して日本以上のブームを引き起こしていたわけだから、アニメとは言ってもガイコク人にもそれほど違和感はなく、リタラシーは日本と同等に高いものがもともとあるのだろう。まあ、『火垂るの墓』はアニメなので選考から漏れたという可能性もあるが、「観ていて胸が引き裂かれるような思いをする映画ベスト10」の選考者がもしこの映画を観ていたら、『Dancer in the Dark』の10倍くらい悲惨な物語がこの世に存在することを納得してくれたに違いない、とオレは思うのである。

  2011.01.25

  コメント(13)

• Dancer in the Dark を観た

  YouTubeで『Dancer in the Dark』を発見し、ベッドに寝転がった状態で、iPadで夜明けまで掛かって観た。さいきんはようやくインターネットで他人の登山記録を読み漁るのにも飽きて、YouTubeでかつて愛聴したバンドのライブ映像を鑑賞したり、こうしてタダで公開されている映画を観たりして過ごすことが多い。この映画はもう10年も前にビョークの主演で何かの映画賞を受賞しているが、とにかく「悲惨な映画」「重い映画」としてよく耳にしていた。そういえばかつて心斎橋ワタル氏がブログで「この映画を見終わってからショックでしばらく席を立てなかった」とか書いていた。まあそれくらいヘビーな映画らしい。それにしても、あのビョークが歌って踊るミュージカル仕立てのはずの映画がどうしてそこまで重苦しく悲惨になれるのか(笑)、ボクにとってはずっと謎であった。しかし映画を観てその理由がすぐに判った。ちょっとネタバレになってしまうが、ミュージカル仕立てのシーンはすべてビョークが演じる主人公の空想シーンなのだ。悲惨な現実を生きる主人公が、その現実から逃避する時に脳内にミュージカルの世界を幻出させ、その幻想の中で歌って踊っているのだ。だから、そのミュージカルの楽しく賑やかな幻想世界と苛酷で救われない現実世界との落差が、主人公が置かれた悲惨な状況を秘かに盛り立てるのだ。また、あのビョークが地で演じている(と思われる)主人公の純粋無垢さも、その苛酷な運命との対比を一層痛々しく見せている。彼女が純朴に明るく振舞うほど、彼女の運命の悲惨さが際立つ。いかにも不幸になんて縁のなさそうなビョークが、チェコスロバキア移民の貧しい工場労働者で視力を失いつつある身寄りのないシングルマザーを演じているのがこの映画の核心ともいえる。ただ、鑑賞後の重苦しさとか悲惨さというのはあまり感じなかった(笑)。主人公が死ぬあのシーンはたしかに強烈だったが、彼女が最後まで支持してくれる人たちに恵まれていたのは幸運だったと思う。あの事件以降、周囲の誰もが彼女を突き放して孤立無援のまま死んで行くとか、ましてやあの貯金が没収され息子が手術を受けられなくなるといかいう鬼畜なストーリーであれば「救いのない映画」だという評価にも同意できるが(笑)、同僚はもとより看守までが彼女に寄り添うように接しているのは観ている方も救われたと思う。まあ、ズバリ言えばあの最期は彼女が予定調和的に引き寄せたような感じで、裁判に掛けられても故人との秘密を守り通したり控訴を拒んだところからも、ああいう最期を潜在的に望んでいたように思える。ミュージカルの空想の中で彼女が歌っているとおり、彼女は「自分が見たいものはもうすべて見尽くした」のだと思う。とはいえ、最期の最期では主人公は結構泣き叫んでいたけど、その心中の葛藤がまたリアルでラストシーンを強烈にしていた。まあ、『二十日鼠と人間』とか『フランダースの犬』とか『火垂るの墓』とか、何のポジティブな教訓もない、救われない悲惨な物語というのはいろいろあるが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』はストーリー的にはどん底の暗黒映画にもなり得たものが、ビョークのおかげで救われたって感じの映画でした。

  2011.01.22

  コメント(8)

• マルコムＸとバイオハザード4

  たまたまつけたテレビで映画『マルコムＸ』を放映していて、面白くて最後まで観てしまった。歴史に弱いためにこれまでマルコムＸとキング牧師に関する史実を混同しているところがあったのだが、おかげで両者の区別がついた(笑)。牧師の息子なのはどちらもいっしょだが、自分もそのままバプテスト系牧師になったのがキングで、服役中の監獄でイスラム教(...というか、厳密にはNation of Islam)に改修したのがマルコムＸである。マルコムＸはもともとネブラスカ州の出身で、高校を中退後ボストンに出てきている。父親がKKKに暗殺されてからは白人家庭の養子に出され白人ばかりの学校に通っていたので発音は黒人っぽくない。母親は牧場主に孕まされて出来た奴隷の娘で白人で通るような外見だったので、彼の肌も黒というより赤っぽく、よって徒名もレッドであった。「I have a dream」の演説で有名な南部アトランタ出身のキング牧師はいかにも黒人っぽい南部訛りで話す割にはボストン大で神学博士号を取得したインテリだが、マルコムＸは弁舌が立つ割には高校中退で、強盗で服役中の監獄の図書館で莫大な量の書籍を読んで知識教養を身につけたらしい。養子先では白人ばかりの学校で級長に選出されるくらい成績優秀だったそうなので、知的にはもともと秀でていたのだろう。しかしこういう映画を観てアメリカの歴史を知るたび、黒人やネイティブアメリカンの受けた仕打ちに憤りを覚え、あの国の病根の深さには絶望的になる。あの国の問題は「人種差別」というよりも、インディアンを利用するだけ利用して滅ぼしたりアフリカから捕獲して強制的に連れて来た黒人を家畜として使用してきた「弱肉強食」「搾取」の論理だ。そして、このメンタリティはアメリカに適応した有色人種にも共通していることから、白人による有色人種差別の問題としては説明できない。その点、英仏の移民がインディアンと共存し、黒人奴隷の歴史もないカナダは平和でいいよなあ、と痛感する。カナダといえば、トロントで撮影されて去年公開された『バイオハザード4(日本以外でのタイトルは Resident Evil)アフターライフ』がDVDになったのも、昨日借りてきて観た。自分の出演シーンを再確認するのと、DVDに収録されている監督とプロデューサーのコメンタリー(解説)をチェックしたかったのだ。これらを確認して、オレはショックを受けた。スナイパーその1がゾンビを狙撃したのに対しスナイパーその2のオレが「確認。」という最初のセリフが、よく聞くとオレの声ではない。映画館で観たときは気づかなかったが、緊張感のないナメた発音になっている。映像に重ねられている監督の解説を聞いたところ、なんとこれらのシーンの撮影後、日本人役の登場シーンは東京に送られ、ADR(automated dialogue replacement)を使ってプロの日本人俳優(声優？)の音声と差し替えているというではないか。たしかにオレ以外の俳優はみんな日系の二世や三世で発音が怪しかったし、純正の日本人の声で差し替えたのは正解だと思うが、いちおう日本生まれで日本育ちの自分のセリフがわざわざ差し替えられているのはちょっと納得がいかないのである。オレが純然たる日本生まれの日本人であることは監督もプロデューサーも了解していたはずだが、まあ東京に指示する際そこまで細かく区別するのも面倒臭かったのかもしれない。つーか、同じ日本人が聞けば判ることだろうし。実際、最初のセリフ以外は自分の声がそのまま使われていると思うのだが、もともとスナイパーその1のイヤホンを通して聞こえている音声という設定なので、自分でもはっきり断定はできない。まあ、瞬間的に登場して抹殺されるチョイ役のセリフなんて、映画全体としてはどうでもいいことなのだが。しかし、映像はスナイパーその1の狙撃スコープを通した誰だか判別つかないようなボヤけた映像だわ、おまけに音声も自分の声じゃないとなると、もはや「出演した」というよりかは「素材を提供しただけ」って感じだなあ(笑)。でも次回作にまた出ろと言われたら、どんな役だろうが喜んで出るけど(笑)。

  2011.01.14

  コメント(8)

• 

  とても楽しいアニメ （Liquid TV）

  1992年、クリントンが米大統領に就任したあの年、アメリカの大学でアートを勉強していた(マジで)ｵﾚが、テレビで見て衝撃を受けたアニメ作品。ついにYouTubeで発見した。ｵﾚも将来、こんな作品を作ってテレビで放映されることを(ちょっとの間)夢見たものだ。パーティー楽しい冬木箱カーでレースアルバイトキャンプどれが一番面白かったですか？サウスパークが放映される５年以上も前にこんな作品が公共の電波を使って放映されてたアメリカってやっぱりスゴイよね！（まあMTVだけどね。）しかしこんな動画をYouTubeで見て１人で喜んでいる44歳のﾎﾞｸってどうですか？誰かスポンサーになってくれねーかな、コレに負けない作品をきっと作るからさ！

  2010.11.20

  コメント(8)

• 公開初日の映画を観てきた

  先週テレビを見ていたらいきなり『Resident Evil 4: Afterlife（邦題は「バイオハザート４：アフターライフ）」』のCMが流れて、翌週から劇場公開になることを知って驚いた。なにせ、３D化するのに予定以上の時間が掛かる見込みになり、公開が来年１月まで延期になりそうだとだいぶ前に聞いていたからだ。この映画に自分が登場することを知っている知人たちには、公開は来年になりそうだと告げていたので、これはマズイ。シリーズ第４作目のこの映画は冒頭のシーンが東京だからか、主人公を演じるミラ・ヨヴォビッチ様(以下、敬称は略さない）や準主役のアリ・ラーターやウェントウォース・ミラーはプロモーションのため先週日本にまで足を伸ばしていたというではないか。どうせ日本では話題にならないだろうと思っていたが、北米以上に大々的に宣伝されているようではないか。これはヤバイ。公開初日の今日、オレは責任を感じてすぐに映画館に向かった。オレから映画に出ると聞かされた知人が銀幕に映るオレの姿をひと目見ようと高いカネを出してこの映画を見に行ったら、肝心のシーンがカットされていてオレはまったく登場しなかった...などということになったら申し訳ないではないか。実際、来年１月に公開延期だったものを無理矢理９月に間に合わせるために、シーンをあちこち削って編集作業の時間を省きました、などという話も多々ありそうではないか。...まあ、とは言うものの、オレの出演シーンがまるまるカットされていることはたぶんなさそうだとは思っていた。なぜかというと、先週新しいパソコンを買ってすぐ、Googleを「iGoogle」に設定するためにいろいろいじっていた時にためしにオレの本名を入力して検索してみたら、この映画のキャスト一覧がトップで表示され、オレの名前がちゃんと出ていたからだ(笑)。さすがにカットしたシーンの出演者を義理で掲載するようなことはあるまい。映画が始まると、ミラ様のナレーションを背景に、東京渋谷のスクランブル交差点のシーンがスクリーンに現れる。中島ミカだかいう本業は歌手の日本人女優が交差点のど真ん中でゾンビと化すシーンである。脚本を通しで読んでいて、次に登場するのが自分だと知っているオレの胸は年甲斐もなく高まった(笑)。時は４年後にジャンプし、さびれ果てた渋谷交差点を彷徨うゾンビがビルの上の「スナイパーその１」に撃たれて倒れる。出た、クリストファー狩野！ぎこちない日本語で「バイオハザード、じょうきょう！」と宣言する。「除去」という日本語を彼は知らないのだ。「渋谷中央、確認せよ！」の彼の指示に「スナイパーその２」が「確認！」と返事をするが、その声はスナイパーその１のスピーカーを通した音声で、オレの姿は映らない。「３対１で、オレのリードだな！」と自慢するその１に、「まだ宵の口だ...」云々と負けず口を叩くところでようやくオレの姿が登場した(！)。しかしこれはスナイパー１のナイト・スコープを通した映像で、銀幕の中央に緑色で小っちゃく映っているだけだ(笑)。次に、この緑色の小さな顔が「うわっ！」と声を上げると、カメラはスナイパーその１に戻り、「どうした、トシ、応答しろ！」と取り乱しているうちに彼も何者かに襲われ、画面から消える。その間、ものの10数秒。オレの姿が登場するのはたぶん１～２秒、しかもオレ自身でさえ自分だと判別がつかないような映像である。...トホホ(笑)。撮影終了パーティで会ったアンダーソン監督は、スナイパーその２の登場は「10秒くらいかな(笑)」と笑いながら言っていたが、あれは「声の出演」が10秒くらいということか(笑)。次のシーンは、ミラ様の扮する主人公アリスが総攻撃を仕掛ける、渋谷の地下に作られた「悪の組織」の中枢部だ。こざっぱりした顔の日系俳優たちが演じる悪の手下がコントロール・ルームのモニターを確認している。悪の大ボスが「状況を報告せよ。」と命令すると、いかにも東洋人然とした中年オヤジの顔がモニターに投影される。聞きなれたセリフ...おお、キャプテン・ホタカだ。当初この役でオーディションを受けていたオレは、つい「ホントだったら自分はこのシーンで登場したんだなあ...」と思いながら見てしまう(笑)。しかし、キャプテン・ホタカも登場して２～３秒で口から血を流してモニターから消えてしまう。この役だったとしても、あんまり変わりなかったか(笑)。主人公アリスとそのクローンの活躍で「悪の組織」はものの５分程度で壊滅、悪の大ボスがその拠点を放棄する際に仕掛けた大規模な時限爆弾で首都東京はキノコ雲に飲み込まれる(笑)。日本のシーンはそれで終わりである(笑)。残りの１時間半は「マトリックス」や「キルビル」みたいなアクションシーンの連続で、出演者たちもカッコいい。それに比べてなんだか最初の日本のシーンや日系俳優たちは所詮個性のない「お茶菓子」に過ぎないんだなあ...などと、ちょっと感傷的になりながら見てしまうのであった。オレは自宅に帰ってすぐ、「映画に出演するから一族郎党で見に行ってください」と伝えていた実家の父親に、自分が登場するのは１～２秒でかつ誰だか判別もつかないような映像だったので、間違っても一族郎党にはこれ以上宣伝しないようにとEメールを書き、また明日の練習会で会うトライアスロン・チームの仲間たちにも、間違ってもオレを見るのを目的にあの映画を観にいくようなことのないように伝えなければと誓うのであった。実を言うと、たまたまこの映画を見た昔の友達とかがオレの顔に気づいて、久々に連絡が来たりしたら面白いなあ...などと思っていたのだが、自分でも判別がつかないくらいだから、誰にも思い出されることもないのだろう(涙)。まあ、その程度の出演で20万円ももらえた上に、ミラ様と並んで写真を撮ってもらえたのだから、文句は言えない。それにしても人騒がせな「映画出演」の顛末であった。

  2010.09.10

  コメント(14)

• マイノリティ

  アメリカの三大ネットワークTV局の配役担当者たちが今週トロントに来ているという。近年、コスト削減のためにアメリカのTVドラマの多くがカナダやメキシコで撮影されている。アメリカの視聴者は知らないだろうが、ニューヨークが舞台という設定でも、背景の街並みは実はトロントのダウンタウンの一角だったりする。主役級にはアメリカ人俳優を起用しているが、脇役やエキストラは当然地元で調達したカナダ人俳優だ。なので、新作ドラマ製作の前なんかには下見を兼ねて、地元俳優のオーディションにやってくるわけだ。中でもNBCは、自局で製作するテレビ番組において人種の多様化を積極的に進めているそうで、今年トロントではマイノリティすなわち有色人種に限定したオーディションを催すという。俳優組合からそのオーディションに関するEメールをもらったオレは、前日に慌ててヘッドショットと履歴を印刷して、オーディションの会場に行ってきた。オーディションとはいっても今回のは「オープン･コール」といって、特定のドラマや役に対するオーディションではなく、将来的に自局のテレビ番組に起用できそうなトロント在住の俳優をチェックしておきましょう、というのが目的のようである。オレはオーディション会場近辺の土地勘が皆無であったが、近辺を通り掛かったらすぐにどこが会場か判った。有色人種だけが長い列を作っていたからである(笑)。オレが到着したのは開始時刻の15分くらい前であったが、渡された番号札は110番、すなわちオレの前にはすでに109人が並んでいた。会場のゲートが開かれた9時の時点ではオレの後ろにも100人くらいが並んでいた。今回のオーディションは俳優組合員限定のはずだが、トロントにはこんなに有色人種俳優がいるのか？会場に入ると、黒人やらラテン系やらインド系、母親に連れられた子役から爺さん婆さんまで、日ごろフツウのテレビ番組では見掛けない種類の俳優および俳優志望者らでごった返していた。各自、プロのカメラマンに何万円も出して撮ってもらったであろうヘッドショット写真とこれまでの俳優経歴、さらに自分が出演したテレビ番組やCMを録画したDVDを手にしている。あらかじめ了解していたことではあるが、撮影された映画がまだ公開されていないのでDVDもないし、オーディションも映画出演も１回ずつしか経験がないので俳優履歴もたった１行で終わってしまうオレは、またしても場違いな気分である。中には、オマエどう見ても有色人種じゃねーだろ、という白人もいる。１人は２月の俳優組合の総会で見たことがあるが、たしかルーマニアの出身だとか言っていた。有色人種じゃないけれども東欧訛りのある俳優ということで会場に入れてもらえればラッキー、くらいの気持ちで、ダメモトでやってきたのかも知れない。何とかチャンスを得るのに必死なのだろう。目に切迫感がある。会場に来た順番に、数人ずつ奥の別室に呼ばれ、５分くらいで戻ってくる。どうやら、台本を読ませて演技力を見るような大掛かりなことをしているのではなさそうだ。何か演技をして見せろと言われたら、オレは「笑った顔で怒る」のと「怒った顔で笑う」というのをやろうと考えていた。「笑った顔で怒る」は竹中直人がデビュー間もない頃にネタでやっていたが、怒った顔で笑うのは本邦未公開のオレのオリジナルだ。いずれにしても、奥の部屋から演技をしているような声が聞こえてこないところを見ると、そんな機会もないのかも知れない。オレの番号を含む５～６人の番号が呼ばれて、アシスタントのネーちゃんに別室の前の待合室に招かれた。ネーちゃんから、1人につき２～３分程度の時間しかないので、限られた時間で精一杯自分をアピールするといい、とアドバイスを受ける。別室から１人が出てくるのと入れ替わりに、待合室の１人が順番に部屋に入っていく。ドアのすぐ向こうに仕切りがあるので、部屋の中の様子は伺えない。入室･退室を仕切っている小柄な白人の爺さんが、緊張をほぐすような冗談を言う。この人も組合の俳優であろうか。いよいよ自分の順番が来て部屋に入ると、部屋の四隅にテーブルがあって、テーブルの向こう側にNBCの配役担当者が座っている。その向かい側に俳優が座ってインタビューを受けている。オーディションというよりも、面接といった感じである。オレが面接を受けたのは、50歳くらいのコギレイで貫禄のあるオバサンであった。オレのヘッドショットと履歴を手渡す。履歴を見て、エージェント(所属事務所)もなければ出演経験も１つしかないのに気づいたオバサンに、いったいどんな経緯でこの業界に関与することになったか説明を求められ、自分の本職は日本語の通翻訳で、昨年日加協会からある配役会社のＥメールが転送されてきて云々という話を手短にした。映画出演を経験して組合に入ってから、どんなトレーニングを受けたか尋ねられた。オレは俳優組合の短期集中コースを受けただけである。その回答を聞いた時点でオバサンはオレの履歴用紙に簡単なメモをしてファイルに収めた。面接終了のサインであった。そうなのだ、俳優志望者であれば、ボイス･トレーニングだとか、演技指導のコーチングだとか、大学のアクティング･コースとかを受けているのが相場なのである。そのようなトレーニングを積極的に受ける努力さえしていない時点で、それ以上話を聞いても時間のムダだったわけである。コンパの座敷芸じゃないんだから、「怒りながら笑う」ことができても意味ないのだ(笑)。会場を出ると、建物の入り口の前にはまだ長い俳優志望者の列が出来ていた。オレが別室に呼ばれた時点で番号はほぼ300に達していたので、たぶん400人以上の有色人種の組合員がこのオーディションを受けに来ているわけだ。今回のオーディションで実際に何人が最終的にドラマに起用されるのだろう。せいぜい４～５人くらい、どう考えても10人までは達すまい。確率にして１～２％といったところか。これが「有色人種限定」でなかったらきっとこの何倍もの俳優が駆けつけてきていたろうから、１～２％というのはこれでもまだ確率の高いほうである(笑)。しかし、それにしても、だ。組合に加盟している俳優だけでこれだけいるのだから、非加盟の俳優まで含めたら莫大な数の“有色人種”俳優がトロント近辺にはいるということだ。これはもはや「マイノリティ」なんかじゃない。人種に加え、能力・ルックス・経験はもちろん、「運」なしでは生き残れないことがよく分かった。

  2010.08.06

  コメント(10)

