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おいでやす。郡山ハルジウェブサイト。

[翻訳・通訳・英語] カテゴリの記事

全43件 (43件中 1-43件目)

通訳者のリベンジ

先週名古屋で開かれた国連生物多様性会議(いわゆるCOP10)の話の続きなのだが、カッコいいオーストリア女性が議長をつとめた分科会１が成功裏に終わったのとは対照的に、分科会２は議論がなかなか先に進まず、最終日が近づくにつれ泥沼の様相を呈していた。議題は「条約の運用、資金メカニズム、資金動員のための戦略に関する決定書案」となっているが、大雑把な言い方をすれば、分科会２のテーマは金持ちの先進国が貧乏な発展途上国のためにいつまでにいくらどういった形でカネを出すかの討議だ。分科会２の議長は先進国でも途上国でもないメキシコ出身の熟年男性で、両者の立場のバランスをうまく取りつつ、たびたびジョークを交えながら和やかな感じで話し合いを進めていた。オレはスペイン語が分からないのでヘッドフォンをつけて英訳の同時通訳音声を聞きながら討議を追っていたが、メキシコ人議長がスペイン語で議事を進行していることもあり、ラテン系の国々(すなわち、どちらかというと途上国)が盛んに発言しているようであった。しかし、オレが代表者による発言・声明収集の仕事のために分科会２に入った最終日の前日になると、話が具体的なカネのことに及ぶに至り、カネを出す側の先進国と、カネを受ける途上国側の代表者との意見の対立が表面化し、雰囲気は険悪になりつつあった。その日は会議終了の午後６時が近づいても議論は収束するどころか、今日中に採択しなければいけない文書は複数残っているというのに、両者はなかなか妥協する様子を見せなかった。会議は今日も延長戦となり夕食休憩を挟んで午後８時から再開されたが、欧州連合を中心とする先進国側は、まるで議事進行を妨害するかのようにいちいち途上国側の提案にケチをつけ、一方でフィリピンやケニアを中心とする途上国側は、具体的な金額と期日を決定書に盛り込むことに関しては一歩も譲ろうとせず、議論は堂々巡りになりつつあった。おまけに夜が更けてくるに従い代表者たちの発言も疲労のためか冗長になったり、おまけに集中力も切れてきて「すいません議長、今言ったことを繰り返してください」とか「すいません、議長のスピードについていけなくなってきたので、もっとゆっくり喋ってください」などという要求が出てくるようになってきた(笑)。議長もだんだん辛抱が切れて嫌気が差してきたのか、まるでイヤミを返すかのように、さっきの発言を異常にゆっくり繰り返した後、「どうですか、これくらいのスピードならついてこれますか？」などと言うと、繰り返しを要求した国の代表者も思いっきりゆっくりと「イエース、ミスター・チェアー。サンキュー、ベリー、マーッチ。」などと切り返し、会場を和ませるジョークなのか、単なるイヤミの応酬なのか分からなくなりつつあった(笑)。議事進行がこんな感じなので、本来なら１時間で終わりそうな議論にも２時間掛かりそうな按配で、会議場の雰囲気もダレて来ていた。オレが予想もしなかったことが起きたのは時計がちょうど11時を少し回ったときだった。議長のスペイン語を英語に同時通訳していた渋い男の声が突然軽やかな口調に変わり、「…さて、非常に残念なことですが、時間になりましたので通訳サービスを打ち切らねばなりません。では、通訳はこれで以上です！」と言うと、ヘッドフォンの音声がプツリと絶えた。そう、国連の規定により、会議が延長された場合でも、同時通訳者は最大午後11時までしか拘束できないのだ。というのも、通訳者は人間なので集中力にも限界があるし、また翌日にまともなパフォーマンスを発揮するためには十分な休養をとらねばならないからである。（ちなみにオレはためしにロシア語、中国語、アラビア語、日本語などのほかの同時通訳のチャンネルも聞いてみたがどれも通訳は打ち切られていて、唯一フランス語の通訳者だけが、通訳の途中だった議長の発言が完了するまでは２分くらい延長して同時通訳を続けていた。）ヘッドフォンをつけていた参加者たちが次々にヘッドフォンを外し、会場はシーンとなった。11時を過ぎた時点で、スペイン語をそのまま理解できる代表者以外、議長の言っていることがまったく理解できない状態になってしまったのである。それまではヘッドフォンから流れてくる同時通訳をあたかも当然のように聞いていた参加者たちは、通訳の音声は機械ではなく同通ブースの中にいる生身の人間がやっていることであり、会議が成立しうるのも通訳者の努力のおかげであることを否でも知らされることになった。ただでさえ進行が滞っている会議が、さらなる難問に見舞われた。ちょうどその時点でスペイン語で発言をしていたボリビアの代表者である若いネーちゃんなんかは、議長から「もはや本日の通訳サービスは打ち切られました。英語で発言をやり直してください。」と英語で言われ、自分は英語の能力に限界があるので通訳サービスなしでは会議に参加できないといったことをスペイン語で述べていた(らしい)。同時通訳不在の問題を解決するため会議は10分間中断された。そして、明日の本会議までに文書を採択するためには今晩しか残されていないことから、結局ボリビアをはじめとする英語を苦手とする各国の代表者も以降は英語で議事を進行することに渋々同意し、驚いたことに会議はあと30分やそこらで日付が変わるという時刻に再開された。以降、それまでは同時通訳者の力を借り、母国語で雄弁な主張をしていた中国やエクアドルなどの代表者もちゃんと英語で発言をするようになった。さすが外交に携わるだけあって、喋ろうと思えば英語も喋れるのである。しかし、やはり慣れない言語だからであろう、非英語圏の代表者たちの発言は簡潔さを失い、議事はいっそう遅れていった(笑)。その日の会議は結局深夜12時半頃まで続き、意見がまとまらない部分についてのみ別途に関係各国代表者だけで夜通しの諮問会議を続けることにして一旦終了となった。よほど疲労困憊していたのだろう、その議長は翌日午後４時から始まったの最終本会議には出席していなかった。一方、前の晩11時でホテルに帰った同時通訳者たちは、翌日の本会議で前の晩と変わらない立派な通訳パフォーマンスを見せていた。通訳者の陰での苦労が日頃あまり顧みられることのない状況を不服に思うことがあったオレであったが、労働規定に保護されているプロ通訳に比べれば、連日ほとんど不眠不休で討議を続けなければいけない各国の代表者というのは、ほとんど命懸けだよなあ、と思った。そして、午後11時きっかりで同時通訳をストップし「これで通訳サービスを打ち切ります」と宣言した通訳者の声が異常に軽やかだった理由がよく解かったような気がした。

2010.11.02

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マダム・チェア

今回名古屋で開かれた国連生物多様性会議で、オレの主な仕事は記者会見場における国連環境プログラムの広報官たちの補佐であったが、ときどき分科会の会場に入れてもらって記者やカメラマンを案内するとか各国の代表者の発言を記録する仕事をさせてもらった。分科会には２つあって、分科会１は「海洋・沿岸域の生物多様性および保護地域に関する決定書草案」、分科会２が「条約の運用、資金メカニズム、資金動員のための戦略に関する決定書案」の討議であった。オレは中でも分科会１に入るのを楽しみにしていた。それはなぜかというと、議長がカッコよかったからだ。分科会１の議長はオーストリア出身の30歳前後の女性で、ソフトなドイツなまりの英語がキュートなのだが、それでいて威厳があった。分科会は締約国である約190ヶ国の代表に加え、世銀だのWTOのような国際機関やら世界中のNGOや先住民族の代表だのが参加しているので全部で350以上の席があり、それらの各席に数人ずつの代表者が座っている。それに加えてマスコミだの傍聴者席が数百席あるので、会議場はゆうに体育館２つ分くらいの大きさがある。だから、後ろの席の人にもステージ上の議長や事務官たちの様子が見えるように、会議場内には全部で５つのテレビカメラが回っていて、それらの映像が天井から垂らされた４つのスクリーンに投影されている。音声はスピーカーからも流されているが、国連の正式言語である英語・仏語・西語・露語・中国語・アラビア語に通訳された音声が席に設置されたヘッドフォンで聞けるようになっている。会場のオレら日本人バイリンガル・スタッフの半数は英語のバイリンガルではなくスペイン語やフランス語のバイリンガルもいるし、英語のバイリンガル・スタッフの多くも国際会議の経験は皆無なので、実は英語で進行される議事を最初から聞いていないか、あるいは聞いていてもあまり理解していない。だから、議事取りの数名を除けばあとはただ席に腰掛けて何時間の間もポカンとしている(笑)。オレはといえば議事にはちっとも関心がないのに、まるで締約国の代表者のように集中して話を聞いていた。それというのも、議長の活躍を見ているのが楽しみだったからだ。議長は国際的に法的拘束力を持つ決議書の文面を決定する最終権限を持っている。だから各国代表者は発言をする際、議長に敬意を払って「Madame Chair 議長閣下」と呼ぶ。えてしてこのような国際会議での議長は年配の男性が多く、議長の呼称は「Mr Chair」となるのが通例なのだが、国連気候変動条約を含め環境関係の国際会議では比較的若い女性が議長になることが多く、「Mr Chair」が「Madame Chair」になることが少なくない。オレは仕事で分科会１に入る機会を得るたび、スクリーンに映る議長の顔を見ながら「マダム・チェア」を心の中で応援していた。キューバだの中国の代表がすでに決議済みの条項を蒸し返して変更を求めたり(笑)、インドの代表者が「語呂の良さ」を理由に表現の変更を求めたり(笑)するたびに、マダム・チェアが表情を曇らせる。オレは議事に何の利害関係もないにも係わらずインドや中国の代表者に怒りを感じ(笑)、マダム・チェアがこれらの「困ったちゃん国」の代表者を辛抱強く諌めようとする姿勢に感動を覚える。また、会議が最終日に近づくのに先進国と途上国の間の溝が埋まらずに議論が紛糾するにつれ、スクリーンに映るマダム・チェアの姿が目に見えてやつれていくの見ながら、「頑張れ、あと８段落で終わりだ！」と心の中で応援してしまう。一番右の人が議長COP10の期間中、マダム・チェアとは２回接触する機会があった。午後のセッションが始まる直前に会議場前のロビーの自販機に並ぶと、マダム・チェアがコーヒーを選択していた。「カフェインがないと３時間の長丁場は持ちませんよね、マダム・チェア。」と後方からねぎらいの声を掛けると、彼女は可愛く微笑んだ。その表情を見て、彼女は会議場でオレの顔を覚えてくれているな、と勝手に思った(笑)。次に会ったのは会議最終日の前の晩に会議場の前でタクシーを待っている時だ。分科会１に入ったスタッフによると、その日の夕方マダム・チェアは会期中に何とか全文案の採択を終え、満場大拍手の中で草案採択を宣言したそうだ。スタッフの１人はその感動的なシーンに涙が出てきたと言っていた(笑)。深夜12時過ぎにタクシーを待つ彼女は、隠せぬ疲労もさることながら、とても満足気な表情をしていた。オレは彼女がタクシーに乗り込んで英語でホテル名を告げた後、タクの運ちゃんが行き先をちゃんと理解しているのを確認し、その旨を彼女に告げてからドアを閉めた。彼女はちゃんとオレの顔を見て笑顔で「Thank you.」と言った。オレは一瞬、このまま同じタクシーに乗り込んでホテルまで同行しようかと馬鹿な妄想をした(笑)。オレは、地球環境のためには人類が滅びるのが最善だと思っているような、日頃は環境保護運動なんかにほとんど関心のない人間なのだが、マダム・チェアのような立派な人たちがこうして寝食も忘れて環境保護のために尽力している姿を見ると、こんな些細な形でも国連の会議に貢献できて良かったなあと素直に思えるのである。

2010.11.01

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Marijuanaさんとトンガの大臣に土下座した！その3

3007号室にドアの向こうに立っていたのは、日本人がトンガだとかサモアだとかいった太平洋上の島国の住民のイメージをそのまま戯画化したような、四角っぽい体躯に巨きな頭を乗せた、濃い顔の熟年男性であった。着ている洋服を脱がせて虎のパンツをはかせて角をつけたらそのまま赤鬼になりそうな、迫力のある顔である。彼は夜遅くまで会議をして深夜にホテルに帰ってきては毎晩心地の悪いシングルベッドに寝かされる苦痛を吐露した上、COP10の前の催し物に出席するために東京で日本政府が用意してくれたホテルの部屋がいかに広くて快適であったかを比較し、このような部屋に１晩4万数千円を払う価値はないと断言した。理由はいろいろ並べ立てるが、要するに自腹を切るのは1銭でも少ないしたいのである。オレは、彼の部屋は本来なら3万円近くする部屋であり、そんな部屋にシングルの料金で泊まれているのはホテル側の好意によるものであるからして、大臣がシングルに相当する料金しか払わないというのは妥当ではないと主張した。しかし彼は、自分がシングルから移動したという事実はないと言う。側近のクセに態度がデカいだけでなく、部屋を移動した事実を否定してまで大臣の部屋料金を値切ろうというのか。それにしてもさっきから話が微妙にズレている。大臣の部屋の料金の話をしているはずなのに、側近の彼はさっきから「この部屋 this room」が小さいとか4万数千円の価値はないとか言っている。オレはそこまで考えてハッとした。オレたちが話している相手は実は側近ではなく大臣ではないのか？？オレは途端に弱腰になって、ところであなたはもしかしてあなたはトンガの大臣ご自身ですか？…と尋ねた。憮然とした表情で「Yes, I am.」と応える彼に、オレたち3人は顔を見合わせ、…エ、今まで大臣の側近だと思って話していました、I am sorry と伝え、3人並んでホテルの部屋の床の上に一斉に土下座した。もうこの時点で勝負ありだった。オレもそれまではトンガ王国の大臣とは知らず結構アグレッシブに対応していたこともあり、とつぜん「we humbly plead...」とか「we ask you kindly pay...」とか不必要なまでに丁寧な英語に変わり(笑)、もはや強く出れなくなってしまったのであった。おまけにオレなんかは「このような部屋を割り当てた環境省には我々からもクレームしておきますので…」などとつい大臣の側に立った発言までしてしまう始末であった(笑)。結局オレらは全額を取り立てるのは断念し、側近の部屋と同料金の額だけを払ってもらい、トンガ王国の大臣の部屋を退散した。オレらを見送る大臣は勝ち誇ったような満足そうな笑顔を浮かべているように見えた。部屋のドアが閉まるなり、Marijuanaさんは「あれえー、宿泊先紹介所のカウンターで話した人と同じような顔に見えたんですけど、たしかに側近にしては態度がデカいとは思ったんですよねえ」とか言い出した(笑)。オレ自身、よく確認せず最初から側近に会うものと決め付けて電話をしていたが、考えてみると側近の部屋の宿泊料金は支払い済みなのに、大臣の部屋の料金の取り立てのために側近の部屋に行くというのもヘンな話であった。外国人相手では負けず嫌いのオレとしては結果的に料金の一部を踏み倒されたようでかなり悔しかったが、トンガの大臣の部屋を訪れてMarijuanaさんたちと一緒に土下座をするという一生に一度の貴重な経験が出来たことに、オレは結構満足していた。イケメン課長も2勝無敗とまで言わないまでも、1.25勝0.75敗くらいの今回の勝負の結果にそこそこ納得されていたようであった。ところで後日マリファナさんからは楽天ブログの管理ページに、無償で取り立ての仕事を手伝ったお礼にいつかどこかスペシャル・ツアーへ招待してくれるとの連絡があった。彼のいうスペシャルというと、誰も知らない森の中のキノコの山とか特別な麻の草原といったイメージが浮かんでしまうのはオレの偏見だろうか。しかしそのメッセージには追伸があって、オレが短期記憶能力の劣化が原因で通訳を辞めざるを得ない状況になったら、一緒に養蜂家にならないかという勧誘で結ばれていたのだった。オレはそのツアーが少し楽しみではありながら、引き返せないワンウェイ・トリップになってしまわないかちょっと心配になるのであった。

2010.10.30

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会話のノリ、文脈とは何か、その他もろもろ（序）

アメリカの大学を卒業して17年が過ぎるが、いまだに音信がある友人は１人だけである。視覚芸術学部の仲間はみな卒業してアート関連の仕事に就いているが、オレときたらアートとは縁のないお堅い仕事に就いた上に絵を描くのも鑑賞するのもすっかり止めてしまい「あの頃とは違うぜんぜんつまんないヤツ」になってしまったからである。何事もだいたい3年周期で「熱中する→飽きる」を繰り返している典型的な分裂気質のオレにしてみれば、アートをやっていたあの数年というのはあくまで「そういう時期」だったに過ぎず、当時の奇行も創作活動に伴うクリエイティビティの発露であったといえる。だから、アトリエでタバコをふかしながらボッキした自画像などを描いていた長髪半ズボンのヘンタイ日本人留学生のオレしか知らない当時の友人たちが、日系の会社でビジネススーツを着てマラソンなんかしながらサラリーマン生活を送っている事実に鼻白んだとしても無理もない。それを思うと、Wがいまだに何かにつけ連絡をくれるのは不思議なことだ。Wはアメリカの大学時代の同期では最も成功したうちの一人で、大手玩具会社のデザイナーとして自分の名前を冠したブランドのミニカー・コレクションまで発売されている男（現在は退社してフリー）なのだが、そんな男がカネも名誉もない、箸にも棒にも引っ掛からない大学時代の留学生をいつになっても気に留めてくれているのは不思議なことだ。オレは今週末、仕事の関係でナイアガラに行くことになっていたのだが、その前日、今週末ナイアガラで開かれているダイカストのモデルカー・マニアたちのコンベンションに招待されてカナダに来ているので、会いに来れるかというEメールがWから来た。オレとしても８年ぶりくらいでたまたまナイアガラに行くというその日に、たった１人しかいないアメリカの大学時代の友達もナイアガラに来ているという偶然には、お互いに驚いた。LAでの生活を捨てて妻子とともにオレゴンの山奥に引っ越してそろそろ１年になるWはすっかりスローライフに馴染んだようで、テンションの緩いホワホワしたキャラになっていた。LAに住んでいた当時は妻子が居ながらモヒカンにあごひげに刺青に革ジャンというキャラだったのが、今ではヒゲも剃りアイビーリーグの学生みたいなストレートヘアの軽い長髪にジーンズ生地のシャツといった、爽やか派の若手アメリカ男優みたいである。ところで彼と話していて、かねてから不思議に思っていたことを思い出したのだが、彼と話しているときはなぜかいつも英語がしどろもどろになる。たまに、英語で会話をしていて「こいつと喋っていると自分でも不思議なくらいに英語がスラスラ出てくる」とか、逆に「こいつと喋っていると、どうも英語がスラスラ出てこない」というアメリカ人やカナダ人がいるのだが、彼は後者の代表なのだ。気の合うヤツとは話も合い、滑舌もよくなるという理屈はよく分かる。考えていることが似ているからボキャブラリーや表現もお互いに似てきて、どちらがどちらの発言をしてもおかしくないような「自我の融解」状態というのはたしかにある。でもこの現象はそれだけでは説明がつかない。なぜなら、趣味の世界だったら永遠に接触することもなかったであろうような性格的にぜんぜん異なるタイプのアメリカ人やカナダ人と仕事で接していて、なぜか話のテンポがぴったり噛み合い、自分が日ごろ使わないようなカッチョイイ英語表現がスラスラ出てくるようなことがたまにあるし、また逆にWなどのように、仲はよいし気も合うが、どうしても会話となると言葉がつっかえて出てこず、チグハグなやり取りになってしまうヤツもいるからだ。あと、会話がちぐはぐになる相手の例としてしばしばあるのは、日本に住んでいたことがあったりして「日本人への英語の話し方」に慣れているヤツとの会話だ。オレのほうは主に日系人も日本人留学生も区別がつかないような田舎モノのアメリカ人を相手にイギリス語を学んだクチなわけで、日本の英会話学校で生徒に話し掛けるような要領で話されても会話のリズムが合わず、いつも歯がゆい想いをする。話す相手の文化や考え方などを理解していればいるほど相手との会話が噛み合いそうなものだが、必ずしもそうではないのである。だからこの現象は、相手の文化的な背景知識だとか教養だとか洗練度などでも説明がつかない。ここまで書いておきながら、この件は実はまだ分析ができておらず提示できる仮説もないのだが、ひとつ言えることは、Wなんかのように、「会話のリズムが合わずチグハグになりがちだけど、言葉を交わさなくともお互いに分かり合ってるのを解かっているからいいや」と思えるヤツも中にはいるということと、でも、「やっぱり会話のリズムが合いスラスラと言葉が出てくるタイプと話しているほうがストレスが少なく話し終わってからもスッキリする」ということである(笑)。思えば、アメリカの大学時代に交際した娘たちはいずれも後者のタイプだったし、夫婦のように一緒に生活するような相手であればやっぱり後者のタイプじゃないと続かないような気もするのだが、実際には後者のタイプで音信が続いている当時の友達はおらず、前者の典型であるWだけと細々とつながりがあるということは、「噛み合わないこと」が気にならないくらいの関係のほうが長持ちするということもあるのかも知れない。（とりあえず終わり）

