料理の記憶 その2 調理実習
私は母から料理を仕込まれていない。 お皿を運んだりはしたが、食材を切ったり、焼いたり炊いたり炒めたり、というのを教えられていない。小学校の、初めての調理実習で初めてジャガイモの皮を剥いた。同じ班の男の子が呆れた顔で私を見ていた。その子は母子家庭で、晩御飯を作るのは彼の役目だったらしい。リンゴを剥いても、彼はシャラシャラと薄く、そして長く、しかも早く、綺麗に剥いて、剥いた皮はインテグラル?Sの字を縦に伸ばしたような形でまな板の上に置かれた。両端の渦巻きの向きが違うやん、おかしいんちゃうの?と思いながら見ていたような気がする。先生がえらく褒めてたなあ。 それから家で料理を・・・とは思わず、また母も教えようとはせず、私の料理体験は調理実習ばかり。それも、主だった部分は、仕込まれているであろう友達がやってくれて、私はと言えばコンロの見張り番ばかりしていた。 「沸騰したら教えて~」「わかった~」で、コンロの前でただただ待つ。 「沸いたよ~」と呼べば、後は友達がやってくれる。 高校の調理実習では、「沸騰したら弱火にする」という係だった。ちょっとだけ進歩した。 できないと言って逃げていたわけではなく、段取りのいい子が先手先手で動くので、やることが見つからなかったのだ。で、「私、何したらいい?」と聞く頃には作業はあらかた終わっていて、「じゃあ、火見といてくれる?」となる。 高校最後の調理実習だったか、シュークリームを作った。 カスタードクリームを作るのに、鍋でずっとかき混ぜる係を引き受けた。またまたちょっとだけ進歩。しかも「あ、私するわ」と自ら志願。えらいぞ私。 混ぜるうちにだんだんとろみがついてくる。焦がさないように気を付けて、木べらで混ぜ続けた。 色味も少しずつ変わっていく。つやが出る。黄色が濃くなる。濃くなる。焦げてはいないのに黒っぽくなってきた気がする。なんで?と思っている間にカスタードクリームはよもぎを入れたような緑色になった。「せんせ~っ!クリームが緑になりましたあっ!」「そんなわけないでしょ、オホホ」とお上品に笑いながら来た先生も鍋を除いて「まあ、どうして?」知りませんよ、わかりませんよ、こっちが聞きたいです、先生。 木べらに緑3号でも付いてたか?鍋の材質が溶けだしたのか(今思えばアルミの鍋だったような)?原因はわからないまま、緑のカスタードクリームを目の前に「せんせ~、これ、どうしたらいいですか?」 「そうねえ、普通はこんな色にならないんだけど。せっかく作ったんだから、これ使いましょう」「は~い」今ならあり得ないやりとり。こうしてできた緑のシュークリーム。味は普通。 料理が下手、を通り越して、得体のしれないものを作ってしまう私の腕。 この先どうあがいても、料理上手にはなれないんだと確信した。(メールフォームを作ってみました。お問い合わせはこちらから)