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カテゴリ:平和
ロシアによる侵略から1年 ウクライナ情勢の行方は 同志社大学 村田晃嗣教授に聞く むらた・こうじ 1964年生まれ。国際社会学者。同志社大学法学部教授。米国ジョージ・ワシントン大学留学。神戸大学大学院法科研究科博士課程修了。2005年より現職。同志社大学法学部長、法学研究科長、学長など歴任。
現 状 ――ウクライナの現状は。 村田晃嗣教授●ロシア、ウクライナ両軍の死傷者が10万人を超えているとの報道もあるが、なお戦況は膠着状態にある。要因はプーチン大統領の判断ミスだ。当初はウクライナの首都キーウを短時間で攻め落とし、ウクライナを併合できると考えていたが、西側諸国の支援を受けたウクライナの徹底抗戦に遭い、いつ戦争が終わるか見通せない長期戦の様相を呈している。 一方で、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州では、ロシアによる占領が既成事実化している。ウクライナは巻き返そうとするが、なかなか取り戻せないのが現状だ。
――そこまでしてウクライナを攻撃する理由は。 村田●ロシアからすれば、同じ文化圏のウクライナが徐々に西側に傾斜していくことへの不安や不満があるだろう。 また、ロシアの国力が相対的に低下している実情も理由の一つだ。1970年時点で旧ソ連のGDP(国内総生産)は米国の4割ほどあったが、今では、わずか7%、米中に比べてロシアの弱体化が進んでいる。そこで、隣国のウクライナを支配しることで大国としての最低限度の地位を確保したいという思惑もあるのだろう。
――ロシアへの経済制裁の成果は。 村田●先進国は侵略直後からロシアに制裁を課し、世界銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの銀行を排除したり、ロシア政府高官の在外資産を凍結するなど、さまざまな手段を講じてきた。 経済制裁は基本的に即効性が低い。まして、ロシアのように天然資源が豊富で、外資が得られやすい国には、すぐには効かない。ただ、経済制裁によってロシア経済が弱体化していることは間違いない。例えば、電子機器などに欠かせない半導体を長期間、輸入ができない状況が続けば、やがて国民生活や社会インフラに重大な影響が生じる。 また、経済制裁はなによりも、今回のような侵略を許さないという意思表示を明確にするという意味で大事だ。
休戦の条件、合意は困難 安全保障の枠組み構築が課題
展 望 ――今後の展開をどう見るか。 村田●今年中に戦争が終わる可能性は低いのではないか。今後もロシアは犠牲もいとわず攻め続ける考えで、ウクライナも祖国防衛のため、徹底的に抗戦することから、戦闘は長引く。 仮にウクライナが頭部を奪還し、休戦協定を結んでも、その領土をどう保全・維持していくかという別の問題が生じる。ロシアにとって休戦協定は、新たな兵力を蓄えるための時間稼ぎかもしれない。休戦後、ウクライナの安全を保障する枠組みを確立しなければ、ロシアの軍事的脅威は去らず、ウクライナも戦いをやめないのではないか。
――休戦に至るまでの道筋は。 村田●可能性として考えられるのは、両国とのつながりの深いトルコや、経済制裁に加わっていないインドなど第三国による仲介だが、両国の主張に折り合いをつけるのは難しい。侵略以前の状態まで撤退することでロシアが妥協するのか。もしくは、東部のロシア占領をウクライナが認めるのか。 2014年のロシアによるクリミア併合にまでさかのぼり、クリミアからロシア撤退を求めても、ロシアは絶対に受け入れない。 競艇がまとまらなければ、軍事境界線の北緯38度線付近で一進一退を繰り広げた朝鮮戦争に近い状態になりかねない。
――ロシアの政権内部から崩れていく可能性はあるか。 村田●クーデターのようなものが起こってプーチン大統領が排除されたとしても、千政権が和平に向かうと考えるのは、希望的観測に満ちた見方だ。というのも、すでにロシア政権内で、〝ハト派〟は排除されている。ただ、戦争が長期化して庶民の生活が苦しくなり、不平不満が社会に充満した際、プーチン大統領がどう判断するか。一時的な休戦を選び、時間稼ぎをするかもしれない。
侵略非難の世論形成を 日本主導で核軍縮の機運高めよ
国際社会の役割 ――求められる国際社会の対応は。 村田●国際社会、特に先進国が足並みを乱さず、経済制裁を続けていくことだ。多くの途上国は制裁に加わっていない。途上国の中には程度の差こそあれ、ロシアのような専制主義的な国も多いからだ。 米国は、民主主義国家対専制主義国家と二分法で議論しがちで、それによって専制主義的な途上国の多くは、ロシアへの対応で腰が引けてしまう。日本は、米国や欧州と民主主義の価値を共有する一方、アジアの一員として、民主的でない国々と橋渡し役を積極的に果たすことが大事だ。 また、国連総会決議といった形で、ロシアによるウクライナ侵略は決して許されないという国際世論を形成していくことが重要だ。今年から国連安全保障理事会の非常任理事国を務める日本は、そのための役割を果たしていく必要がある。
――核兵器を巡る対応も焦点だが。 村田●その点、今年、唯一の戦争被爆国である日本が先進7カ国(G7)議長国を突もめる意義は大きい。ロシアが軍事目標を攻撃するための「戦術核」を使用する恐れがある那賀、5月に広島で開かれるG7サミット(先進7カ国首脳会議)では、核軍縮や核不拡散に向けて意味のある声明を出し、核軍縮への世論、機運を高めていくべきだ。さらに、バイデン米大統領が長崎も訪問することがあれば、より強いアピールになる。
――将来的に日本はロシアと、どう向き合うべきか。 村田●今は日ロ間で交流を進める段階ではないが、ロシアは重要な隣国、大国であることは変わらず、対話を完全に閉ざすのは好ましくない。例えば、休戦になった時、自治体レベルで交流を再開することは、国同士の外交の受容な補助になり得る。自治体や民間団体での交流を温めておき、機が生じれば再び動き出せるようにする。制裁一辺倒ではなく、そうした環境を整えていくことも大事だ。
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May 9, 2024 05:20:38 AM
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