『砂神の玉座』第二章『北へ』その1-1
私の遊びで書いている話です。一年もほっぽらかしでしたが、続きを書きました。最初はかるーい気持ちで書き始めてしまったのに、長くなってしまって、設定からやり直したい気持ちでいっぱいですが、始めた以上、きちんと仕上げようかと気分を新たに致しました。付き合っても良いよと言う方、読んで下さると嬉しいです。今までのお話。ローヴァの王・サオシュが病に倒れて三ヶ月。第一継承者はトーチャウだが、バックに王の弟・テムジンがついている事を嫌い、サオシュは第一王女のファーメイを女王にと考える。そんな中、トーチャウの母で、サオシュの側室・ミクラの主催で宴が開かれることになる。剣の舞いの最中に起きたトーチャウの暗殺未遂、押さえられた犯人は「ファーメイに頼まれた。」と言う。兵により取り押さえられようとするファーメイは、ティガシェの機転でその場から逃れることが出来たのだが・・・。今回出てくる登場人物はファーメイ・・・ローヴァの王女。太陰が守護神。ナーシェ・・・ファーメイの従姉妹。政略結婚で他国に嫁いだ母が、政変に巻き込まれ死亡、ローヴァに引き取られた。大后が守護神。ティガシェ・・・ファーメイを“護る者”。朱雀が守護神。トップを飾っている絵の左側の人です。セムジン・・・ファーメイを“護る者”。勾陳が守護神。ライムール・・・旅の一座の吟遊詩人。天空が守護神。ハンサは彼の鳥。トップを飾っている絵の右側の人です。会話に出てくる人物。サオシュ・・・ローヴァの王。病床にある。トーチャウ・・・ローヴァの第一王子、ファーメイの母の違う兄。騰蛇が守護神。テムボタ・・・サオシュの弟。貴人が守護神。ケナティ・・・サオシュの后。故人。ローヴァの隣りの大国・アリラマの王女。グシククル・・・サオシュの第一の側近。六合が守護神。ウルムジン・・・グシククルの息子。テムボタを“護る者”。白虎が守護神。今までのお話はこちらにまとめてあります。第二章『北へ』その1-1ローヴァの首都アッシュは城壁で囲まれた、かつて戦の時代には強固な守りで知られた城砦都市である。西側には川が流れ、そこを渡れば深い森。東に行けば現王の后だったケナティーの母国アリラマへ至り、シロクロードに交わる。南にはローヴァを支える肥沃な土地、しかし北は荒地が多く、やがて砂漠になり、その先は砂の神が住まうと言われるシェニア山がそびえる。ファーメイとナーシェを包む球は城壁を越え、川を渡り、森の上をしばらく飛んだ後、木々の間をついて土の上に降りた。しかし球は依然として形を成したまま、ティガシェとセムジンの事が気がかりなファーメイは気が急いて仕方がないのだが、いかんともしがたい。「ナーシェ、あなたの剣でこれ、破れない?。」「分からないけど試してみる気はないわよ。この森の中、どんな獣が出てくるか分からないもの。ティガシェがあなたを守るためにしてる事よ。私としてはティガシェには逆らいたくない。」きっぱりとナーシェが言う。言われて見ればここは森の中なのだと、ファーメイは辺りを見回す。だいたい森になどファーメイは足を踏み入れたことがない、まして今は夜。風がおこす木々のざわめきも、どこかで鳴いている鳥達の声も、不安な気持ちに拍車をかける。絶えず音はしているのに静かなのだ、そこに突然獣の遠吠えが響いたりするから、神経が尖ってしまう。「祈りなさい。」とケナティーがよく言っていた言葉をファーメイは思い出す。「あなたの願いが純粋ならば、きっと太陰が力を貸してくださる。」と。けれどファーメイは“祈る”と言う事が苦手だった。祈りは真剣なもの、その真剣さが自分をよけい不安へと追い立てる。だからファーメイは願いを歌に乗せてきたのだった。今もそうする。言葉も旋律も、いつもすんなりとファーメイの唇から出てくる。ティガシェとセムジンがどうか無事でいますように、早く私のところへ来て顔を見せてくれますように、と。ナーシェはその願いを聞いていた。ファーメイの歌は不思議と人を落ち着かせる。ナーシェは自分の気丈さを自覚してはいたが、それでも不安であったのだ。それが徐々に薄らいでい来るうっそうと茂る木々の葉の合間から月が見える。葉はチリチリと揺れて月を隠すが、それとは明らかに異質な黒い染みをナーシェの目がとらえる。