『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化(へんげ)(宇能鴻一郎)』
本屋の棚に宇能鴻一郎の名を見つけて、おやっ?あの人はまだ現役で書いていたのか?宇能鴻一郎は【純文学の世界は一発芸で稼ぐ以外は小さなパイの取り合いだ。新聞の求めに応じて自分の文学的立場を書いたら、[先輩作家を敵視する]と評された。(中略)一刻も早く純文学から逃げ出すことだ。】とポルノ小説のモーツァルトを目指した、という。その昔、川上宗薫、梶山季之と並び密かに読む作家であった。今でもそうかも知れない。この『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化』もあだ花のようだ。そして、手に取り新作であることを確かめる。ぱらぱらとページをめくりタイトル,目次を読む。一瞬買うか買うまいか迷う。このたび、図書館(地元の図書館にはなくて、県の図書館で借りる)で借りて読む。それについても予約をして、であった。夢十夜とあるように、全部で十夜からなる・・・、第一夜 ヴィナス第二夜 殉教第三夜 少年第四夜 羅馬第五夜 聖牛第六夜 谷崎、三島第七夜 福岡第八夜 秘密第九夜 鮎子第十夜 愛人(かな)あとがき――気のむくままの謝辞と補注著者、宇能鴻一郎の少年時代からある時点までの事柄を交えながら亜礼知之君として著者が登場する。劇中劇的な扱いで、亜礼の小説が入ってくる。構成は複雑だが、それぞれのエピソードとして亜礼の小説は面白く読める。全体に貫かれているのは、亜礼(宇能鴻一郎)の芸術観だと思う。80年の人生、その豊富な経験と知識(絵画、彫刻、建築、音楽、文学、映画)が縦横無尽に繰り広げられている。実名で書かれる作家も、それらしい人を連想させる部分も、それぞれに僕ののぞき趣味的な興味をそそられる。下世話な読み方で、作者には申し訳ないが。でも、大変面白かった。週刊文春HP以下、版元のHPから、「十の夢」という形で展開される長編小説。著者自身の満州における幼年時代、殉教を志した長崎の花魁、 現代に蘇る谷崎と三島……様々なテーマが交錯し時空を超えた壮大な小説世界を構築する。三十年もの 間純文学から離れていた芥川賞作家・宇能鴻一郎復活! の書き下ろし小説。『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化(へんげ)(宇能鴻一郎)』2014年3月10日 第一版第一刷井済堂出版