「クラーケンフィールド/HAKAISHIN(2006)~イカはモンスターではなイカ」
モンスターとクリーチャーは似たような意味だけど、やっぱりちがうと思います。クリーチャーは、「生物」という意味です。これは、実在するものであるか想像上のものであるかは問わない。つまり、モンスター(怪物)は、クリーチャーに含まれると考えていいでしょう。 「クラーケンフィールド」の題名にあるクラーケンは、もともとは北欧伝承の巨大な怪物で、タコやイカのような頭足類の姿をしています。モデルアニメーションの巨匠レイ・ハリーハウゼンの「タイタンの戦い(1981)」では、海の魔物クラーケンとして、クライマックスでギリシャ神話の勇者ペルセウスと闘いました。 このクラーケンは、タコかイカみたいなグニャグニャした触手をもちながら頭部が大巨獣ガッパ似の嘴を備えた猿みたいでした。造形からしてまさにモンスター。しかし、「クラーケンフィールド」のクラーケンは、ただの巨大なイカです。これはモンスターとはいえない。クリーチャーでしょう。 ところで「タイタンの戦い」がリメイクされるとか。朗報にはちがいないけれど、なぜ「タイタン」なのか?ハリーハウゼンの作品としては「シンドバッド七回目の航海(1958)」や「アルゴ探検隊の大冒険(1963)」の方が、作品的にも興行的にもずっとビッグネームだと思うのですが。 西洋人にとってはタコやイカはデビル・フィッシュなわけで、ただでさえ気持ちが悪いようです。友人のオーストラリア人も、居酒屋でイカの刺身を目の前にしたときには「Oh,squid!No」とか言って顔をしかめていましたから。 しかし、いくらでかくても、ただのイカじゃあつまらないわけです。日本人のモンスター好きとしては。 日本の映画でイカ怪獣といえば「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣(1970)」のゲゾラがいます。ゲゾラは宇宙生物が地球のモンゴウイカに憑依して怪獣化したもの。 これも実在のイカにちょっと手を加えて怪獣にしただけですから造形はイカそのものとそんなに変わりはありません。それでも、クラーケンよりはいい。なぜなら、ゲゾラはイカなのに地上を歩くのです。東宝怪獣ですから着ぐるみなのですが、足部がわさわさしているように見せかけながら、イカが直立歩行して襲ってくる様は一見の価値があります。 そして、もうひとつのイカ怪獣は「ガメラ対宇宙怪獣バイラス(1968)」に登場したバイラスです。この映画は、ガメラシリーズの過去3作のフィルムをつなぎ合わせたような映画でした。当時、怪獣少年としては、新しいガメラと怪獣のバトルや特撮シーンをもっと期待していたのに、古い映像を見せられてがっかりしました。せっかく前作までで盛り上がったガメラ支持の気分が一気に冷めました。やっぱ怪獣映画は東宝ゴジラの方がいいな、と思ったものです。 で、バイラス自体はどうかというと、造形はいたってシンプル。足が6本あります。頭部はバナナの先端を3つに割って剥いた感じです。割れた一つ一つは厚みのある西洋短剣のように尖っていて、それらがひとつにまとまってガメラを腹部に深く突き刺さるという子供向けの映画にあるまじきハードコアな活躍が印象的でした。 さて、巨大なイカというのは怪獣のように架空の存在じゃなくて、実在するの生物なのです。深海に住むダイオウイカは、体長が3mから20mに及ぶものまで発見例があるとのことです。「海底2万マイル(1954)」でノーチラス号を襲うのはダイオウイカではないか。「ザ・ビースト/巨大イカの逆襲(1996)」はまさにダイオウイカの映画。いずれもモンスターっぽくしてあるけど、モンスターではありません。 で、「クラーケンフィールド」のクラーケンですが、どうやら海中に没した宝石などを守っている様子です。人間が宝石などを持ち去ろうとすると攻撃してきました。その点では、ちょっと不思議な存在だ。モンスター的と解釈できないこともない。でも、魔法がかった理由なのか、あるいはイカが宝石に含まれる物質を好んでいるのか、そのへんの説明はありません。 怪獣映画好きは、モンスターが登場しなくてクリーチャーでもいい、少しでもその匂いのある映画に反応します。本当は摩訶不思議な空想のモンスターを見たい。そうでなくても、巨大なだけのただのイカやワニでも、それらしい特撮場面があれば見てしまいます。そしてこの映画のように、巨大イカのCGがかなりお粗末だったりすると、天を仰いだりします。 それでも、なおかつお楽しみはあります。東宝特撮の大蛸出現場面では、実物大の触手が襲撃してきて役者と絡みます。それに対して「クラーケンフィールド」では、CGの触手が這い回って役者と絡むのです。前者は具体物があるわけですが、後者は何もないところでやっているのか。それともロープを使って感じを掴みその上から触手を描き込んでいるのか、などと両方を比較検討してみたりして。ささやかな楽しみですが。 「クラーケンフィールド」をストーリー的に見たときには、「観客をなめるなよ」と言いたくなること請け合いです。