●●●恋するブラジャー大作戦(仮)
さあ、身体を前倒しにして、ブラの中にオッパイをしっかり入れて・・男二人が恥じらいながら装着するのはブラジャー。日本の大手下着メーカー「シス」の香港支社ではじめて男性デザイナーが採用された。ブリーフのデザイナーだったのジョニーは、オッパイの代わりに水の入った袋を赤いブラに入れている。工業デザイナーだったウェインは、人工乳房をどんな感触でブルーのブラの中に入れているのか。指導する女性チーフデザイナーのレナの声は二人の様子に笑いをこらえている。あ、人工乳房がはみ出ている。女性だらけの「シス」の香港支社に男性デザイナーが配属されたのは新ブランドを立ち上げて売り上げをあげるため。日本側の命令に香港支部長のサマンサは動揺を隠せないが受け入れるしかない。チーフデザイナーのレナと同じ待遇で、迎え入れたジョニーとウェインだが、まだブラジャーへの理解が少なかった。勝手に作ってきた試作品ブラジャーもつけ心地が悪く、モデルの評判も悪かった。ジョニーもウェインも、毎日職場で美しい女性に囲まれて、悦びに満たされているようでもあるが、仕事に対しては真剣である。レナに指示されて街中を駆けずり回り、いろんなブラジャーを買い集めているときも、またまたレナにふっかけられて、女性用の下着を装着させられる羽目になっても、取り組んでいるときは手を抜かない。女性たちもまた必死である。香港支部長のサマンサは社を代表してプレゼン。レナはファッションショーで自分のイメージを表現したいが制約がありままならない。プライベートでも恋愛は上手くいかず、仕事に対するプライドの高さもあいまって一人キリキリ悩んでいる。そんなときサマンサにはジョニーが、レナはウェインが何気なくフォローする。男性陣は底抜けに明るく前向きである。2001年の香港の作品だが、日本公開は2006年のようである。ややこしい邦題名だが「絶世好Bra」がタイトル。登場人物たちが作ろうした究極のブラがこの映画のタイトルである。そして男性デザイナーが出した結論は、「愛する男性の抱かれている感触」の再現。だが物語はサマンサとジョニー、レナとウェインの恋愛が成就して大団円となる。ラブコメなのである。華やかで美しい女性たちの間で、底抜けに前向きな男二人がジタバタしている。キャストが魅力的だから、物語に大きなクライマックスはいらない。サマンサには演技派カリーナ・ラウ、ブラジャーの理論を語る彼女は美しく気高い。ジジ・リョンの演じるレナは、ヘンな声をだして威張っているが、ショートカットが似合う本当に愛らしい女性である。ラウ・チンワン、ルイス・クー、数々の幅広い作品をこなしている男優は、コメディのタイミングをよく知っているようだ。ブラジャー姿の女性たちに囲まれても、嫌みがなく軽やかである。観ているだけで楽しく小さなエピソードに顔が弛む。誰も彼もが真剣だから仕事の成功にも、恋の成就にも好感度がもてる作品になっている。1997年の香港返還後から、若い女優たちが飛躍的に活躍するようになったそうである。ジジ・リョンもそうだが、『墨攻』でアンディ・ラウの相手役だったファン・ビンビンの名も上がる。香港における歴史的な変革は映画にも大きな変化を与えたのは想像に難くない。この作品にしても日本人女優も出演している上、ラウ・チンワン、カリーナ・ラウは東京でラストシーンを撮っている。アジアだけのテイストに留まらない演出だがアメリカ映画とは違うベクトルで登場人物たちが真面目で一途である。コミカルなシーンでも役者たちは真剣そのもの。男のブラジャー装着や学生服姿のコスプレ、演技派女優も下着姿を見せてくれている。ハチャメチャだが真剣なラブコメなのである。香港映画ではお馴染みの俳優もカメオ出演、そう言えばジャッキーチェンも香港映画にカメオが多い。ジャッキーもアクションも魅力的だがコミカルな姿も楽しいのが彼の持ち味ではある。「恋するブラジャー大作戦(仮)」この作品の楽しさが味わえたことで、映画を観る幅が広がったような気がした。