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August 18, 2024
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カテゴリ:平和

地球の新しい担い手に着目

新著『グローバル政治都市』を巡って

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院

ケント・カルダー教授

 

現在、世界人口の約55%が都市に住んでおり、2050年には70%に達すると見込まれています。このほど、ジョブズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院教授のケント・カルダー博士による「都市」の役を理に光を当てた研究書の日本語版『グローバル政治都市 アクターとアリーナ——国際関係における影響力』(訳者・中山雅司創価大学教授、潮出版社)が刊行されました。同書の内容を巡り、インタビューしました。

(聞き手=樹下智記者)

 

アクター(行為主体)とアリーナ(政治的戦場)

——今年5月、広島でG7サミット(主要7カ国首脳会議)が行われました。博士は新著『グローバル政治都市』でのサミット開催の重要性を指摘しています。

 

ケント・カルダー教授 今回のG7広島サミットは、国際社会に非常に大きなインパクトを与えました。米国でも大きく報道され、ウクライナのゼレンスキー大統領が急きょ出席し、招待国であるインドのモディ首相らと会見したことなど、ワシントンDCでも高い関心を集めました。核兵器の使用のリスクがかつてないほど高まる今、各国首脳が原爆資料館を訪れ、記念碑の前で祈りをささげた姿が正解中で報じられたのは、とりわけ意義深いものでした。

都市には、アクター(行為主体)とアリーナ(政治的バトルフィールド〈戦場〉)という二つの側面があります。広島はこれまで、広島市長の呼びかけで平和首長会議(約8200都市が加盟)を発足させたり、国連をはじめ世界各地で被爆者証言を発信したりするなど、政策決定に景況を及ぼすアクターとして積極的な役割を果たしてきました。

広島はG7サミットのアリーナとしての役割を担ったわけですが、昨今の国際情勢に鑑みて、開催地としてこれ以上象徴的な場所はなかったでしょう。このように、歴史的なイベント開催地になると、国際社会のアジェンダ(議題)を明確にする重要なアリーナとして、都市の影響力は増しているのです。

 

——米外交史『フォーリング・アフェアーズ』は博士の新著の書評を掲載。国家が対処できない課題に「都市」が取り組むなかで、国際社会で影響力を増している姿を描き出していると評しました。米国きっての知日派である博士が、なぜ「都市」の研究を始めたのですか。

 

カルダー トランプ前米大統領は2017年6月、20年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を宣言しました(米政府は、バイデン政権は始まった直後の212月に復帰)。

この時、多くの州知事や市長が、大統領の決定に異を唱え、気候変動対策のために立ち上がりました。温室効果ガス排出量の上限については連邦政府よりも、州や市などの地方政府が独自でもうけているケースが多く、温室効果ガスの大部分が都市部から排出されている点を考えると、地方政府が行動を起こしたことには大きな意味がありました。

この政府の動きとは別の気候変動対策を主導した一人が、ジョンズ・ホプキンス大学の卒業生でもあるマイケル・ブルームバーク元ニューヨーク市長でした。ブルームバーク氏は市長在任中も、世界の主要96都市が参加する「C40都市気候リーダーシップグループ」(現在は同氏が理事長)の構築の貢献をするなど、国家の枠組み越えて知氏が力を発揮できることを示してきました。

こうした、国家では解決できない課題に挑むリーダーたちを目の当たりにし、私は、「都市」が果たす役割は決して看過してはならないという思いに至りました。環境問題以外にも、交通、公衆衛生、治安など、国家ではなく都市がリーダーシップを発揮できる分野はたくさんあります。特に冷戦終結後、地政学的な課題ではなく、「人間の安全保障」にもっと焦点が当たるようになってから、都市の存在感はさらに増してきました。

 

 

 

四つの機能的側面

——新著では、「世界規模で最も政治的に影響がある」と考えられる年を比較・検証されていますね。

 

カルダー ええ。核都市が、以下の四つの機能的側面を通して、国際政治に影響を与えていると分析しました。

一つ目の側面は、ガバナンス(統治)に的確な政策を立案し、さらに政策を実質内容に変換していく「権力の半影」です。

「半影」とは、月の周りの、ぼんやりとした境界線のこと。シンクタンクやロビー活動、国際NGO(非政府組織)やマスコミなど、政治権力に影響を及ぼす政策助言複合体のことを指します。ワシントンDCという都市は、一国の首都機能を超えて、この「権力の半影」によって国際政治経済に大きな影響を与えています。

