11年間
帰ってきたら家族は寝静まっていた。ああ、やっぱり息子に会えなかった。今日は11回目の誕生日だったのに‥‥息子がこの世に現れた瞬間のちょうど11年後は、つまらん会議の真っ最中だった。つまらん会議だったというのに、私はその瞬間、そんなことはすっかり忘れていた‥‥。今日は7時前には家をでる日だったので、夕べのうちに謝っておいた。「せっかくの誕生日の朝なのに、きっと母さんはアンタが起きたときにはいなくて、おめでとうも言えないよ。ごめん」「いいよいいよ、そんなのさ」10年以上働く母親と付き合ってきた息子の物分りのよさが、待ち針でちくんとさしたかのように小さく痛む。「じゃあさっ、母さん、でかける前にアンタの寝顔にチューしていくよ!」と半分冗談で勢いつけて言ったら、「絶対するな!」と真顔でピシャンとドアを閉められた。ちょっと悔しいので「いいじゃん、いいじゃんんんん~」と粘ってみたらしつこいのも許せないかのように「じゃあさ、母さんはおじいちゃんからそんなことされて嬉しいの?!俺だってヤダよ!!」と、すごーく論理的に?ダメだしされた。そりゃ、あたしもヤダ(笑)夜は会えるかなぁと思いつつ、結局は誘われた夜の会議にも出てしまい、実際帰ってきたら家族が寝静まっていて、いっとう寂しいのは実は私だったりする。そして、こんな親で申し訳ないと本気で息子に謝りたくなる。足のサイズは同じかヤツのほうが大きくなった。食べる量だって息子には叶わなくなっている。それでもまだいろんなところで勝ててると思っているが、その一方で純粋さとか心根の真っ直ぐさでは11年間、一度も勝ったことがない。身の丈を息子に教えてもらいながら生きている。ここまで大きくなってくれて本当にありがとう。