放射暖房設備「囲炉裏」の心地良さ
先週、地方の温泉に行ってきた。建物は明治時代にできた建物で、国の有形文化財にも登録されている。入口から入ってスグ横のところに囲炉裏があった。囲炉裏は、日本の家屋に古くからある暖房設備であり、本州では古くから使われていた。北海道ではアイヌ民族のチセで似たようなものを見たことがある。暖房器具であると共に小屋組みから吊られた自在鉤(じざいかぎ)に南部鉄と思われる鉄瓶(てつびん)が下げられていた。場合によっては鍋なども掛けられ厨房設備としての機能も有している。ちなみに南部鉄の鉄瓶で沸かしたお湯で飲んだお茶は「柔らかい味がしておいしい」と、食に詳しい同行の方が言っていた。囲炉裏を暖房設備として考えると面白い。薪に灯された炎は、空間に解放されており、開放式の暖房となっている。伝熱のプロセスは、炎からの自然対流と、放射による暖房となる。自然の対流成分による伝熱は、排気とともに小屋組から外部に排出されてしまうので、対流成分による暖房効果はあまり期待できないのだろう。したがって主に放射による暖房器具ということになる。放射は、熱伝導の一つのプロセスであり、高温の部分から空気を通してダイレクトに熱が伝わる心地の良い熱伝導プロセスとして、現代の暖房設備でも使われている。たとえば床暖房、壁冷暖房のような放射式冷暖房がそうである。特徴は、温風がないので、ホコリの舞い上げが無い、エアコン等の強制的な対流に比べ心地よく、部屋の上下の温度差が無いことである。ただ、囲炉裏の場合は、放射が炎を中心に周囲に向かってなされるだけなので、炎に向かっている部分は快適なのだが、背中は寒い。また、炎から離れれば離れるほど放射のエネルギーが距離の3乗に反比例して減るので急速に寒くなる。しかし、そういったことは理屈としては分かるのだが、うっすらと寒い中での心地良い暖かさの快適感は得も言われぬ心地よさを感じるのである。現在の環境工学では解析できているのかどうかわからないが、以前読んだ本のなかで、今までの工学的な快適感とはちょっと違うプレザントネスという感覚を研究している話を読んだことがある。プレザントネスについては、また後日考えてみたい。かなや設計