• 拝啓 村崎百郎様

  村崎百郎センセイ自宅に押し掛けたファンを名乗るキチガイ読者に包丁でメッタ刺しにされてセンセイが殺されてからもうすぐ２週間です。この2週間、ぼくは、センセイの不慮の死に、なんとなく落ち着かない日々を過ごしてきました。ところでセンセイ呼ばわりされるのは村崎さんにとって不本意だとは存じます。でも、ぼくがほかにセンセイと呼んでいる人は、三島由紀夫、クラウス・ノミといったように、生前はぶっ飛んだ活躍をし、天寿を全うすることなく凄惨な死を迎えられた方ばかりです。村崎さんも今回このような死を迎えられて、ぼくの中では三島センセイやノミ･センセイと同列の場所に入られたということで、センセイと呼ばせていただくことにします。センセイの凄惨な死を知ったのは、アイアンマンのレースを２日後に控えたレイク･プラシッドのホテルの一室でした。ネットのニュースで「作家 村崎百郎、自宅で刺されて死亡」の見出しを目にし、「Oh, my god!」「Shit!」と叫び声を上げるぼくに、いったい何事かと尋ねる同宿のカナダ人の友人に対し、日本の電波系鬼畜ライターが読者に刺し殺された事実の重大さをどのように説明してよいか途方に暮れたことが思い出されます。そのニュースはあまりにショックで、ぼくはあんな過酷なレースの真っ最中に、幾度となく村崎センセイのことを想いました。センセイは、あちこちから絶え間なく「電波」を受信しているアブナイ人でありながら、その優れた知性によって電波のメッセージを無視することによって正気を保ち、「鬼畜ライター」として公序良俗に反する文章を発表しておられました。そんなセンセイが、同じ電波系のキチガイを呼び寄せてしまい、ご自身がいつも論評の対象にしていた事件のような猟奇的な形で殺されてしまった事実は、まるでイソップ寓話か何かのオチのようで、しかもそれをアサヒの記事で読まされているぼくは、何か悪い夢でも見ているような気分でした。思えば、ぼくが15年前に初めて「村崎百郎」の名を知ったセンセイの共著『電波系』は、渡米して６年ぶりに帰国したぼくが初めて日本で買った本のひとつでした。センセイが「すかし切った日本の文化を下品のドン底に叩き落とす」ことを目して書かれた鬼畜な著作は、バブルの末期に渡米し、バブル崩壊後の停滞した日本に帰国した“浦島太郎”状態のぼくの心に不思議と響くものがありました。そんなセンセイが、日本で暗い大学生時代を送っていた20数年前のぼくが愛読誌していたペヨトル工房の『夜想』の編集者、黒田一郎と同一人物であることを知ったとき、ぼくは驚くとともに、妙に納得してしまいました。『夜想』といえば、「畸形」だの「死体」といったテーマで、古今東西の学術的な文章や写真などを引用して書かれた好事家やインテリ向けの不定期刊行誌でしたが、「中卒の工員」を自称するセンセイの文章の行間に見え隠れする知性と美意識はまさに当時の『夜想』の世界に通じるものでした。さらに、ぼくが愛読していたアメリカの鬼畜小説『Geek Love』の邦訳の編集を手掛けたのもセンセイだと知ったときは、すべての謎が解けたような気分でした。近年あらゆる日本のメディアから遠ざかりつつあった海外在住のぼくですが、センセイの唐沢俊一さんとの連載対談「社会派くんがゆく！」は、ぼくが毎月のネット上でのリリースを楽しみにしている唯一の活字メディアでした。日本社会で起きている事件を取り上げ独特の視点から批評していたあの対談はぼくにとって、大袈裟な言い方をすれば「現代を生きる指針」の１つでした。あの対談がもう読めないと思うと、ぼくは日本との数少ない絆の１つを失ってしまったような気分にさえなります。それにしても、ネットで目にする村崎センセイの死に関する記事の多くに共通するのは、鬼畜を自称するセンセイが実生活ではいかに良識的で「いい人」であったかという記述です(笑)。センセイは実はすごくセンシティブで物事を突き詰めて考えるマジメな人で、「鬼畜」という自称キャラは、そんなセンセイが日本社会で生きていくための作らざるを得なかった鎧というかポーズのようなものだという意見は唐沢俊一氏その他多数が述べています。センセイの露悪的な言説も、良識的なことを言ってしまうことに対する“照れ”からくるものだろうというのは、ぼくにも想像できます。でも一方で、「村崎百郎」という鬼畜キャラがまったくの作り物でなく、そんな「良識的ないい人」の本質的な一面でもあったことにも言及しないことには片手落ちだとぼくは思っています。センセイは、マジメな人だったからこそ、フツウの人なら目を背けて抑圧してしまうような自分自身の中にある暗黒面をよく自覚していたのではないでしょうか。村崎百郎というキャラクターの発言は紛れもなく、世間的には「いい人」とされているセンセイ自身の本心から発されたものだったはずです。どの著作だったか忘れましたが、センセイは「老後、自分が死ぬ前に、気に入らない文化人の家に押し掛けて一家惨殺して、その肉でもむさぼり食ってやろうというプランを立てている」とか書いていましたが、センセイはそういう妄想を実際に抱いていたのだとぼくは思っています。またこれは別の著作だったと思いますが、そういう鬼畜犯罪を計画する者は、精神異常者として無罪放免になるよう、犯罪に出る前に一度精神病院の世話になって通院・入院歴を作っておくとよい云々といったアドバイスもされていました(笑)。センセイはまさに自分が著作で述べたことを地でいくような手口で32歳無職のキチガイに殺されてしまいました。大柄で腕力のあるセンセイがこんなキチガイにあっさりメッタ刺しにされてしまったのは、刺されながら「一本とられた！」「オマエには負けたよ」と思って脱力していたからではないのでしょうか。また、48箇所も刺されたのも、１箇所、２箇所と包丁で刺されながら、そのキチガイを煽り立てるようなことをつい言ってしまったのではありませんか(笑)。中島らもが数年前に階段から転げ落ちて死んだとき、ぼくは彼が自分の死期を択びとったに違いないと確信しましたが、ぼくは村崎センセイも包丁も持ったキチガイに自宅に押し掛けられて、自分の運命を観念したのではないかという気がしています。いずれにしても、生きているうちに一度お会いしていろんな話を聞かせていただきたかっただけに、突然あの世に往かれてしまい残念です。これからは、電波を受信する側から、電波を霊界から発信する側となって、我々迷える子羊たちを下品のドン底へとお導きください。

  2010.08.04

  コメント(11)

• 

  リンチ　アニメ

  先月ガンで死んだデニス・ホッパーの記事を読んでいて、むかし観た『ブルーベルベット』での彼の怪演がもう一度見たくなり、ネットを検索したらYouTubeにあった。スゲー、ヤベー(笑)。ハァ、ハァ、マミー、マミー、ベイビー・ウォンツトゥー・ファーック！キチガイ役で、ブルーベルベットのフランクを演じるデニス・ホッパーを超える役者ってちょっといないんじゃないか？なんでも台本を読んだデニスホッパーは配役の段階で監督に「フランクはオレ自身だよ！」と訴えてこの役を勝ち取ったそうだ（…とインタビューで言っていた）。吸入している薬物のガスも本人のアイデアだとも言ってた。摂取していた酒やドラッグの量と種類ではギネスブック級の彼のことだ、このテの吸入ドラッグもやっていたんだろうなあ(笑)。それにしても、ブルーベルベットのクリップを見ていて、デニス･ホッパーはともかく、監督(及び脚本)のデビッド･リンチも相当ヤベーことを改めて再認識した。リンチというと、イレイザーヘッドとか、日本でもテレビ放映されたらしいツインピークスとかを想起するが、あんな気持ち悪いキャラクターたちやヘンタイなシチュエーションを思いつく、この人の頭の中はどうなっているのかと思う。一見すると大学教授みたいな知的で控えめな物腰のオッサンなんだけど、頭の中ではこんなヤベーことばっかり考えてるんだろうなあ(笑)。YouTubeでリンチのほかの作品のクリップを見ていたら、彼がエレファントマンとかいった商業的な映画を撮り始める前の自主制作映画がいくつもアップされていた。彼はオブジェなどの前衛アーチストとしても知られているが、彼自身が描いたとおもわれるペインティングを用いたアニメーションの初期作品がスゴイ。　 『Six Men Getting Sick Six Times』という、タイトルどおりの４分程度の作品だが、絵画作品としてもなかなかカッコイイ。　これがリンチの処女作とされる、『アルファベット』というタイトルの44年前作成のアニメ(一部実写)。「狂ったセサミストリート」みたいな世界(笑)。ちなみに登場するベッド上の娘は当時の奥さんだそうです『グランドマザー』という、実写とアニメを組み合わせた30分くらいの作品。40年前からこんな狂った世界を創作してたんかいな(笑)。クリップは全部で４つあるからちゃんと見てねトドメはコレ。『Weird Daily Weather Report（妙な天気予報）』だって。天気予報を見ようとテレビをつけて、こんな映像が延々と映ってたらトラウマになるだろうなあ(笑)ところでデビッド･リンチのリンチ（Lynch）って私刑のリンチ(lynch)と同じスペリングだけど、もともとリンチという言葉は、昔バージニア州にいた、被告に残酷な刑を課すことで知られたリンチという苗字の裁判官の名前に由来するらしいけど、東海岸出身のデビッド･リンチってもしかしたらこのサディスト裁判官と血のつながりがあるのではないかとふと思いました。以上。

  2010.06.18

  コメント(8)

• マラソンBGM（後半）

  長すぎてアップできなかったハーフマラソン用BGMのつづき。10) 黄土高原　/坂本龍一(5’20”)　→さて、レースもそろそろ中盤、ランナーズ・ハイを維持したまま、安定したリズムを崩さずに調子よく走るのに、アップビートで高揚感のあるこの曲はピッタリ。曲が終わる頃には折り返し地点だ。(ここまで48分15秒、10.6km)11) From The Silver Frost /And Also The Trees (5’15”) →単調なフレーズの繰り返す重音のベースに、爽やかなストリングの重奏が、疲れた心身にまるで清涼剤のようにスーッと効いてくる。旅路の半分を終え、気分も新らたに残り半分の旅に踏み出すに当たり、新鮮な気分にしてくれる。（ここまで53分30秒、11.7km）12) Time Was /AC Marias (3’45”) →ダメだ、20分も探しているのに、これもネットで見つからないや。ドラムマシーンのチープなリズムに、軽快で目まぐるしいベース、そしてノイジーなギターをバックに、気だるいAC Mariasの催眠術師のような声が絡み、脳はポーッとしたままで、身体だけにエネルギーが満ち溢れてくる。不思議な曲だ。（ここまで57分15秒、12.5km）13）Deutsch Nepal /Amon Duul (3’00”)　→ジャーン、ここでアモンデュールときたか!?ジャーマン･ロックの重厚なリズムに、ネパールを髣髴させる耳慣れないコード進行。おまけにヒトラーの演説もどきのボーカル(ナレーション)ときた(笑)。…ああ、聴いているうちに力が漲りハイになっていく。おかげで疲れが吹っ飛ぶ。（ここまでで1時間ちょっと、13.2km）14) Tainai Kaiki /坂本龍一　(5’00”) →このままアッパー系のハイが続いて潰れてしまわないように、ここで一旦胎内回帰で熱冷ましか。鼓動のリズムを聴き入っているうちに意識が研ぎ澄まされ、集中力が高まってくる。上のリンクはDavid Sylvianのボーカルのヤツだけど、このMDに入っていたのはそうじゃないほう。　（ここまでで1時間5分、13.3km）15) Ripple /高橋ユキヒロ　(4’20”)　→これもリンクが見つからないや。鼓動の次は雨しずくの落ちる音でさらに熱冷ましだ。まだ先は長いので、ゆっくりしたリズムにストリングの音色を聴きながらここで一旦脈拍数を落として息を整える。　（ここまでで1時間9分30秒、14.2km）16) Tweezer /Phish (8’30”) →レースも残すところ３分の１弱。そろそろスパートを掛けるかというタイミングでこの曲か！この曲はLSDのハイと一緒で、曲の進行とともにジンジン、ジワジワと効いてくる。5分経過したあたりのインプロビゼーションのジャムで音階がだんだん上がっていくに従いスピードが上がり、気がつくと全力疾走してたりするので(笑)、注意が必要だ。（ここまでで1時間18分、16.2km）17) Barrier /Fra Lippo Lippi (3’30”) →暗い。このバンドの出身であるノルウェーの厳冬の最中を思い起こさせる、とてもマラソン用とは思えないような暗い音楽だが、Tweezerの後のチルアウトにはこれくらいの曲でないと効果がないだろう(笑)。そろそろ息が乱れてくるが、初期のフラリッポリッピを聴いて耐え忍ぶのだ。（1時間21分30秒、17km）18) Paradise Lost　/坂本龍一 (5’15”) →なんだ、また坂本龍一か。でも、この人の曲は層が厚く、イドに直接働き掛けるようなところがあって、要するに“効く”んだよなあ。ツラさがさらに募ってくるこのタイミングで、楽園の音楽を聴かせてエンドルフィンを追加分泌だ。（1時間27分、18.2km）19) Lullaby/The Cure (7’45”) →あと３キロ、ツラさはまだ10数分続く。文字通りララバイを聴いて、ロバスミのかったるい歌声で瞑想状態を作り出し、このまま苦痛を乗り切れ。（1時間34分30秒、20km）20) Kafka /土屋昌巳　(4’30”) →やった、ゴールが見えてきた、あと１キロだ、もう全力出し切っても大丈夫だ、この曲の進行とともにハイの高みへとダッシュで登り、サビのタイミングでラストスパート、ゴール前はゴボウ抜きで完走だ。(1時間39分、21.1km、ハーフマラソン完走)…とまあ、非常に長くなったが、以上がこのMDの内容で、これは調子のよいときのハーフマラソンの心理の１キロごとの推移をうまく反映している。まあそう言われても、走ったことがない人にはやっぱり分からないだろうけど(笑)。しかしこうして見てみると、心斎橋ワタル氏に紹介してもらった曲が多いなあ。ﾌﾚﾔさん、今度ハーフマラソンを走る機会があったら、息子たちに上の曲を探して編集させて、iPodで聴きながら走ってみてください。自己ベストでゴールできるかも知れません。いや、逆に、トレーニングマニアの肉体派から、マニアックな音楽のほうにハマって内省的なインドア派になってしまうかも知れませんけど(笑)。とにかく、この晩、このMDを聴き終わった後、オレの脳内はまさにハーフマラソンを追体験したような感じでハイになっており、もうベッドでじっとはしていられなくなっていたのであった。ちなみにこのハイな状態は昼ごろまで続き、昼飯を食った途端に急に緊張が切れ、午後は眠たくて仕事にならないのであった。

  2010.04.27

  コメント(4)

• ギョーカイこぼれ話

  昨日の日記を書いているうちに、講義の最中に聞いたこぼれ話を少しだけ思い出したので、断片的ですが、書くことにします。まずＣＭですが、痔の薬とか成人用オムツといった商品のCMは出演料が高いそうです。というのも、そのCMが放映されればされるほど、その俳優と痔やお漏らしといったイメージが結びついてしまい、イメージダウンになるからですね。いちどそのイメージが固定してしまうと、いくらキレイなモデルさんでも当面はファッショナブルな製品のCMには使ってもらえないでしょうから、その代償料のようなものでしょうか。ボクが受講しているクラスには、トロント界隈では有名な質屋のCMにダンサーとして出演している女の子がいます。このCMというのはミュージックビデオのパロディで、恰幅のいいその質屋の店主が札束を振り回して「♪要らない宝石があったら、ほーら、お金に替えてあげるよ～、オーイエー！」とディスコ調で歌う背景で女の子４人が激しく踊りまくるというもので、ローカル局では１日50回くらい放映されているので誰でも知っています。おかげで、このCMに出ているクラスメートは、オーディションなどを受けるたびに誰もが二言目には「...ああ、あのCMの！」と言って笑い出すので、マジメなダンサーとして扱ってもらうのに苦労していると言っていました。いくらたくさん放映されて知名度が上がるとはいえ、望ましくないイメージが固定する可能性もあるので注意が必要ですね。同様のケースでは、ある有名なドラマで猟奇的な殺人者を好演してしまったがために、その後二枚目役だのコミカルな役がもらえなくなって困ったという役者の話がよくありますね。猟奇的な役といえば、ある役者がホラー映画の殺人者役のオーディションを受け、そのあまりにリアルな演技に監督をはじめそのオーディション会場にいた誰もが引き込まれてしまったそうなのですが、その役者は演技の最後のほうでポケットからホンモノのナイフを取り出して相手役の人に襲い掛かり、皆が悲鳴を上げて逃げ惑ったそうです。演技があまりにリアル過ぎたためか、その人がナイフを出したときに誰もが本気で身の危険を感じたそうです。監督は、「文句なしの最高の演技だ。だけどあなたのような人には間違ってもうちのセットには立ち入ってもらいたくない」と言われ、不合格になったそうです。オーディションに本物のナイフを持ち込むという時点でその人の常識が疑われたということですね。そういえば、ある講義で各受講者が「自分の好きなCM」を挙げるというのがあったのですが、ある保険会社のCMで、シロウトっぽい子役を使ったシリーズが好きだという人が、ボクを含め複数いました。このCMでは、たとえば、高価そうなトラックのオモチャを与えられてシロウトらしい子役が遊んでいるところに、スーツを着たオッサンが出てきて「はい、時間です」と言ってオモチャを子供の手から取り上げ、代わりに段ボール紙をテキトウに切り抜いて作ったトラックを与え、怒り出した子供にオッサンがトラックの後ろの方に貼られているステッカーを見せて「ほら、ここに『ただしこのサービスは期間が制限されています』と小さい字で書かれているだろ？」と言って大笑し、子供はふて腐れるというパターンのCMです。保険会社の多くが顧客獲得のために使う手口をこういった形で視聴者に見せて、CMの最後に「こんな理屈がおかしいことは、子供でも分かりますよね」というアナウンサーの声が入るのです。この“リアリティTV”の手法を使ったCMは、騙された子供のリアクションがとても新鮮なので、何べん見ても笑ってしまいます。演技ではとても出来ないような、本物のムキ出しの感情をテレビCMで見るのがとても新鮮なのです。ところが、そのCMの裏事情を知っているクラスメートの１人が「実はあれも演技なんだよね」と言い出しました。シロウトの子供を起用し、本当のリアクションをCMに使っているものと誰もが思っていましたが、実際にはちゃんと台本があって、子役が迫真の演技をしているというのです。成人の俳優がウソかホントか分からないような迫真の演技をすることは誰もが承知していますが、子役となるとどうしても演技臭さが残るもので、そこがまあ子役らしくて安心できるところでもあります。ところが、最近の子供には、慧眼を持ったその道のプロのオトナでも区別がつかないような、迫真の演技をするヤツがいるというのです。その暴露には誰もが「ウソだろ～」「マジ～？」と蒼ざめていましたが、そのクラスメートは頭を横に振って「最近の子供はホントに怖いんだよ。」と言っていました。おかげでそれ以来、ボクはそのCMシリーズを見ても笑えなくなってしまいました(笑)。そういえば、テータム・オニールだったか、子役デビューする前には虚言癖であまりにもオトナたちを振り回すので、更正施設だかセラピーだかの世話になっていたとインタビューで言っていました。その虚言癖を「演技」という社会的に認められる形で昇華したわけですね。オニールは薬物で何度かタイホされていますが、どうも子役出身の役者はロクでもないオトナになるケースが多いような気がします。ウソとホントの狭間を生きるなどという精神の綱渡りを子供時代にやってしまうのは精神発達上ちょっとしたトラウマになるような気がします。とりあえず今日のこぼれ話はこんなところです。

  2010.03.16

  コメント(8)

• …それでもこの業界で食いたいか？

  週末からカナダ俳優組合がメンバーに提供している短期集中コースを受講している。組合に加入したらすぐに受講が勧められ、また仮メンバーから正式メンバーに昇格する上でも修了が義務付けられている３回コースだ。毎回、現役のベテラン俳優が講師を務め、この業界の仕組みだとか、セット上での注意点だとか、オーディションでの心がけだとか、税金対策だとかいった実践的な内容をテキストを使って教授してくれる。オレのクラスには11人のメンバーが参加していて、大多数はすでにテレビドラマだのCMだので活躍しているプロだ。どっかで見たことがある顔がいるなあと思ったら、１日に50回くらいテレビに流れている金融ローン会社のCMでバックダンサーをしていた娘だったり、カナダ中にあるスーパーマーケットチェーンのCMに登場するキレイなネーちゃんだった。あと、いちばん有名なところでは、５年くらい前に解散したカナダのロック･バンドのボーカルのニイちゃんがいた。誰もがすぐに「○○バンドのボーカルの人でしょ？」と気づくほどではないが、「10年前にヒットした××という曲を演ってたあのバンドのボーカルです」といえば、カナダ人の多くが「…ああ、あのバンドの…！」と判る程度の有名人である。話を聞いたら、まだ学生の時代にワーナーブラザースと契約し、20歳やそこらで家を買うくらいの大金を手にしたらしい。それから数年は全米をツアーしてそこそこ有名になったが、２～３曲くらいのヒットを出した後はレコードの売り上げも落ちてワーナーとの契約を解除され、やがてバンドを解散したらしい。現在は不定期でギグに顔を出したり、CM用に曲を提供したりして食っているという。没落貴族とか転落した資産家や元･有名人に共通していそうな、自己憐憫と自己冷笑と矜持が混じったような表情をつねに浮かべている。オレみたいな無名のシロウトと机を並べているのが不服なだけかも知れないが(笑)。あと、面白いところでは、15年前までは俳優･モデル業一本で食っていたが、今は事業を興して自営業で食っているという台湾系カナダ人がいた。先月の組合総会の際に開かれていた仮メンバーのためのワークショップの時にオレの前の席に座ったが、一貫してオレを無視していたスカシ系っぽい男だ。30代前半くらいだろうと思ったら、45歳だという。話を聞いたら大学時代はエンジニアリングを専攻していて、自動車デザインのコンペで準優勝したこともあるという。実際、話せば話すほど、アレもコレもやっていましたという過去のいろんな経歴が次々と出てくる。ちょっとウサン臭いところがあるこんな自称･起業家、自称･俳優はこの業界にはきっと何人もいそうだ。もちろん、生まれてこのかたオーディションを受けたのも映画に出たのも１回っきりで、某自動車会社の工場で通翻訳者をしてますなどというフザケたヤツはオレだけだったが、この業界の人々は心が広いらしく、教師もクラスメートもこんな場違いな中年東洋人オヤジを温かく受け容れてくれた。フリークは、自分と競合しない限り、ほかのフリークに優しいものなのだろう(笑)。コース初日、教科書を開いて最初の単元が『リアリティ･チェック』と題されていた。ページいっぱいに棒グラフが並んでいる。左端の一番長い棒がレオナルド･デカプリオの年収で25億円、その右隣がその何10分の１の長さの棒グラフで、カナダ人の平均年収とされる約350万円、その隣が「貧困ライン」と呼ばれるカナダにおける生活保護受給の上限となる年収200万円、そして右端に小指の第一関節に満たない高さの棒グラフが並び、小さな字で「カナダ俳優組合の平均年収、90万円」と書かれている(笑)。「貧困ライン」の半分しか収入のない職業でホントに食っていくつもりなのか？…という現実をいきなり突きつけているのである。たまたまこのクラスの参加者のほとんどはたすでにある程度成功してしっかりしたキャリアのある連中だったので軽く流していたが、単なるショー・ビズへの憧れでこの業界に入ろうと思ったら大きな間違いだ…という厳しい現実をコースの最初に客観的な数字で参加者に印象付けておくのは実に良心的である。なにせ清掃員だのマクドナルドの店員をして食っている人の半分以下の収入だというのだ。アリとキリギリスの寓話は現実なのである。しかし一方で面白いのが、名前は忘れたが、日本でも吹き替えで放映されていた『ビバリーヒルズ青春白書(Beverly Hills 90210)』の主演の１人を務めていた俳優は、この役をもらうまで、オーディションを受けては落ちるというプロセスを240回も繰り返したという。オレだったら、オーディションを受けて24回も落ちたらその時点でとっくに自分の実力に見切りをつけてカタギの仕事に就こうと決意を新たにしていたと思うが(笑)、240回落ちても諦めずにオーディションを受け続けたというその根性はスゴイ。というか、それくらいの根性があってはじめてこんなメジャーなTVドラマの主役級に抜擢されることもある、という教訓にもなっているわけだ。(長くなってきたので次回に続く)

  2010.03.13

  コメント(6)