二つ目の側面は、政策アジェンダに有用でグローバルなアドバイスや情報を拡大させる「政治フォーラム」です。

まさしく今回、広島がG7サミットの開催地となったような、都市の「アリーナ」としての役割を意味します。数多くの国際会議が開催されるスイスのジュネーブ、アジア安全保障会議(シャングリア・ダイアローグ)が行われる都市国家シンガポールは、「政治フォーラム」の舞台として存在感を示す代表例です。

 

 

——世界経済フォーラムの年次総会が開かれる、スイスのダボスもその例ですね。

 

カルタ― その通りです。三つ目の側面は、エリートたちの政策課題に草の根レベルからチャレンジする「市民運動」です。

都市は人々が集まる場所であり、その人々による草の根レベルであり、その人々による草の根レベルの運動が、政策課題の決定に強く関与し、それが世界に広がることもあります。例えば、米西海岸のサンフランシスコは、その活発な市民運動によって、古くはベトナム戦争の反戦運動から、最近ではプラスティック製レジ袋の提供禁止など、社会政策と環境世勇に抜きん出た模範的な地域となってきました。国連の「アースデー」(地球の日)も、サンフランシスコから始まりました。

四つ目の側面は、政策の選択肢を実際の政策に変え、実践する「市民リーダー」の存在です。

ブルームバーク氏をはじめとする歴代のニューヨーク市長、後に英国の首相となったボリス・ジョンソン氏ら歴代のロンドン市長など、地方都市のリーダーが国際政治で重要な役割を果たすようになりました。東京都の歴代知事も例外ではありません。

 

 

 

人間の安全保障に寄与

——その都市が最も影響力にある「グローバル政治都市」と言えるでしょうか。

 

カルダー それぞれの都市に特有の影響力がありますが、都市としての存在感が際立っているのは、ロンドンでしょう。100年余の前まで、世界で最も強力な大英帝国の首都でした。大英帝国が衰退し、英国の国力が下がっていっても、ロンドンの影響力はむしろ増し続けました。

ロンドンは、洗練された金融機関が集まるユーロ市場の中心であり、英国を外国為替取引の世界最大市場へと押し上げています。主要な国際機関、国際NGO、世界トップクラスのシンクタンクや大学の研究期間など、強力な「権力の半影」が国際情勢に影響を与えています。英国の国際社会における政治力・経済力が低下したとしても、グローバル政治都市であるロンドンは、ますます重要な役割を果たしていくでしょう。

 

 

——博士は、新著を「歴史的なグローバル政治都市の新時代が始まった」と結んでいます。

 

カルダー 当然、国家の役割がなくなるわけではありません。一方、国家だけでは対応できない問題があるのも事実です。環境、交通、公衆衛生、治安といった「人間の安全保障」に関する課題において、都市は政策形成ファクターとして重要な役割を果たせます。

官僚制の硬直性、グローバル化の流れに反したポピュリズム(大衆迎合主義)の高まり、世界経済の直面する資源制約から見ても、国際社会が抱える諸課題を解決するには、国家の意思や能力だけでは不十分です。その国家では不足するところを、地方政府、それを取り巻く「権力の半影」、草の根の市民活動などを補うのが、グローバル政治都市が台頭する「新時代」です。

ウクライナ戦争や、アジアにおける安全保障上の緊張の高まりなど、国家間の問題の解決も極めて重要です。と同時に、「人間の安全保障」に関する諸課題にも目を向けなければ、世界の安定は保てません。

都市こそが、そうした問題景決のカギを握る存在です。その優良事例の共有など都市間の交流が進めば、国家間の緊張緩和にも寄与することは間違いないでしょう。

 

取材メモ

カルダー博士は「グローバル政治都市が台頭する新時代では、NGOの果たす役割は極めて重要」と。530日に創価学会本部を訪れ、原田会長と会談した際も、平和と持続可能な未来のため活動するSGIに期待を寄せた。

 

 

KentE.Calder 1948年、米国生まれ。ハーバード大学で元駐日米国大使のエドウィン・O.ライシャワー教授の指導を受け、政治学博士号を取得。プリンストン大学日米研究所所長、駐日米国大使の特別補佐官等を歴任し、現在は、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院教授。同大学副学長、学長代行も務めた。著書に『スーパー大陸 ユーラシアの統合知性学』(潮出版社)など多数。

 

 

 

【オピニオン】聖教新聞2023.6.27






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Last updated  August 18, 2024 05:46:14 AM
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