2010.09.12

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フランス語

かつてある文化人から「クマソの地」と呼ばれたことのある東北の地方都市で生まれ育ったオレには根源的な「文化コンプレックス」がある。音楽・美術・文学・演劇・ファッションといったものに弱いのである。たとえば、東京や京都といった都市に比較して、しばしば「大阪には文化がない」などと言われることがあるが、それを大阪人は恥じていない。「ブンカなんてどうでもええやん、それよりウマイもん食わしてくれる店とかキレイなネーちゃんがいる店ぎょうさんあんでー」と言うのが大阪だ。そこには、ブンカなんてお高くとまったモンより、より実生活に密着した即物的で世俗的な快楽を重んじるという歴史に裏付けられたポリシーがある。一方で東北は、文化を生むだけの物質的な余裕が歴史的になかった土地だ。飢饉だ冷害だといっては娘を売りに出したり間引きをしたりといったことがほんの百年足らずの昔まで日常的に行われていたような環境である。ファッションだの芸術はもとより、即物的な快楽を楽しむ余裕さえなかったのである(涙)。オレの父親は仙台からさらに4～50キロ離れた農村の出身だが、兄弟の名前にはすべて「文」の一文字が含まれている。自分の子供たちには教養を身につけさせてやりたいという、明治時代の百姓親のそんな切実な願いを思うと、オレは涙が出てきそうになる(ウソ)。だから、そんな文化コンプレックスを持つイナカ者のオレは洗練された文化を持つ都市や国が苦手だ。大阪やドイツに行っても引け目を感じることはないが、京都人やフランス人と相い対すると、妙に緊張してしまう(笑)。京都弁やフランス語で喋る相手に対し、自分が訛った標準語や英語で堂々としゃべる自信が持てず、気がつくと無理に京都訛りをマネして喋っている自分に気づいたり、フランス人の場合には極力フランス語で話す努力をしなければという強迫観念に駆られている自分に気づいて苦笑する(笑)。そんなオレが初めてフランスを旅行したのはまだ80年代、大学4年のことであった。とうぜんオレは大学に進学したら第二外国語には迷わずフランス語を選択するぞと堅く決め、NHKフランス語講座のテキストまで用意していたが、進学した大学では当時心理学専攻生は第二外国語にドイツ語が必修とされていた。ドイツといえば近代実験心理学生誕の地であり、オレの憧れであったラカンだのフーコーだのいった精神分析・構造主義系のおフランスは実験心理学の立場からは異端として基本的に無視されていたからである。憧れの「Tres bien!!」の世界、ソフィー･マルソーの世界の夢破れ、「Danke schon!」の世界、ブリキの太鼓の世界を強制されたオレは、身が入らない独語を3年次まで再履修した。それはそうと、当時はEU統合のはるかに前のこと、欧州内での国境を越えた人の往来は今よりずっと少なく、英語を操れる人間も限られていた。フランスを旅行した当時オレはイギリスの語学学校に留学していたのだが、フランス人の妻を持つイギリス人教師には「フランス人にいきなり英語で話し掛けたら、仮に英語が話せたとしてもフランス語で返答してくるくらい、フランス人は自国文化へのプライドが高い」などと脅かされていた。だから、自分がパリやニースなんかをおのぼりさん然として歩いていると、周りを歩いているフランス人の顔がいかにもツンツンしてそうに見え、そこで運悪く道に迷おうものなら、往来のフランス人たちの中から出来るだけ洗練度が低くてとっつき易そうな人を択んで(笑)「Excusez moi, monsieur…」と思い切り緊張しながら話し掛けて自分が知っている精一杯の単語やフレーズを並べてフランス語での意思疎通を試み、それで相手がフランス語でまくし立てくるようなら諦めて「Parlez vous anglais?」と低頭平身に尋ねて（相手が英語が話せれば）英語に切り替えてもらわねばならないのであった。そんな神経を使う意思疎通の経験を繰り返すうちにオレはだんだんフランスを旅するに疲れてきて、予定より早く切り上げて次の国に移動したことを思い出す。あれ以来、事実オレはフランスを再訪していない。それから20年以上経過し、オレは先週カナダのケベック州を旅行してきたのだが、最初のうちは意味不明のフランス語の標識だのを見て20年余前の緊張が蘇ったものの(笑)、すぐにそんな緊張が不要であることに気づいて安堵した。イギリスとフランスの間には歴史的なライバル意識があるので、フランス国内に滞在しているヨソモノから当たり前のような顔で英語で話し掛けられれば、フランス人の気に障ったとしてもそれは理解できる。しかしカナダの場合、カナダ植民地をめぐる覇権争いの末にイギリスがフランスに勝利したという背景があり、「イギリス系＝支配者・使用者」「フランス系＝被支配側・労働者」という上下関係が歴史的に出来上がっている。だから、同じフランス語を話すにしても、フランス系カナダ人には「ケベックに来たらフランス語で話せ」みたいな高慢な態度がない。たとえば、レストランとかで店員にフランス語で話しかけられ、いきなり英語で返答しても顔をしかめられたことは一度もなかったし、こちらがたどたどしいフランス語と英語のちゃんぽんで応えようと努力すれば、フレンドリーな笑顔を向けてくれた。まあ、すでに世代も変わり欧州が統合した後のフランスでも、英語を喋る人口は当時よりずっと増えていて、特に若い世代では、英語で話し掛けられてムッとした顔でフランス語で返されるようなことも少なくなっているには違いない。今回のケベック旅行で、フランス系カナダに好印象を抱き、なんとなくフランス語コンプレックスが解消できたような錯覚さえ覚えたオレは、そんな錯角から覚めないうちにフランスを再訪するのもいいかも…なんてちょっとだけ考えたのであった。

2010.08.25

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和訳･英訳、通訳･翻訳でどれがいちばん得意ですか？

そろそろ雇用契約期限が切れる見通しのため、派遣会社の勧めでここ数週間で何社か面接を受けました。先日の面接では、「日→英、英→日、通訳、翻訳の仕事で、どれが得意、あるいは一番楽しいですか？」と訊かれたので、コンテストで入賞したり高い評価を受けているのは日→英の翻訳で、同様に比較的評判がいいのが和訳、やってて楽しいのは(駐在員の人たちのための)日→英の通訳で、いちばん苦手なのが英→日の通訳だということを回答しました。翻通訳者の採用面接でこのような質問をするのはなかなか的を得ています。というのも、通訳と翻訳を、異なる言語間の変換作業ということでいっしょくたにされる方が多いですが、通訳と翻訳という２つの作業を遂行するのはまったく異なる能力ですし、また日→英と英→日の場合も脳内での変換作業の中味が異なるからです。まず、通訳の場合は音から意味を理解して、その意味内容を異なる言語で口頭で表現するわけですから、まず「言ってることを解釈する」という“解釈作業”が入ります。逆に言えば、言ってることの意味が理解できなければ通訳は成立しません。だから、通訳者が意味を理解できずに通訳している場合は「言ってることが意味不明」なので、聞いていてすぐに分かりますね。一方、翻訳の場合は書かれている単語の意味さえ分かれば、その文が何を言おうとしているかイマイチ理解していなくとも、字面だけを別の言語に変換して文法に従って並べ替えれば、いちおう表面的な翻訳作業は成立します。その場合、「解釈」作業は「読み手」にお任せするわけですね。もちろん、書かれた原文の意味を翻訳者がフルに理解して翻訳した文のほうが表現もこなれていて分かりやすく、読み手の解釈作業の負担も最小限で済みます。プロの翻訳はこうあるべきです。次に日→英と英→日の違いですが、ぼくは日本で生まれ育った日本人なので、日本語を理解するのに特に苦労はしません。脳内での作業はおもに「いかにして的を得た英語で表現するか」に集中できます。しかし英→日となると、まずガイコク語である英文や英語による発言を理解して消化してから、さらに「いかにして日本語で表現するか」という作業に掛かるので、倍の労力を要します。とくに、その英文や英語による発言が、日本語でいえば“ワビサビ”の世界に当たるような独特の英語表現だったりすると、そんな絶妙なニュアンスをどうやって日本語に表現したらいいのかなかなか脳内でまとまらなくて悶絶してしまいます。翻訳に関していうと、日→英と英→日の脳内変換プロセスはかなり異なります。日英(英訳)の場合、漢字の字面を見ていると、それに対応する英単語や英語表現がスムーズに脳内に浮かんできます。たとえば、「アジア諸国の基礎条件は安定していて、長期的見通しは良好」...などという日本語を読んだ時、「基礎条件」という字面を見れば「fundamentals」、「安定」とくれば「stable」、「長期的見通し」という漢字を見れば「long-term outlook」という英単語または英語表現がスラスラと浮かんできます。これは、漢字という表意文字が容易にイメージを喚起するからでです。一方英日(和訳)の場合は表音文字を読むわけですから、脳内では「音読」しないと意味がピンと来ません。実際、英文に集中する際には声に出して音読することがよくありますが、和文を読んでいる際にわざわざ音読することはまずありません。これは、和文は漢字の字面さえ見ていればスルっと文章の世界に入っていけるのに、英文は「音」になってはじめて意味をなすからです。たとえば、「Most nagging joint pain comes from inbalances in your body」という英文を読んで、「nagging」という字面だけを見ても、なんとなく、しつこそうな鬱陶しそうなイメージは湧いても、それにピンポイントで対応する日本語はすぐには浮かんできません。「joint」も同様で、「共同」の意味もあれば「関節」の意味もあれば「(大麻の)ジョイント」の意味もあるので、単語１つだけ見てそれに対応する日本語は特定できません。「nagging joint pain」と通しで脳内で音読してみて初めて「なかなか治らない関節痛」のイメージが湧いて日本語に変換できるわけです。要するに、イメージに結びつきやすいのは、ぼくの場合、和文の場合には字面という視覚的刺戟ですが、英文の場合はどちらかというともっぱら音声刺戟だということです。だから、通訳の際にも、誰かが口頭で「アジアしょこくのきそじょうけんはあんていしていて、ちょうきてきみとおしはりょうこうです」と発言した場合にも、脳内でいちいち「基礎条件」「安定」「長期的見通し」などと漢字に一旦変換できないと、それに対応する英語はなかなか浮かんできません。だから、誰かが発言の中で「ゴエツドウシュウ」だとか「ガンコウガタハッテン」などといった聞きなれない表現を遣った場合に、これらを脳内ですぐに「呉越同舟」「雁行型発展」のように漢字に変換できないと、通訳の最中にポカーンとしてしまいます。もちろんこれは人それぞれで、英語を喋れない翻訳専業の人の場合には、発音を知らなくとも表音文字の英語の字面だけを眺めてイメージが湧く人もいるのかも知れないし、逆に日本語は喋れるけれども英語圏で生まれ育ち漢字での読み書きがあまり出来ない通訳専業の人でも、「呉越同舟」という言葉を読めず意味が分からなくとも、「ゴエツドウシュウ」という言葉を聞けば「strange bedfellows」という英語がすぐ浮かぶかも知れません。まあそういうわけで、日本で生まれ育ち、英語ももっぱら英語圏に住んでいる最中に覚えたぼくの場合、日→英の翻訳がいちばんラクで、英→日の通訳がいちばん苦手という結論になるわけです。

2010.04.29

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さんについて

日本語の敬称「さん」などについて、同僚その他の皆さんの間で混乱が見られるようですので、今日は翻通訳者のぼくから説明したいと思います。しばしば、イギリス語の「Mr.」「Mrs./Miss/Ms.」に該当するのが日本語の「さん」であるという説明がされています。日ごろ日本人と接触する機会の少ない人には、そのような理解でも十分です。しかし、日本に長期出張するとか、複数の日本人に交じって仕事をするようになってくると、その程度の理解では不十分な場面が出てくるでしょう。たとえば、日本人たちがお互いを呼び合っているのを聞いていると、多くの場合「サイトウさん」とか「カワムラさん」のように、大多数が「ファミリー(ラスト)ネーム＋さん」である一方で、「マサオさん」「キミコさん」のように、「ファーストネーム＋さん」の場合もけっして少なくないことに気づくでしょう。ご承知のとおり、イギリス語では「Mr. トム」とか「Ms. スーザン」のようにファースト・ネームに「Mr.」や「Mrs.」をつけて呼ぶことはまずありませんが、日本では「さん」はラストネームでもファーストネームでも可だということですね。どういう場合に「ラストネーム＋さん」になって、どういう場合に「ファーストネーム＋さん」になるのかは、別にルールはありません。よくあるのは、ラストネームが「サトウさん」とか「スズキさん」といったとてもポピュラーな場合、職場などにサトウさんもスズキさんも複数いたりするので、ファーストネームを用いることがあります。あとは、たとえばこの職場のように、現地人と結婚して日本のラストネームではなくなった日本人女性を日本人が呼ぶ際に、たとえば苗字で「ホーンステインさん」と呼ぶのに違和感がある場合などに「ミツヨさん」のように下の名前を用いることがよくあります。また、より親しい仲の人の間では、ラストネームよりファーストネームで呼び合うことが多いでしょう。とりあえず、日本人ではない皆さんの場合、初めて会う日本人をどちらで呼ぶべきか分からない場合には、「ラストネーム＋さん」で呼んでおくのが無難だということは言えるでしょう。あと、「さん」が特殊な点として、日本人たちが取引先や競合企業の社名に「～さん」をつけて呼んでいるのは、イギリス語をはじめとする欧州言語ではちょっと考えられないでしょうね。たとえば、パナソニックで働いている人がSONYのことを「SONYさん」とか、当社で働いている日本人が下請け会社のことを「ABCシートさん」なんて呼んでいるわけです。「さん」と「Mr./Mrs」が同等でないことは、この例からも明らかです。ソニーに敬称をつけて「Mr. SONY」などと呼んだら、誰もがモリタ会長などの個人を連想するでしょう。あと、これは仕事以外の場面で耳にするかも知れない例ですが、動物に「～さん」をつけて、「ゾウさん」とか「ウサギさん」とか呼んでいる親や子供たちを見ることがあるでしょう。そうです、動物に敬称をつけるのです。ただし、これは敬称といっても幼児語の一種で、イギリス語圏の子供が「ウマ Horse」を「Horsey」、「イヌ」を「Doggie」と呼ぶのに似ています。ただ、同じ動物でも鳥のことを「トリさん」とはあまり言わないし、馬のことは「ウマさん」とは言わず「おウマさん」のように冠詞の一種である「お」を頭につけて呼ぶのが通例であったりするので、「動物名＋さん」の用例は日本人以外にはとても厄介です。また、これも日本語がクレイジーで理解困難である例のひとつかも知れませんが、日本人の子供は親のことを「おトウさん(Dad)」「おカアさん(Mom)」のように「さん」付けで呼んでいることを知っている人も多いのではありませんか。「お...」は前述のとおり、冠詞の一種ですね。これは決して「Mr. Dad」や「Mr. Mom」のように、父母の呼称に敬称を付加しているわけではありません。なぜなら、「トウ」「カア」だけでは父・母の呼称として成立しないからです。だからこの場合の「オトウサン」「オカアサン」は、全体で一語であるように理解するのが面倒でなくていいでしょう。これは、祖父母の「オジイサン(granpa)」「オバアサン(granma)」も一緒です。もちろん、最近では「パパ」「ママ」のように、西洋的な父母の呼称も日本ではかなりポピュラーにはなっています。ただ、注意が必要なのは、日本語で「パパさん」「ママさん」と言っても、父・母を意味しないので気をつけましょう。これも日本語がクレイジーな点のひとつかも知れませんが、通常「パパさん」「ママさん」は店の経営者に用いられます。とくに「ママさん」と言えば、一般にお酒を出すクラブの女性店主の呼称です。あと、日本の職場では、誰かを役職名で呼ぶこともふつうです（ただし、これはもっぱら管理職の場合がほとんどで、「社長！」「課長！」「部長！」などと呼ぶことはあっても、「秘書！」「事務員！」「営業社員！」などとは呼ばないので注意が必要です）。そして、やはり礼儀正しい日本人は、誰かを「役職名＋さん」で呼ぶことがよくあります。ただしこれは自社の場合ではなく他社の場合がほとんどでしょう。だから、丁寧な日本人がTOYOTAの営業部長の誰かを指す場合には、「トヨタさんの営業部長さんのサイトウさん」のように、「さん」だらけになるわけですね。あと、これも注意が必要な点ですが、日本への出張の際に歓楽街などに行くと、しばしば呼び込みの人が通り掛る男性たちに「社長さん！」と声を掛けています。どうしてその男性が社長だと分かったのだろう？...と外国人は疑問に思いますが、これは実際の役職が社長なわけではありません。「社長」といえば日本の会社で一番偉い役職なので、通り掛かりの見込み客を「社長」と呼んで気を好くさせようという魂胆です。実際、日本人観光客の多いアジアの歓楽街でも、地元の呼び込みの人たちが日本人とおぼしき男性に「シャチョーサン！」と声を掛けている様子はよく見られます。ご存知の人もいるかも知れませんが、日本語の敬称には「さん」以外にも、もっと敬意の度合いが高い「さま」というのがあって、「さん」の代わりに「さま」を付けるとさらに丁重になります。「サイトウさん」というと、丁寧でもまだ親しみがありますが、「サイトウさま」と呼んだらその人は自分よりはるかに高い立場にあり、決して親しげに接するのが許されないような距離感を意味します。たとえば、ヨンという韓国人の人気俳優が日本人女性の間では「ヨンさま」と呼ばれていますが、たとえばポピュラーなジャッキー・チェンが「チェンさん」でも、ヨンは彼女たちの間では雲の上の存在なので、「ヨンさん」では不十分なのです。ただ、「さま」は「さん」とちがって「TOYOTAさま」のように会社名には通常は用いないし、ましてや「牛さま」のように動物名には用いないので注意が必要です（ただし例外的に「お蚕さま(silkworm)」のように昆虫に「さま」を付ける場合がまれにあります）。逆に、「さま」の反対に、敬称ではなく親しみを表す「～ちゃん」というのがありますが、ちょっと長くなってしまったので、「ちゃん」その他の呼称についてはまた後日説明します。

2010.04.08

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実はおそろしい司法通訳の世界

『大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸事件の裁判で、司法通訳人２人が外国人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言では全体の60％以上になると指摘している。』先日のアサヒ.comの社会欄にこんな記事を発見し、とても気になっていました。短い単純な発言を含めても34％以上、"主語（Ｓ）+述語（Ｖ）"が２つ以上含まれる比較的長い発言だと半分以上で訳し漏れと誤訳があったというのです。ボクが気になったのは、●そんなテキトウな通訳で人が裁かれていいのか！？という根本的な疑問と、●っつーか、裁判では通訳の正確さの検証という、当然とも思われる作業をそもそもしてないのか！？という２つの点です。記事を読むと、この事件は、南アフリカ生まれで英語が母国語のドイツ国籍の女性(54歳)が、知人女性らから依頼され、報酬目当てで覚せい剤約３キロをドイツから関西空港に運んだとして、覚せい剤取締法違反（営利目的輸入）の罪に問われ、懲役９年、罰金350万円の判決を受けた...という、まあ日本でタイホされる外国人にはありがちなケースです。また、この被告は法廷では「違法な薬物を運んでいるという認識はなかった」と無罪を主張していましたが、判決ではそれを「罪を免れるための虚偽」と判断、容疑を認めた捜査段階の供述のほうが信用できるとして実刑を導いたそうです。まあ、いい大人が、何だか分からない「白い粉３キロ」を知人から頼まれて、それが何だか確認もせずに運んでいるというのがそもそもオカシイし、違法でも何でもない粉を運んだだけで莫大な報酬がもらえることに疑問を抱かないはずがないので、この女性がクロであろうことはまあ誰の目にも明らかです。しかし問題なのは、この裁判はたまたま裁判員裁判だったので、どうせ同じクロの判決を受けたとはしても、被告の発言が間違って通訳されたことによって、裁判員らの心証形成に影響を与え、懲役５年で済んでいたところが９年になってしまった可能性がある点です。今回裁判通訳の検証を行ったのは、自身が司法通訳をした実績もある、通訳論を専門とする大学教授だったそうです。この裁判が裁判員裁判だったため、２日間の審理の過程はすべてＤＶＤに録音されていたそうです。アサヒ.comの記事によると、たとえば、被告人質問で弁護人が「結果として覚せい剤を持ち込んでしまったことへの思い」について質問した際、被告は「I felt very bad.」と答えたそうです。これを、２人いた通訳人のうちの１人の男性通訳人は「非常に深く反省しています」と訳したそうです。「とてもバッドに感じた」というのは、何とでも解釈できます。「何も知らずに持ち込んだものが違法なものと知って、悪く思った」のかも知れないし、「タイホされて監獄に入れられることになるから、マズイと思った」のかも知れません。いずれにしても、被告はそもそも無罪を主張しているわけですから、「反省」と解釈するのはヘンであることは第三者の耳にも明らかです。実際、鑑定をした教授によると、法廷で話の流れを聞いていた人たちはみな、なぜ急に反省の言葉が出てきたのか、不思議に思ったそうだと言っています。この教授は、DVD音声を鑑定しただけでなく、弁護人接見に同行し被告人に直接会い、発言の真意について本人に確認したそうです。すると、被告は「自分がもう助からないと思い、心がくじけてしまった」と回答し、反省の弁ではなかったことが確認されたそうです。また、ほかの誤訳の例としては、覚せい剤が入っていたスーツケースに知人女性が白い粉の入った袋を詰めるのを見たと話していた被告が、検察官の質問に対して「Nothing is done with the suitcase」と述べた部分を、もう１人の女性通訳人は「スーツケースは空だった」と訳していたそうです。これは、ちょっと海外に滞在したことがある人なら、シロウトでもすぐに誤訳だと気づくと思います。フツウに解釈すれば「スーツケースには何も細工はされなかった」ですね。「空だ」というなら、「Nothing is in the suitcase」となるはずです。この通訳者は、海外滞在経験が乏しい、机上の英語を勉強した人なのか、リスニング能力に根本的な問題があると推察されます。この教授に鑑定を依頼した被告人の弁護士は、「無罪主張の被告が急に反省の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたように受け止められた恐れがある。被告が適正な裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは明らかだ」と話しているといいます。ごもっともな主張だと思います。ボクは司法通訳の世界はよく知りませんが、高額の報酬がもらえる通訳仕事でないことは確かだと思います。要するに、能力のある通訳者は「国際会議通訳」とか「ビジネス通訳」に高額の報酬で引っ張られている陰で、報酬の少ない司法通訳には、そういうところから声が掛からない通訳者がボランティア感覚でやっている可能性があるのではないか、ということです。また、政治やビジネスの世界やアカデミックの世界であれば、通訳者以外の人たちもある程度外国語が出来るので、通訳者が正確に通訳しているか否かは周囲がちゃんと把握しています。その結果、能力のない通訳者は淘汰されていきます。一方、司法の世界の住人は、司法試験に合格するために六法全書を暗記するのに精一杯で、（一部の学者を除けば）海外滞在とか留学の経験が乏しく、通訳の正確さを判断できるほどの語学力を持った人がほとんどいないのではないでしょうか。その結果、このようなお粗末な誤訳通訳者が野放しにされているわけです。実際、裁判を傍聴していた新聞記者の１人は、聞いていて「おかしいけれど、通訳とはこんなものなのか」と思ったと述べています(笑)。新聞記者でこのレベルなのですから、弁護士や裁判官ましてや検察側の中から「あの通訳はおかしいぞ...」という声を上げる人が出なかったのも当然のような気がします。いずれにしても、今回の裁判員裁判で音声が外部者に検証されたおかげで、これまでいかにテキトウな通訳を使ってテキトウに外国人が裁かれてきたのかが判明しました。きっと、通訳者の「誤訳」のおかげで、懲役が倍になったり半分になった人や、あるいは無罪の可能性があったのに有罪になった人や明らかに有罪だったのが無罪放免になった人もいたんでしょうねえ。日本も近年これだけバイリンガルな人材がゴロゴロしているわけですから、通訳者を使う裁判には「バイリンガル検証人」をつけるなどして、正確で公正な通訳を保証すべきではないでしょうか。まあ、通訳者側はやりづらいだろうけど(笑)。ところで、「司法なんてオレには一生関係ないし、不良ガイジンがどう裁かれていようが興味ないもんね」とこの話を読んで思っている人もいるかも知れません。でも、アナタもいつか海外で身に覚えのない嫌疑を掛けられて現地のケーサツに連行され、能力のない通訳者に誤訳通訳されてしまったために禁固10年...なんてこともありうるわけです（実際、オーストラリアでそんな目に遭った日本人青年の話を読んだことがあります）。なので、もし街頭でガイコク人被告の憲法上の権利なんかの署名運動でも見掛けたら、ぜひ協力してあげましょうね。