• フリークを隔離せよ

  長くなるので先日の日記には書かなかったのだが、俳優組合の総会に参加した第一印象が「フリークショー」「見世物小屋」であることは前述のとおりであるが、次にぼくが感じたのは、俳優というのは“恥知らず”な人種なんだなあ、ということである。たとえば、ワークショップなどの途中で、誰もが気遅れせずに挙手して質問したりコメントしたりする。フツウの人だったら、周りの何十人・何百人の人たちに注視されて自意識過剰になり、緊張して声がうわずりそうな場面でも、大きな声で堂々と意見を述べている。大勢の人に注視されてアガるようでは俳優になんかなれないのだろう。名前は忘れたが、ある子役の母親が、子供を駅前に立たせ公衆の面前でセリフを大声でがならせるというスパルタ教育をしているのを日本のTV番組で見たのをふと思い出したが、俳優になるにはむしろ日ごろから「進んで他人に注目されよう！」といったくらいの態度でちょうど良いのだろう。あと、ボイス･トレーニングのワークショップでは、たとえば先生が「それでは私のマネをして身体を動かしながら大きな声で発声してください。いいですか、はい！カ～・ダ～・バ～、バ～・ダ～・カ～！！」などと両腕をタコのようにクニャクニャさせながら発声するのを、誰もが真面目な顔をしてマネをしているのだ。傍から見たらほとんどアブナい新興宗教といった感じで、ぼくなんかは照れてしまったのだが、周りの連中を見たらまさに真剣そのものといった表情で、タコ踊りをしながら大声で「カ～・ダ～・バ～、バ～・ダ～・カ～！！」とやっていた。この程度のことで「バカみたい」とか「恥ずかしい」とか思うようでは俳優になどなれないのだろう。まあ、俳優業というのはある意味「素材に徹する」といった境地に身を置くことであり、自意識をマヒさせないと仕事にならないところがある。「恥ずかしい」という意識は言うまでもなく自意識に由来する。だから、演技をするというのは、自分を第三者の目で冷たく見放しつつ、かつ精密に制御するといった、絶妙な「自我の綱渡り」が要求されるのだろう。ちょっと同時通訳の心理状態に似たところがあるかも。ただ、自意識というのは端的にいえば「自分は自分である」という意識なのだから、あまりにも自分を第三者の目で突き放してロボットのように扱う心理状態に慣れてしまうと、「何が自分(＝実)で何が演技(＝虚)なのか」の境界線があいまいになってきて、精神のバランスを崩してしまうに違いない。多くの俳優とかゲーノー人がドラッグなどに溺れてボロボロになってしまったり、宗教にハマったりするのは、風任さんが言うように“虚実ないまぜ”の世界で自分を失い易いからなのだろう。何度かこのブログにも書いたとおり、ぼくはアメリカの大学時代に人物画のクラスのためにヌードモデルとして不特定多数の学生の前で１年間全裸をさらし、学内自主制作ポルノ映画出演まで決定していたような常軌を逸した意識の持ち主であり、“恥知らず”ぶりには自信があったのだが(笑)、今回の俳優組合の総会でプロの連中を観察する機会を得て、自分がまだ自意識を棄てるまでには至ってないんだなあと思い、ちょっとだけ反省すると同時に安堵したわけである。あと、ワークショップの教師を務める第一線のプロの人たちを見て思ったもう１つのことは、やっぱりこの人たちは頭がいいなあ...ということである。台本の行間からその役の心理を分析したり、台本に書かれていない、セリフとセリフの間の効果的な沈黙の長さや声の強弱を推し量ったりとか、臨機応変にアドリブで絶妙なジェスチャーを加えるとか、二重・三重の複雑な心理を微妙な表情筋の動きや些細な指先の動きで表現したりとかいった数多くのことを、瞬時に処理し実行できる人がプロの俳優なのである。台本を読んでセリフを暗記する程度の能力ではプロとして全然足りないということだ。テレビで日々バカな人物を演じているゲーノー人を見て、多くの人は彼らがホントにバカだと思い勝ちだが、それは誤解である。それは、不特定多数のアメリカ人学生の前でチンポをさらしたからといって、ぼくが決してバカではないのと同じである。それどころか、エンターテイメントの世界で生き残っている連中というのは、きっとゲーノー界以外でも成功したであろうだけの知性とバイタリティの持ち主なのである。要するに、そんな「知性とバイタリティを兼ね備えた恥知らず」が実社会に出たら、フツウの人たちが引っかき回されるのは火を見るよりも明らかなので、ゲーノー界のような世界に隔離し、テキトウな報酬を与えて外に出さないような仕組みが、社会には備わっているのではないか。そして、他方ではフツウの人たちがそんな危険なフリークどもをアイドルとして奉ることで、ハレとケのバランスが保たれている。...な～んてことまで考えてしまった今回の俳優組合の総会であった。ほんとはもっといろいろ考えたけど、めんど臭くなってきたのでおわり

  2010.02.22

  コメント(8)

• フリーク総会

  俳優組合の総会への案内状をもらったので、様子を見に行ってきた。よく分からないが、このような組合の総会が年に２回くらいあるらしい。総会の前後にはさまざまなワークショップも催される。会場はトロントの街中にある大学の８階建てのビルの講堂で、集まった組合員は2000人くらいだろうか。とうぜん美男･美女が一同に会するのだろうと想像していたが、とんでもない。俳優といっても映画やTV番組の主役級を務めるような人はごく一握りであって、脇役として一生を終えるような俳優が業界の大多数を占めているのだ。しかも、俳優にはとうぜん子役もいれば老人もいる。東洋人もいればインド系やイスラム系もいる。人並み外れた肥満や長身を売り物にしている俳優もいれば、さらには「身体障害俳優」というジャンルもあって、車椅子に乗った俳優やダウン症の俳優、さらには手話通訳者をつけた聾唖の俳優までが参加していた。それに、こんなヤクザな世界で生計を立てている連中だから格好も個性的、一般社会で開催されている集会とは一見して様子が違う。会場はまさにフリークショー、見世物小屋といった感じであった。ステージに近い前の方の席にはTVで見たことのあるような“有名な”俳優が着席していて、ほかの圧倒的多数の脇役俳優たちと違って“スター”のオーラを放っている。オレの偏見かも知れないが、ほかの無名俳優が「個性的だけど、そのへんのどこにでもいるオッサン・オバサン、ネーちゃん･ニーちゃん」といった感じなのに対し、前の席の有名俳優たちは、にじみ出る自信というか、「違う世界の住人」といった雰囲気がある。総会の冒頭で「前回の総会以降に加入した新会員は立ってください」と言われたのでおそるおそる起立しながら周りを見たら、オレ以外に５人くらいいた。まあ、遠慮して起立しなかった人や今回不参加の人もいるだろうから、こうして仮会員として組合入りする俳優がきっと年間2～30人ずつくらいいて、テレビや映画への出演回数を重ねて正式会員に格上げされる前に、櫛の歯が抜けるように脱落していくのだろう。意外だったのは、参加者の年齢層だ。ジーさん・バアさんがやたら多い。もしかしたら、参加者の平均年齢は50歳を超えていたのではないだろうか。総会の後で、オレのような新入の仮会員のためのミーティングが別箇にあって、とうぜん駆け出しの若い連中が集まるものかと思ったら、大多数はやはりオッサンやオバサン･バアさんだった。どう考えても「年をとってから老人役の俳優としてデビューしました」といった感じではない(笑)。きっと、主役級の仕事をつかむ前に、年をとって仕事がこなくなったのか、もしかしたら昔は主役級の仕事をしていたのが今はほぼ引退状態で、こうして総会にだけはマメに顔を出して旧交を温めているのかも知れない。総会やワークショップの話を聞いていてようやく理解できたのだが、俳優の世界というのには仕事のヒエラルキーがあって、この世界に入る連中はまずはいわゆる「エキストラ」と呼ばれる“生きた背景”の下積み(時給1000円前後)から始めて、そのうちTVドラマの“セリフなし”の役やCMの仕事がもらえるようになり、さらに出世するとTVや映画の「ひと言セリフ」のチョイ役(時給5～6000円)をもらい、そしてちゃんと役名のある「数行以上のセリフの役」(時給7～8000円)、さらには主役級(報酬は青天井)へと出世していく。要するに、オレのように何の下積みもなく、いきなりハリウッド映画にちゃんと役名のある「数行以上のセリフの役」をもらって俳優組合入りするようなケースは例外的だということだ。みんな、俳優学校(アクター･スクール)なんかに通って演技を学びながら、何度もオーディションを受けては不合格に甘んじ、いつか役を得ることを夢見ながらエキストラだの副業で食いつなぐところから始めるのだ。そして、その過程でごく一握りが生き残って俳優業だけで食えるようなプロの地位を獲得する一方、圧倒的大多数はセリフなしの脇役以上の日の目を見ることなく年をとったり、やがて副業が正業になって俳優の道を諦めたりするのだろう。そして、この世界の残酷なのは、スポーツなんかの世界とちがって、客観的に才能もあって、かつ努力を重ねれば必ず成功するかというとそうではなく、圧倒的に“運”だの“主観”に左右されるということである。あるベテラン俳優がワークショップの際に言っていたが、「この業界に“正義”だの“公平”だのいった言葉は存在しない」のだ。たとえば、ある映画のオーディションに10人の俳優が参加して、その中に、候補者の誰が見ても圧倒的に抜きん出た演技力の持ち主がいたとする。しかし、そのオーディションの前に相手役の配役がすでに決定していて、監督は、何よりもまずその相手役とバランスがよさそうな候補者を探している。結局、演技力はイマイチでも、監督の相手役としてのイメージにピッタリだった新人が抜擢される。誰が見ても実力が抜きん出た俳優には声が掛からない。ほかの業界なら「不公平だ」とかいった不満の声が上がりそうな選定だが、これがこの業界の本質なのである。そういえば、総会の後で、とあるワークショップが開かれている部屋の前を通りかかったとき、髪の毛はボウボウに伸び放題で、妙な笑顔を浮かべた浮浪者まがいの東洋人のオヤジが部屋から出てきたのとすれ違った。オレは一瞬、何かの役作りでそんな風体をしているのかと思ったが、鼻を突く酸っぱい体臭とフケだらけの髪の毛を見てそうではないことをすぐに悟った。何のワークショップかと思って部屋の前のカンバンを見たら、エキストラ向けのワークショップであった。どんな事情があるのかよく分からないが、どう考えてもこのオヤジがセリフのあるマトモな役をこなせるとは思えない。たまにエキストラ仕事をしながら本当に浮浪者まがいの生活をしているのかも知れない。きっと、この業界しか知らずに年をとってしまうと、もはやマトモな仕事になど就けないのだろう。業界から足を洗うにも洗えないのだ。俳優業の最底辺を垣間見たような気がして、こんなワークショップに参加する身にだけはなりたくないと思った。

  2010.02.20

  コメント(9)

• JDサリンジャーの件

  昨年のレヴィ・ストロースのときと同様、JDサリンジャー死去のニュースを聞いて「まだ生きてたのか？」と思った人は多いのではないか。91歳だったそうである。世代としてはオレの祖母さんと同じである。オレより２世代も上のジイさんが、全世界で6000千万部以上を売ったとされる“青少年のバイブル”『ライ麦畑でつかまえて』を書いていたのである。出版されたのはもう60年も前のことだ。日本の大学時代、親友が自殺する数ヶ月前に『ライ麦畑...』の和訳版を読んでいた。白水社かどっかの新書版だった。読むように勧められたが、既読であるフリをして断った。あら筋は何かで読んで知っていた。実際どっかで立ち読みしたことがあったかも知れない。訳文の文体が気に入らなかった。アメリカ人少年の主人公に「僕は、○○だと思うんだな。」みたいな、裸の大将山下清が気取ったみたいなセリフをしゃべらせている訳に無理があると思った記憶がある。その後、アメリカの大学に留学中、古道具屋で『ライ麦畑...(Catcher in the Rye)』と『Nine Stories』(の原書)を見つけた。出版されて間もない頃の、古臭いカバーデザインのペーパーバックだ。発売当時の価格が50セントくらいだったろうか。オレはそれを古本でそれぞれ２ドルくらいで買って読んだ。今思えば初版本だったかも知れないが、保存状態がよくなかったので、読んでいるうちに装丁が崩れてボロボロになり、『ライ麦畑...』の方は捨ててしまった。『Catcher in the Rye』はもはや誰も使わないような口語表現がたくさん出てきたが(２世代前のアメリカの話だ、無理もない)、どこに行くのか先行きが予想できないストーリーはなかなか面白かった。和訳ではとぼけたキャラに描かれていた主人公は、原書で読んだら結構アグレッシブで、やっぱり原書で読んでよかったと思った。コドモがオトナになる過程で経験するホンネとタテマエだとか真実と虚偽との葛藤だとか、自分がどこに行くのかといった不安だとか空虚感だとかいったテーマが少年の視点でストレートに書かれているのは、60年前にはたしかにショッキングだったに違いない。半世紀も前に書かれた小説が国境や世代を超えて青少年の心にアピールするというのは、近代以降の青少年がみんな同じような葛藤や不安を経験しているからなんだろうと思った。ただ、出版当時は内容が「衝撃的」だったので、禁書扱いにされたこともあったらしいが、現代人が読んでも何が衝撃的なのかピンと来ないに違いない。オレも読んだ当時は20代半ばになっていたこともあり、「衝撃」を受けて人生が変わったり、ましてや自殺を考えるような内容ではないと思った。たとえばジョン･レノンを射殺した犯人がこの本を愛読していた話は有名だが、オレの親友が自殺したのはこの本とは直接関係はないだろうと思った。『Nine Stories』のほうは文字通り９つの短編を集めた本だが、これはなかなか面白かった。あちこちで禅や俳句といった日本文化への言及があったが、単なる東洋趣味ではなく、ホントに理解しているっぽかった。サリンジャー自身の話と思われる作品も面白かったが、主人公が最後に自殺するような、虚無感に満ちた文体や雰囲気の短編が好きだった。あれはきっとサリンジャー自身の戦争体験が影響してるよなあと思って読んだ記憶がある。サリンジャーが人嫌いのマスコミ嫌いで、前述のような作品をいくつか発表したあとは高さ２mの塀に囲まれた片田舎の自宅で半世紀以上にわたって隠遁生活を送っていた話は有名だが、先日ニュースで聞いて興味深く思ったのは、彼は発表･公表していないだけで、過去50年の間自宅にこもって延々と創作活動を続けていたという話だ。オレなんかは、誰かが読んだり見たりして「いい」とか「面白い」とか言ってくれもしないものを書いたり描いたりする気がしれないのだが、彼は誰に読んでもらわなくとも、独りで創作していて幸せだったようだ。サリンジャーが妙な遺書でも残していない限り、それらの莫大な草稿は、おそらく彼の遺族(10年くらい結婚していた元妻との間に２人の子供がいるらしい)によって公表･出版されることになるのだろう。マイケル・ジャクソンではないが、それらの遺作はきっと死去のニュースが後押しして、売れるに違いない。オレもいちおう書評をチェックした後で買うだろうと思う。何年か前に、「JDカリフォルニア」を名乗る者が『ライ麦畑...』の“続編”と称する作品を発表してサリンジャーに訴えたれていたらしいが(笑)、もしかしたら彼自身がひそかに続編を書いていた可能性もある。最後に余談だが、喜劇王チャップリンがロリコンで、10代の少女と結婚した話は有名だが、実はその少女はチャップリンの前にサリンジャーと交際していたという話がある(笑)。ウィキペディアの日本語版ではサリンジャーの「イノセンス(無垢さ)」へのこだわりについて強調されていたが、彼自身にロリコンの傾向があったとしたら、オレとってかなり納得のいく話である。

  2010.01.29

  コメント(10)

• 

  撮影終了ﾊﾟｰﾃｨ(２)

  （昨日のつづき）ミラとアンダーソン監督が到着したのは、10時過ぎくらいだったろうか。会場の参加者はもう現場で始終顔を突き合わせ、いわば“スター馴れ”しているので、彼らの到着にいちいち騒がない。「あ、ミラとMr. アンダーソンがきた！」とひとりで騒いでいるのはシロウトのオレだけらしい(笑)。現場でスターの素の姿を見慣れている業界連中は、カネを出してスターを見に行く一般人と違って、スターに対する幻想なんて抱いていないんだろう。一部、参加者がエスコートに連れてきたガールフレンドみたいな連中だけが、ミラやアンダーソン監督に紹介してもらったついでに一緒に写真を撮ってもらったりしている。自分の出番のあるシーンの撮影がとっくの昔に終了してLAなりNYに戻っているのであろう、オレのようなゲーノー界に疎いヤツでも名前を知っているようなほかのビッグな俳優たちは、その後やってくる様子はなかった。見掛けたのは、招待のEメールをもらったときに名前を見掛けた、韓国系アメリカ人役の中国系カナダ人俳優(…ややこしいな)とか、地元のカナダ人俳優だけだ。キャプテン･ホタカ役とおぼしきガタイのいい中年アジア人オヤジもいたが、本人にキャプテン役のアキヤマさんか日本語で訊いたら、英語で「人違いだ」と無碍にあしらわれた(笑)。実は本人だったんだけど、単に見ず知らずの東洋人のオヤジに話しかけられて鬱陶しかっただけかも知れないけど(笑)。それにしてもちょっと興味深いのは、現場スタッフの“スター馴れ”は容易に理解できるとして、前述の“業界末端”俳優たちや、地元カナダ人の俳優たちも、ミラと監督の到着に騒ぐ様子のないところだ（オレが撮影のときに一緒だった「狙撃者その１」のクリスは、現場でミラと会話を交わしたときかなり興奮してたけど(笑)）。ミラやほかのビッグネームの俳優と一緒に撮影する出番なんてほとんどなかったろうから、“スター馴れ”というわけでもないだろう。するとそれはあれか、「自分とは格が違う」という、劣等感の混じった遠慮なのだろうか。あるいは、「いつかは自分だって…」という、ライバル意識による牽制というか矜持なのか。あるいは、「あ、監督やミラに売り込もうと、営業活動してやがる」と思われたくないのか。あるいは、それらすべてが入り混じった感情なのか(笑)。監督とミラが到着してまもなく、会場のあちこちの壁に「NG集」ムービーが投影された。部外者はお目にかかることができないようなぶっちゃけシーンばかりだ。参加者たちは大いに盛り上がっている。かくいうオレも、こんな貴重な裏シーンが見られただけでもこのパーティに来た甲斐があったなあ、と思う(笑)。そして、自分も現場でこれらのシーンを参加者のみんなと共有したかったなあ…という自分でも意外な願望が心中に沸き起こるのに気づく。ところで、アンダーソン監督とミラが座っているブース席に、このパーティにはオレ以上に場違いな、一見して一般人といった風情の70代後半とおぼしき老夫婦が座っているのに気づいた。おそらくミラかアンダーソン監督の両親だろうかと思うが、ミラの母親はもともとロシアで女優をしていたような人なので、あのいかにも「普通の人」といった感じはアンダーソン監督の方のご両親だろう、と思う。撮影終了パーティのために、イギリスからわざわざ呼び寄せたのだろう。やっぱりアンダーソン監督って“お坊ちゃん”なんだなあ。もう深夜12時になろうかという頃、アンダーソン監督がその老夫婦を伴って、クラブの階段を登って出て行った。もうご就寝の時間のご両親を送っていくのだろう。しばらくしてクラブの階段を降りてきた監督と目が合ったので挨拶したら、奇跡的に端役のオレのことを覚えてくれていた。ホントかどうか知らないが、ミラがなかなかいい演技だと褒めていたよ、とか言う。世辞だとしても、ドシロウトのオレにどうしてこんなに優しいのだろうか。グスン。まあ、ホントにいい人なんだろう(笑)。ちなみにさきほどの老夫婦は、婦人の方は母親だが、父親はすでに他界しているのだと言っていた。通りすがりに呼び止めておいて、とくに共通の話題もなかったので、オレはふとミラが主演している封切まもない映画｢フォース・カインド｣を見てきたという話を監督にした。しかし、自分の妻が主演しているとはいえ、(おそらくは)よく知らない誰かが撮影している、自分とはジャンルの異なる映画だし、自身の映画の撮影で多忙な監督はよく知らない様子である。アンダーソン監督が、オレがミラ本人と直接話せるよう計らってくれたのは、そういう経緯であった。オレは、ミラがほかのスタッフとの会話に没頭しているところに割って入るのに心底恐縮していたが、ミラはというと、監督がどこからか連れてきたオレに不審な表情を見せることもなく、まるでニホンからのお客さんに対するかのような満面の営業スマイルで(笑)、オレの｢フォース･カインド｣の話に付き合ってくれた。昨日の日記に書いた同映画中の記録映像に関するタネ明かしをミラがしてくれたのは、そういう経緯である。それにしても、メイクや照明や画像処理といった｢ハリボテ｣の努力とは無関係に、本当に才能のあるスター、カリスマというのは確かにいるものだ。ミラは、言うまでもなく、そんな人物だ。そういう人はきっと、ほかの有名人にありがちなように、周囲の人間にヘンに高圧的になったり見下したりしないのだろう。部外者であるオレに掟破りの映画のタネ明かしになるようなことを訊かれたり、一緒に写真を撮ってくれと言われても、イヤな顔をせずに営業スマイルで要求に答えてくれる。一方そういうオレはといえば、一緒に写真を撮る際、スーッと顔を寄せてきたミラの体温を感じて、死ぬほど緊張していた(笑)。ところで、オレがミラと写真と撮り終わり「一生の宝物にします」とミラに礼を言ってブース席を後にしたとき、いつの間にかブース席の周りにはデジカメを持った着飾った男女が何人かたかっていた。今まで遠慮していたのに、単なる端役とおぼしきニホン人が図々しく一緒に写真を撮ってもらってる様子に気づき、これをチャンスと堰を切ったように集まってきたのだろう。やっぱりみんな遠慮していたのか(笑)。ようやく撮影が終わって疲れていたろうに、ミラには悪いことをした。『フィフス･エレメント』のミラ　帰宅の車の中で、オレの興奮は冷めやらなかった。その高揚感は、アメリカの大学時代、当時のガールフレンドとついに交接に至ったあのときの興奮に次ぐものがあるなあ、とオレはハイウェイを飛ばしながら考えていた(笑)。10年前に市川の自宅アパートで観た「フィフス・エレメント」のあのキレイな女優さんが、それから10年後、頭を並べてツーショットを撮ってくれようとは。なんというか、美しく輝くある惑星に、宇宙をさまよう名もない隕石が、何億分の１かの確率でたまたま接触した瞬間というべきか(笑)。英語で”star-struck”という言葉があるが、シロウトがスターと接触して熱を上げている、といった意味の形容詞だ。ほんのさっきまで、自分はスターの世界に幻想を抱いていない云々などと考えていたオレも、ミラとの接触で、まさに「スター･ストラック」した状態になっているじゃん！と思った(笑)。でも、ミラは特別だ(笑)。映画界とのご縁なんてもう金輪際ないだろうけど、自分はこれできっと死ぬまでミラのファンになってしまったなあ…と思った。おわり

  2009.12.14

  コメント(10)

• 

  オレとミラ

  ドイモイさんミラに直接きいてきました。あの『フォース･カインド』の記録映像は、作り物だそうです。ぼくもあれを見てそうだと思いました。要するにミラはあの映画で、作り物をさらに演技していたわけですね。(あ、これを読んだ人は、ほかの人には内緒にしておいてくださいね)　でも、あれの元になった記録映像は実際に存在するそうです。ミラはあのノームでの一連の出来事自体は信じてるみたいですよ。あの、ぼくがほんの数秒だけ登場する肝心の映画のほうですけど、来年９月公開の予定だったのが、なんと再来年の１月(要するに１年後！)にズレ込むそうです。なぜかというと、この映画は3D映画になるのですが、3D化を担当するのが『タイタニック』のジェームズ･キャメロン監督の新作『Avatar』と同じ会社で、アヴァターが話題になっちゃって忙しくなったみたいです。ところで、ほんの数秒だけ登場と書きましたが、この映画の監督のMr. Anderson（ミラのハズバンド）にきいたら、「う～ん、実際には10秒くらいかな(笑)」と言ってました(笑)。ま、１年以上も先のことだし、たまたまこの日記を見た人の大多数は忘れてる頃だと思うので、数秒だろうが10秒だろうがどうでもいいことですね(笑)。それまでにぼく自身が死んでる可能性あるしな～(笑)。でも、ぼくの登場になんて金輪際関係ない人も、これを読んだ人は、もし１年後に予告編か何かを見て思い出したら見に行ってくださいね、バイオハザード４。ミラのアクションを見るだけでもカネを出して観にいく価値があります！ところでぼくは今回の映画出演をきっかけに、メディアでミラ･ヨボビッチについていろいろ見聞する機会が増えたのですが、この人について批判的な発言や記事はこれまで一度も見掛けたためしがありません。俳優というと、典型的なナルシストで、雲の上タイプがほとんどだと思うのですが、この人の腰の低さとプロ意識はこの業界では稀有みたいです。絶世の美人で頭がよくて体力･運動神経も優れていて、演劇だけでなく音楽やデザインでもプロレベルの才能を持ち、おまけに性格がいい(笑)。10年前に主演をつとめた『フィフス･エレメント』では、劇中で「パーフェクト･ビーイング Perfect Being」と呼ばれていましたが、この人はホントに人間としてカンペキに近い人なんだろうと思いました。「犬どもに神なんていない」歌もうまいよなあ。パンクが入ってるし(笑)。歌詞もすごくいいんです。画像をクリックして聴いてくださいね。パーティ自体についてのレポートは後日につづく

