村の結婚
国内出張から戻ってきて、洗濯だけなんとか済ませたと思ったら、また村へ出かけることになった。今回の村はアンタルヤから80キロほどなので、その前の出張に比べたらラクなものだけど、睡眠不足と疲れのたまった身体にはきつい。今回の村行きの目的は、アドナンの親戚の結婚式。3日3晩続く、この村の伝統的な行事になるというので、興味を持って参加することにした。アドナンとお母さん、トルコ語勉強中のTさん、私と親戚のEと母と息子。2台のクルマでアンタルヤから雪降る峠を越え、120キロですっ飛ばしながら到着。式・披露宴の内容は簡単に書くと以下の通り。1日目。嫁の実家で女性だけの披露宴パーティー。女性だけのバンドを呼んで、チャドルの中も女性のみ。男性は家の中で待つのみ。ここではダンスと、お嫁さんに結婚のお祝いを渡すのがメイン行事。お婿さんのお母さんが(つまり義母になる人)が、お嫁さんに金のネックレス、腕輪などをつける。その後、親戚の女性たち(主にお婿さんサイドの親戚たち)が、金の腕輪などをプレゼント。最期に親戚、遠い親戚、友人、近所の人たちがお金や金のコインを胸に飾っていく。別に参列していてもプレゼントをしなくてはいけないというわけではない。そしてお祝いのキスと写真撮影。一方、お婿さんの家では、今度は男性だけの披露宴パーティーが始まる。寒い日だったので、外で焚き火をたいて、バンドの演奏でチャドルの中で男性たちが踊る。お婿さんサイドの女性たちは家で座っている。しばらくすると夕食の時間になり、ピラフ、クルファスリエ、スープ、つけもの、ヘルワ、パンが訪問客、全てに出される。食事が終わるといったん、家にこもった女性たちも外でダンスを始める。ただし、女性と男性は別々のチャドルのなか。また花嫁さんは3日目まで、花婿の家へ来ることはないので、女性の披露宴は花嫁ぬきである。ダンスの披露宴は深夜の12時まで続いた。2日目。それぞれのチャドルで食事が振舞われる。内容は昨日の夕食とほぼ同じ。それから人が集まったり、それぞれの親交を深めたり、ダラダラと時間が過ぎていく。一方、花嫁の家では深夜11時ごろから「クナゲジェシ」ははじまる。花嫁さんの手足にクナ(ヘンナ)をぬるのである。地方によっては、クナゲジェシで伝統的な民族衣装を着るのであるが、ここでは花嫁さんは新品のパジャマを着て、手足にクナをぬり、その上に婚礼クナ用の手袋、足袋を巻き、寝室に入る。3日目は花婿サイドが花嫁を迎えに行く、もっとも重要な日。クルマを連ね、プレゼントを持って、花嫁の家へ行く。花嫁は白いウェディングドレス姿。花嫁が花婿の家へ入り、今度は両家合同の披露宴が始まる。でも男女は別々である。通常、花嫁は男性の披露宴に顔を出すことはない。しかし女性の披露宴に、花婿が来て、花嫁とダンスを踊ったりする。この二人はどうやって結婚するに至ったか・・・・。花婿の母親がまず、女性の家へ下見に行く。気に入ったら翌日、息子と一緒に見に行く。それで気に入ったら、翌日又は適当は日に「クズイステメ」、結婚の申し込みに父親と3人で出向く。話ができあがっている場合はすぐにOKの返事。そうでない場合は娘側が「少し考えさせてくれ」と返事をする。これでOKが出ると、次に結納の儀。この地域では全て男性サイドが負担するそうである。結納から結婚までの間に、犠牲祭があると、男性が娘のために犠牲のヤギか羊を買い、娘の名前で切らせるそうだ。また結婚まで、会いにいくたびに男性は女性にプレゼントを持っていかなければならないし、婚約式や結婚式のドレスから靴、美容院代なども全て男性サイドが負担する。もちろん1対1のデートはできないし、婚前交渉などもってのほかである。儀式の内容や、花婿、花嫁の負担は地域によっていろいろである。ここは男性が全て負担するということで、これじゃお金のない人は結婚できないねえ、と聞くと、基本的にはそうなんだけど、状況によって話合いで負担を軽くすることもするそうだ。とにかく、3日間、花嫁と花婿の家を、花婿サイドの親戚が行ったり来たり、大変である。今回は近いところから花嫁をもらったのでできることだが、遠くからもらうときは10回いくところを5回にする・・・というように、負担の軽減をはかるそうだ。結婚の儀礼が面倒くさいけど、考えたら、これだけやったら、花婿の方も簡単には花嫁を裏切ったり、離婚できないだろうなあ・・・って。実際、それが目的で面倒で負担の大きいことをさせているのかもしれない。この村の結婚式に参加することで、久しぶりに村の別荘に泊まった。寒い日だったけど、薪ストーブのおかげで汗をかきながら、ビールなど飲んだりしたのだけど。この村では伝統的な衣装を着ることは、最近ないそうだけど、参加した女性たちのスカーフのふち飾りをたくさん見ることができた。白ガーゼにビーズオヤが多かったけど、イーネオヤでも立体はないが、平はあった。どうしてもそういうことに目がいってしまうけれど、3日3晩の婚礼儀式も珍しくなってきていることだし、見れてよかったと思いながら(実際は来客の都合で、途中でアンタルヤへ戻ってきたのだけど・・・・)、疲れてヨロヨロの身体で帰宅したのである。ところで、女だけの披露宴は、実は年頃の息子がいる母親の、花嫁候補下見会でもある。こんな娘がいたよ、と息子に知らせる。別々の会場ではあるが、独身男性たちもチラチラと見ていたりする。もちろんアドナンも・・・・。