ロレンス・ヴァン・デル・ポスト A Bar Of Shadow
私はこの作品を愛して止まない。既に絶版になっているこの作品を読むのには図書館に借りに行く。邦題は「影の獄にて」と言う。誰にでもこれはという作品があると思う。いろいろある中で唯一のものなんて中々決めることは出来ないかもしれないけれど、私にとってこの作品は唯一のものと言える。一冊の本の中は三部作になっている。クリスマス・イヴ。クリスマス・モーニング。クリスマス・ナイト。ヴァン・デル・ポストの文体の美しさに心をまず打たれる。訳者もきっと素晴らしいのだろう。何度読んでも心引かれる美しい比喩を散りばめた文体。内容はもちろんここで私が解説出来るものではない。私はただこの作品を差し出すことしか出来ないと思う。好き嫌いがあるから人に勧められるものではないけれど、でも黙っていることも辛い。前にこのブログに少し書いたこともあっただろうか?もう忘れているけれど。「戦場のメリークリスマス」の原作と言うと引いてしまう人もいるだろうと思う。映画も良く出来ていると思う。特にビートたけしが演じた「ハラ」という軍曹は、彼以外の適役は存在しない。ビートたけし=ハラなのだ。そして私はそのハラという登場人物にただならぬ感情を抱く。ハラはその本に書いてあるように日本神話そのものなのだ。ハラのエピソードの話はクリスマス・イヴで語られている。何度も何度も読んでいるけれど色あせはしない。輝きは増すばかりだ。どんどん遠くなっていく。年と共にその作品が卓越しているということについての理解が深まっていく。すると尊い感じがして手にとるのも畏れおおくなる。良い意味でだけれど。読むときもまるで宝物でも扱うような貴重な物に触れるような気持ちになる。図書館からこの本を奪ってしまいたいような欲望を抱く。手に入れようと思えばネットで古本を購入できるかもしれないけれど、今はあえて買わずに読みたい時には図書館の閉架から出して来てもらうことにしている。大事な物とはちょっとした距離があった方が良いのだ。所有しないことだと思う。それは私の価値観の一部なのだろうと思う。