  2009.12.12

  コメント(8)

• パーティ

  ９月下旬にクランクインした例の映画の撮影がようやく終了したらしく、撮影納めパーティ(業界では Wrap Party というらしい)への招待のEメールがきた。あまりよく考えずに｢参加｣の返信をしてしまったが、会場となるクラブをインターネットで検索してみたら、トロントではおそらく最先端とおぼしきシャレたクラブらしく、ちょっとだけビビってしまった。そういえばオレは先週、日加協会メンバーの知人への義理で同協会の“忘年会”パーティに参加してきたのだが、行ってとても後悔した。協会メンバーのオッサン･オバチャンが参加者の中心となる地味な忘年会を想像していたら、会場はイタリアン･レストラン、参加者のほとんどは学生風情でしかもカナダ人男性と日本人女性という組み合わせだったからだ。要するに､この“忘年会”とやらは実質上カナダ人野郎と在トロントの独身日本人女性との出会いの場と化していたのである。カタコトの日本語でさかんに日本人女性にアプローチをかけるちょっと冴えないカナダ人男性たち、たとたどしい英語でイエース、イエースなどと返事をし、まるで英会話サークルみたいな感じで懸命に意思疎通を試みる日本人女性たち、冴えないカナダ人男性にさえ声を掛けてもらえずにムスっとした顔でブースの端っこにポツンと座り続けている30歳前後の日本人女性たちetc.が会場のレストランを占め、あとは最後のスピーチのために参加していると思しき年配の協会中心メンバーが６～７人いるだけであった。おまけにオレを誘ってくれた協会メンバーの知人は急用が出来たらしく不参加で、居場所のないオレは、唯一面識のあったその知人の(東欧出身の)ハズバンドと場違いな中年オヤジ同士で弾まぬ会話を交わし、あとはテーブル上の食い物だけテキトウに食って、とっとと帰ってきたのであった。今年は知人への義理だけで参加したものの、来年は誘われてもゼッタイ行くまいと思った。それはそうと、今回のパーティはハリウッド映画の打ち上げパーティなわけだから、どんなに場違いでも、一生に一度の経験として意地でも出席しないわけにはいかない。オシャレなクラブにいわゆるセレブたちが着飾ってやってくるわけだろうが、着飾るような衣服を持っていないニワカ俳優のオレとしては、シロウト代表の見学者として堂々と普段着で参加させてもらおう。ところでパーティ招待メールのオレ以外の配信先を見たら、日系カナダ人名らしきアドレスが５つくらい並んでいた。今回の映画では日本人役が全部で５つくらいあったから、たぶん日系俳優全員にまとめて送信したのだろう。うち何人かは本名(あるいは芸名)をそのままアドレスに用いていたので、それらの名前でGoogle検索してみたところ、いずれもプロの俳優であることが判明した。そうか、シロウトはやっぱりオレだけだったか(笑)。いずれも俳優年鑑みたいなウェブサイトに顔写真付きでプロフィールが載っている。たとえば、この年季の入った顔のオッサンは、「40代後半、鍛えられたプロの兵士といったタイプ」と台本に書かれていたキャプテン･ホタカに違いない。これまでに出演した映画やテレビ番組のクレジットも無数にある。こんなベテランのオヤジがオーディションを受けているのだから、オレのようなシロウトがキャプテン役に抜擢されないのも当然である。この顔は、おそらく一番セリフの多かった日本人技術者役だろう。白衣がよく似合いそうな理工系の顔(＆髪型)である。こいつは日系ではないので、映画に登場する唯一の韓国系アメリカ人役の俳優だろう。ワシら脇役の登場人物はみな最後に何らかの形で殺されるのだが(笑)、こいつのはたしか斧か何かで脳天から真っ二つに唐竹割りされるという最悪の死に方を迎える役だった。まあ、そんな日系俳優なんかはどうでもよくて、オレはとしてはとにかく主演のミラ･ヨボビッチとお話しをする機会があればもうそれでいい。たとたどしい英語でイエース、イエースなどと空返事をしながら、典型的な日本人オヤジになりきって破廉恥行為に及ぶとか、大麻擁護論者として知られるミラとともに一服しながら言葉を用いずに形而上的な会話をするとか、いろいろ妄想は膨らむのである。

  2009.12.10

  コメント(14)

• 

  サウスパーク　主人公４人組及び製作者について説明する

  サウスパークというアニメはもともと、当時コロラド大学の学生だったトレイ・パーカー(音楽専攻)とマット･ストーン(数学専攻)の２人がたまたま選択科目として履修していた映画のクラスで知り合い、クラスの演習で製作した工作紙アニメが原点になっているそうである。ほかのクラスメートたちがシリアスな実験映画などを製作している中、２人は「下ネタのバカバカしいアニメを作らないか？」ということで意気投合し、サウスパークの主人公４人の原型となるキャラクターを登場させた『イエス･キリスト VS. 雪だるま』というショート･アニメをストップ･モーションのコマ撮りで製作した。後々、これを発展させた同様の工作紙アニメ『イエス･キリスト VS. サンタ 』というショート･アニメがインターネットにアップされ評判となり、テレビ局から声が掛かって現在のサウスパークのシリーズに至っている。ちなみにこの４人組を含めたサウスパークの登場人物たちの多くは、この製作者２人自身をはじめ、彼らの周囲の実在の人物がモデルになっているそうである。また、これらのキャラクターの大多数はこの製作者２人が声色を変えて声優を担当している。ちなみに主人公4人のうちカートマンとスタンはトレイ・パーカーが、カイルとケニーはマット･ストーンが声を担当している。トレイ･パーカー(左)とマット･ストーン余談だが、トレイ･パーカーは妻が日本人であり、サウスパークの作中にもときどき日本文化のパロディ(ゴジラ映画やポケモンなどのアニメなど)が登場する。一方マット･ストーンは高校生男子２人による校内大量殺戮事件で有名になったコロンバイン高校の卒業生で、マイケル･ムーアのドキュメンタリー『ボウリング･フォー・コロンバイン』に登場しマイケル･ムーアのインタビューを受けている。さて、以下が主人公の小学４年生４人組である。カイル Kyleサウスパークというコロラド州の田舎街に住む数少ないユダヤ人一家の長男。毎回のエピソードでカートマンと「このユダヤ人が!｣｢黙れ、このデブ野郎！｣と罵り合っている。一家がユダヤ教信者でほかのクラスメートと異なる慣習に従って生活しているため、しばしば孤独に感じている。また、熱心な教育ママの母親がリーダーとなって学校や行政を糾弾することも多く、そんな母親の暴走ぶりに本人は困惑している。成績は優秀で、各エピソードで持ち上がるさまざまな問題に解決策を示す役回りになることが多い。ちなみにこのキャラのモデルはマット･ストーン本人だといわれている。カートマン Cartmanファーストネームはエリックだが、登場人物の中で唯一苗字で呼ばれている。古今東西のドラマやアニメ番組の主人公としては類例を見ない極めて悪質で非情なキャラであり、その悪辣な性格のために作中の登場人物たちからも避けられているが、サウスパークのファンの間では最も人気が高い。クラスメートからその肥満体を馬鹿にされているが、本人は常に“骨太”なだけだと言い張っている。シングルマザーの母親は元ポルノ女優で、一見すると穏やかで常識的な外見ながら、息子の知らないところでは教師や警察官をはじめとする町内の男性たちとヤりまくっている(笑)。そんな母親に甘やかされて育てられたせいか、言動や行動は常に自己中心的でクラスメートたちに対しても徹底的に意地悪で、弱者にも容赦がない。どんな悪事をはたらいても反省のカケラもなく(笑)、身障者やマイノリティを平気で笑い飛ばして恥じず、優しさや良心をうかがわせる素振りさえ見せない。特にカイルに対して妙な敵対心を抱いており、普段は怠け者であるくせにカイルを貶めるためなら異常なまでの執念と根性を発揮する。毎エピソードのように問題を起こしては学校や町内を混乱に陥れるが、時に類い稀なカリスマ性を発揮しオトナまでを巻き込んで宗教や社会運動を興したりする。サウスパークという番組には欠かせないキャラである。ケニー Kenny生活保護を受けている貧乏な家の次男坊。その貧乏をいつも仲間にバカにされている。毎エピソードで目を覆いたくなるような悲惨な死に方で殺されてしまう悲運のキャラ。毎回死んでも次のエピソードにはいつも生き返って登場していたが、一度“本当に”死んでしまい(笑)、６シーズン目はまるまる１年間登場しなかった。しかし代役のキャラが見つからなかったためか、翌シーズンに生き返って復活した。日本では不思議とこのケニーの人気が高く、YouTubeなどで出回っている、各エピソードでのケニーの死に方をまとめた日本語吹き替え動画は数10万ヒットを記録している。ちなみにいつもフードを被っているため何を言っているか分からない(しかし仲間内ではちゃんと会話が成立しているらしい)。唯一、映画版では最後のクライマックス･シーンでフードを脱いで見せ、実はブロンドの美少年であったことが判明した。スタン Stanサウスパークの代表的キャラ。主人公４人組の中では唯一これといった特徴のない、若干口が悪い程度の典型的なアメリカ人少年キャラである。父親は地質学者で、いつも弟をいじめている意地悪な姉がいるが、これはトレイ･パーカー自身の家族がモデルになっているからだと言われている。4人組の中では唯一ガール･フレンド(ウェンディ)がいるが、作中ウェンディとラブラブなシーンになるたび、いつも気分が悪くなってゲロを吐いてしまう(笑)。

  2009.11.27

  コメント(4)

• 

  オレが好きなサウスパーク･キャラ ベスト６

  先日の日記をはじめ、このブログでサウスパークについて何度か言及しているが、訪問者からはほとんど反応がないことを毎回心外に思っている。地元アメリカはもちろん、ヨーロッパや中南米、果てはイスラム圏のトルコでも現地語に吹き替えられ、世界中でファン層を拡大しているこの番組には国境を越えた魅力があると思うのだが、日本ではコアなファンが存在することはするものの数シーズンで打ち切りになってしまうほど話題にならない。オレは個人的にはこんな面白いTV番組はこれまでにもなかったし今後もないだろうと思うくらい手放しに面白いと思っているのだが、それが日本で話題にならないのは、ギャグの翻訳がヘタなのか、肝心の面白い部分が放送禁止処分でカットされているのか、あるいは日本の視聴者は意外とイスラム圏のトルコ以上にタブーなネタに敏感なのか、理由はそんなところにあるのかと勝手に想像している。ところでオレはかねがね「サウスパークの登場人物　私的ベスト10」というのをこのブログで書きたいと思っていたのだが、先日日記で言及したばかりでちょうどいいタイミングなので、これを機に書くことにした。ただ、この番組を見たこともない人に「主要キャラ(主人公４人組)」と「脇役キャラ」を一緒くたにして紹介しても誤解を招く可能性があるので、今回は脇役キャラのベスト６を紹介し、主要キャラ４人組については後日順列をつけて紹介したい。なお、説明不要だとは思うが、どうしてベスト５でなくてベスト６かというと、あとで主要キャラ４人を足せばベスト10になるからである。オレが好きなサウスパーク･キャラ（キャラ画像をクリックすると、登場エピソードにジャンプ)　第１位　　バターズ　Butters　主人公４人組のクラスメート。その言動･行動がことごとくドン臭くてズレていて、学校ではクラスメートにナメられいつも利用されている。おまけに家でも両親に何かと言い掛かりをつけられては叱責や体罰を受けている。ある時は忍者ごっこで主人公４人組の1人が投げた手裏剣が目に刺さり、病院に連れて行くと親にバレるてしまうことを怖れた４人組に無理やり犬の格好をさせられて獣医科に連れて行かれ(笑)、人間だと気づかない獣医に檻に入れられた上に犬どもに小便やクソを引っ掛けられ(笑)、ある時は2500万円で買い取りたいというパリス･ヒルトンの申し出を受けた親にあっさり売りに出され(笑)、クマのぬいぐるみを着せられてパリス･ヒルトンのペットにされてしまったり、毎シーズン散々な仕打ちを受けているが、そんな絶望的な立場を意に介すことなく(笑)なぜか楽しそうに生きている。性根が優しいため、あるエピソードでは莫大な金を儲けたにも拘らず、横取りしたくてウズウズしている主人公の目の前で、発展途上国の子供たちに送るのだと言ってお札を１枚１枚封筒に入れて宛名を書いていたりする。オレがいつも見習いたいと思っているキャラ。２位タオリー Towelie超小型コンピュータ･チップを埋め込まれた、人間と会話が出来る高性能タオル。タオルのくせにマリファナ中毒で、悪習を絶とうと頑張ってはいるが、いつも誘惑に負けて｢あと一服だけ…｣「これが最後…」と言いつつ結局いつになっても大麻を吸い続けている(笑)。大事な場面でも、ポパイがホウレン草の缶詰を食べるように大麻を一服するが、結局いつも頭がどんよりして自分が何をやっていたのか忘れてしまい、どうでもよくなって投げ出してしまう。人に会うたびに「You wanna get high?」とジョイントを差し出し一服勧めようとする、とんでもないタオル。いかにも製作者が「鼻クソほじりながらテキトウに考えました」というのが明白に打ち出された、キャラのそのいい加減さがいい。３位ティミー Timmie主人公たちのクラスメート。電動車イスに乗った身障者で、おまけに知恵遅れで何を話しかけても自分の名前「ティミー！」を叫ぶのみ。しかし、前衛バンドのボーカルに抜擢されてデビューしたり、学芸会のヘレン･ケラーの劇で主役を演じたりと、身障者を腫れ物のように扱おうとする大人たちの批判や、心身両面のハンディキャップをものともせず、健常者たちに囲まれて大活躍している。ちなみに、タブーとも言えるこの障害者キャラを番組に登場させる際、テレビ局側は相当の難色を示したらしく(笑)、日本で放映された吹き替え版でもティミーの登場シーンの多くがカットされているらしい。しかし、BBCによる調査によると、イギリスの身障者の間で最も人気のあるTVキャラクターはこのティミーだそうである。４位　Mr. ギャリソン Mr. Garrison　主人公たちの担任教師。40代独身。児童の前で平気で差別発言をする問題教師。シーズン初期にはいつも右手にパペット(Mr．ハット)を装着し、ゲイであるとされるそのパペットの口を通じて腹話術で問題発言をさせていた。シーズン数年目に自分自身がゲイであることをカミングアウトし、パペットを棄てると同時に「Mr. スレイブ」と呼ばれるレザー･スーツを着たハード･ゲイの男と同棲を始めた。あるエピソードではゲイであることを理由に教職をクビになれば学校を訴えて莫大な慰謝料をせしめることができると考え、教師補佐として教室に連れてきたMr. スレイブを児童が見ている前で折檻したり、しまいにはネズミを後門に突っ込んで児童たちを唖然とさせたりしている。数年前に性転換手術を受け女性となり、現在は児童たちにMrs. ギャリソンと呼ばせている。第５位Mr. ハンキー Mr. Hankeyクリスマスになるとトイレの中から現れる、人間の言葉をしゃべるクソ。普段は下水道にクソの妻と３本のクソ子供と住んでいる。いつも繊維質の多い食物を食べている子供たちにだけプレゼントをくれる。クソのクセに礼儀正しく、かつエコロジーに詳しい。登場人物の子供たちにも尊敬されている。大人たちの目にはただの人糞にしか見えないことが多い。第６位アイク Ike主人公４人組の1人であるカイルの弟。養子縁組でカナダ人夫婦からカイルの家にもらわれてきた。カナダ人なので、サウスパークに登場するほかのカナダ人と同様、目は黒丸で、頭部が上下に割れてパクパクとしゃべる。番組に登場した当初は毎回兄のカイルに付きまとい鬱陶しがられては「“キック･ザ･ベイビー”遊びをしよう」と言う兄にフットボールのように蹴り飛ばされていた。赤ちゃん言葉しか喋れないが、現在は知能が非常に高いことが判明し、飛び級で幼稚園に入れられ級長を務めている。数年前のエピソードでは３歳のクセに幼稚園の先生と恋に落ち肉体関係を持った上、イタリアに駆け落ちを図った。

  2009.11.26

  コメント(13)

• 

  10歳のテロル

  さいきんヒマなときは『サウスパーク』のDVDを鑑賞している。かつて この日記でも何度か言及したが、サウスパークはアメリカのコメディ･チャンネルで放映されている切り紙アニメである。一見するとかわいいキャラが繰り広げる子供向けアニメのようだが、その中身はといえばエロ･グロ･差別用語に満ち満ちた、日本ではとても放映できないようなオトナ向け番組である。(注．何年か前に、日本では放映できない内容をカットした状態で日本でもWOWで放映されていたはずなのだが、どうやら打ち切りになったようである) 日本語吹き替えの映画版があるから借りて観てねオレはケーブルTV契約にコメディ･チャンネルを入れていないので、1年分のエピソードを収録したDVDが発売されるたびに購入しているのだが、昨年分でついに12巻に達した。放映開始から10年以上経つというのに飽きがくるどころか、そのヤバいギャグの勢いは衰えを見せない。つい最近のエピソードでは日本の捕鯨やイルカ狩りがテーマになり、テンノー陛下が脇役で登場するは(笑)、(切り絵アニメなのに(笑))原爆の写真まで出てくる始末だ。このアニメの魅力のひとつは、主人公たちの年齢が「小学4年生」であるところだと思う。肉体的にはまだ第二次性徴を迎える前だが、知的にはオトナと張り合えるくらいに発達した、コドモの顔をした怪物。純粋さと狡猾さが同居した小4の主人公たちは、毎回エピソードでオトナの世界の矛盾だの偏見を鋭く突き、そこがこの番組の“過激な”ユーモアのソースになっている。オレが毎回このアニメを見て爆笑させられてしまうのは、この小学生とオトナたちのやりとりである。子供の立場上、オトナたちにいつも一応は服従しつつも、時には純粋な疑問をオトナにストレートにぶつけ、時には大人顔負けの陰謀を仕組んで、ジョーシキという名の偏見に絡め取られたオトナたちを混乱に陥れる主人公たちの姿は痛快である。そういえば先日、風任さんが「サンタさんはどうやって家の中に入ってくるのか」と真顔で訊いてきた息子に、小学４年生にもなってまだサンタの実在を信じているのかと驚いたという話を日記に書いていた。この日記を読んでいてオレが引っ掛かったのは、風任さんが思っているように、小学４年の息子が本当にサンタの実在を信じているのだろうか…という点であった。これが小学２年生の話であれば「まあホントにサンタがいるとまだ信じているんだろうなあ」と思ったろうし、小学６年生であれば「これはどう考えても親の前でカマトトぶってるんだろう」と判断したと思う。しかし小学４年生という年齢が微妙なのである。断言してもいいのは、まともな小学４年生であれば「赤ちゃんはコウノトリが運んでくる」というオトナの説明にどこかウソ臭いものを感じているであろうことと同じように、「クリスマスプレゼントは北極に住むサンタさんが運んでくる」という話がどこかおかしいことに気づいているはずである、ということである。世界中に何億人もいる子供にどうやってサンタが１人で１晩のうちにプレゼントを配れるのか。１軒の家の配達を平均１分で完了できたとして、１軒に２人の子供がいるとしても、２億人の子供にプレゼントを配るのには１億分すなわち約７万日も掛かる。１日で配達を済ますためには７万人のサンタが必要な計算になるが、北極の氷上に７万人のサンタが住むコロニーが存在するはずもないことは、知的に問題のない小学４年生なら(論理的にでないにしても)直感的に分かっているはずである。要するに、小学４年生が「サンタさん」の話を親にするという行為は、どこまでが意識的な演技かは議論の余地があるとしても、(何らかの目的で)明らかに「子供らしさを演じている」すなわちカマトトぶっていると思われるのである。その目的というのは、まあ、親が子供に投影している「カワイイ子供らしさ」という親の幻想を維持しようという(半意識的な)努力と、その努力への見返りとしての(昨年までと同様の)「クリスマスプレゼント」かと想像できる。(もちろん、これがすでにインモウが生えてきた小学6年生の話であれば、100%意識的な演技(あるいは精神発達上の深刻な遅滞)だと考えるのが妥当である。)ところで風任さんはその日記の翌日コメントに「息子がサンタに手紙を書いているのを盗み見してしまった」と書いていた。いかに息子が本気でサンタを信じているかを示す証左ということであろうが、サウスパークの世界に慣れ親しんでいるオレとしては、これは“盗み見”なんかではなく、風任さんが何と言おうが、母親の視線を意識した子供の“ヤラセ”のような気がしてならないのである。微笑しながら部屋の前を通り過ぎていく母親の姿を横目にとらえつつ、「シメシメ…」とつぶやきながら手紙を書く手を止めて引き出しに入れる小４の子供の姿がオレの目にはありありと浮かぶのである。

  2009.11.24

  コメント(16)

