●●●下妻物語
我を張って生きてるんだから、性格悪いのは、当たり前なのだ。っていうか。そもそも、性格悪かったっけ?竜ヶ崎桃子。BABY, THE STARS SHINE BRIGHTのメルヘンティックロリータファンションに身を包み、下妻の田んぼに挟まれた道をご機嫌に歩いているだけ。ロココの世界に心を飛ばして、完璧な自己中心個人主義に浸って、ニコニコ微笑みながら歩いているだけ。ただし、一人だった。白百合イチゴと出会うまでは。性格がいい=友達がいっぱい。性格が悪い=友達が出来ない。そういう方程式にあてはまったように、学校でもいつも一人だった竜ヶ崎桃子、17歳。生まれは尼崎、身近なとこだからこそ言えるが、年がら年中、阪神の応援しているファンキーシティ。ダメ父のもとから不倫母は去り、さよなら、関西、祖母を頼って下妻へ。どうみても「負け」の父親の元に残ったのは、その方が面白かったからという変な子供だった。何もかも、ヒトゴトのような子供だった。そうなんだ、子供にとっては、大人の人生なんて、ヒトゴトかも知れない。ムチャクチャヘタクソな字。白百合イチゴは最初、文字で登場する。桃子は、ロリータのお洋服を買うためにバッタモンの有名ブランドの在庫を売ると雑誌に投稿して返事してきたのがイチゴである。下妻最強レディース『舗爾威帝劉』所属、なんかもう、燃えちゃってるヤンキー、桃子とはタメ。彼女は有名ブランドの服をとにかく安く買いたかった。バッタモンだと説明されても、安く買えたらよかった。安く譲ってくれた桃子に、とにかく、返せないほどの「恩義」を感じてしまい、その上に何故か、彼女にまとわりついてしまった。もちろん、桃子はロクに相手はしないが。一人が、二人になる。いつのまにか相手のことを知る。くだらなさそうな顔をしても、イチゴが語る「亜樹美さんのこと」、「伝説のヤンキー、妃魅姑(ヒミコ)」のこと要約して語ってくれちゃってる桃子である。中島哲也監督の演出は、軽快で楽しい。ロリータ、ヤンキー、女の子の友情、限定されたキーワードを笑いでくるんで、どの世代にも通じる心の部分に切り込んでゆく。2004年に公開された邦画の中でも、キラキラと輝く宝石のような作品となった。もう、ヒトゴトじゃない。友達のピンチ、桃子は信じられないようなハッタリで、イチゴを救い泥だらけになる。性格が悪い=友達が出来ない、そんな方程式は、嘘っぱちだったのだ。我を張って生きてるんだから、周囲と協調できなかたっただけ。BABY, THE STARS SHINE BRIGHTの社長、磯部さんは、仕事を選んだから自分には友達はいないという。だが、それは、友達に出会わなかっただけ、桃子は、もう、友達に出会っていた。遠近感のある映像は、独特。桃子とイチゴは、その極端なファッションのせいで、オモチャ箱のオモチャのようだ。柔らかいニュアンスの中に、笑いを織り交ぜ、現代に生きる人の心の部分に切り込んでゆく。我を張って、一人、自分の足でたち、向かい風に立ち向かう二人の甘くない友情。だが、嘘のない、友情。深田恭子と土屋アンナはピタッとくる演技で、この作品の一番の宝石となっている。我を張って生きてるんだから、周囲とうまくやれないのは当たり前なのだ。それは、なかなか、生きにくい。ツルんだほうがラクなのだ。だが、それでは、自分を曲げなきゃならない。ニコニコ笑って、大好きなお洋服を着て、桃子は一人、そう、一人で道を歩いている。幸せになるのは、勇気がいることだと知った彼女は、やっと当事者になり、大人になり、いままで以上に強くなったように見える。そう言えば、イチゴも、モデルやりながらスタッフをぶっ飛ばしていた。