2010.03.22

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ギョーカイ英語表現

俳優組合の短期集中コースを受講していろいろと学んだことのつづきを書こうと思っていたが、２日ほど間をおいたら何を書こうとしていたかすっかり忘れてしまいました。コースの５分の１くらいの時間を割いた税金や報酬(ギャラ)関連の話はその１つだったと思います。カネがらみの面白い話はこの業界は多いですねえ。あと、教室の隣にデモ撮影用のスタジオがあって、そこでほんの１時間くらい演技と撮影の実践をした件もその１つだったと思います。自分が演技している映像をあとでみんなで鑑賞するのですが、自分の表情や動作がまるでロボットか何かのようにガチガチに動く様子を見て、「オレってどう見てもヤバイ人だよな...」と思ったことを覚えています。あと、いちばん面白かったのは、講師や受講者による業界こぼれ話です。誰もが知っているような映画やTVドラマの撮影時に陰でどんなエピソードがあったとか、組合が出来る以前に俳優がどのような扱いを受けていたかとか、面白い話がたくさんありました。しかし、いずれも詳細は忘れてしまいました。１つだけマメにノートをとっていて、よく覚えているのは業界用語です。通翻訳者の職業的本能でしょうか、知らない単語や表現を聞くと、耳が過敏に反応します。この講義を受けたおかげで、撮影現場などで耳にしたいろいろな表現の意味がよく分かりました。たとえばこんな表現です。"Quiet for room tone." -- カメラを回す直前だか直後に監督やADがこう叫ぶと、スタジオ内の俳優もスタッフも完全に沈黙していたのですが、ルーム･トーンというのは人間が完全に沈黙した後に室内に残る機械音などの微小な雑音のことで、撮影後にこの微小雑音をデジタル的に録音から消去するために、このような掛け声をかけてルーム･トーンを拾うそうです。"Cheat the camera." -- 直訳すると「カメラを騙せ」ですが、実際は「カメラが存在しないかのように振舞え」という意味です。CMやテレビ番組などではカメラを直視することも多々ありますが、TVドラマや映画などではカメラを意識した視線は不自然なので、監督などが役者にこう言って指示します。"Kill the ××." -- 「××をフレームの中から除去せよ」という意味。この意味を知らなかったために、映画の撮影中に「Kill the ducks！」と監督に指示された新米ADが、背景セットの池に入ると次々とアヒルの首をひねり始めてスタジオ内が騒然としたという話をベテラン講師から聞きました。"Don't break it up." -- 「その緊張感を崩すな」の意。あるシーンの撮影後、俳優たちやスタッフの緊張が一瞬緩みかけたときに、たった今の撮影の緊張感をそのまま次の撮影のために維持するよう、監督がこのように声を掛けます。"Craft services/people" -- スタジオでスタッフや俳優のための食事やスナックを用意する会社・人。「クラフト」というくらいだから、小道具のスタッフかと勘違いしていました。"Back to ones" -- 「はじめからやり直し」の意。「One」は最初の立ち位置のこと。「Back to first」とも言う。"Stand-in" -- カメリハや小道具をステージにセットする際などに、俳優に代わってステージに立つ(座る/横たわる)代役。今のところはそんなところでしょうか。ボクのクラスにはかつてテレビ業界にいた人が複数いますが、どうも上記のような表現の中にはテレビの現場では使われないものもあるみたいです。ボクは映画の撮影現場しか経験がありませんが、テレビ関係の仕事も一度はしてみたいなあと思いました。

2010.03.15

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不況時事英語

今日、会社でクソをしにトイレに入ったら、トイレの壁にボールペンでたった３語、こんな落書きがあった。「Permanent are next」。Permanent というのは「恒久的な」とか「永久の」とかいった意味だ。「永久のが次」だ？？いや違う。PermanentというのはPermanent employeeすなわち「正社員」のことだ。「次は正社員の番だ」という意味である。我が社も減産への対応としてついに、カナダ現地法人創設史上はじめて、契約社員の契約解除に乗り出した（幸いオレは製造現場の人間ではないので契約解除の対象にはなっていない）。良心的な会社なので、契約期間満了前に解雇になる場合は解雇後最大２か月間は給与を支払うし、景気が回復し再び増産の見通しが立ち次第、再雇用の通知もしてくれるという。…しかし、だ。景気が回復して再び増産に向かうのがいつになるのか。…というか、景気はまだまだ落ち込んでいき、むしろ更なる減産が待っているのではないのか。…となれば、今は「自分は正社員だから安心だ」なんて思っている正社員にも、次は解雇の手が掛かるぞ…というのがこのトイレの落書きの主の意図なのである。そもそも「恒久的な、保証された地位」という意味で「permanent」なんて呼ばれていたわけだが、もはやpermanentもpermanentじゃないゼ…というメッセージが、このたった３語に込められている。クソをしてホッと一息つこうとした人間の不安をあえて煽るような、効果的な落書きではないだろうか。そういえば、先日会議の通訳に入っていて attrition という単語が出てきた。「(部品などの)磨耗」といった意味でこれまでにもたまに出てきた単語である。これがなんと人事に関する話し合いで登場するのである。話をよくよく聞いていたら、「人員の自然減」にこの単語が使われていたのであった。定年などで退職していっても人員補充しないことによって、給与を支払う社員の頭数を自然に漸減していく。そんな消極的なコスト削減策として、「部品の磨耗」と同じ単語が使われているとは…。不況とは関係ないし解雇でもないが、この前イリノイ州の州知事が、オバマが大統領に選出されたことで空席になったイリノイ州上院議員の席を職権を濫用して売ろうとしていたのがバレて逮捕・解任され、おかげで副州知事が州知事に昇格・任命された。州知事は県知事と同じく英語で「governor」というが、この「副州知事」を英語でなんというかというと、サブリーダーとかいうから sub-governor とでもいうのかと思った人は間違いで、じゃあ副大統領や副社長が「Vice President」だからVice Governor かというとそれも正解ではなく、実は「大尉」とか「中尉」とか「警部補」に使う「lieutenant」を用いて「Lieutenant Governor」ということを、先日ラジオのニュースで聞いて知った。まあそんなことはこのブログを訪問する人の95%には金輪際関係ないし、そんな英語を知っていたところで不況を乗り切る上で何の足しにもならないが、中高生の子供や同僚をちょっと感心させてやりたい人は、「知っとるけ？」とたずねて教えてあげよう。「…あ、そう。」という張り合いのない反応が返ってくる可能性が95%だとは思われるが。

2009.01.30

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通訳の異常心理

所属部署を異動になってから３ヶ月ほど経過したのだが、前の部署にいた時とは比べものにならないほど通訳の際の滑舌がよい。理由はカンタンで、前の部署では異なる立場の複数の人間の通訳をしていた上、通訳する内容も全部署の多岐な話題に渡っていたものが、今の部署では通訳の対象が英語のできない数名の日本人に限定されており、内容もこの部署の話題に限定されているからである。似たようなことの通訳を反復すれば腕が上達するのも当然である。とくに「通訳の対象となるのが数名の日本人に限定されている」という点では、同じ人の通訳をしているうちにその人が言いそうなことが次第に予期できるようになってくる上、その人の喋りの呼吸までがつかめるようになってきて、話者と通訳者が絶妙のコンビネーションでスピーチできるようになってくる(笑)。これは通訳者側にとってはもはや「イタコ」をしているような感覚で、仕事をしているというより、芸を披露したり機械になったような感じさえする。通訳者の「イタコ」状態といえば、かつて読んだ故・米原万里のあれはたしか『不実な美女か貞淑な醜女か』だったと思うが、彼女がかつてロシアである要人に付きっ切りの同行通訳を数日に渡ってやったところ、自分の脳みそが1日中そのクライアントの思考の処理に占められてしまうような感じになってしまい、他人に自我が乗っ取られたような感覚に陥り、その通訳仕事が終わる頃にはそのクライアントに対して殺意に近い感情を覚えるようになった…といったことが書かれているのを思い出した。自分のことを振り返ってみると、オレは通訳する際、シンプルでいい加減な日本語の発言を、いかにカッコいい格調の高そうな英語で表現してカナダ人の聞き手を感心させてやろうかという邪心があるためか、「イタコ」感覚になることはあっても、自分の脳みそがクライアントに乗っ取られたような感覚にまで至ることは(今のところ)ない。でも、たしかに１日中通訳をして「他人の発言」の肩代わりばかりしていると、自分の考えのために脳みそを使い、自分自身の発言のために自分の口を使いたい！…という強い欲動に駆られることはある。そういえば、通訳者という職業は、日本でこそ「あこがれの職業」的なイメージがあってある程度の敬意が払われているが、ヨーロッパなどに行くとこれが「仕方なくてやってます」的な職業であり、また日本でのような敬意が通訳者に払われている様子もない。実際、国際会議の通訳の現場などを見ると、欧州の通訳者というのはすごく退廃した雰囲気があって、日本人通訳者のように職人気質のパリっとした感じの人は見かけないという。実際、欧州の通訳者には鬱病者や、アル中などの薬物中毒者も多いらしい。思うに、欧州では母国語プラス英語のバイリンガルは「常識的なたしなみ」でさえあるし、伝統的に国境を越えた血縁も多いので、イタリア語＋フランス語とか、ポーランド＋ドイツ語とか、複数の欧州言語のバイリンガルは別に珍しくともなんともない…という点が背景にあるのは推察できる。…というか、欧州では「通訳者」といったらふつう３ヶ国語以上喋れるのが当然、といった感じさえある。つまり、欧州では通訳をしていて人から「スゴイ！」などと言われることがまずない…というのがある。そして、通訳技術の観点から言っても、日本語と欧州言語間の通訳とちがって、欧州言語間の通訳では言語構造やボキャブラリーも共通性・互換性が高いので、通訳者個人の「クリエイティビティ」が要求されない...という事実は、通訳者の“やりがい”という点で大きな要因だと思う。つまり、「Aという言語をBに自動変換する」ような単純なメンタル作業になりがちなので、まさに自分が機械になったような疎外感を感じがちだと推察される。さらに、自己主張が推奨されるような欧米文化において、自分の考えや主張を押し殺し、自分の信念や考えと異なる他人の発言を代弁し続けるというのは、精神的に大きなストレスになっていることは容易に想像できる。（この点に関しオレが幸運なのは、製造業の社内通訳という仕事柄、通訳の対象となる発言や会話が、自分の主義主張などとは金輪際関係なさそうな技術的なものばかりである点である）ところでオレが今日の日記に書こうと思ったのは、通訳者側の心理の話よりも、そのクライアント側の心理である。しかしいつものように本題に入る前になんだか長くなってきたので、続きは後日に書くことにする。

2008.10.22

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英語がデキる顔

オレの席の隣には日本からの長期出張者が座っているのだが、この人は駐在社員が英語のＥメールを何の説明もなしに転送してくるといって毎朝のように怒っている。この出張者は英語ができないので、英語のＥメールをいきなり転送されても理解できないのだ。この人は英語が喋れないだけでなく、読み書きもできないらしい。なにせオレに「place」や「maybe」のつづりを訊いてくるくらいだから、その英語力はたぶん平均的日本人以下だ。しかし、駐在社員たちが「この人はある程度英語ができるだろう」と思っているだろうことは容易に想像できる。過去に英語圏に長期出張していたと言っていたし、何よりも「英語を喋りそうな顔」をしているのだ。うりざね顔に筋の通った鼻、冷徹そうな目には細いメタリック･フレームのメガネ、ちょっと文化人っぽい素振りや表情…同じ日本人から見ても、おそらく外国人から見ても、「英語を喋りそう」な雰囲気がある。本人もよく「ガイジンからいきなりペラペラ話しかけられて困る」と言っていた(笑)。オレは仕事柄、日本の英語関連サイトにアクセスすることが多いのだが、これらのサイトにリンクされている英語商品のバナーに登場する人物の顔がえてしてこの「いかにも英語を話しそうな顔」である。たとえばコレ。このバナーは英語のヒアリングマラソン広告に使われているのだが、先日は「アイツはイケメン」とかいうコピーが入っていた。英語を喋るヤツはイケメンだということらしい。…っていうか、イケメンじゃないヤツは英語が喋れないのか(笑)？賭けてもいいが、オレはこの広告のモデルは間違っても「英語ペラペラ」だとは思えない。（そもそもイケメンで英語ペラペラのヤツがこんな露出度の低いバナー広告のモデルで稼いでいる可能性は限りなく低いであろう）オレは「英語ペラペラ」の日本人を何人も知っているが、彼らは「イケメン」どころかむしろ「英語を話しそうにない顔」である。彼らの顔を頭に浮かべると、多くに共通しているのは「東洋系アメリカ人」のような雰囲気である。外務省や商社エリートの一部ような例外を除けば、英語ペラペラなヤツが平均的日本人がイメージするような「日本人離れしたバター顔」をしていることは稀である。そういうオレもかつて知り合いから、「この顔で」英語を喋るのか、と言われたことが３回くらいある。そういえばオレは(初対面の)ネイティブにごく自然な英語で話し掛けても、えてして「Pardon?」と聞き返される。電話で話しても聞き返されることなんてまずないのに(笑)。やっぱり「この顔」から英語が出てくることを想像できないのであろう。…ま、いずれにしても、ルックスに関しては、特に日本人男性については「喋りそうな顔」というのはアテにならないことのほうが多いと思ったほうがいい。

2008.10.21

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『そのまま訳せ』？？

昨日の日記に関連するのだが、翻訳や通訳をしていてしばしば困るのは、依頼者から、言った言葉あるいは書かれている言葉をそのまま訳してください、と指示される場合である。その人が言ってないことや書いていないことを通訳者が勝手に追加・改変してしまうことに神経質になっている依頼者が、このようなことを指示することが多い。あるいは、原文や原話者の言っていることが意味不明なため、通翻訳者が依頼者にいろいろ質問しているうちに、質問にいちいち答えるのが鬱陶しくなっきた依頼者が「とにかく、書いてあること(あるいは発言した言葉)をそのまま訳してくれればそれでいいですから。」…などと言い出すこともある。しかし、いずれの場合もそれは無理な相談である。「そのまま英語に直せるような理路整然とした日本語」を書いたり話すような人がまずいないからである。たとえば今日ボクは専門家がある製造機器の機能に関して診断したコメントを翻訳していたのだが、当然のことながら専門用語や業界用語の意味が分からない。技術辞書や産業辞書に載っているような言葉ならまだいいのだが、それが社内用語とか仲間内だけで解かるような言葉あるいは表現だったりするのだ。『W-3の割り付けは呼び出しなどが入っていない空いているところにするとよい』などと書いてあるコメントを渡され英訳するよう依頼されるわけだが、もちろんチンプンカンプンである。「W-3」「割り付け」「呼び出し」「入る」「空き」どれも解からない。「W-3」はなんらかの固有名詞なのだろうが、場所なのかモノなのか機能なのか…etc.によって、それを主語にするか目的語にするか修飾語にするか、ぜんぜん変わってくる。『W-3の』の「の」もクセモノである。「W-3」を「割り付け」するのか、「W-3」が「割り付け」するのか、あるいは「W-3」における「割り付け」なのか、あるいは「W-3」のときにやる「割り付け」なのか、「W-3」が何者なのかによって「の」は何とでも翻訳しうるのである。「割り付け」というのも解からない。依頼者に意味を尋ねると、英和辞典を引いて「layout」だの「allocation」だのでどうか？…などと言ってくるが、そんな問題ではない(笑)。割り付けというからには、「誰(何)か」が「何か」を「どこか」に割り付けるのだろうが、この一文を読んでもこの「誰」が「何」を「どこ」に割り付けるのか不明である。それが分かれば、どんな英語を選択すればよいか見当がつくのだが、この一文を読んだだけではそれが見当つかない。「呼び出し」は、それが人間の呼び出しであろうが、ある機能やプログラムの呼び出しであろうが、たぶん「call」で通じるだろうという見当はつく。しかし「それが入っていない空いているところ」というのは、何とでも解釈できる。…依頼者にそんなことをいちいち聞いていると、「そんなこと、考えてもみなかった」といった顔をして、ポカンとしている(笑)。部内者ならこのような表現で問題なく伝わるというだけでなく、専門外の翻訳者であっても、「W-3」は訳文でもそのままでいいし、「割り付け」「呼び出し」「入る」「空き」いずれも単純な日本語なので、カンタンに英訳できるような気がしていたのだろう。結局、『W-3の割り付けは呼び出しなどが入っていない空いているところにするとよい』という一文を“そのまま”英文にできるようにするには、『W-3ロボットにおけるプログラム･コードは、過去の呼び出し指令などが割り付けられていない、空いたコード領域を選択して割り付けるとよい』のように、大量の言葉を補った日本文になっていなければ、英語に“直訳”しても意味をなさないことが判明したのであった。いかに「そのまま訳す」などということが無理な話なのか、この例でよくお分かりいただけると思う。…ましてや頭の中である程度練り上げられた「書き言葉」の翻訳でなく、その場で思いつく「話し言葉」の通訳で「そのまま訳す」のがいかに無理な注文であるかは、ご賢察いただけるであろう。ある日本の政治家がアメリカ大使館だか領事館のパーティに招かれ、相手に何を言われようが「どうも」しか言わず、通訳者がそのたびに何と訳していいか困ったという冗談のようなホントの話がある。「どうも」なんてどうやって“そのまま”訳すねん！「Mr. タナカ、long time, no see. おひさしぶりです」「あ～こりゃ～、どうもどうも！」　　（通訳:うーん、これは「どうもご無沙汰していました」の意味かあ？「How nice to see you again!」くらいにしとくか…）　「How do you do? 東京に駐在しています、マイケル・ジョンソンです」「はい、どうも！」　（通訳：まあ、「Please to meet you!」くらいのつもりかなあ…）「タナカさん、このスシ、おいしいですよ、いかがですか」「あー、これはこれは、どうもどうも！」　（通訳：まあこれは「Thank you.」でいいか。）「タナカさん、こちら、私の妻のカレンです」「あー、はいはい！いつもどうも！」　（通訳：「あなたの旦那さんにはどうもいつもお世話になっています」くらいのつもりかなあ…「Nice to see you. I hear about you a lot from your husband.」ってとこかあ。）