• 

  The YAKUZA

  日曜のゴールデンタイムのテレビに、いきなりヤクザのクリカラ紋々がアップで映し出された。何かと思ったら、今日のこの番組の特集の１つは、日本のヤクザの世界らしい。　クリックするとプレビュー動画にジャンプオレが日曜夜に欠かさず見ているこのドキュメンタリー番組は、日本で言えば昔あった『報道特集』に近いが、アメリカの最長寿番組でもあるこの番組の視聴率はケタ違いで、たぶん1億人近いアメリカ人が見ていると思われる。今回の話の中心は、昨年山口組から絶縁された後藤元組長だ。何年か前に、肝臓移植をしないと生き延びられない状態になった元組長は、本来なら永久に入国を認められるはずのないアメリカに、山口組の機密情報をFBIに売るという条件で入国させてもらい、UCLAの大学病院で肝臓移植手術を受けた。元組長が売った情報のおかげで山口組はアメリカの隠し口座にあった何億ドルもの資金を失ったが、組長が絶縁されたのも、この事実が組にバレたかららしい。（一方、アメリカでは通常３年待ちと言われる肝臓移植手術を、日本の犯罪組織のボスが優先待遇でたった半年で受けていたことから、アメリカ国内ではこのヤクザとの取引に関わったFBIなどの関係機関が糾弾された。）…で、もともとこの事実が公になったのは、当時日本の大手新聞社の記者をしていた日本在住のアメリカ人のスクープからであった。本来ならその新聞に掲載されるはずであったこのスクープ記事は、ヤクザ相手に腰が引けた同新聞が掲載を拒否したため、この記者は日本のありとあらゆる報道機関にこのスクープの売り込みを試みた。しかし、根性のない日本のマスコミはどこもビビってしり込みしたため、結局この記事はワシントンポストなどのアメリカの新聞に英語で掲載された。それがその後「海外記事の紹介」という形でようやく日本のメディアに取り上げられ、組の知るところとなったらしい。以降、このアメリカ人記者は後藤組から命を狙われるようになり、新聞社を退社して家族はアメリカに帰国させ、本人は日本に残って警察と公安から身柄の保護を受けている。この番組では、このアメリカ人記者を仲介者として、この番組の女性レポーターが日本のヤクザ幹部に覆面インタビューをしている。このやりとりがなかなかスゴイ。ヤクザは正体がバレないように顔に照明が当たらないようになっていて、首から下しか見えない。いかにも｢闇の大物｣といった感じである。金髪の若い女性レポーターが礼儀正しいしゃべり方でヤクザの世界について基本的な質問をするのに対し、ドスの効いた重々しい声で簡潔に返答する。ヤクザの手元がクローズアップされるが、そこには小指がない。レポーターは「その指はどうしたのですか？」と、優等生のような素直さで尋ねる。部下の失敗の責任を取ったのだと答えるヤクザに、女性レポーターはたたみかけるように「部下はどんな失敗をしたのですか？」「切った指はどうしたのですか？」などと素朴な質問を続ける。日本のメディアではとても考えられないやり取りだ(笑)。また、日本在住10数年というこの仲介役のアメリカ人記者も、ヤクザ世界の恐ろしさを強調するようなセンセーショナルなネタをレポーターに次々と振る(笑)。たとえば、ヤクザ組織の多くは建設会社を抱えていて、殺したヤツを建設現場の基礎に棄ててその上からコンクリートを流すから、死体は絶対に見つからないという話をすると、眉をひそめたレポーターが「…ということは、東京にあるこれらのビルの基礎には、いずれもヤクザに殺された人々の死体が埋まっているということですか！」…などという話に展開する(笑)。アメリカ人記者もそれを否定しない(笑)。カメラは、この記者の自宅にも踏み入る。記者は警察や公安に警護してもらっているだけでなく、自宅にいる時は部屋の窓をすべて閉め切っている。これは、自宅にいても、遠距離から射殺される可能性があるからだという。一旦顔を潰されれば、下っ端のチンピラや若い鉄砲玉どもだけでなく、ゴルゴ13みたいなプロのスナイパーを起用してまでも(笑)執拗に相手の命を狙い続ける…というヤクザのヘビのような執念深さを印象づける(笑)。さらには、組長の襲名式だのの映像まで流して、ヤクザは現代でも日本古来の神道のしきたりに従っているとか、ヤクザのルーツは戦国時代のサムライにあるだの、ヤクザに絡む日本の神秘的な部分もやたらに強調する(笑)。最近は太平洋戦争の記憶が薄れるとともに、日本兵の「冷酷・残忍・非情」といったイメージがすっかり失われ、むしろ宮崎アニメだのポケモンのイメージが浸透したおかげで「日本人」＝「温厚で無害な、怖るるに足りない民族」と思われているフシがある。しかし、今回この番組は、１億人のアメリカ人視聴者に「日本人には実は計り知れない陰の部分があったのだ！」という印象を植え付けてくれた。言うまでもないが、外交上、あるいは国際ビジネス上でもいいが、表向きは紳士の顔をしておきながらも、「いざとなると何をし出かすか分からない」という潜在的な恐怖心を相手に抱だかせておくことは重要である。戦後の日本やドイツの繁栄の背景にも、単に技術力があっただけでなく、戦中の鬼畜行為のイメージが浸透していたおかげで、「いざとなるとどんな仕打ちを受けるか分からないから、あんまりナメないでおこう」と相手国に思わせていたことは大きい。決してヤクザ組織を肯定するつもりはないが、今回この番組で紹介されたヤクザのおかげで、何億円分にも相当する外交上･ビジネス上のPR効果があったことは間違いない。

  2009.11.01

  コメント(8)

• ビデオレンタル

  借りていたビデオの返却期限が今日であったことを思い出し、見ずに返却するのも癪なので、慌てて鑑賞する。まだ観ていなかったのは、３つ借りていたビデオのうちの最後、アル・ゴアの『An Inconvenient Truth（邦題 不都合な真実）』である。さいきん寝る前に自動車業界と石油業界の事情に関する本を読んでいるうちに、地球温暖化についてちょっとおさらいしておこうと思って、今さらながら借りたのである。ちなみにどうして一度に３つもビデオを借りたかと言うと、当初はデカプリオの『11th Hour』と『不都合な真実』の２つを借りるつもりだったところが、レンタル屋のカウンターに持っていったら「２本だと８ドルですが、もう１本借りても９ドルですよ」と店員に貧乏根性を刺戟されて、これもいつか観たいと思っていた『Borat』をついでに借りてしまったからである。結局、ついでだったはずの『ボラット』を一番最初に観てしまい、本来の目的だったはずの『不都合な真実』が一番後回しになったわけである。ところでビデオレンタルの会員になったのはほんの１ヶ月ちょっと前のことだ。チョイ役で出演することになっていた映画の前作を観て勉強しておかねばと考え、そのビデオを借りるために仕方なく会員になったのである。もともと映画ファンではないし、ずっとマラソンだのトライアスロンのトレーニングで忙しかったので、ビデオを観るような習慣がもう10年近くなかったのである。しかしいざ会員になってみると、さいきんトレーニングがヒマになったこともあって、買い物帰りにフラっと立ち寄ったりすると観たいビデオがけっこうあったりするのである。先日部屋の整理をしていた時、10年くらい前の手帳の中から、借りたビデオのリストが出てきた。日本でサラリーマンをしていたその当時オレは市川のアパートに住んでいたが、最寄り駅(行徳)のそばにあった小さなレンタルビデオ屋は、自分が過去に借りたビデオのリストを頼めば印刷してくれるのであった。そのリストを見ていてちょっと意外だったのは、自分が当時マメ(…といっても週に１～２本)にビデオを借りていた事実と、そのリストに記載された映画のタイトルを見ても、あんまりその内容を覚えてもいなければ、「あー、そんなのも見たことあったっけ」と思うような映画も多数あったことであった。映画というのは総合メディアであるからして、音楽や絵画･彫刻や小説のようなほかのメディアに比べて情報量がケタ違いに多く、センシティブなオレなんかは映画を１つ観るたびにすご～く疲れるのだが、オレが積極的に映画を観ない一番の理由にもこの「観ると疲れるから」というのがある。一方で、そんな疲れるくらい食い入るようにして見たビデオの割には、後で振り返ってみるとぜんぜん中身を覚えてなかったりして、あんまり自分の中に残らないものなのかなあ、と思ったわけである。むしろ、たまたま目にした１枚の絵なんかの方がよっぽど衝撃の余韻が大きかったりするくらいだ。…実際、さっき感心しながら観たばっかりの『不都合な真実』も、どんな映画だったか言ってみろと言われると、いくつかのシーンやデータを断片的には覚えているが、２時間の中身のうち10分の1も説明できないような気がする。数日前に観た『11th Hour』に至っては５％くらいしか頭に残っていないのではないか(笑)。まあ、この年になると、何か大きな衝撃だとか、人生が変わるような大きな感動なんかを求めて映画やビデオを観るようなこともなくなり、むしろこの期に及んで人生が変わるようなものを見せられても迷惑なくらいだ(笑)。だから、『Borat』のような偽ドキュ･コメディであれ、不都合な真実のような啓蒙ドキュメンタリーであれ、その場で感心したり笑って後は忘れるような、単なるエンターテイメントとして映画を観るものOKということにしよう。覚えていなくとも、自分にとって意味のあるメッセージは、何らかのかたちで自分の中に残るんだろうし。

  2009.10.29

  コメント(6)

• てつやちゃんのかえるいえ（後半)

  前回からのつづき８．てつやちゃんが目をさましたとき、あたりはもうまっくらになっていました。空にはほしがかがやいています。あれほどいっぱいいた虫は、どこに行ってしまったのか、どこにも見あたりません。手のひらとひさこぞうのきずは、むらさき色になっていました。てつやちゃんは、おき上がろうとすると、あたまがクラクラしました。ちがいっぱい出たからでしょうか。９．（どうしよう、はやくいえにかえらなきゃ。）てつやちゃんは、クラクラするあたまで、いっしょうけんめいかんがえます。（でも、いえにかえったら、またインド人の人たちがいるかもしれない。あの人たちはなんだったんだろう。ぼくは、ゆめを見ていたのだろうか。もしかすると、まちがってべつの人のいえに行ったのかな。とにかく、いまかえれば、きっといつものとおり、おかあさんが出てくるにちがいない。おかあさんも、おとうさんも、おねえちゃんも、ぼくのことをしんぱいしてまっているにちがいない。）てつやちゃんはそうしんじて、いえにむかってあるきはじめました。それにしても、こんなにくらくなるまで、だれひとりてつやちゃんをおこしてくれなかったなんて、ひどいはなしです。10．なんぷんくらいあるいたことでしょう。てつやちゃんには、まるで２じかんも３じかんもあるいたようなかんじがします。ようやくいえのげんかんの前につきました。クタクタになっていたので、「ただいま」をいうかわりに、チャイムをピンポンとならして、ドアをあけました。...ほら、おくからは、ちゃんと、てつやちゃんのおかあさんが出てきました。てつやちゃんは、とてもあんしんしました。11．「おかえりなさい。てつやもはやくごはんをたべてしまいなさい。」てつやちゃんが、こんなによるまっくらになってから、フラフラになってかえってきたのに、おかあさんは、てつやちゃんになにもきかずに、いえに上がらせました。…ちょっとようすがヘンです。でも、てつやちゃんもつかれていたので、そんなことはあまりきにしないで、だまっていえの中に入っていきました。12．へやの中では、お父さんとおねえちゃんが、テレビを見ながらニコニコしています。「おかえり、てつや。」やはり、てつやちゃんに、なにもききません。てつやちゃんは、ちょっとヘンな気はしましたが、おなかがすいていたので、すぐにテーブルについて、おかあさんのよういしてくれたごはんをたべはじめました。13．てつやちゃんが、おかずのほうれんそうのおひたしを、口に入れたときでした。口の中に、たかいねつの出たときにのむくすりのような、すごくにがいあじがして、てつやちゃんはそれをペッとちゃわんにはき出してしまいました。するとどうでしょう。そのはき出したものの中に、あのラッパ虫がまざっているではありませんか。それを見たら、てつやちゃんはきもちがわるくなって、オエーッともういちど口の中のものをちゃわんにはき出しました。それなのに、どうしたことでしょう、おとうさんもおかあさんもおねえちゃんも、しらんかおで、テレビを見てニコニコしています。14．「おかあさん、なにこれ。」てつやちゃんはかおをしかめて、ラッパ虫の入ったちゃわんをおかあさんにさし出しました。でもおかあさんは、チラッとそれを見ると、ニコニコした顔のまま、またテレビを見ています。やっぱり、ようすがヘンです！てつやちゃんは、かぞくみんなが見ている、テレビのほうを見ました。すると、テレビからは、バラエティばんぐみのにぎやかなわらいごえがしているのに、がめんには、なんぜん、なんまんびきのみどりいろのラッパ虫が、モゾモゾとうごいているようすがうつっていました。15．いったいなにがどうなっているのでしょう。てつやちゃんは、もうなにがなんだかわからなくなってきて、しんぞうがドクンドクンとなりはじめました。「おとうさん！おかあさん！おねえちゃん！」てつやちゃんが、いきをハアハアさせながらそうよぶと、３にんとも、ニコニコしたかおで、てつやちゃんのほうをむきました。そして、３にんはなにもいわずに、いっしょに口を「あーん」とあけました。すると、その中にはなんびきもラッパ虫が入っていました。かんだところからは、あかいちが出ています。16．てつやちゃんのすわっているいすから、ジョーッと水がこぼれました。てつやちゃんは、ショックで、ちゃわんとおはしをもったまま、おしっこをもらしたようです。…ああ、かわいそうに。てつやちゃんはよっぽどショックだったのでしょう、とうとう気がへんになって、ヘラヘラとわらいだしました。口のはしからよだれをたらして、わけのわからないことをつぶやいています。テレビには、こんどはあのインド人のかぞくがうつっていて、てつやちゃんのかぞくに、手をふっています。てつやちゃんのおとうさん、おかあさんとおねえちゃんも、ニコニコと、手をふりかえしています。てつやちゃんは、それを見ながら、いつまでも、ヘラヘラとわらいつづけていました。（おわり）

  2009.10.12

  コメント(10)

• 絵本文案 1989

  部屋を整理をしていたら、20年前に書いた絵本の文案が出てきたいつかそのうち絵を付けようと思って、そのまま放置されていたものだ読んだら面白かったので、そのまま転記（仮題）『てつやちゃんが かえるいえ』１．てつやちゃんは、学校がおわると、こくごのとうあんを手に、おうちにむかって走っていきました。「きょうも100てんだ。おかあさんにじまんしよう。」てつやちゃんはべんきょうがよくできる。なふだの上にはがっきゅういいんのバッジがピカピカひかっています。２．「おかあさん　ただいま。」てつやちゃんが、いきおいよくおうちのドアをあけると、おくからあらわれたのは、きれいなもようのふくをきた、インド人の女の人でした。「だれだい、ぼうやは。おばさんはあなたなんか、しらないよ。」その女の人は、てつやちゃんのことを、大きな目でギョロギョロと見て、そういいました。こまったてつやちゃんが、げんかんでモジモジしていると、こんどはヒゲをはやしたインド人のおじさんや、その後ろからてつやちゃんのおねえちゃんくらいのとしの女の子、それからようちえんくらいの男の子・女の子がゾロゾロと出てきました。３．「あれ、だってここは…」てつやちゃんは、「ここはぼくのいえだ」といいかけたのですが、まっくろでギョロ目のインド人の人たちに見つめられて、それいじょうなにもいえなくなってしまいました。そして、なんだかわからないおそろしさで、なき出してしまいそうになりました。でも、下くちびるをギュッとかんでなみだをがまんして、なにもいわずに「回れ右」をすると、げんかんからとび出して行きました。４．（おかあさんはどうしてしまったんだろう。ぼくはいったい、どこへかえればいいんだ。）むちゅうで走りながらそうかんがえているうちに、てつやちゃんの目には、あついなみだがジワーっとあふれてきました。そして、てつやちゃんがいつもおとうさんにおつかいをたのまれてやってくる、たばこやのかどをとおりかかったとき、てつやちゃんはあしがもつれて、ころんでしまいました。５．「ビタンッ！」ひさしぶりにころんだので、もうれつないたさです。すりむけた手のひらと、ひさこぞうから、ちがでてきました。「くそーっ！」てつやちゃんは、いたいひざを手でおさえながら、はをくいしばっていたいのをがまんしました。でも、すぐにがまんできなくなって、こえを上げてなきはじめました。ちは、つぎからつぎへとあふれて、とまりません。６．そのときです。ラッパのようなかたちをした、見たこともない虫が、２、３びき、てつやちゃんのあしもとからぞろぞろと上がってくるのにきがつきました。そして、てつやちゃんが手でおさえているひざのところまで上がってきて、てつやちゃんのちを、ペロペロとなめはじめました。見ると、虫たちは、てつやちゃんのちのにおいをかぎつけたのか、たばこやのかどからずっとれつをつくって、てつやちゃんのほうへぞくぞくとこうしんしてきています。ほら、きがつくと、てつやちゃんのまわりはラッパ虫でいっぱいです。７．てつやちゃんは、さいしょ、見たこともない虫にかこまれて少しこわくかんじました。でも、ラッパ虫たちにひざこぞうや手のきず口をペロペロとなめられるのが、なんだかきもちいいような、こそばゆいような、ヘンなかんじがして、さっきまでいたくてないていたこともわすれていました。てつやちゃんは、そのヘンなかんじにまかせて、どんどんながれ出すちをそうして虫たちになめさせているうちに、だんだん気がとおくなってきました。そして、そのうちにねむくなってきて、道ばたでねむりこんでしまいました。 （つづく）

  2009.10.12

  コメント(10)

• アメリカ病と病根

  マイケル・ムーアの『Capitalism - A Love Story』を観てきた。資本主義が先天的に内包する陥穽を浮き彫りにする、という比較的堅いテーマのドキュメンタリーにもかかわらず、何と言うか、観て感動した。もしかしたら、これまでのマイケル･ムーアの映画でいちばん感動したかもしれない。『華氏911』にせよ『Sicko』にせよ『ボーリング･フォー･コロンバイン』にせよ、マイケル･ムーアのドキュメンタリーを見ていつも考えさせられるのは、アメリカ社会の宿病とでもいうべき「弱肉強食」の論理である。今回の『Capitalism - A Love Story』を見てとくに感じたのは、先日楽天日記にドイモイさんが書いていた「アメリカン･ドリーム」と、この「弱肉強食」思想とは、同じコインの両面のようなものなのだなあ、ということである。アメリカ人がこのような考えを聞いて同意してくれるかどうかは怪しいが、一般にアメリカ人は、成功するすなわち「勝ち抜き」、「勝ち残る」ことに対して強迫的なプレッシャーを常に背負っている。そして、一旦成功(すなわち富や権力)を手に入れたら、それらを持たない者たちに対し疑心暗鬼になって、彼らが這い上がろうとするのを蹴落とし続けてでもそれを死守しようとする。また、成功者は成功者同士でサークルを作って自分たちの既得権益を守ろうとし、多少卑劣な手を使ってでも、弱者からの搾取システムを維持しようとする。そして、彼らは「適者生存」「弱肉強食」の思想を、それがアメリカの活力の源となるものとして、つねに合理化・正当化している。弱者に対しては「負けて悔しかったら、打ち負かすように努力してみやがれ」というのが基本姿勢である。その「悔しさ」が敗者･弱者が奮起する動機付けとなりアメリカ社会を活気付けるのだから、勝者が自らの犠牲を払ってまで弱者を援助する必要はないのだ、という理屈。ヨーロッパのような福祉国家とは正反対の思想である。『華氏911』では、イラクやアフガニスタンやパレスチナで一般市民という罪のない弱者が爆撃を受けて肉親や財産を失ったり、アメリカではビンボー人が兵士としてイラクに送られ殺され続けたり、その陰では開戦を煽った軍需産業やその関連企業が暴利を貪り、能力のない負け犬だった男がそのような既得権益を守ろうとする企業や富裕層の支持と不正な投票によって、アメリカの大統領の地位まで登りつめる様子を描き、『Sicko』では、先進国の中で唯一、国民健康保険制度が存在しないアメリカで、なんと１億5000万人もの国民が健康保険に加入できず、保険に入っている人たちもいざ病気や怪我に罹り保険を申請しようとしたら何かかんか難癖をつけては保険会社に支払いを拒否され、保険会社とその御用政治家たちが私服を肥やすその陰で毎年何万人もが費用が払えないばっかりに治る病気を治せずに野垂れ死んでいき、一方でようやくバラク･オバマのような人が大統領になってアメリカに国民健康保険制度を導入し、万人が日々病気や怪我を怖れることなく日常生活を送れるようにしようとすると、現行の民間保険業界関係で既得権益を得ている勢力が一大キャンペーンを展開し、法案は却下され続け、『ボーリング･フォー･コロンバイン』では、アメリカ人たちが「自らの財産を、悪意ある他者(＝弱者･ヨソ者)から守る」という強迫観念のために銃に依存し、一方ではやはり軍需産業が既得権益の維持のために国民の不安を煽っては銃器の需要を維持促進し、またあらゆる手段を使って銃規制法が議会を通過しないよう圧力を掛け続け、結果として銃社会の犠牲者として不要に命を失う人がいつまでも絶えない。いずれのドキュメンタリー作品で描き出されているアメリカの社会的病弊にも通底しているのは、弱肉強食の論理、成功者は弱者からの搾取によってさらに繁栄し続け、弱者は永遠にババをつかまされる、というトランプの「大富豪(大貧民)」の原理である。まあ、共和党は、ブッシュ政権がそうだったように「思いやりの保守主義」とか言って、恵まれた層は恵まれない層に慈善を施すとか、一世代前のレーガン政権だと｢トリックル･ダウン｣とか言って、富裕層やトップ企業が繁栄して浪費することで、いずれ貧乏人もその富のおこぼれに与れるとか言った理屈を掲げて、必ずしも弱者が斬り捨てられているわけでもないと国民にアピールし、弱肉強食の原理の上にシュガー･コーティングを施してはいる。しかし、いずれにせよこの理屈も「成功者が既得権益を維持する」ことが前提になっている。…また長くなってきたので次回につづく。

  2009.10.07

  コメント(0)

