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カテゴリ:文化
ヒトの老後が長いのはなぜか? 東京大学定量生命科学研究所所長 小林 武彦 全ての生物に共通でない「老い」 僭越ながら、「生物学的」見地からシニアの方を励ます本を書かせていただきました。 お年を召して仕事も一段落し、気力・体力が少し下がったなと「老い」を感じられておられる方もおられるでしょう。そもそもなぜ「老い」があるのでしょうか。生物学で何かわからないことがあると、その進化について考えます。なぜなら生物は進化によって作られたので、その大元を辿れば何かわかるのではないかという発想です。 進化とは「変化と選択」が繰り返すプログラムのようなものです。変化は多様性を作り、選択はその環境に適応したものが生き残り、他は死ぬことです。言い換えれば、死は進化の原動力であり、死ぬものがけが進化できて現在も地球上に存在しているのです。詳しくは前作『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)をご覧くださると幸いです。 それでは「老い」はどうでしょうか。実は老いは死と違いすべての生物に共通ではありません。 たとえば、チンパンジーはヒトとゲノム(遺伝子情報)が99%同じですが、野生ではヒトのように老いた個体はありません。その理由を考える前に少し老いの定義について説明させてください。ヒト以外の動物は「最近、近くのものが見えにくいんだよなー」など老いを信仰できないので、便宜上メスの閉経を老いの目安とします。閉経前、つまり子供が産める間は老いていないとみなします。ヒトの女性の場合は50歳ごろに閉経を迎えます。実際にはこの年齢で老いを感じている方はそれほど多くはないと思いますが、他の動物と比べるためにここでは閉経を基準にさせていただきます。
文明発展にシニアの必要性
興味深いことに野生のチンパンジーは閉経後すぐに死んでしまいます。つまり生涯子供を産むことができ、老いないのです。さらに他の動物を見てみると、なんとヒト以外の陸上の哺乳動物はチンパンジーのように老いずに閉経後速やかに死んでしまうことが分かりました。つまり老いるのはヒトだけです。チンパンジーの寿命は大体40-50年で閉経までの期間はヒトとあまり変わりません。これにヒトの場合約30-40年の「老後」が加わり、その分寿命が長くなっているわけです。 そこで本題です。ではなぜヒトにだけに長い老後ができたのでしょうか。一番の近縁種であるチンパンジーと分岐した後に、老後ができたことになります。いくつかの説がありますが私の考えとしては、人の共同体が大きくなり文明が発展するにつれ、知識や経験豊富でしかも集団のまとめ役となる「シニア(年長者)」の必要性が高まったからだと思っています。つまりシニアには集団内での重要な役割があり、積極的に「シニア」のいる集団が選択されて寿命が延びたのです。 さて現在はどうでしょうか。せっかくのシニアの活躍で得た長い老後が、有意義に使われているでしょうか? 将来老いる人、また現在すでに老いを感じられている人にはぜひ読んでいただきたい本である。 (こばやし・たけひこ)
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Last updated
September 26, 2024 05:52:52 AM
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