有名無名にかかわらず
有名な曲、というのは、あります。有名というのは、例えば、ほんとうにいい曲で、海を越えて広まってみんなが知っているという場合もありますし、近年では、レコードやCDが出たことで、有名になったりします。もっと狭く、ある地域でだけ有名な曲というのもあります。私は、「有名」という場合には、「よく知られた」、という言い方をしたりします。たぶん、そのほうが、この場合に「有名」が指す意味に当てはまってると思うのです。有名な曲は、やっぱりいい曲がほとんどですが、「有名でない曲」の中にも、いい曲はたくさんあります。「有名でない」が、「あまりよくない」を指すのでは、ぜんぜんないのです。有名な人っています。すばらしい演奏、功績、人気者、メジャーデビューした世界的なプレイヤー、宣伝が上手な人。でも、有名でない人の中にも、いい演奏家はたくさんいて、それは、当たり前で、そういうことは、みんな知っていて。そういう世界があるというのが、この音楽の深いところですよね。そもそも、有名でない演奏家が作ったたくさんの曲の恩恵に支えられているのが、伝承音楽の世界ですし。例えば、ある曲をある人が教えてくれて、膨大な曲の中から、ひとつがフォーカスされて、曲が自分のところにやってくる。それこそが、今、まさに起こっている伝承の一シーンであって、そこに、深いグラティチュード(敬意)がこめられます。それは、当然、主観的なもの(自分だけの物語)なんだけれども、その経緯を大事にするのが、伝統音楽のハートだと思っています。要するに、人を大事にする、ということですよね。私は、そういうところがいいな、と思うんです。