• 映画撮影日記（３）

  狙撃者１のシーンは、午前中から午後にかけて、同じセリフでカメラアングルだけ変えて３～４回撮影される。その間、主演のミラ･ヨボヴィッチのカメリハが行われる。オレはミラを間近に見られるとあって、ワクワクしていた。タバコを吸うために頻繁にスタジオの外に出ていたクリスは、さっきトレーラーのそばでたまたまミラとすれ違って会話を交わしたと言って興奮している。オレは本気で嫉妬した(笑)。ミラが来る前にまずスタントの代役でカメリハをする。狙撃者のセットとは反対側のスタジオのコーナーにシートが敷かれ、たくさんの角度から照明が当てられる。その前にカメラとモニター、さらに大きな３Ｄモニターが置かれる。黒いタイトなコスチュームを着たスタント代役のカレンがカメラの前に立つ。カレンはこのまま主演が務まりそうなくらい美人だと思う。専門は沖縄拳法だそうだが、スタントマンにしておくのは実に勿体ない。30分くらいして、ミラがスタジオに入ってきた。…カッコイイ！カレンでも十分カッコいいと思ったが、カメラの前に立ったミラは、とてもこの世の存在とは思えないような、マンガの世界から飛び出してきたような超絶的なプロポーションをしている。これで3歳だか4歳の子持ちなのだ。たかがカメリハでも、カリスマのオーラをバンバンに放っている。小道具のスタッフが出てきて、ミラの背中に２刀の日本刀(の模造品)をＸ型に装着する。そうだ、このシリーズ第４作目ではミラは忍者っぽい黒のコスチュームで、刀とか手裏剣とかいった武器を使って敵を倒すのだ(笑)。監督の合図でミラは腕を背中に回して２刀の刀を抜き、左右対称にまるでバトンのようにクルクルと回してポーズをキメた。スゲーカッコイイ！次々とアクションをキメるミラに、ミラの夫でもある監督が「ビューティフル！」「グレイト！」「ラブリー！」を連発する。どのアクションもほとんど一発のテイクでOKだ。ほんの15分やそこらで終わったカメリハの最後に、監督がミラの元に歩み寄り、両手で頭部を掴んでミラと比較的長いキスを交わした。ミラもうっとりした表情をしている。2人が夫婦であることを知らなかったら、かなりドキッとする情景だ。ダーリンとかハニーとか呼び合いながら、2人は名残惜しそうに別れた。…しかし羨ましいなあ(笑)。ミラはこの後も何度か狙撃者のシーンの撮影現場に登場して、オレのような端役のシロウトにも笑顔で手を振ってくれた。ミラはかつてモデルをしていたその超絶的なルックスだけでなく、性格の良さと勤勉さでもこの業界で評価が高い。親がロシアとセルビアの移民で、パリにも長いこと住んでいたので、5ヶ国語くらいを話すらしい。ルックスも性格も頭もいいのだ(笑)。午後もけっこう遅くなって、ようやくオレの「狙撃者その２」のシーンの撮影になった。もう１つのビルの屋上のセットは二階のバルコニーくらいの高さで、カメラ･アングルも２つくらいしか撮らないので、「狙撃者１」に比べて単純なセットだ。クリスやプロダクションのネーちゃんが、いよいよアナタの出番だと、半分励ましのような、半分プレッシャーを掛けるようなことをチラチラと言ってくる。しかし、オーディションの時もそうだったが、オレは不思議とぜんぜん緊張しないのだ。小学校の学芸会でアガりまくってセリフを忘れた記憶がウソのようだ。セットに登ると、クレーンの先に付いたカメラがオレの頭の高さに迫ってくる。照明がまぶしい。青っぽくて、月の光のようだ、と思う。監督の指示に従い、極力身を低くしてライフルを構える。監督がオレの名前をちゃんと覚えてくれているのがちょっとだけウレシイ。オレはもとの台本ではマドンナを射殺することになっていたようなサディストなので、月光に冷笑を浮かべた表情でライフルのスコープを覗いている。標的確認。ナイスショットだな。…ふん、まだ宵の口だ。標的だってまだまだたくさん….と、ここまで喋って、ライフルだけが右に左に動くのが映った後、何者かに連れ去られる。ここでカット。次に、数百メートル離れた狙撃者１のナイスショットに敬意を表するポーズを加えて、同じセリフで１テイク。次に、カメラを狙撃者１に見立てて、ずっとカメラに顔を向けたままセリフを述べて、同じく１テイク。次に、冷笑が行き過ぎたか、監督の指示で笑みを抑え気味にして１テイク。さらにカメラアングルを変えて、２テイクくらい。以上、ものの30分程度で狙撃者２のシーンの撮影終了。おそらくこれらのカットが映画に登場するのは全部で数秒に過ぎないのであろう。姿勢を固定していたので背中に若干の汗をかいているが、強烈な照明を浴びた割りには頭部にはちっとも汗をかいていない。初めての映画撮影なので、カメラを前にして緊張するかと思ったが、ぜんぜんアガらなかったなあ…と思う。両狙撃者のカットの撮影はこれですべて終了。カメラ･ディレクターが、一緒にいい仕事が出来た、云々とお愛想を言ってくれる。スタジオを去る前に、プロダクションのスタッフに手渡されたタイムシートのようなものに終了時刻を書き込んでサインをする。...そうだ、これも一応労働だったのだ(笑)。たしか、昨日サインした契約書には、コスチューム合わせや撮影などの拘束時間１時間につき70数ドル、1日8時間以上の残業分は1時間110数ドルと書かれていた。今日は12時間近い拘束時間になったので、今日1日だけで10万円近くになるわけか？これに加えて、この出演契約に610数ドル、さらに印税に当たる報酬に出演料の130％に当たる800ドルくらいが支払われると配役会社から聞いた。こちとら、ほんのエキストラ気分で応募した仕事なだけに、こんな貴重な経験をさせていただいた上にこんなに報酬をいただけるなんて、なんだか申し訳ないっす。クリスの話では、いちばん実入りのいいのがCMへの出演で、そのCMが１回放映されるたびに印税が入る仕組みなので、たった１日の撮影の後もそのCMが続く限り毎月何千ドルのチェックが入ってきたという。こりゃ、役者稼業に慣れてしまうと、マジメな堅気の仕事ができなくなったとしても、無理もない(笑)。たった１日で終わってしまった映画俳優体験に、後ろ髪を引かれるような気持ちでスタジオを後にした。その後誰か出演予定だった日系人俳優に不都合が発生するなどしてまた撮影に呼ばれないだろうか…などと、今でも虫のいい期待をしているオレであった。（いちおう終わり）

  2009.09.26

  コメント(12)

• 

  映画撮影日記(１)

  台本を渡されたのは撮影の前日であった。世界的にヒットした日本の某ビデオゲームを元に作成されたこのSFアクション･ホラー映画は今回でシリーズ第4作目になるのだが、舞台はアメリカ本土からアラスカと日本に移る。オレは架空の国際企業の日本拠点(しかも渋谷)を警備するキャプテンの役でオーディションを受けたが、直前になって「狙撃者その２」の役を与えられた。というのも、キャプテン役はセリフのほとんどが英語である一方、狙撃者はセリフがすべて日本語なので、日系人の日本語だとウソくさくなってしまう。ハリウッドなんかとちがって、トロント近郊には日本生まれの日本人中年俳優などほぼ皆無なのだ。オレの撮影日は撮影初日であったが、台本を見たらオレの登場するシーンはなんと映画のオープニングであった。基本的に台本の順番に撮影していくのだろうか。いずれにせよ、ホントは名前のない一狙撃者より名前のあるキャプテンの役が演りたかったところだが、映画のオープニングとなるとチョイ役でもちょっと晴れがましい気分だ(笑)。ただ、オーディションから撮影直前までの間に台本がかなり改訂され、狙撃者その２のセリフは大幅にカットされていた。ホントならオレは武道館での公演のために訪日しているマドンナをビルの屋上から面白半分でライフル射殺する役だったのだが(笑)、そのシーンもカットされていた。オレが画面に登場するのは、セリフの数からいってもほんの数秒だろう。というか、映画のシーンなんて編集段階でいくらでもカットされるので、もしかしたらオレの登場するシーンがまるごとカットされる可能性もあるか(笑)。その撮影スタジオは、トロントのダウンタウンに行くときにいつも通っているハイウェイの終点付近にあった。何かの倉庫か工場の建物だろうと思って特に気にも留めなかったのだが、撮影スタジオだったのか。馬鹿デカイ駐車場の端にはトレーラーが何台も停められている。オレも「俳優用トレーラー」に案内された。端役とは言えちゃんとトレーラーに入れてもらえるのか(笑)。 オレの氏名とまではいかないものの、ちゃんとオレの役名がドアに貼ってある。右隣は「狙撃者その１」、左隣は「主人公のスタント代役」、さらに向こうは「スタント･コーディネーター」の部屋らしい。主人公を演じるミラ・ヨボヴィッチのトレーラーはもちろん名前が貼られているだけでなく、1台のトレーラーを独り占めである。オレらのトレーラーは１台を壁で仕切って４人で共有、１人分はせいぜい３畳間くらいか。 部屋の中には前日に試着･調整した狙撃者のコスチュームが吊るされている。数日前にネバダの砂漠の中を自動車で飛ばしている最中にプロダクション会社から携帯電話が掛かってきて、このコスチュームのために全身の寸法を訊かれた。時速75マイル(125キロ)で運転しながら足のサイズとかズボンの裾の長さとかをインチに換算して電話で答えるのは命懸けであった。背中に貼られている架空企業の日本語のロゴが、悲しいほどにチャチだ。日本人がこの映画を見て失笑する様子が眼に浮かぶ。撮影まで時間があるのでトレーラーの外でストレッチをしていると、主人公のスタント代役のおネーちゃんがやってきた。...カッコいい！ホンモノよりやや背が低いがスタイルは最高だ。おネーちゃんも荷物を部屋に置いてボクと一緒にストレッチを始めた。さすがプロ、事前準備に余念がない。彼女は前作から主人公を演じるミラのスタントを担当しているそうで、今回は双子の姉(妹)も一緒にミラのスタントを担当するそうだ。なにせ今回の第４作では主人公のクローンもたくさん登場するので、スタントマンが双子というのは作成側にとって願ってもないことだろう(笑)。やがて撮影時刻の直前に「狙撃者その１」がやってきた。あ、この男、初回のオーディションの待合室で見かけた「プロの俳優」のひとりだ。日本の本国ではもうほとんど存在しないのではないかと思うような濃い顔。挨拶なんかはかなり自然だが、やっぱりしゃべる日本語はちょっとたどたどしい。聞くと、英語で書かれた台本のセリフは移民１世の父親に翻訳してもらったという。日本語の読み書きもできないらしく、台本のページには日本語訳のセリフが手書きのローマ字で「Kuso, Daijobu ka?」「Oi, henji wo shiro!」といった具合に書きなぐっている。う～ん、40年前に移民した父親の日本語訳もイマイチだなあ。予定時刻の直前、プロダクション会社のADがトレーラーまで呼びに来て、メイクアップのトレーラーに移動。中には６～７人分くらいの鏡台が並ぶ。ほかの２人はオレより露出度が高いので入念なメイクアップを施されるが、オレはおとといまでの砂漠地帯の旅行で荒れた肌にクリームを塗ってもらった程度で終了。すぐにスタジオに移動する。なお、「機密保持誓約書」にサインしているため、ここから先の画像はない。(つづく)

  2009.09.24

  コメント(14)

• オーディション その後

  配役会社からまた電話が掛かってきて、監督オーディションの結果もよかったので、いずれかの役で映画に出演してもらうことは決定なので、今月末から来月初旬に掛けて撮影のためにスケジュールを空けておいて欲しい、という。どうやら、使えそうな役者たちを先に確保しておいて、それから適役を検討して割り当てるらしい。オレの想像では、「自然な日本語」が話せる役者の頭数が足りないので、日本語のセリフがちょっとしかないとか、ちょっとナマリのある日本語でもゴマカシが利くような役に日系人を当てて、日本語のセリフが多いとか長い役にオレのような「ネイティブ」の日本人を配するに違いない。だからオレが演じる役は、日本語のセリフの少ない「キャプテン･ホタカ」よりも、名のない「狙撃者１」や「狙撃者２」とかになる可能性が高くなってきたかも知れない。まあ、いずれの役もセリフは４つか５つしかないし、オーディションの時と違う役を撮影直前になって割り当てられても困ることはあるまい。演るよ、演ってやるよ、どの役だろうが。ただ、平日の撮影だろうから、仕事を休まなければいけない。アイアンマンに出る関係で、先月はいい加減休みたい放題休んでいる。そこに今度は「映画撮影のために会社を休む」なんて言ったら、ただでさえ所属部門は繁忙期、おまけに売上げ不振が続き人員削減が進行している昨今、もう次回の契約更新はあり得ないだろう(笑)。しかし、どうせいつ契約を切られるかも知れない契約社員の身、一方でハリウッド映画に出るなんて一生に一度の機会だ、もうこうなったら途中解雇も覚悟である。オレの決意に迷いはない(笑)。日本のパパママ、仕事をクビになったらごめんなさい、でも、○○○の契約社員なんていつでも誰でもなれますが、端役とはいえハリウッド映画に出るなんてもうこのチャンスを逃したら一生ありません、ほんの10～20秒間の出演でも一生フィルムやビデオに残ります。親類縁者にビデオの１シーンを見せては、せいぜい自慢してください(笑)。キャプテンにせよ狙撃者にせよ、悪役だ。オレは子供の頃から悪役に憧れがあって、ヒーローごっこなんかの時は「強い悪役」を買って出て、ヒーロー役のヤツを倒したものだ(笑)。今回の映画では、あいにくヒーロー側の役にあっけなく殺される立場ではあるが、ウワァーとかギャオェーとか言いながら殺されるシーンを演じるのも子供の頃から憧れていた。やはりヒーローごっこで苦悶の表情を浮かべて身を捩り地面にパタリと倒れ、白目を剥いてピクリとも動かなくなる…なんてのも、よくやった(笑)。任せてくれ、カンペキに演じるよ。どの役になっても主演級の俳優･女優と接する場面はなさそうだが、撮影現場ですれ違うことはあるかも知れない。まあ、過去のシリーズ作で主演級の俳優･女優をチェックしたけど、例の監督の奥さんの主演女優を除けば、映画をあんまり見ないオレにはいずれもピンとこない名前ばっかりだけどね。ドイモイさん、ヨヴォヴィッチの唾液のついた紙コップとか、撮影現場で拾ったら送るよ。…ああ、2週間後からがちょっと楽しみ。

  2009.09.09

  コメント(10)

• 

  オーディションその２

  先週ケンタッキー州に向かう車の中で滅多に使わない携帯電話が鳴った。例のトロントの配役会社からの電話で、先週のオーディションの結果がよかったので次のオーディションを受けて欲しいという。今度は監督自らが立ち会うという。マジか。オレはその晩、ホントは翌々日のレース準備やらなにやらで忙しかったのだが、ホテルのインターネットでその監督の名前を調べてみた。なんせ先週のオーディションは事情もよく分からずヒヤカシ気分で受けたので、この映画についてロクに調べていなかったのだ。監督はイギリス人で、この映画の前作３つすべての脚本を書き、２作については監督とプロデューサーを兼ねている。どうやら最近この映画の主演女優と結婚したらしい。ちなみにこの主演女優、どこかで見たような気がすると思っていたのだが、10年くらい前にリュック･ベッソン監督でブルース･ウィルスが主演した『フィフス･エレメント』というSF映画があったが、あれに登場した赤毛のキレイな女性、あれがこの人の妻だという (当時はベッソン監督と結婚していたらしい)。チョイ役とはいえ、なんだか大きな話になってきたなあ。今回のオーディション会場は前回とは別の配役エージェンシー会社だ。会場に出向くと、前回のような一軒家ではなく、前回のとき想像していたような映画の撮影所にも使われそうな建物だった。テナントの表札を見ると、テレビ番組の制作会社らしき名前もいくつか入っている。建物に入り防音扉と思われる厚い鉄製のドアを開けると、天井の高いその室内のロビーに黒人女性ばかりが７～８人座っており、受付の2人の女性は忙しく電話に対応している。いよいよ配役会社っぽい。受付の台の上には映画のタイトルが書かれた２つの受付ログが置かれていて、片方にはオレがオーディションを受ける映画のタイトル、もう一方にはプロジェクト何たらかんたらという映画名が書かれている。きっとこの黒人女性たちはみなこのプロジェクト何たらの配役なのだろう。オレが受ける映画の方の受付ログに自分の名前と役名を記入すると、すでにオレの前にオーディションを受けた７～８人の名前や芸能事務所名、さらに俳優組合番号までが記入されている。うち１人はオレが受ける「キャプテン･ホタカ」役だ。当然だが、まだライバルが残っているらしい(笑)。５分も待たないうちに、前回のオーディションの時の東洋人女性が現れ、大学生風情の東洋人野郎と入れ代わりに、奥のオーディション部屋に呼ばれた。中には別々の場所に置かれた２台のモニターの前に座っている男女と、それとは別にカジュアルな格好をした2人の若い男性が立っている。どちらが監督だろうか？…と思っていると、すぐに東洋人女性から「こちらが監督の○○さん。」と紹介された。「Hello. Please to see you!」と言って握手を求めてくる。190センチ以上はありそうな長身。それにしてもなんて優しそうな笑顔だ。しかもオレのような端役候補のドシロウトと握手してくれるなんて。握手をしている間、これがあの女優の秘部をはじめとする体中に触れた手なのだという不謹慎な考えがオレの頭を離れなかった(笑)部屋の角の壁には写真撮影で使われるような青灰色の幕が天井から床まで掛かっており、その前の床には位置を示すための青いガムテープが貼られ、パイプ椅子が置かれている。そのパイプ椅子に座るように指示される。部屋の向こう側のモニターには青を背景にしてオレの顔が斜めの角度で移っている。もう１つのモニターはオレの座っている位置からは見えないが、たぶん違う角度でオレの顔が映っているのだろう。また自己紹介や個人的な質問から始まるのかと思ったら、いきなり演技だった。座ったまま、キャプテン･ホタカのセリフを演らされる。例の東洋人女性がオレの相手役のセリフを棒読みする。相手役は本来男性なので、女性の声に応対するのはちょっぴり演りにくい。最後のセリフをトチり、「しまった！」と思う。次に、間髪をおかず、「今度はちょっと立ってやってみようか」と監督が言う。まったく同じセリフを、今度は誰に指示されたわけでもないが、ちょっとしぐさを交えて演じる。今度はちょっと間合いが不自然なところがあったが、セリフにトチりはなかった。オーディションはこのたった2テイクで終わり。特に誰からも何のコメントも質問もなく、「今日はどうもありがとう」のひと言で追い出されるように部屋を出る。逆光でよく見えないが、いちおうみんな笑顔のようである(笑)。この間、ものの２～３分であった。よかったのかマズかったのかよく分からないが、まあ、前回のオーディションの時よりはスムーズに行っただろう。さっきログで見たオレの配役上のライバルは西洋人名(おそらく日系カナダ人)だったが、日本語の自然さを比較されれば、きっとオレの方が自然だったはずだ。あとはオレの自己主張の強過ぎるルックスが端役に適切だと判断されるかどうかだ(笑)。それにしても、ここまで来るとなんだか欲が出てきたな(笑)。そう言えば、いつ結果を教えてもらえるのか、不合格でも通知があるのか、尋ねるのを忘れていた。…まあ、また期待せずに半分忘れていた頃に突然電話が掛かってきて驚かされるほうが面白くていいや。

  2009.09.04

  コメント(12)

• 

  フラッシュバック

  ひさびさの祝日を利用してひさびさの部屋の掃除をしていたら、何年か前にpinkoyster先生にもらった多数の本のうちの１つ『実録ドラッグ･リポート』が出てきて、パラパラとめくり始めたのが運の尽き、掃除をしていたことも忘れてそれを読んで１日が終わってしまったのであった。この著者は現在はドラッグに手を出すこともなく都内でカタギのサラリーマンをしているそうで、まあそんな人が若い頃に(日本国内で)やったマリファナとか覚醒剤とかキノコとかLSDとかエクスタシー(さいきん日本で捕まった俳優がヤってたMDMAの通称)とか、珍しいところではダチュラ(朝鮮アサガオ)とかケタミン(全身麻酔薬)とか、そういった規制物質摂取の体験を、ロクでもないジャンキーの友人たちとのエピソードなどをまじえて記述したドキュメントである。国内での流通価格とか(笑)、依存性(中毒性)や耐性(服用しても効かなくなること)の一覧表なんかも載っていて、なかなか実用的な側面もある(笑)。それはそうと、オレがちょっと面食らったのは、この本を１日中読みふけった後で外出した時に、ちょっとしたフラッシュバックが来てしまったのである(笑)。まあこのブログにいつもコメントをくれているフリョー中年連中にはまったく説明不要だとは思うが、たまたまこの日記を読んでいるフツウの一般的な日本人のためにいちおう説明しておくと、「フラッシュバック」というのは、まったくドラッグをやっていないのにもかかわらず、ちょっとしたキッカケで、ドラッグによるトリップ感覚がふと蘇ってしまうことをいう。ドアを開けると、とうぜんそこはオレの自宅があるいつもの住宅地なのであるが、それがまるで夢の中で見た映画のセットのような感覚なのである。近所の子供たちが嬌声を上げながら家の前の道路を駆けていくが、それがまるでキリコのシュールリアリズムの絵の世界なのだ。念のため言っておくと、オレはもう10年以上も前にいちど教育関係の仕事に就いてしまったのをキッカケに、またその後通訳の仕事を始めたのを理由に、規制物質のたぐいは嗜んでいない。オレは20代の頃にインドで修行をしたりアメリカの大学の芸術学部で勉強したりNYCのミッドタウンで仕事をしていた関係で、そウいウところでフツウに出回っている物質はとくに拒まずに経験を積んできたため、ソレらの物質がどういうものかは身を以ってよく知っている。とはいえ、なにせブランクは10年以上だ。今回はたまたますぐに、その感覚が例の本をキッカケとしたフラッシュバックだと気づいたし、まあもともと現実なんて映画のセットと何も変わらないじゃんという意識を常日ごろから持っているので、その非現実的なトリップ感覚を苦笑いしてやり過ごすことが出来た。しかし、フラッシュバックというと、ふつう光とか音とかいった刺戟でよみがえるもので、まさか活字を読んでフラッシュバックを起こすとは(笑)。たしかに『実録ドラッグ･リポート』のような本を読んでしまうと、当時の経験を思い起こし、つい納得しながら(笑)読んでしまう。ましてや現在のように、毎日莫大な量の運動をして汗を流すような異常なまでに健康な生活をしていると、マラソンだのアイアンマンだの言って意識の奥底にずっと抑圧され続けてきた暗黒で不健康で後ろ向きなオレの一面が、ここぞチャンスとばかりに意識上への脱出を試みたとしても不思議はない。マラソンを始めてタバコを止めて６年半、突如アイアンマンの完走を思い立ちトライアスロンを始めて３年半、たしかにこのところ自分がかつて不摂生を絵に描いたような自己破壊野郎だったことを忘れつつあった。今回のフラッシュバックのおかげで、もともとこれらのマゾ的スポーツを始めたのが自己破壊欲求を満たすためだったことを思い出すことができました。(終)

  2009.08.03

  コメント(8)

• 知能指数と天才児

  イギリスのテレビ局 チャンネル４が、イギリス国内で見出された天才児10人の成長を追跡するというテレビ番組企画をやっていて、昨晩はカナダのテレビ局で、その10人のうち13歳に成長した３人の天才児の現況を放映していた。8歳で処女小説が出版された知能指数170の少年。王立音楽院に最年少(10歳)で合格、詩作でも受賞歴を持つ知能指数150の東洋系の少女。知能指数170だが学校に適応できずに放校処分直前の少年。ところで、オレがガキの頃は知能指数180とかいうヤツがいたものだが、最近は計算の仕方が変わったのか、最高が170だそうだ。だから上記の知能指数170のガキというのは実情は想定された知能の上限を超えているということである。8歳で小説を出版した少年は現在13歳ですでに３冊の小説を世に出している。学校に行っても同世代と話が合わないので、自宅で両親(主に母親)に教育を受けている。言葉遣いはどこかの大学教授みたいで、話す内容を聞く限りでは子供らしさはどこにもない。親も大人扱いしているらしく、対等に会話している。東洋系の少女の場合は、インテリの母親(世銀勤務)がまだ娘を抑えているらしく、喋る言葉こそオトナにようだが、自宅ではまだ10代の少女らしい振る舞いをしている。しかし決して教養のある方とはいえない父親は、娘が演奏したり作曲する現代ピアノ曲がイマイチ理解できず、だいぶ戸惑っている(笑)。もう1人の知能指数170の少年は、会話をするとそのボキャブラリーと思考の速さでオトナをすぐに圧倒してしまう。おかげでオトナや権威に対する従順を学ばずに成長してしまい、学校でも問題児扱いされてしまう。社会階層的にも学歴的にもごく人並みの両親も、こんなコドモをコントロールし切れず困っている。天才児というのは厄介だ。並みのオトナ以上の知性を持つので、周囲はついオトナとしての振舞いを期待してしまう。彼らはたしかに言葉を喋らせるとオトナのような言葉遣いで抽象度の高いことを澱みなく話す。しかし中味が未熟であることはほかの子供と変わりない。…というか、天才児自身がまだ子供として振舞っていたいのだ。シェイクスピアの小説の暗喩について持論を展開する一方で、イタズラもしたければラジコンでも遊びたい。…オトナも同世代の子供たちも、この齟齬に戸惑うのだ。自らの天才の方向性を見つけた13歳の小説家や音楽家はまだいい。小説を書いたり作曲をしている間はオトナと対等に振舞うことを期待されても、それらの場を離れればある程度コドモとして振舞っても許されそうだ。それに、今はまだその早熟さからどうしても周りから飛び抜けてしまうものの、あと5年もすればただの「才能のある若手」の1人として周囲に紛れてしまうだろう。一方で、知能指数が高くてオールラウンドに利口だが、特定の分野で傑出した才能のない天才児というのはちょっと可哀想だ。最後の1人が好例だが、周りからは天才児として特別扱いされるが、自分では何がスゴイのかイマいちピンと来ない。何かにつけ偉大な成果を期待されるのだけれども、自分では何をしていいのか分からない。…こういうヤツは、勉強が好きならひたすら勉強して難関高校・難関大学に入学して高級官僚にでもなればいいのだが、さもなければ、かつては知能指数176で灘中学に5番で入学した中島らものように、いずれ我に返った瞬間にドロップアウトして不良やタダの不適応者になる危険性も高い。…というか、オトナは天才児の輝く未来に想いを馳せチヤホヤしたがるが、知能指数が高いからと言って社会的に成功するものか？オレはガキの頃に知能指数が高かったヤツを10数人は知っているが、専門職を身につけた１～２名を例外とすれば、どいつも今では社会的には人並みかそれ以下の身分だ(笑)。むしろ、社会的に成功している連中を見ると、人並み以上の知能ではあっても「天才」レベルにはほど遠く、基本的に教師やオトナを尊敬し(笑)周囲とも足並みを合わせ、適度に遊びながらも真面目に努力した連中が大多数だと思う。そもそも、統計的にちょっと突出した結果が出たからといって、知能指数なんか本人にも親にも教えないほうが本人のためだと思う。オレも小学生の頃、教師から「ホントは教えちゃダメなんだけど…」など言いながらコッソリ自分の知能テストの結果を見せられたクチであるが、あのとき自分の知能指数を教えられていなければ、その後教師やオトナをコバカにすることもなく、真面目に努力を重ねてもっと人の役に立つ人物になっていたに違いない。いずれにしても、チャンネル４が追跡している天才児10人のうち、20年後にその知能指数と同様に稀有な偉業を達成しているヤツはせいぜい２～３人で、残りの大多数はかつての天才子役よろしくフツウのオッサン・オバサンになっているか、グレて社会不適応を起こしているほうに、オレは１万ルピーを賭けてもいい。

