サルに剥かれる
サルが欲しいと言う。動物のサルではない。アンガールズが宣伝しているPS2ソフトの「サルゲッチュ3」である。欲しいと言ったのは「忍耐」(ほっと一息、水無月家の阿呆な家族たち)である。「忍耐」は小6である。1年生の頃から地元のサッカークラブに入った。飲み込みが悪いうえに、おとなしい。そして、父親のことが大の苦手であった。サッカーも上達が遅かった。そこで親子の朝練を始めた。ゲーム機やソフトをエサにして、目標を持たせた。コツをつかめば、上達は早い。ほとんどのハードはウチにあるのだ。低学年のうちは「リフティング100回できたらゲームソフト」などとやって、その気にさせてきたが、小学校も高学年となれば適当な目標がなくなってくる。1試合につき1シュート1,000円というのであれば、まあ、ポジションにもよるが、ハッパをかけても良い。だが、ゲームソフトとなれば、5,000円はなくなる。難易度の低い目標を与えて甘やかすわけにも行かなくなるのだ。で、しばらく「報酬」はなかったのだ。だが「忍耐」は、どうしても「サルゲッチュ」をやりたいらしい。自分の小遣いで買えなくもないが、小学生の小遣いでは、チョイ痛い。そこで、ボクに甘えてきたのである。ボクもゲーマーではないが、ヒマを見つけて子供たちと遊ぶ。「サルゲッチュ」シリーズは、ずっと買ってきたのである。だが「ベスト版」と呼ばれる、流行が一巡してからの廉価版である。ボクはケチである。これは、家内のお墨付きなので間違いない。(笑)安くなると分かっていて、買うことはしないのだ。だから「サルゲッチュ」もそのうち買うことはあっても、新作で買ったりはしないのだ。だが「忍耐」は欲しいと言う。友達の家でやったら、面白かったと言うのだ。まあゲームも旬のモノである。流行りが落ち着く頃は、友達も別のゲームをやっている。普段、滅多にねだらない「忍耐」である。ボクはどうも「忍耐」に少し甘いところがあるのだ。仕方ないので、ボクが3,000円を出すことにした。真ん中の「忍耐」と末っ子の「奔放」がそれぞれ1,500円ずつ出してゲームを買った。子供たちは土日は一日サッカーだし、夏休みと言っても異常なほどに宿題は多い。ゲームなどやるヒマはないはずだが、忙しいときほど時間をやりくりして寸暇を惜しんでゲームをやるサマは見事である。今日も暑い中を仕事から帰ってくると家は賑やかである。インターフォンに元気な「奔放」の声が響くと、ドアが開いた。家内は夕飯の支度に忙しい。今日はチャーハンである。スーツを脱いで、寝室へ行くとテレビの前に、先ほど迎えに出た「奔放」とゲームに夢中の「忍耐」が居た。我が家では、誰かが外出先から帰ってきたら迎えに出るルールになっている。だが、野郎の「忍耐」はゲームに夢中なのだ。こういう時のボクは容赦しないのだ。勉強をしていて気づかなかったのなら、許すがゲームでは酌量の余地はない。さっそく怒鳴った。「忍耐」は素直に謝ったが、笑っている。ボクも、どうも凄みがなくなったのか、扱いを心得ているのか最近の「忍耐」は余裕である。3,000円も出してやったのに……である。ブツブツ言いながら居間に戻ると、携帯の料金明細が届いていた。ボクのケータイは掛けないし、受けない。(笑)家族割引50%で、お安いのだ。家内がこぼした。「あなた、言ってやって下さいよ。メール代……」家内が言うのは、長女の「堅実」のメール代である。4,000円弱である。つい、2週間ほど前に他社へのメールも定額になるプランに変更したが、今回の料金はそれ以前のものらしい。「ふん」と頷いて、ボクの明細を見た。目を疑った。ボクの方もWeb代が高いのだ。「あなたもよ」家内がじろりと睨んだ。ボクは、記憶を手繰ってみた。そうだ。そうだったのだ。珍しく携帯にゲームアプリをダウンロードしたのだった。「サルゲッチュ・アカデミーア」と「サルゲッチュGP」であった。「ちゃんと払ってね。娘へのしめしがつかないんだから」25日に給料が出たと思ったら、飲み会が続いて金欠である。おまけに、Web代も払わなくてはならず、もう小遣いがない。がっくりである。「サルに身ぐるみ剥がサル」である。なんてダじゃれている場合ではない。携帯電話向け小説「アクティブ・ジャンプ」を発表しました。パソコンからも読めます。