2008.10.10

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甘えと外国語

会社の日本人駐在員の部門長から英訳を頼まれた資料の表題に『…の感点』と書かれていたので、英訳して返送する際に『…の観点』の間違いではないかと指摘したところ、その人から内線が掛かってきて「いや、あれは『感点』でいいのだ」と言う。自分はあの表題に「ものの見方」だけでなく「感じ方」、つまり何かをとらえる際に自分が感じることを大事にする、という“思い”をこめたつもりなのだそうだ。オレはこの「思い」という言葉を聞いて、出たーッ！…と心の中で苦笑いしていた。この人に「思い」を聞かされるのはこれで３、４回目だ。カナダ人社員に何かを伝える…という話になると、決まって「思い」という言葉が登場するのだ。前に彼が「思い」ということばを口にしたのは、オレが通訳に入った会議のときだ。彼は最初、シンプルな単語を並べて明快な英語で発言をしていたのだが、途中でそれがつっかえつっかえになってきたと思ったら、途中から日本語にスイッチして、非常に難解で不明快な日本語で、とりとめのないダラダラとした発言を始めたのだ。オレはそれをいろいろと想像を働かせて冷や汗をかきながら通訳した。彼がその会議の後でオレに言ったのが、「カナダ人には英語で喋ってもなかなか“思い”が伝わらないんだよね」というものだった。オレはそのセリフを聞きながら、「その“思い”って、何やねん(笑)？」「あの、その“思い”、オレにも伝わってないんですけど…。」と思っていた。今回の「感点」などという彼の勝手な造語だって、いったいどう翻訳しろというのか。そもそもこの人は自分の文章が外国語に訳された上で配布されることを理解してこんな勝手な造語を使っているのか？翻訳者にさえ伝わらない「思い」なのに、その翻訳を読むカナダ人にそれが伝わるわけないだろ。オレはこの人のこういう表現に対する独りよがりな態度には、生理的な嫌悪を感じる。カンタンに言えば、この態度は「甘え」であり、オレの嫌悪感というのもこの「甘ったれた態度」に対する生理的嫌悪感なのだ。この人が世界的な詩人か何かなのであれば、その詩人が独自の表現に込めた「思い」に対し、その詩の読者や翻訳者が精一杯の想像力を働かせるというのもまあ、理解できる。しかし、国際企業で働く海外駐在のオッサンが海外支店に配布する社用の公的文書を「思い」たっぷりで書いてどうする？それとも彼は全世界の社員が自分の「思い」を理解するよう、最大の努力を払って当然だとでも思っているのか？あるいはプロの翻訳者たるもの、彼のその「思い」にピッタリ当てはまる英語を見つけ出して、「我が意を得たり」と思うような英語に翻訳できるものだとでも思っているのか(笑)。コミュニケーション、とくに外国でのコミュニケーションというのは、相手に自分の意図を理解してもらうために自分自身が必死で努力することであって、相手に自分の心の中を読んでもらおうと期待することではない。アンタは相手に何かを伝えたいのかも知れないが、相手はアンタが何を思っているかなんてこれっぽっちも関心ないのだ。この「自分の“思い”」になんて相手は関心がない、という事実を認識することこそ、コミュニケーションの第一歩なのだ。外国語をマスターする過程というのも、結局は自分の「思い」とやらを切り捨てて、伝えたいことをできる限り相手の理解できる(しかし自分にとっては借り物の)「形」に当てはめて表現することを自分に強いることの連続なのである。言い換えれば、「自分の気持ち、分かってェ！」という甘えを捨てて、どうやって相手に意図を伝えようかという真摯で必死な気持ちこそ、外国語を身につけるベースとなる唯一で究極の動因なのである。結局外国語も身につかなければ、異文化を理解することもないまま、「カナダ人は怠け者だ」とか「アメリカ人は差別主義者だ」とか言ってやがて日本に帰っていく連中というのは、(留学生・駐在者を問わず)だいたいこのテの「思い」や自己愛に満ち満ちた甘えたヤツらだったりすることが多いような気がする。海外に赴任したり外国語をマスターしようとする前に、そのおカアちゃんへの「甘え」を卒業してきて欲しいとオレは思う。

2008.10.08

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卒業文集

　『私と英語』他界した私の4人の兄のうち、すぐ上の兄は子供の頃進駐米軍のボーイをしていた。マイクだかジョンだかいうアメリカン･ネームを付けられ、買い物だの靴磨きだのといった雑用を仰せつかってはお小遣いをもらっていたのである。チョコだのキャンディなどをもらって帰ってくる兄が、とても羨ましかった。はっきりとした記憶はないものの、ちょっとした英語で米兵たちと会話をしていたはずである。兄は決して兄弟の中で特に利口だったわけではなく、むしろその逆であったが、彼がボーイに雇われたのはきっと日本人離れした顔が米兵たちに違和感を与えなかったからに違いない。そんな兄に競争心があったからかどうかは分からないが、学生時代、英語は本気で勉強した。社会人になってから英会話学校に通っていた時期もある。何万円したか覚えていないが、旺文社のカセットＬＬも全セット購入したし、小林克也の『アメリ缶』も持っていた。海運関係の仕事をしていた関係で、外国人と仕事でちょっとした英会話をする機会はたびたびあった。しかし、40歳を過ぎて初めて北米に海外出張した際、自分の英語が現地人に通じないことを知った。これまで仕事で会話が成立していたのは、相手が主に英米以外の外国人で、お互いに外国語としての英語を喋っていたからだったのである。アメリカ人やカナダ人のようなネイティブが相手になると、相手の喋っていることも分からなければ、私の東北訛りの英語も通じないのであった。それまで履歴書の得意科目欄に「英語」などと堂々と書いていたことは、通訳者の長男には口が裂けても言えない。上記は、宮城福祉協議会だかが運営している二年制『宮城いきいき学園』を、70歳になるボクの鬼畜パパが来春卒業するにあたり、卒業文集を今週中に提出しなければいけないのですが、文才に乏しいパパはたかだか600字の作文が書けず、息子に作文を依頼してきたので、30分くらいでデッチ上げて書いたものです。『外国人と日本人とか、ある外国人に接してとか、何日か外国で暮らして(定年後、何ヶ月か暮らしたことにして)とか、外国と日本の違いとか、つくり話で結構です。』とのことで、どうやらｶﾞｲｺｸにこだわりがあるみたいなので、『私と英語』というテーマでパパになりきって書いてみました。卒業おめでとうパパ(笑)！

2008.06.24

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それほど哀しくない外国語の場合

入社して１ヶ月以上経つのにまだ一度も会ったことのない同僚の翻訳者の１人から「面白い記事がありました」とカナダ国内の翻訳者協会のニュースレターがEメール添付で配信されていたのだが、これを見て驚いた。『Translating a Translation(翻訳を翻訳する)』というタイトルの記事なのだが、まるでオイラの先日の日記を読んだかのようなタイミングである。この協会はあらゆる言語の翻訳者を試験して認証を与える半公的な組織らしいが、この記事を寄稿していたのは英／仏の翻訳者らしい。この人は先日の日記に書いた村上春樹のように『Le Monde』誌か何かで読んだ翻訳記事に感心し、その記事の仏訳からオリジナルの英語に“逆翻訳”してみたらいろいろな発見があった、というのがこの記事の趣旨である。日本語と英語のような根本的に体系の異なる言語間の翻訳と異なり、英語とフランス語なんてオイラなんかの感覚だと“方言を極端にしたもの”といった程度の違いしかなくて、翻訳ソフトで自動的に９割がた正確な翻訳ができそうな感じがする。つまり、日本語の翻訳は人間サマがやらないと成立しないが、欧州言語間の翻訳なんて別に機械でもできるじゃん…ということである。ところが、この「英→仏→英」の逆翻訳とオリジナルの英文を比較してみたら、ちょっと意外であった。たとえば、仏訳で「Ciel bleu de la Chypre（キプロス島の青い空）」と書かれていた部分は、当然英語の原文では「The blue sky of Cyprus」と書かれていたと誰もが想像するであろう。しかし、英語原文は「Cypriot weather (キプロス島の天気)」としか書かれていない。要するに、この翻訳者はこの原文記事を書いたイギリス人が「キプロス島の天候」という表現に「からっとした爽やかな天気」のイメージを託していると“解釈”したのだろう。フランス人読者が単純に単語を変換した「キプロス島の天候」という字面を見ても「爽やかな天気」を連想しないと判断した翻訳者は、これを「キプロス島の好天」ひいては「キプロス島の青い空」という具体的なイメージに“編集”翻訳したわけである。ほかにも面白いのが、「productivité de l'Allemagne（ドイツの生産性）」という単純な仏訳の原文の英語はとうぜん「Germany’s productivity」だと誰もが思うであろう。しかし原文は「German productivity」なのである。これはどういうことかというと、フランス語では国名のような固有名詞(Germany)は英語と同様大文字で「l'Allemagne」のように表記されるが、これが形容詞形(German)になると一般の形容詞と同様「allemande」のように小文字表記になってしまう。そこで、翻訳者は仏訳時に国名が大文字表記でより強調されるよう、形容詞(German)ではなくわざわざ名詞(Germany)を用いて翻訳したのである。…このように、まるで兄弟のような国の言語間でも未だ「翻訳困難なニュアンス」すなわち「その国独特のアイデンティティ」というのはどうしても残るんだなあ…とあらためて思ったわけである。まあでも、英語と日本語のように根本的な言語体系の相違(例：漢字(表意文字)とローマ字(表音文字)の違い)とちがって、英仏語間のような差異(例：大文字と小文字ていどの違い)というのは決定的な相違ではないので、この２つの言語文化を両方身につけて人格的に統合するのが容易であろうことは想像に難くない。きっと、英仏の通翻訳者は、文化のギャップに哀しみを感じたり、通訳仕事で汗びしょになったりグッタリすることもないのだろうなあ。

2008.04.04

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翻通訳マジ日記その２

今日も社長が出席される重大な報告会で通訳をさせられた。この報告を元に社長がビジネス上の判断を下したりするので責任重大、まったく気が抜けない。…というより、そもそもオイラが派遣社員から正社員になれるかどうかは、ヘタをすると社長のひと声で決まりかねない。「こんど入った通訳、アレはダメだね、使いものにならないね」などというフィードバックが人事部の耳に入ろうものなら、この職場での仕事もあと数週間でオサラバなのである。おかげで通訳が終わったときは汗びっしょりでクタクタであった。入社当初は「仕事の大多数は翻訳」と聞いていたのだが、実際には毎日のように通訳仕事がある。しかも今回のように社長参加の重要なイベントでさえ、オイラのような新人通訳が週２～３回の頻度で起用させられているのが現状である。なんでも複数の通訳者が長期あるいは無期の休暇をとっているらしく、通訳を使う側でもぜいたくを言ってられないという事情があるらしい(笑)。それにしても、通訳というのは翻訳の10倍くらい疲れる仕事だと思う。ひと言も聞き漏らさないよう神経を集中していなければならない精神的な疲れと、緊張状態でのべつまくなしに喋らなければいけない肉体的な疲れが渾然一体となった、この仕事独特の疲れだといえる。必ずしも不快な疲れではないのだが、人間が日常生活で経験する神経集中の閾値をはるかに超えた状態を１～２時間も継続するのは心身にとって相当のストレスになっていることは確かだと思う。この仕事を長いことやっていたら長生きしないと思う。ガンで死んだ米原万里なんかはその好例なのではないかとふと思う。翻訳であればいくらでも辞書を引く時間があるし、「これぞ！」という表現を吟味して厳選する余裕がある。一方で通訳はその場で適切な訳語を思いつけないと仕事が成立しない。辞書など引いているヒマは当然ないので、「…あれ、○○って英語(あるいは日本語)で何って言うんだっけ？」とつっかえた瞬間に、通訳プロセスが停止してしまうからである。そして、通訳の場合訳語や表現を吟味しているヒマもないので、その場で何とか思いついた最善の日本語あるいは英語表現に瞬間的に置換して訳出することになる結果、仮に書き起こしてみたなら、日本語あるいは英語としてかなり拙い表現にならざるを得ない。なので、オイラのようなレベルの通訳にはどこか“不完全燃焼”で仕事を終えているような感覚が付きまとうものである。ところで通訳者は一般に、外国語（英語）から母国語（日本語）に通訳するほうが、母国語（日本語）を外国語（英語）に訳すよりラクだと言う人が多いらしい。メッセージさえつかめれば、それを母国語にねじ伏せるのは外国語で表現するよりはるかに容易だからだそうだ。自分のことを振り返ると、通訳は日→英のほうがラクである。これは日本語と違って英語のボキャブラリーには限りがあるので、あれこれ訳語や表現を迷わずに済むからかも知れない。一方、訳語や表現を吟味できる翻訳となると、やはり和訳の方がラクである。ただ、「得意」なのがどちらかと問われれば、日→英の翻訳の方が得意である。これは単に、（帰国子女を含め）日本人でネイティブレベルの英文が書ける人があまり多くないと同時に、日本語が堪能な英米豪etc.人にも、日本語のあいまいなところを読解して適確な母国語(英語)に表現できる人があまりいないからである。何はともあれこの職場で翻通訳の仕事を始めて３週間が経過したが、いまのところ決定的な失敗はしていないし、まあ合格点レベルを維持できているのではないかと自己評価している。やれるだけのことはやっているつもりだし、仮に数週間後に派遣社員のまま「お疲れさまでした、お気をつけてホームタウンまでお帰りください」…ということになっても、後悔しないと思う。あとはせいぜい、当面は奇行に気をつけようと思う程度である。

2008.03.17

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通訳マジ日記苦労編

おとといは日本の本社から来られたエライさんによるプレゼンの通訳をしたのだが、リハーサルに同席して内容を把握していたおかげで大きな問題なく終了することができたのは幸運であった。ただ、今日になってから別の駐在のエライ人に呼び出され、プレゼンをした人の言うことを忠実に訳していなかった点を注意された。たまに何と言ったか聞き取れなかったところがあって、そういうときはプロジェクターで投影されている情報を読んで、聞き取れなかった情報を補っていたのだが、それがマズかったらしい。前職での社内通訳では、フリーランスの通訳と違って、話者の話す内容を臨機応変に端折ったり装飾したり編集したりするのは当然というか、社内におけるスムーズな意思の疎通という目的を成立させる上でそれが“業務の一部”と言っても過言ではなかった。しかし今の職場では「忠実な通訳」というのが「企業機密の保持」と同じくらい重要なのだと教えられた。なるほど、フリーランスの場合と一緒で、通訳者の自由裁量の割合がほとんどゼロに近いわけね。なにせ前職では何年にも渡って「言おうとしていることを大体理解して伝えられればOK」といった、忠実度をあまり問われないラクな通訳ばっかりしてきたので、話者の話しているひと言ひと言に注意を払って訳出しなければいけない通訳仕事は倍くらいの集中力を要するので、とっても疲れる。とくに、入社して間もないボクの場合見聞きすることがすべて初めてのことばかりなので、これから誰が何を話そうとするのかまったく予期できないために、「倍のさらに倍」の集中力を要求される。予備知識のない状態で初めて会う人の発言を通訳する場合、たったひと言聞き漏らしただけでもすぐに話が見えなくなりかねないからである。聞き漏らすどころか、言ったことをすべて聞き取れても、何の話なのかテンで分からないこともしばしばである。たとえば、日本人が「ガイザイ」がどうしたとか言い出して、それが「外材」でありすなわち「社外に委託された材料」を意味することに気づく頃には、話はとっくに先に進んでいたりする。あと、たとえばカナダ人の作業員が発言の中でさっきから「タック、タック…」と言っているように聞こえるのだが、タクトタイム tact time のことを言おうとしているにしては話がつながらず、あれかこれかと考えているうちにそれ以降の話はすっかり聞き逃し、通訳の途中で沈黙してしまう。そして、次の話者の話を聞いているうちに、…ああ、あれは「仮溶接」の「tuck weld」のことを言おうとしていたのか！と気づいた頃にはもう遅く、次の話題に移ってしまっている(笑)。ましてや社内用語となるともうお手上げである。「T-3」だとか「C1D-II」とか「コロコロ」だとか言われても、モデル番号なのか、なんらかのイベントの略称なのか、誰かのニックネームなのか、単なるボクの聞き間違えなのかも分からず、自信なげなあいまいな訳出しかできない。社員のみなさんは「そのまま“コロコロ”と言えばカナダ人にも通じますから。」とか簡単に言うのだが(笑)、それがモノなのか人なのか行為なのか何らかの現象なのかによって、使う動詞から前置詞からすべて変わってくるということが分かってもらえないらしい。あと、ボクが訳せずに困惑しているような場面で、「もっとゆっくり言えばいいですかね？」とか言う人もいるが、ゆっくり話すことで「tact」と言ったのか「tuck」と言ったか区別する上で助けになるようなことはあるかも知れないが、「C1D-II」をいくら「スィー、ワン、ディー・トゥー」と言ってもらったところで、何の助けにもならない。そんなわけで、この年齢になって、ホテルに帰ってから疲れて眠いのもガマンして、明日の通訳の資料に目を通したり単語・用語ノートを作ったりといった、昔から死ぬほど苦手な「お勉強」をせざるを得ない状況になっているのである。でもこういった「お勉強」というのは本来通訳者として当然の、仕事の一部なんだよなあ。キチンとした会社でキチンとした仕事をすることになって、テキトウな会社でテキトウな仕事をしてきたことのツケが回ってきた、ということか(笑)。

2008.03.14

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通訳の達人覚書

昨日訪問した日系企業で同席したアメリカ人は、オイラがいままで会った通訳の中でも、たぶん最も優れた通訳者であった。日⇒英と英⇒日双方向の通訳を、逐次ではなく同時で通訳するのである。しかも、会議が２時間、３時間…と続いても集中力を途切れさせず、正確な日本語及び英語で訳し続けるのを見ていて、「感心」がすぐ「驚嘆」に変わり、やがて「畏怖」さえ感じ始めた。オイラは、むかし通っていた通訳学校や、フリーランスで翻通訳していた時期を含め、おそらく100人以上のバイリンガル･スタッフやプロの通訳者を見ている。その中には、彼と同等のスピードと正確さで英語を日本語に訳すプロの日本人もいた。しかし、これはあくまで母国語に訳す英⇒日の一方通行の場合だけであって、日⇒英となると訳出のスピードや正確さが明らかに落ちていた。また、テレビのニュースなどで2カ国の首脳が会談する場面が放映されることがあるが、通常は、たとえば日本側に通訳者が１人いて、相手国側にも通訳者が１人いて、お互いの国の首脳に対して通訳をしている。1人の通訳者が両国の通訳を同時にこなしていたら忙しくてしょうがないはずだ(笑)。しかし、昨日のアメリカ人は、驚いたことにこの大忙しを実際にこなすのである。日本人サイドの言うことを英語に、アメリカ人サイドの言うことを日本語に、なんと同時通訳で、しかも的確な表現で、延々と通訳し続けるのである。もちろん会議の席はこのアメリカ人がフル回転で喋りっぱなしである。しかも、時にダブったりする複数の出席者の発言を、すかさず漏らさずにちゃんと拾って訳すのだから偉い。言っておくが、国際会議などで同時通訳者を起用する場合には、通常２人程度の通訳者がペアを組んで行う。これは、同時通訳をするために必要な集中力が持続可能なのはせいぜい10分程度が限界なので、だいたい５～10分ごとに通訳を交代しているからである。1時間や2時間の会議を1人の通訳者がぶっ続けで行うなどということは人間の能力のキャパシティを超えており、通訳業界では「考えられない」ことなのである。その「常識では考えられないこと」をこのアメリカ人は平気な顔でこなしているのである。オイラも同時通訳を多少できないでもないが、それはあくまで社内での話し合いのように、自分がその話題や背景を理解し把握している場合に限られる。アメリカ側あるいは日本側が何を言うかある程度予測が立つ状況であれば、話者が何かを言い始めて、それが何を言おうとしているか察しがついた段階で、通訳するというより「自分のことば」を喋る感覚で表現できるからである。しかし、通訳している最中に、目の前で話しているアメリカ人の鼻毛の先にハナクソがついているのが目に入ったり、熱心に喋る日本人のオッサンの唾液の飛沫がオイラの手元に飛ぶのが目に付いた途端に注意を削がれ、大事な単語を聞き逃して通訳が中断してしまうこともしばしばである。これらの雑念や邪念を振り払って話す内容だけに注意を払い続けるのはかなりの苦痛なので、通訳をしている最中のオイラはだいたい苦悶に顔を歪めている。しかし、このアメリカ人ときたら、こんな大忙しの同時通訳を１時間以上続けても、まったく涼しい顔をしているのである。この男は、通訳をしている最中に正面の席に座る日本人女性の胸元に注意を奪われて余計なことを考えてしまったり、日本人の上司のいうマヌケな発言に関係ないことを考え始めたりしないらしいのである(笑)。きっと、心の中に邪念のない、透明な心の持ち主なのであろう。正直言って、このアメリカ人とロビーはじめて対面したとき、カタコトの日本語を喋る単なるニイチャンなんだろうとタカを括っていた。一見してどこにでもいそうなフツウのアメリカ人のアンチャンだったからである。しかし、通訳しているときの彼の顔を見ていて、その蒼い眼の目つきがアメリカ人ではないことに気づいた。きっとこの男の頭の中には日本人とアメリカ人が2人住んでいて、それが同時に並行して走っているのである。そうとしか考えられない。ただ、会議が終わって客先の日本人社員に聞いて少しだけ安心したのは、このアメリカ人男性は喋りの方は神ワザだが、日本語の読み書きができないという話であった(笑)。「日本語」のＥメールを日本の本社に送信する際には、「Otsukaresama desu」「Bochibochi desu」などとローマ字で（しかも関西弁がかった日本語で）打ってくるらしい。一瞬、こういうアメリカ人があちこちにいるようになるとオイラも商売上がったり、オマンマの食い上げになりかねないと懸念したが、翻訳にすがりつけばまだなんとか立場が維持できそうだと知り、ちょっぴり安堵したオイラであった。

2008.02.20

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風神ｽﾞｽｷとか言ってフザケてる場合じゃない反省日記

今日は採用試験を受けた。通訳・翻訳職の試験である。応募先の会社は自宅から５～600キロ離れているため、インターネットと電話を使って自宅で受験させてもらった。いままで電話面接の経験はあるが、電話試験は今回が始めてである。こんなに緊張したのはひさびさであった。元来ワタシは緊張しやすい性質なのだが、安楽な内勤の仕事に就いてからというもの緊張するようなシチュエーションに遭遇することが滅多になくなり、自分が緊張性であることを忘れていたほどであった。最後にこれほど緊張したのはいつだったか思い返してみると、６年半くらい前に会社のお客様感謝パーティで100数十名のエライ人たちの前で米国本社会長のスピーチを通訳して以来のことであった。あの時はガチガチに緊張して、冬場だというのに上半身文字通り汗びっしょりになったことを思い出す。通訳試験は、Ｅメールで送信されてくる原稿のサイト･トランスレーションと、電話の向こうから聞こえてくる音声を逐次で通訳するものであった。サイトラはお粗末ながらもなんとかやれたが、音声の逐次通訳はもうボロボロ。音声のスピードにメモが追いつかず、穴だらけの通訳になってしまった。「こりゃダメだ。」と自分でも呆れてしまったのが、日本語の音声を聞いて英訳するパートで、日本語の殴り書きのメモを見ながらそのまま日本語をしゃべっている自分に気づいたときである。日⇒英の通訳をしなければいけないのに、日⇒日では通訳になってないやんけ。中学時代、数学の試験の最中にボーっとした頭で因数分解の問題を解いていたら、いったん分解しかけた式をいつの間にか途中からまた掛け算しなおしていた自分に気づいて「こりゃダメだ。」と思ったエピソードをふと思い出した。今回は途中で気づいて「...あっ！」と言った後で慌てて英語に切り替えたが、あれは致命的な失敗だった。それまでは重厚な感じだった電話の向こうの試験官の声が、その後心もち軽くなったのは、相手も「…あ、こりゃダメだ(笑)」と思ったからに違いない。翻訳試験は制限時間内にすべて完訳し、和訳問題は見直しするヒマもあったが、英訳の見直しに入る前に制限時間が来てしまったのが悔やまれる。途中MSワードがクラッシュしたために、翻訳を終えていたハズの２段落を泣きながら翻訳しなおしたあの５～10分があれば、もうちょっと推敲できたのだが。実はこの会社は、日本語通･翻訳の大学院を設置しているアメリカの唯一の大学から卒業生を選り抜きしているような、レベルの高い翻訳者･通訳者を擁していることで知られている。一方ワタシときたら、アメリカに転属になってからというもの能天気なアメリカ人とちょっとした抽象的な話ができれば用が足りる仕事に満足し、物価指数がどうとか市場動向がどうとかいったビジネス会話もしなくなった上に、そもそも日常的に通訳をするような機会を逸して久しいのだった。考えてみたら、メモとりとかサイトラとかシャドーイングとかを学校に通って勉強してたのって、もう９年も前だよなあ。…ああ、採用いただいたら心を入れ替えてマジメに勉強しますから(笑)、通訳試験の結果のほうは、ちょっと大目に見ていただけないでしょうか、採用担当者さま。…なーんて、「タイマのメニューを見せてください。」とか「すべて見せてくれるようなクラブに行ってください。」とか英語で書いてるこのフザケたブログを見られた時点でオートマティカリーに不採用でしょうけど。

