『木でできた海』 ジョナサン・キャロル著 感想
カテゴリーで限定することの出来ない小説を書くジョナサン・キャロル。その新作『木でできた海』を読みました。あらすじはamazonからのコピペ。「木でできた海をどうやって渡る?」元不良の中年警官の周囲で続く奇妙な事件。30年前の自分と時空を行き来して掴む、あまりに意外なこの世の“秘密”とは。鬼才の新境地! フラニー・マケイブ。クレインズ・ヴューの警察署長で、元不良少年。目の前で死んだ三本脚の犬を埋葬して以来、彼の周囲で奇妙な事件が続く。美しい羽根を残して忽然と家から消えた夫婦。なぜか戻ってくる犬の死体。その上変死した女子学生のスカートから同じ羽根が見つかる。いったい誰が、何を企んでいるのか?そして彼のもとに、使命を携えて謎の男が訪れる。ホラー、ファンタジー、ミステリー、SF。それらの要素を持っていながら、カテゴリーに縛られていない小説を書くジョナサン・キャロル。あえて言えばダーク・ファンタジーでしょうか。でも『木でできた海』は過去の作品とはまたちょっと味が違う気がしました。この人の小説は感想が難しくて・・・。“クレインズ・ビュー三部作”の最後の一冊。でも物語の登場人物と土地が一緒と言うだけで連作ではないので、これだけ読んでも無問題です。マケイブはとんでもない不良少年時代を送った、今は田舎町のクレインズ・ビューの警察署長。三本脚の犬を拾い、目の前で死なれて埋葬するのですが、それ以来、不思議な出来事が続く。始まりはいつものように田舎町に相応しい夫婦喧嘩。しかし彼らの家に行ってみると、二人は忽然と姿を消している、美しい羽を残して。戻ってきた犬の死体。変死した少女のそばにも同じ羽が。ここまではミステリーの雰囲気。そしてアスベルトと言う謎の男が登場してから、ジョナサン・キャロルらしい展開になって行く。いつもの日常、それが少しずつ、やがて加速度をつけて狂って行く。マケイブは何か使命を負っているらしいのだが、アスベルト側にはそれを明かす訳にはいかない事情がある。何とかマケイブに使命を果たしてもらいたいが為に、あれやこれやの訳の分らない事態に、マケイブは落とされていく。過去や未来に行ったり、死んだ父親や子供の頃の自分に会ったりしますが、タイムパラドックスの原則を全く無視して話が進むところがジョナサン・キャロル。マケイブはかなりの不良で父親に心配をかけたことを、今でも気にしている。その気持ちを抱えて、父親と話すシーン。逆に子供時代、不良少年時代の自分と会って、今度は父親のスタンスで、悪ガキ時代を経験して今の大人になった視点で話をするシーン。これがとても良いです。寓話的でもある。メチャクチャに進んでいるようでありながら、最後にストンと「あぁ、そうなるのか。」と思える構成力はさすが。タイトルは「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐか?。」と言う作中の質問からきている。各世代のマケイブの答えが示唆するものが、この小説で語りたいものの一つである気がしました。私はジョナサン・キャロルの作品では↓これが好き。死者の書(映像なしです)