きみの声は忘れない
ずっとプログに書かずにいた思い出があります。それはわたしが飼っていた犬とのお別れの思い出。書かなかった理由はふたつあります。ペットのプログがあまりに多く、こんな悲しい話は皆さんに嫌な思いをさせるだけだから。ですから、ペット好きの人は、この日記を読まない方が良いかもしれません。そして、もうひとつは、あまりに愚かな話だから。私は5年ほど前、16年飼った雑種の犬とお別れしました。名前はチビです。仔犬の時の仮名が、そのままになってしまいました。いつも私を、ライバル視していたチビでした。屋内で飼いましたので長生きしましたが、彼にも老化が襲い掛かります。耳が遠くなり、苦手な雷を恐れなくなりました。目が悪くなり、暗いと散歩を躊躇する様になりました。歯が悪くなり、大好きな骨が噛めなくなりました。足が悪くなり、片足で自分の体を掻けなくなりました。胃が悪くなり、食欲が低下し痩せていきました。そしてまっすぐ歩けなくなり、大好きな散歩にも行けなくなりました。それでもライバルの私が近づくと、無理に大丈夫な姿を見せるチビでした。そんな彼の晩年に、私は彼を実家に置いて名古屋にいました。春のある夜、私は夢を見ました。突然の夢で、私は彼の声を聞きました。「苦しい。もうだめ、助けて…」夜が明けて、私は慌てて実家に電話をしました。でもチビは生きているとのこと。安心しましたが、彼とお別れはその2日後でした。科学と理論を尊重する私は、超常現象を信じません。予知夢は、予め彼の不調を知っていた私の記憶が作り出す、想像でしかないことは知っています。それでも私は、彼の声を忘れられません。あの彼の声は、不条理で明瞭な記憶として、私と共にあります。とても愚かで、理解し難い話です。人には理解できない愚かさがあります。春の夜、彼の声を聞いた夢の中で、彼はなぜか人の姿をしていました。