2008.02.11

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まだやる風神ｽﾞｽｷほんとに役立つ米会話

堕ちるぅ～！Hello! 英会話ブログ人気ランキング一位、神風スズキさん(長崎県諫早市)のホンモノさえ訪問に来た、ブログ人気ランキング10000位のパチモノ風神ズスキのブログへようこそ。日本ではなかなかお目に掛かれないものの１つ、規制物質。アメリカでは日本より容易かつ安価に入手できますが、ほとんどのドラッグは日本同様に違法です。なので今日は、合法の国オランダに旅行したときに使うという前提で便利な表現を勉強しましょう。一つでもいい、しっかり覚えて使おう！USA 英会話　赤はアクセント　【日本では規制されている物質を服用したい】―アムステルダムのホテルのフロントにて★　どこかこの辺で有名なコーヒーショップはありませんか。Is there any famous coffee shop around here? イズ　ゼア　エニィ　フェイマス　カフィショップアラウンド　ヒア？*オランダで「コーヒーショップ」というのは、政府からライセンスを得て大麻等を販売している喫茶店のことです。この例文では「アラウンドヒア around here」のひと言がとても重要です。あまり遠い店を紹介されると、ラリってホテルまで帰って来れなくなる可能性が大きいからですね。―コーヒーショップにて　★　タイマのメニュを見せてください。Could I see a weed menu, please. クダーイ　スィー　ア　ウィード　メニュ、プリーズ「ウィード」というのは「雑草」ですが、「大麻」の俗語でもあります。（「ウィード」のほかに「グラス」でも通じます）米に「アキタコマチ」だの「ササニシキ」だのの銘柄があるように、タイマにも、輸入ものから遺伝子組換技術で作られたものまで、いろいろな種類があるので、どこのコーヒーショップでもメニュを置いています。★　初心者にはどれがおすすめですか。Which one do you recommend for a beginner?ウィッチ　ワン　ドゥーユー　レコメンド　フォアラ　ビギナー？放浪の達人さんやトイモイさんのような上級者でないと、ふつうの日本人はメニュを見せられてもどれを選んでいいかわかりませんね。素直に店員の推薦に従いましょう。★　５回分くらいください。Could I have enough for five roles? クダーイハヴ　イナーフ　フォー　ファイヴ　ロールズ？メニュから種類を選ぶと、何グラム欲しいか聞かれます。でも１回分何グラムあればいいのかなんて、放浪の達人さんやトイモイさんのような上級者でないと、ふつうの日本人には分かりませんね。だから、「５本(ロール)分くらい」とか言えば、適当な分量を包んでくれます。★　ジョイントのを５つください。Could I have five joints? クダーイハヴ　ファーイブ　ジョインツ？最初から巻いて売っているのを「ジョイント」といいます。葉っぱを砕いたり巻いたりする道具のない初心者は最初から「ジョイント」のを買うのがよいでしょう。なお、砕いたり吸ったりする通好みの道具は、秘密結社日本インド化計画の三河支部長が経営するアジア雑貨店「パサール」がネットでも販売しているのは有名です。★　もっとハードなドラッグはどこで手に入りますか。Where could I get harder drugs?ウェア　クダーイ　ゲットハーダー　ドゥラッグズ？コーヒーショップではふつうタイマ製品しか売っていません。もっとハードなものは、そのテのモノを密かに売っているクラブやディーラーを紹介してもらうほかありません。その辺の道端で近寄ってくるディーラーから買う手もありますが、ニセモノや安物をつかまされることがあるので要注意です。みんな、覚えたかな？もう飽きたので今日でやめます。Sunkus!(長崎県諫早市)

2008.02.10

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風神ｽﾞｽｷのﾏｼﾞで笑って身につく米会話２

Hello! あちこちに書き込みして回ってる神風スズキさん(長崎県諫早市)の人気ランキング一位の英会話ブログのパチもの、風神ズスキの米会話ブログへようこそ。今日は、日本ではなかなか経験できないような事物を経験するための表現を勉強しましょう。一つでもいい、しっかり覚えて使おう！Please keep away from me!キィ～ン　急降下！USA 英会話　赤はアクセント　【アメリカのストリップが見たい】★　(タクシーにて)ストリップ･クラブまで行ってください。Take me to gentlemen’s club, please!テイク　ミー　トゥージェントルメンズ　クラブ、プリーズ* アメリカではストリップクラブを「ジェントルメンズ･クラブ」と言うのが通例です。クラブの「ラ」は舌先を上の歯の裏につけて発音します。なお、男性のストリップが見たい女性が「レディーズ・クラブ」と言うと、ご夫人方の社交クラブに連れて行かれてしまうので注意しましょう。★　すべて見せてくれるようなクラブがいいです。The kind that shows all the way!ザ　カインド　ザット　ショウズ　オール　ザ　ウェイ！タクシーの運転手はたぶん「どんな種類のクラブがいいかい？」と聞いてきます。トップレスだけのクラブもあれば、全裸で御開帳のクラブもあるからです。迷わず後者をお願いしましょう。「オール・ザ・ウェイ」の代わりに「エブリシング」もOKです。★　ラップ・ダンスをお願いします。Can I have a lap dance, please?キャナイ　ハヴァ　ラップ　ダンス、プリーズラップダンスというのは、踊り子がお客をソファに座らせ、そのひざ(lap)の上に乗って、客の顔の前でケツを振ったり胸をプルプル震わせたりするようなダンスです。フロアを歩いている踊り子さんをつかまえて、このようにお願いしましょう。★　とても楽しかったです。I enjoyed it very much!アイ　エンジョイド　イト　ヴェリー　マッチ！ラップダンスが終わったら、あらかじめ用意していた20ドル札を渡してこのようにお礼を言いましょう。「すばらしかったです。」That was great! (ザット　ワズ　グレイト！)でもよいでしょう。ありがとうございました。Sunkus!(長崎県諫早市)

2008.02.09

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風神ｽﾞｽｷの笑って身につく米会話ヨン様もびっくり

キーン　墜落します！Hello! 人気blogランキング一位の英会話＆韓国語の自分のブログのことをあちこちに宣伝して回ってる神風スズキさん(長崎県諫早市)のサイトにインスパイアー（inspire）された風神ズスキとはこのボクです。銃社会のアメリカ、今日も大学のキャンパス(campus)で、女子学生が銃を乱射して3人が死亡しました。しかも、その事件のあったルイジアナ州バトンルージュとは、15年くらい前にホームステイ(home stay)していた服部くんが撃たれたあの町です！一つでもいい、しっかり覚えて、いざというときに使おう！Please keep away from me!キィ～ン　急降下！USA 英会話　赤はアクセント　【銃口を向けられたとき】★　私を撃たないでください。Please don’t shoot me!プリーズ　ドント　シュゥートミー！* 早口で言わないと撃たれてしまいますから早口で言えるように練習しましょう。なかなか早口で言えない場合には「ドント　シュゥート！」だけでも通じます。【子供と一緒のとき】★　この子たちの命は助けてやってください。Please spare the children!プリーズ　スペア　ザ　チルドレン！* これは、「私の命は奪ってもいいですから、」と言外に言っていますから、ある程度覚悟をしてから言いましょう。【強盗にあったとき】★　ほら、金ならやる。だから、堪忍してくれ。Hey, take this. And leave me alone!ヘイ、テイク　ズィス。エンド　リーブ　ミー　アローン！* 路地裏などで不運にも暴漢などに襲われたとき、先手を打ってポケットからカネを出してこう言います。危害を加えられずに済むことが多いでしょう。【あいにく撃たれたり刺されたりしたとき】★　おお、神よ！Oh, god!オォー、ゴーッド！* これはガンジーが暗殺されたときのセリフとして有名ですね。ちなみに「オー・マイ・ゴッド！」は驚いたときのセリフですから死ぬときに間違って使わないようにしましょう。仏教徒の方は「オー、ブッダ！」でもいいでしょう。ありがとうございました。Sunkus!(長崎県諫早市)

2008.02.08

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英語ペラペラ男のウサン臭さ

昨日面接を受けている最中には気づかなかったのだが、面接に同席されていた日本人駐在員の表情を思い起こしながらブログを書いているうちに、実はオイラは“ウサン臭いヤツ”と思われていたのではないか、とふと思った。同じく面接に同席された現地採用の日本人女性やカナダ人女性と、駐在の中年男性２名の間には、オイラとの面接時の表情や態度にまったく対照的なものがあった。前者の２人とは(英語で)話せば話すほど打ち解けて心理的な距離が縮まっていくのを感じるのだが、後者の２人、とくに年配の男性の方は、英語で話すオイラを、あたかも別の世界に属する別の人種であるかのような顔で見ていた。はじめのうちオイラはそんな印象もただの思い過ごしだろうと思っていたのだが、面接の最中に一度だけ年配の男性が同席のカナダ人に英語で話し掛けようとして途中で止めたのを聞いたとき、これは思い過ごしではなかった、と思った。この男性の英語が、ネイティブ・スピーカーとふつうに意思疎通ができるレベルではなかったからである。言わば、オイラは英語が不自由な人の前で、ペラペラと英語で面接の受け答えをしていたわけである。それを考えると、この男性のオイラに対する非友好的な表情や態度に合点がいった。要するに、英語をペラペラしゃべる日本人男性は、同じ日本人男性から見て、“ウサン臭い”のだ。オイラ自身、たまに英語でペラペラしゃべる日本人男性に会うとまずウサン臭さが先に立つくらいだから、英語にコンプレックスのある日本人男性ならなおさらに違いない。日本人女性がペラペラ英語をしゃべっても違和感はない。それは、ガイジン男性と歩いている日本人女性を見掛けるのと同じくらい自然でありきたりである。しかし、これが日本人男性だと、その人が商社マンだとか外交官だとか学者だとかいった“納得のいく”肩書きの人物であればペラペラ英語をしゃべられてもまだ安心できるのだが、そうでないとどうもウサン臭さが付きまとう。そのウサン臭さというのは、端的にいうと“裏切り者に対する不信感”に近い。商社マンにせよ外交官にせよ海外営業にせよ、日本の会社で日本を背負って仕事をしている。外国語をペラペラとしゃべっても、それは「日本(人)の利益」のためである。いわば、日本という土俵の中から外に向かって英語をしゃべっているようなイメージである。あるいは、同じ英語をしゃべるにしても、日本語ナマリの英語であれば、安心できる。それは英語を話しながら「オレは日本人だ」と主張しているようなものだからである。しかし、このような“納得のいく”肩書きなしの、しかも海外在住の日本人男性が、ペラペラ外国語を話すのを見ると、コイツはホンマに「日本の側」に立っているのか、それとも日本人の顔をしているだけで、実は日本と利益の反する立場にいるのではないか…という疑念が本能的に湧き起こってくる。…と同時に、同じ日本人としての同士・仲間だと思っていた“身内の感覚”を失ってしまうわけである。前述の駐在男性が面接の席で繰り返し、現在の管理職としての肩書きや報酬を放棄して、一自動車部品メーカーの通訳･翻訳者になろうというオイラの意図に疑問を投げ掛けたのも、ホンネ風に言い換えれば「…アンタ、そんな英語ペラペラしゃべれるんやったら、どっかの商社に入るなり海外営業でもしてもっと稼いどったらエエんちゃうの。こんなイナカでネーちゃんたちに混じって地味に翻訳しようなんて、何考えてんのかさっぱり分からへんわ。」…といったように脳内変換して理解すべきだったのだろう。そういえば昔、ソニー創業者の井深大が自分付きの通訳者を雇う際、英語ペラペラの帰国子女ではなく、ESSなんかに入って地道に英語を勉強してきたような海外在住経験ゼロの男性をわざわざ探してきて抜擢した、という話を思い出した。海外で就職するにも、相手によっては「英語ペラペラ」というのもマイナス要因だということなのだろうか。

2007.12.04

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翻訳者は裏切者

翻訳仕事の多い週であった。とくに法的文書の翻訳が複数あり、いつもより神経を使った。法的な文書の場合、不適切な翻訳が原因で訴訟だのになりかねないし、翻訳者の責任重大だからである。「適切な翻訳」と言ってもただ字義通りに訳せばいいだけのことなのだが、日頃「社内翻訳」に馴れ過ぎているとこれが難しい。なぜかというと、外部文書の翻訳と違って、社内コミュニケーション用の翻訳は、字義を離れた“意訳”になることが極めて多いからである。たとえば、誰かの書いたEメールを原文どおりに訳していたら、得てして主張のポイントが不明になることが多い。だから、その文が主張していること（依頼、質問、意見表明、批判etc.）が明確になるように、ポイントに無関係な部分を省略したし大胆に意訳して訳出するのが社内翻訳の基本なのである。分かりやすい例を挙げれば、日本人社員の書いたEメールにありがちなのは「お疲れ様です。」に始まって挨拶の言葉が延々と続き、何行も後になってからようやく「○○をお願いしたく存じます」という用件らしき文が登場する。その後も「今後ともよろしくお願いします」云々といった用件とは直接関係のない文が続く。これを“翻訳”するとなると、コッポラ娘監督の『ロスト･イン･トランスレーション』ではないが、何十行ものEメールがたったひと言「Hello. Please do ○○」という英語になったりしかねないのである。このように、社内翻訳の多くは「翻訳」というより「編集＆作文」と言ったほうがよいものが多い。これが翻訳ではなく通訳の現場になると、通訳者の「意訳」「編集」の能力は不可欠である。たとえば、アメリカ人が「アメリカ的な率直さ」で爆弾発言をしたり、日本人が「日本的な控えめさ」で言いたいことを“10分の１”くらいに希釈した発言をするのをそのままストレートに通訳したら、社会的問題や誤解に発展しかねない。これも分かりやすい例を挙げると、私がかつて経験したケースだが、アメリカ人スタッフが客先で「管理の行き届いた日本の会社でも、こんな呆れたミスを平気で続けているようなところもあるのか。驚いたねえ。」といった皮肉な発言をしたことがあった。これをそのまま通訳したら営業社員に苦情が行くか、ヘタをすると契約解除に至りかねない。そんな時には、通訳者はいったんこの発言を腹の中に押しとどめ、光の速さで脳内変換し、「日本というとどこの会社も管理が行き届いたい印象がありますが、このようなミスが発生することもありうることを知って、安心しました！」と訳出することによって、一触即発だった状況を、笑い声に満ちた和やかな場面に替えるわけである。こんなとき通訳者は、自分も笑い声の輪に加わりながらも、「真実を知っているのは自分だけなのだ…」という、罪悪感と満足感の入り混じった屈折した秘密の感覚を腹にしまい込むのである。イタリア語には「翻訳者は裏切り者 ”Traduttore tradittore" （translator is traitor (英)）」という表現があるらしい。たしかに翻通訳という仕事は２つの言語の間でいつも両者に軽いウソをつき続けているような感覚がある。とくに日本語と英語の場合、黎明期の翻訳ソフトを使ったことのある人なら分かると思うが、「原語をそのまま他方の言語に替える」のは得てして不可能なので、「意図を伝える」ためにはいつもどこかちょっと端折ったり、微妙に違うことを言ったりしているという軽い罪悪感が付きまといがちである。きっとそういう意味では、バカ正直な人間は、直訳が奨励される法律文書の翻訳や法廷通訳の世界を例外とすると、翻訳者や通訳者に不向きであるに違いない。むしろ、２つの異なる言語(＝文化／国家／立場etc.)の間でこっちの側に立ったりあっちの側に立ったりできるスパイのような精神構造の持ち主が通訳者として長続きするに違いない。いずれにしても、「両者の意思疎通が成立して満足してくれさえすれば、むしろ多少の省略や潤色や修正はあって当然」くらいに思って仕事をしがちなスレッカラシの翻通訳者にとって、たまにこうして法的文書の翻訳の仕事をするのは初心に帰る意味でいいものである。

2007.09.24

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翻訳可能性と世界のミシマ

先日文豪の画像を検索していたところ、ワタシの尊敬する三島由紀夫センセイの英語インタビューがYouTubeにいくつもアップされているのを発見した。ワタシは学生時代、ミシマ先生について海外のジャーナリストが書いた伝記のたぐいをいくつか原文か邦訳で読んだことがあり、「世界のミシマ」が流暢な英語を話すことは知識としては知っていた。また、ミシマ先生の弟氏が著名な外交官であることは有名な話で、兄弟して外国語に堪能であることは容易に想像できた。しかし、実際にミシマ先生が英語を話す様子を動画で見て、驚いた。流暢さといいボキャブラリーといい、プロの通訳レベルの英語だったからである。全部聞き取れたら英検準１級レベル(笑)いちばん驚いたのは、ネイティブのイギリス人がミシマ先生の哲学についてナレーションしているものと思って動画を見ていたら、途中からミシマ先生自身の映像が登場し、その“ナレーション”が実はミシマ先生自身が英語で語っているものであることを知ったときだ。”and…”を頻用しがちな点はたしかにガイコク人くさいが、その点さえ除けばネイティブと対等に渡り合える立派な英語である。ワタシはアメリカ在住の研究者や駐在員を何人も知っているが、これだけ流暢でしっかりした英語を話す日本人は、一部の帰国子女などを除けばそうはいない。何がスゴイといって、ミシマ先生は留学経験も海外在住の経験もなく、これだけ流暢な英語をすべて日本国内で身につけた…という点である。…しかし、「驚いた」とはいっても、「想像していたより流暢だった」という程度の意味であって、ミシマ先生にとって欧州言語をマスターするのが容易であっただろうことは想像に難くない。以前ミシマ先生の小説の外国語訳に触れて書いたことがあるが、ミシマ先生はかつて評論家から「法科出身の人間の論理」と評されたことがあるくらい、“感覚”だとか“文脈”とか“行間”といった“日本語的なあいまいさ”を排除した文体が特徴で、それは「まるで欧州言語を直訳したような日本語」と言いたくなるような不思議な味わいがある。たとえばよく、英語の教科書なんかに載っている川端康成の『雪国』（サイデンステッカー先生の英訳が有名）の有名な冒頭の一文「トンネルを抜けるとそこは雪国だった。」が”The train came out of the long tunnel into the snow country.”などという単純極まりない英語に訳されているのを読んで、『和文原文の味わいがぜんぜん出ていない！』とか文句を言っている日本人がいる。ミシマ先生の場合、そんな「和文独特の味わい」が含まれる余地は極めて少なく、むしろ英訳を読んで「…ああ、そういう意味か！」と思ったりするくらい(笑)、外国語(…というか、欧州言語)での表現がしっくりくることが多い。実際、ミシマ先生の小説や戯曲の多くは外国人翻訳者をして「翻訳されてその輝きが一層増す」と言わさしめたくらい、“翻訳向け”の文体で書かれているものが多い。また今日も長くなりそうなので結論を言ってしまうが、要するにミシマ先生の作品の特徴は、「すでに存在するもの（たとえば、何か感動するような経験があったとか、表現しておきたいような事象があったとか）」を言語で表現した結果ではなく、言語を用いて無の上に虚構を構築している点なのである。『楯の会』＝"Shield Society" そしてこれは、先日の日記に書いた“詩興”とは対極にある、言語に規定された“独特の味わい”の介入する余地が排除された境地である。ついでに言ってしまうと、ワタシがミシマ先生にどうしてこうもこだわるかというのも、まさにこの点にある。先生の文体に象徴される「他者に共有されないもの、翻訳不可能なものは存在しないに等しい」あるいは「コンテンツの前にフォルムありき」というインスピレーションは、氏の世界に衝撃を受けた10代の頃から(40歳の)現在に至るまでワタシの指針であり続けているのである。そして、これにもまして重要なのは、「翻訳されてその輝きが一層増す」ような作品を創造するミシマ先生のような偉人に限って、西洋の文化だけでなく、能だの葉隠だのいった「日本独特」の文化にも精通していた…という事実なのである。先日の日記へのコメントでMarijuana氏が『つまり言語っていうソフトは多ければ多いほうが好くて、さらにmixed upされればされるだけ悟りに近づくんですね？』と評していたが、ミシマ先生はまさにを、さまざまな文化の本来相容れないとされる要素を自分の中に取り込み、統合することができた超人なのである。卑小な自我を超越したこのような人物が、日本に居ながらにして外国語を容易に身につけることができたのは、当然の結果であったといえよう。

