韓国のペット市場拡大は少子化による国力衰退の現れか
少子高齢化の影響から韓国でペットを飼う家庭が増えています。韓国のペット市場は2014年の1430億円から2027年には1兆7000億円と急成長すると予測されており、全世帯の4分の1がペットを飼うとみられています。現在、ペット用カートの販売台数がベビーカーの販売台数を上回っており、ペット関連産業も急成長を遂げるとみられています。 韓国の出生率は世界最低水準で年々低下を続けています。2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと予想される子供の数)は0.72で前年の0.78をさらに下回りました。これは少子化に直面している日本(2022年の合計特殊出生率は1.26)と比べても低水準なのです。 韓国の出生率が低い主な原因として、1.若者の経済的状況が悪い、2.総人口と就業者の過半数が首都圏に集中している、3.若者の結婚や出産に関する意識が変化している、4.育児政策が子育て世代に偏っている、5.男女差別がまだ残存している、6.子育ての経済的負担感が重い、7.物価高や経済面での不安、8.教育費の負担増、9.晩婚化や未婚化の増加、が挙げられます。これらの原因は日本に少子化をもたらす原因と共通点がほとんど同じであることに気づかされます。 出生率の低下は国力につながります。世界的に先進国では出生率の低下がみられますが、韓国ほど極端な例はほかにありません。50年後には韓国の生産年齢人口は半減し兵役に適した人は58%減少します。そして人口の半数近くは65歳以上の高齢者となります。この見通しは韓国経済や年金・安全保障にとって非常に悪い兆候といえます。政治家は国家の非常事態と言明しています。 20年近く歴代政権はこの問題に対処するために72兆8700億円もの資金をつぎ込んできました。子供をもつ世帯には毎月の補助金、政府補助の住宅、さらにはタクシーの無料利用、医療費支援も行ってきました。結婚しているカップルには体外受精の治療費まで支給しています。こうした経済的インセンティブは機能していません。そのため、政治家は東南アジアから子供の面倒をみるシッターを雇い最低賃金以下の給与を支払うとか30歳までに3人の子供をもった男性には兵役免除などの解決策まで思いつくようになりました。 問題の本質はもっと深いところにあります。日本も同じです。それは社会的伝統的価値観です。子育てを男女平等に取り組むこと(育休取得では男女に大きな違いがあるのは日本も同じ)、女性からみた男性の魅力減少(草食男子の増加など結婚しなくても良い男子が増えているのは日本も同じ)、シングルマザーに対する差別、長時間労働、ジェンダー不平等(日本は韓国より下)、妊娠したら退職勧奨という無言の圧力、などが挙げられます。こういった社会的伝統的価値観のなかで女性はキャリアを持つか家庭を持つかの二者択一を迫られているのが実態なのです。女性は子供を持つ、面倒を見るために自分のライフスタイルを犠牲にすることもあります。 首都ソウルには様々なチャンスがあるため、韓国の人口の半数以上はソウルとその周辺に集中しアパートや資源はかなり切迫した状況に陥っています。ソウルでの出生率は0.55にまで落ち込んでいます。日本も東京都の出生率は0.99と全国平均の1.20を下回って過去最低を記録しました。1を下回ったのは全国で東京都だけです。首都ソウルや東京都は住居費のほかに学校以外での子供教育にもお金がかかります。3歳から高額な習い事に通わせることになります。こうした慣行は広く浸透しており、これをやめれば子供が落ちこぼれてしまうと韓国人や日本人はそう思っています。韓国が育児面では世界で最もお金がかかる国となっているのはこのためですが、日本にも似たような状況にあると思います。子供に過剰に高額な習い事をさせる社会の仕組みはそのコスト以上に深刻な問題をはらんでいます。東大生の家庭環境は東大が行った調査によると世帯年収の半数近くが950万円以上と回答しており世間と比べてスタンダードの高いのは日本も同じと考えます。 過去50年間にわたり韓国経済は猛烈なスピードで発展してきました。女性たちは高等教育を受けるようになり労働力となり野心を広げてきました。しかし一方で妻として母親としての役割は経済とほぼ同じペースでは発展してきませんでした。少子高齢化は社会現象です。ジェンダー指数では韓国より下位に甘んじている日本は共働き世帯を増やし子育てにかかる金銭的時間的費用を企業が積極的に支援しようとしていますが、それだけでは不十分です。韓国の問題を他山の石とせず、ジェンダー平等指数のトップにいる北欧諸国のような国や社会的価値観を目指してほしいと思うのは私だけでしょうか。