オオカメノキのつぶやき
葉がすっかり落ちたオオカメノキは、ねずみ色の空に枝を伸ばし、“もう何もないよ”とつぶやきます。見るとオオカメノキは風に吹かれて途中で切れた葉っぱのかけらが、ついているだけです。ねずみ色の空のどんよりとした色、冷たい風、舞い散る落ち葉オオカメノキは、これからどんな冬がくるのかと考えていました。雲の切れ間からそっと細い光が差し込み、地上を順番に光で照らしています。お日さまは、“もう何もないよ”とつぶやいていたオオカメノキにも光を照らしています。照らされた枝先をみるとギュッとかたく小さな芽が準備されています。あたたかな日を迎えるまでの寒い日々は、こうして静かに春を待つのです。向こうから女の子が、ピョンピョン嬉しそうにスキップしながらやってきます。小さな虫眼鏡でオオカメノキをのぞきこみます。オオカメノキの冬芽を見つけては、虫眼鏡をあててジッと見るのです。「この子は、ばんざいしてるね。かわいいね。」「この子は、うさぎみたいね。かわいいね。」「前で手を合わせているよ。かわいいね。」冬芽を女の子にジッと見られて“もう何もないよ”とつぶやいたオオカメノキは、照れくさくなりました。女の子が、かわいいねとほめてくれるのでうれしくて仕方ありません。ねずみ色の空をながめて枝を強く張り、冷たい風に向かいながら“暖かい日にむけて冬芽を準備しています。”とオオカメノキは言ってみました。女の子にその声が聞こえたかのようなタイミングで「ねぇ、この芽は、花になるの、葉になるの?」と女の子は、オオカメノキにたずねます。オオカメノキが黙っていると“また来てごらんよ”と風が、ヒューっと通り抜けていきました。