2007.05.29

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翻訳可能性と自我の統合力

昨日の日記では、外国語が身に着くことによって退化したり喪失したりする感覚について書きましたが、実際には、外国語が身に着くことによって「日本語では表現不可能な外国独特の感覚」を獲得するほうが多いことは、言うまでもありません。こんなことを量的に表現するのは不可能であることを承知の上で言えば、日本で日本語だけを通して生活していた頃の自分の感覚の範囲を100とした場合、ボクが英語での意思疎通に困らなくなった頃の「拡大された後の自分の感覚」はたぶん130くらいにはなっているように思います。これはどういう計算かというと、母国語の感覚が100として、成人後に渡米して第二外国語として身につけた、英語を通して身につけられた感覚が（母国語並み(＝100)というわけにはいかないので）75くらいとすると、そのうち「母国語の感覚をそのまま英語に翻訳すれば通用する、両文化に共通の感覚」が大雑把にいえば40（半分強）くらいはあるので、その差分（75 -40）の35くらいが感覚の拡大分となり、しかし一方で昨日の日記で書いた「詩興の退化や喪失」のような母国語の感覚の喪失分が5くらいはあると思うので、(100-5) + (75-40) = 130　…という計算になるわけです(笑)。しかしこれが、中学低学年くらいで家族とともに渡米していれば、日本語の感覚をあまり喪失せずにほぼネイティブ並みの米語の感覚が身に付くので、米語拡大分の小計を95として、そのうち「両文化に共通の感覚」が半分強あるとして差し引き45強、さらに母国語の感覚に退化・喪失分が多少はあるとして残る拡大分が45、よって合計100＋45＝145、つまり「1.5人分」くらいの「感覚の拡大」があるのではないかと想像されます。実際、ボクがフリーランスの通訳をしていた頃に、「日本語も英語もネイティブ以上」というスゴイ人に会ったことがあります。彼女は小学高学年で家族とともに渡米した帰国子女で、大学進学のタイミングで日本に帰国しています。彼女が話す英語はボクの耳でもネイティブとはほとんど区別がつかず、日本語も堂々としていて拙い感じがぜんぜんありません。しかも、あらゆる分野の通訳をしているうちに、ふつうの人が知らないような業界用語とか洗練された表現を日英両方で身に付けた結果、日本語も英語も「平均的な日本人・アメリカ人のボキャブラリー」をはるかに超越しているのです。故・米原万里さんなんかもまさにこんな感じだったんだろうなあと思います。こういう人たちはきっとゲシュタルトが超越的に広くて、ふつうの日本人には見えないものが見えていたり、大多数の人にとってノイズに過ぎないものが意味を持っていたりするわけでしょう。単に知的にすぐれているだけでなく、矛盾しがちなさまざまな異なる傾向を内に取り込んで消化し統一性を保っているという、その自我の柔軟性と大きさは、尊敬に値すると思います。ところでこういうホンモノのバイリンガルと接していて面白いなあ…と思うのは、たとえば英語と日本語で同じ質問をした時に、英語と日本語では回答が微妙に違かったりすることです。これは前述の通訳者の女性とは別人の、日英ともネイティブの日系アメリカ人女性の話なのですが、彼女はある日アメリカ人から将来のキャリアについて尋ねられたとき、「自分はビジネスのノウハウを身につけて自立した女性になりたい」といった典型的アメリカ人女性のような回答をします。しかし、日本人の知り合いから日本語で同じような質問をされると、「自分は良妻であり賢母でありたい」といった回答をするのです。この２つの回答は、どちらかがウソというわけではなく、「どちらも本心」であるというのがこの話のポイントです。２つの異なる希望は決して矛盾するわけではなく、「自立したビジネスウーマンでかつ良妻賢母」である女性はいくらでもいると思います。ボクが面白いなあと思うのは、「自分の夢や希望」といった根源的な感情でさえ、文化という文脈によって出てくるアウトプットが違ってしまうということと、彼女が日本国内で日本語だけを使って成長していたら、あるいは「良妻賢母」の回答しか頭に描かなかったところが、アメリカ社会でアメリカ人を見て成長した結果、自分の意識の中に「自立したビジネスウーマン」というオプションも拡がったわけです。つまり、「1.5人分」の感覚の多様さの中に生きているわけですね。しつこいようですが、感覚とか客観的物理的実体が先にあるのでなく、混沌を構造化する言語や文脈が先にあるのですね。…ああ、さいきん難しい本を読んだり、誰かと難しいことを話したり、考えたりする機会がないので、せっかくいいことを言おうとしても、なんだかリクツっぽくてだらだらと的を得ない文にしかならないですね。とりあえずこの話題はこれでおわり。

2007.05.23

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翻訳可能性と唯言論

このまえ日本に出張したとき (仮名)心斎橋ワタルから、「咳をしても一人」の自由律俳句で有名な俳人・尾崎放哉の生涯を描いた『海も暮れきる』という小説をもらったのをさいきんになって読んでいてふと思い出したのは、ボクは英語をしゃべるようになってこのかた、詩作に通じる感興が湧かなくなって久しいんだよなあ、ということです。『海も暮れきる』には、尾崎放哉が作った自由律の俳句があちこちで登場するのですが、「砂山赤い旗たてて海に見せる」とか「足のうら洗えば白くなる」とかいった句を目にするたびに、ああ、いい感じだなあ、ボクもこんな句を作ってみたいなあ…という誘惑に駆られます。先日はトイモイさんが日記の中で尾崎放哉もどきの即席っぽい自由律句をいくつか発表していましたが（「乗り過ごし、寝ぼけて改札出る」「ああ、アヘンか」は秀作）、日々ちょっとした場面で感じたことを、こんな自由律句的な表現であらわせたら、きっと毎日楽しいだろうなあ…と思うのです。ボクは別に詩を書いたり読んだりする趣味があるわけではないのですが、小学生時代には授業中に作らされた詩が某新聞の地方欄の端っこに掲載された程度の詩のセンスは持ち合わせているつもりです。それにもともと、音楽といい美術作品といい「分かるヤツにしか分からない」と言われるような絶妙な“通の表現”の境地を愛する人間です。だから、「砂山赤い旗たてて…」みたいな表現を日常会話に散りばめられたら、さぞかしカッコイイだろうなあ…などと憧れてしまうのです。…で、どうして英語をしゃべるようになってから詩興が湧かなくなったかというと、答えはきっと簡単で、「そのような感興が英語に翻訳できないから」だと思うのです。それは、いわゆる“ワビサビ”を外国人に伝えられないというのと同じで、たとえば「静けさや岩に染み入る蝉の声」みたいな詩興を” In tranquility, the buzz of cicadae sinks into rocks” と訳してガイジンに読んで聞かせても、「それが何やねん」と言われるのがオチであるような環境に適応してしまっている…ということです。むずかしい話をすれば、いつぞやの日記にも書きましたが、言語というものは好むと好まざるにかかわらず人々の価値観だとか知覚さえも規定するものです。端的に言うと、丸山圭三郎を引用するまでもなく、感覚より先にまず言葉ありきなのです。たとえば、ボクにとって詩興というのは日本語を通して身につけた日本語固有の感覚であって、極端な話「アメリカで日没を見ていて感じる感動」は、「日本で日没を見ていたときの感興」とはもはやベツモノなのです。そして、「頭が英語」の状態でアメリカだとかカナダで暮らしていてそのような詩的な感覚が刺激されなくなると、そういった「日本固有」の感覚は退化してしまうみたいなのです。ほかに似たような例としては、海外が長くなるにつれてダジャレを思いつかなくなるとか、「ジャンジャンやる」とか「ドワーッと押し寄せる」とかいった擬態語を使わなくなるとかいった傾向が挙げられます。いうまでもなく、これらは「翻訳不可能」な日本語でしか通用しないものだからですね。(なんだか長くなってきたので、後日につづく。)

2007.05.22

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欧州人の団結（とイギリス人の孤立）

出張に行ってヨーロッパに関していろいろ考えたことがあったのですが、ヘンな風邪を引いて寝込んでいる間に忘れてしまいました。もう２週間も経つのにまだ咳が引きません。おかげでこのところぜんぜん運動ができず、体力もいっそう低下してしまいました。１つだけ覚えているのは、「15年前は英語で自由に意思疎通できるヨーロピアンは北欧を除けば少数派だったのが、最近は30代以下の欧州人の多くは堂々と英語を話すなあ」という印象を持ったことです。むかしは大陸の欧州人には「イギリス語なんて話せなくてもいいんだ」という自国語に対する誇りと頑固さを感じましたが、さいきんはやっぱり（生き残りのためにも）EUとして国境を越えて団結する必要性を自覚しているのか、共通語としての英語を話そうという積極的な姿勢を感じます。たとえば、これまではフランスとかを旅して、その国の言葉を話そうという姿勢を見せずにいきなり英語で話しかけたら、しばしばあからさまに「この国の言語を話せ」と言わんばかりの不快な表情を見せられたものです（北欧は別ですが）。いまではいきなり英語で話しかけてイヤな顔をされるとしたら、戦前生まれ以上の年寄りでしょう。ヨーロッパ人たちが文化的な障壁を越えて英語で自由に意思疎通しているのを見ると、ああ、彼らはもうすっかり“EU人”であって、フランスとかスイスとかドイツいった国民性はもはや日本における県民性とかいった感じに過ぎなくなりつつあるんだなあ…と思ってしまいます。そして、ああ、こんな状況はアジア諸国にはぜったいマネできないなあ、うらやましいなあと思ってしまいます。まあ、あと100年くらい経ったらどこのアジア諸国も中国経済圏の飲み込まれて、中国語が話せないと生きていけなくなってる可能性はありますが(笑)。ちょっとだけ面白いなあと思ったのは、イギリス人の立場です。イタリアやスペインなんて、ユーロ圏に加盟するのために財政赤字基準を身を切る思いでクリアしたというのに、ユーロ圏加盟を拒否して自国通貨のポンドを使用し続けているイギリス人は、いちおうEU加盟国ではありながら、ほかのEU諸国の仲間たちの間ではなんとなく浮いている感じがあります。ほかの欧州人たちが第二外国語としての英語で会話しているときにイギリス人が輪に加わろうとすると、母国語の英語を話しているにも関わらず、会話がかみ合わずに浮いてしまうのです。ほかの欧州人たちが英語で会話している輪に、「英語はオイラの母国語なんだもんね」と言わんばかりにブリティッシュ・アクセント（とくにロンドンなまり）を強調するかのような気取った英語で切り込んできて、同国出身の人にしか理解できないような表現を多用してみんなキョトンとさせてしまい、会話に解け込むのに失敗してしまうのです(笑)。なかには「ニュートラルなイギリス語」を話すようになって輪に解け込んでしまうイギリス人もいます。しかしこういうタイプの人はえてして元々イギリス的なイギリス人という雰囲気を漂わせていないものです(笑)。まあ、何を言いたいかというと、先日の日記と同じで、団結したヨーロッパはもう実質アメリカを凌駕するだけのリーダーシップと経済力を確保してしまったのかもなあ…ということです。あと、ついでに言うと、イギリスはその「団結したヨーロッパ」の輪から外れていて、欧州諸国からリーダーとしての衆望を集めそうにはないなあ...ということです。ま、イラク侵略に関してイギリスのブレアさんだけがブシュを支持してたのがある意味象徴的だったのかも知れません。

2007.05.21

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主語は何やねん!

「日本版SOX法」とか言って、さいきん日本企業では不祥事防止のために“内部告発”を制度化しているところが出てきているようです。アメリカでは、エンロンという大企業の粉飾決算が明るみに出て倒産したのが有名ですが、このとき内部告発した社員は、逆に上司たちから嫌がらせを受け退職に追い込まれています。さて、ボクはさいきんある社内通達文書の英訳を依頼されたのですが、それには「今度から社内に“内部告発の窓口”を設ける」ことが書いてありました。何か不正なことをしている社員を見つけたら、それを早期に摘発するために、告発することを社員に奨励するためです。そして、そのような告発者の保護を保証するために、告発については極秘に扱うし、万が一告発者に対する嫌がらせなどが発生すれば、そのような嫌がらせをした社員は厳罰に処す…とかいうこともちゃんと書いてありました。…で、ボクはこれを英語に翻訳しているうちに、イライラしてきました。日本人の上級管理職が書いたとおぼしきこの文章には、肝心の“主語”がないからです。たとえば、「告発した社員に対し不利益のないよう適切な措置をとる」とか、「告発した社員に対する嫌がらせ等が判明したら、嫌がらせをした者を処分する」といったことが書いてあるわけですが、「誰」が「適切な措置をとる」のか、「誰」に「判明」したら処分してくれるのか、ぜんぜん明言されていないのです。この上級管理職にこの「誰？」を質問しても、返ってくる答えは分かっています。「主語は“会社”だ。」というのがこういうときのお決まりの回答だからです。…でも、そもそも「“会社”って誰よ？」...というのがボクの疑問なのです。たとえば、経理のマサ子ちゃんが、上級管理職が会社のカネを着服しているのを“内部告発”したのがどこかから漏れて、その上級管理職やその仲間から嫌がらせを受けていることが、経理部の社員をはじめ事務職のみんなにとって周知の事実だったとします。…でも、「誰」がそれを「嫌がらせ」と認めれば「嫌がらせが判明した」ことになるのでしょう。「会社」が主語だというなら、それは「社長」でしょうか。じゃあ、「会社のほとんど全員」が嫌がらせがあることを知っていたとしても、社長の耳に届かなければ「判明した」ことにならないわけでしょうか。あるいは仮に、その告発の対象が社長だったら、誰が「会社」を代表して社長を処分するのでしょう？要するに、このような通達文書を英語に訳しているうちに明らかになってくるのは、「こんなこと書いてるけど、本気でやるつもりなんてないだろ。」「“告発の奨励”とか言ってもしょせん“形式だけ”だったのね。」…ということなのです。…そんなわけで、日本の社内通達はえてしてこんな風に肝心の主語が不在なのです。そして、翻訳すると、やたらと「受動態」ばかりの英文になってしまうのです。 (終)

2007.02.23

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英語でブツブツ言う人たち

10年近いむかし、６年ぶりに帰国して就職した日本の職場で、「英語でブツブツ」言っていたボクをつかまえて「日本にいるのにどうして英語で喋ってるの？」「（英語を）忘れないようにしてるの？」などと同僚の小娘からタメ口で訊かれたことがあった。この小娘は、高校時代だか大学時代だかに１年くらいアメリカに留学した経験がある「英検２級レベル」の英語をしゃべる人だったが、タメ口のことはさておき、「（英語を）忘れないようにしてる」という発想は、「英検２級レベルらしいなあ」…と思っていじましく感じたのを覚えている。達人さんやｵﾀﾞｷﾞﾘﾁｶﾞさんからの昨日の日記への書き込みによると、10月のオフ会合宿の際、ボクは相変わらず英語でブツブツ言っていたらしい。しかし、お二人はそういう“変わった人”たちに馴れているからであろうか、「どうして英語で喋ってるの？」などといちいち訊いてくることはなかったので、自分が「英語でブツブツ」言っていることに気付かなかったくらいである。オフ会で達人さんと熱い温泉に浸かったとき、ボクは「イエス、イエス…!」と言っていたそうである。これは日本語に翻訳すると、「これだ、これだよ、これ！」…といったカンジだと思う。「この熱さがいいんだ、あ～効くーっ」といったニュアンスである。…しかし、風呂に入るときに初対面のオッサンが日本語で「これだよ、これ！」なんて叫んでたら、ボクならちょっと気味が悪いと思う。やっぱり英語の「…Yes, yes!」がいちばん自然だった思う。また、ｵﾀﾞｷﾞﾘﾁｶﾞさんによると、ボクは「グレイト」とか言っていたらしい。何のときに言っていたのか記憶にないが、何かすごい景色でも見たときのセリフであろう。「すごいなあ！」なんて日本語で言ったら白々しいだけだが(笑)、「これは期待や予想を超えてるなあ」と思うような景色を見たときには、場面に応じて「Oh, man…」とか「Fucking great!」とかいうセリフが一番しっくりくる。｢一番しっくりくる言葉｣というのは、ボクの場合英語に限った話ではない。たとえば、何か失敗したとき「…アカン。」と言ってしまうことがある。それほど深刻でなく、自分自身に半分呆れてしまうような失敗をした時の気持ちを表現するのに、「ダメだ！」とか「失敗だー！」などという標準語では不適切だ。やはり「あかん。」じゃないといけない。あと、ほかの部署の年上の人に何かをやんわり指摘するとき、「…ですやん。」という関西弁のアクセントが口を突いて出ることがある。「○○さん、…じゃありませんか。」などと言い切ってしまうとカドが立つかもしれない場面で、「それ、…ですやん!」と言い方をすれば、相手も身構えることなく、「…まあ、そうだな。」といった譲歩の雰囲気を引き出すことができる。これらの表現は、いずれも日本語だの標準語だのには“翻訳不可能”な独特の表現であって、「その言い方」しかオプションがないからこそ、その言語のままで口を突いて出るのである。「関西弁を忘れないように」するために、わざわざ「…アカン。」とか言っているわけではもちろんない。…とはいうものの、いくら“翻訳不可能性”が理由だったとしても、「英語でブツブツ」言っている人は帰国子女を含め自分以外にあまり見掛けたことがないのは、不思議といえば不思議である。これはたぶん、ボクが、かつてサントリー会長から“クマソの地”と呼ばれた東北に生まれ育ったことと関係があると思う。長い歴史のある文化的背景を持つ関西人のような肝の座った連中や、自分のしゃべる言語こそが普遍的な言葉であるという自負を持つ首都圏の人間と違い、いったん東北の外に出ると“その土地に合わせなければ”という強迫観念につねに縛られているボクなんかは、他人のしゃべる言葉や表現を迎合的に無批判に真似しようとする傾向があるからだ。関西ナマリにせよ英語の独り言にせよ、そういう意味でしょせんは田舎モノの劣等感に由来していることは確かなようである。(終)

2006.12.19

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伊藤の秘密

さて、ひと月前の日記に書いた伊藤のことであるが、その後新たな展開があったので忘れないうちに記しておくことにする。伊藤というのはいまからほぼ150年前の1857年に生まれた日本における「元祖・通訳ガイド」で、明治時代に日本を訪れた多くの外国の著名人の通訳ガイドを務めた一平民である。歴史の教科書などに登場するような偉人でもなんでもないのだが、伊藤がどうしてその名を世界に知られているかというと、イザベラ・バードという19世紀初頭に生まれたイギリス人女性が書いてベストセラーになった明治初期の日本奥地旅行記に彼女の召使い兼通訳としてその名（Ito）が頻繁に登場するからである。晩年の伊藤　　　　　　　　　　　　バードさんこの日本奥地旅行記では、当時19歳の伊藤は道中の通訳やバード女史の身の回りの世話をするだけでなく、外国人から見て異様に見える事象の文化的背景を説明したり、バード女史が日本人から見ても立派に見えるよう振る舞い礼儀正しくなるように、ああした方がいいとかこうしない方がいいとかいったアドバイスをするなど「積極的な異文化の橋渡し」を果たしている点が読者たちの感心を買っている。ところが、この本の終盤に至って「伊藤の密かな偏見」が暴露されるのである。それは、バード女史と伊藤が当時エゾと呼ばれていた北海道に到達したとき初めて明らかになる。北海道に上陸したバード女史は、日本人に比べて体格も顔立ちも声色も西洋人に近いものがあるアイヌ人に大変な興味を示し、また日本人とは明らかに違うそのおっとりした物腰や簡素な生活様式、音楽的な言語や外国人へのニュートラルな反応などに好感を持つに到るのであるが、伊藤はというとアイヌに大変な嫌悪感を示し、本書の北海道紀行の限られたページの中だけでも再三に渡って「アイヌどもは犬なのです」などとバード女史に言い放つのである。たとえばバード女史がアイヌのその礼儀正しさなどについて賞賛するようなことを言うと、伊藤は「その礼儀は日本人が教え込んだものであって、もともとアイヌどもは野蛮な人種だったのです」とまで断定するのである。バード女史の視点からすれば、まだ大多数がチョンマゲをしていた当時(明治初期)の日本人とアイヌ人の間には何ら「文明度」に差異はないし、むしろどこへ行ってもガイジンの姿をひと目見ようと村を挙げてバード女史の元に押し寄せてくるような日本人どもに比べれば、バード女史を同類としてふつうに扱うアイヌ人の方がよほど民度が高く見えていた可能性さえある。…しかし伊藤はといえば、「アイヌ人は人間ではない」とまで断言し、あからさまな嫌悪を持って接しているのである。こんな伊藤の態度や言動に、オイラは「近代日本人の西洋コンプレックス」と表裏を成す「アジア人蔑視」の典型的とも言える原型を感じてしまう。いわば、積極的に英語を学び、日本が文化的であることを西洋人にアピールしようとする伊藤の姿はまさに「未開のアジア」の一員である事実を懸命に自己否認し「文明国」ぶりを自他ともに信じ込ませようとする「現代日本人の姿」なのである。そして“未開”性をほかのアジア人たちやアイヌ人に投影し蔑視することで自らの“未開”ぶりから目を逸らそうという日本人のセコい態度は、すでに150年も前の伊藤の頃にすでに始まっていたのである。日本出張前に「日本本土紀行」の部分を読んだときは、開国まもない日本と外国の「文化の橋渡し」として“日本人の代表”を立派に務め上げた伊藤に大いに感心したオイラであったが、出張から戻って「北海道紀行」編を読み、そんな“立派な”態度と裏表を成していた伊藤--そして現代日本人--の「西洋コンプレックス＝アジア/アイヌ人蔑視」を知るにつけ、オイラはなんとなく暗い気持ちになってしまったのであった。