  2009.07.20

  コメント(9)

• 機内映画覚え書き(復路)

  さいきんのオン･デマンド機内映画(及びテレビ番組や音楽)は、バラエティに富んでいて申し分ない。ちなみに音楽にはモリッシーの最新作まで含まていてちょっと意外。『The Snows of Kilimanjaro (キリマンジャロの雪)』（1952年）　グレゴリー･ペック主演タダで見て得した度　★★★☆☆ひとこと評：ヘミングウェイの小説の映画化作品。むかし小説で読んだことがあるような気がしたが、それが気のせいであったことを映画を観て分かった。この小説はヘミングウェイの半自叙伝という話があったので興味があったが、スマートな二枚目のグレゴリー･ペックとズングリしたヒゲオヤジのヘミングウェイはイメージが重ならず、おまけにむかしの白黒映画らしい気取った英語のやりとりもしばしばよく聞き取れず、感興はイマイチであった。たしか小説では主人公がアフリカで死ぬはずだったが、映画では最後のシーンで救護の医者がセスナで到着してしまうハッピーエンドも興ざめ。『Witness（目撃者）』（1985年）　ハリソン･フォード主演タダで見て得した度　★★★★☆ひとこと評：　むかしどっかでこの映画を観たのを覚えていたのだが、機内で見直しているうちに、それが1991年のアメリカの大学の同級生のアパートだったことを突然思い出した。そうだそうだ、当時はアーミッシュという、電気もガスも水道もない生活をしている人たちのコミュニティがアメリカにあることを知らず、この映画を観てもピンとこなかったのだ。腐敗し暴力が支配する都会と、非暴力と文明拒否を貫くアーミッシュのコミュニティとの対比がとても印象的な映画。腐敗した同僚の警官の追跡からハリソン･フォードをかくまうアーミッシュの未亡人のヌードシーンも印象的。それにしても、ハリソン･フォードってどうしてこうも逃亡役が似合うのか(笑)復路ではほかにも『トランスフォーマー』も観たが、あまりのクダらなさに最初の30分やそこらで寝てしまった。機内の席に12時間縛り付けられた翌日、今度はカナダからアメリカのケンタッキー州まで、アイアンマンのコース下見のために延々12時間自動車を運転し続けるハメに。

  2009.07.10

  コメント(1)

• 

  昨日の機内映画 覚え書き(往路)

  映画の話なんてどうでもいいから早く葬式の話をしろってか？『Coraline』　Henry Selic 監督タダで見て得した度　★★★★★ひとこと評：面白かった～。16年前に見た『ナイトメア･ビフォア･クリスマス』の監督によるコマ撮りアニメ作品なのだが、期待を上回るデキ。登場する奇妙キテレツなキャラがシビレル。映像の芸術性も高いよな～。デカいスクリーンで見たかった！きっと日本でもウケると思うんだけどなあ～『Gran Torino』　クリント･イーストウッド監督・主演タダで見て得した度　★★★★☆ひとこと評：いい映画じゃん。いきなり葬式のシーンから始まって、自分もこれから実家に帰って葬儀に出るところだし、いきなり引き込まれちゃったよ～。舞台もミシガン州だし。自他共に認める東洋人差別主義者だというウワサのクリント･イーストウッドがどこまで人種差別主義者の頑固ジジイの役をニュートラルに演じられるのかと思いながら見てたけど、ちゃんと演技に徹してたよ。ストーリーもちょっと泣かせるゼ～。ところで、実家に帰ったら家が建て替えられていて、ボクの私物は一切なくなっていました。祖母さんはすでに棺桶に入れられ化粧をほどこされていました。小学５年生の甥が死体をちっとも気味悪がらずに、「ほら、薄目開けてるよ！」とか言いながら得意げにに棺桶のフタを開けて見せようとするのが、ちょっぴり意外でした。血筋か(笑)？

  2009.07.04

  コメント(6)

• 

  …ていうか、忌野センセイの思い出

  インターネットで忌野センセイの訃報を知りました。ボクはとくにRCサクセションのファンというわけではありませんでしたが、80年代は結構お世話になりました。…というか、日本の80年代はRCサクセションや忌野センセイなくしては語れませんね。トランジスタ･ラジオ、雨上がりの夜空に、いけないルージュマジック、サマー・ツアーなんかは今でもきっと歌えると思います。…というか、忌野センセイのあの唱法は結構マネて歌ったものです。高校1年生の新入生歓迎コンパで『忌野清志郎風･ムーミンのテーマ』を歌ったボクは、一躍応援団の人気者になったものです。ボクが忌野センセイにいちばん影響を受けたのは、世の中をナメたあの不遜な態度です。…というか、バブル景気の最中に成人したボクらの世代は、みんなあの忌野センセイのメッセージを真に受けて社会をコバカにすることを学んだものです。ミツビシ自動車のCMにもなった『ベイビー！逃げるんだ』では、「ロックはもう卒業だ。」と言って長い髪を切って社会に出ることにしたバンド野郎に「お似合いだぜ、いい頭だな(笑)」「生意気なヤツだったのに、すっかり素直になったな」と浴びせ掛けて嘲笑していました。当時は浅田アキラの『逃走論』なんて本も出て、糸井シゲサトみたいな反体制の教祖みたいな人たちが「オトナになるな」キャンペーンを張ったりして、ボクらのような乗せられやすい若者たちをすっかりその気にさせていました。RCのファンだったボクの大学の親友も、ボク自身も、あの歌を聞きながら、マジメに就職活動の準備を始める同級生たちを傍に見て笑っていたものでしたが、その親友は大学3年生の前期試験の前に20歳で自殺してしまいました。まさに、カンペキに逃げちまったぜベイビー、といった感じです。ボクは彼の棺の中に、EPLPとEPLP２だったか、冥土の土産にRCのカセットテープを入れてやったものです。クリックするとタイマーズの演奏動画にジャンプ　忌野センセイの不遜な態度といえば、夜のヒットスタジオだかでTVカメラに向かってガムを吐き捨てたのが社会問題になったのが有名ですが、それよりなんといっても覆面バンド「タイマーズ」での活動がいちばん痛快で刺戟的だったと思うのはボクだけではないでしょう。70年代の学生運動風のヘルメットに覆面にサングラス、半被(ハッピ)に肉体労働者風のニッカズボンに地下足袋というファッションは、80年代当時でも最先端のセンスでした。「ゼリー」とかいう芸名もかなりナメてます。夜のヒットスタジオか何かの生放送に出演したときは、いきなり「タイマーズのテーマ」で「♪We are Timers、タイマを持ってる、タイマが大好き、ここでトびたい～」と熱唱、次は本来演奏するはずの曲を無視して、自分らの反原発の曲を放送禁止にしたFM東京のことをオチョクって「♪FM東京、政治家の手先、おマんコ野郎、FM東京～」と絶叫。演奏が終わった後で古館一郎が「放送中の不適切な発言」を謝ってました(笑)。ほかにも「北朝鮮の歌」とか「宗教ロック」とか、放送禁止確定のレパートリーをいっぱい持ってましたねえ。こういう反骨精神というか、体制に決して迎合しないというか、自分のポリシーを決して曲げない気骨を持ったミュージシャンは、彼以降見た記憶がないと思います。…ていうか、ミュージシャンに限らず、あれから20年経った今の日本に、こんなことをヤれる根性を持ったゲーノー人やブンカ人がいるのでしょうか？まー日本に住んでいないボクなんかにはカンケーのないことですが、日本のゲーノー界というか、日本の文化は、実に貴重な人を亡くしたと思います。じゃ、忌野センセイ、もしあの世でボクの大学時代の親友に会ったら、ヨロシク伝えてくださいね「♪タイマが切れてきた～、そろそろ終わりだ、やってやれねーぜ～」

  2009.05.02

  コメント(6)

• 

  世界に発信、日本の恥部

  カナダのテレビ･ニュースを見ていたら、坂本九の「上を向いて歩こう」をBGMに、「日本の経済最前線からの警告―日本のワーキング･プアの世界を覗く」とかいう(英語の)ナレーションとともに、郵便局のバイクに乗ったオッサンの姿が画面に映る。日本に関するドキュメンタリーの番組予告らしい。クリックすると予告編にジャンプ夜10時からというと普段なら寝る時間なのだが、これを見ずには眠れない。なにせオレも最後に日本を訪れてから1年数ヶ月になる。新聞で「ワーキング･プア」という言葉は聞いているが、最近の不況で日本がどんなふうな状況になっているのかはちょっとオレの想像力を上回る。どうやらこのドキュメンタリーは、BBCでドキュメンタリーを撮ってるイギリス人が、どこかで知り合った全共闘世代のワーキングプアのオッサンの生活を一定期間追ってカメラを回した作品のようだ。バブルの頃には70人の社員を抱える事業を経営し、BMWを乗り回し、寝室が６つもある豪邸に住んでいたこのオッサン、バブルの崩壊とともにすべてを失い、15年後の今は28歳年下のガールフレンドのワンルームマンションに居候し、時給700円やそこらの郵便局のアルバイトで80万円の年収でなんとか生きながらえている。離婚を繰り返し、ほかに身寄りもない。ガールフレンドは昼はOL、夜は水商売の掛け持ちで生計を立てている。自分ひとりが生活するので精一杯なのに、自活できないオッサンに昼飯代をあげたり、外食すれば当然オッサンの分も払っている。代わりに家事は一切オッサンの仕事である。ワンルームとは言っても窓もなく、欧米の家屋の子供部屋並みの広さしかない。ベッドを置いたら卓袱台を小さくしたような簡易テーブルを置く程度のスペースしかない。こんなところにオトナ2人が生活しているというのは、欧米人の目から見たらショッキングである。カメラは職場にも踏み入る。朝礼前は海外で悪名高い「ラジオ体操」だ。ワイシャツにネクタイを締めたオッサンたちが真面目な顔で「１、２、サンッシッ！」とやっている。朝礼が終わるとグループごとに集まって円陣を作り、今日も1日頑張ろう！安全確認！などと復唱・連呼している。日本で生まれ育ったオレにとってさえ、今となっては異様に写る強烈な映像だ。おまけにこのオッサン、同僚を遠くから指差し、小声で「アイツは仕事のプレッシャーで鬱病になり、精神病院に入院していた」とか、「アイツの弟は鬱状態になって自殺した」とか平気で教えて、カメラマンはそのたびにそれらの人物をぼかしもなしで正面から映したりする。それはマズイだろ(笑)。あと、「日本では１日３万人が自殺する」とかウソを言ったりする。これは1年で３万人の間違いだ（毎日３万人ずつ死んだら日本の人口は10年でゼロになってしまう）。海外のテレビ局が作る日本に関するドキュメンタリーというと、たいてい新宿や渋谷や道頓堀の繁華街と、京都のような古都や富士のような自然の風景の対比をテーマにお茶を濁すのが常套である。ホームレスを遠くから撮ったシーンなんかもたまに見たりするが、このドキュメンタリーのように実際のワーキングプアを四六時中追い、懐にまで入り込んだものはちょっと見た記憶がない。それにしてもこのオッサン、なかなかしっかりした英語を話す、学のありそうなオッサンなのだが、自分の住処をはじめ、日本の恥部とも思えるようなところをどうしてこうも平気でガイジンに撮らせているのか。仮に日本政府がこのドキュメンタリーを事前に見せられていたら、きっと放送させないようにするか、部分的にカットさせるよう、なんらかの圧力をかけたに違いないとさえ思う。どうやらこの人、全共闘世代の例に漏れず、若い頃は政治運動をしていたらしい。ことあるごとにキャピタリズムがどうだとか富の不平等だとか言ったことを口にする。オッサンがBBCのカメラにあえて自分を付け回させているのは、「世界第二の経済大国」とされる日本社会のこのような悲惨な実際の姿を世界に向けて発信して欲しい…という屈折したモチベーションがあるらしい。しかしなあ、長いこと日本を離れていると、日本のイヤ～な部分を忘れて、美味い食べ物とか温暖な気候とか、いいところばかり懐かしく思い出すようになるものなのだが、このドキュメンタリーはまさに「日本の思い出したくない悲惨なところ」ばかりを直視させられたような気がする。オレも含め海外在住の日本人がこんなドキュメンタリーを見た日にゃ「もう日本になんてとても帰れないなあ」と思うに違いない(笑)。また、ガイコク人の日本への幻想を醒ますにもとても効果的だったと思う。このオッサンの捨て身の願いは果たされたと言えよう。

  2009.02.08

  コメント(6)

• 

  負のカリスマその後　-戸川純

  昨日の日記に関連するのだが、通常のカリスマの逆で、“ネガティブなカリスマ性”の持ち主とでも言うべきボーカルがマレにいる。カリスマというのはふつう「コイツには適わない」という、見る者の服従性を誘う英雄的な能力の一種である。しかし、むしろ見ているとついイジメたくなるような、「このバカ、見ていてこっちが恥ずかしくなるわ、ちょっと小突いたろか」と思わせるようなダメなキャラなのに、言葉に表せないその奇矯さになんだか目が離せなくって、つい惹き付けられてしまう、そんな負のカリスマが確実に存在する。有名になる前の、初期のトーキングヘッズのデビッド・バーンとか、スマッシング･パンプキンズのビリー・コーガンなどはその好例だと思う。しかし、オレが今日ここで触れようと思っているのは、戸川純である。オレは戸川純という、あの不思議少女的キャラはどちらかというと好きではない。しかし、彼女のCDは現役の頃から四半世紀を経た今でも、聴くと感動する。ひと言でいうと「バカなんだが、スゴイ」のだ。バカといっても、戸川純の知能の高さは尋常ではないと思う。彼女の書いた文章やインタビュー記事を読むと、女性には珍しい「紙一重」タイプだと確信する。ただ、彼女のステージでのアクションを見ると、「いい加減にしろ」と言って小突いてやりたくなるくらいバカである。本気で、しかも一生懸命にやっているのは分かるのだが、とにかく不恰好でみっともないのだ。でも、スゴイので圧倒されて、つい見入ってしまう。それはちょうど、ブスなのだが演技でなく本気で全力でやっているA-V女優の本番ビデオに通じるものがあるかも知れない(笑)。実はオレは昨日の日記を書きながら、20年も前に一緒にバンドをやった仲間である鰻坂ヒカルのボーカルについて考えながら、ちょっと戸川純と共通するところがあるなあ…などとふと思い、楽天ブログにアップするための記事をここまで書きながらYouTubeで戸川純のビデオを検索していたのだが、そこになんと、ほんの数年前の戸川純（ヤプーズ）のライブのクリップを発見してしまった。そしてそれを見た途端、オレはあの当時の戸川のボーカルについて書くのがバカバカしくなってしまった。とにかく、それが、スゴイのである。クリックするとライブ映像にジャンプ戸川純は1960年生まれだから、そろそろ50歳(笑)である。このビデオクリップは３～４年前だから戸川はもう40代も半ば、外国であればそろそろマゴがいる年齢である。このビデオを見ると、その戸川は、さすがに年齢の自覚があるのか(笑)20年前のあの不思議少女キャラというかヘンな商売クサさを棄てて（もうランドセルも背負っていない(笑)）、例のブリッコ唱法も一切取り入れず、全編『パンク蛹化の女』的な野太い絶叫で歌っている（そしてときどき狂女のように笑っている(笑)）。この噴出する情念ボーカルはもうHolesのコートニー・ラブをも超えていると思う。バックバンドのヤプーズの音楽もデジタル的な効果音を全編に盛り込み、バッドトリップ的なカオスの雰囲気を大いに盛り上げている。20年前のオコチャマ的な甘さのない本物のハードコア、これはもはやRozz Williams の死後 Eva O.をボーカルに迎えて復活したクリスチャン･デスの領域ではなかろうか(笑)。考えてみると、このライブ映像は戸川純の妹の戸川京子が自殺した後のものだ。このライブの戸川は、20年前にステージ上で見せていた苦悩や狂気からカメラ目線というか商売っ気を取り去った、真摯な苦悩・狂気を見せているのだろうきっと。これを見たらもう20年前の商売クサさのある戸川なんて屁のようにさえ思える。戸川はかつて自分のファザコン・マザコンぶりを説明するのに「自分には反抗期がなかった」と言っていた。戸川の当時のあのバカキャラというか不思議少女キャラは、彼女が「反抗」する代わりにパッシブ・アグレッシブ的に世界に対応する手段だったのだ。彼女の「負のカリスマ」というのは言わばそのパッシブ・アグレッシブ的な世界への対処の仕方が共感を得たものだったと思う。まったくの妄想だが、戸川は妹の自殺を機に、ついに父親の抑圧と対峙し「パッシブ・アグレッシブ」からただの「アグレッシブ」になったのではないか。そして、負のカリスマを卒業して、闇の世界のカリスマになったのだ。今の彼女を見てオレは思う。「コイツには、適わない」

  2008.12.19

  コメント(2)

• ボーカルの磁力

  このところ年２～３回のペースでしか楽天ブログを更新しない鰻坂ヒカルがここ２週間のうちに３度もブログを更新している。年末で仕事が大忙しのはずなのに。どうやらMySpaceの例の自作曲発表サイトにまた新曲をアップしたらしい。今回は往年の絶叫調ではなく人並みのメロディアスなボーカルに挑戦しているが、あいにく失敗している。友人の一生懸命なカラオケを聞かされているようで、ちょっと痛々しい。曲想はなかなかいいと思うのだが。世の中にはラジオやテレビでその音楽を耳にする誰もが知っているバンド(一軍)というのがいて、その下位にはメジャーレーベルからCDを出していて一応プロとして喰っているけど、知ってる人しか知らないようなバンド（二軍）がその100倍くらいいて、さらにその下位というか周辺には自主制作などでCDを出して、マイナーなライブハウスなんかで演奏して回っているいわゆるセミプロのバンド(三軍)がさらに100倍くらい存在し、そのまたさらに下位というか周辺に、鰻坂ヒカルのように地道に打ち込みなんかで曲を作り、友人たちに曲を聞かせる程度で満足している連中（草野球）がさらにその100倍くらい存在する。シロウトのごく個人的な意見ではあるが、一軍と草野球の間に音楽的な決定的な実力の差があるかというと、そうではないような気がする。高校時代から三軍から草野球のレベルで音楽を続けている友人を何人か知っているが、彼らの才能はプロと同等である。…というか、その友人の1人は、かつて実際にプロの世界に誘われたがそれを断ってカタギの道を選択している。彼は趣味を仕事にしたくなかったのである。もちろん自分で選択したのではなく、音楽的な実力はプロとほぼ同等でいつか一軍選手になることを目指しているけど、仕方なく草野球や三軍に甘んじている連中だって何万人といるには違いない。…ただ、このような音楽的実力のある人たちがプロ(一軍か二軍)にブレイクできるかできないかは、「ボーカルの違い」に懸かっている場合が十中八九ではなかろうか。ライブハウスに行って、曲もシブくて、ギターもドラムのテクもテレビで見聞きするプロ並みかそれ以上なのに、何んかパッとしないんだよなあ…なんていうことがよくあるが、その場合だいたいボーカルがショボい。必ずしも歌が上手いとか下手とかいうのでなく、ボーカルの磁力に魂が引き込まれるような何か、陳腐な言葉でいえば、カリスマ性の有無がバンドのインパクトを決めてしまう。そしてこの「ボーカルの磁力」は、ギターやドラムのテクと違って、客観的な評価ができない、目に見えない空気みたいなものである。歌はすごく上手いのに心に訴えないとか、逆にほとんど音痴と言ってもいいくらいヘタなのについついその世界に引き込まれてしまうなんてことがあるのは、ボーカルの力というものが客観的で合理的な説明を超えているからである。もちろんバンドの場合、ボーカルのカリスマ性だけでは限界があって(例えば、古いけどカルチャークラブとか)、バンド･メンバーの調和が生み出すパワーも成功の前提条件であろう。ボーカルにカリスマ性がなくともバンドとして成功しうるとすれば、個性あるメンバーたちが一体となって強力なダイナミズムを生み出している場合に限るのではないか。まあ、カリスマ性などというと聞こえがいいが、これは極論すれば「狂気」と言い替えてもいい（場合が多い）と思う。要するに、「歌っている」というより、止むに止まれずに自分の内部をぶちまけているという、ほとばしるような感じである。あるいは「歌唱」というより「症状の発現」というか。なので、カリスマ性というのは訓練して身につけられるものではないので、一軍選手は永遠に草野球選手の100万分の1しか存在しないのである。

  2008.12.17

  コメント(4)