次第に大きくなっていく影をナーシェは指差し、「ファーメイ、あれ!!。」促されて見上げたファーメイは呆然としてしまった。大きな鳥が男二人をぶら下げて舞い降りて来る。えり首をかぎ爪でつかまれてユラユラ揺れているのは、ティガシェとセムジン。ホッと安堵した途端、笑いがファーメイから飛び出す、どうにも止まらず大きな声になってしまう。鳥にぶら下げられた上、これがティガシェには気にいらなかったらしい。ナーシェの球には人差し指で触れてパチンと割ったのに、ファーメイの方には見向きもしない。「ちょっとティガシェ!!、ここから出してよ。」「あなたの事を相談しなければなりません。ファーメイ様に騒がれるとまとまる話もまとまりません。そこで大人しくしていてください。」私のことを考えるのに、私抜き?。ファーメイが抗議の声を上げようとすると、セムジンが髪をクシャクシャやりながら、「イヤ、これはちょっと可哀想だぞ、ティガシェ。」「オレはそう思わない。」そこに「あのさぁ。」と声がした。乗っていた大鳥から下りてファーメイのそばまで来る。鳥は一旦高く飛び上がり、すぐ戻って来たときには元の大きさで、彼の肩に止まった。月の光に照らされ、彼の髪が薄い銀色にけぶる。境界線が解けて、夜の森の一部の様に見える。手にある鎖のかせだけが異様。あの吟遊詩人だ、とファーメイは気付く。「女の子がイヤな思いをしているところを見たくないんだよね、少なくとも自分の目では。あなたたちを助けたお返しって事で出してあげて欲しいな。」相変わらずの不思議な微笑み、話す言葉そのものがまるで詩のよう。なのに相手に“否”と言わせづらい響きがある。これ以上は消せませんと言う程の表情のない顔でティガシェがファーメイの球を消す、ファーメイの方を見ようともしない。ファーメイもティガシェを無視して、吟遊詩人に丁寧なお辞儀をする。「始めまして。私はファーメイ=ニトゥと申します。ティガシェとセムジンを助けてくれてありがとう。」「始めまして、ライムールと申します。僕はどうでも良かったんだけどね、男は。でもこの・・・。」とライムールは肩に止まっている鳥の方に首を傾げる。「ハンサが助けてあげようって言うからさ。」「まぁ、あなた鳥とお話が出来るの?。ヤニスと・・・って私の弟なんだけど、言っていたのよ、きっと一緒に歌を歌うのよって。」「歌も歌いますよ。」その時だけライムールの微笑が“愛しさ”のみになる。「ありがとう、ハンサ。ティガシェとセムジンを助けてくれて。」とファーメイはハンサにもお辞儀。するとハンサはクルルルルと喉を鳴らした。「私の言っている事、分かってくれているのかしら。」「もちろん分かってます。可愛いお姫様にお礼を言われて、喜んじゃってるよ、こいつ。」二人の会話をただただ呆れて聞いているナーシェとティガシェとセムジンだった。この状況で、このなごやかさ。こう言うところは絶対にファーメイに叶わないと、無言で確認しあっている三人だった。「とりあえず、この先どうするかを考えましょうか。」ナーシェの言葉にはついため息が混じる。「それにしても何がどうなってるのか、ちっとも分からないぜ。」セムジンはウルムジンと剣を交えねばならなかったことに納得がいかないから、ブツブツとつぶやく。「簡単な事だ。」とティガシェ。「テムボタとミクラはトーチャウを王につけたい。」今やトーチャウ側には“様”ぬきのティガシェである。「だがサオシュ様は何としてもテムボタに権力を持たせることは避けたいと思ってらっしゃる。出来ればファーメイ様をウルムジンと結婚させて、ファーメイ様を女王にと。テムボタ側はこのままではトーチャウを王に出来なくなる、だから仕組んだんだ。」ティガシェはふいとセムジンから視線を外す。移した先にはライムールとハンサと、何やら楽しそうに笑い声を上げているファーメイがいる。「サオシュ様がご存命の内に動くとは思ってなかった。俺が甘かったんだ。」「それでもティガシェは最低限の守りは怠ってなかったじゃない。とにかくファーメイは無事、私達も無事、これからの事を考えなきゃ。普通に考えるのならアリラマに行くのが一番と思うんだけど、敵もそう考えてるわよねぇ。」「問題はルートだな。主要な街道はテムボタが押さえにくるだろう。あちらには軍がついてる。」続きの その1-2はこちら。