「西の魔女が死んだ」
「西の魔女が死んだ」 この物語は不登校の少女が、田舎に住むおばあちゃんの家で暮らした思い出を中心に語られているものです。 「西の魔女」というのは、少女のイギリス人の祖母のことです。主人公の少女「まい」は西の魔女から色んな事を学びます。田舎暮らし、いわゆる「スローライフ」とおして語られる西の魔女の価値観に、改めて考えさせられることも有りました。 「何が幸せかっていうことは、その人によって違います」 西の魔女の言葉は、決して特別なものではないのですが、意味深いことばかりです。スポーツをするために基礎体力が必要なように、強い精神力を養うためには、それなりの根性も必要です。「根性」と聞くと、やみくもに頑張るイメージを持ちますが、彼女のいう精神力というのは、正しい方向をきちんとキャッチするアンテナを立てて、心と身体がそれをしっかりと受け止めることなのです。 少女は強い精神力を養うには、座禅を組んだり、瞑想したり、修行のようなことが必要なのかと問いかけますが、西の魔女からの答えは簡単明瞭なものでした。 それは「早寝早起きをして、食事をしっかりとり、よく運動し、規則正しい生活をする」というものです。この返事を聞いたときの少女の気持ちを考えると深いため息をついてしまいます。 そんなの、すごい苦手だし、夜だって遅い。休みの日は昼過ぎまで眠りたい。でも、それは体力を養うことであって精神を鍛えることとは、少しニュアンスが違うのではないか？ しかし、物語を読み進めていくうちに、体力を養うことも、精神を鍛えることも、不思議なことに最初の切り口はほとんど同じであることに気づかされます。 一番大切なのは意志の力。自分で決める力。そして、自分で決めたことをやり遂げる力なのです。 この物語には、人によって形は異なっても、私たちが実際に幸せに生きるためのいくつかのレクチャーがなされています。 西の魔女、おばあちゃんのこの一見古風な生き方は古めかしい感じがしますが、実は同時に新しいものでもあります。 ゆっくり流れる時間の中で、少女が体験した「ジャム作り」や「畑仕事」おばあちゃんの立ち振る舞いを通して知る生活の知恵。 人々は昔、先祖から語り伝えられてきた「知恵」や「知識」を頼りに生活していました。身体を癒す草木に対する知識や、荒々しい自然と共存していく知恵。予想される困難をかわしたり、耐え抜く力。 そういうものを、昔の人は今の時代の人々より、はるかに豊富に持っていたのです。 「西の魔女が死んだ」という題名どおり、おばあちゃんは亡くなります。親しい人が死んでいなくなってしまうというのはたいへん悲しいことです。 しかし、自分の肉体と相手の肉体との物理的な距離がなくなった分だけかえって、近くに感じるということも有るのではないかと思いました。魂と魂との間には、隔てる距離やさえぎる何かがあるわけではなく、とても、自由です。 故人を偲ぶということは、決められた時期にお参りに行くということも確かに、大切なことかもしれませんが、故人をいつも身近に感じて心の中で手を合わせる気持ちを忘れたくないものです。 この物語は、田舎暮らしやおばあさんの死をとおして移り変わる少女の感情が生き生きと描かれています。 本当に価値のあるものは何であるのか。 変えるべきものを 変えてゆく勇気 変えられないものを 受け入れる寛容さ そして、それを見極める 判断力がほしいと心から思いました。
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