カンボジア・ベトナムの旅~戦争証跡博物館~
子供の頃、祖父の足首に残る銃弾が貫通した傷がいつも気になった。その影響があるのかないのか子供の頃から、戦争に関心があり、本や写真、広島の原爆ドームにも足を運んだ。ホーチミンの戦争証跡博物館。一人でいくつもりだったが、夫が「僕も行きたいと思ってるんやで」と言うので一緒に行った。夫は、悲惨な状況をあえて目にすることを嫌う人なので意外だった。タクシーで向かった。約一時間、多くの写真を見てまわった。どの人も無言。胸がいっぱいで声が出ない。戦車に足を縛られ、ボロボロになるまで引きずり回されている人。首と胴体が切断され、その首を囲んで記念撮影をするアメリカ兵。重なり合った大人や子供の大量の死体。小さな子供が妹をかばう。見つかり生きたまま火をつけられる寸前の写真。ゴミのように袋に入れられ、板に縛り付けて田んぼの中を運ばれる人たち。爆弾で顔の皮が溶けてしまった人。ホルマリンの中に浮かぶ奇形の胎児(とても苦しそうに見える)尋問拒否して、ヘリコプターから落とされるベトナム人。収容施設で行われた虐待の数々。乳首に取り付けた電極から電気を通す。精神が破壊される。妊娠させないために女性の体に蛇を突っ込む。口から水を大量に流し込み、腹を蹴って水と血を吐かせる。えび反りに吊るして、鞭で叩き、最後は落として血を吐かせる。叩いても跡が残らない鞭。数日後、叩かれた箇所が腐ってくる。今日は親指、翌日は、薬指……少しずつ切断される指。人間の中には、こんな残酷さが潜んでいるんだ。きっと、誰の心の中にもあって、「戦争」という狂気な事態が引き金になって、子供を大切にしていたお父さんたちも巻き込まれて行ったのだろう。ベトナム戦争では300万人のベトナム人と58000人以上のアメリカ人が死亡した。そして、戦争が終わっても、精神病で苦しむアメリカ人や枯葉剤の影響で体の一部がくっついた双子の出産、手や下半身が短い奇形の子供の誕生が相次いでいる。彼らは、現在、二十歳前後。街の中でも、足首から下が変形していたり、腕から先がない若者を何人か見かけた。戦争の悲惨さから目を逸らしてはいけない。逸らせば、同じことが繰り返される。娘の悲惨な状況の横でじっとカメラを見詰める父親の写真があった。「多くの人にこの状況を伝えてほしい」という意志があったそうだ。そんな気持ちを無駄にしてはいけないと思った。