自然王国での稲刈り
毎年恒例の、大隈塾主催の稲刈り合宿に参加してきました。(私は初参加)塾生、関係者合わせて30名近い参加者が集まりました。 一同はバスで鴨川にある早稲田セミナーハウスに向かい、チェックインして昼食を済ませた後、小一時間ほど離れた「自然王国」に向かいます。そこには階段状に拡がる稲作地、「棚田」があるのですが、その一角で黄金色に染まり頭をたれている稲穂をカマで刈っていくのです。大隈塾の講師であるジャーナリストの高野 孟先生の計らいで、彼が関わっているこの「自然王国」の棚田での収穫を一日体験させてもらい、日本における「食と農」について改めて考えてみる、という企画なのです。まずは田んぼに入るための専用足袋を履き、刈った稲穂を束ねる為に必要な縄を自分達で編んでいきます。自然王国の代表、石田先生に教えてもらい稲藁を何本か手にとって、手でよじりながら細縄を作っていくのです。慣れてくると要領も良くなり、さくさく縄が出来上がるんだな。これって、縄作りの基本なんですって。同じ要領で、お正月のしめ縄や、太い綱などができるらしい。前年に刈った稲穂を干して藁にして、それを今年の収穫を束ねる縄として利用される。昔からの里山の知恵でちゃんとリサイクルが体現されているのですね。この縄を各々腰に結わえて、田んぼに入るための専用足袋を履き、カマをもつと、約30名のにわかお百姓さんのできあがり。いよいよ田んぼに入って稲を刈っていきます。最初はどうももたもた動きがトロイのですが、慣れてくると効率よくザクッザクッと刈り、自分で作った縄で稲を縛り、田んぼの脇に積んでいくのです。粘土質の土壌は、もうハンパなくネチャネチャ! いったん足を入れたら二度と抜け出せないほど、粘着度合いを極めているのですが、みなヒーヒー言いながらも2時間強黙々と作業をし、ついに、一角を刈り取りました。こうして刈った稲穂は、木で組んだ竿に一列にかけられ干されていくんですね。刈られて土がむき出しになった田んぼの脇に、刈られた稲束が整然とかけられているのを見ると、達成感と充実感で腰の痛さも足のだるさも少し軽くなっていくようでした。30人で2時間かけて刈った稲、これだけくたくたになってやって、賃金対価に直すと7万円程度なのだそうです。「キャバクラにいったらもう終わりって値段だね。」とある男子がポツリ。なんだか複雑な思いがします。ひざまで泥につかり、稲を刈っていると「昼寝のジャマするなよ~。」といわんばかりにヤモリやクモ、ザリガニに一杯出会いました。これは無農薬にこだわった米作りをしているからなのだそうです。頭の先から泥だらけ汗みずくになりながら、作物に触れ、土や泥に触れ、虫に出会う。気持ち悪いどころか、すごく懐かしくて心地よい時間が流れていきます。それは何千年も前から私たちの祖先が営んできた、当たり前の生活、当たり前の仕事が、今を生きる私たちのDNAにもちゃんと記憶されていて、ピンポイントにボタンが押されたことによる、郷愁と懐かしさなのでしょうか。そんな不思議な感覚にとらわれるような貴重な体験をしたのでした。「土とは何億年もの生物のすべての死骸」であり、「土とはすべての命の源」なのだそうです。この100年の間にそれに触れることをやめてしまった私達に、今その弊害が出てきているのではないでしょうか。暴力、自然破壊、病など、いま様々な問題がありますね。なんだかすべて繋がっているような気がするのです。子供から大人まで、「土に触れる」ということは、そんな現代社会の問題を一部でも解決できるくらい意味があることのなのではないか、とふと思いました。