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カテゴリ:文化
「羅生門」教科書で触れる文学 日本近代文学館事務局 宮川 朔 芥川の代表作として定番教材に 教科書で多くの方に目に触れてきた芥川龍之介「羅生門」には、いくつもの草稿類が存在することをご存じだろうか。 日本近代文学館の展示では、近代文学の専門家を編集委員としてお招きし、最新の研究動向を交え構成している。夏季企画展では、「教科書のなかの文学/教室のそとの文学」と題したシリーズで、高校教科書の定番教材となっている芥川龍之介「羅生門」、中島敦「山月記」、森鴎外「舞姫」、夏目漱石「こころ」の四作品を順番に取り上げている。今年度は二〇一七年度に続き「羅生門」をテーマに開催中だ。芥川の研究者である庄司達也先生を編集委員としてお迎えし、現役の高校生から以前教科書でこの作品に触れた方まで、一つの作品をじっくり見直す時間を共有できる展示となった。全体は二部構成となっており、第二部は紅野健介先生の編集の下、「羅生門」搭乗以前の小説の歴史を振り返る展示となっている。 誕生の背景にはいくつもの苦労 山梨県立文学館所蔵の「羅生門」関連ノートなどの資料からは、見事な文章と筋の展開で読書に鮮烈な印象を残すこの短編が、一気呵成に書き上げられたものではなく、一定の準備段階を経て完成したことがわかる。のちに「下人」とされる主要な登場人物の名前を、「交野」という大阪の摂津あたりの地名を関していくつも試すなど、さまざまに試行錯誤を重ねてきた小説なのだ。雑誌に発表後、作品に対する批評はわずかで、友人たちからも積極的に評価されることはなかったが、芥川は第一短編集の表題を『羅生門』とし、単行本収録時には都度手を入れて、表現を見直し続けた。そして生まれたのが、現在私たちが親しんでいる「下人の行方は、誰も知らない。」という末尾の一文だった。 芥川龍之介という広く東西の芸術文化に通じ、それらを珠玉の短編軍に消化していった「天才」の代名詞である人物との見方があるが、代表作「羅生門」の誕生の背景には、いくつもの苦労があったことが窺える。芥川は「羅生門」と同時期に書いた「鼻」を敬愛する夏目漱石に激賞され、作家として幸福なスタートを切ることになるが、彼が「羅生門」にかけた時間を知ると、この作品が現代の私たちにとって大切な表現を選び取るための青春の時間を持った。一人の人間であることに思いを馳せることができる。作家を身近に感じていただくことができれば、教科書のなかの文学に、教室の外で親しんでいただくための準備は、すでに整っているかもしれない。 (みやかわ・さく)
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Last updated
October 2, 2024 06:06:24 AM
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