失敗しても良いけど、ミスは犯すな。ってよく言われた
仕事上のミスってのは誰にでもありますよね。そういうミスってものは培う経験や知識・技術によって年をおうごとに少なくなっていくのは当然の事なんですけど、そんな経験や知識・技術を身に纏う「前」ってのは人間的にも社会人的にも全く未熟、即ち裸同然なわけです。その未だ何も身に着けていない裸同然な心、知識、好奇心、野心といった欲求の隙間に、自分で少しづつ色々な色の付いた服を着せていったり、ちょっと変態チックなコスプレでウハウハ言いながら本当に少しづつ、少しづつ社会人としても職人としても成長していくわけですが、今日は当方が料理人としての初期の頃から今現在までのミスの中でも特に人には知られたくない恥ずかしいミスを曝したいと思います。料理にはハッキリ言って自信があった19歳の春。訳のわからない自信だけが当方の心を支え、1年くらいやれば自分の能力なら料理人としてモノになるだろうなんて高を括り、20代で海外に進出することを第一目標に置いていたあの頃。一番最初の修行地である某ホテルに新入社員としてフランス料理部門の調理場に立った。フランス語?知りませんよそんなもん。料理用語?知らんわ。包丁?使ったことも無いね。それでも自信だけはあった。こんな感じで始まった料理人としての第1歩。考えりゃ解るわな、何も出来ないくせにこんな青臭い考えをしているガキが相手にされるわけがない。もしね、こんな奴が自分の元に配属されようものなら即クビにするね。でもそのときの調理場には心の大きな人が多かったのか、それとも全く相手にもされていなかったのか、たぶん後者・・いや絶対そうだと思うけど、とにかくクビにはならなかった。新入社員から調理場に入って2ヶ月間はずっとジャガイモの皮むきばっかりやっていたんだけど、単純作業の2ヶ月ってのは我慢できないくらいに長い。しかも別の県で働いている同世代の友人達は、やれフレンチドレッシングを教えてもらっただのマヨネーズ作って褒められただのと言ってるのに、当方はいまだジャガイモの山に囲まれていたので、非常に精神的に煽られる。料理を作るってことに関し、長い目で見たときに2ヶ月間イモの皮むきしてようが、フレンチドレッシングを教えてもらおうが、それから先の料理人としての差なんて全く開きようが無いんだけど、とにかくこのときは一刻も早く芋の皮剥き以外の仕事を覚えたかった。新しいことがやりたくてやりたくて仕方が無かったんですよ。「こんな毎日毎日泥だらけになって芋しか触れないのは嫌だ!フランス料理ってのはもっとこう、煌びやかで、上品で、トレビアーン♪なものだろう?」なんて考えていたときが懐かしい。しかし、かと言って指示されたこと以外の仕事も解らないから、芋の皮を剥きながらキョロキョロ辺りを見回し、いかにも「芋マスター」ならぬ僕は既に芋の皮むきは仙人の域に達してますよ、というアピール・オーラを出していたら数分後とうとう仕事が舞い込んできた。「おい、お前、ブイヨン漉しておけ」お前っちゃ何ですか。でもイイヤ、俺もお前の名前しらねーし。なんて本当は調理場の諸先輩方々全員の名前を知っているのに心の中で幾許かの反骨心を抱きながら、「はい!」なんて返事をしたもんです。それは良いとして、ついにやってきたジャガイモの皮むき以外の仕事。もうね、嬉しくて嬉しくてしょうがない。その日家に帰ったら例のフレンチドレッシングの友達に電話して「俺、今日ブイヨン漉したんだぜ!すげーべ!」なんて即刻自慢したくなるくらいに嬉しかったからね。でもね、そんな嬉しさとは裏腹に「ブイヨン漉しておけ!」と言われてもブイヨンってどういう風に漉すのか知らなかった自分がそこに居たわけです。オロオロしていると「早よせんかい!冷めると鶏の脂が固まって布漉しできなくなるやろがいね!おま、いつまでも突っ立って何しとんがいや!」とわけの解らない暗号のような方言で怒号が飛んできました。これ以上何もしないで突っ立っているのはマズイ。何かせねば!幅65cm、高さ1メートル20の寸胴には鶏ガラとオニオンやセロリなどの野菜がプカプカ浮いている。そもそもブイヨンっちゃ何よ?聞いたことはあったよ、クノールとかの固形の。アレのことだろ?よし!!謎は解けた!とばかりに、ザッバーーーーン当方は迷わず寸胴の液体のみを下水に捨てた。中に入っている鶏ガラと野菜が一緒に流れないように大事に大事に液体を捨てた。その瞬間の凍りつくような調理場の雰囲気は今でも忘れない。いやね、ブイヨンって煮崩れてクッタクタになっている鶏ガラのことを指すのかと思っていたんです。つまり煮出した液体、これが本命のブイヨンなんですけど、これを豪快に下水に捨てて本来捨てるものを大事に取っていた。後、ボロッカスのボロ雑巾のように怒られ、蹴られ、初めて社会人の厳しさと自分の無能さを知った次第ですが、他人に話せばきっと「そんなことも知らないでよく料理やろうなんて思ったね~」なんて思われると思います。が、思うだけなら誰にでも出来ますのでね、、回数にしたら過去に仕事上で何回ほどのミスを犯したのかなんて星の数くらいに無数に存在しますが、今でも鮮明に記憶に残っていてそれがトラウマになっているミスってのはそう無いです。ブイヨンって言葉を聞くたびにこのストーリーを思い出しますからね、あの頃は若かったなー、、なんて。今後これから先の人生、失敗は犯しても全責任が自分のせいであるミスはなるべく犯さないようにしたいものです。