2006.04.28

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伊藤その後

今日も帰宅は10時半になった。ついにパンツとシャツの替えも尽きた。仕方がないが、明日は「ランニング用サポーター」と「ランニング用Ｔシャツ」と「ランニングソックス」で出勤である。...さて、昨日の日記に書いた伊藤であるが、ゆくゆくこの謎の男が何者なのかじっくりとリサーチしようと思っていたところ、蔵書数4800冊(推定)を誇る博覧強記ならぬ雑覧弱記のドクトルといもい氏によって、あっさりとその正体が明かされてしまった。これが伊藤の肖像である。画像をクリック。ジャーン！ドクトルといもい氏に教えられたサイトによると、伊藤はファーストネームが鶴吉、1857年12月17日生のいて座である。身長まで書いてある（145センチ）。開国の前後に生まれ、ことし満90歳になるオイラの婆さんが生まれるずっと前(1913年)に死んでいる。2000年9月6日の山県新聞夕刊によると、伊藤はその後も長く元祖「通訳ガイド」として活躍し、逝去に際しては「通訳の名人」「通弁の元勲」などと称賛されたそうである。具体的に誰かは知らないが、日本を訪れた多くの外国の著名人が彼の世話になっているそうである。…そうか、伊藤はオイラの職業上の大先輩に当たるわけである。オイラが直感的にこの本の端々に登場する伊藤のことが気になったわけが判った。さいきんは「通訳者」というと帰国子女とか元留学生のような人間がやっているのが相場だが、一歩も日本から出たことがないのに、在日外国人の召使いや付き人をしながら地道に外国語を修得し、当時はマレであった外国からの訪問者が日本という国を理解するのに貢献した伊藤のようなこの時代の「通弁」「通詞」(「通訳」という言葉は現代語である)がいたことをオイラは自分のことのように誇りに思う。実際、この本によると伊藤は通訳をしたり身の回りの世話をするだけでなく、「私(バードさん)が立派な振る舞いをするようそこここで気を配っている」とか、「(バードさんが)日本人から見て礼儀正しく振舞うよう、ああした方がいいとかこうしない方がいいとかいった意見を述べる」ほか、「宿泊記録帳に毎日克明に記録し、警察や駅逓係から、滞在先の町の商業や戸数を調べては、バードさんに教える」などしていたという。単なる通訳や召使いとしてでなく、明らかに「異なる文化の積極的な橋渡し」を果たそうとしている伊藤の姿勢がこの旅行記中のさりげない記述のあちこちから見て取れるのである。ちなみにバードさんは電灯も電話もなかったこの時代の日本奥地の長旅の末、旅行記の最後で伊藤についてこのように述懐している。『とうとう今日は伊藤と別れたが、大変残念であった。彼は私に忠実に仕えてくれた。彼を通して私は、たいていの話題なら、他のいかなる外国人よりもずっと多くの情報を得ることができた。彼は、いつものように私の荷物をつめる、と言ってどうしてもきかず、私の身の回りの品物をすべてきちんと片付けてくれたのだが、彼がいないと、もうすでに私は困ってしまっている。』バードおばさんこの本は感情的な述懐を控えたほとんど学術的といってもいい旅行記なのだが、最後には(未開の野蛮な国を訪れた)西洋人にここまで言わせた伊藤がいかに「文化の橋渡し」として立派な“日本人の代表”を務めたかを知って、ひいひいひい爺さんの世代の赤の他人のことながら、オイラはなんとなくうれしくなってしまうのである。

2006.03.30

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ユニバーサルな人

今日、日本支社と米国本社との電話会議で複数の日本支社のマネージャーの発言を通訳していてつくづく思ったのは、「英語が喋れる人の日本語は英語に通訳しやすいなあ」ということであった。その理由はたぶんごく単純で、「英語を喋る人は思考形式もやはり英語式になっている」からだと思われる。そういう人の発言は、英訳する上での“原材料”がすべて日本語の中に揃っており、まさに「日本語から英語の変換」をすればそのまま通訳になるので実にラクである。それはもう、そのことだけでその人を「立派ないい人だ！」と思ってしまいそうなくらいである(笑)。これに比べて英語の喋れない人の日本語というのは大体において実に通訳しにくい。そういう人はどんなにいい人でも100%は好きになれない(笑)。外資系とは言え、私の勤務先の日本支社では電話などで米人社員と英語で意思疎通できる人は全社員の5%程度に満たないのではないか。この比率は管理職クラスになってもせいぜい10%程度にしか上がらないだろう。まことに情けない。…とはいえ、仮にこれで「英語で意思疎通できる社員」の率が25%とかになると、私のような「社内通訳・翻訳者」の職場での存在価値は低くなるし(笑)、また通訳者の存在が許されたとしてもただのバイリンガルとは違う「高等な通訳技術」を要求されかねないので、むしろこんな“情けない”環境をありがたく思うべきなのかも知れない。ところで、そんな「英語を喋れない社員の日本語」の“通訳メイワク”な特徴を挙げると、いちばん大きいのは「省略が多過ぎる」ということであろう。主語は省略する、目的語まで省略する。ひどい時には述語さえ省略する。「ソレをアアしてコウする」など、代名詞だけで表現しようとする。…私はそれを通訳する際、これら省略された主語・目的語・代名詞などなどをいちいち推察し補って訳出しないと「意味をなす英語」にならないので、英語のできる人が喋る場合の倍以上の脳力を使うことになる。本人は何とも思っていないのだろうが、通訳者にとっては本当にメイワクである。次に挙げられる特徴はといえば、英語(あるいはその他の欧州言語でもいい)を喋れない人の発言はしばしば「ボトムアップ式」である、ということである。話を最後まで聞き終わらないと、何を言おうとしているのか分からない。第一に、日本語は言語構造的に「…である。/…ではない。」という“結論”が文末に来るから、センテンスが完結するまでは、話者がこれから否定しようとしているのか肯定しようとしているのかさえ断定できない。英語ではまず文頭で「It is good.」なのか「It is NOT good.」なのかを明らかにしなければいけないので、話者がセンテンスを完結するのを待たないと通訳者は「肯定文にするか否定文にするか」の選択さえできない(笑)。一方で話者が長々とした話を終わるのを待っていたら、話者が最初の方に言ったことを忘れてしまうし、追って訳出する頃には話が先に進んでしまう。日本語と英語の間にはまずそんな先天的なジレンマがある。この「ボトムアップ」型は、言語構造だけでなく、話者の思考形式にさえ敷衍している。「賛成なのか、反対なのか」と問われている場面で、英語のような「トップダウン」形式の思考に慣れている人なら「賛成だ。なぜなら…」とまず結論を先に述べて理由を述べるであろう。米国の社員も、通訳者がそのまま訳出した英語が自然に理解できるはずだ。ところが、これが苦手な「典型的な日本人のオッサン」は、たとえば米人社員に「”Yes”か”No”か」と問われている場面で、「…日本では、アメリカと違って、このような習慣があり…、」などといった“背景説明”から入ってしまう。それを聞いているアメリカ人は、返ってくるトンチンカンな回答に「コイツ、俺の言った質問の意味が理解できなかったのか？」…とシビレを切らし、その日本人の“背景説明”をさえぎって「…いや、私が聞きたいのは…」などとまた同じ質問の説明を始めたりする。辛抱強く待っていれば最後に“結論”が待っているのに(笑)。これでは通訳も二度手間になってしまい、不要なストレスが増加してしまうわけである。私は、こんな人たちの発言を通訳しながら、その人のことを「国際的な普遍性を持った人」と「普遍性のない人」に頭の中で勝手に分類している(笑)。つまり、「通訳がラクな人」イコール「ユニバーサルな人」で、　「通訳するのがホトホト疲れる人」は「日本でしか意味をなさないローカルな人」である。「国際化の時代」とか言われ始めていい加減四半世紀くらい経つと思うが、通・翻訳者の立場から言わせてもらえば、きょうび外国語が喋れなかったとしてもせめて「翻訳・通訳が可能な表現」をできない人は“時代遅れ”“前時代の遺物”だと私は言ってしまいたい。外国からの要人を前にして、「アメリカは“米”国だ。日本の主食は“米”だ。だから我々は“米同士”で親しい仲間だ」とかいう、日本人が聞いてさえぜんぜん面白くなければ、ましてや根本的に「通訳不能」なスピーチをしてひとり悦に入っているエライ人なんて、通訳者に言わせたらとっとと死んで欲しいくらいだ(笑)。同じように、相手が同じ日本人だったとしても、部下や同僚とかに「ホラ、アレさ、アレをアッチの方でサクサクしてガッチリやっておいてよね」とか独りよがりなことを言って意思疎通を果たせると思っているような社員も、「内輪でしか意味をなさない普遍性のない人」の好例である。こういう人は間違っても通訳を必要とするような環境には関わらないでもらいたいものだ。

2006.03.23

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裏UNFCCC出張報告書

さて、今回、国連気候変動枠組条約締約国会議のイベントに会社から参加したのは「ジャガー＆毛皮」のアメリカ本社の上司ともう１人、「熱血ど根性オヤジ」の日本支社の某マネージャーであった。このオッサンは、ゴマ塩頭にメガネを掛けた、マンガにでも登場しそうな典型的な“日本人顔”をした職人カタギの元技術者で、誠実でまっすぐな善人である。このような人が「いずれ人類は滅びるのだ」とか言っている不誠実な鬼畜野郎と「地球温暖化防止」に向けて働くなどというのはまったくもって皮肉な話としか思えない。…で、このオッサンの最大の弱点は、英語力が「TOEIC 600点レベル」であることであった。いわゆる「海外旅行で必要な意思疎通がなんとかできる」レベル。国連のイベントに参加したり、欧米でこのテの仕事をするにはまだ2-300点分くらい英語運用能力が足りないのである。オイラのアメリカ本社の上司は、このオッサンの専門性とオイラの英語力が補完しあえばこのような場で通用すると思って我々を会議参加に抜擢したらしいが、とんだ見当違いであった。“TOEFLほぼ満点”レベルのオイラでも専門知識がなければ話者の英語を理解できないし、オイラがオッサンの理解の助けになれなければ彼は話者とインタラクトする機会を逸するからである。オッサンのもう１点の弱点は、“外国の文化/地理/歴史”に弱いところであった。国際会議の会場で出会う業界の人たちに「モルドバの政府機関で働いています」とか「ノースキャロライナの出身です」などと自己紹介されても、モルドバがどの辺にあるどんな国なのか、アメリカのどこにどんな州があるのかを分からなければ、もはや自己紹介の瞬間に会話が途絶えてしまうのである。たとえば業界関係者が集まるディナーに出席した際、彼は欧米人に囲まれ必死の笑顔で意思疎通を試みているようであったが、会話が成立しているようにはとても見えないのであった。相手の発言にテキトウにうなづき、その発言とは無関係に「ズィス・ステーキ、イズソー、グーッド。」とか「アイム、ソー・タイヤード、ソー・タイヤード。」とかいった中学生レベルの構文の英語を一生懸命に繰り出しているのが聞こえてくるのだが、あっという間に会話が断絶し、ひとり不機嫌になっていくのであった。しかし一方で、筒井康隆の『農協月へ行く』的な怖いもの知らずのバイタリティを発揮し、オイラがとても畏れ多くて口も利けないようなお方を無理矢理につかまえて(笑)名刺交換してきたりするのには驚かされた。ただちょっと困惑したのは、食事中のオイラの席に寄ってきて、国連の某理事会のトップの方と名刺交換をしたいから手伝え…などと怖い顔でオイラに言い始めたときであった。国連はおろか、業界内でさえ大して名前を知られていない会社の何のコネクションもない一日本人に、カタコトの英語でいきなり名刺を突きつけられて、その会社についてどんな印象を持たれるものか彼には想像が及ばないのである。だいたいその理事会の役割だってよく分かっていないクセに(笑)。幸か不幸か、その理事会トップはディナーの途中で席を立って二度と戻ってこなかったため、「名刺交換」の機会は永遠に失われたのであったが。その後の、この会議＆関連イベント参加期間中の彼の姿にはまことに痛々しいものがあった。たとえば、サイドイベントのセミナーに参加して、最初は必死になってリスニングを試みているようなのだが、彼がウンウンとうなずいているタイミングはえてして的外れなのであった。やがて、あっと言う間に英語の話について行けなくなるらしく、どのセミナーに参加してもたいてい15分もしないうちにコックリコックリと居眠りを始める彼...。もともと時差ボケがある上に、慣れない海外の環境で慣れない言語に１日中さらされているのだから、精神的な疲労が相当なものであったことは想像に難くない。彼にとって災難だったのは、それに加えて、アメリカ本社の上司からことあるごとにテーブルマナーだの欧米人に接する時の表情にまで“ダメ出し”を出され、泣き面にハチ状態になってしまったことである。まいにち畳と布団の生活をしている典型的な日本人中年に、チップの払い方とか欧米的なさりげない笑顔とかを期待する方が間違っているとは思うのだが…(笑)。とはいえ、「国際的な場で地球に貢献する仕事ができる」と張り切って鼻息荒くモントリオールに乗り込んだのに、彼はこの高度に専門的で洗練された国際社会の現実に相当打ちのめされたらしく、出張の最後の方にはすっかりおとなしくなってしまったのであった。かくして、わがアメリカ本社の上司は、「“地球温暖化ビジネス”というあらたなチャンスを活かして市場を占有してしまおう」というゴールと「オイラ＆このオッサンが立っている場所」とでは何万光年かけ離れているかを、この１週間の会議参加を終えてよーく理解してくれた様子であった。オイラ自身にとっては「もっとベンキョーしよう」というモチベーションが掻き立てられてよかったけれども、オッサンにとってもこの経験にめげずに2人の娘といっしょに英語の勉強を復活するよい機会になったらいいのになあ…と勝手に思ったオイラであった。（終）

2005.12.10

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I'm not fine, thank you!

みなさん、中学生になってはじめて英語という科目を学習することになって間もなく、英語の先生から「英語でのあいさつ」を学びませんでしたか。ぼくの中学1年次の英語の先生は竹○先生でしたが、先生はぼくらに「"How are you?"と聞かれたら、"I’m fine, thank you."と答えるのです。」と教え、それ以来毎日の授業のはじめに必ず「Good morning/afternoon, everyone. How are you?」と尋ねて、われわれ生徒たちに「Good morning/afternoon, Mr. TakeXX. I’m fine, thank you.」と合唱させるように返事をさせました。ぼくは、竹○先生からはじめて英語の授業を受けてから9年後、イギリスに滞在しアメリカに住むようになって、こんなあいさつをするバカはアメリカにもイギリスにもいないことをすぐに知りました。もちろん、アメリカ人もイギリス人も”How are you?”というあいさつはします（アメリカ人の場合は”How are you doing?”や”How’s it going?”とかのほうがポピュラーですが）。しかし、よくよく考えてみたら、このあいさつは「ご機嫌はいかがですか？」と質問してるわけですから、それに対する回答は、そのときの機嫌によってぜんぜん違うわけです。よくある返事は、”Pretty Good. (結構いいです)”や”I’m doing great.(好調です)”とかで、好調でなければ”OK.”とか”Not too bad. (悪くはないよ)”となるでしょうか。”I’m fine, thank you. And you?”なんて返事をする人はいままで会った数千人の英語圏のネイティブ中、1人か2人くらいだったと思います（その人は、日本でモルモン教を宣教しながら英語を教えていたような人だったと思います）。実は、竹○先生から英語の授業を受けていた当時から、私はこのことを疑問に思っていました。「ご機嫌いかが？」の質問への答えがどうしていつも「気分は良好です」なのか。しかし、中学1年生の私は、良好でない気分を表すためのボキャブラリーを持ち合わせていなかったので、竹○先生の指導に対する自分の異議を示すにもせいぜい「I’m NOT fine, thank you.」程度の返事しかできませんでした。竹○先生自身は、「How are you?」というれっきとした疑問文に対する返答が紋切りの「I’m fine.」になることに、英語を教える立場にありながら疑念を抱かなかったのでしょうか。「How are you?」に対する回答は、問いかけをした相手の状況に応じてありとあらゆる”How”(どんな)が可能ではありませんか。だいたい、つねに「Fine」な毎日快晴のような人間なんて、イッちまっている人以外にちょっといないと思います。アメリカにかつて5-6年住み、カナダに移住して3年経ったワタシのばあい、”How are you?”とか”How’s it going?”とか聞かれると、一度自分がどんな気分か考えた上で、”Good.”とか”Not bad.”とか、”Terrible!(ひどい気分だ)”とか、”Can’t find a word to express it. (何と表現していいか分からない気分だ)”とか、”In what sense? (それは具体的に私の何の調子に関する質問だ？)”とか、”You don’t really care how I am. (私の機嫌になんて何の関心もないクセに。)”とか、無数の回答のバリエーションであいさつを返しています。それに対し彼／彼女らも"I'm fine, too, thank you!"などと返答するバカはおらず、"I'm just trying to be sociable.(社交辞令として聞いてるだけだよーん)"とか、"I don't really want to know.(ほんとは別に知りたくはないよ)"とか率直に回答してくれます。これこそ無味乾燥な形式だけの発話ではなく、真率でストレートな人間同士のコミュニケーションというものではないでしょうか。これを読んでいる皆さんも、"How are you?"と異国人に聞かれたら、自分の気持ちを率直に表現しましょう。"How are you?"の答えが"Fine."だなんていう英語の先生の教えは大ウソですから。あるいは、『ハウアーユー？』がうまく発音できずに『フー・アー・ユー？』と訊いてしまった日本人に対しウィットをきかせて『I'm Hillary's Husband.』と答えたクリントン大統領(当時)が『I'm fine, thank you. And you?』と定型の返事をしたと思い込んで、『ミー・トゥー！』と思いっ切り返答してしまった森元首相にならい、精一杯バカを貫き通すのもある意味ステキですけどね。

2005.09.01

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職業病？

本日は複数のミーティングが同日に重なりほぼ終日会議に出っ放しであった。日ごろ日本人スタッフだけが隔離されているオフィスで日本人(＆少数の中国人)ばかりに囲まれて仕事をしているので、いきなりアメリカ人＆英語のみの環境に投げ込まれると緊張度が一気に3倍くらいになる。かつてニューヨークのアメリカの会社でアメリカ人＆英語ばかりに囲まれて仕事をしていた頃と違って、会議の最中に突然発言を求められたりしたときなどに肝心の単語が出てこなくて発言の途中でつっかえたり、英語でベラベラしゃべっているうちに本来言うべきこととちょっとズレたポイントに着地してしまったりするのはマコトに情けない。知的なニホン人を代表して会議に出席しているのに、ガイコク人まる出しでカッコ悪いよなあ。...しかし、あとになってからふと思ったのだが、英語で思うようにしゃべれなくなっている理由は、日ごろ日本人ばかりに囲まれてばかりいるからというのも確かにあるだろうが、一方で比較的長いあいだ「職業としての通訳」をやってきた影響も大きいのではないか…ということに気付いた。これはどういうことかと言うと、通訳として「“他人が”言いたいこと」ばかりを英語でしゃべるクセがついているせいで、肝心の「“自分が”言いたいこと」を英語で表現することを忘れつつある、ということである。言い換えると、すでに他人の「発言」だとか「記述」として形になっているものであればそれを「変換」するのはオテノモノだが、まだ形をなしていない「自分が漠然と感じていること」とか「自分がぼやーっと考えていること」(シニフィエ)に当てはまる器(シニフィアン)を探り当ててあらためて形にする(外国語で表現する)過程がスムーズに行かない、ということであーるソシュール。他人が(日本語で)しゃべっている、あるいは書いていることなら、カッコイイ表現を使って英語でベラベラ or スラスラ表現できるのに、自分のこととなると途端に滑舌が悪くなり筆が滞る。…もしかするとこれは、たとえばクライアントを弁護させたら右に出るものがいない腕利き弁護士が、自分自身を弁護する立場になったら途端に子供じみたヘタな言い訳しかできないとか、天才コピーライターの書く私信がいくら読んでもよく理解できなかったりとか、インテリアデザイナーの部屋がゴミダメ同然の状態だったりとか、カリスマ美容師がハゲだったりとか、そういった現象と同様の職業病の一種なのかも知れない。…ま、でも、他人の言うことも自分の言うことも同様に「我が意を得たり」「ドンピシャリ」と言いたくなるような絶妙なことばで表現できる米原万里子さんみたいな通訳・翻訳者もいるわけだから、オイラの逆転現象もまあ、単に才能や根性が足りないだけなんだろうなあ。

2005.03.09

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態度も声もデカいｳｨｽﾊﾟﾘﾝｸﾞ通訳

きょうは久々に通訳仕事を1時間ちょっと。アメリカでは滅多にまとまった通訳仕事はない。理由はカンタンで、会社の関係者はみんな英語を話すので和訳も英訳も不要だからだ。米国本社での勤務中に通訳仕事が発生するとしたら、今日の場合のように「日本人社員が日本人のために日本語でミーティングやプレゼンをする際に、日本人以外の参加スタッフに対して英語で通訳する」場合がほとんどである。ただ、この「英語を話す日本人社員の前で英語通訳をする」というので非常に厄介なのが、「オイラの喋っている英語が彼ら日本人社員の耳に入る」ことなのである。しょせん社内通訳のレベルで誤訳することはまずないので、別に彼らからの誤訳の指摘を恐れているというワケではない。そうではなくて、バイリンガルな人たちの多くは、耳に英語(あるいはその他の言語でもいいが)が入ってくると彼らの脳ミソの “英語スイッチ” が自動的に “オン” になってしまい、その会議やプレゼンで喋られている日本語に集中できなくなる人が続出するからである。通訳業界で俗に「ウィスパリング通訳」と呼ばれる通訳技法がある。会議の席などで外国人の隣に座って、誰が何を言っているのかをヒソヒソと耳元に通訳するのである。もちろんプレゼンや会議での発言は通訳をいちいち待ってくれないので一種の“同時通訳”になるのだが、オーディエンスは隣の外国人のみとなるため、ヘッドフォンやイヤホンを使う代わりに相手の「耳元にささやく」形になるわけだ。＜クラウス・ノミ先生プロモーション週間画像＞（※ 今日の日記の内容とは何も関係ありません）オイラはこの英語で「ささやく」ということが非常に不得意である。隣に座っている相手だけでなく、部屋の中に居る多くの人の耳に聞こえる声で“ウィスパリング”してしまう。全然“ウィスパー”になっていないウィスパリング通訳をしてしまうのだ。これが、オーディエンスの集中の邪魔になる程度であればまだガマンしてもらえるのだが、プレゼンターや発言者の耳に入るとなると、かなり迷惑である。例えば、彼らが話しはじめた途端にオイラは後を追って通訳を始める。それが彼らの耳に入る。すると彼はついその英語に聞き入ってしまい、ふと母国語での自分の発言の方がストップし、我に返る頃にはその話者は自分が何を話していたか忘れているのである(笑)。オイラに限らず、外国語で「ささやく」のを困難に感じる人は多いと思う。とくに英語は「腹式呼吸」の言語なので、日本語と違っておのずと音声が大きくなりがちだ。それにわれわれ外国人が英語を話す場合ハッキリと発話しないと相手が聞き取れなかったりしがちなので、クリアな発音を心掛けているうちにいつの間にか声がデカくなっている(笑)ものだ。日本でこれをやっても、オーディエンスや話者の耳に英語が入ってもそれは「ノイズ」に過ぎないので、せいぜい「あの通訳め、英語になるとイバッてデカイ声で話しやがって」とか思われる(笑)だけで済む。これがアメリカだと、イヤミにとられる上にメーワクがられることになるわけだ。きょうも、参加者の日本人のひとりが質問をしていたのをオイラが英語で通訳を始めたら、その人は(日本語での)発言の途中で突然ヒステリーを起こし、英語で「英語が耳に入ると日本語でしゃべれなくなるゥー！」とか叫び始めて参加者たちにウケていた。これがフリーランスとしての社外での通訳だったら「もう次回からアンタには通訳は頼まない」と言われてお払い箱になりかねないところが、社内通訳だと「文句があるならアンタらが英語でプレゼンすりゃええやん。」…といった大きな態度で声高な“ウィスパリング”をして許される上に、通訳の合間に「あの話者はあんなことを言っているが、ちょっと間違ってるよな」とか言った自分の意見を(話者に聞こえかねない音量で)差し挟んだりしても、それが的を得た意見である限りむしろ奨励されたりするのである。…いやあ、社内通訳って、フリーランス通訳に比べると、ホントに極楽っス。