• 41歳のサルだから

  年に１～２回とつぜん届くＥメールやごくたまに更新される楽天ブログで読んで知ってはいたが、オレが学生時代に一緒にバンドを演っていたボーカルの○田○は、現役から20年近くを経た今、パソコンを駆使し打ち込みでかなり本気でバンドごっこをしているらしい。鰻坂ヒカルを名乗って年に２回の超スローペースで更新している彼の楽天ブログが約４ヶ月ぶりに更新されたと思ったら、彼がMySpaceに開設したブログで自作の曲を公開していることが日記で宣伝されていた。そういえば１年近い前の楽天日記で近々そんなブログを立ち上げると宣言していたが、ようやくそれが実現したらしい。オレの過去日記を読んでくれている数少ない諸兄はご承知のとおり、オレは20年も前の学生時代に大学の美術サークルの仲間と「殿様の生活」という名の猟奇オルタナティブ・バンドを組み、京都のアングラ音楽シーンで暗黒音楽を演奏して回っていた。当時は長髪にハデな柄シャツやインドの国民服を着てステージでドロドロの音楽を奏でていたワシらも、オレなんかを除けばメンバーはみなそれぞれ社会的に成功し、リッパな人になっている。ギターの×田×はいったん就職した後に東大に学士課程から再入学して今はドイツ哲学の研究者をしているし、ベースの○○正○○は心斎橋ワタルを名乗って楽天ブログにその日記を公開している(…しかしここ１年更新されていない)とおり、大手広告代理店で企画部長をしている。鰻坂ヒカルこと○田○もほかではなく、イギリスに渡って15年、今はロンドンで自営業をして成功している。かつて暗黒音楽をバックに絶叫していた男も、今ではロンドンの日系社会のビジネスマンなのである。だから、彼が今つくっている曲というのも、暗黒音楽ではなく、いわゆる「ポップ」である。だから、オレの楽天過去日記を読んで、そんなバンドでボーカルをしていたヤツの音楽なんて怖くて聴けない…なんて思っていた人も、彼のMySpaceウェブサイトを安心して覗いてもらっていい。どうせ歌詞も英語でよく分からないし、仮に英語が分かったとしても、昔の女に対する恨み節みたいなことを切々と歌っているだけである。…と思ったのは、彼のそのウェブサイトにアップされていた２曲目を聴くまでのことであった。Requiemという曲がアップされているが、これはオレたち殿様の生活がいつもライブで最後に演奏していた代表作と同じタイトルである。曲を試聴してみると、ポップなアレンジこそされているが、当時のメロディ･ラインは基本的に維持されていて、歌詞も当時の日本語のままである。何より、その絶叫ボーカルは21歳のあの当時をほぼ再現している。しかもその絶叫している歌詞というのが「♪サルよ、サルよ、僕に電波で指令を出しておくれェェｪｪｪｪー」である(笑)。あれから20年を経て、ビジネスマンになった○田○の中に、当時のあの狂気が健在だったことをオレは知った。かくいうオレも40歳過ぎのオッサンになった今でもライブ演奏を見たりするたびに20年前のバンド熱がぶり返し、ステージの上に立つ自分の姿を夢に見ることがいまだあったが(笑)、41歳になった彼の「♪サル去るサルサル　ｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙ　サル去るサルサル　ｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙｻﾙ　ぼくから去っていかないでェー　サルよォーっ」の絶叫を聞かされ、当時のパンク魂が自分の中でくすぶるのをちょっとだけ感じた。ただ、あいにくオレはもう当時のクリエイティビティだかリビドーだかパッションだかいったものがすでに枯渇しており、実際問題バンドをやることも死ぬまでないと思っている。しかし、鰻坂ヒカルこと○田○には、当時の狂気をこの調子で打ち込みで再現し続けて欲しいと切に思う。次はあの名曲、「♪ひまわりの歌がカニを捉えたら、ひまわりの歌がカニを捉えたら、カニの緑とひまわりの青が、混ざってしまう、イヤだー　句　チャック　結句」の『ひまわり』あたりを、打ち込みでポップに再現してMySpaceで公開して欲しい。取引先には内緒にしておくからさ。

  2008.12.03

  コメント(3)

• The Doors --アメリカの若気の至り

  今シーズン最後のレースであるトロントマラソンを走ってから過去３週間、トライアスロン･チームの週末練習会で２回だけ走った以外には、４～５回プールで泳いだ程度。昨日の練習会では500mを何度か全力疾走したら、見事にケツの筋肉が痛んでいる。過去数年でここまで身体が鈍ったことはないかも知れない。このところカウチにダラーっと座ってボーっとテレビを見ている時間が長くなっている。昨晩はサタデー･ナイト・ライブが終わった後、深夜に『The Doors（1991）』を放映していて、２時間以上のこの映画を最後まで見てしまった。ダラーっとしている時に見るには良くない映画だ。ジム･モリソンが死ぬまでのドアーズの音楽活動を時系列で追ってはいるのだが、ストーリー仕立てではなく、ドアーズのヒット曲をBGMに、全編ドラッグの幻覚みたいな映像が続くのだ。観おわった後は軽いバッドトリップみたいな気持ち悪さに陥る。映像の多くは基本的にジム･モリソンの視点によるものであり、そのジム･モリソン本人が映画の中でいつもラリっているので、映像自体が半分幻覚の再現みたいなラリラリなのだ。しかもその映像のバックにドアーズの曲が延々と流れている。そんなのを、夜中のまったく無防備な状態の時に延々２時間も見せられるのだから、ヘビーである。オレはドアーズのファンでもなければその音楽を好んで聴いたこともないが、アメリカの大学にいた頃に図書館でジム･モリソンの伝記を借りて読んだことがある。当時はオレも東海岸の大学の美術学部で、60年代のセックス・ドラッグ＆ロケンロールを10分の１くらいに水で薄めたような生活をしていたので、まああの自滅的な生き方に多少の興味はあったのである。それにしても、当時を再現したシーンを見ながら思ったのは、オレらが生まれた昭和40年代の前半に、カリギュラの頃のローマ帝国みたいな「何でもあり」の世界が現代にもあったんだよなあ、ということである。酒とドラッグでラリラリになって、ドアーズの演奏を聴きながらサイケなライティングの中で全裸になって踊りまくる男女の群れは、オレの父ちゃん母ちゃんと同じくらいの年代、現在はもう60歳を過ぎた人たちだというのがスゴイと思う。あの人たちもその後は当時の「何でもアリ」の生活を「若気の至り」と反省して、マトモな人の親になったのだろうか。それはそうと、オリバー・ストーンが監督したこの映画の面白いところは、ステージ上のジム･モリソンをインディアンの精霊と重ねた映像が随所に登場するところだ。映画の冒頭も両親の運転する自動車に乗せられた幼少期のジム･モリソンが砂漠の一本道の路端の年老いたインディアンの姿を見ている回顧シーンであった。その後の場面でも、ステージ上で問題発言をしたり奇行に走る際にはジム･モリソンの姿にインディアンの幻影が重ねられる。これはジム･モリソンが当時のアメリカ社会のシャーマンのような役割を果たしていたという暗示なのか、あるいは実際にジム･モリソンがインディアンの霊に憑き動かされていたのではないかというオリバー・ストーンの解釈なのか。アメリカもベトナム戦争とセックス・ドラッグ＆ロケンロールの青春時代からレーガノミクスとディスコでフィーバーの80年代、クリントン政権とオルタナティブの安定した90年代を経て、一時時代の流れに逆行するブシュの保守反動の8年間を挟んだものの、オバマの時代になっていよいよ成熟期に入るのかなあ。そしてドアーズもジム･モリソンも「爺さん・婆さんの世代の若気の至りのちょっと恥ずかしい時代」の象徴として忘れ去られるのかなあ。

  2008.11.09

  コメント(6)

• 

  スタアの素顔

  ﾏﾄﾞﾝﾅﾌﾞﾙｯｸ･ｼｰﾙｽﾞﾄﾞｩﾙｰ･ﾊﾞﾘﾓｱｱﾝｼﾞｪﾘｰﾅ･ｼﾞｮﾘｰﾆｺﾙ･ｷｯﾄﾞﾏﾝｷｬﾒﾛﾝ･ﾃﾞｨｱｽｼﾞｪﾆﾌｧｰ･ﾛﾍﾟｽｼｬﾛﾝ･ｽﾄｰﾝどうですか、みんなそのへんにいるオバサンという感じではありませんか、素顔だとそのへんのシロウト以下のルックスの持ち主もいますね、じっさい、素材はそのへんのシロウトと同じであって、すべてはメイクとスタイリストとライティングのなせるわざなのですね、パパラチにせよファンにせよみんな何に夢中になってこんなオバサンを追っかけてるのでしょうか、みんなこの世にありもしない幻想を追いかけているのですね(終わり)

  2008.10.30

  コメント(4)

• 童謡　殿様の生活

  カナダも日本と同じく３連休である。ただしカナダの場合は体育の日ではなくサンクスギビング(感謝祭)の日である。ちなみにアメリカのサンクスギビング･デイは11月末にあり、土日をあわせて４連休くらいの休暇になるので、ちょっとした小旅行に出るのにちょうどよい。しかし３連休だとせいぜい知人や親戚の家を訪問したり近場にキャンプに行くのがせいぜいだ。いずれにせよオレにとってはこの週末は来週のフルマラソンに備えての調整トレーニング期間なので、どこに出掛ける予定もない。昨日はマラソンとは無関係に1時間40分で4キロ弱泳いだ。これまでは1日に３キロ以上泳いだことがなかったので、万が一疲労が残った場合を考慮してこの３連休を待っていたのである。ほとんど休みを入れずに泳いだが、それほど疲労はなかった。これでアイアンマンの水泳3.8キロを制限時間の2時間以内に泳ぎ切る自信がついた。マラソンの1～２週間前の調整というのは、カンタンに言えば体力の温存である。30キロとかいった長距離を走りこんで本番に疲労が残るようなことはしない。1週間前は、プロでもない限り15キロとか20キロ程度の距離を本番のスピードで走って、調子を確認する程度である。トレーニング時以外は体力の温存のために家でゴロゴロしているので、暇つぶしにおばけうさぎ氏の楽天日記に載っていた東大の自動作曲ウェブサイトをためしてみることにした。歌詞を入力し、テンポ・リズム・コード・音色(楽器)などを指定すると、ソフトが勝手に曲を付けて、楽譜を表示して演奏してくれるという代物である。あいにくリズムには「パンクロック」とか、コードには「ゴシック」とか、音色には「ノイズ・ギター」などといった選択肢がなく、どんな前衛的あるいは先鋭的な歌詞を入力してもアウトプットは「童謡」になってしまう。それに、どんなに長い歌詞を書き入れても、せいぜい童謡みたいに30秒程度までしか曲をつけてくれない。しかし、品行方正な優等生っぽい合成ボイスが、オレの不謹慎な歌詞をクソ真面目に歌い上げるのがバカバカしくも可笑しく、ついハマってしまう。以下は、オレがこの郡山ハルジブログに過去に載せた自作の歌詞およびオレがむかしやっていた「殿様の生活」という特殊バンドで演奏していた曲の歌詞を入力し、この自動作曲ソフトに曲を付けさせた結果である。なかなかいい味を出しているので、この日記で公開することにした。『粘着質のくさいクソ』 　作詞：郡山ハルジ自動作曲をダウンロード歌詞のリンクはこっち『冬はガサガサ』 作詞：郡山ハルジ自動作曲をダウンロード歌詞のリンクはこっち 『ムーミン』 作詞：○○□□□（←オレの本名）自動作曲の曲をダウンロード歌詞のリンクはこっち『魚Pの犯罪』 作詞：○○ ○（←鰻坂ワタルの本名） 自動作曲の曲(弦楽器バージョン)をダウンロード自動作曲の曲(ピアノバージョン)をダウンロード歌詞のリンクはこっち（リンク先の記事のまんなか辺り(【みんなサル－学内初ライブ】の章)に歌詞が載っている） 『ひまわり』 作詞：○○ ○（←同上）自動作曲の曲（高速バージョン）をダウンロード自動作曲の曲（低速バージョン）をダウンロード歌詞のリンクはこっち（リンク先の記事のまんなか辺りに歌詞が載っている）「♪コメを食うと出る、粘着質の臭いクソ」もいいけど、オレは『ムーミン』がこの合成された優等生ボイスによくマッチしてて、いちばん出来がイイと思うんだなあ。『魚Pの犯罪』の最後の「♪ボクは間違った～」も捨て難いけど。しかしあんな暗黒でヘビーな殿様の生活の曲がこの優等生ボイスにして掛かられるとNHKの「みんなのうた」になっちゃうのがイイんだなあ。

  2008.10.12

  コメント(4)

• 初期AATT オレのベスト５ 拙訳

  すいません、And Also The Treesの話はもうこれで終わりにしますので、オレがとくに気に入っているこのバンドの５つの曲についてちょっと書かせてください、抽象的な批評や自己満足の訳詩を読まされてもちっともイメージが湧かないという人のために、YouTubeで見つけたライブ動画のリンクも貼りました1位　Scarlet Arch (LP『Virus Meadow』の輸出版にボーナス・トラックとして収録)屈折度、暗い度、重い度、爆発度、哀しさ、ﾘﾘｼｽﾞﾑ、繊細さのどれをとっても満点に近い初期AATTの傑作。サビでの錯乱気味のギターとフラストレーションが爆発したようなドラムがとても気持ちいい。歌詞のイマジェリーも音楽にピッタリである。Lie in the pale summer heatほの白い夏の熱の中に横たわりFind a clock as it ticks見つけたのはカチカチと時を刻む時計Oh, to never sleep…ああ、まるで眠るなとでも言わんようにBut the clock ticks so loud時計は大きな音を立てて時を刻むLike the cracking of whipsまるで鞭打つかのようなその音はTill the sun slowly heavesやがて日がゆっくりとFrom the blood hungry land血に飢えた大地からTo its heaven of blue蒼い天上に昇るまで続くRun, through the dust and the stones塵と石の間を分け走るLike a stream as it flows平穏の王国を突っ切って流れるThrough the kingdom of peace急流の流れのようにBut a beast roamed his headしかし野獣は徘徊する、その頭をLike the aching of guiltまるで罪の痛みのようにうな垂れAs it bakes in the heat夏の熱の中で焼き固められAs its swollen tongue speaks膨れた舌で何かを喋るままにRobs the old of its breath膨れた舌が旧い息を奪うままにHang beneath dawns scarlet arch黎明に垂れ下がる緋色のアーチWhere the wind ever moansそこでは風が唸りを立てているLike the slaveship it driftsまるで風に漂う奴隷船のように２位　Virus Meadow（LP『Virus Meadow』及びライブLP『The Evening of the 24th』に収録）これも屈折度、暗い度、重い度、爆発度、哀しさ、ﾘﾘｼｽﾞﾑ、繊細いずれも高得点。AATTらしい「quiet - LOUD - quiet」の法則のお手本のような曲でもある。YouTubeのビデオを見てもらうと判るかも知れないが、「From his lips the virus sang(司祭の唇からウィルスが歌う)」の節の最後からがサビのLOUDになり、またこのシンバル部分がまさに鳴り響く教会の鐘の音に聞こえて気持ちいい。イギリスの陰鬱な風景が目に浮かぶような、魂を掻き毟られるような名曲。歌詞の最後に登場する”the night brothers”はボーカルとギターのJones兄弟自身か、あるいはホモの暗示か？Rattled chime, slow ringing echoガタガタと揺れる鐘、鳴り響く鐘の音はゆっくりとこだましRoll around in virus meadowウイルスの草地を転がりゆくSuck enchanted nightshade twine呪われた毒の実が絡みつくのを吸いHear the bells beneath us chime眼下の鐘が鳴り響くのを聴くSinking sermon, priest head murmurs司祭の頭がつぶやいている　気の滅入る説教Holy words across the meadows聖なる言葉は草地を渡りKissed the plagues' black rolling hand振れる悪疫の黒い手に口づけThrough his lips the virus sang司祭の唇からウィルスが歌うAnd the rooks, they seemed to follow him そしてカラスは、司祭の後を追うかのようにWherever he goes彼がどこに行こうともFlapping in the flat sky平らな空に羽ばたきShrieking in the spire尖塔の上に立って高声を上げるHanging from the lead sky鉛色の空から吊り下がりDangling from the sun太陽から垂れ下がりThe rooks, they seemed to follow him カラスはまるで　司祭がどこに行こうともWherever he goes彼の後を追うかのようにNodding thistle, english sun dew頭を垂れたアザミに　英国の淡い日に照らされた露Swansneck woman, child-bed meadow白鳥のように首を垂れた女、子供ベッドのような草地Aching shoulders sink and grow痛む肩が沈んでは浮かぶAs the bells from ditches toll水路から聞こえてくる鐘の音に合わせてAnd the smeared skin wrapped limbs薄汚れた肌はOf the night brothers夜の兄弟の四肢を包んでいるStruggling.... crawling這いつくばり、もがいているThrough the empty crack of morningその夜の兄弟のもとにOf the night brothers...空っぽな夜明けがやってくるまで3位　The Suffering of The Stream　(『The Millpond Years』収録)LP『The Millpond Years』のレコード(CD)をプレイすると、いきなりギターの不協和音で始まるのが、１曲目のこの曲である。この不意を撃つ不協和音ギターのおかげで一発でAATTの世界に引き込まれてしまう。なんだかAATTらしくないメロディアスなキーボードだと思って聴いていると、歌詞も珍しく女のことを歌っている。これまで不調和の中で痛々しく叫んでいたAATTが世界と折り合いを付けて安定したかと思わせるような、優しくも少し痛々しく哀しい曲。There is a place where she would always be彼女がいつも居る場所があるWhere the blossom snows between the cankered trees腐りかけた木々の間に花びらの雪が積もるその場所Holding his sour breathその酸っぱい息を押し殺しながらHe knows she's there彼は知っている、彼女がそこにいることをWatching the torrent as it flows奔流が流れるのを眺めながら佇んでいることをWatching her soft white dress, it flows彼女の柔らかそうな白いドレスがIn the innocent breezes流れの底にある石を滑らかにしながらSmoothing the stones無垢な風に流れるのを見つめているWatching her cold white dress, it floats彼女の冷たい白いドレスが流れるのをHe could see his love like a long forgotten dream長い間忘れていた夢のような彼の愛、He could see his love veiled beneath the stream彼はその愛が急流の下に隠されているのを感じているHe could see his love grow pallid and suffer as he weeps彼が嘆き悲しむにつれ　その愛は蒼白くなり傷むのが分かるHis tears fall around her in oil-rainbow streaks彼の涙の雫は油に浮かぶ虹のような跡を残して彼女の周りに落ちるHe could see his own reflection cloud the stones水面に映る彼の姿が水底の石を曇らすのが見えるThere is a place where she will always be彼女がいつも居る場所があるWhere the blossom floats above her through the reeds葦の合間、彼女の頭上に花びらが舞いWhere cling the willow roots柳の根が絡みつくその場所His fingers reach彼の指が延びるSearching for her lost arms to seize失ってしまった彼女の腕を掴まんとしてWatching her soft white dress, it flows彼女の柔らかそうな白いドレスがIn the innocent breezes流れの底にある石を滑らかにしながらSmoothing the stones無垢な風に流れるのを見つめているWatching her cold white dress, it floats彼女の冷たい白いドレスが流れるのを歌詞を訳していたら疲れてきたので第３位まででおしまい。4位と5位は、さきおとといの日記に書いた『Slow Pulse Boy』と、デビューLPに収録されている『Midnight Garden』ということにします

  2008.09.26

  コメント(2)

• 

  アルバム解説　初期 And Also The Trees

  さて、ついに楽天日記で4日に渡ってしまったAND ALSO THE TREESの件であるが、オレが言い残した大事なことというのは、オレが自分の心酔ぶりをこんなにしつこく書いているのはあくまで 初期And Also The Trees に限定した話だという点である。80年代前半にデビューしたこのバンドはなんと今でも現役で活動しており、つい先日も10作目くらいのLPをリリースしたばかりなのだが、オレは90年代以降彼らの音楽はほとんど追っていない。オレのいうAnd Also The Trees の“初期”というのは彼らが88年に発表した第3作目までである。このバンドは1989年に発表した第4作目『Farewell To The Shade』で文字通り陰影に別れを告げ、地下室または屋根裏の音楽から、居間で聴ける音楽へと変貌を遂げたからである。さらには90年代半ばにアメリカのレーベルと契約してアメリカ市場に進出してからのAnd Also The Treesはジャズだのブルースだのの要素を取り入れ、これがかつてキュアと一緒にツアーして周ったポジパン系バンドだったとは一概に信じがたいほどである。オレのこんなシロウト丸出しのマニアックな評論を読んでレコード屋に走る人もいないと思うが、彼らのさいきんの作品を聴いて「ぜんぜん屈折もしてないし暗くも哀しくもないじゃ～ん」「騙されたぁ～」と思われないためにも、彼らの初期のLP 3作品についてこの場を借りて解説しておきたい。「ちょっと貸レコード屋で探してみるか…」などと思った訪問者の存在に備え、それぞれの作品を「屈折度」--その曲がいかに屈折しているか「暗い度」--いかに暗いか「重い度」--その曲のヘビーさ加減「哀しさ」--その曲がいかに哀しいか「ﾘﾘｼｽﾞﾑ」--その曲のリリカルさの度合い「繊細さ」--その曲の繊細さの度合い「爆発度」--いかにその曲が爆発しているか…の７項目について、５段階で評価した。『And Also The Trees』 (1984)屈折度：☆☆☆☆1/2 暗い度：☆☆☆☆ 重い度：☆☆☆☆☆ 爆発度：☆☆☆☆1/2 哀しさ：☆☆1/2 ﾘﾘｼｽﾞﾑ：☆☆☆ 繊細さ：☆☆1/2 メンバーがみな10代だった頃の、荒削りで激しいデビュー作。The CureのLawrence Tolhurst のプロデュースによる、キュアを重くしたような、サイケ色及びポジパン色の濃い作品。ヘビーなので、なるべく元気のあるときに聴こう！『Virus Meadow』 (1986)屈折度：☆☆☆☆ 暗い度：☆☆☆☆1/2 重い度：☆☆☆☆1/2 爆発度：☆☆☆☆ 哀しさ：☆☆☆☆1/2 ﾘﾘｼｽﾞﾑ：☆☆☆☆☆ 繊細さ：☆☆☆☆1/2これを読んで「And Also The Trees、ちょっとレコード屋で探して聴いてみようかな」と思ったそこのキミ、迷わずこのLPを買いなさい(あるいは借りなさい)。And Also The Treesのエッセンスはこの1枚に詰め込まれている（ただし、ボーナス･トラックの『Scarlet Arch』が入っているヤツを探すこと！）。腐りかけた果物に西日が差してる静物画のジャケットも部屋に飾るのにピッタリだ！『The Millpond Years』 (1988)　屈折度：☆☆☆1/2 暗い度：☆☆☆1/2 重い度：☆☆☆ 爆発度：☆☆☆ 哀しさ：☆☆1/2 ﾘﾘｼｽﾞﾑ：☆☆☆☆ 繊細さ：☆☆☆☆前作までは控えめだったキーボードがよりメロディアスになって前面に出てきて、ヘビーさと爆発度がかなり軽減された結果、一般人でもなんとか着いて来れるようになった会心の第3作。『House of the Heart』のような、第4作目『Farewell To The Shade』につながる明るく暖かい曲も登場。おまけ『The Evening of the 24th』(ライブ版)（1986）言い忘れたが、And Also The Treesはライブバンドである。このLPはボーカルの迫力やメンバーのダイナミズムといったこのバンドの魅力が遺憾なく発揮された、オレの知る限り最高のライブ･アルバムである。初期のAnd Also The Treesを全部聴いてみたい人がいたら、まずこのライブアルバムを探そう。これを聴いて小便と涙が一緒に出るくらい感動したと証言する人間は、オレを含め世界中に100人はいる。ちなみにオレがそれ以降And Also The Treesを聴かなくなった第4作目『Farewell To The Shade』(1989)であるが、もはやポジパン系やネオサイケ系の原型を留めないほどにスッキリした作品になってしまい、オレの評価基準ではこんな感じである。屈折度：☆☆ 暗い度：☆☆1/2 重い度：☆☆1/2 爆発度：☆ 哀しさ：☆☆1/2 ﾘﾘｼｽﾞﾑ：☆☆☆ 繊細さ：☆☆☆郡山ハルジがイイというバンドなんて怖くて聴けないという人も、『Farewell To The Shade』であれば何も恐れずに安心して聴けるに違いない。最後に初期And Also The Treesの曲でオレが好きな曲のベスト５であるが、…また長くなってきたので、また気が向いたときにつづく。

  2008.09.25

  コメント(6)

全124件 (124件中 1-50件目)

1 2 3 >