●●●トンマッコルへようこそ
ようこそ、ようこそ。誰かを拒む理由などこの村にはないのだ。だからようこそ、トンマッコルへ。みなさん、ようこそ。時は1950年代、朝鮮戦争の真っ只中。朝鮮半島は南北に別れて戦っていて、そこに連合軍と名乗るアメリカ軍も混じって、戦争をしていたのである。みんな同じ一個の命を持っている人間同士が、似ているけれども微妙に違う服を着て、相手を憎み拒み殺し合う理由は何だというのだ。一体、何なんなんだ?「空から人が降ってきたよ」落ちてきた飛行機に乗っていたのはアメリカ人。スミス大尉は目を白黒させていた。トンマッコルの人々も興味津々で彼と接する。ようこそ、トンマッコルへ。人民軍も決死の行軍を続けていた。なんとか生き残ったのは、中隊長のリ・スファと、年長の下士官チャン・ヨンヒ、少年兵のソ・テッキ。迷える彼らをトンマッコルへ案内したのは、邪気のない笑顔を満面に讃える、目の大きな愛らしい少女。彼女はヨンヒ、ヘビが危険なのは知っているが、兵士にとって敵が危険な存在なのを知らない。そもそも、敵とは何なのか知らないのだろう。もう一組、トンマッコルにやってきてしまったのは、韓国軍は二人、ピョ・ヒョンチョルと衛生兵のムン・サンサン、彼もまた年が若い。兵士は敵を認識すると途端に殺し合いを始めようとする。人民軍VS韓国軍。手榴弾なんか、持ち出したりしている。爆発したら、みんな死ぬのに。ずっと睨みあってる5人の兵士たちトンマッコルの人々は首を捻っている。なんだありゃあ?と言わんばかりに。パク・クァンヒョン監督作品。長くCM監督として活躍した彼の映像は、ストーリーに先行して独自の世界観を持つ。不発弾だと思われた手榴弾が、食料貯蔵庫を爆発させてしまう。そして中にあったとうもろこしがはじけて、ポップコーンの雪が夜の闇に降り注ぐ。幻想的な美しい映像であり、なおかつ、村の暮らしも伝えてくれる。そしてもう一つ大切なこと。この場面から兵士たちは村人と同じ時間を共有することになる。兵士たちはそれぞれの思惑を持ちながらも、村人と同じようにこの不思議な雪を眺めていた。頭に洗面器(ヘルメット)をかぶっていた兵士は、いつのまにか一緒に働き、一緒に酒を飲み、一緒に眠ることになる。村の食べ物を食い荒らす巨大なイノシシに対しては、敵味方入り乱れ奮闘していた。アメリカ人のスミス大尉も参加。それぞれの能力を生かし、機知にとみ勇気にあふれる行動に、トンマッコルの村人たちも拍手喝采である。みんないい人である。この村には、誰かを拒む理由はどこにもないのだ。誰かを拒む理由なんて、よっぽどじゃないと生まれない。たくさん働いて、たくさん食べていたら、誰かを拒む理由なんて生まれようがない。ましてや、殺したいと思う理由も。ようこそ、ようこそ、ようこそ。それでも時代は朝鮮戦争の真っ只中。さりがたいほど村への愛着がわく兵士たちと彼らに親しみと持った村人たちは現実という濁流へ飲み込まれようとしていた。連合軍がスミス大尉救出作戦を決行。ようこそトンマッコルへ。村の入り口にある人形たちがそう囁いているのが彼らのは聞こえない。戦争中の土地はすべからく戦地でしかない。いっしょになればわかるのに、人民軍の兵士、韓国軍の兵士、いつしかお互いの名前を知り人柄を知り、親しみが深まり仲間となり共に戦うことになる彼らは、トンマッコルの人と一緒に花火を観ることになる。最期の花火を。もし戦争がなかったら、人柄の高潔なリ・スファと正義感の強いヒョンチョル、二人は、得難い親友になれたかも知れないのだ。しっかりとした良識を持つヨンヒに出会い、サンサンの人生は良きものになっただろう。ソ・テッキだって、ヨンヒと恋人になれたか知れない。お互いを知らない癖に、つまらない理由で殺し合う戦争というものが、5人の死によって描きだされる。トンマッコルを守るため、偽の攻撃目標になるようにたった5人で、連合軍の飛行編隊へ攻撃を仕掛けたのだ。一緒に食べる、一緒に眠る。一緒に働き、一緒に遊び、一緒に笑う。トンマッコルはそんなところ。殺し合いなんてここで生まれるはずはなかった。村人たちは、誰も拒まない。ようこそトンマッコルへ。トンマッコルへようこそ。