アンセル・アダムズ写真展
サンフランシスコのデヤング美術館で開催中の写真展「アンセル・アダムス、私たちの時代(Ansel Adams in Our Time)」に行ってきました。アンセル・アダムスの写真100点以上に加え、同時代の写真家の作品や、アダムスの作品にインスパイアされた現代の写真家による作品なども併せて展示される、包括的な写真展です。アンセル・アダムスといえば100人中98人が思い浮かべるヨセミテの写真はもちろん、ハイ・シエラの他の地域や、その他の国立公園(イエローストーンとかグランドティートンとかデナリとか)の風景の圧倒的な迫力をそのまま伝えてくる写真のほか、彼が生まれ育ったサンフランシスコのシークリフ地域の光景や、タオスプエブロやマンザナール日系人強制収容所といった場にいる人の写真も。私は技術的なことはよくわからないのですが、画面のどの部分にもピントが合っていて、ここまで大きくプリントしても細部までくっきり鮮明に見えるというのは単純にすごい。8x10インチ(ほぼA4サイズ)のフィルムを使う大版カメラを使用し、最大アパチャーを使う(ぼかしなし)「ストレートフォトグラフィ」という表現手法を採用したことで、こういうプリントができるんだそうですね。アダムスはこの手法の代表的な写真家の一人だとか。セミプロ写真家である相棒も熱心に写真を鑑賞していたのですが、彼曰く、青空を黒で表現するのがアダムスの特徴らしいです。言われてみれば、同時代の他の写真家の写真は空が白っぽいのに対し、アダムスの作品の空は黒くて、風景のドラマチックさを強調している、気がします(←素人鑑賞家の単なる感想)。あとモノクロで光と影だけじゃなく岩肌の質感とかが強調されてるのがすごい美しい。アダムスは写真撮影と現像の技術も優れていて、教本も何冊か出しているほどだそうです。アダムス以外の写真もなかなかおもしろいのがありました。私の印象に残ったのは、Stephen Tourlentesという写真家の砂漠にある監獄を夜に遠くから見た写真。何もない砂漠の中に監獄が建設されて、監獄なので夜通し煌々と照明されていて、真っ暗な夜の中そこだけが白く明るく輝いているのがはるか遠くから見える、という、逆説的というか皮肉が込められた作品。なんと今年はアンセル・アダムスの生誕100周年とのことで、その記念となる年にアダムスが最初の展示会をしたこのデヤング美術館で彼の作品を鑑賞することができてよかったです。アダムスについてはこの日本語記事が良かったhttps://imaonline.jp/articles/archive/20190228ansel-adams/写真展のあとは美術館の展望台に行ってみる。「タワー」の最上階に設けられた展望台は180度を眺望できるようになっていて、美術館はゴールデンゲート公園の中にあって周りに高い建物がないので、9階の高さながらなかなか良い景色を楽しめた。ゴールデンゲートブリッジまで見える一旦、美術鑑賞からのお昼休みということで、美術館の外に出て、フードトラックで調達したランチをミュージックコンコースのステージで演奏されるビッグバンドジャズを聴きながら食べた。その後公園内でちょうど開催されていた多肉植物展示会を覗いたり(テーマが「フィクションより奇なり」ということで、植物とは思えないような摩訶不思議な多肉植物がたくさん展示されていました・・)。ジューンティーンスなので黒い旗&ジャズこんなの気味悪すぎて素敵すぎこれも不気味度高めまた美術館に戻って、もう一つの特設展「Kehinde Wiley: An Archaeology of Silence」も観る。ケヒンデ・ワイリーはオバマ大統領の公式肖像画を描いたことで知られるロサンゼルス出身の画家。作品を通じて人種差別に対する問題提起をするアーティストで、いわゆる西洋美術で典型的な肖像画やブロンズ彫刻を、対象を若いアメリカの黒人男女(および自分自身)に置き換えた作品群が代表作。ここで展示されていた作品も、カラフルでビビッドかつ写実的に描かれた人物が、ウィリアムモリスの壁紙みたいな「伝統的」で彩度を抑えた背景から飛び出してくるような肖像画などで、とてもおもしろかった。あと、展示されてた中で一番の大型作品の、南軍の将軍の騎馬像の人物を若い黒人男性に置き換えたブロンズ彫刻「Rumors of War」も興味深かった。美しいだけではなく自然保護や人権保護のメッセージが込められたアンセル・アダムスの作品も、人種差別への抗議を続けるケヒンデ・ワイリーの作品も、人々の心や感情に直接訴えかける力を持つ「アート」という媒体ならでは、と言える。そういうおもしろさも含め、やっぱりアートはいいなあ、と思いました。