2005.02.10

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ニンゲンの限界と向こう側

何日間眠らないでいられるか。何日間モノを喰わずにガマンできるか。摂氏何度までの灼熱の暑さに耐えられるか。どこまでボロクソに言われて笑っていられるか。どの程度の悲劇なら経験しても笑顔で生きていられるか。別にそれほど大袈裟なハナシではないのだが、昨日、7時間連続で会議通訳した。言っておくが、通訳の常識から言って、同時通訳の持続時間の限界はせいぜい10分足らず。逐次通訳でも通常はせいぜい1時間、どんなに長くなっても2時間に達することはまずない。オイラの場合、この7時間の間に数分の休憩が2回。あとは数時間ぶっ続けであった。そもそも、今回のアメリカ本社とのテレビ会議は当初3時間の予定であった。それでもたった1人で通訳するのは無茶なハナシだから、アメリカ本社側でも通訳を用意しよう、というハナシに本来はなっていた。しかしアメリカは昨日は国民の祝日(Labor Day)だったため、「○○さん(オイラの本名)、悪いけど、今回だけシンボウしてね。」というハナシになったのだった。最初の2時間は何とか耐えた。数分の休憩をはさんだ後の1時間やそこらの間も、何とか正気を保てた。しかし2時間目( 通算4時間目)あたりから頭の中がオーバーヒートし始め、やがて心の中で絶叫をし始め、さらには実際に絶叫したくなる衝動を抑えるのがツラくなってきた(笑)。もう4時間過ぎたんだし、会議もいい加減終わるハズだと自分をなだめるのだが、議論は過熱する一方で終結する様子はなかった。通訳をしながらだんだん複数の参加者のうちの誰がどの発言をいたのか混乱し始めたところで、上司がオイラに助け舟を出し、一時的に通訳を代わってくれることになった。オイラは通訳をしないまでもそのまま席にとどまり、放心状態で目を閉じたまま念のため話の流れだけは追っていた。案の定、10分もしないうちに上司も息切れし始めた。そもそも会議の参加者自身が議論に疲れ始め、言っていることが同じことの繰り返しになったり、論理が飛躍したり、明らかに間違ったことを言い始めているのだ。それをすでに脳力の限界まで追い詰められた通訳者が、言い間違えや誤った発言などにも配慮しながら、他国の言語に変換しなければいけないのだ。ハッキリ言ってもはや人間ワザではない。もはや人間ワザでない領域で仕事をするために、オイラは休憩の時、通訳の際につねに携帯している老人ボケの市販薬(Vinpocetinという)を服用することによって脳内の血流を一時的に増加させることで、このキチガイ沙汰に対応していた。いわゆる脳の「ドーピング」である。そうでもしなければ、数時間以上の通訳なんてマトモな人間には不可能である。しかし薬の効果にも限界があるもので、5時間に差し掛かる頃から、ふと気が付くと睡眠のような昏睡のようなこれまでに経験したことのない「頭の空白状態」に突如陥り始めた。参加者の発言が終わってその場がシーンとしたところでふと我に返り、自分が過去何10秒か何分かのあいだ「空白状態」にあったことに気づく、という状態である(笑)。さすがにこの頃になると会議に参加している上司もそれだけで十分に疲労コンパイし、自発的に通訳を代わってくれることもなくなっていた(笑)。仕方がないので、オイラはそのたびに正直にこの「空白状態」のことを告白し、上司に無理にその発言の通訳をしてもらうか、それがかなわない場合には話者に再度同じ発言を繰り返してもらった。それ以外にも「これまで経験したことのない現象」が起こった。例えば、転倒して頭を打ったり気絶する前にしばしば見えるアノ「お星さま」が、椅子に座って通訳をしている最中に頭の中を飛び交い始めた(笑)。これはたしか会議が始まって6時間が経過した頃であった。限界を超えたオイラの脳内では一体何が起こっていたのか(笑)。ほかに、このウルトラマラソン通訳の最中に襲われた異常な衝動は、だいだい以下のとおりである。- 放屁。いくらオイラでも、他人前でオナラがしたくなっても通常はガマンしている。しかし4時間目くらいからそんなことがもうどうでもよくなってきて、客人が隣に座っているにもかかわらず通訳をしながらブーブー屁をこいていた。- 高笑い。いつも通訳をしている最中、「バカバカしいこと言いやがって」とか「こいつ、ホントに頭ワルイよな」とか内心で思いながら通訳しているのだが、誰かがバカな発言をするたびにだんだん可笑しさを堪えるのがツラくなり、声を上げて笑いたくなった。（しかし、最後まで耐えた）- 脱衣。参加者の発言に注意を集中しているうちに、なぜか身に着けている服がだんだん鬱陶しくなってきて、自らの着衣を剥ぎ取って裸になってしまいたくなった。しかし、これも2回くらい頭の中で想像しただけで、何とか抑えることができた。- 自暴自棄。もう限界だ、これ以上通訳をやれって言われたってもうどう考えてもムリだ。オイラ以外に代人がいないのは重々承知しているし、オイラが席を立ったら会議が成立しないのは分かっている。でも、もういい加減ムリだ。オイラをクビにするならクビにしやがれ、もう限界だ、もうムリだ…などと啖呵を切りながら突然席を立って会議室から出て行くことを5回くらい想像し、4回目くらいの時はほんとに席を立つ寸前まで行った(笑)。今日も米国本社とのTV会議のために6時半出社であった。客人のいない会議だったのでもう通訳をする必要はなかったのだが、気がつくとブツブツ言いながらノートに「メモとり」を始めていた(笑)。あるいはたぶん、オイラが発狂し、真昼間の新宿のオフィスビル街をすっ裸で高笑いしながら駆けていくところを警察にタイホされるのもそう遠くないのかも知れない。あるいは、過労で突然死する方が先か(笑)。

2004.09.08

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バカを通訳する

先日会社である英語の文書の和訳を依頼された。なにやら試験問題の回答らしいのだが、これがメチャメチャな英語である。とてもネイティブが書いたとは思えないような文法を無視した教養のない文章、それに稚拙な表現。スペルもあちこちで間違っている。しかも、肝心の何を言いたいかがさっぱり分からない。文才のないアメリカ人社員の書いた英文の翻訳には馴れているが、ここまでヒドい英文ははじめて見た。途中まで翻訳しかけたところで頭がどうにかなりそうになったので中断し、依頼元に電話をした。いったい何なのだ、この英文は。ぜんぜん意味が分からない。何を言おうとしているのか教えて欲しい…とオイラがまくし立てたところ、彼も「いや、僕もこれは意味が分からない。」などという。事情を聞いたところ、この英文は、ある講習を受けた某アメリカ人社員の試験問題の回答をそのまま書き起こしたものだという。どうやら、このような「ナマの回答」をさまざま講師に採点させてみて、同じ採点基準に従えばどの講師も同じような評価点を出すかどうかを調査するための翻訳らしい。…しかし、いくら何でも原文の「ワケの分からなさ」まで訳出するのはムリだ(笑)。これはちょうど、ほとんど出席したこともない科目の試験をロクに勉強もせずに受験した四流大学の学生が、たとえば「金融機関への公的資金の注入について説明しなさい」などという問題に対し、苦し紛れに「金隔機間は銀行などが大表的であり、銀行は世界中にあるものであって、日本にも数多く在存するものである。例えば、公的貸金は私的貸金と偉うので、公的なものであると言える。したがって、私的ではないため、注人する場合にも公的なものか私的なものかの偉いを我々は配虜していきたい。しかも数が多い場合には、この偉いは重用かつ不加決であろう。」などという誤字だらけのテキトウな言葉をもっともらしく羅列した回答を翻訳させられるようなものではないか。これに類似した例としては(実際にあった話だが)、日本語と外国語の違いに関する教養や想像力の欠いたある農協幹部が、アメリカからの来賓に対するスピーチで「アメリカは米国、わが県は米どころ。お互い“米”つながりということで、親交を深めていきましょう」などというしょうもない駄ジャレを得意になって言ったのを同時通訳させられるようなケースが挙げられる。駄文にもまして、駄ジャレというのはたしかに通訳・翻訳者の大敵のひとつである。しかし、プロの世界には、同じプロが聞いてアッと驚くような「駄ジャレの名訳」をしてしまう人もいる。例えば、コンピュータのCPUメーカー、インテル社の英語のコピーは「Intel Inside」である。つまり、「このコンピュータの中にはインテルのCPUが組み込まれている」という意味で、インテルの「In」とインサイドの「In」が音韻を踏んでいる。オイラが日本のインテルのCMを見て感心したのは、この「Intel Inside」を「インテル、入っテル」と訳していたことである。英語の「In」の代わりに「テル」で韻を踏まし、しかもクドくないスマートな日本語にしてしまうなんて、なかなか思いつかないことだ。きっと真のプロであれば、このように駄ジャレでさえも“訳”す能力がなければいけないのかもしれない。そして、駄文は駄文らしく、高尚な文は高尚に翻訳すのも能力のうちなのだろう。ただ、ひとつ困るのは、「原文のレベルに合わせて訳した」文を読む人に、訳者の知性・教養が疑われる危険性があることだ。先の例で言えば、原文で”financial institution”という単語が”finantialle institution”ミススペルされているのを日本の訳文で表現するとすれば、「金隔機関」とでも訳すほかない。あるいは、先の農協幹部が「アメリカのブレア大統領はイラン戦争でたいへんだね。」とか言うのをそのまま訳した場合、この農協幹部ではなく通訳者がバカだと思われる危険性がある。結論としては、翻訳するなら格調の高い整然とした文を書く人の文章を訳したいし、通訳するなら分かりやすくて気の利いた教養のある人のスピーチを通訳したいものだ、ということか。…しかし、それがそうもいかないのが仕事というもので…。

2004.05.25

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異常な顔の通訳

大学時代、自分が所属していた美術サークルに、知人に対し「死ね。」とか「バカ。」とかへーキで言う、極めて率直だが極めて失礼な後輩がいた。オイラは入学して間もないコイツに「奇形っぽい顔をしている」と言われたことがある。（ちなみにコイツは今では出世して、ある分野の専門家としてメディアに顔を出すようになっているのだが。）オイラは、もはや中年にもなり、自分の外見とはとっくの昔に“折り合い”をつけているつもりではあるのだが、今でもときおり自分の特殊な顔のせいで悩むことがある(参考)。オイラの本業は通訳・翻訳である。...で、通訳をしている時のオイラの顔はまさに「異常者」のそれであるらしい。今週オイラは、米国本社会長の2泊3日の日本訪問に際し、同行通訳を仰せつかった。訪日２日目、会長に対する某新聞社の取材が終わった後、取材に同席していた日本法人の社長が真剣な顔でオイラに言った。「別に通訳自体には問題なかったけど、あの顔は止めた方がいい。あなたのことを知らない人が見たら、あれはゼッタイ“変な人”だと思うだろう。」じつは、昨年の会長訪日の際にも同行通訳を務めたのだが、オイラはそれ以来１年間通訳らしい通訳をしたことがなかった。おかげで、通訳に必要とされる“瞬発力”が完全に衰えていた。瞬間的に頭に浮かばなければいけないハズの「訳語」がゼンゼン出てこないのであった。お客様との会合の席、数百人の社員を前にしてのスピーチ　…会長の喋る英語にせよ、お客様の日本語にせよ、言っている内容は理解しているのにも関わらず、頭の中で訳そうとしても単語が出てこない。…こんなとき、必死で「対訳」を探すオイラの顔は苦痛に歪む。苦痛に歪みながらも、自分が書き取ったメモを見ながら、いちおう喋らねばならない。頭の中で「ダメだー、単語が浮かばない！」とつぶやくオイラの顔の半分は醜く引きつるが、もう半分は真剣に目を開いて手書きのメモを追っている。しかし、相手がきちんと聞き取れるように口はふつうに動かしている。…ひとりの人間の顔が、「焦って必死な顔」と「集中した真剣な顔」と「真面目で冷静な顔」を同時に表現しているのである。しかも地顔が「奇形」だ。…たしかにこれは尋常な顔ではない。社長に「変な人の顔」と言われたその翌日、日本法人の重役陣と会長との会食の席で際、オイラは極力「ふつうの顔」で通訳を試みることにした。最初のうちは何とか訳を喋っていた。しかし、そのうち集中力が切れてくる。…通常であればこのあたりで顔が苦悶に歪み始めるところである。しかしオイラはグッとこらえて「平静な顔」を保った。…すると今度は「表情」を意識しすぎて、カンジンの訳に気が回らない。すぐに頭が真っ白になって、オイラの口からは言葉が途絶えた。…そもそも、通訳をしている時の通訳者の心理状態というのは一種の異常心理状態であると思う。頭の中を「複数の話者(通常は２人)」と「自分自身」の「一人三役」に使い分けのだから、当たり前である。この「一人三役」のうち、脳の負担を減らすために唯一「滅却」できるのが「自分」である。つまり、「自意識」という領域を脳味噌というメモリから消去すれば通訳はラクになるのだが、「複数の話者」の意識に加え「自意識」も稼動させた状態になると、CPUは容易に焼き切れてしまうのであろう。「異常者の顔の通訳」じゃ、仮に会社を辞めてフリーランス通訳になっても仕事が来ないだろうなあ(笑)。…ま、仕事の最中に苦悶しないで済むよう、日々地道に通訳の練習を積めばいいんだろうけどさ。

2004.03.12

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怪獣の胃に穴があくのだ

東京勤務時代の上司のひとりが、胃に穴が開いたとかで自宅療養している。昨日の夜(日本の昼)自宅から東京支店に電話してみたらおとといからずっと欠勤だというので、事情を聞いてみたら検査で胃に穴が見つかったという話だった。オイラと同じく東北出身の彼は、ソフトな物腰で一見虚弱そうな外見ながら、体育会系の営業連中からも一目も二目も置かれるくらいの心身両面のタフさを兼ね備えており、オイラはひそかに尊敬していたのであった。年末にかけてのこのシーズンに、米国本社やら営業サイドやら人事やら社長やら、家に帰れば家族や親族やら、四方八方から難題に追いまくられ、胃にきちゃったのね。オイラ自身もその胃痛の数パーセントに寄与している可能性があるので、ちょっと申し訳なく思ってしまう。実は、オイラも東京勤務時代、定期健診の結果、胃に穴が開きかけていることを指摘され、一時クスリを飲んでいたことがあった。…いや、オイラは当時ヒラの翻訳・通訳社員であり、出張通訳の連続が体力的にキツいことはあっても、仕事の内容はまあ、ラクな方と言っても過言ではなかった。だから、検診で胃のことを指摘されたときは、正直、驚いた。…しかし、思い当たるフシはあった。それは、職務上のストレスではなく、同僚のイヂメである。ご想像のとおり、翻訳・通訳の世界というのは、女性が9割がたを占める世界である。翻訳者は比較的男性も多いが、通訳になると男性はメッタにお目にかからない。オイラの会社の翻訳・通訳の部署も例外ではなかった。数名の先輩社員はみな独身女性。うち2人はオイラより1-2歳若い(といっても30代)人たちだった。この2人がイジワルな連中だった。まあ、向こうとしては、女性ばかりの職場に場違いなオッサンが入社してきて、しかもソイツが日本的な社会人の感覚からちょっと逸脱しているヤツだったりして、鬱陶しく感じたのは分からないでもない。また、オイラもそれらのムズカしい年頃の独身女性に気を使って、丁寧語で下手(したて)に出て接していたのも失敗だったのだろう。でもサ、入社して数ヵ月もすると、オイラが朝出社して彼女たちに笑顔で「おはようございます。」などとあいさつすると、「その笑顔、朝っぱらから鬱陶しい！」とか言われるんだぞ(笑)。また、オイラは人より早めに出社して自発的に朝のコーヒーを作る役割を買っていたのだが、そのコーヒーが切れたりすると、空のポットを差し出されて、「オイ、怪獣。コーヒー切れたんだけど。」とか言われるのだ。…そうだ、思い出した。オイラはコイツらから名前で呼ばれず、顔がウルトラマンとかに出てくる怪獣に似ていることから、「怪獣」と呼ばれていたのだ(笑)。しかしオイラはコんな扱いを受けても、「これはオイラがこの年齢になるまで日本社会の下積みを経ずに、アメリカでのうのうと暮らしてきたことに対する報いなのだ。」とか言い聞かせて、笑顔で耐えていたのだった。また、自尊心から、「そんな扱いなんか何とも思っていないのだ」と自分に言い聞かせてもいた。その結果が、“胃の穴”だったのである。…さて、オイラは医者からこの検査結果を聞かされた後、胃の穴のことをさっそくこのイジワルな同僚たちに報告した。そうすれば、サスガの彼女たちも多少は同情の念がめばえ、自分たちの日頃の言動や態度を反省するのではないか、という期待があったのである。…しかし、オイラの考えは甘かった。彼女は言った。「怪獣、あんたそれ、単に食べ過ぎなんじゃないの(笑)？」

2003.12.27

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英語の上手い有名人

ラストサムライの渡辺謙がアカデミー賞にノミネートされたそうやね。オイラはラストサムライを観ていないのだが、楽天広場の書き込みを見ると、「渡辺謙の英語が上手かった」というコメントがやたら多いな。そういえば昔、松田優作の遺作となった「ブラックレイン」に高倉健さんが出た時も、「健さんの英語がうまかった」という評判が多かったよな。ケン・コスギといい高倉健といい、「ケン」という名前は外国人にも覚えてもらえやすくてイイよな。俳優ってのは、きっともともと語学の素質があると思う。なぜなら、言語というのは、母国語であれ外国語であれ、他人のしゃべることばを真似て学習するものであり、俳優というのは「他人になり切る」プロだからだ。「他人(役柄)」のアクセントとか微妙なイントネーションとかまですっかりマスターして、短期間で自分のものにしてしまうようなことを日常的にしているわけで、それをすっかり外国語の習得に応用できるわけだ。日本人俳優の中では、『Snow Falling on Ceders（邦題は「ヒマラヤ杉に降る雪」）』の工藤夕貴の英語は上手かったなあ。もし工藤夕貴のことを何も知らずに観たら、日系米人女優だと思ったことだろう、オイラも。工藤夕貴本人は、発音指導のプロから微妙なアクセントの違いまで手取り足取りの指導を受けたからだとは言ってたけど。日本人って、とくに男は、外国語が苦手なイメージがある。政治家がいい例だ。たとえばヨソの国の首相とか大統領は、たいてい英語を含む外国語を何ヶ国語か話せるのが通例だよな。あの「アンチ・アメリカ(＆イギリス)」のイメージの強いフランスのシラク大統領だって、実は（あえて喋らないが）英語がペラペラだったりするんだゾ。一方日本の首相はホントにお粗末な話しか聞かない。有名なのが、日本の首相として、知能指数の低さでブッシュの向こうを張るであろう、森・元首相だ。何かの機会に、当時のクリントン大統領にあいさつしようとして、How are you?と言ったつもりで「フー・アー・ユー？」と尋ねてしまい、それに対してクリントンが冗談で「I’m Hillary’s husband.(私はヒラリーの夫です)」と切り返したら、どうせクリントンが「I’m fine， thank you. And you?」と常套句で返してくれたものと信じていた森は、思いっきり「Me， too!」と返した、という冗談のような話がある。…でも、こんな日本の政治家にも、「実はペラペラです」という人が何人かいるよな。有名なところでは、この前引退しちゃった宮沢喜一。アメリカの政治家と電話で差しでマトモな議論が出来るのは、日本じゃあこの人だけちゃうか、という話があった。どこかの国際会議で発言している宮沢氏の様子をTVで見たことがあるが、ソンジョそこらの日本人留学生なんかより、5倍くらい立派な英語だったなあ。あと、これはオイラがむかし通っていた通訳学校の先生が言ってたのだが、加藤紘一の英語はスゴイらしい。プロの通訳者が驚くくらいの流暢かつ高度な英語なのだそうだ。ダテにハーバード大学の修士を卒業してないんだよなあ（ダテに(お情けで)卒業している政治家や官僚はいるけどさ）。東北出身の実直で有能な政治家だったのに、この人も秘書の失態の責任を取って引退しちゃったんだっけか？もったいない話だよなあ。

2003.12.22

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